3大作図問題の不可能性

同義語:3大作図問題impossibility of the three classical construction problems

概要

3大作図問題の不可能性(impossibility of the three classical construction problems)とは、立方体の倍積、任意の角の 3 等分、円積問題の 3 つが、目盛りのない定規とコンパスでは作図できないという定理である。3 つの問題は $\sqrt[3]2$、$\cos20^\circ$、$\sqrt\pi$ の作図にあたる。作図できる数は有理数から四則と平方根で作れる数なので、有理数係数の 3 次方程式の根が作図できるなら、共役な根と解と係数の関係により有理数の根が現れる。$x^3-2$ と $y^3-3y-1$($y=2\cos20^\circ$)は有理数の根をもたないので、倍積と $60^\circ$ の 3 等分はできない。作図できる数は代数的数であり、$\pi$ は超越数(Lindemann の定理)なので、円積問題もできない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 定規とコンパスによる作図, 剰余の定理と因数定理, n次方程式の解と係数の関係, 加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く

高校での出発点:できる作図と、できそうでできない作図

目盛りのない定規とコンパスで、線分の 2 等分や角の 2 等分はすぐにできる。まず、似ているのに「できる」作図を 3 つ見る。

作図できる 3 つの例
  1. 正方形の倍積:1 辺 $1$ の正方形の 2 倍の面積をもつ正方形の 1 辺は $\sqrt2$ で、これはもとの正方形の対角線の長さである。したがって作図できる。
  2. 直角の 3 等分:$90^\circ$ の 3 等分は $30^\circ$ である。正三角形の角 $60^\circ$ を 2 等分すれば $30^\circ$ が得られるので、直角は 3 等分できる。
  3. 長方形の正方形化:縦 $a$、横 $b$ の長方形と同じ面積の正方形の 1 辺は $\sqrt{ab}$ で、これは 定規とコンパスによる作図 の平方根の作図(直径の上に立てた垂線)で作れる。たとえば $a=2$、$b=3$ なら 1 辺 $\sqrt6=2.449\ldots$ の正方形が作図できる。

古代ギリシャでは、これらとよく似た次の 3 つの問題が、定規とコンパスでは解けないまま残った。

  1. 立方体の倍積:与えられた立方体の 2 倍の体積をもつ立方体を作図すること。
  2. 角の 3 等分:与えられた任意の角を 3 等分すること。
  3. 円積問題:与えられた円と同じ面積の正方形を作図すること。
    3 大作図問題。左は 1 辺 1 の立方体と体積 2 の立方体(1 辺 ∛2)、中央は 60° の角を 20° ずつに分けたい様子、右は半径 1 の円と面積の等しい正方形(1 辺 √π) 3 大作図問題。左は 1 辺 1 の立方体と体積 2 の立方体(1 辺 ∛2)、中央は 60° の角を 20° ずつに分けたい様子、右は半径 1 の円と面積の等しい正方形(1 辺 √π)
    この 3 つがどれも作図できないことは、19 世紀になってようやく証明された。立方体の倍積と角の 3 等分は Wantzel(1837 年)が(Wan37)、円積問題は Lindemann が $\pi$ の超越性を示したこと(1882 年)で解決した(Lin82)。この記事では次の問いに答える。
  4. 3 つの問題は、どんな数を作図することと同じか。→ $\sqrt[3]2$、$\cos20^\circ$、$\sqrt\pi$(prop-icc-translate)
  5. 3 次方程式の根が作図できないのはなぜか。→ 平方根の列の中に初めて根が現れる段を考える(lem-icc-conjugate、thm-icc-cubic)
  6. $\sqrt[3]2$ と $\cos20^\circ$ はなぜ作図できないか。→ 有理数の根がない(thm-icc-cube、thm-icc-trisect)
  7. 円積問題はなぜできないか。→ 作図できる数は代数的数で、$\pi$ は代数的数でない(prop-icc-algebraic、thm-icc-circle)
    高校で習う計算と、この記事の言葉と、大学の言葉は次のように対応する。
    高校の計算・定理この記事の言葉大学の言葉
    3 倍角の公式 $\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$$\cos20^\circ$ の 3 次方程式Chebyshev多項式 $T_3$
    有理数の根の候補(定数項と最高次の係数の約数)有理数の根がないことの確認既約多項式(3 次)
    分母の有理化、共役な数 $p\pm q\sqrt d$共役な根の補題体の自己同型、Galois理論
    解と係数の関係 $\alpha+\beta+\gamma=-a$3 つ目の根を取り出す—
    作図できる数は平方根の列に入る作図できる数は代数的数次数が $2$ の冪(拡大次数、作図可能数)

