複素数と方程式:代数学の基本定理

同義語:Cardanoの公式還元不能の場合

概要

代数学の基本定理は、複素数係数の 1 次以上の多項式が必ず複素数の根をもつという定理であり、$n$ 次多項式は複素数の範囲で $n$ 個の 1 次式の積に分解される。証明は、多項式の絶対値が最小になる点で値が $0$ でなければ、$k$ 乗根を使って絶対値がさらに小さくなる方向が見つかることによる。3 次方程式 $t^3+pt+q=0$ は $t=u+v$ とおく Cardano の公式で解け、$p,q$ が実数で $D=(q/2)^2+(p/3)^3<0$ のときは 3 つの解がすべて実数なのに、公式は虚数の 3 乗根を経由する。有理数係数で有理数解をもたない場合、この虚数は実数のベキ根では避けられない(還元不能の場合)。実数係数の多項式は、実数係数の 1 次式と判別式が負の 2 次式の積に分解される。5 次以上では、係数の四則演算とベキ根だけで解を表す一般の公式はない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 複素数, 2次方程式, 因数定理, ド・モアブルの定理, 中間値の定理

高校での出発点:2 次方程式の虚数解

高校では、判別式が負の 2 次方程式も、虚数単位 $i$($i^2=-1$)を使えば解けることを学ぶ。

判別式が負の 2 次方程式

$$ x^2+2x+5=0\quad\Longrightarrow\quad x=\frac{-2\pm\sqrt{4-20}}2=-1\pm2i $$
であり、実際 $(-1+2i)^2+2(-1+2i)+5=(-3-4i)+(-2+4i)+5=0$ である。

2 次方程式を解くために導入された $i$ は、次の問いを投げかける。

  1. 3 次以上ではどうか。3 次方程式にも解の公式はあるか。その公式に虚数はどう現れるか。→ thm-cfta-cardano、thm-cfta-three-real
  2. さらに新しい数は要らないか。$x^2=-1$ を解くために $i$ を加えた。では $x^2=i$ や $x^5=x+1$ を解くには、また新しい数を加える必要があるのか。→ thm-cfta-fta
    答は「3 次方程式には解の公式があり、3 つの解がすべて実数であっても、公式は途中で虚数を通らざるをえないことがある」「新しい数は要らない。複素数係数のどんな多項式も複素数の根をもつ」である。後者が代数学の基本定理であり、この記事ではその証明を完全に書く(1 つの解析的な事実だけを引用する)。高校の計算と大学の概念は、次のように対応する。
    高校の計算大学の概念
    判別式が負の 2 次方程式を $i$ で解く複素数の $k$ 乗根の存在(prop-cfta-roots)
    $t=u+v$ とおいて 3 次方程式を解くCardano の公式(thm-cfta-cardano)
    3 倍角の公式 $\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$還元不能の場合(thm-cfta-three-real、ex-cfta-cos20)
    因数定理で 1 次式をくくり出す1 次式への分解(cor-cfta-factorization)
    虚数解 $\alpha$ があれば $\bar\alpha$ も解実数係数の多項式の実数での分解(thm-cfta-real-factorization)

複素数の基本事項

複素数 $z=a+bi$($a,b$ は実数)の共役を $\bar z:=a-bi$、絶対値を $|z|:=\sqrt{a^2+b^2}$ と書く。$z\bar z=|z|^2$、$\overline{z+w}=\bar z+\bar w$、$\overline{zw}=\bar z\,\bar w$、$|zw|=|z||w|$ は計算で確かめられる。$z$ が実数であることは $\bar z=z$ と同値である。また三角不等式 $|z+w|\le|z|+|w|$ が成り立つ($|z+w|^2=|z|^2+|w|^2+2\operatorname{Re}(z\bar w)$ と $\operatorname{Re}(z\bar w)\le|z\bar w|=|z||w|$ による)。

複素数の $k$ 乗根

$k\ge1$ を整数とする。どの複素数 $c$ にも、$w^k=c$ となる複素数 $w$ がある。$c\ne0$ ならそのような $w$ はちょうど $k$ 個ある。

