sinを繰り返す数列

同義語:正弦の反復iterated sine sequence

概要

sinを繰り返す数列(iterated sine sequence)とは、$0<x_1<\pi$ から始めて $x_{n+1}=\sin x_n$ で定める数列である。すべての $x>0$ で $\sin x<x$ なので、この数列は単調に減って $0$ に収束する。不動点 $0$ での $\sin$ の傾きが $1$ なので縮小写像の定理は使えず、収束は遅い。$x-\frac{x^3}{6}\le\sin x\le x-\frac{x^3}{6}+\frac{x^5}{120}$($x\ge0$)から $\frac{1}{x_{n+1}^2}-\frac{1}{x_n^2}\to\frac13$ が分かり、Stolz–Cesàro の定理により $n x_n^2\to3$、すなわち $x_n$ と $\sqrt{3/n}$ の比は $1$ に近づく。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Stolz–Cesàroの定理(高校数学), sin x/xの極限, 縮小写像と漸化式, 関数の近似とテイラー展開

高校での出発点:$\sin$ のボタンを押し続ける

関数電卓に $1$ を入れ(角の単位はラジアン)、$\sin$ のボタンを何度も押すと、表示はどうなるだろうか。これは漸化式 $x_1=1$、$x_{n+1}=\sin x_n$ で定まる数列を計算していることになる。

$\sin$ をくり返す

$x_1=1$、$x_{n+1}=\sin x_n$ とすると
$$ x_1=1,\quad x_2=\sin1=0.8414\ldots,\quad x_3=0.7456\ldots,\quad x_4=0.6784\ldots,\quad x_5=0.6275\ldots,\quad x_6=0.5871\ldots $$
となる。値は少しずつ小さくなるが、減り方はだんだん鈍くなる。計算機で続けると
$$ x_{10}=0.4813\ldots,\qquad x_{100}=0.1696\ldots,\qquad x_{1000}=0.05462\ldots $$
である。1000 回押しても、まだ $0.05$ より大きい。

$\cos$ をくり返す

同じことを $\cos$ でやってみる。$y_1=1$、$y_{n+1}=\cos y_n$ とすると
$$ y_1=1,\quad y_2=0.5403\ldots,\quad y_3=0.8575\ldots,\quad y_4=0.6542\ldots,\quad y_5=0.7934\ldots $$
と、大きくなったり小さくなったりしながら、方程式 $\cos y=y$ の解 $\gamma=0.739085\ldots$ に近づく。$\gamma$ との差は $n=10,20,30$ で $0.0076\ldots$、$0.00014\ldots$、$0.0000028\ldots$ と、10 回ごとにおよそ $\dfrac1{50}$ 倍になる。$\sin$ をくり返したときよりずっと速い。

y = sin x と y = x のくもの巣図で、x_1 = 1 から始めた点は 0 に向かってゆっくり進む y = sin x と y = x のくもの巣図で、x_1 = 1 から始めた点は 0 に向かってゆっくり進む
y = cos x と y = x のくもの巣図で、x_1 = 1 から始めた点は交点のまわりを回りながら速く近づく y = cos x と y = x のくもの巣図で、x_1 = 1 から始めた点は交点のまわりを回りながら速く近づく

図 1・図 2 は、漸化式の値の動きを図で追う「くもの巣図」である。点 $(x_n,0)$ から縦に進んでグラフ $y=f(x)$ に当たると高さが $f(x_n)=x_{n+1}$ で、そこから横に進んで直線 $y=x$ に当たると横の位置が $x_{n+1}$ になる。これをくり返す。図 1 では、$y=\sin x$ のグラフが原点の近くで直線 $y=x$ にぴったり寄り添っているので、1 回ごとの進みが小さく、階段が細かくなっていく。図 2 では、$y=\cos x$ のグラフが交点で直線 $y=x$ と斜めに交わるので、値は交点のまわりを回りながら速く近づく。
この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. $x_n$ は本当に $0$ に近づくか。→ thm-isin-limit
  2. どのくらいの速さで近づくか。→ thm-isin-rate:$x_n$ はおよそ $\sqrt{\dfrac3n}$ である
  3. $\cos$ のときとの速さの違いは、どこから来るか。→ 節「ほかの反復との比較」と rem-isin-contraction
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    漸化式 $x_{n+1}=\sin x_n$関数 $\sin$ の反復力学系の軌道
    極限の方程式 $\beta=\sin\beta$不動点 $0$不動点
    $\sin x$ の近似 $x-\dfrac{x^3}6$3 次の項の係数が速さを決める放物型の不動点
    Stolz–Cesàroの定理(高校数学)$\dfrac1{x_n^2}$ の差分から $n x_n^2\to3$漸近展開