問題を数の言葉に直す

定規とコンパスによる作図 と同じく、原点 $O(0,0)$ と $E(1,0)$ から出発し、長さ $1$ を単位とする。そこで示したことのうち、この記事で使うのは次の 3 つである。

  • 作図できる数 $a$、$b$ から、$a\pm b$、$ab$、$\dfrac ab$($b\ne0$)、$\sqrt a$($a>0$)が作図できる。
  • 点 $(x,y)$ が作図できることと、$x$、$y$ がともに作図できる数であることは同値である。
  • (特徴づけ)実数 $a$ が作図できるならば、四則で閉じた数の集まりの列 $\mathbb{Q}=F_0\subset F_1\subset\cdots\subset F_r$ で、各段が $F_i=F_{i-1}(\sqrt{d_i})=\{p+q\sqrt{d_i}\mid p,q\in F_{i-1}\}$($d_i$ は $F_{i-1}$ の正の数、$\sqrt{d_i}$ は $F_{i-1}$ に入らない)の形であり、$a$ が $F_r$ に入るものがある。
    3 つ目は、直線が 1 次方程式、円が 2 次方程式で表されるので、1 回の交点で座標に加わるのが平方根 1 つだけであることから導かれる。証明は 定規とコンパスによる作図 の主定理 2 にある。ここで「四則で閉じた集まり」とは、$0,1$ を含み和・差・積・($0$ でない数による)商で閉じた実数の集合のことで、$F(\sqrt d)$ の数の $p+q\sqrt d$ という書き方はただ 1 通りである(同じ記事の補題「平方根を付け加えても四則で閉じる」)。
3 つの問題の言いかえ
  1. 立方体の倍積が作図できることは、$\sqrt[3]2$ が作図できる数であることと同値である。
  2. $60^\circ$ の角が 3 等分できることは、$\cos20^\circ$ が作図できる数であることと同値である。そして $c=\cos20^\circ$ は 3 次方程式
    $$ 8c^3-6c-1=0 $$
    を満たす。
  3. 円積問題が作図できることは、$\sqrt\pi$ が作図できる数であることと同値である。
長さと角を数に置きかえる

段 1(倍積)。与えられた立方体の 1 辺を長さの単位 $1$ にとる。体積 $2$ の立方体の 1 辺は $x^3=2$ の正の解 $\sqrt[3]2$ なので、倍積は長さ $\sqrt[3]2$ の線分を作ることと同じである。
段 2($60^\circ$ の 3 等分)。$60^\circ$ の角は、$O$、$E$ と 定規とコンパスによる作図 の例の点 $\left(\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ で作図できる。この角が 3 等分できれば、$x$ 軸から $20^\circ$ 回った半直線が引け、単位円との交点 $(\cos20^\circ,\sin20^\circ)$ が作図できるので、$\cos20^\circ$ が作図できる。逆に $\cos20^\circ$ が作図できれば、$\sin20^\circ=\sqrt{1-\cos^2 20^\circ}$ も作図でき、点 $(\cos20^\circ,\sin20^\circ)$ と $O$ を結んで $20^\circ$ の角が得られる。
3 倍角の公式 $\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$(加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く)で $\theta=20^\circ$ とおくと、$\cos60^\circ=\dfrac12$ なので
$$ \frac12=4c^3-3c,\qquad 8c^3-6c-1=0 $$
である。
段 3(円積)。与えられた円の半径を単位 $1$ にとる。面積は $\pi$ で、同じ面積の正方形の 1 辺は $\sqrt\pi$ である。$\square$

3 つの数の値

$\sqrt[3]2=1.25992\ldots$、$\cos20^\circ=0.93969\ldots$、$\sqrt\pi=1.77245\ldots$ である。$c=0.93969\ldots$ を $8c^3-6c-1$ に入れると、$8\times0.82977\ldots-6\times0.93969\ldots-1=6.63815\ldots-5.63815\ldots-1=0.0000\ldots$ となり、確かに $0$ になる。
$8c^3-6c-1=0$ は、$y=2c$ とおくと $y^3-3y-1=0$ と書ける($8c^3=(2c)^3$、$6c=3\cdot2c$)。この形のほうが係数が簡単なので、以下では $y=2\cos20^\circ=1.87938\ldots$ を調べる。

