Hilbert多項式

同義語:ヒルベルト多項式Hilbert polynomial

概要

Hilbert多項式(Hilbert polynomial)とは、体上の射影スキーム $X$ と非常に豊富な可逆層 $\mathcal{O}_X(1)$ を固定したとき、連接層 $\mathcal{F}$ について Euler 標数 $\chi(\mathcal{F}(n))$ にすべての整数 $n$ で一致する多項式 $P_{\mathcal{F}}$ のことである。$n$ が十分大きければ $P_{\mathcal{F}}(n)$ は大域切断の空間の次元に等しく、$\mathcal{F}\ne0$ ならその次数は台の次元に等しい。$\mathcal{F}=\mathcal{O}_X$ のときは先頭の係数から $X$ の次数が、定数項から算術種数が読み取れ、Noether 整スキームを底とする平坦な族ではファイバーの Hilbert 多項式が一定になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 連接層, 層コホモロジー, 射影空間, 非常に豊富な可逆層, Krull次元

体 $k$ 上の射影空間 $\mathbb{P}^r_k$ の閉部分スキーム $X$ と、$X$ 上の連接層 $\mathcal{F}$ を考える。$\mathcal{F}$ を超平面の可逆層 $\mathcal{O}_X(1)$ の $n$ 乗でひねった層 $\mathcal{F}(n)$ の Euler 標数
$$ \chi(\mathcal{F}(n))=\sum_{i\ge0}(-1)^i\dim_kH^i(X,\mathcal{F}(n)) $$
は、すべての整数 $n$ で $1$ つの多項式 $P_{\mathcal{F}}(n)$ に一致する。これが $\mathcal{F}$ の Hilbert 多項式(Hilbert polynomial)である。$n$ が十分大きいと高次のコホモロジーが消えるので、$P_{\mathcal{F}}(n)$ は大域切断の空間の次元 $\dim_kH^0(X,\mathcal{F}(n))$に等しい($\mathcal{F}=\mathcal{O}_X$ なら、これは $n$ 次の斉次式の空間を $X$ の上で消えるもので割った空間の次元である)。
Hilbert 多項式には $X$ の基本的な数値が並んでいる。$\mathcal{F}\ne0$ なら次数は $\mathcal{F}$ の台の次元に等しく、$\mathcal{F}=\mathcal{O}_X$ のとき先頭の係数に $(\dim X)!$ を掛けたものが $X$ の次数、定数項 $P_X(0)=\chi(\mathcal{O}_X)$ が算術種数を与える。Noether 整スキームを底とする平坦な族ではファイバーの Hilbert 多項式が一定になるので、Hilbert 多項式は閉部分スキームを分類する Hilbertスキーム の「型」として使われる。
次数付き環・次数付き加群の側の Hilbert 多項式(各次数の部分の次元が最終的に一致する多項式)は Hilbert関数 にある。この記事では層の側から、Hilbert 多項式の存在と、その次数が台の次元に等しいことを超平面切断による帰納法で証明し、射影空間・超曲面・完全交叉・ねじれ 3 次曲線で計算する。

設定

以下、$k$ は体、$S=k[x_0,\dots,x_r]$、$\mathbb{P}^r=\mathbb{P}^r_k=\operatorname{Proj}S$ とする。$X$ は $k$ 上の射影スキームで、閉埋め込み $\iota\colon X\to\mathbb{P}^r$ を 1 つ固定し、$\mathcal{O}_X(1):=\iota^*\mathcal{O}_{\mathbb{P}^r}(1)$ とおく(非常に豊富な可逆層)。$X$ 上の連接層 $\mathcal{F}$ と整数 $n$ について $\mathcal{F}(n):=\mathcal{F}\otimes\mathcal{O}_X(1)^{\otimes n}$ と書き、$\mathcal{F}$ の台を $\operatorname{Supp}\mathcal{F}=\{x\in X\mid\mathcal{F}_x\ne0\}$ とする。これは閉集合である。空集合の次元と零多項式の次数は $-1$ と約束する。
射影スキーム上の連接層のコホモロジーは有限次元で(Har77 III, Theorem 5.2 (a), p. 228)、$i>r$ では $0$ になる(Vak25 Theorem 18.2.6, p. 504)。よって $\chi(\mathcal{F})$ が定まり、短完全列 $0\to\mathcal{F}'\to\mathcal{F}\to\mathcal{F}''\to0$ があればコホモロジーの長完全列から $\chi(\mathcal{F})=\chi(\mathcal{F}')+\chi(\mathcal{F}'')$ である。$\iota_*$ はコホモロジーを変えず(Har77 III, Lemma 2.10, p. 209)、可逆層 $\mathcal{L}$ について $\iota_*(\mathcal{F}\otimes\iota^*\mathcal{L})\cong\iota_*\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}$($\mathcal{L}$ を局所的に自明化して確かめられる)なので、$\chi(\mathcal{F}(n))$ は $\mathbb{P}^r$ 上の連接層 $\iota_*\mathcal{F}$ で計算してよい。台も $\iota$ で同一視される。

