微分多様体の(接空間の)接続とは、接ベクトルの平行移動を与える機構である。 ユークリッド幾何では平行移動は直感的に理解できるものの、公理的に扱われてきた。 一般の微分多様体でも事情は同じで接続を定義することによって平行移動を公理的に扱う。 接空間の接続については[[テンソル解析]]に簡単な解説があるので参照されたい。
理論的には接続をどのように定義しても良いが、ユークリッド幾何の平行移動の性質を一部引き継いでいる接続をリーマン多様体上では考えることができる。
引き継がれる性質は、平行移動によりベクトルの長さや2つのベクトル角度が変わらない、という性質である(計量条件)。
この条件に加え、捩れ率が0(直感的には理解しずらい)という性質を持った接続がリーマン計量から一意的に定まり、リーマン接続(Riemannian connection)またはレヴィ・チヴィタ接続(Levi-Civita connection)と呼ばれる。
この記事では添字の和に関しては誤解の余地が少ない場合にはEinstein規約を使う。
微分多様体 $M$ と接束の接続 $\nabla$ に対して、$\nabla$ の''捩じれテンソル''(torsion tensor) $T^\nabla$ は次で与えられる。
$$
T^\nabla(X,Y)=\nabla_XY-\nabla_YX-[X,Y]
$$
ここで、$X,Y$ は任意のベクトル場である。
チャートに関して成分表示すると、接続の径数を
$$
\begin{aligned}
\nabla_{\frac{\partial}{\partial x^i}}\frac{\partial}{\partial x^j}=\Gamma^k_{ij}\frac{\partial}{\partial x^k}
\end{aligned}
$$
と置くとき
$$
\begin{aligned}
T^i_{jk}=\Gamma^i_{jk}-\Gamma^i_{kj}
\end{aligned}
$$
である。
$T^\nabla=0$ である接続は捩じれがない(torsion free)であるという。
あるチャート $(U,\{x^\mu\})$ がある $p\in U$ に関して測地座標であるとは、座標 $\{x^\mu\}$ に関する接続の係数が $\Gamma^i_{jk}(p)=0$ となることを言う。
ある点 $p$ に関して測地座標が存在することは、その点に十分に近い領域では接続がユークリッド幾何における接続に近似していることを意味している。
以下の命題は接続のTorsion free条件の幾何学的な特徴づけを与える。
微分多様体 $M$ と与えられた接続 $\nabla$ に対して、任意の点 $p\in M$ に対して、$\nabla$ に関する測地座標が存在するため必要十分条件は $\nabla$ がTorsion freeであることである。
任意の点 $p$ に対して、測地座標 $\{x^\mu\}$ が存在して、$\Gamma^\mu_{\nu\lambda}(p)=0$ とすると、任意の座標 $\{y^a\}$ に対して、
$$
\begin{aligned}
\Gamma^a_{bc}(p)&=\frac{\partial y^a}{\partial x^\mu}\frac{\partial x^\nu}{\partial y^b}\frac{\partial x^\lambda}{ \partial y^c}\Gamma^\mu_{\nu\lambda}(p)+\frac{\partial y^a}{\partial x^\sigma}\frac{\partial^2 x^\sigma }{\partial y^b\partial y^c}(p)\\
=&\frac{\partial y^a}{\partial x^\sigma}\frac{\partial^2 x^\sigma }{\partial y^b\partial y^c}(p)
\end{aligned}
$$
であるから、$\Gamma^a_{bc}=\Gamma^a_{cb}$ である。
逆に、Torsion freeとする。
ある点 $p$ を任意に取り、$p$ を含む座標近傍 $\{x^\mu\}$ を取る。
$x^\mu(p)=0$ とする。
Torsion freeであるから、座標 $\{x'^\mu\}$ を
$$
\begin{aligned}
x^\mu=x'^\mu-\frac{1}{2}\Gamma^\mu_{\nu\lambda}(p)x'^\nu x'^\lambda
\end{aligned}
$$
で定義する。
$x'^\mu(p)=0$ も仮定すると
$$
\begin{aligned}
x'^\mu=x^\mu+\frac{1}{2}\Gamma^\mu_{\nu\lambda}(p)x^\nu x^\lambda+\cdots
\end{aligned}
$$
従って、
$$