主定理:3 次方程式の根が作図できるとき

共役な根の補題

平方根を 1 つ付け加えた集まり $F(\sqrt d)$ の数 $\alpha=p+q\sqrt d$ に対し、$\sqrt d$ の前の符号を変えた $\bar\alpha:=p-q\sqrt d$ を $\alpha$ の 共役 と呼ぶ。分母の有理化で $3+2\sqrt2$ に掛ける $3-2\sqrt2$ がその例である。

共役は和と積を保つ

$F$ を四則で閉じた集まり、$d$ を $F$ の正の数で $\sqrt d$ が $F$ に入らないものとする。$F(\sqrt d)$ の数 $\alpha$、$\beta$ について
$$ \overline{\alpha+\beta}=\bar\alpha+\bar\beta,\qquad \overline{\alpha\beta}=\bar\alpha\,\bar\beta $$
であり、$F$ の数 $u$ については $\bar u=u$ である。また $\bar\alpha=\alpha$ となるのは $\alpha$ が $F$ に入るときだけである。

展開して比べる

$\alpha=p+q\sqrt d$、$\beta=p'+q'\sqrt d$($p,q,p',q'\in F$)とする。書き方はただ 1 通りなので、$\bar\alpha$ は $\alpha$ だけで決まる。
段 1(和)。$\alpha+\beta=(p+p')+(q+q')\sqrt d$ なので $\overline{\alpha+\beta}=(p+p')-(q+q')\sqrt d=\bar\alpha+\bar\beta$ である。
段 2(積)。$\alpha\beta=(pp'+qq'd)+(pq'+qp')\sqrt d$ なので $\overline{\alpha\beta}=(pp'+qq'd)-(pq'+qp')\sqrt d$ である。一方
$$ \bar\alpha\,\bar\beta=(p-q\sqrt d)(p'-q'\sqrt d)=(pp'+qq'd)-(pq'+qp')\sqrt d $$
であり、両者は等しい。
段 3($F$ の数)。$u\in F$ は $u+0\sqrt d$ と書けるので $\bar u=u-0\sqrt d=u$ である。逆に $\bar\alpha=\alpha$ なら $p-q\sqrt d=p+q\sqrt d$ で、書き方がただ 1 通りであることから $q=-q$、$q=0$ となり、$\alpha=p\in F$ である。$\square$

この補題をくり返し使うと、係数が $F$ に入る多項式 $f(x)=x^3+ax^2+bx+c$ について
$$ \overline{f(\alpha)}=\bar\alpha^3+a\bar\alpha^2+b\bar\alpha+c=f(\bar\alpha) $$
となる($\overline{\alpha^3}=\bar\alpha^3$ などは積の規則から、$\bar a=a$ などは $a\in F$ から)。したがって $f(\alpha)=0$ なら $f(\bar\alpha)=\bar0=0$ である。つまり 根の共役もまた根 である。

共役な根と 3 つ目の根

$f(x)=x^3-x^2-2x+2$ を考える。$f(x)=x^2(x-1)-2(x-1)=(x-1)(x^2-2)$ なので、根は $\sqrt2$、$-\sqrt2$、$1$ である。$\sqrt2=0+1\cdot\sqrt2$ は $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の数で、その共役 $-\sqrt2$ も根になっている。解と係数の関係から 3 つの根の和は $-(-1)=1$ なので、3 つ目の根は $1-\sqrt2-(-\sqrt2)=1$ で、有理数である。
このように、係数が有理数の 3 次方程式が $\mathbb{Q}(\sqrt d)$ の根をもつと、有理数の根が 1 つ取り出せる。次の補題はこれを一般の $F$ で述べたものである。

平方根を 1 つ付け加えても 3 次方程式の新しい根は出ない

$F$ を四則で閉じた集まり、$d$ を $F$ の正の数で $\sqrt d$ が $F$ に入らないものとし、$f(x)=x^3+ax^2+bx+c$($a,b,c\in F$)とする。$f$ が $F(\sqrt d)$ の中に根をもつならば、$f$ は $F$ の中にも根をもつ。

