Jordan–von Neumannの定理(Jordan–von Neumann theorem)とは、実または複素ノルム空間のノルムがある内積から来るための必要十分条件は、すべての $x,y$ について平行四辺形の等式 $\|x+y\|^2+\|x-y\|^2=2\|x\|^2+2\|y\|^2$ が成り立つことである、という定理である。このとき内積はただ 1 つで、ノルムから偏極恒等式で書き下せる。完備性は要らず、等式の片側の不等式だけを仮定しても同じ結論になる。条件は 2 つのベクトルで張られる部分空間で確かめれば足り、$p\ne2$ の $\ell^p$ や $L^p(0,1)$、最大値ノルムの $C([0,1])$ が内積から来ないことを示すのに使われる。
内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ が与えられると、長さ $\|x\|=\sqrt{\langle x,x\rangle}$ が決まり、それはノルムになる(内積空間 の定義「内積から定まるノルムと距離」)。逆向きの問いとして、ノルムが先に与えられたとき、それがある内積から来ているかどうかを、ノルムだけを見て判定できるだろうか。
内積から来るノルムは、平面の中線定理と同じ形の恒等式
$$
\|x+y\|^2+\|x-y\|^2=2\|x\|^2+2\|y\|^2
$$
(平行四辺形の等式)を満たす。Jordan–von Neumann の定理は、この必要条件が十分条件でもあることを述べる。平行四辺形の等式を満たすノルムには、内積がただ 1 つ対応し、それはノルムから偏極恒等式で書き下せる。
この定理によって、「Hilbert 空間であること」はノルムの性質として述べ直せる。完備なノルム空間(Banach空間)が Hilbert空間 であるのは、ノルムが平行四辺形の等式を満たすときである。等式は 2 つのベクトルについての条件なので、確かめるのは 2 つのベクトルで張られる部分空間だけでよい。これを使うと、$p\ne2$ の $\ell^p$ や $L^p(0,1)$(一般に、測度が正で有限な互いに素な 2 つの集合をもつ測度空間の $L^p$)や最大値ノルムの $C([0,1])$ がどんな内積からも来ないことが、具体的な 2 つの関数で示せる。
以下、$\mathbb K$ は $\mathbb R$ または $\mathbb C$ とする。内積は 内積空間 の記事と同じく第 1 変数について線形、第 2 変数について共役線形とする。
$\mathbb K$ 上のノルム空間 $(X,\|\cdot\|)$ のノルムが平行四辺形の等式(parallelogram law)を満たすとは、すべての $x,y\in X$ について
$$
\|x+y\|^2+\|x-y\|^2=2\|x\|^2+2\|y\|^2
$$
が成り立つことをいう。ノルムがある内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ によって $\|x\|=\sqrt{\langle x,x\rangle}$ と表されるとき、ノルムは内積から来るという。
内積から来るノルムは平行四辺形の等式を満たす。さらに、内積はノルムから復元できる。
ノルムが内積 $\langle\cdot,\cdot\rangle$ から来るとする。このとき平行四辺形の等式が成り立ち、すべての $x,y\in X$ について次が成り立つ。
$a\in\mathbb K$ について、内積の性質から
$$
\|x+ay\|^2=\|x\|^2+2\operatorname{Re}\bigl(\bar a\langle x,y\rangle\bigr)+|a|^2\|y\|^2
$$
である。$a=\pm1$ の 2 式を足すと平行四辺形の等式、引くと $\|x+y\|^2-\|x-y\|^2=4\operatorname{Re}\langle x,y\rangle$ を得る。実数の場合はこれが 1 である。複素数の場合は $a=\pm i$ の 2 式を引いて $\|x+iy\|^2-\|x-iy\|^2=4\operatorname{Re}\bigl(-i\langle x,y\rangle\bigr)=4\operatorname{Im}\langle x,y\rangle$ を得るので、$\langle x,y\rangle=\operatorname{Re}\langle x,y\rangle+i\operatorname{Im}\langle x,y\rangle$ に代入すると 2 になる。最後の主張は、1・2 の右辺がノルムだけで決まることによる。$\square$
