Fatouの補題

同義語:Fatou's lemma

概要

Fatouの補題(Fatou's lemma)とは、測度空間上の非負可測関数の列 $f_n$ について、各点の下極限の積分が積分の下極限以下になる、すなわち $\int\liminf f_n\,d\mu\le\liminf\int f_n\,d\mu$ が成り立つという定理である。収束も単調性も仮定せずに使え、極限をとったときに積分の値が新しく湧くことはないことを表すが、質量が無限遠に逃げる列や一点に集中する列では真の不等号になる。単調収束定理から導かれ、優収束定理、$L^p$ ノルムの下半連続性、積分の収束から $L^1$ 収束を導く Scheffé の補題など、極限と積分の交換についての議論の出発点になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Lebesgue積分, 上極限と下極限, 測度

関数列 $f_n$ が各点で $f$ に収束しても、積分 $\int f_n$ が $\int f$ に収束するとは限らない。$\mathbb{R}$ 上で $f_n=1_{[n,n+1]}$ とおくと、どの点でも十分先の $n$ で $f_n=0$ になるので極限は $0$ だが、$\int f_n=1$ はずっと変わらない。面積 $1$ の「かたまり」が右へ逃げていき、極限をとった瞬間に見えなくなるのである。$f_n=n\,1_{(0,1/n)}$ でも同じことが起きる。こちらはかたまりが原点のそばで高く細くなって消える。
どちらの例でも、極限の積分 $0$ は積分の極限 $1$ より小さい。逆に、非負の関数の列では、極限をとったときに面積が新しく湧いてくることはない。Fatou の補題はこの片側の不等式
$$ \int\liminf_{n\to\infty}f_n\,d\mu\le\liminf_{n\to\infty}\int f_n\,d\mu $$
を、非負の可測関数の列について、収束も単調性も仮定せずに主張する。仮定が少ない分だけ結論は不等式にとどまるが、そのかわりどんな非負の列にも使える。優収束定理をはじめ、積分の極限についての多くの定理がこの補題から導かれる。

設定と主張

以下、$(X,\mathcal{F},\mu)$ を測度空間とする(測度 の記事の定義「測度」)。可測関数・非負可測関数の積分・可積分性・「ほとんど至るところ」は Lebesgue積分 の記事の定義に従い、$[0,\infty]$ の中では $0\cdot\infty=0$ と約束する。関数列の下極限・上極限は各点でとる:
$$ \Bigl(\liminf_{n\to\infty}f_n\Bigr)(x):=\sup_{k\ge1}\ \inf_{n\ge k}f_n(x),\qquad \Bigl(\limsup_{n\to\infty}f_n\Bigr)(x):=\inf_{k\ge1}\ \sup_{n\ge k}f_n(x). $$
値は $[-\infty,\infty]$ の中にあり、数列についての性質は 上極限と下極限 の記事のとおりである。$\inf_{n\ge k}f_n(x)$ は $k$ について増加するので、下極限は増加列の極限でもある。可測関数の列について、各 $k$ の $\inf_{n\ge k}f_n$ と $\sup_{n\ge k}f_n$、および $\liminf_nf_n$ と $\limsup_nf_n$ は可測である(上極限と下極限 の記事の命題「可測関数列の上極限と下極限」とその証明)。

Fatouの補題

可測関数の列 $f_n\colon X\to[0,\infty]$($n\ge1$)について
$$ \int\liminf_{n\to\infty}f_n\,d\mu\le\liminf_{n\to\infty}\int f_n\,d\mu. $$
両辺の値は $[0,\infty]$ の中にあり、$\infty$ でもよい。