準備:数列の定義と使う事実

$\sin$ をくり返す数列

$0< x_1<\pi$ を満たす実数 $x_1$ から始めて、
$$ x_{n+1}=\sin x_n\qquad(n=1,2,3,\dots) $$
で定まる数列 $(x_n)$ を、$\sin$ をくり返す数列 という。角はラジアンで測る。

この記事で使う事実
  1. 単調減少で下に有界な数列は収束する(極限とε-δ の定理「単調有界数列の収束」)。
  2. 関数 $f$ が $x=\beta$ で連続で、$a_n\to\beta$ なら $f(a_n)\to f(\beta)$ である(極限とε-δ の命題「数列による特徴づけ」)。$\sin x$、$\sqrt x$ は連続である。
  3. $0< x<\dfrac\pi2$ のとき $\sin x< x$ である(sin x/xの極限 の補題「正弦・弧度・正接の大小」)。また $\dfrac{\sin x}{x}\to1$($x\to0$)なので、$0$ でない数からなる数列 $t_n$ が $0$ に近づけば $\dfrac{\sin t_n}{t_n}\to1$ である。
  4. 区間で $f'(x)\ge0$ なら、$f$ はその区間で増加する(平均値の定理による差の評価)。
  5. Stolz–Cesàro の定理:$(b_n)$ が狭義単調増加で $b_n\to+\infty$、差の比 $\dfrac{a_{n+1}-a_n}{b_{n+1}-b_n}$ が $L$ に収束するならば、$\dfrac{a_n}{b_n}\to L$ である(Stolz–Cesàroの定理(高校数学))。
  1. の不等式は、$x\ge\dfrac\pi2$ でも成り立つ。$\sin x\le1<\dfrac\pi2\le x$ だからである。したがって、すべての $x>0$ で $\sin x< x$ である。

主定理 1:$x_n$ は単調に減って $0$ に近づく

$0$ への収束

def-isin の数列 $(x_n)$ は、すべての項が正で、狭義単調減少であり、$0$ に収束する。さらに $n\ge2$ では $0< x_n\le1$ である。

段 1(すべての項が $0$ と $\pi$ の間)。帰納法で $0< x_n<\pi$ を示す。$n=1$ では仮定である。$0< x_n<\pi$ なら $\sin x_n>0$ で、$\sin x_n\le1<\pi$ なので $0< x_{n+1}<\pi$ である。とくに $n\ge2$ では $x_n=\sin x_{n-1}\le1$ である。
段 2(単調減少)。$x_n>0$ と「すべての $x>0$ で $\sin x< x$」から、$x_{n+1}=\sin x_n< x_n$ である。
段 3(収束)。$(x_n)$ は単調減少で、$0$ で下に有界なので、rem-isin-premises (1) により収束する。極限を $\beta$ とすると、$x_n>0$ から $\beta\ge0$ である。
段 4(極限は $0$)。漸化式 $x_{n+1}=\sin x_n$ で $n\to\infty$ とする。左辺は $\beta$ に、右辺は rem-isin-premises (2) により $\sin\beta$ に近づくので、$\beta=\sin\beta$ である。もし $\beta>0$ なら $\sin\beta<\beta$ となって矛盾するので、$\beta=0$ である。$\square$