$(X,\|\cdot\|)$ を $\mathbb K$ 上のノルム空間とする。次は同値である。
完備性は仮定していない。証明の中心は 2 ⇒ 1 であり、偏極恒等式の右辺を内積の候補として定め、それが内積の公理を満たすことを平行四辺形の等式から導く。難しいのは加法性 $\langle u+v,y\rangle=\langle u,y\rangle+\langle v,y\rangle$ で、実数倍についての斉次性は、加法性から有理数倍を得て、ノルムの連続性で実数倍へ広げる。
1 ⇒ 2 は prop-jvn-polarization である。2 ⇒ 3、2 ⇒ 4 は明らかである。
3 ⇒ 2:3 を $x+y$ と $x-y$ に当てはめると $\|2x\|^2+\|2y\|^2\le2\|x+y\|^2+2\|x-y\|^2$、すなわち $2\|x\|^2+2\|y\|^2\le\|x+y\|^2+\|x-y\|^2$ を得る。3 と合わせて等号が成り立つ。4 ⇒ 2 も同じである。
2 ⇒ 1(実数の場合):$\mathbb K=\mathbb R$ とし、
$$
b(x,y)=\frac14\bigl(\|x+y\|^2-\|x-y\|^2\bigr)\qquad(x,y\in X)
$$
とおく。$\|-z\|=\|z\|$ から、$b(y,x)=b(x,y)$、$b(-x,y)=-b(x,y)$、$b(0,y)=0$、$b(x,x)=\frac14\|2x\|^2=\|x\|^2$ である。
段 1:すべての $x,y,z$ について $b(x+z,y)+b(x-z,y)=2b(x,y)$ である。実際、平行四辺形の等式を $x+y$ と $z$ の組、$x-y$ と $z$ の組に使うと
$$
\|x+y+z\|^2+\|x+y-z\|^2=2\|x+y\|^2+2\|z\|^2,\qquad\|x-y+z\|^2+\|x-y-z\|^2=2\|x-y\|^2+2\|z\|^2
$$
である。上の式から下の式を引いて 4 で割ると、左辺は $b(x+z,y)+b(x-z,y)$、右辺は $2b(x,y)$ になる。
段 2(加法性):段 1 で $z=x$ とすると $b(2x,y)=2b(x,y)$ である。$u,v\in X$ について、段 1 を $x=\frac{u+v}2$、$z=\frac{u-v}2$ に使うと
$$
b(u,y)+b(v,y)=2b\Bigl(\frac{u+v}2,y\Bigr)=b(u+v,y)
$$
である。
段 3(斉次性):段 2 と $b(-x,y)=-b(x,y)$ から、整数 $n$ について $b(nx,y)=nb(x,y)$ である。整数 $m$ と正の整数 $n$ について $nb(\frac mnx,y)=b(mx,y)=mb(x,y)$ なので、有理数 $q$ について $b(qx,y)=qb(x,y)$ である。ノルムは連続なので、$t\mapsto b(tx,y)$ は $\mathbb R$ 上の連続関数である。有理数 $q_k\to t$ をとって極限をとると、すべての実数 $t$ で $b(tx,y)=tb(x,y)$ である。
以上で $b$ は対称な双線形形式で、$x\ne0$ なら $b(x,x)=\|x\|^2>0$ である。よって $b$ は内積で、ノルムはこの内積から来る。
2 ⇒ 1(複素数の場合):$\mathbb K=\mathbb C$ とする。$X$ をスカラーを実数に制限した実ノルム空間とみても平行四辺形の等式は成り立つので、実数の場合の $b$ は実内積で $b(x,x)=\|x\|^2$ である。$\|ix\pm iy\|=\|x\pm y\|$ から $b(ix,iy)=b(x,y)$ であり、これを使うと
$$
b(ix,y)=b(i\cdot ix,iy)=b(-x,iy)=-b(x,iy)
$$
である。そこで $\langle x,y\rangle=b(x,y)+ib(x,iy)$ とおく。$\langle\cdot,\cdot\rangle$ は第 1 変数について実線形で、
$$
\langle ix,y\rangle=b(ix,y)+ib(ix,iy)=-b(x,iy)+ib(x,y)=i\langle x,y\rangle
$$