$k\ge1$ について $g_k:=\inf_{n\ge k}f_n$ とおく。$g_k$ は値が $[0,\infty]$ の可測関数であり、$g_1\le g_2\le\cdots$(下限をとる範囲が狭くなるので)、各点で $\lim_kg_k=\sup_kg_k=\liminf_nf_n$ である。
$n\ge k$ ならば $g_k\le f_n$ である。非負単関数 $s$ が $s\le g_k$ を満たせば $s\le f_n$ でもあるので、非負可測関数の積分の定義(Lebesgue積分 の記事の定義「非負可測関数の積分」)から $\int g_k\,d\mu\le\int f_n\,d\mu$ である。これが $n\ge k$ のすべてで成り立つので
$$ \int g_k\,d\mu\le\inf_{n\ge k}\int f_n\,d\mu\qquad(k\ge1). $$
左辺は $k$ について増加し、右辺も $k$ について増加する。増加列は $[0,\infty]$ の中に極限をもつ(項に $\infty$ があればそれ以後は $\infty$ であり、そうでなければ 単調収束定理 の記事の命題「単調な数列はつねに極限をもつ」による)。$g_k$ は非負可測関数の増加列なので、Lebesgue積分 の記事の定理「単調収束定理」により $\int\liminf_nf_n\,d\mu=\lim_k\int g_k\,d\mu$ である。上の不等式で $k\to\infty$ とすると
$$ \int\liminf_{n\to\infty}f_n\,d\mu=\lim_{k\to\infty}\int g_k\,d\mu\le\lim_{k\to\infty}\ \inf_{n\ge k}\int f_n\,d\mu=\liminf_{n\to\infty}\int f_n\,d\mu.\qquad\square $$

証明の要点は、$\liminf f_n$ を下から増加して近づく列 $g_k$ で表し、増加列についての等式(単調収束定理)を、各 $g_k$ が $f_n$ たちより小さいという不等式と組み合わせることにある。不等号はこの「小さい」から来ており、等号にはならない。冒頭の 2 つの例では $\liminf f_n=0$ で、左辺は $0$、右辺は $1$ である。

単調収束定理との関係

逆に Fatou の補題から単調収束定理が出る。非負可測関数の増加列 $f_n\uparrow f$ では $\liminf_nf_n=f$ なので、thm-fatou-main から $\int f\le\liminf_n\int f_n$ であり、$f_n\le f$ から $\int f_n\le\int f$ なので、$\lim_n\int f_n=\int f$ となる。上の証明は単調収束定理を使ったので、2 つは「非負可測関数の積分の基本性質のもとで互いに導き合う」関係にある。どちらを先に示すかは流儀による。

ほとんど至るところでの形と下から押さえた形

零集合の上での値は積分に影響しない(Lebesgue積分 の記事の補題「零集合と積分」の 3)ので、非負性はほとんど至るところで成り立てばよい。

ほとんど至るところ非負な列

可測関数 $f_n\colon X\to[-\infty,\infty]$ が、各 $n$ についてほとんど至るところ $f_n\ge0$ を満たすとする。このとき $\liminf_nf_n\ge0$ がほとんど至るところ成り立ち、
$$ \int\liminf_{n\to\infty}f_n\,d\mu\le\liminf_{n\to\infty}\int f_n\,d\mu. $$
さらに $\sup_n\int f_n\,d\mu<\infty$ ならば、$\liminf_nf_n$ はほとんど至るところ有限で可積分である。

$N:=\bigcup_n\{f_n<0\}$ は零集合の可算個の和なので零集合である(測度 の記事の命題「測度の基本性質」の 4)。$\tilde f_n:=f_n1_{X\setminus N}$ とおくと $\tilde f_n\colon X\to[0,\infty]$ は可測で、$N$ の外で $f_n$ に等しく、$\liminf_n\tilde f_n=(\liminf_nf_n)1_{X\setminus N}$ である。$f_n^-=\max(-f_n,0)$ は $N$ の外で $0$ なので $\int f_n^-\,d\mu=0$ であり、$\int f_n\,d\mu=\int f_n^+\,d\mu=\int\tilde f_n\,d\mu$ である(Lebesgue積分 の記事の補題「零集合と積分」の 3)。同様に $\liminf_nf_n$ の負の部分は $N$ の外で $0$ なので、$\int\liminf_nf_n\,d\mu=\int\liminf_n\tilde f_n\,d\mu$ である。thm-fatou-main を $\tilde f_n$ に使えば不等式を得る。
$\sup_n\int f_n\,d\mu=:C<\infty$ なら、右辺は $C$ 以下なので $\int\liminf_n\tilde f_n\,d\mu\le C<\infty$ である。同じ補題の 2 により $\liminf_n\tilde f_n$ はほとんど至るところ有限であり、$\liminf_nf_n$ もほとんど至るところ有限で可積分である。$\square$