始めの値を変える

$x_1=3$($\pi$ に近い値)なら、$x_2=\sin3=0.1411\ldots$ といきなり小さくなり、その後は $x_3=0.1406\ldots$、$x_4=0.1401\ldots$ とゆっくり減る。$x_1=\dfrac12$ なら $x_2=\sin\dfrac12=0.4794\ldots$ である。どの $x_1$ から始めても、thm-isin-limit のとおり $x_n$ は減りながら $0$ に近づく。

主定理 2:$x_n$ はおよそ $\sqrt{3/n}$

見当をつける:$\dfrac1{x_n^2}$ はほぼ $\dfrac13$ ずつ増える

$x$ が小さいとき、$\sin x$ は $x-\dfrac{x^3}6$ でよく近似できる(関数の近似とテイラー展開)。1 回の反復で $x_n$ はおよそ $\dfrac{x_n^3}6$ だけ減る。減る量が $x_n^3$ に比例するので、$x_n$ が小さくなるほど減り方が鈍くなる。
どんな量を見ればよいかを探す。$x_{n+1}\fallingdotseq x_n\left(1-\dfrac{x_n^2}6\right)$ の両辺を $-2$ 乗すると、$t$ が小さいとき $(1-t)^{-2}\fallingdotseq1+2t$ なので
$$ \frac1{x_{n+1}^2}\fallingdotseq\frac1{x_n^2}\left(1+\frac{x_n^2}3\right)=\frac1{x_n^2}+\frac13 $$
となる。つまり $\dfrac1{x_n^2}$ は、1 回ごとにほぼ $\dfrac13$ ずつ増えるはずである。$n$ 回で $\dfrac n3$ 増えるなら $\dfrac1{x_n^2}\fallingdotseq\dfrac n3$、すなわち $x_n\fallingdotseq\sqrt{\dfrac3n}$ となる。

差分 $\dfrac1{x_{n+1}^2}-\dfrac1{x_n^2}$ の値

$x_1=1$ で、$d_n=\dfrac1{x_{n+1}^2}-\dfrac1{x_n^2}$ を計算すると
$$ d_1=\frac1{\sin^21}-1=0.4122\ldots,\quad d_2=0.3864\ldots,\quad d_3=0.3739\ldots,\quad d_{10}=0.3493\ldots $$
で、$\dfrac13=0.3333\ldots$ に向かって減っていく。

この見当を証明にするには、「$\fallingdotseq$」を不等式に置きかえればよい。まず $\sin x$ を多項式ではさむ。

$\sin x$ を多項式ではさむ

$x\ge0$ のとき
$$ x-\frac{x^3}6\le\sin x\le x-\frac{x^3}6+\frac{x^5}{120} $$
である。

要点:左辺と右辺から $\sin x$ を引いた関数、およびその導関数に現れる関数を順に作ると、どれも $x=0$ で $0$ になり、導関数が 1 つ前の関数になっている。$x-\sin x\ge0$ から始めて、rem-isin-premises (4) を 5 回使う。$\square$

詳しい証明を開く

以下 $x\ge0$ とし、どの関数も $x=0$ で値 $0$ をとることに注意する。区間 $x\ge0$ で導関数が $0$ 以上なら増加するので、値はいつも $0$ 以上になる(rem-isin-premises (4))。

段 1。$h_1(x)=x-\sin x$ とおく。$h_1'(x)=1-\cos x\ge0$ なので $h_1(x)\ge h_1(0)=0$、すなわち $\sin x\le x$ である。

段 2。$h_2(x)=\cos x-1+\dfrac{x^2}2$ とおく。$h_2'(x)=-\sin x+x=h_1(x)\ge0$ なので $h_2(x)\ge0$、すなわち $\cos x\ge1-\dfrac{x^2}2$ である。

段 3。$h_3(x)=\sin x-x+\dfrac{x^3}6$ とおく。$h_3'(x)=\cos x-1+\dfrac{x^2}2=h_2(x)\ge0$ なので $h_3(x)\ge0$、すなわち $\sin x\ge x-\dfrac{x^3}6$ である(左の不等式)。

段 4。$h_4(x)=1-\dfrac{x^2}2+\dfrac{x^4}{24}-\cos x$ とおく。$h_4'(x)=-x+\dfrac{x^3}6+\sin x=h_3(x)\ge0$ なので $h_4(x)\ge0$ である。