共役な根と解と係数の関係

方針:$F(\sqrt d)$ の根 $\alpha$ の共役 $\bar\alpha$ も根であることを使い、解と係数の関係で 3 つ目の根を $F$ の数で書く。
段 1($\alpha$ が $F$ に入るとき)。$\alpha=p+q\sqrt d$ で $q=0$ なら $\alpha\in F$ で、これが求める根である。以下 $q\ne0$ とする。
段 2(共役も根)。lem-icc-bar の後に述べたとおり $f(\bar\alpha)=\overline{f(\alpha)}=0$ である。$q\ne0$ なので $\bar\alpha=p-q\sqrt d\ne\alpha$ である。
段 3(因数分解)。$\alpha$ は $f$ の根なので、因数定理により $f(x)=(x-\alpha)g(x)$($g$ は 2 次式)と書ける(剰余の定理と因数定理)。$x=\bar\alpha$ を入れると $0=(\bar\alpha-\alpha)g(\bar\alpha)$ で、$\bar\alpha-\alpha\ne0$ なので $g(\bar\alpha)=0$ である。もう一度因数定理を使うと $g(x)=(x-\bar\alpha)(x-\gamma)$ と書け、
$$ f(x)=(x-\alpha)(x-\bar\alpha)(x-\gamma) $$
となる。$\gamma$ も $f$ の根である。
段 4(3 つ目の根は $F$ に入る)。右辺を展開したときの $x^2$ の係数は $-(\alpha+\bar\alpha+\gamma)$ で、左辺の $x^2$ の係数 $a$ と等しい(n次方程式の解と係数の関係)。$\alpha+\bar\alpha=2p$ なので
$$ \gamma=-a-2p $$
である。$a,p\in F$ なので $\gamma\in F$ であり、$\gamma$ が求める根である。$\square$

主定理

有理数の根をもたない 3 次方程式

有理数係数の 3 次方程式 $f(x)=0$ が有理数の根をもたないならば、その実数の根はどれも作図できない。

根が初めて現れる段

方針:作図できる根があるとして、平方根の列の中で根が初めて現れる段を考え、lem-icc-conjugate で 1 段前に戻して矛盾を導く。
段 1(準備)。最高次の係数で割っても根は変わらないので、$f(x)=x^3+ax^2+bx+c$($a,b,c$ は有理数)としてよい。
段 2(背理法の仮定)。$f$ の実数の根 $\alpha$ が作図できたとする。特徴づけにより、列 $\mathbb{Q}=F_0\subset F_1\subset\cdots\subset F_r$($F_i=F_{i-1}(\sqrt{d_i})$)で $\alpha\in F_r$ となるものがある。すると「$f$ の根を含む $F_k$」があるので、そのような $k$ のうち最小のものを $k_0$ とする。
段 3($k_0\ge1$ はありえない)。$k_0\ge1$ とすると、$f$ は $F_{k_0}=F_{k_0-1}(\sqrt{d_{k_0}})$ の中に根をもち、係数 $a,b,c$ は有理数なので $F_{k_0-1}$ に入る。lem-icc-conjugate により $f$ は $F_{k_0-1}$ の中にも根をもつ。これは $k_0$ の最小性に反する。
段 4(結論)。よって $k_0=0$ で、$f$ は $F_0=\mathbb{Q}$ の中に根をもつ。これは「有理数の根をもたない」という仮定に反する。したがって $f$ の実数の根は作図できない。$\square$

有理数の根があるかどうかは、次の方法で有限回の計算で確かめられる。

有理数の根の候補

整数係数の多項式 $f(x)=a_nx^n+\cdots+a_1x+a_0$($a_n\ne0$、$a_0\ne0$)が有理数の根 $\dfrac rs$($r,s$ は互いに素な整数、$s>0$)をもつならば、$r$ は $a_0$ の約数で、$s$ は $a_n$ の約数である。とくに $a_n=1$ なら、有理数の根は $a_0$ の約数である整数に限られる。

分母を払って約数を見る

$f\left(\dfrac rs\right)=0$ の両辺に $s^n$ を掛けると
$$ a_nr^n+a_{n-1}r^{n-1}s+\cdots+a_1rs^{n-1}+a_0s^n=0 $$
である。段 1:$a_0s^n$ 以外の項はすべて $r$ で割り切れるので、$a_0s^n=-(a_nr^n+\cdots+a_1rs^{n-1})$ も $r$ で割り切れる。$r$ と $s$ は互いに素なので $r$ と $s^n$ も互いに素であり、$r$ は $a_0$ を割り切る。段 2:同じように $a_nr^n$ 以外の項はすべて $s$ で割り切れるので、$s$ は $a_nr^n$ を割り切り、$s$ と $r^n$ は互いに素なので $s$ は $a_n$ を割り切る。$\square$