後半は「積分が一様に有界な非負の列の下極限は可積分である」という形で、極限関数の可積分性を示すときによく使う。
非負でない列でも、可積分な関数で下から押さえられていれば同じ不等式が成り立つ。符号を反転すると、上から押さえた列についての逆向きの不等式になる。

下から押さえた形と逆向きの形

$g\colon X\to[0,\infty]$ を $\int g\,d\mu<\infty$ を満たす可測関数とし、$f_n\colon X\to[-\infty,\infty]$ を可測関数とする。

  1. 各 $n$ でほとんど至るところ $f_n\ge-g$ ならば、$\int f_n\,d\mu$ と $\int\liminf_nf_n\,d\mu$ は $(-\infty,\infty]$ の値として定まり、$\displaystyle\int\liminf_{n\to\infty}f_n\,d\mu\le\liminf_{n\to\infty}\int f_n\,d\mu$ である。
  2. 各 $n$ でほとんど至るところ $f_n\le g$ ならば、$\displaystyle\limsup_{n\to\infty}\int f_n\,d\mu\le\int\limsup_{n\to\infty}f_n\,d\mu$ である。

1:$\int g<\infty$ なので $\{g=\infty\}$ は零集合である(Lebesgue積分 の記事の補題「零集合と積分」の 2)。$N:=\{g=\infty\}\cup\bigcup_n\{f_n<-g\}$ は零集合である。$N$ の外では $f_n^-\le g<\infty$ なので $\int f_n^-\le\int g<\infty$ となり、$\int f_n=\int f_n^+-\int f_n^-$ は $(-\infty,\infty]$ の値として定まる。$u:=\liminf_nf_n$ も $N$ の外で $u\ge-g$ を満たすので、同様に $\int u$ が定まる。
$h_n:=(f_n+g)1_{X\setminus N}$ とおく。$N$ の外では $g$ が有限なので和は意味をもち、$h_n\colon X\to[0,\infty]$ は可測である。$N$ の外では $f_n=f_n^+-f_n^-$ で $f_n^-$ が有限なので、$[0,\infty]$ の中の等式
$$ h_n+f_n^-=f_n^++g $$
が成り立つ。非負可測関数の積分の加法性(Lebesgue積分 の記事の定理「積分の線形性と単調性」の 1)と零集合の上の値を無視できることから $\int h_n+\int f_n^-=\int f_n^++\int g$ であり、$\int f_n^-$ と $\int g$ は有限なので $\int h_n=\int f_n+\int g$ である。$N$ の外で $\liminf_nh_n=u+g$ なので、同じ計算で $\int\liminf_nh_n=\int u+\int g$ である。thm-fatou-main を $h_n$ に使うと
$$ \int u\,d\mu+\int g\,d\mu\le\liminf_{n\to\infty}\Bigl(\int f_n\,d\mu+\int g\,d\mu\Bigr)=\liminf_{n\to\infty}\int f_n\,d\mu+\int g\,d\mu $$
であり、有限の数 $\int g$ を両辺から引けばよい。
2:$-f_n\ge-g$(ほとんど至るところ)に 1 を使う。$\liminf_n(-f_n)=-\limsup_nf_n$、$\int(-f_n)=-\int f_n$ であり、$\liminf_n(-a_n)=-\limsup_na_n$ なので、両辺に $-1$ を掛ければ 2 を得る。$\square$

2 は「逆向きの Fatou の補題」と呼ばれることがある。1 と 2 を両方使える状況、すなわち $\lvert f_n\rvert\le g$ で $f_n$ が収束する状況では、$\int\liminf=\int\limsup$ となって両側から挟まれ、積分の極限が求まる。これが 優収束定理の証明の骨組みである(同じ記事の定理「優収束定理」)。

応用

集合の列

指示関数に当てると、集合の列についての不等式になる。集合列の下極限・上極限は 上極限と下極限 の記事の定義「集合列の上極限と下極限」に従う。

集合の列についての Fatou の補題

$A_n\in\mathcal{F}$($n\ge1$)とする。

  1. $\mu\bigl(\liminf_nA_n\bigr)\le\liminf_n\mu(A_n)$。
  2. $\mu(X)<\infty$ ならば $\limsup_n\mu(A_n)\le\mu\bigl(\limsup_nA_n\bigr)$。