段 5。$h_5(x)=x-\dfrac{x^3}6+\dfrac{x^5}{120}-\sin x$ とおく。$h_5'(x)=1-\dfrac{x^2}2+\dfrac{x^4}{24}-\cos x=h_4(x)\ge0$ なので $h_5(x)\ge0$ である(右の不等式)。

$x=1$ では $0.8333\ldots\le\sin1=0.84147\ldots\le0.84166\ldots$、$x=0.1$ では $0.09983333\ldots\le\sin0.1=0.09983341\ldots\le0.09983341\ldots$ で、$x$ が小さいほど両側がぴったり近づく($x=0.1$ では右側との差はおよそ $2\times10^{-11}$)。

$x^2-\sin^2x$ の大きさ

$0< x\le1$ のとき
$$ \left(\frac16-\frac{x^2}{120}\right)\left(2-\frac{x^2}6\right)\le\frac{x^2-\sin^2x}{x^4}\le\frac13 $$
である。

段 1($x-\sin x$ をはさむ)。lem-isin-taylor の各辺を $x$ から引くと
$$ \frac{x^3}6-\frac{x^5}{120}\le x-\sin x\le\frac{x^3}6 $$
である。左辺は $\dfrac{x^3(20-x^2)}{120}$ で、$0< x\le1$ では正である。
段 2($x+\sin x$ をはさむ)。lem-isin-taylor の左の不等式と $\sin x\le x$ から
$$ 2x-\frac{x^3}6\le x+\sin x\le2x $$
である。左辺は $x\left(2-\dfrac{x^2}6\right)$ で、$0< x\le1$ では正である。
段 3(掛ける)。$x^2-\sin^2x=(x-\sin x)(x+\sin x)$ である。段 1・段 2 の不等式はどれも両辺が正なので、辺どうしを掛けてよく
$$ \left(\frac{x^3}6-\frac{x^5}{120}\right)\left(2x-\frac{x^3}6\right)\le x^2-\sin^2x\le\frac{x^3}6\cdot2x=\frac{x^4}3 $$
となる。左辺は $x^4\left(\dfrac16-\dfrac{x^2}{120}\right)\left(2-\dfrac{x^2}6\right)$ なので、各辺を $x^4>0$ で割ると主張の不等式を得る。$\square$

$x=1$ では、左辺 $\dfrac{19}{120}\cdot\dfrac{11}6=\dfrac{209}{720}=0.2902\ldots$、中央 $1-\sin^21=\cos^21=0.2919\ldots$、右辺 $0.3333\ldots$ である。$x\to0$ のとき左辺は $\dfrac16\cdot2=\dfrac13$ に近づくので、中央の量ははさまれて $\dfrac13$ に近づく。

主定理 2 とその証明

$\sin$ をくり返す数列の速さ

def-isin の数列 $(x_n)$ について
$$ n\,x_n^2\to3 $$
である。したがって $\dfrac{x_n}{\sqrt{3/n}}\to1$ であり、$x_n$ は $n$ が大きいとき $\sqrt{\dfrac3n}$ とほぼ等しい。