同じ命題は 剰余の定理と因数定理 の命題「有理数の根の候補」、実数とは何か:無理数の証明 の有理根定理にもある。

立方体の倍積と角の 3 等分

立方体の倍積の不可能性

$\sqrt[3]2$ は作図できない。したがって、定規とコンパスでは立方体の倍積はできない。

有理数の根の候補を調べる

$\sqrt[3]2$ は $f(x)=x^3-2=0$ の実数の根である。lem-icc-rational-root により、有理数の根があれば $-2$ の約数 $\pm1,\pm2$ のどれかである。ところが
$$ f(1)=-1,\qquad f(-1)=-3,\qquad f(2)=6,\qquad f(-2)=-10 $$
でどれも $0$ でない。よって $f$ は有理数の根をもたず、thm-icc-cubic により $\sqrt[3]2$ は作図できない。prop-icc-translate の 1 により倍積はできない。$\square$

60° の 3 等分の不可能性

$\cos20^\circ$ は作図できない。したがって、定規とコンパスでは $60^\circ$ の角を 3 等分できない。とくに「どんな角でも 3 等分する」定規とコンパスの手順は存在しない。

$y^3-3y-1$ に有理数の根はない

段 1。ex-icc-values により、$y=2\cos20^\circ$ は $g(y)=y^3-3y-1=0$ の根である。lem-icc-rational-root により有理数の根があれば $\pm1$ である。$g(1)=1-3-1=-3$、$g(-1)=-1+3-1=1$ でどちらも $0$ でないので、$g$ は有理数の根をもたない。
段 2。thm-icc-cubic により $2\cos20^\circ$ は作図できない。もし $\cos20^\circ$ が作図できれば、その 2 倍も作図できるはずなので、$\cos20^\circ$ も作図できない。
段 3。prop-icc-translate の 2 により、$60^\circ$ の角は 3 等分できない。$60^\circ$ の角は作図できる角なので、どんな角でも 3 等分する手順があれば $60^\circ$ も 3 等分できてしまう。よってそのような手順はない。$\square$

y³ − 3y − 1 のグラフ。3 つの根 2cos 20°, 2cos 140°, 2cos 260° はどれも整数でなく、整数の候補 y = ±1 での値は −3 と 1 で 0 にならない y³ − 3y − 1 のグラフ。3 つの根 2cos 20°, 2cos 140°, 2cos 260° はどれも整数でなく、整数の候補 y = ±1 での値は −3 と 1 で 0 にならない

3 等分できる角とできない角

一般に、角 $3\theta$ が作図できるとき、それを 3 等分することは $x=\cos\theta$ を作ることで、$x$ は $4x^3-3x-\cos3\theta=0$ の根である。
(1) $3\theta=90^\circ$:$\cos90^\circ=0$ なので $4x^3-3x=x(4x^2-3)=0$ である。有理数の根 $0$ があるので thm-icc-cubic は使えない。実際 $x=\cos30^\circ=\dfrac{\sqrt3}2$ は作図でき、直角は 3 等分できる(ex-icc-possible の (2))。
(2) $3\theta=180^\circ$:$\cos180^\circ=-1$ なので $4x^3-3x+1=(x+1)(2x-1)^2=0$ で、$x=\cos60^\circ=\dfrac12$ は有理数である。$180^\circ$(一直線)は 3 等分できる。
(3) $3\theta=120^\circ$:$\cos120^\circ=-\dfrac12$ なので $8x^3-6x+1=0$、$y=2x$ とおいて $y^3-3y+1=0$ である。有理数の根の候補 $\pm1$ で値は $1-3+1=-1$、$-1+3+1=3$ で $0$ にならない。よって $\cos40^\circ$ は作図できず、$120^\circ$ は 3 等分できない。
(1)(2) は「3 等分できる角もある」ことを示し、(3) は $60^\circ$ 以外にも 3 等分できない角があることを示す。thm-icc-trisect が否定しているのは「すべての角を 3 等分する手順」であり、「どの角も 3 等分できない」ではない。

円積問題

$\sqrt\pi$ については、3 次方程式の方法は使えない。$\pi$ はどんな有理数係数の方程式の根にもならないからである。そこで、作図できる数がみたす性質を 1 つ取り出す。