極形式とド・モアブルの定理

$c=0$ なら $w=0$ でよい。$c\ne0$ のとき、$c=r(\cos\theta+i\sin\theta)$($r=|c|>0$)と極形式で書き、$\rho:=\sqrt[k]r$(正の実数の $k$ 乗根)とおく。$w_j:=\rho\bigl(\cos\frac{\theta+2\pi j}k+i\sin\frac{\theta+2\pi j}k\bigr)$($j=0,1,\dots,k-1$)は、ド・モアブルの定理により $w_j^k=r(\cos(\theta+2\pi j)+i\sin(\theta+2\pi j))=c$ を満たす。$w_j$ どうしの偏角の差は $\frac{2\pi}k$ の $1$ 倍から $k-1$ 倍で、$2\pi$ の整数倍でないので、$w_0,\dots,w_{k-1}$ は互いに異なる。逆に $w^k=c$ なら $|w|=\rho$ であり、$w$ の偏角 $\varphi$ は $k\varphi-\theta$ が $2\pi$ の整数倍となるので、$w$ は $w_j$ のどれかである。$\square$

$k$ 乗根を極形式で求める根拠である、複素数の掛け算が回転と拡大になることは 複素数の掛け算は回転と拡大 で扱う。
特に平方根はいつでもとれるので、複素数係数の 2 次方程式 $az^2+bz+c=0$($a\ne0$)は、$b^2-4ac$ の平方根の 1 つを $\delta$ として $z=\frac{-b\pm\delta}{2a}$ という解をもつ(平方完成 $4a(az^2+bz+c)=(2az+b)^2-(b^2-4ac)$ による)。

虚数の平方根

$z^2=3+4i$ の解は $\pm(2+i)$ である($(2+i)^2=4+4i-1=3+4i$)。これを使うと、複素数係数の 2 次方程式 $z^2-2z-2-4i=0$ は $(z-1)^2=3+4i$ と変形できるので、解は $z=1\pm(2+i)$、すなわち $3+i$ と $-1-i$ である。

$1$ の 3 乗根のうち $1$ でないものの 1 つを $\omega:=\frac{-1+\sqrt3\,i}2$ とおくと、$\omega^3=1$、$1+\omega+\omega^2=0$ であり、$c\ne0$ の 3 乗根は $w,\omega w,\omega^2w$ の 3 つである。

3 次方程式と Cardano の公式

3 次方程式 $x^3+ax^2+bx+c=0$ は、$x=t-\frac a3$ とおくと 2 次の項が消えて
$$ t^3+pt+q=0,\qquad p=b-\frac{a^2}3,\quad q=c-\frac{ab}3+\frac{2a^3}{27} $$
の形になる。以下この形を扱う。
解の公式は次の筋道で見つかる。$t=u+v$ とおくと $t^3=u^3+v^3+3uv(u+v)$ なので、
$$ t^3-3uv\,t-(u^3+v^3)=0 $$
である。そこで $uv=-\frac p3$、$u^3+v^3=-q$ となる $u,v$ が見つかれば $t=u+v$ は解になる。$u^3$ と $v^3$ は和が $-q$、積が $-\frac{p^3}{27}$ なので、2 次方程式 $X^2+qX-\frac{p^3}{27}=0$ の 2 つの解である。こうして得られる公式は Cardano の名で呼ばれる(Mil22 p. 81)。これを定理の形にまとめる。

Cardano の公式

$p,q$ を複素数とし、$D:=\bigl(\frac q2\bigr)^2+\bigl(\frac p3\bigr)^3$ とおく。$p\ne0$ のときは、$D$ の平方根の 1 つ $\sqrt D$ をとり、$u^3=-\frac q2+\sqrt D$ となる $u$ を 1 つとる。このとき $u\ne0$ であり、$v:=-\frac p{3u}$ と定める。$p=0$ のときは、$u^3=-q$ となる $u$ を 1 つとり、$v:=0$ と定める。このとき
$$ t^3+pt+q=(t-t_1)(t-t_2)(t-t_3),\qquad t_1=u+v,\quad t_2=\omega u+\omega^2v,\quad t_3=\omega^2u+\omega v $$
が成り立つ。すなわち $t^3+pt+q=0$ の解は、重複を込めて $t_1,t_2,t_3$ である。