方針:ex-isin-diff の差分 $d_n=\dfrac1{x_{n+1}^2}-\dfrac1{x_n^2}$ が $\dfrac13$ に収束することを lem-isin-key で示し、Stolz–Cesàro の定理で $\dfrac1{x_n^2}$ と $n$ の比に移す。
段 1(差分を 2 つの因数に分ける)。$x_{n+1}=\sin x_n$ なので
$$ d_n=\frac1{\sin^2x_n}-\frac1{x_n^2}=\frac{x_n^2-\sin^2x_n}{x_n^2\sin^2x_n}=\underbrace{\frac{x_n^2-\sin^2x_n}{x_n^4}}_{\text{第 1 の因数}}\cdot\underbrace{\left(\frac{x_n}{\sin x_n}\right)^2}_{\text{第 2 の因数}} $$
である($x_n>0$、$\sin x_n=x_{n+1}>0$ なので分母は $0$ でない)。
段 2(第 1 の因数)。thm-isin-limit により、$n\ge2$ では $0< x_n\le1$ なので、lem-isin-key が使えて
$$ \left(\frac16-\frac{x_n^2}{120}\right)\left(2-\frac{x_n^2}6\right)\le\frac{x_n^2-\sin^2x_n}{x_n^4}\le\frac13 $$
である。$x_n\to0$ なので左辺は $\dfrac16\cdot2=\dfrac13$ に収束し、はさみうちの原理により第 1 の因数は $\dfrac13$ に収束する。
段 3(第 2 の因数)。$x_n$ は $0$ でない数で $0$ に近づくので、rem-isin-premises (3) により $\dfrac{\sin x_n}{x_n}\to1$、その逆数の 2 乗である第 2 の因数も $1$ に収束する。段 2 と合わせて $d_n\to\dfrac13\cdot1=\dfrac13$ である。
段 4(Stolz–Cesàro の定理)。$a_n=\dfrac1{x_n^2}$、$b_n=n$ とする。$(b_n)$ は狭義単調増加で $b_n\to+\infty$ であり、差の比は
$$ \frac{a_{n+1}-a_n}{b_{n+1}-b_n}=\frac{d_n}{1}=d_n\to\frac13 $$
である。rem-isin-premises (5) により $\dfrac{a_n}{b_n}=\dfrac1{n\,x_n^2}\to\dfrac13$ となる。逆数をとって $n\,x_n^2\to3$ である。
段 5(比の形)。$\dfrac{x_n}{\sqrt{3/n}}=\sqrt{\dfrac{n\,x_n^2}3}$ で、$\sqrt{\phantom{x}}$ は連続なので、rem-isin-premises (2) により $\sqrt{\dfrac33}=1$ に収束する。$\square$

段 4 は、Stolz–Cesàroの定理(高校数学) の演習「漸化式 $a_{n+1}=a_n+\dfrac1{a_n}$ の増え方」と同じ形である。分母が $n$ なので、数列の平均の極限 の定理「平均の極限」を $d_n$ に使っても同じ結論が出る($\dfrac1{x_n^2}=\dfrac1{x_1^2}+d_1+\cdots+d_{n-1}$ だから)。

速さを数で確かめる

$x_1=1$ のとき、計算機で求めた値は次のとおりである。

$n$$x_n$$n\,x_n^2$$\sqrt{3/n}$$\dfrac{x_n}{\sqrt{3/n}}$
$10$$0.48133$$2.3168$$0.54772$$0.87878$
$100$$0.16967$$2.8786$$0.17321$$0.97956$
$1000$$0.054620$$2.9834$$0.054772$$0.99722$
$10^4$$0.017314$$2.9979$$0.017321$$0.99965$
$10^6$$0.0017320$$2.99997$$0.0017321$$0.999995$

$n\,x_n^2$ は $3$ に近づくが、近づき方はゆっくりしている。

n x_n^2 の値は、n を 10 倍するごとに 3 に近づいていくが、近づき方はゆっくりしている n x_n^2 の値は、n を 10 倍するごとに 3 に近づいていくが、近づき方はゆっくりしている

近づき方が遅い理由(証明しない)

thm-isin-rate は、差 $r_n=\dfrac1{x_n^2}-\dfrac n3$ が $n$ に比べて小さい($\dfrac{r_n}n\to0$)ということを言っている。$r_n$ を $x_1=1$ で計算すると、$n=10,100,1000,10^4,10^5,10^6$ で $0.98\ldots$、$1.40\ldots$、$1.85\ldots$、$2.31\ldots$、$2.77\ldots$、$3.23\ldots$ で、$n$ を $10$ 倍するごとにおよそ $0.46$ ずつ増え続ける。$\log n$ の程度でゆっくり増えるように見えるが、この記事では証明しない。計算した範囲では $r_n$ は正なので、$n\,x_n^2=\dfrac{3}{1+\frac{3r_n}n}$ は $3$ より小さい。$3$ との差はおよそ $\dfrac{9r_n}{n}$ で、表の範囲では $r_n$ が増えているぶん、$\dfrac1n$ よりも遅く $0$ に近づく($n=10^6$ で $2.9\times10^{-5}$ ほど)。

