順序体

同義語:ordered field

概要

順序体(ordered field)とは、体 $F$ とその上の全順序 $\le$ の組であって、$a\le b$ ならば $a+c\le b+c$、$0\le a$ かつ $0\le b$ ならば $0\le ab$ を満たすものである。有理数体と実数体が代表例で、順序体では $0$ でない元の平方は正、標数は $0$ であり、有理数体が順序を保って埋め込まれる。複素数体や正の標数の体には順序体の順序が入らず、体が順序付け可能であることは $-1$ が平方の和で書けないことと同値である(Artin–Schreier)。同じ体に複数の順序が入ることがあり、有理関数体 $\mathbb{R}(t)$ にはどの自然数よりも大きい元をもつ順序が入る。そのような元をもたない Archimedes 的な順序体は、実数体に順序を保ってただ 1 通りに埋め込め、実数体の部分体と同型になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 体, 全順序, 有理数, 実数
順序体は、四則演算と大小関係が両立している体である。たとえば有理数では $\frac13<\frac12$ の両辺に $\frac16$ を足すと $\frac12<\frac23$ となり、大小は保たれる。正の数 $2$ を掛けても $\frac23<1$ と保たれるが、負の数 $-1$ を掛けると $-\frac13>-\frac12$ と向きが逆になる。このような計算規則が、足し算と「正の数どうしの積は正」という 2 つの条件だけから導けることを公理にしたものが順序体である。逆に複素数全体には、どのように大小を決めてもこの 2 条件を同時に満たすことはできない。もし $i>0$ でも $i<0$ でも、後で見るように $i^2=-1$ が $0$ 以上になってしまうからである。

定義

順序体の公理

体 $F$ と $F$ 上の全順序 $\le$ の組 $(F,\le)$ が 順序体(ordered field)であるとは、任意の $a,b,c\in F$ について次の 2 条件が成り立つことをいう。

  1. $a\le b$ ならば $a+c\le b+c$ である。
  2. $0\le a$ かつ $0\le b$ ならば $0\le ab$ である。
    $a\le b$ かつ $a\ne b$ であることを $a< b$ と書き、$0< a$ である元を 正の元、$a<0$ である元を 負の元 という。体 $F$ 上にこの 2 条件を満たす全順序が存在するとき、$F$ は 順序付け可能(orderable)であるという。

この定義は 実数 の記事の定義「順序体」と同じである。同じ体に複数の順序が入ることがある(ex-ordered-field-sqrt-two)ので、順序体は体と順序の組として扱う。順序は正の元の集合で表すこともできる。

正の元の集合

体 $F$ の部分集合 $P$ が次の 2 条件を満たすとき、$P$ を $F$ の 正錐(positive cone)という。

  1. 任意の $a\in F$ について、$a\in P$、$a=0$、$-a\in P$ のうちちょうど 1 つが成り立つ。
  2. $a,b\in P$ ならば $a+b\in P$ かつ $ab\in P$ である。

不等式 の記事の定義「実数の順序の公理」は、実数についてこの形で順序を定めている。次の prop-ordered-field-cone により、2 つの定め方は同じものを与える。
また、順序体 $(F,\le)$ が Archimedes 的(Archimedean)であるとは、任意の $x\in F$ に対し $x< n\cdot1$ となる自然数 $n$ が存在することをいう。ここで $n\cdot1$ は $1$ を $n$ 個足した元である(Archimedesの性質)。

直感

順序体の 2 つの公理は、「大小は平行移動で変わらない」と「正の数どうしの積は正」という 2 つの規則である。不等式の計算で使う規則、たとえば「負の数を掛けると向きが変わる」「$x^2\ge0$」「正の数の逆数は正」は、すべてこの 2 つから導かれる。したがって、体の公理と順序体の 2 つの公理だけから導かれる不等式(上限や極限、平方根などの存在を使わないもの)は、どの順序体でもそのまま成り立つ。
一方、順序体であることだけでは、実数の「隙間のなさ」も「限りなく大きい元がないこと」も従わない。有理数体は隙間だらけの順序体であり、有理関数体には「どの自然数よりも大きい元」をもつ順序が入る。順序体の中で実数体を特徴づけるには上限性質(実数)が要り、どの自然数よりも大きい元をもたない順序体は、ちょうど実数体の部分体として実現できるもの(thm-ordered-field-embedding)である。