2 つの補題

差分が多項式になる関数

関数 $f\colon\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}$ と多項式 $g\in\mathbb{Q}[z]$ が、すべての整数 $n$ で $f(n)-f(n-1)=g(n)$ をみたすとする。このとき多項式 $P\in\mathbb{Q}[z]$ がただ 1 つあって、すべての整数 $n$ で $f(n)=P(n)$ となる。$g=0$ なら $P$ は定数であり、$g$ の次数が $e\ge0$ なら $P$ の次数は $e+1$ で、先頭の係数は $g$ の先頭の係数の $1/(e+1)$ 倍である。

多項式 $\binom{z}{i}=z(z-1)\cdots(z-i+1)/i!$($i\ge0$)は $\mathbb{Q}[z]$ の基底なので、$g=\sum_{i=0}^ea_i\binom{z}{i}$ と書ける。$Q(z):=\sum_{i=0}^ea_i\binom{z+1}{i+1}$ とおくと、Pascal の等式 $\binom{z+1}{i+1}-\binom{z}{i+1}=\binom{z}{i}$ により $Q(n)-Q(n-1)=g(n)$ である。よって $f-Q$ はすべての $n$ で $(f-Q)(n)=(f-Q)(n-1)$ をみたし、$\mathbb{Z}$ 上で定数 $c$ である。$P:=Q+c$ とすればよい。一意性は、2 つの多項式が無限個の点で一致すれば等しいことによる。$\binom{z}{i}$ の先頭の係数は $1/i!$ なので、$g$ の先頭の係数は $a_e/e!$、$P$ の先頭の係数は $a_e/(e+1)!$ である。$\square$

有限個の点を避ける超平面

$k$ が無限体なら、$\mathbb{P}^r$ の有限個の点 $y_1,\dots,y_m$ に対し、どの $y_j$ でも消えない 1 次式 $h\in S_1$ がある。

点 $y_j$ は $S_+=(x_0,\dots,x_r)$ を含まない斉次素イデアル $\mathfrak{p}_j$ である。$V_j:=\mathfrak{p}_j\cap S_1$ は $S_1$ の部分空間で、$x_0,\dots,x_r$ のどれかを含まないので真の部分空間である。無限体上のベクトル空間は有限個の真の部分空間の和集合にならないので、$S_1\setminus\bigcup_jV_j$ の元 $h$ がとれる。

最後の主張の詳細

$S_1=V_1\cup\dots\cup V_m$ で $m$ が最小とする。$m\ge2$ であり、$a\in V_1\setminus\bigcup_{j\ge2}V_j$ と $b\notin V_1$ がとれる。$\lambda\in k^\times$ について $a+\lambda b\notin V_1$(入れば $b\in V_1$)なので、$a+\lambda b$ はある $V_j$($j\ge2$)に入る。$\lambda\ne\mu$ が同じ $V_j$ に入れば $(\lambda-\mu)b\in V_j$、したがって $a\in V_j$ となって矛盾する。よって $k^\times$ は高々 $m-1$ 個の元しかもたず、$k$ が無限体であることに反する。

主定理

Hilbert 多項式の存在と次数

$k$ を体、$X$ を $k$ 上の射影スキーム、$\mathcal{O}_X(1)$ を上のとおりとし、$\mathcal{F}$ を $X$ 上の連接層とする。

  1. 多項式 $P_{\mathcal{F}}\in\mathbb{Q}[z]$ がただ 1 つあって、すべての整数 $n$ で $\chi(\mathcal{F}(n))=P_{\mathcal{F}}(n)$ となる。
  2. 十分大きいすべての $n$ で $P_{\mathcal{F}}(n)=\dim_kH^0(X,\mathcal{F}(n))$ である。
  3. $k$ が代数閉体で $\mathcal{F}\ne0$ なら、$d:=\dim\operatorname{Supp}\mathcal{F}$ について $P_{\mathcal{F}}$ の次数は $d$ であり、先頭の係数は $e/d!$($e$ は正の整数)の形である。