なので第 1 変数について複素線形である。$b$ の対称性と上の式から $b(y,ix)=b(ix,y)=-b(x,iy)$ なので、$\langle y,x\rangle=b(x,y)-ib(x,iy)=\overline{\langle x,y\rangle}$ である。とくに第 2 変数については共役線形になる。上の式で $y=x$ とすると $b(x,ix)=b(ix,x)=-b(x,ix)$ なので $b(x,ix)=0$ であり、$\langle x,x\rangle=b(x,x)=\|x\|^2$ である。よって $\langle\cdot,\cdot\rangle$ は内積で、ノルムはこの内積から来る。$b(x,iy)$ を定義に戻して書くと、$\langle x,y\rangle$ は prop-jvn-polarization の 2 の右辺に一致する。
一意性は prop-jvn-polarization の最後の主張である。$\square$
3 と 4 は、平行四辺形の等式の片側の不等式だけで十分なことを言っている。ノルムが内積から来ることを示したいときは、評価しやすい側の不等式を確かめればよい。
実数の場合のこの定理は Bre11 Theorem 5.12(p. 144)に Fréchet–von Neumann–Jordan の定理として挙げられ、実数の場合の証明の筋道は同書の Exercise 5.1(pp. 146–147)に問題として示されている。そこでは内積の候補を $\frac12\bigl(\|u+v\|^2-\|u\|^2-\|v\|^2\bigr)$ の形で与えるが、平行四辺形の等式のもとではこれは $b(u,v)$ に等しい。
平行四辺形の等式は 2 つのベクトルについての条件である。したがって、ノルムが内積から来るかどうかは、2 つのベクトルで張られる部分空間を見れば分かる。
$\mathbb K$ 上のノルム空間 $X$ について、次は同値である。
1 ⇒ 2 は内積を部分空間に制限すればよい。2 ⇒ 1:$x,y\in X$ をとり、$x,y$ を含む次元 2 以下の部分空間 $W$ を選ぶ。2 と prop-jvn-polarization から $W$ の中で平行四辺形の等式が成り立ち、とくに $x,y$ について成り立つ。$x,y$ は任意なので、thm-jvn-main から $X$ のノルムは内積から来る。$\square$
実 2 次元のノルム空間 $(\mathbb R^2,\|\cdot\|)$ では、ノルムが内積から来ることと、単位球 $\{x:\|x\|\le1\}$ が原点を中心とする楕円 $\{x:{}^t\!xAx\le1\}$($A$ は正定値対称行列)であることが同値である。内積 $\langle x,y\rangle$ は標準基底の値から ${}^t\!xAy$ と書けるからである。したがって cor-jvn-two-dim は、実ノルム空間のノルムが内積から来ることを「原点を通るどの 2 次元の切り口でも単位球が楕円である」と言い換えている。
次元 1 の部分空間だけでは判定できない。どのノルム空間でも、$\mathbb Kx$($x\ne0$)の上のノルム $\|tx\|=|t|\,\|x\|$ は内積 $\langle sx,tx\rangle=s\bar t\|x\|^2$ から来るからである。
$\mathbb K^2$ の標準基底 $e_1,e_2$ について、$\|x\|_1=|x_1|+|x_2|$ なら
$$
\|e_1+e_2\|_1^2+\|e_1-e_2\|_1^2=4+4=8\ne4=2\|e_1\|_1^2+2\|e_2\|_1^2
$$
であり、$\|x\|_\infty=\max(|x_1|,|x_2|)$ なら左辺は $1+1=2$ で、右辺の $4$ と一致しない。どちらのノルムも内積から来ない。$n\ge2$ の $\mathbb K^n$ でも、$e_1,e_2$ で張られる部分空間に制限すれば同じ計算になる。
$(\mathbb R^2,\|\cdot\|_\infty)$ のノルムは、内積から来る $\|\cdot\|_2$ と同値である($\|x\|_\infty\le\|x\|_2\le\sqrt2\|x\|_\infty$)。ノルムが内積から来るかどうかは、位相ではなくノルムの形で決まる性質である。
$(\Omega,\mathcal F,\mu)$ を測度空間、$1\le p\le\infty$、$p\ne2$ とする。次の条件のもとで、$\mathbb K$ 値の $L^p(\mu)$ のノルム $\|\cdot\|_p$ は平行四辺形の等式を満たさず、どんな内積からも来ない。
$p<\infty$ のとき、$f=\mu(A)^{-1/p}1_A$、$g=\mu(B)^{-1/p}1_B$ とおく。$\|f\|_p=\|g\|_p=1$ であり、$A,B$ が互いに素なので