ほかの反復との比較

同じ方法は、不動点での傾きが $1$ のほかの反復にも使える。最も簡単な例から見る。

$x_{n+1}=x_n-x_n^2$

$0< x_1<1$、$x_{n+1}=x_n-x_n^2$ とする。$0< x<1$ なら $0< x-x^2=x(1-x)< x$ なので、thm-isin-limit と同じ議論で、$(x_n)$ は $0$ と $1$ の間にあり、単調減少で $0$ に収束する(極限 $\beta$ は $\beta=\beta-\beta^2$ を満たすので $\beta=0$)。こんどは $\dfrac1{x_n}$ の差分を見る。
$$ \frac1{x_{n+1}}-\frac1{x_n}=\frac1{x_n(1-x_n)}-\frac1{x_n}=\frac{1-(1-x_n)}{x_n(1-x_n)}=\frac1{1-x_n}\to1 $$
なので、Stolz–Cesàro の定理($a_n=\dfrac1{x_n}$、$b_n=n$)により $\dfrac1{n\,x_n}\to1$、すなわち $n\,x_n\to1$ である。$x_1=\dfrac12$ なら $x_2=\dfrac14$、$x_3=\dfrac3{16}$ で、$n\,x_n$ は $n=10,100,1000,10^6$ で $0.7508\ldots$、$0.9485\ldots$、$0.9923\ldots$、$0.99998\ldots$ である。$\sin$ のときより速く $0$ に近づくのは、1 回で減る量が $x_n^3$ ではなく $x_n^2$ に比例するからである。

反復 $x_{n+1}=f(x_n)$不動点不動点での傾き近づく速さ
$f(x)=\sin x$$0$$1$$x_n\fallingdotseq\sqrt{3/n}$(thm-isin-rate)
$f(x)=x-x^2$$0$$1$$x_n\fallingdotseq\dfrac1n$(ex-isin-square)
$f(x)=\log(1+x)$$0$$1$$x_n\fallingdotseq\dfrac2n$(exc-isin-log)
$f(x)=\cos x$$\gamma=0.7390\ldots$$-\sin\gamma=-0.6736\ldots$$\gamma$ との差が毎回およそ $0.674$ 倍

上の 3 行は、不動点での傾きがちょうど $1$ で、近づき方は $n$ の分数のべき($\dfrac1{\sqrt n}$ や $\dfrac1n$)の程度である。最後の行は傾きの大きさが $1$ より小さく、差は等比数列のように小さくなる。10 回で $0.674^{10}=0.019\ldots$ 倍、つまりおよそ $\dfrac1{50}$ 倍で、ex-isin-cos で見た値と合っている。

縮小写像の定理が使えない理由

縮小写像と漸化式 の定理「縮小写像による収束」は、閉区間 $I$ で $\lvert f(x)-f(y)\rvert\le k\lvert x-y\rvert$ となる定数 $k<1$ があれば、不動点との差が $k^n$ に比例して小さくなることを示している。$\cos x$ は区間 $[0,1]$ を $[\cos1,1]\subset[0,1]$ に写し、この区間で $\lvert(\cos x)'\rvert=\sin x\le\sin1=0.841\ldots$ なので、$k=\sin1$ として定理が使える。
$\sin x$ では、$0$ を含むどんな区間 $I=[0,b]$($0< b\le1$)でも、この仮定を満たす $k<1$ はない。もしあれば、$y=0$ として $\sin x\le kx$、すなわち $\dfrac{\sin x}{x}\le k$ が $0< x\le b$ で成り立つはずだが、$\dfrac{\sin x}x\to1$($x\to0$)なので、十分小さい $x$ では $\dfrac{\sin x}x>k$ となってしまう。
thm-isin-rate からも、縮小写像でないことが分かる。もし $k<1$ で $x_n\le k^{n-1}x_1$ なら、$n\,x_n^2\le n\,k^{2(n-1)}x_1^2\to0$ となり($n$ は等比数列 $k^{2n}$ に比べてゆっくりしか大きくならない。はさみうちと評価の技法 の定理「増え方の順序」)、$n\,x_n^2\to3$ に反する。