例と反例

有理数体と実数体

有理数体 $\mathbb{Q}$ と実数体 $\mathbb{R}$ は、通常の大小関係について順序体である。$\mathbb{R}$ の部分体(部分体)に $\mathbb{R}$ の順序を制限したもの、たとえば $\mathbb{Q}(\sqrt2)=\{a+b\sqrt2\mid a,b\in\mathbb{Q}\}$ も順序体である。2 つの公理は部分集合に制限しても成り立つからである。これらはすべて Archimedes 的である($\mathbb{R}$ の Archimedes 性は 実数 の記事の定理「Archimedes性」)。

複数の順序をもつ体

$K=\mathbb{Q}(\sqrt2)$ には、次の 2 つの異なる順序が入る。$\mathbb{Q}$ 上の体の自己同型 $\sigma(a+b\sqrt2)=a-b\sqrt2$ を用いて、$x\preceq y$ を $\sigma(x)\le\sigma(y)$(右辺は $\mathbb{R}$ の通常の順序)で定める。$\sigma$ は単射で和と積を保つので、$\preceq$ も全順序であり、2 つの公理を満たす。通常の順序では $\sqrt2>0$ だが、$\preceq$ では $\sigma(\sqrt2)=-\sqrt2<0$ なので $\sqrt2$ は負の元である。
$K$ の順序はこの 2 つだけである。実際、$K$ の任意の順序で $-2<\sqrt2<2$ である($\sqrt2\ge2$ なら公理 2 を $\sqrt2-2\ge0$ と $\sqrt2\ge0$ に使って $2=\sqrt2\cdot\sqrt2\ge2\sqrt2\ge4$ となり矛盾、$\sqrt2\le-2$ も同様)。$K$ の有理数どうしの大小は通常の大小である(prop-ordered-field-rationals)ので、$a,b\in\mathbb{Q}$ について $|a+b\sqrt2|\le|a|+2|b|$ である(順序体でも $\pm x\le|x|$ から $|x+y|\le|x|+|y|$ が従うので、$|a+b\sqrt2|\le|a|+|b\sqrt2|=|a|+|b||\sqrt2|\le|a|+2|b|$ となる)。この式から、この順序は Archimedes 的である。thm-ordered-field-embedding により順序を保つ単射な体の準同型 $\psi\colon K\to\mathbb{R}$ があり、$\psi(\sqrt2)^2=2$ から $\psi(\sqrt2)=\pm\sqrt2$、すなわち $\psi$ は包含写像か $\sigma$ である。$\psi$ は単射で順序を保ち、どちらの順序も全順序なので、$x\le y\iff\psi(x)\le\psi(y)$ となり、順序は上の 2 つのどちらかに一致する。

無限大の元をもつ順序体

実数係数の有理関数体 $\mathbb{R}(t)$ において、$0$ でない $f$ を十分大きい実数 $x$ で評価した値 $f(x)$ の符号を考える。$f=p/q$($p,q\in\mathbb{R}[t]$、$p,q\ne0$)の $p,q$ は有限個の実数の零点しかもたないので、ある $x_0$ があって、$x>x_0$ では $f(x)$ が定義されて $0$ にならず、中間値の定理により符号が一定である。そこで
$$ P:=\{f\in\mathbb{R}(t)\mid f\ne0,\ \text{十分大きいすべての実数 }x\text{ について }f(x)>0\} $$
とおく。今述べたことから、$0$ でない $f$ について $f\in P$ と $-f\in P$ のちょうど一方が成り立つ。$f,g\in P$ なら、十分大きい $x$ で $f(x)>0$、$g(x)>0$ なので $(f+g)(x)>0$、$(fg)(x)>0$ である。よって $P$ は正錐であり、prop-ordered-field-cone により $\mathbb{R}(t)$ は順序体になる。
この順序では、任意の自然数 $n$ について $t-n\in P$、すなわち $t>n\cdot1$ である。したがってこの順序体は Archimedes 的でない。$1/t$ は正の元だが、すべての正の実数 $r$ について $1/t< r$ となる「無限小」の元である。

反例:複素数体

$\mathbb{C}$ はどのような全順序によっても順序体にならない。順序体では $0$ でない元の平方は正であり(prop-ordered-field-basic の 1)、$1=1^2>0$ なので $-1<0$ である。ところが $\mathbb{C}$ では $-1=i^2$ は $0$ でない元の平方なので正でなければならず、矛盾する。
たとえば $\mathbb{C}=\mathbb{R}^2$ に辞書式順序(実部で比べ、等しければ虚部で比べる)を入れると、これは全順序で公理 1 を満たす。しかし $0< i$ かつ $0< i$ なのに $i\cdot i=-1<0$ であり、公理 2 を満たさない。破る含意は「足し算と両立する全順序は順序体の順序である」である。