3 乗の和の因数分解

$p\ne0$ のとき、$X^2+qX-\frac{p^3}{27}=0$ の解は $-\frac q2\pm\sqrt D$ なので、$u^3$ はその 1 つであり、$u^3(u^3+q)=\frac{p^3}{27}$ を満たす。この右辺は $0$ でないので $u\ne0$ であり、$v=-\frac p{3u}$ から $v^3=-\frac{p^3}{27u^3}=-(u^3+q)$ となる。$p=0$ のときは、定め方から $u^3=-q$、$v=0$ である。どちらの場合も
$$ uv=-\frac p3,\qquad u^3+v^3=-q $$
である。ここで、$1+\omega+\omega^2=0$、$\omega^3=1$ を使って展開すると確かめられる恒等式
$$ A^3+B^3+C^3-3ABC=(A+B+C)(A+\omega B+\omega^2C)(A+\omega^2B+\omega C) $$
に $A=t$、$B=-u$、$C=-v$ を代入すると、左辺は $t^3-3uv\,t-(u^3+v^3)=t^3+pt+q$、右辺は $(t-t_1)(t-t_2)(t-t_3)$ になる。$\square$

$p=0$ の場合を分けたのは、このとき $D=\frac{q^2}4$ の平方根として $\frac q2$ をとると $u^3=0$、$u=v=0$ となり、$q\ne0$ なら $t_1=t_2=t_3=0$ が解にならないからである(たとえば $t^3-8=0$ で $\sqrt D=-4$ をとった場合)。$p=0$ の方程式 $t^3=-q$ の解は、$-q$ の 3 乗根 $u,\omega u,\omega^2u$ そのものである。

Cardano の公式で解く

$t^3-6t-9=0$ では $p=-6$、$q=-9$ で $D=\frac{81}4-8=\frac{49}4$、$\sqrt D=\frac72$ である。$u^3=\frac92+\frac72=8$ から $u=2$、$v=\frac6{3\cdot2}=1$ となり、解は
$$ t_1=3,\qquad t_2=2\omega+\omega^2=\frac{-3+\sqrt3\,i}2,\qquad t_3=2\omega^2+\omega=\frac{-3-\sqrt3\,i}2 $$
である。実際 $t^3-6t-9=(t-3)(t^2+3t+3)$ である。

3 次方程式の判別式の符号と実数解の個数の関係は 3次方程式と多項式の判別式 で扱う。

還元不能の場合:実数解のために虚数を通る

$p,q$ が実数のとき、$D$ の符号が解の様子を決める。

3 つの実数解と $D<0$

$p,q$ を実数とし、$f(t)=t^3+pt+q$、$D=\bigl(\frac q2\bigr)^2+\bigl(\frac p3\bigr)^3$ とする。$D<0$ ならば、$f(t)=0$ は相異なる 3 つの実数解をもつ。このとき thm-cfta-cardano の $u^3$ は実数でなく、どの $u$ も実数でなく、3 つの解はどれも $u'+\overline{u'}=2\operatorname{Re}u'$($u'$ は $u,\omega u,\omega^2u$ のどれか)の形である。

極値の符号と共役

$D<0$ なら $\bigl(\frac p3\bigr)^3<0$ なので $p<0$ である。$s:=\sqrt{-p/3}>0$ とおくと $f'(t)=3t^2+p$ は $t=\pm s$ で $0$ になり、$p=-3s^2$ を使うと
$$ f(-s)f(s)=(q+2s^3)(q-2s^3)=q^2-4s^6=q^2+\frac{4p^3}{27}=4D<0 $$
である。$f(-s)>f(s)$($f(-s)-f(s)=4s^3>0$)なので $f(-s)>0>f(s)$ であり、$f(t)\to\mp\infty$($t\to\mp\infty$)と中間値の定理により、$f$ は $(-\infty,-s)$、$(-s,s)$、$(s,\infty)$ のそれぞれに解をもつ。thm-cfta-cardano により 3 次式の解は重複を込めて 3 個なので、これで全部である。
$\sqrt D$ は純虚数なので $u^3=-\frac q2+\sqrt D$ は実数でなく、実数の 3 乗は実数なので $u$ も実数でない。$u^3$ と $v^3=-\frac q2-\sqrt D=\overline{u^3}$ は共役で、$|u|^2=|uv|=\frac{-p}3$ だから $v=-\frac p{3u}=\frac{|u|^2}u=\bar u$ である。同様に $\omega^2v=\overline{\omega u}$、$\omega v=\overline{\omega^2u}$ なので、$t_1,t_2,t_3$ は $u'+\overline{u'}$ の形である。$\square$