上極限と下極限 の記事の命題「所属回数による特徴づけ」により、$x\in\liminf_nA_n$ は「十分先のすべての $n$ で $x\in A_n$」と同値であり、これは $0$ と $1$ からなる数列 $1_{A_n}(x)$ の下極限が $1$ であることと同値である。よって $1_{\liminf_nA_n}=\liminf_n1_{A_n}$ であり、thm-fatou-main から 1 を得る。同様に $x\in\limsup_nA_n$ は「無限個の $n$ で $x\in A_n$」と同値なので $1_{\limsup_nA_n}=\limsup_n1_{A_n}$ である。$\mu(X)<\infty$ なら定数関数 $g=1$ は可積分で $1_{A_n}\le g$ なので、prop-fatou-bounded の 2 から 2 を得る。$\square$

2 の仮定 $\mu(X)<\infty$ は外せない(ex-fatou-counterexamples の 4)。確率空間では 2 がいつも使え、「確率が $\varepsilon$ 以上の事象 $A_n$ が無限個あれば、無限個の $A_n$ が起きる確率も $\varepsilon$ 以上」と読める。

$L^p$ ノルムの下半連続性

ほとんど至るところの極限をとっても、$L^p$ ノルムは増えない。$\|\cdot\|_p$ と本質的上限 $\|\cdot\|_\infty$ は Lp空間 の記事の定義「$p$ ノルムと本質的上限」に従い、関数の値は実数でも複素数でもよい。

$L^p$ ノルムの下半連続性

可測関数 $f_n,f\colon X\to\mathbb{C}$ について、ほとんど至るところ $f_n\to f$ とする。このとき $0< p\le\infty$ について
$$ \|f\|_p\le\liminf_{n\to\infty}\|f_n\|_p $$
である。とくに $\sup_n\|f_n\|_p<\infty$ ならば $\|f\|_p<\infty$ である。

$0< p<\infty$ のとき:$t\mapsto\lvert t\rvert^p$ は連続なので、ほとんど至るところ $\lvert f_n\rvert^p\to\lvert f\rvert^p$ であり、$\liminf_n\lvert f_n\rvert^p=\lvert f\rvert^p$ がほとんど至るところ成り立つ。cor-fatou-ae を非負可測関数 $\lvert f_n\rvert^p$ に使うと $\int\lvert f\rvert^p\le\liminf_n\int\lvert f_n\rvert^p$ であり、両辺を $\frac1p$ 乗すればよい($s\mapsto s^{1/p}$ は $[0,\infty]$ 上で増加かつ連続なので、下極限と交換できる)。
$p=\infty$ のとき:$L:=\liminf_n\|f_n\|_\infty$ とし、$L<\infty$ としてよい。$t>L$ を任意にとると、$\|f_n\|_\infty< t$ となる $n$ が無限個あり、それを $n_1< n_2<\cdots$ とする。Lp空間 の記事の補題「本質的上限は達成される」により、各 $j$ について零集合 $N_j$ の外で $\lvert f_{n_j}\rvert\le\|f_{n_j}\|_\infty< t$ である。$f_n\to f$ が成り立たない点の零集合を $N_0$ とすると、$N_0\cup\bigcup_jN_j$ は零集合で、その外では $\lvert f(x)\rvert=\lim_j\lvert f_{n_j}(x)\rvert\le t$ である。よって $\|f\|_\infty\le t$ であり、$t\downarrow L$ として結論を得る。$\square$

この命題は、$L^p$ で有界な列がほとんど至るところ収束すれば極限も $L^p$ に属することを、極限の積分を計算せずに保証する。Riesz–Fischerの定理($L^p$ の完備性)の証明でも、極限関数が $L^p$ に入ることを確かめる場面がある。等号は一般には成り立たない。冒頭の $n\,1_{(0,1/n)}$ は $\|f_n\|_1=1$ で、極限 $0$ のノルムは $0$ である。

積分の収束から $L^1$ 収束へ

非負の関数の列では、各点の収束に「積分の値の収束」を付け加えるだけで、積分の意味での収束($L^1$ 収束)が得られる。この主張は Scheffé の定理(Scheffé の補題)と呼ばれる(確率密度関数の場合が Dur19 §3.2 にある)。

積分の収束と $L^1$ 収束

可測関数 $f_n,f\colon X\to[0,\infty)$ について、$\int f\,d\mu<\infty$、ほとんど至るところ $f_n\to f$、かつ $\int f_n\,d\mu\to\int f\,d\mu$ とする。このとき
$$ \lim_{n\to\infty}\int\lvert f_n-f\rvert\,d\mu=0. $$