反例:正の標数の体

標数 $p>0$ の体、たとえば有限体 $\mathbb{F}_p$ は順序付け可能でない。順序体では $1>0$ から $n\cdot1=1+\cdots+1>0$($n\ge1$)となる(prop-ordered-field-basic の 3)が、標数 $p$ では $p\cdot1=0$ だからである。公理 2 を除いても、標数 $p$ の体の上に公理 1 を満たす全順序は存在しない。公理 1 から $a< b$ なら $a+c< b+c$ である($a+c=b+c$ なら $a=b$)ので、$0<1$ なら $0<1<1+1<\cdots< p\cdot1=0$、$1<0$ なら $0>1>1+1>\cdots>p\cdot1=0$ となり、どちらの場合も $0<0$ という矛盾になるからである。

性質

正錐による言い換え

順序と正錐の対応

$F$ を体とする。

  1. $(F,\le)$ が順序体なら、正の元の全体 $P_\le:=\{a\in F\mid 0< a\}$ は正錐である。
  2. $P$ が $F$ の正錐なら、$a\le b$ を「$b-a\in P$ または $a=b$」で定めると $(F,\le)$ は順序体であり、その正の元の全体は $P$ である。
    この 2 つの対応は互いに逆であり、$F$ の順序と正錐は一対一に対応する。
  1. 公理 1 により、$a\le b\iff 0\le b-a$ である($c=-a$ と $c=a$ を足す)。$a\ne0$ なら全順序性から $0< a$ か $a<0$ のちょうど一方が成り立ち、$a<0$ は公理 1 で $-a$ を足して $0<-a$ と同値である。よって正錐の条件 1 が成り立つ。$0< a$、$0< b$ なら公理 1 から $0< a< a+b$ である($0< b$ に $a$ を足す)。公理 2 から $0\le ab$ であり、体には零因子がないので $ab\ne0$、すなわち $0< ab$ である。よって条件 2 が成り立つ。
  2. 反射律は定義から、推移律は $c-a=(c-b)+(b-a)$ と $P$ が和で閉じることから従う。$a\le b$ かつ $b\le a$ で $a\ne b$ なら $b-a\in P$ かつ $-(b-a)\in P$ となり条件 1 に反するので、反対称律が成り立つ。任意の $a,b$ について $b-a\in P$、$b-a=0$、$a-b\in P$ のいずれかなので全順序である。公理 1 は $(b+c)-(a+c)=b-a$ から、公理 2 は $P$ が積で閉じることから従う。正の元の全体が $P$ であることは定義から明らかである。
    1 で作った $P_\le$ から 2 で作る順序がもとの $\le$ に戻ることは、1 の証明の最初に示した $a\le b\iff0\le b-a$ による。逆向きに戻ることは 2 の最後の主張である。$\square$

この対応により、不等式 の記事の命題「順序の基本性質」とその証明は、正錐の 2 条件と体の公理しか使っていないので、任意の順序体でそのまま成り立つ。すなわち、推移律、$a< b$ かつ $c< d$ なら $a+c< b+d$、$c>0$ なら $ac< bc$ と $c<0$ なら $ac>bc$($a< b$ のとき)、$a>0$ なら $1/a>0$、$0< a< b$ なら $1/b<1/a$ が成り立つ。以下ではこれらを自由に使う。順序体では $|a|$ を、$a\ge0$ のとき $a$、$a<0$ のとき $-a$ と定める。

平方と標数

順序体の基本性質

$(F,\le)$ を順序体とする。

  1. $0$ でない $x\in F$ について $x^2>0$ である。特に $1>0$、$-1<0$ である。
  2. $x_1,\dots,x_n\in F$ のうち $0$ でないものがあれば $x_1^2+\cdots+x_n^2>0$ である。特に $-1$ は $F$ の元の平方の和として書けない。
  3. 自然数 $n\ge1$ について $n\cdot1>0$ である。特に $F$ の標数は $0$ である。
  1. $x>0$ なら $x^2=x\cdot x>0$ である(prop-ordered-field-cone の 1 の証明)。$x<0$ なら $-x>0$ で $x^2=(-x)^2>0$ である。$1=1^2$ なので $1>0$、公理 1 で $-1$ を足して $0>-1$ である。
  2. 各 $x_i^2\ge0$ で、少なくとも 1 つは正なので、正錐が和で閉じることから和は正である。$-1=\sum_ix_i^2$ なら、$-1\ne0$ なので $x_i$ のどれかは $0$ でなく、右辺は正になり $-1<0$ に反する。
  3. $n$ についての帰納法による。$1\cdot1=1>0$ であり、$n\cdot1>0$ なら $(n+1)\cdot1=n\cdot1+1>0$ である。よって $n\cdot1\ne0$($n\ge1$)であり、標数は $0$ である。$\square$