解がすべて整数なのに公式は虚数を通る

$t^3-7t+6=(t-1)(t-2)(t+3)$ では $p=-7$、$q=6$ で $D=9-\frac{343}{27}=-\frac{100}{27}<0$ である。$\sqrt D=\frac{10}{3\sqrt3}i$ ととると
$$ u^3=-3+\frac{10\sqrt3}9i,\qquad u=1+\frac2{\sqrt3}i $$
であり($\bigl(1+\frac2{\sqrt3}i\bigr)^3=1+2\sqrt3\,i-4-\frac8{3\sqrt3}i=-3+\frac{10\sqrt3}9i$)、$t_1=u+\bar u=2$ となる。残りの解は $t_2=-3$、$t_3=1$ である。解はすべて整数だが、公式は $-3+\frac{10\sqrt3}9i$ の 3 乗根を経由する。

この例では因数分解で解が分かるので、虚数を避けることもできる。避けられないのは、有理数の解をもたない場合である。

$\cos20^\circ$ と 3 次方程式

$t^3-3t-1=0$ を考える。有理数の解の候補は $\pm1$ だけで(最高次の係数が $1$ の整数係数の多項式の有理数の根は整数で、定数項の約数である)、$1-3-1=-3$、$-1+3-1=1$ なので有理数の解はない。$p=-3$、$q=-1$ で $D=\frac14-1=-\frac34<0$ なので、実数解が 3 つある。公式では $u^3=\frac12+\frac{\sqrt3}2i=\cos60^\circ+i\sin60^\circ$ となり、$u=\cos20^\circ+i\sin20^\circ$ ととれるので、
$$ t=2\cos20^\circ=1.8793\ldots,\qquad 2\cos140^\circ=-1.5320\ldots,\qquad 2\cos260^\circ=-0.3472\ldots $$
が 3 つの解である(3 倍角の公式 $\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$ で $t=2\cos\theta$ とおくと $t^3-3t=2\cos3\theta$ となることからも分かる)。公式で解を求めることは、$60^\circ$ の角を 3 等分することと同じになっている。

一般に、有理数係数の 3 次方程式が有理数の解をもたず、3 つの実数解をもつとき、その解は、実数だけを使ったベキ根(平方根・立方根など)と四則演算の式では書けないことが知られている(Con17 §1、Theorem 2.1、Remark 2.2。次数 3 の既約多項式の場合にあたる。この記事では証明しない。証明には Galois 理論(体の拡大の理論)を使う)。この場合を還元不能の場合(casus irreducibilis)という。$D<0$ の場合、上の例のように三角関数を使えば $t=2\sqrt{-p/3}\cos\frac{\varphi+2\pi j}3$($\cos\varphi=\frac{-q/2}{\sqrt{(-p/3)^3}}$、$j=0,1,2$)と実数だけで書けるが、これはベキ根ではない。
このように 3 次方程式では、虚数は解そのものとしてではなく、実数の解に至る途中の道具として、避けられない形で現れる。

代数学の基本定理

次の定理を代数学の基本定理という。

複素数係数の多項式の根の存在

複素数係数の 1 次以上の多項式 $p(z)=a_nz^n+a_{n-1}z^{n-1}+\cdots+a_0$($n\ge1$、$a_n\ne0$)は、複素数の根をもつ。

証明は 3 つの段階からなる。(1) $|p(z)|$ は $|z|$ が大きいところで大きい。(2) したがって $|p(z)|$ は最小値をもつ。(3) 最小値をとる点で $p$ が $0$ でなければ、その近くに $|p|$ がもっと小さい点がある。(2) では次の事実を証明せずに引用する。

引用する事実:閉円板上の最小値

$R>0$ とし、$F$ を閉円板 $\{z\in\mathbb{C}:|z|\le R\}$ 上の実数値の連続関数とする($z=x+iy$ を平面の点 $(x,y)$ と見て連続)。このとき $F$ は最小値をとる。これは閉区間上の連続関数の最大値・最小値の定理の 2 変数版であり、実数の完備性から証明される(Leb26b では Theorem 11.5.5 の証明の中でこの形で使われる)。この記事では証明しない。多項式 $p$ について $|p(x+iy)|$ は $x,y$ の多項式の 2 乗和の平方根なので連続である。

遠くでは大きい

thm-cfta-fta の $p$ について、$R\ge1$ があって、$|z|\ge R$ ならば $|p(z)|>|p(0)|$ となる。

最高次の項が勝つ

$S:=|a_0|+|a_1|+\cdots+|a_{n-1}|$ とおく。$|z|\ge1$ なら $k< n$ で $|z|^k\le|z|^{n-1}$ なので、三角不等式により
$$ |p(z)|\ge|a_n||z|^n-\sum_{k< n}|a_k||z|^k\ge|z|^{n-1}\bigl(|a_n||z|-S\bigr) $$
である。$R:=\max\Bigl(1,\dfrac{S+|a_0|+1}{|a_n|}\Bigr)$ とおくと、$|z|\ge R$ で $|a_n||z|-S\ge|a_0|+1$、$|z|^{n-1}\ge1$ なので $|p(z)|\ge|a_0|+1>|p(0)|$ である。$\square$