$$
\|f\pm g\|_p^p=\int_A\frac{d\mu}{\mu(A)}+\int_B\frac{d\mu}{\mu(B)}=2,\qquad\|f\pm g\|_p=2^{1/p}
$$
である。平行四辺形の等式の左辺は $2\cdot2^{2/p}=2^{1+2/p}$、右辺は $4=2^2$ で、これらが等しいのは $1+\frac2p=2$、すなわち $p=2$ のときだけである。
$p=\infty$ のとき、$f=1_A$、$g=1_B$ とおくと、$\mu(A),\mu(B)>0$ と $A\cap B=\emptyset$ から $\|f\|_\infty=\|g\|_\infty=\|f\pm g\|_\infty=1$ である。左辺は $2$、右辺は $4$ である。$\square$
互いに素な台をもつ 2 つの関数を比べるこの方法は、Bre11 Exercise 5.2(p. 147)のヒントの方針である。数え上げ測度の $\ell^p$($A=\{1\}$、$B=\{2\}$)や、区間 $(0,1)$ 上の Lebesgue 測度の $L^p(0,1)$($A=(0,\frac12)$、$B=(\frac12,1)$)は条件を満たす。したがって $p\ne2$ のこれらの空間は、完備ではあるが Hilbert 空間ではない。$p=2$ では Hilbert 空間になる(Lp空間 の例「$L^2$ と内積」)。
条件を「$0<\mu(A)<\mu(\Omega)$ となる可測集合 $A$ がある」に弱めると、$p<\infty$ では結論が成り立たない。
$\Omega=\{a,b\}$ のすべての部分集合を可測とし、$\mu(\{a\})=1$、$\mu(\{b\})=\infty$ とする。$A=\{a\}$ は $0<\mu(A)<\mu(\Omega)$ を満たす。$1\le p<\infty$ のとき、$\int|f|^p\,d\mu=|f(a)|^p+\infty\cdot|f(b)|^p$ が有限であるのは $f(b)=0$ のときだけで、空集合以外に零集合はない。よって $L^p(\mu)$ は $f(a)$ だけで決まる 1 次元の空間で、$\|f\|_p=|f(a)|$ は内積 $f(a)\overline{g(a)}$ から来る。一方 $p=\infty$ では、$\mu(\{a\}),\mu(\{b\})>0$ なので prop-jvn-lp の条件を満たし、$L^\infty(\mu)$ は $(\mathbb K^2,\|\cdot\|_\infty)$ と等長で内積から来ない。
$C([0,1])$ に $\|f\|_\infty=\max_{0\le t\le1}|f(t)|$ を入れる。$f(t)=t$、$g(t)=1-t$ とすると、$\|f\|_\infty=\|g\|_\infty=1$、$f+g=1$、$(f-g)(t)=2t-1$ なので $\|f+g\|_\infty=\|f-g\|_\infty=1$ である。平行四辺形の等式の左辺は $2$、右辺は $4$ であり、このノルムは内積から来ない。
定理は完備化とも相性がよい。内積空間 $X$ をノルム空間として完備化すると、平行四辺形の等式の両辺が連続なので完備化でも等式が成り立ち、thm-jvn-main により完備化は Hilbert 空間になる(Hilbert空間 の注意「内積空間の完備化」)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 平行四辺形の等式(thm-jvn-main の 2) | $(\mathbb R^2,\Vert\cdot\Vert_1)$(ex-jvn-finite) | ノルムが内積から来ること |
| 次元 2 の部分空間まで調べること(次元 1 だけにする) | $(\mathbb R^2,\Vert\cdot\Vert_\infty)$:次元 1 の部分空間はすべて内積空間 | ノルムが内積から来ること |
| 互いに素な 2 つの正で有限な測度の集合($0<\mu(A)<\mu(\Omega)$ の 1 つだけにする) | 2 点の測度空間で $1\le p<\infty$(ex-jvn-two-atoms) | $\Vert\cdot\Vert_p$ が平行四辺形の等式を満たさないこと |
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