2 の逆、すなわち $-1$ が平方の和として書けない体には順序が入ることも成り立つ(thm-ordered-field-artin-schreier)。

有理数体の埋め込み

有理数の順序の一意性

$(F,\le)$ を順序体とする。整数 $m$ と正の整数 $n$ について $m/n\mapsto(m\cdot1)(n\cdot1)^{-1}$ で定まる写像 $\iota\colon\mathbb{Q}\to F$ は単射な体の準同型であり、$\mathbb{Q}$ の通常の順序について $q< q'\iff\iota(q)<\iota(q')$ を満たす。特に、$\mathbb{Q}$ を順序体にする順序は通常の順序ただ 1 つである。

prop-ordered-field-basic の 3 により $F$ の標数は $0$ なので、$\mathbb{Z}\to F$、$m\mapsto m\cdot1$ は単射な環準同型であり、$0$ でない整数の像は $F$ で可逆である。商体 の記事の命題「商体の普遍性」により、これは $\mathbb{Q}$ からの体の準同型 $\iota$ に一意に延び、$\iota(m/n)=(m\cdot1)(n\cdot1)^{-1}$ である。体の準同型なので単射である。
順序について、$q'-q=m/n$($n>0$)と書くと、$\iota(q')-\iota(q)=(m\cdot1)(n\cdot1)^{-1}$ である。$n\cdot1>0$ なのでその逆元も正であり、$\iota(q')-\iota(q)>0\iff m\cdot1>0$ である。prop-ordered-field-basic の 3 により $m>0$ なら $m\cdot1>0$、$m<0$ なら $m\cdot1=-((-m)\cdot1)<0$、$m=0$ なら $0$ なので、$m\cdot1>0\iff m>0\iff q< q'$ である。
最後の主張は $F=\mathbb{Q}$ に適用すればよい。$\iota$ は恒等写像なので、$\mathbb{Q}$ の任意の順序 $\le$ について $q< q'$(通常の順序)$\iff q< q'$($\le$ の意味で)となる。$\square$

以下、順序体 $F$ の中の $\iota(\mathbb{Q})$ を $\mathbb{Q}$ と同一視し、$F$ の有理数と呼ぶ。

Archimedes 的な順序体

Archimedes 性の言い換え

順序体 $(F,\le)$ について、次の 3 条件は同値である。

  1. $F$ は Archimedes 的である。すなわち、任意の $x\in F$ に対し $x< n\cdot1$ となる自然数 $n$ がある。
  2. $\mathbb{Q}$ は $F$ で稠密である。すなわち、$x< y$ となる任意の $x,y\in F$ に対し、$x< q< y$ となる $q\in\mathbb{Q}$ がある。
  3. 任意の正の元 $\varepsilon$ に対し、$1/n<\varepsilon$ となる自然数 $n\ge1$ がある。

1 ⇒ 2。$y-x>0$ なので、1 を $1/(y-x)$ に使って $n(y-x)>1$ となる $n\ge1$ をとる。1 を $nx$ と $-nx$ に使うと、$-K< nx< N$ となる整数 $N,K$ があるので、$S:=\{m\in\mathbb{Z}\mid m\le nx\}$ は $-K$ を含み $N$ で上に押さえられた整数の集合であり、最大元 $m$ をもつ。$m\le nx< m+1$ であり、$m+1\le nx+1< ny$ なので、$nx< m+1< ny$、すなわち $x<(m+1)/n< y$ である。
2 ⇒ 3。$0< q<\varepsilon$ となる有理数 $q=a/b$($a,b$ は正の整数)をとると、$1/b\le a/b<\varepsilon$ である。
3 ⇒ 1。$x\le0$ なら $n=1$ でよい。$x>0$ なら 3 を $\varepsilon=1/x$ に使い、$1/n<1/x$ から $x< n$ を得る(正の元の逆数をとると大小が逆になる)。$\square$