根でない点では、もっと小さくできる

thm-cfta-fta の $p$ と複素数 $z_0$ について $p(z_0)\ne0$ ならば、$|p(z)|<|p(z_0)|$ となる $z$ がある。

下がる方向を $k$ 乗根で選ぶ

$q(w):=\dfrac{p(z_0+w)}{p(z_0)}$ とおく。$p(z_0+w)$ を $w$ について展開すると $w$ の $n$ 次式なので、
$$ q(w)=1+b_kw^k+b_{k+1}w^{k+1}+\cdots+b_nw^n,\qquad b_k\ne0 $$
と書ける。ここで $k$ は $1\le k\le n$ で係数が $0$ でない最小の次数である($w^n$ の係数は $a_n/p(z_0)\ne0$ なので、そのような $k$ はある)。prop-cfta-roots により $c^k=-\frac1{b_k}$ となる複素数 $c$ をとる。$0< t<1$ の実数 $t$ について
$$ q(tc)=1-t^k+t^{k+1}g(t),\qquad g(t):=\sum_{j=k+1}^nb_jc^jt^{j-k-1} $$
であり、$|g(t)|\le C:=\sum_{j=k+1}^n|b_j||c|^j$ である。三角不等式により
$$ |q(tc)|\le(1-t^k)+Ct^{k+1}=1-t^k(1-Ct) $$
となる。$t$ を $0< t<1$ かつ $Ct<1$ にとれば(たとえば $t=\frac1{2(C+1)}$)、$|q(tc)|<1$、すなわち $|p(z_0+tc)|<|p(z_0)|$ である。$\square$

代数学の基本定理の証明

lem-cfta-growth の $R$ をとる。rem-cfta-extreme-value により、$|p|$ は閉円板 $|z|\le R$ 上のある点 $z_0$ で最小値をとる。$0$ はこの円板に入るので $|p(z_0)|\le|p(0)|$ であり、円板の外では $|p(z)|>|p(0)|\ge|p(z_0)|$ である。よって $|p(z_0)|$ は複素平面全体での $|p|$ の最小値である。もし $p(z_0)\ne0$ なら、lem-cfta-descent により $|p(z)|<|p(z_0)|$ となる $z$ があり、最小性に反する。よって $p(z_0)=0$ である。$\square$

同じ方針の証明は Axl24 4.12、Leb26b Theorem 11.5.5 にもある。
補題の証明で $c$ をとる所がこの証明の核心である。

虚軸の方向に下がる

$p(z)=z^2+1$、$z_0=0$ で lem-cfta-descent の証明をたどると、$q(w)=1+w^2$($k=2$、$b_2=1$)であり、$c^2=-1$ から $c=i$ をとると $q(ti)=1-t^2<1$ となる。たとえば $t=\frac12$ で $|p(\tfrac i2)|=\frac34<1=|p(0)|$ である。実数の範囲で $x$ を動かすと $x^2+1\ge1$ で $0$ が最小点だが、複素平面では虚軸の方向に動けば値が下がる。

どの方向に動けば $|p|$ が下がるかを、$k$ 乗根をとることで必ず見つけられるのが複素数の強みである。

1 次式への分解

thm-cfta-fta の $p$ は、複素数 $\alpha_1,\dots,\alpha_n$(重複してもよい)を用いて
$$ p(z)=a_n(z-\alpha_1)(z-\alpha_2)\cdots(z-\alpha_n) $$
と分解される。$\alpha_1,\dots,\alpha_n$ は並べ方を除いて $p$ だけで決まる。

因数定理と帰納法

$n$ についての帰納法で示す。$n=1$ なら $p=a_1\bigl(z+\frac{a_0}{a_1}\bigr)$ である。$n\ge2$ のとき、thm-cfta-fta により根 $\alpha_1$ があり、因数定理により $p(z)=(z-\alpha_1)p_1(z)$、$p_1$ は最高次の係数 $a_n$ の $n-1$ 次式である。$p_1$ に帰納法の仮定を使えばよい。一意性:もう 1 つの分解 $a_n\prod(z-\beta_j)$ があれば、$z=\alpha_1$ を代入して $\prod(\alpha_1-\beta_j)=0$ なので、ある $\beta_j$ が $\alpha_1$ に等しい。両辺から $z-\alpha_1$ を取り除いた $n-1$ 次式は、$z\ne\alpha_1$ で等しく、差が $0$ でない多項式なら根が無限個あることになるので、多項式として等しい。あとは帰納法による。$\square$