はじめの節により $X=\mathbb{P}^r$ としてよい。2 は Serre の消滅定理(Serreの消滅定理。Har77 III, Theorem 5.2 (b), p. 228)により、十分大きい $n$ で $i>0$ のコホモロジーが消えることから従う。1 の一意性は lem-hp-difference と同じく、無限個の整数で一致する多項式は等しいことによる。
段 1($k$ が無限体のときの存在)。 $d=\dim\operatorname{Supp}\mathcal{F}$ についての帰納法で、「$\chi(\mathcal{F}(n))$ は次数 $d$ 以下の多項式に一致する」ことを示す。$\mathcal{F}=0$ なら $\chi=0$ である。$\mathcal{F}\ne0$ とする。$\mathcal{F}$ の随伴点($\mathcal{O}_{X,x}$ の極大イデアルが $\mathcal{O}_{X,x}$ 加群 $\mathcal{F}_x$ の随伴素イデアルになる点 $x$)は有限個なので(Stacks Tag 05AF)、lem-hp-avoid により、どの随伴点でも消えない 1 次式 $h$ がとれる。$h$ を掛ける写像 $h\colon\mathcal{F}(-1)\to\mathcal{F}$ は単射である。実際、各随伴点 $x$ では $h$ は $\mathcal{O}(1)$ の局所的な自明化のもとで $\mathcal{O}_{X,x}$ の単元なので茎の写像は同型であり、随伴点でない点では条件が要らない(Stacks Tag 0AVL)。余核を $\mathcal{G}$ とすると、完全列
$$ 0\to\mathcal{F}(n-1)\xrightarrow{\ h\ }\mathcal{F}(n)\to\mathcal{G}(n)\to0 $$
から $\chi(\mathcal{F}(n))-\chi(\mathcal{F}(n-1))=\chi(\mathcal{G}(n))$ である。各点 $x$ で $\mathcal{G}_x=\mathcal{F}_x/h\mathcal{F}_x$(自明化のもと)なので、$h(x)\ne0$ なら $\mathcal{G}_x=0$、$h(x)=0$ なら $h$ は極大イデアルに入り、Nakayamaの補題 により $\mathcal{G}_x\ne0\iff\mathcal{F}_x\ne0$ である。よって
$$ \operatorname{Supp}\mathcal{G}=\operatorname{Supp}\mathcal{F}\cap V(h) $$
である。$\operatorname{Supp}\mathcal{F}$ の既約成分 $Z$ の生成点は随伴点なので(Stacks Tag 05AL)$V(h)$ に入らず、$Z\cap V(h)$ は $Z$ の真の閉集合である。$\mathbb{P}^r$ の閉集合の次元は有限なので、Har77 I, Exercise 1.10 (d)(既約で有限次元の空間の真の閉集合は次元が真に小さい)により $\dim(Z\cap V(h))<\dim Z$ であり、$\dim\operatorname{Supp}\mathcal{G}\le d-1$ である。帰納法の仮定により $\chi(\mathcal{G}(n))$ は次数 $d-1$ 以下の多項式に一致し、lem-hp-difference により $\chi(\mathcal{F}(n))$ は次数 $d$ 以下の多項式に一致する。
段 2(一般の体での存在)。 $K$ を $k$ の代数閉包とし、$X_K=X\times_k\operatorname{Spec}K$、$\mathcal{F}_K$ を $\mathcal{F}$ の引き戻しとする。$\operatorname{Spec}K\to\operatorname{Spec}k$ は平坦なので、$H^i(X_K,\mathcal{F}_K)\cong H^i(X,\mathcal{F})\otimes_kK$ であり(Har77 III, Proposition 9.3, p. 255)、$\mathcal{F}(n)$ の引き戻しは $\mathcal{F}_K(n)$ だから $\chi(\mathcal{F}(n))=\chi(\mathcal{F}_K(n))$ である。$K$ は無限体なので段 1 が使え、1 が成り立つ。
段 3(代数閉体での次数)。 $k$ を代数閉体とし、$d$ についての帰納法で、$\mathcal{F}\ne0$ なら $P_{\mathcal{F}}$ の次数がちょうど $d$ であることを示す。段 1 の $h$ と $\mathcal{G}$ を使う。
$d=0$ のとき:$\operatorname{Supp}\mathcal{F}$ の点はすべて既約成分の生成点なので随伴点であり、$h$ はそのどこでも消えない。よって $\operatorname{Supp}\mathcal{G}=\emptyset$、$\mathcal{G}=0$ で、$P_{\mathcal{F}}$ は定数である。2 と、十分大きい $n$ で $\mathcal{F}(n)$ が大域切断で生成されること(Har77 II, Theorem 5.17, p. 121)から、$\mathcal{F}\ne0$ なら $P_{\mathcal{F}}(n)=\dim H^0(\mathcal{F}(n))>0$ であり、$P_{\mathcal{F}}$ は $0$ でない定数である。
$d\ge1$ のとき:$\dim Z=d$ となる既約成分 $Z$ をとる。Har77 II, Proposition 2.6(p. 78)とその証明により、$\mathbb{P}^r$ の閉集合はその閉点のなす古典的な射影代数的集合と、既約閉集合の包含関係ごと対応し、次元も共通部分も保たれる。古典的な射影次元定理(Har77 I, Theorem 7.2, p. 48)を $d$ 次元の射影多様体 $Z$ と $r-1$ 次元の超平面 $V(h)$ に当てると、$d+(r-1)-r\ge0$ なので $Z\cap V(h)$ は空でなく、その既約成分の次元は $d-1$ 以上である。段 1 の上界と合わせて $\dim\operatorname{Supp}\mathcal{G}=d-1$ であり、帰納法の仮定により $P_{\mathcal{G}}$ の次数は $d-1$ である。lem-hp-difference により $P_{\mathcal{F}}$ の次数は $d$ である。
先頭の係数:2 により十分大きい $n$ で $P_{\mathcal{F}}(n)\ge0$ であり、$P_{\mathcal{F}}$ は次数 $d$ の多項式なので先頭の係数は正である。$P_{\mathcal{F}}$ は整数を整数に移すので、$\binom{z}{i}$ の整数係数の 1 次結合であり(数値多項式 の定理「数値多項式の特徴づけ」)、先頭の係数は $1/d!$ の整数倍である。$\square$