$\int f_n\to\int f<\infty$ なので、有限個の $n$ を除いて $\int f_n<\infty$ であり、それらを除いてすべての $f_n$ が可積分としてよい。実数 $a,b$ について $\lvert a-b\rvert=a+b-2\min(a,b)$ であるから、
$$ \lvert f_n-f\rvert=f_n+f-2\min(f_n,f). $$
右辺の 3 つの関数は実数値で可積分である($0\le\min(f_n,f)\le f$)。積分の線形性(Lebesgue積分 の記事の定理「積分の線形性と単調性」の 2)により
$$ \int\lvert f_n-f\rvert\,d\mu=\int f_n\,d\mu+\int f\,d\mu-2\int\min(f_n,f)\,d\mu $$
である。$\min(f_n,f)$ は非負で、ほとんど至るところ $f$ に収束するので、cor-fatou-ae から $\int f\le\liminf_n\int\min(f_n,f)$ である。一方 $\min(f_n,f)\le f$ から $\int\min(f_n,f)\le\int f$ である。よって $\int\min(f_n,f)\to\int f$ であり、上の等式の右辺は $\int f+\int f-2\int f=0$ に収束する。$\square$

とくに、確率密度関数の列 $f_n$ がほとんど至るところ確率密度関数 $f$ に収束すれば(全体の積分はどれも $1$)、$\int\lvert f_n-f\rvert\to0$ であり、すべての可測集合 $E$ について $\bigl\lvert\int_Ef_n-\int_Ef\bigr\rvert\le\int\lvert f_n-f\rvert$ が一様に $0$ に近づく。

例

不等号が真の不等号になる列

以下は $\mathbb{R}$ 上の Lebesgue 測度についての例である。

  1. $f_n=1_{[n,n+1]}$:どの $x$ でも $n>x$ なら $f_n(x)=0$ なので $\liminf_nf_n=0$。左辺は $0$、右辺は $\liminf_n1=1$。
  2. $f_n=n\,1_{(0,1/n)}$:$x\le0$ では常に $0$、$x>0$ では $n\ge1/x$ で $0$ なので $\liminf_nf_n=0$。$\int f_n=n\cdot\frac1n=1$。
  3. $f_n=1_{[0,1]}$($n$ が偶数)、$f_n=1_{(1,2]}$($n$ が奇数):各点で $\liminf_nf_n=0$ であり(どの点も $f_n=0$ となる $n$ を無限個もつ)、左辺は $0$。$\int f_n=1$ なので右辺は $1$。
    1 では質量が無限遠へ逃げ、2 では一点に集中し、3 では収束せずに行き来する。どの場合も「積分の極限」のほうが大きい。
級数の形

$\mathbb{N}$ 上の数え上げ測度では積分は和になる(Lebesgue積分 の記事の例「数え上げ測度による積分と級数」)。したがって $a_{n,k}\ge0$ について
$$ \sum_{k}\liminf_{n\to\infty}a_{n,k}\le\liminf_{n\to\infty}\sum_ka_{n,k} $$
である。$a_{n,k}=\frac1n$($1\le k\le n$)、$a_{n,k}=0$($k>n$)とすると、各項は $\frac1n\to0$ なので左辺は $0$ だが、各行の和は $n\cdot\frac1n=1$ である。個々の項が一様に小さくなっても、項の数が増えれば和は小さくならない。

極限関数の可積分性と積分の評価

$[0,\infty)$ 上で $f_n(x):=(1+\frac xn)^{-n}$($n\ge2$)とおく。$(1+\frac xn)^n\to e^x$ なので各点で $f_n\to e^{-x}$ である。$f_n$ は連続で、Lebesgue積分 の記事の命題「非負関数の広義積分との一致」により
$$ \int_{[0,\infty)}f_n\,d\lambda=\lim_{R\to\infty}\Bigl[-\frac{n}{n-1}\Bigl(1+\frac xn\Bigr)^{-(n-1)}\Bigr]_0^R=\frac{n}{n-1}\le2 $$
である。cor-fatou-ae により、$e^{-x}$ を直接積分しなくても、$e^{-x}$ が可積分で $\int_{[0,\infty)}e^{-x}\,d\lambda\le\liminf_n\frac n{n-1}=1$ であることが分かる(実際の値は $1$ で、この場合は等号が成り立つ)。