4 次式を 1 次式に分ける

$z^4+4$ の根は $\pm1\pm i$ の 4 つであり($(1+i)^2=2i$、$(2i)^2=-4$ など)、
$$ z^4+4=(z-1-i)(z-1+i)(z+1-i)(z+1+i) $$
である。実際、前の 2 つの積は $z^2-2z+2$、後の 2 つの積は $z^2+2z+2$ で、$(z^2+2)^2-(2z)^2=z^4+4$ である。

反例:どの材料を外すと崩れるか

証明は「最小値の存在」(完備性)、「$k$ 乗根の存在」、「遠くで大きい」の 3 つを使った。それぞれを欠く場合に結論が崩れる例を挙げる。

外した仮定崩れる主張ボックス
最小値の存在(完備性)根の存在($a,b$ を有理数とする $a+bi$ の範囲で $z^2-2$ に根がない)ex-cfta-counter-rational
$k$ 乗根の存在lem-cfta-descent(実数の範囲の $x^2+1$)ex-cfta-counter-real
多項式であることlem-cfta-growth($e^z$ は $0$ にならない)ex-cfta-counter-exp
反例:完備でない数の体系

$a+bi$($a,b$ は有理数)の形の数の全体は四則演算で閉じているが、$z^2-2=0$ はその中に根をもたない($(a+bi)^2=2$ なら虚部 $2ab=0$ から $b=0$ か $a=0$ で、$a^2=2$ または $-b^2=2$ となり、どちらも有理数では不可能)。この範囲では $|z^2-2|$ は最小値をもたず(値は $0$ にいくらでも近づくが $0$ にならない)、rem-cfta-extreme-value に当たる事実が成り立たない。

反例:$k$ 乗根がとれない実数

実数の範囲では、$x^2+1$ は最小値 $1$ を $x=0$ でとるが、そこは根ではない。lem-cfta-descent は実数の範囲では成り立たない:$q(w)=1+w^2$ で $c^2=-1$ となる実数 $c$ がないからである。最小値の存在と「遠くで大きい」は成り立っているので、崩れているのは $k$ 乗根の存在である。

反例:多項式でない関数

$e^z:=e^x(\cos y+i\sin y)$($z=x+iy$)は、$|e^z|=e^x>0$ なので $0$ にならない。$|e^z|$ は $x\to-\infty$ でいくらでも $0$ に近づき、最小値をもたない。崩れているのは lem-cfta-growth である(実軸の負の方向では、$|z|$ が大きくても $|e^z|$ は小さい)。

実数係数の多項式の実数での因数分解

高校で「実数係数の方程式が虚数解 $\alpha$ をもてば $\bar\alpha$ も解」と習うことが、代数学の基本定理と組み合わさって次の定理になる。

実数係数の多項式の分解

実数係数の 1 次以上の多項式 $f(x)$ は、実数係数の 1 次式と、判別式が負の実数係数の 2 次式の積に分解される:
$$ f(x)=a(x-r_1)\cdots(x-r_s)(x^2+b_1x+c_1)\cdots(x^2+b_mx+c_m),\qquad b_j^2-4c_j<0. $$
ここで $a$ は $f$ の最高次の係数、$r_1,\dots,r_s$ は $f$ の実数の根を重複を込めて並べたものである($s=0$ や $m=0$ もありうる)。

共役な根を組にする

次数についての帰納法で示す。$f$ の係数は実数なので、$f(\alpha)=0$ なら両辺の共役をとって $f(\bar\alpha)=\overline{f(\alpha)}=0$ である。thm-cfta-fta により $f$ は複素数の根 $\alpha$ をもつ。