代数的数と超越数

実数 $\alpha$ が、$0$ でない有理数係数の多項式 $h(x)$ の根になるとき($h(\alpha)=0$)、$\alpha$ を 代数的数 という。代数的数でない実数を 超越数 という。

たとえば $\sqrt2$ は $x^2-2$ の根、$\sqrt[3]2$ は $x^3-2$ の根、$2\cos20^\circ$ は $x^3-3x-1$ の根なので、どれも代数的数である。

作図できる数は代数的数

作図できる数は代数的数である。さらに、特徴づけの列 $F_0\subset\cdots\subset F_r$ の $F_r$ に入る数は、次数が $2^r$ 以下の $0$ でない有理数係数の多項式の根になる。

共役な多項式を掛けて係数を下ろす

方針:係数が $F(\sqrt d)$ に入る多項式に、係数の共役をとった多項式を掛けると、係数が $F$ に下りる。これを列にそって $r$ 回くり返す。
段 1(1 段下ろす)。$F$、$d$ を lem-icc-bar のとおりとし、$\alpha$ が $0$ でない多項式 $g(x)=c_nx^n+\cdots+c_1x+c_0$($c_j\in F(\sqrt d)$、$c_n\ne0$)の根であるとする。係数の共役をとった $\bar g(x)=\bar c_nx^n+\cdots+\bar c_0$ と、積 $h(x)=g(x)\bar g(x)$ を考える。

  • $h$ の $x^m$ の係数は $e_m=\sum_{i+j=m}c_i\bar c_j$ である。lem-icc-bar により $\bar e_m=\sum_{i+j=m}\bar c_i c_j$ で、これは $i$ と $j$ の役割を入れかえた同じ和なので $e_m$ に等しい。よって $e_m$ は $F$ に入る(lem-icc-bar の最後の主張)。
  • $h$ の最高次の係数は $c_n\bar c_n$ である。$\bar c_n=0$ なら $c_n=\overline{\bar c_n}=\bar0=0$ となり矛盾するので $\bar c_n\ne0$ で、$c_n\bar c_n\ne0$ である。よって $h$ は $0$ でなく、次数は $2n$ である。
  • $h(\alpha)=g(\alpha)\bar g(\alpha)=0\cdot\bar g(\alpha)=0$ である。
    したがって $\alpha$ は、係数が $F$ に入る次数 $2n$ の $0$ でない多項式の根である。
    段 2(くり返す)。$\alpha\in F_r$ なら、$\alpha$ は係数が $F_r$ に入る 1 次式 $x-\alpha$ の根である。段 1 を $F=F_{r-1},F_{r-2},\ldots,F_0$ の順に $r$ 回使うと、係数が $F_0=\mathbb{Q}$ に入り次数が $2^r$ の $0$ でない多項式で $\alpha$ を根とするものが得られる。作図できる数はある $F_r$ に入るので、代数的数である。$\square$
係数を下ろす計算

$\alpha=\sqrt{1+\sqrt2}=1.5537\ldots$ は、列 $\mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}(\sqrt2)\subset\mathbb{Q}(\sqrt2)(\alpha)$ の最後に入る。$\alpha$ は $g(x)=x^2-(1+\sqrt2)$ の根で、係数は $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ に入る。係数の共役をとると $\bar g(x)=x^2-(1-\sqrt2)$ であり、
$$ g(x)\bar g(x)=(x^2-1)^2-(\sqrt2)^2=x^4-2x^2+1-2=x^4-2x^2-1 $$
となる。係数は有理数で、$\alpha^4-2\alpha^2-1=(1+\sqrt2)^2-2(1+\sqrt2)-1=3+2\sqrt2-2-2\sqrt2-1=0$ である。次数は $4=2^2$ である。

Lindemann の定理

円周率 $\pi$ は超越数である。

Lindemann の定理の出典

この定理は高校数学の範囲を超えるので、この記事では証明しない。Lindemann が 1882 年に証明した(Lin82)。$\pi$ が無理数であることの証明は 円周率の無理性 にあるが、無理数であることだけでは円積問題には足りない($\sqrt2$ のように作図できる無理数がある)。より一般の超越数の話は 超越数 にある。