3 の次数の主張は代数閉体でない体の上でも成り立つ(Vak25 Theorem 18.6.1, p. 518。この記事では証明しない)。段 2 の底変換で Euler 標数は変わらないので、台の次元が代数閉包への底変換で変わらないことを示せばよいが、ここでは扱わない。次数が台の次元に等しければ、先頭の係数についての主張は段 3 の最後と同じ議論で従う。段 1 で $k$ を無限体に限ったのは、有限体の上では、有限個の点をすべて避ける超平面がないことがあるからである($\mathbb{F}_2$ 上の $\mathbb{P}^1$ の 3 つの有理点は、どの 1 次式もどれかで消える)。

Hilbert 多項式と次数

thm-hp-main の $P_{\mathcal{F}}$ を、$\mathcal{F}$ の($\mathcal{O}_X(1)$ に関する)Hilbert 多項式という。$P_X:=P_{\mathcal{O}_X}$ を $X$ の Hilbert 多項式という。$X\ne\emptyset$、$\dim X=d$ のとき、$P_X$ の先頭の係数の $d!$ 倍を $X$ の次数 $\deg X$ といい、
$$ p_a(X):=(-1)^d\bigl(P_X(0)-1\bigr)=(-1)^d\bigl(\chi(\mathcal{O}_X)-1\bigr) $$
を $X$ の算術種数という。

次数は埋め込み($\mathcal{O}_X(1)$ の選び方)に依存するが、$P_X(0)=\chi(\mathcal{O}_X)$ は $\mathcal{O}_X(1)$ によらない。したがって算術種数は $X$ だけで決まる。代数閉体の上では、次数は 射影多様体の次数 の定義「次数」で $M=S/I_X$($I_X$ は $X$ で消える斉次式全体)とした $\deg M$ と一致し、$X$ が被約なら射影代数的集合としての次数 $\deg Y$ と一致する。算術種数は 算術種数 の定義と同じものである。