  • $\alpha$ が実数なら、因数定理により $f=(x-\alpha)g$ であり、$g$ は実数係数である(実数係数の多項式を $x-\alpha$ で割る筆算は実数の範囲で行える)。
  • $\alpha$ が実数でないなら、$\bar\alpha\ne\alpha$ も根であり、$f=(x-\alpha)(x-\bar\alpha)g$ と書ける($f=(x-\alpha)h$ とし、$h(\bar\alpha)=0$ に因数定理を使う。Axl24 4.16 も同じ議論である)。$(x-\alpha)(x-\bar\alpha)=x^2-2(\operatorname{Re}\alpha)x+|\alpha|^2$ は実数係数で、判別式は $4(\operatorname{Re}\alpha)^2-4|\alpha|^2=-4(\operatorname{Im}\alpha)^2<0$ である。$f$ をこの 2 次式で実数の範囲で割ると $f=(x^2-2(\operatorname{Re}\alpha)x+|\alpha|^2)g_1+(\text{1 次以下の余り})$ となり、複素数の範囲での割り算の一意性から余りは $0$、$g_1=g$ である。よって $g$ は実数係数である。
    どちらの場合も $g$ の次数は $f$ より小さいので、帰納法の仮定($g$ が定数なら何もしない)により主張が従う。$\square$
奇数次の実数係数の多項式

奇数次の実数係数の多項式は、実数の根をもつ。

次数の偶奇

thm-cfta-real-factorization の分解で、2 次式の部分の次数は偶数なので、次数が奇数なら 1 次式が少なくとも 1 つある。$\square$

この系は中間値の定理からも直接出る($x\to\pm\infty$ で符号が変わる)。逆に 2 次の因子は実数の根をもたないので、実数の範囲ではこれ以上分解できない。

実数での分解の例
  1. $x^3-1=(x-1)(x^2+x+1)$。2 次式の根は $\omega,\omega^2$ で、判別式は $-3$。
  2. $x^4+1$ は実数の根をもたないが、根 $\frac{\pm1\pm i}{\sqrt2}$ を共役どうしで組にすると $x^4+1=(x^2+\sqrt2x+1)(x^2-\sqrt2x+1)$ となる。判別式はどちらも $2-4=-2$。「実数の根がない」ことと「実数の範囲で分解できない」ことは違う。

この定理は、有理関数の積分で使う部分分数分解の出発点である(分母を 1 次式と 2 次式の積に分けられるから、どの有理関数の原始関数も有理関数・対数・逆正接で書ける)。
この分解を使って有理関数を部分分数に分けて積分する方法は 有理関数の積分 で扱う。

5 次以上の方程式

4 次方程式にも、3 次方程式に帰着させる解の公式(Ferrari の方法)がある(Mil22 p. 81)。しかし 5 次以上では、係数から四則演算とベキ根だけで解を表す一般の公式は存在しない(Abel–Ruffini の定理。Mil22 Theorem 5.34・Theorem 5.40 と、$n\ge5$ のとき $n$ 次の対称群 $S_n$ が可解群でないこと(Mil22 p. 45)による)。さらに、$x^5-4x+2=0$ のように、個々の方程式でも解がベキ根で表せないものがある:$x^5-4x+2$ は有理数係数で既約な 5 次式で、虚数の根をちょうど 2 つもつので、その Galois 群は 5 次の対称群 $S_5$ になり(Mil22 Proposition 4.16)、$S_5$ が可解群でない(Mil22 p. 45)ことから Mil22 Theorem 5.34 によりベキ根で解けない。これらは Galois 理論(体の拡大の理論)で証明される事実であり、この記事では証明しない。なお、$x^5-4x+2$ が既約であることは、最高次の係数 $1$ が $2$ で割り切れず、残りの係数 $0,0,0,-4,2$ がすべて $2$ で割り切れ、定数項 $2$ が $2^2=4$ で割り切れないので、$2$ についての Eisenstein の判定法(Mil22 Proposition 1.16)から分かる。虚数の根がちょうど 2 つであることは、$f(x)=x^5-4x+2$ とおくと $f(-2)=-22$、$f(0)=2$、$f(1)=-1$、$f(2)=26$ と符号が 3 回変わるので中間値の定理により実数の根が少なくとも 3 つあり、一方 $f'(x)=5x^4-4$ の実数の零点は $\pm c$($c=\sqrt[4]{4/5}$)の 2 つだけで $f(-c)>0>f(c)$ だから、$f$ は $x\le-c$、$-c\le x\le c$、$x\ge c$ のそれぞれで単調で、実数の根は各区間に 1 つずつ、どれも $f'$ の零点でない単根であり、重複を込めて 5 個の根の残り 2 つは虚数になることから分かる。
これは代数学の基本定理と矛盾しない。