\begin{aligned}
\Gamma'^\mu_{\nu\lambda}(p)&=\frac{\partial x'^\mu}{\partial x^\alpha}\frac{\partial x^\beta}{\partial x'^\nu}\frac{\partial x^\gamma}{ \partial x'^\lambda}\Gamma^\alpha_{\beta\gamma}(p)+\frac{\partial x'^\mu}{\partial x^\sigma}\frac{\partial^2 x^\sigma }{\partial x'^\nu\partial x'^\lambda}(p)\\
&=\delta^\mu_\alpha\delta^\beta_\nu\delta^\gamma_\lambda\Gamma^\alpha_{\beta\gamma}(p)+\delta^\mu_\sigma(-\Gamma^\sigma_{\nu\lambda})(p)=0
\end{aligned}
$$
となり、点 $p$ に関する測地座標 $\{x'^\mu\}$ が存在する。
リーマン多様体 $(M,g)$ に対して、接続 $\nabla$ で
$$
\begin{aligned}
\nabla g=0,\\
T^\nabla=0,
\end{aligned}
$$
を満たすものが一意的に存在し(存在と一意性の証明は後術)、リーマン接続(Riemannian connection)またはレヴィ・チヴィタ接続(Levi-Civita connection)と呼ぶ。
$\nabla g=0$ は計量条件と呼ばれ、幾何学的な意味は次のようなものである。
ベクトル場 $Y,Z$ がベクトル場 $X$ 関して平行、すなわち $\nabla_XY=\nabla_XZ=0$ であるとする。
これは直感的にはベクトル場 $Y,Z$ がベクトル場 $X$ の方向に(または $X$ の積分曲線に沿って)リーマン接続 $\nabla$ の意味で平行移動して作られていることを意味する。
ユークリッド幾何の事実であるベクトルの長さや角度は平行移動により変わらないという性質をリーマン接続は持っている。
すなわち、$Xg(Y,Y)=\nabla g(Y,Y)+2g(\nabla_XY,Y)=0$ や $Xg(Y,Z)=\nabla g(Y,Z)+g(\nabla_XY,Z)+g(X,\nabla_YZ)=0$ が成り立つ。
従って、計量条件はユークリッド幾何における平行移動の性質をリーマン多様体に一般化したものであると理解することができる。
ただし、計量条件だけでは接続は一意的には決定されず、捻じれ0の条件(torsion free条件)を課してリーマン接続は定まる。
以下のKoszul公式(Koszul formula)と呼ばれ公式はリーマン接続の存在と一意性を与える。
リーマン多様体 $(M,g)$ のリーマン接続 $\nabla$ に対して、
$$
\begin{aligned}
g(\nabla_XY,Z)=\frac{1}{2}(Xg(Y,Z)+Yg(X,Z)-Zg(X,Y)+g([X,Y],Z)-g([Y,Z],X)+g([Z,X],Y))
\end{aligned}
$$
が成り立つ。
$\nabla g=0$ より
$$
\begin{aligned}
Xg(Y,Z)&=g(\nabla_XY,Z)+g(Y,\nabla_XZ)\\
Yg(Z,X)&=g(\nabla_YZ,X)+g(Z,\nabla_YX)=g(\nabla_YZ,X)+g(Z,\nabla_XY)+g(Z,[Y,X])\\
Zg(X,Y)&=g(\nabla_ZX,Y)+g(X,\nabla_ZY)=g(\nabla_XZ,Y)+g(X,[Z,Y])+g(X,\nabla_YZ)+g(X,[Z,Y])
\end{aligned}
$$
となる。
ただし、式変形で$\nabla_XY-\nabla_YX-[X,Y]=0$(捩じれ0)などを使った。
第一式と第二式を足して、第三式を引くと
$$
\begin{aligned}
Xg(Y,Z)+Yg(Z,X)-Zg(X,Y)=2g(\nabla_XY,Z)+g(Z,[Y,X])-g(X,[Z,Y])-g(X,[Z,Y])
\end{aligned}
$$
チャートに関して成分表示すると、接続の径数を $\Gamma^i_{jk}$ と書くと
$$
\begin{aligned}
\Gamma^i_{jk}=\frac{1}{2}g^{im}(\partial_jg_{mk}+\partial_kg_{mj}-\partial_mg_{jk})
\end{aligned}
$$
である。これはKoszul公式から従うがほとんど同様にして以下のようにして証明することもできる。
$$
\begin{aligned}
0&=\nabla_ig_{jk}=\partial_ig_{jk}-\Gamma^m_{ij}g_{mk}-\Gamma^m_{ik}g_{jm}\\