例

射影空間と超曲面
  1. $X=\mathbb{P}^r$ では、$n\ge0$ で $H^0(\mathbb{P}^r,\mathcal{O}(n))=S_n$、$H^i(\mathbb{P}^r,\mathcal{O}(n))=0$($i>0$)である(Har77 III, Theorem 5.1, p. 225)。$\dim S_n=\binom{n+r}{r}$ なので、$n\ge0$ で $\chi(\mathcal{O}(n))$ は多項式 $\binom{z+r}{r}=(z+1)(z+2)\cdots(z+r)/r!$ に一致し、一意性により
    $$ P_{\mathbb{P}^r}(z)=\binom{z+r}{r} $$
    である。先頭の係数は $1/r!$ なので $\deg\mathbb{P}^r=1$、$P(0)=1$ なので $p_a(\mathbb{P}^r)=0$ である。
  2. $F\in S_s$($s\ge1$)を $0$ でない斉次式、$H=V(F)\subset\mathbb{P}^r$($r\ge1$)を超曲面とする。$F$ を掛ける写像は単射なので、完全列 $0\to\mathcal{O}(-s)\xrightarrow{F}\mathcal{O}\to\mathcal{O}_H\to0$ があり、
    $$ P_H(z)=\binom{z+r}{r}-\binom{z-s+r}{r} $$
    である。$z^{r-1}$ の係数は $s/(r-1)!$ なので $\dim H=r-1$、$\deg H=s$ である。
  3. 平面曲線($r=2$)では $P_H(z)=sz-\frac{s(s-3)}{2}$ であり、$p_a(H)=1+\frac{s(s-3)}2=\frac{(s-1)(s-2)}2$ である。直線と 2 次曲線では $0$、3 次曲線では $1$ になる。
2 つの 2 次曲面の完全交叉

$F,G\in S_2$($r=3$)を共通因子をもたない 2 次式とし、$C=V(F,G)\subset\mathbb{P}^3$ とする。$aF+bG=0$ なら、一意分解整域 $S$ で $F$ と $G$ は互いに素なので $G\mid a$ であり、$(a,b)=(cG,-cF)$ と書ける。よって次数付き加群の完全列 $0\to S(-4)\to S(-2)^{\oplus2}\to S\to S/(F,G)\to0$(写像は $c\mapsto(cG,-cF)$ と $(a,b)\mapsto aF+bG$)があり、層にしても完全である(Koszul複体)。これから
$$ P_C(z)=\binom{z+3}{3}-2\binom{z+1}{3}+\binom{z-1}{3}=4z $$
である($z=0,1,2,3$ で両辺が $0,4,8,12$ になることを確かめれば、$3$ 次以下の多項式として等しい)。$C$ は $\deg C=4$、$p_a(C)=-(P_C(0)-1)=1$ の曲線である(完全交叉)。

ねじれ 3 次曲線と Veronese 埋め込み
  1. $\varphi\colon\mathbb{P}^1\to\mathbb{P}^3$、$[s:t]\mapsto[s^3:s^2t:st^2:t^3]$ の像 $C$(ねじれ 3 次曲線)は $\mathbb{P}^1$ と同型で、$\varphi^*\mathcal{O}(1)=\mathcal{O}_{\mathbb{P}^1}(3)$ である。よって $\chi(\mathcal{O}_C(n))=\chi(\mathcal{O}_{\mathbb{P}^1}(3n))$ であり、$n\ge0$ ではこれは $3n+1$ である(ex-hp-hypersurface の 1 と同じ計算)。一意性により $P_C(z)=3z+1$ で、$\deg C=3$、$p_a(C)=0$ である。同じ $\mathbb{P}^1$ を $\mathcal{O}(1)$ で $\mathbb{P}^1$ 自身とみれば Hilbert 多項式は $z+1$ であり、Hilbert 多項式は $\mathcal{O}_X(1)$ の選び方で変わる。
  2. 2 次の Veronese 埋め込み(Veronese埋め込み)$\mathbb{P}^2\to\mathbb{P}^5$ の像 $V$ では $\mathcal{O}_V(1)$ が $\mathcal{O}_{\mathbb{P}^2}(2)$ に対応するので、$P_V(z)=\binom{2z+2}{2}=2z^2+3z+1$ であり、$\deg V=4$ である。
Hilbert 多項式が同じでも同型でない例