$\mathbb{Q}$ と $\mathbb{R}$ とその部分体は Archimedes 的であり、ex-ordered-field-rational-functions の $\mathbb{R}(t)$ は Archimedes 的でない。Archimedes 的な順序体は、実数体の部分体と本質的に同じものである。

Archimedes 的な順序体の実数体への埋め込み

$(F,\le)$ を Archimedes 的な順序体とする。このとき、体の準同型 $\varphi\colon F\to\mathbb{R}$ であって、$x< y\iff\varphi(x)<\varphi(y)$ を満たすものがただ 1 つ存在する。$\varphi$ は $x\in F$ を
$$ \varphi(x)=\sup\{q\in\mathbb{Q}\mid q< x\} $$
($\sup$ は $\mathbb{R}$ での上限)に送る。したがって $F$ は、$\mathbb{R}$ の部分体 $\varphi(F)$ に $\mathbb{R}$ の順序を制限した順序体と同型である。

$x\in F$ について $L(x):=\{q\in\mathbb{Q}\mid q< x\}$ とおく。Archimedes 性により $-K< x< N$ となる整数 $K,N$ があるので、$L(x)$ は $-K$ を含み $N$ で上に押さえられる。よって $\varphi(x):=\sup L(x)\in\mathbb{R}$ が定まる。以下、prop-ordered-field-archimedean の 2($\mathbb{Q}$ の稠密性)を繰り返し使う。
(a) 有理数 $r$ について $L(r)=\{q\in\mathbb{Q}\mid q< r\}$(prop-ordered-field-rationals により $F$ の中の大小は通常の大小)なので $\varphi(r)=r$ である。
(b) $x< y$ なら、有理数 $q_1,q_2$ で $x< q_1< q_2< y$ となるものをとる。$L(x)$ の元はすべて $q_1$ より小さいので $\varphi(x)\le q_1$、$q_2\in L(y)$ なので $q_2\le\varphi(y)$ であり、$\varphi(x)<\varphi(y)$ である。$F$ の順序は全順序なので、逆に $\varphi(x)<\varphi(y)$ なら $x< y$ である。
(c) $\varphi(x+y)=\varphi(x)+\varphi(y)$ を示す。$q\in L(x)$、$q'\in L(y)$ なら $q+q'\in L(x+y)$ なので $q+q'\le\varphi(x+y)$ であり、$q,q'$ について上限をとって $\varphi(x)+\varphi(y)\le\varphi(x+y)$ となる。逆に $r\in L(x+y)$ とすると $r-y< x$ なので有理数 $q$ で $r-y< q< x$ となるものがあり、$r-q< y$ なので有理数 $q'$ で $r-q< q'< y$ となるものがある。$r< q+q'\le\varphi(x)+\varphi(y)$ なので、上限をとって $\varphi(x+y)\le\varphi(x)+\varphi(y)$ である。
(d) $x,y>0$ について $\varphi(xy)=\varphi(x)\varphi(y)$ を示す。$x>0$ なら $0< q< x$ となる有理数があるので、$\varphi(x)=\sup\{q\in\mathbb{Q}\mid0< q< x\}>0$ である。$0< q< x$、$0< q'< y$ となる有理数について $qq'< xy$ なので $qq'\le\varphi(xy)$ であり、まず $q$ について上限をとって $\varphi(x)q'\le\varphi(xy)$、次に $q'$ について上限をとって $\varphi(x)\varphi(y)\le\varphi(xy)$ となる。逆に $r\in\mathbb{Q}$、$r< xy$ について、$r\le0$ なら $\varphi(x)\varphi(y)>0$ より $r<\varphi(x)\varphi(y)$ は明らかなので、以下 $0< r< xy$ の場合を考える。このとき $r/y< x$ なので有理数 $q$ で $r/y< q< x$ となるもの($q>0$)があり、$r/q< y$ なので有理数 $q'$ で $r/q< q'< y$ となるもの($q'>0$)がある。$r< qq'\le\varphi(x)\varphi(y)$ なので、いずれの場合も $r<\varphi(x)\varphi(y)$ であり、$r$ について上限をとって $\varphi(xy)\le\varphi(x)\varphi(y)$ である。
(e) (a) と (c) から $\varphi(0)=0$、$\varphi(-x)=-\varphi(x)$ であり、(d) と符号の場合分けから任意の $x,y$ で $\varphi(xy)=\varphi(x)\varphi(y)$ である(どちらかが $0$ なら両辺 $0$、負の因子は $-1$ 倍して正にする)。$\varphi(1)=1$ なので $\varphi$ は体の準同型であり、(b) により大小を保つ。
一意性。$\psi\colon F\to\mathbb{R}$ も大小を保つ体の準同型とする。$\psi$ は有理数を動かさない(prop-ordered-field-rationals と同じ理由)。$\psi(x)>\varphi(x)$ なら、$\mathbb{R}$ で $\varphi(x)< s<\psi(x)$ となる有理数 $s$ がある。$s\notin L(x)$ で、$s=x$ なら $\psi(x)=s$ となり矛盾するので $x< s$ であり、$\psi(x)<\psi(s)=s$ となって矛盾する。$\psi(x)<\varphi(x)$ なら、$\psi(x)< s<\varphi(x)$ となる有理数 $s$ について、$s$ は $L(x)$ の上界でないので $s< q< x$ となる $q\in L(x)$ があり、$s=\psi(s)<\psi(x)$ となって矛盾する。よって $\psi=\varphi$ である。$\square$