反例:条件を外すと何が崩れるか

thm-fatou-main と prop-fatou-bounded、prop-fatou-sets、thm-fatou-scheffe の条件を 1 つずつ外す。測度はすべて Lebesgue 測度である。

外す条件反例成り立たなくなること
非負性(可積分な関数による下からの押さえ)$\mathbb{R}$ 上の $f_n=-1_{[n,n+1]}$$\int\liminf f_n\le\liminf\int f_n$
下極限であること(上極限に替える)$\mathbb{R}$ 上で $1_{[0,1]}$ と $1_{(1,2]}$ を交互にとる列$\int\limsup f_n\le\liminf\int f_n$
逆向きの不等式での上からの可積分な押さえ$(0,1)$ 上の $f_n=n\,1_{(0,1/n)}$$\limsup\int f_n\le\int\limsup f_n$
集合の形の 2 での測度の有限性$\mathbb{R}$ 上の $A_n=[n,n+1]$$\limsup\mu(A_n)\le\mu(\limsup A_n)$
積分の値の収束$(0,1)$ 上の $f_n=n\,1_{(0,1/n)}$、$f=0$$\int\lvert f_n-f\rvert\to0$
反例の確認
  1. $f_n=-1_{[n,n+1]}$ は可測で、各点で十分先の $n$ では $0$ なので $\liminf_nf_n=0$、左辺は $0$ である。$\int f_n=-1$ なので右辺は $-1$ であり、$0\le-1$ は成り立たない。すべての $n$ でほとんど至るところ $f_n\ge-g$ となる $g\ge0$ は、ほとんど至るところ $g\ge1_{[1,\infty)}$ を満たすので可積分でない。外れているのは下からの可積分な押さえだけである。
  2. ex-fatou-strict の 3 の列である。非負で可測であり、$\limsup_nf_n=1_{[0,2]}$($[0,2]$ のどの点も無限回 $1$ をとる)なので $\int\limsup_nf_n=2$、一方 $\int f_n=1$ なので $\liminf_n\int f_n=1$ である。$2\le1$ は成り立たない。$\liminf$ のままなら ex-fatou-strict の 3 のとおり成り立つ。
  3. $f_n\ge0$ で、各点で $f_n\to0$ だから $\int\limsup_nf_n=0$、一方 $\int f_n=1$ なので $1\le0$ は成り立たない。$f_n$ を押さえる関数は $(0,1)$ 上で $\sup_nf_n\ge\frac1{2x}$ を満たし($x\in[\frac1{n+1},\frac1n)$ で $f_n(x)=n\ge\frac1{2x}$)、可積分でない。
  4. どの $x$ も $[n,n+1]$ に属するのは高々 2 つの $n$ なので、$\limsup_nA_n=\emptyset$ であり右辺は $0$、左辺は $1$ である。$\mu(\mathbb{R})=\infty$ だけが prop-fatou-sets の 2 の仮定から外れている(1 は $\liminf_nA_n=\emptyset$ で $0\le1$ となり成り立つ)。
  5. 非負で各点で $0$ に収束し、$f=0$ は可積分だが、$\int f_n=1\not\to0=\int f$ である。$\int\lvert f_n-f\rvert=1$ なので $L^1$ では収束しない。

補足

文献

Bre11 Lemma 4.1(p. 90)は、$L^1$ の関数の列で各 $n$ でほとんど至るところ $f_n\ge0$、$\sup_n\int f_n<\infty$ のとき、$\liminf_nf_n$ が可積分で $\int\liminf_nf_n\le\liminf_n\int f_n$ となる、という cor-fatou-ae の後半の形で述べている。同書の第 4 章は σ-有限な測度空間と実数値の関数を前提にしているが、この記事の証明は σ-有限性を使わない。同じ頁には単調収束定理(Theorem 4.1)と優収束定理(Theorem 4.2)も並べられている。

関連項目

参考文献

[1]
Haim Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Universitext, Springer, 2011, 第 4 章冒頭(p. 89、測度空間の前提)、Theorem 4.1・Theorem 4.2・Lemma 4.1(p. 90、単調収束定理・優収束定理・Fatou の補題)

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