$\mathbb{P}^3$ の平面 $\Pi$ の中の平面 3 次曲線 $E$ と、$\Pi$ の外の 1 点 $q$ の和 $Y=E\sqcup\{q\}$ を考える。$\mathcal{O}_Y=\mathcal{O}_E\oplus\mathcal{O}_q$ なので、$P_Y=P_E+P_q=3z+1$ であり($E$ のコホモロジーは $\Pi\cong\mathbb{P}^2$ で計算でき、ex-hp-hypersurface の 3 で $s=3$ とすれば $P_E=3z$。1 点では $P_q=1$)、ねじれ 3 次曲線と同じ Hilbert 多項式をもつ。しかし $Y$ は連結でないので $C$ と同型でない。Hilbert 多項式は閉部分スキームの「型」であり、同じ型の中に幾何学的に異なるものが入る。実際、ねじれ 3 次曲線の族を平坦に退化させると、埋め込まれた点をもつ平面 3 次曲線が極限に現れる(平坦極限)。

平坦族と Hilbert スキーム

Noether 整スキーム $T$ 上の閉部分スキーム $X\subset\mathbb{P}^r_T$ について、$X$ が $T$ 上平坦であることと、ファイバー $X_t\subset\mathbb{P}^r_{\kappa(t)}$ の Hilbert 多項式が $t$ によらないことは同値である(平坦族 の定理「平坦性と Hilbert 多項式の一定性」。Har77 III, Theorem 9.9, p. 261)。したがって平坦族では、ファイバーの次元・次数・算術種数は一定である。逆に、Hilbert 多項式を 1 つ固定し、その Hilbert 多項式をもつ閉部分スキームの平坦族を分類するのが Hilbertスキーム である。

斉次座標環の Hilbert 多項式との比較

閉部分スキーム $X\subset\mathbb{P}^r$ を定める斉次イデアル $I$ について、次数付き環 $S/I$ の Hilbert 多項式(Hilbert関数 の定義「Hilbert 多項式と次数」)は $P_X$ に一致する。証明は 算術種数 の定理「Hilbert 多項式の定数項」にある(そこでは $X$ で消える斉次式全体のイデアル $I_X$ を使うが、$X$ を定める斉次イデアル $I$ は十分大きい次数で $I_X$ と一致する)。代数閉体上の多様体の場合は Hilbert関数 の注意「射影多様体の Hilbert 多項式」にもある。2 により、どちらも十分大きい $n$ で「$n$ 次の斉次式の空間から $X$ 上の切断を数えたもの」であり、違いは $X$ で消える斉次式を $I$ で数えるか層で数えるかだけである。

反例:条件を外すと崩れること

外す条件反例成り立たなくなること
十分大きい $n$$X=\mathbb{P}^1$、$\mathcal{F}=\mathcal{O}$、$n=-2$$P_{\mathcal{F}}(n)=\dim H^0(\mathcal{F}(n))$
$\mathcal{O}_X(1)$ が非常に豊富$X=\mathbb{P}^1$、$\mathcal{O}(1)$ の代わりに $\mathcal{O}_{\mathbb{P}^1}$$P_{\mathcal{F}}$ の次数が台の次元に等しい
$X$ が射影的$X=\mathbb{A}^1_k$、$\mathcal{F}=\mathcal{O}$$\chi(\mathcal{F}(n))$ が定まる
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1 行目:$P_{\mathcal{O}}(z)=z+1$ なので $P(-2)=-1$ だが、$H^0(\mathbb{P}^1,\mathcal{O}(-2))=0$ である($h^1=1$ で、$\chi=-1$ と合う)。

2 行目:自明な可逆層の冪でひねっても $\mathcal{O}$ のままで、$\chi(\mathcal{O}\otimes\mathcal{O}^{\otimes n})=1$ は定数である。多項式にはなるが次数は $0$ で、台の次元 $1$ と異なる。

3 行目:$H^0(\mathbb{A}^1,\mathcal{O})=k[x]$ は無限次元で、Euler 標数が定まらない。

関連項目

参考文献

[1]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, I, Exercise 1.10 (d)(p. 8)、I, Theorem 7.2(p. 48、射影次元定理)、II, Proposition 2.6(p. 78)、II, Theorem 5.17(p. 121、Serre の定理)、III, Lemma 2.10(p. 209)、III, Theorem 5.1(p. 225、射影空間のコホモロジー)、III, Theorem 5.2(p. 228、有限性と Serre の消滅定理)、III, Proposition 9.3(p. 255、平坦な底変換)、III, Theorem 9.9(p. 261、平坦族の Hilbert 多項式)

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