実数体 $\mathbb{R}$ は、上限性質をもつ順序体として順序体の同型を除いて一意に定まる(実数 の記事の定義「実数体と実数」とその直後の段落)。上限性質をもつ順序体は Archimedes 的である(実数 の記事の定理「Archimedes性」の証明は上限性質だけを使う)ので、thm-ordered-field-embedding が適用でき、この場合の $\varphi$ は全射になる。実際、$r\in\mathbb{R}$ に対し $A:=\{q\in\mathbb{Q}\mid q< r\}$ は $F$ で上に有界なので $F$ での上限 $x$ をもつ。$q< r$ なら $q< q'< r$ となる有理数 $q'$ について $q< q'\le x$ なので $A\subset L(x)$($L(x)$ は prf-ordered-field-embedding の記号)であり、$q< x$ なら $q$ は $A$ の上界でないので $q< a$ となる $a\in A$ があって $q< r$ となるから $L(x)\subset A$ である。よって $\varphi(x)=\sup A=r$ である。逆に、Archimedes 的であっても上限性質をもつとは限らない($\mathbb{Q}$ では $\{q\mid q^2<2\}$ が上限をもたない)。

順序付け可能な体の特徴づけ

Artin–Schreier の定理

体 $F$ が順序付け可能であるための必要十分条件は、$-1$ が $F$ の元の平方の和として書けないことである。

Artin–Schreier の定理の出典

必要性は prop-ordered-field-basic の 2 である。十分性は Artin と Schreier による。平方の和の全体を含み、和と積で閉じて $-1$ を含まない部分集合のうち極大なものを Zornの補題 でとると、それが正錐と $\{0\}$ の和になることを示す。証明は Lan02 Chapter XI §2、JacBA2 第 11 章に譲る。$-1$ が平方の和として書けない体を 実体(形式的実体)という(実閉体 の記事の定義「順序体と実体」)。この定理により、ex-ordered-field-complex と ex-ordered-field-finite の体が順序付け可能でないことは、$-1$ が平方(またはその和)であることだけから分かる。

順序付け可能な体の中で、真の代数拡大がもう順序付け可能でないものを 実閉体 という。実閉体では順序は「$0$ 以上 $\iff$ 平方」として体の構造から一意に決まり、ex-ordered-field-sqrt-two のように順序が複数あることは起こらない。任意の順序体 $(F,\le)$ は、その順序を延ばす実閉な代数拡大(実閉包)をもつ(実閉体 の記事の定理「実閉包の存在とArtin–Schreierの定理」)。

補足

  • 非 Archimedes 的な順序体と解析:ex-ordered-field-rational-functions のような順序体には、正の無限小や無限大の元がある。こうした元を含む実閉体を用いて微分積分を無限小で展開するのが 非標準解析 である。
  • 順序体の上の位相:順序体には開区間を基とする順序位相が入る。$\mathbb{R}$ 以外の順序体では、中間値の定理や有界閉区間のコンパクト性は一般には成り立たない($\mathbb{Q}$ で $x^2-2$ は $0$ と $2$ で符号が変わるが零点をもたない)。
  • 文献:順序体の基本事項は Rud76 Chapter 1、代数的な理論は Lan02 Chapter XI と JacBA2 第 11 章にある。

関連項目

参考文献

[1]
Walter Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976, Chapter 1(順序集合と順序体、実数体)
[2]
Serge Lang, Algebra, Revised 3rd ed.(Graduate Texts in Mathematics 211), Springer, 2002, Chapter XI §1–§2(実体と順序、Artin–Schreier の定理、実閉包)

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