ベキ根で書けない 5 次方程式の 5 つの根

$x^5-4x+2=0$ も複素数の解を重複を込めて 5 個もち、数値的には $-1.5185\ldots$、$0.5084\ldots$、$1.2435\ldots$ の 3 つの実数解と、共役な $-0.1167\ldots\pm1.4384\ldots i$ の 2 つである(数値計算による)。

代数学の基本定理は解が存在することを主張し、解を式で書く方法は与えない。実際、本記事の証明も最小値の存在という非構成的な事実に依っている。

数学オリンピックの問題から

1993 年第 1 問:根の積で係数を読む

国際数学オリンピック(1993 年)第 1 問

Let $f(x)=x^n+5x^{n-1}+3$, where $n>1$ is an integer. Prove that $f(x)$ cannot be expressed as the product of two nonconstant polynomials with integer coefficients.
(和訳:$n>1$ を整数とし、$f(x)=x^n+5x^{n-1}+3$ とする。$f(x)$ は、整数係数の定数でない 2 つの多項式の積として表せないことを証明せよ。)
— 第 34 回国際数学オリンピック(1993 年)第 1 問(Oly93)

高校数学で解く

$f=gh$($g,h$ は整数係数で定数でない)と仮定する。最高次の係数の積が $1$ なので、どちらも $\pm1$ であり、必要なら両方に $-1$ を掛けて $g,h$ の最高次の係数を $1$ としてよい。定数項について $g(0)h(0)=f(0)=3$ なので、$|g(0)|,|h(0)|$ の一方は $1$ である。$|g(0)|=1$ とし、$g$ の次数を $k\ge1$、$g$ の複素数の根を $\alpha_1,\dots,\alpha_k$ とする(cor-cfta-factorization により $g(x)=\prod(x-\alpha_i)$ と分解できる)。

  • $|\alpha_1\alpha_2\cdots\alpha_k|=|g(0)|=1$ である($g(0)=\prod(-\alpha_i)$)。
  • 各 $\alpha_i$ は $f$ の根なので $\alpha_i^{n-1}(\alpha_i+5)=-3$、よって $|\alpha_i+5|=\dfrac3{|\alpha_i|^{n-1}}$ である($f(0)=3\ne0$ なので $\alpha_i\ne0$)。
  • 掛け合わせると $|g(-5)|=\prod|-5-\alpha_i|=\dfrac{3^k}{|\alpha_1\cdots\alpha_k|^{n-1}}=3^k$ である。
    一方、$g(-5)h(-5)=f(-5)=(-5)^n+5(-5)^{n-1}+3=3$ であり、$g(-5),h(-5)$ は整数なので $|g(-5)|$ は $3$ の約数である。よって $3^k\le3$、$k=1$ となり、$g(x)=x-a$($a=\alpha_1$ は整数で $|a|=1$)である。ところが $f(1)=9$、$f(-1)=(-1)^n+5(-1)^{n-1}+3$ は $n$ が偶数なら $-1$、奇数なら $7$ で、どちらも $0$ でない。これは $a$ が $f$ の根であることに反する。$\square$
大学数学で見ると

上の解は、$g$ の根が実際にどこにあるかを一度も求めていない。使ったのは、根が複素数の中に必ずあって、$g$ が根の 1 次式の積に分かれるという代数学の基本定理(cor-cfta-factorization)だけである。これにより、整数係数での因数分解 $f=gh$ は「$f$ の $n$ 個の根を 2 組に分けること」に言い換えられ、$g(0)$ や $g(-5)$ は根の積として計算できる。$g(0)$ と $g(-5)$ は、係数から計算すれば整数であり、根から計算すれば根の積である。この 2 つの見方を結びつけるのが解と係数の関係であり、代数学の基本定理はそれがいつでも使えることを保証している。
このように、多項式の係数についての整数の問題を、根の大きさ(絶対値)についての不等式に翻訳するのが要点である。

さらに先へ

  • 複素解析による証明:$p$ が根をもたなければ $1/p(z)$ は複素平面全体で微分可能(正則)で有界になり、Liouville の定理(有界な整関数は定数)に反する。回転数(偏角の原理)を使う位相的な証明もある。
  • 代数的閉体:どの 1 次以上の多項式も根をもつ体を代数的閉体という。代数学の基本定理は「$\mathbb{C}$ は代数的閉体」と言い換えられる。どの体にも、それを含む代数的閉体(代数閉包)がある。
  • Galois 理論:方程式の解の置換がつくる群(Galois 群)によって、ベキ根で解けるかどうかが判定される。還元不能の場合や 5 次方程式の非可解性はここで証明される。

関連項目

参考文献

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