例と反例

thm-isin-limit・thm-isin-rate の仮定や、使った性質を外すと、次のように崩れる。

外す条件反例成り立たなくなること
$0< x_1<\pi$$x_1=\pi$$n\,x_n^2\to3$
すべての $x>0$ で $0< f(x)< x$$x_{n+1}=\tan x_n$、$x_1=0.5$$x_n$ が減りながら $0$ に近づく
縮小写像の定理の仮定 $k<1$$f(x)=\sin x$(区間 $[0,1]$)不動点との差が等比数列のように小さくなる

3 行目は rem-isin-contraction で確かめた。1 行目と 2 行目を確かめる。

反例:$x_1=\pi$ で止まる

$x_1=\pi$ とすると $x_2=\sin\pi=0$ で、その後は $x_n=\sin0=0$ がずっと続く。$n\ge2$ で $n\,x_n^2=0$ なので、$3$ には近づかない。$x_1$ が $\pi$ の整数倍なら同じことが起こる。thm-isin-limit の証明の段 1 で、$0< x_1<\pi$ は「すべての項が正」を保証するために使った。

反例:$\tan$ をくり返すと $0$ から離れる

$0< x<\dfrac\pi2$ では $\tan x>x$ である(sin x/xの極限 の補題「正弦・弧度・正接の大小」)。$x_1=0.5$、$x_{n+1}=\tan x_n$ とすると
$$ x_1=0.5,\quad x_2=0.5463\ldots,\quad x_3=0.6080\ldots,\quad x_4=0.6959\ldots,\quad x_5=0.8354\ldots,\quad x_6=1.1054\ldots,\quad x_7=1.9917\ldots $$
で、項は $0$ から離れていき、$x_7$ で $\dfrac\pi2$ を越える。$\sin x< x$ の代わりに $\tan x>x$ なので、不動点 $0$ は項を引き寄せず、押しのける。不動点での傾きはどちらも $1$ だが、グラフが直線 $y=x$ の下にあるか上にあるかで振る舞いが逆になる。

y = tan x のグラフは y = x の上にあるので、x_1 = 0.5 から始めた点は 0 から離れていく y = tan x のグラフは y = x の上にあるので、x_1 = 0.5 から始めた点は 0 から離れていく

条件の外でも結論が変わらない場合

$x_1$ が $\pi$ の整数倍でなければ、$0< x_1<\pi$ でなくても $n\,x_n^2\to3$ は成り立つ。$\sin$ は奇関数($\sin(-x)=-\sin x$)なので、$-\pi< x_1<0$ なら数列は $x_1'=-x_1$ から始めた数列の符号を変えたものになり、$x_n^2$ は同じである。それ以外の $x_1$ でも、$x_2=\sin x_1$ は $-1$ 以上 $1$ 以下で $0$ でないので、$x_2$ から始めた数列として同じ結論が出る(番号が 1 つずれても、$n\,x_n^2$ と $(n-1)x_n^2$ の差は $x_n^2\to0$ なので極限は変わらない)。たとえば $x_1=4$ では $x_2=\sin4=-0.7568\ldots$ で、$n=10^5$ で $n\,x_n^2=2.9997\ldots$ である。

演習

$x_{n+1}=\log(1+x_n)$ の速さ

$x_1=1$、$x_{n+1}=\log(1+x_n)$ とする。次を示せ。
(1) $x\ge0$ で $x-\dfrac{x^2}2\le\log(1+x)\le x-\dfrac{x^2}2+\dfrac{x^3}3$。
(2) $(x_n)$ は正の項からなる単調減少の数列で、$0$ に収束する。
(3) $n\,x_n\to2$。