円積問題の不可能性

$\sqrt\pi$ は作図できない。したがって、定規とコンパスでは円と同じ面積の正方形を作図できない。

作図できれば $\pi$ も代数的数になる

$\sqrt\pi$ が作図できたとすると、作図できる数の積も作図できるので、$\pi=\sqrt\pi\cdot\sqrt\pi$ も作図できる。prop-icc-algebraic により $\pi$ は代数的数になるが、これは thm-icc-lindemann に反する。よって $\sqrt\pi$ は作図できず、prop-icc-translate の 3 により円積問題は作図できない。$\square$

高校数学で解く・大学数学で見る

正九角形の作図

正九角形は定規とコンパスで作図できるか。

高校数学で解く

段 1。正五角形と黄金比 と同じく、「正九角形が作図できる」とは、原点 $O$ を中心とする単位円に内接し $(1,0)$ を頂点とする正九角形が作図できることとする。1 辺の両端と中心を結ぶ角(中心角)は $360^\circ\mathbin{÷}9=40^\circ$ なので、$(1,0)$ の隣の頂点は $(\cos40^\circ,\sin40^\circ)$ である。この点が作図できれば、点と座標の関係により $\cos40^\circ$ が作図できる。
段 2。ところが ex-icc-angles の (3) により、$y=2\cos40^\circ$ は $y^3-3y+1=0$ の根で、この方程式は有理数の根をもたないので、thm-icc-cubic により $2\cos40^\circ$ は作図できない。$\cos40^\circ$ が作図できれば $2\cos40^\circ$ も作図できるはずなので矛盾する。よって正九角形は作図できない。$\square$

大学数学で見る:拡大次数が 2 の冪でない

大学の言葉では、有理数の根をもたない 3 次式は $\mathbb{Q}$ の上で既約多項式であり、その根 $\alpha$ について $\mathbb{Q}(\alpha)$ は $\mathbb{Q}$ 上の 3 次元のベクトル空間になる(拡大次数 が $3$)。一方、作図できる数は次数 $2^r$ の体 $F_r$ に入るので、次数の掛け算の規則(塔の次数は各段の次数の積)により、作図できる数の次数は $2^r$ の約数、つまり $2$ の冪である。$3$ は $2$ の冪の約数でないので、$\sqrt[3]2$、$2\cos20^\circ$、$2\cos40^\circ$ は作図できない(Mil22 Corollary 1.38–1.40)。lem-icc-conjugate の共役の操作は、大学では体の自己同型と呼ばれ、Galois理論 の出発点になる。
正九角形については、正 $n$ 角形が作図できるのは $n$ が $2$ の冪と相異なる Fermat 素数($3,5,17,257,65537$)の積のときに限る(Gauss–Wantzel の定理)。$9=3^2$ は同じ Fermat 素数 $3$ を 2 回含むので作図できない。これは 作図可能数 の記事で証明され、高校向けには 正多角形の作図可能性 で扱う。
円積問題は性質が違う。$\sqrt[3]2$ や $\cos20^\circ$ は代数的数だが次数が合わないので作図できないのに対し、$\sqrt\pi$ はそもそも代数的数でない。前者は代数(多項式と平方根)だけで証明できるが、後者には解析(Lindemann の定理)が必要である(Mil22 Corollary 1.41)。

例と反例

外した仮定崩れる主張ボックス
定規に目盛りがない$60^\circ$ は 3 等分できないex-icc-neusis
3 次方程式である有理数の根がなければ根は作図できないex-icc-quartic
有理数の根をもたない根は作図できないex-icc-angles の (1)(2)、ex-icc-conjugate
正確な作図(有限回で正確に一致)$20^\circ$ は作れないex-icc-approx
反例:目盛り付き定規なら角を 3 等分できる