0&=\nabla_jg_{ki}=\partial_jg_{ki}-\Gamma^m_{jk}g_{mi}-\Gamma^m_{ji}g_{km}\\
0&=\nabla_kg_{ij}=\partial_kg_{ij}-\Gamma^m_{ki}g_{mj}-\Gamma^m_{kj}g_{im}
\end{aligned}
$$
の第一式と第二式を足して、第三式を引くと
$$
\begin{aligned}
\partial_ig_{jk}+\partial_jg_{ki}-\partial_kg_{ij}-2\Gamma^m_{ij}g_{mk}=0
\end{aligned}
$$
を得る。ここで、捻じれ0の条件 $\Gamma^i_{jk}=\Gamma^i_{kj}$ などを用いた。
リーマン多様体 $(M,g)$ のある座標近傍 $(U,\{x^i\})$ において、リーマン接続の係数が $\Gamma^i_{jk}=0$ となることと、$g_{ij}$ が定数(すなわちユークリッド計量)となることは同値である。
Koszul公式の局所座標表示より、$g_{ij}$ が定数ならば、$\Gamma^i_{jk}=0$ である。
また逆に $\Gamma^i_{jk}=0$ ならば、 $\nabla_ig_{jk}=0$ より、$0=\partial_ig_{jk}-\Gamma^a_{ij}g_{ak}-\Gamma^a_{ik}g_{ja}=\partial_ig_{jk}$ となる。
ここではリーマン多様体の具体的なチャートに関しての接続の係数を載せる。
2次元球面 $S^2$ のよく使われる座標として、
$$
\begin{aligned}
ds^2=d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2
\end{aligned}
$$
がある。
この座標に関して接続の係数は
$$
\begin{aligned}
\Gamma^\theta_{\phi\phi}&=-\cos\theta\sin\theta\\
\Gamma^\phi_{\phi\theta}&=\cot\theta\\
\Gamma^\theta_{\theta\phi}&=\Gamma^\theta_{\theta\theta}=\Gamma^\phi_{\phi\phi}=\Gamma^\phi_{\theta\theta}=0
\end{aligned}
$$
となる。
3次元双曲空間のチャートの一つとして次がある。
$$
\begin{align}
ds^2=d\rho^2+\sinh^2\rho(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi)
\end{align}
$$
このチャートに関して、0でないものは
$$
\begin{align}
\Gamma^\rho_{\theta\theta}&=-\cosh\rho\sinh\rho,\\
\Gamma^\rho_{\phi\phi}&=-\sinh\rho\cosh\rho\sin^2\theta,\\
\Gamma^\theta_{\rho\theta}&=\coth\rho,\\
\Gamma^\theta_{\phi\phi}&=-\cos\theta\sin\theta,\\
\Gamma^\phi_{\rho\phi}&=\coth\rho,\\
\Gamma^\phi_{\theta\phi}&=\cot\theta
\end{align}
$$
である。
4次元ローレンツ多様体の一つであるSchwarzschild時空のチャートとして
$$
\begin{align}
ds^2=-(1-\frac{2M}{r})dt^2+\frac{1}{1-\frac{2M}{r}}dr^2+r^2(d\theta^2+\sin^2\theta d\phi^2)
\end{align}
$$
がある。
このチャートに関して接続の係数の0でない成分は
$$
\begin{align}
\Gamma^t_{tr}&=-\frac{M}{2Mr-r^2},\\
\Gamma^r_{tt}&=\frac{M(r-2M)}{r^2},\\
\Gamma^r_{rr}&=\frac{M}{2Mr-r^2},\\
\Gamma^r_{\theta\theta}&=2M-r,\\
\Gamma^r_{\phi\phi}&=(2M-r)\sin^2\theta,\\
\Gamma^\theta_{r\theta}&=\frac{1}{r},\\
\Gamma^\theta_{\phi\phi}&=-\cos\theta\sin\theta,\\
\Gamma^\phi_{r\phi}&=\frac{1}{r},\\
\Gamma^\phi_{\theta\phi}&=\cot\theta
\end{align}
$$