解答を開く

(1) $g_1(x)=x-\log(1+x)$、$g_2(x)=\log(1+x)-x+\dfrac{x^2}2$、$g_3(x)=x-\dfrac{x^2}2+\dfrac{x^3}3-\log(1+x)$ とおくと、どれも $x=0$ で $0$ で、導関数は $g_1'=\dfrac x{1+x}$、$g_2'=\dfrac{x^2}{1+x}$、$g_3'=\dfrac{x^3}{1+x}$ で、$x\ge0$ で $0$ 以上である。よってどれも $x\ge0$ で $0$ 以上である(rem-isin-premises (4))。$g_2\ge0$ と $g_3\ge0$ が主張の不等式である。

(2) $x>0$ なら $\log(1+x)>0$ で、$g_1'(x)>0$($x>0$)から $g_1(x)>0$、すなわち $\log(1+x)< x$ である。よって帰納法で $x_n>0$、$x_{n+1}< x_n$ である。単調減少で下に有界なので収束し、極限 $\beta\ge0$ は $\beta=\log(1+\beta)$ を満たす。$\beta>0$ なら $\log(1+\beta)<\beta$ で矛盾するので $\beta=0$ である。

(3) $0< x\le1$ で、(1) の各辺を $x$ から引いて $x^2$ で割ると $\dfrac12-\dfrac x3\le\dfrac{x-\log(1+x)}{x^2}\le\dfrac12$、また (1) を $x$ で割ると $1-\dfrac x2\le\dfrac{\log(1+x)}x\le1$ である。$x_n\to0$ なので、はさみうちの原理により

$$\frac1{x_{n+1}}-\frac1{x_n}=\frac1{\log(1+x_n)}-\frac1{x_n}=\frac{x_n-\log(1+x_n)}{x_n^2}\cdot\frac{x_n}{\log(1+x_n)}\to\frac12\cdot1=\frac12$$

である。Stolz–Cesàro の定理($a_n=\dfrac1{x_n}$、$b_n=n$)により $\dfrac1{n\,x_n}\to\dfrac12$、すなわち $n\,x_n\to2$ である。数値では $n=10,100,1000,10^6$ で $n\,x_n=1.910\ldots$、$2.005\ldots$、$2.002\ldots$、$2.000006\ldots$ である。

大学数学で見る:何次の項が速さを決めるか

thm-isin-rate・ex-isin-square・exc-isin-log は、次の形にまとめられる。不動点 $0$ の近くで
$$ f(x)=x-ax^{k+1}+(\text{もっと高い次数の項})\qquad(a>0,\ k\ \text{は正の整数}) $$
となる関数の反復は、$0$ に近い正の値から始めると、$x_n$ がおよそ $\left(\dfrac1{k\,a\,n}\right)^{1/k}$ の速さで $0$ に近づく。見る量を $\dfrac1{x_n^k}$ にすると、その差分が $ka$ に近づくからである。$\sin x=x-\dfrac16x^3+\cdots$ は $k=2$、$a=\dfrac16$ で $\sqrt{\dfrac3n}$、$x-x^2$ は $k=1$、$a=1$ で $\dfrac1n$、$\log(1+x)=x-\dfrac12x^2+\cdots$ は $k=1$、$a=\dfrac12$ で $\dfrac2n$ となり、この記事の 3 つの結果と合う。一般の場合は、この記事では証明しない。
不動点での傾きが $1$ でないとき(大きさが $1$ より小さいとき)は、縮小写像と漸化式 のとおり差は等比数列のように小さくなる。傾きが $0$ のときはさらに速く、Newton法(高校数学) では差がほぼ 2 乗ずつ小さくなる。

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  • 速い反復:方程式の解を反復で求めるとき、不動点での傾きを $0$ にするように反復を作ると、とても速く近づく。その代表が Newton法(高校数学) である。
  • 指数関数の反復:$a^x$ をくり返す数列($a,a^a,a^{a^a},\dots$)の収束は 累乗の塔 で扱う。そこでも、不動点での傾きが $1$ になる境目が現れる。
  • くもの巣図と傾き:不動点での傾きの大きさが $1$ より小さいと引き寄せられ、大きいと押しのけられる。傾きがちょうど $1$ の $\sin$ や $\tan$ では、グラフが直線 $y=x$ のどちら側にあるかで決まる(ex-isin-cx-tan)。

関連項目

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