定規に 2 つの印(間の長さ $1$)を付けることを許す。$O$ を中心とする単位円の上に $B(1,0)$ と、$\angle AOB=\theta$ となる点 $A$ をとる。定規を $A$ に当てたまま動かし、定規が $x$ 軸の負の部分と交わる点 $D$ と、単位円と交わる点 $C$ の間の長さが、ちょうど印の間の長さ $1$ になる位置で直線を引く(図 3)。このとき $\angle ADO=\dfrac\theta3$ である。
証明:$\angle CDO=\alpha$ とおく。三角形 $DCO$ は $CD=CO=1$ の二等辺三角形なので $\angle COD=\alpha$ で、外角 $\angle OCA=2\alpha$ である。三角形 $OCA$ は $OC=OA=1$ の二等辺三角形なので $\angle OAC=2\alpha$ である。三角形 $AOD$ の外角として $\angle AOB=\angle ODA+\angle OAD=\alpha+2\alpha=3\alpha$ なので、$\alpha=\dfrac\theta3$ である。数値では、$\theta=60^\circ$ のとき $D=(-2\cos20^\circ,0)=(-1.8793\ldots,0)$、$C=(-0.9396\ldots,0.3420\ldots)$ となる。
満たす性質:直線と円だけを使う。満たさない性質:定規は 2 点を通る直線を引くだけに使う(ここでは「長さ $1$ を合わせながら動かす」使い方をしている)。破る含意:thm-icc-trisect。印を合わせる条件を式にすると、$c=\cos\theta$、$D=(-t,0)$($t=OD>0$)として、$C$ は $D$ から $A$ の向きに長さ $1$ だけ進んだ点 $\overrightarrow{OC}=\overrightarrow{OD}+\dfrac{1}{AD}\overrightarrow{DA}$ で、$OC=1$ である。$\overrightarrow{OD}\cdot\overrightarrow{DA}=-t(t+c)$ を使って $OC^2=1$ を展開すると $t\cdot AD=2(t+c)$ となり、両辺を 2 乗して $AD^2=t^2+2ct+1$ を代入すると、$t$ についての 4 次方程式 $t^4+2ct^3-3t^2-8ct-4c^2=0$ が出る。この作図の場合には、この 4 次式が $(t+2c)(t^3-3t-2c)$ と因数分解され(因数 $t+2c$ が $0$ になるのは $AD=1$、つまり $C$ が $A$ に重なる場合で、作図には使わない)、3 次方程式 $t^3-3t=2\cos\theta$ に帰着する。その根が $t=2\cos\dfrac\theta3$ で、$\theta=60^\circ$ では thm-icc-trisect の 3 次方程式 $y^3-3y-1=0$ そのものである。こうして、座標が平方根だけで決まるという制約が外れる。

目盛り付き定規による角の 3 等分(θ = 60°)。A を通る直線を、x 軸との交点 D と円との交点 C の間がちょうど 1 になるように引くと、∠ADO = θ/3 になる 目盛り付き定規による角の 3 等分(θ = 60°)。A を通る直線を、x 軸との交点 D と円との交点 C の間がちょうど 1 になるように引くと、∠ADO = θ/3 になる

反例:4 次方程式では「有理数の根がない」だけでは足りない

$h(x)=x^4-2x^2-1$ の有理数の根の候補は $\pm1$ で、$h(\pm1)=1-2-1=-2\ne0$ なので、$h$ は有理数の根をもたない。ところが根 $\sqrt{1+\sqrt2}$ は作図できる(ex-icc-algebraic、定規とコンパスによる作図 の例)。
満たす性質:有理数係数で、有理数の根をもたない。満たさない性質:3 次である。破る含意:「有理数係数の方程式が有理数の根をもたなければ、根は作図できない」。thm-icc-cubic の証明の lem-icc-conjugate は、根を 2 つ(共役の組)取り除くと残りが 1 つになる 3 次式だからこそ使えた。4 次式では共役の組を 2 つ取ると何も残らない。

反例:近似でよければ 20° にいくらでも近づける

$60^\circ$ の角を 2 等分する操作をくり返すと、$15^\circ$、$15^\circ+3.75^\circ=18.75^\circ$、$18.75^\circ+0.9375^\circ=19.6875^\circ$、… と作図でき、$n$ 段目の誤差は $\dfrac{20^\circ}{4^n}$ である($\dfrac14+\dfrac1{16}+\cdots\to\dfrac13$)。5 段目で $19.98046875^\circ$、誤差は $0.02^\circ$ 未満になる。
満たす性質:各段は有限回の定規とコンパスの操作。満たさない性質:$20^\circ$ に正確に一致する。破る含意:「$20^\circ$ はいくらでも正確に作れるから作図できる」。作図の不可能性は「正確に一致する有限の手順がない」という意味で、近似の作図とは矛盾しない(定規とコンパスによる作図 の反例「無限回の 2 等分」)。

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関連項目

参考文献

[1]
Pierre Laurent Wantzel, Recherches sur les moyens de reconnaître si un Problème de Géométrie peut se résoudre avec la règle et le compas, Journal de Mathématiques Pures et Appliquées (1re série), 1837, pp. 366–372(Numdam: JMPA_1837_1_2__366_0)

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