3大作図問題の不可能性(impossibility of the three classical construction problems)とは、立方体の倍積、任意の角の 3 等分、円積問題の 3 つが、目盛りのない定規とコンパスでは作図できないという定理である。3 つの問題は $\sqrt[3]2$、$\cos20^\circ$、$\sqrt\pi$ の作図にあたる。作図できる数は有理数から四則と平方根で作れる数なので、有理数係数の 3 次方程式の根が作図できるなら、共役な根と解と係数の関係により有理数の根が現れる。$x^3-2$ と $y^3-3y-1$($y=2\cos20^\circ$)は有理数の根をもたないので、倍積と $60^\circ$ の 3 等分はできない。作図できる数は代数的数であり、$\pi$ は超越数(Lindemann の定理)なので、円積問題もできない。
前提知識: 定規とコンパスによる作図, 剰余の定理と因数定理, n次方程式の解と係数の関係, 加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く
目盛りのない定規とコンパスで、線分の 2 等分や角の 2 等分はすぐにできる。まず、似ているのに「できる」作図を 3 つ見る。
古代ギリシャでは、これらとよく似た次の 3 つの問題が、定規とコンパスでは解けないまま残った。
3 大作図問題。左は 1 辺 1 の立方体と体積 2 の立方体(1 辺 ∛2)、中央は 60° の角を 20° ずつに分けたい様子、右は半径 1 の円と面積の等しい正方形(1 辺 √π)
| 高校の計算・定理 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 3 倍角の公式 $\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$ | $\cos20^\circ$ の 3 次方程式 | Chebyshev多項式 $T_3$ |
| 有理数の根の候補(定数項と最高次の係数の約数) | 有理数の根がないことの確認 | 既約多項式(3 次) |
| 分母の有理化、共役な数 $p\pm q\sqrt d$ | 共役な根の補題 | 体の自己同型、Galois理論 |
| 解と係数の関係 $\alpha+\beta+\gamma=-a$ | 3 つ目の根を取り出す | — |
| 作図できる数は平方根の列に入る | 作図できる数は代数的数 | 次数が $2$ の冪(拡大次数、作図可能数) |
定規とコンパスによる作図 と同じく、原点 $O(0,0)$ と $E(1,0)$ から出発し、長さ $1$ を単位とする。そこで示したことのうち、この記事で使うのは次の 3 つである。
段 1(倍積)。与えられた立方体の 1 辺を長さの単位 $1$ にとる。体積 $2$ の立方体の 1 辺は $x^3=2$ の正の解 $\sqrt[3]2$ なので、倍積は長さ $\sqrt[3]2$ の線分を作ることと同じである。
段 2($60^\circ$ の 3 等分)。$60^\circ$ の角は、$O$、$E$ と 定規とコンパスによる作図 の例の点 $\left(\dfrac12,\dfrac{\sqrt3}2\right)$ で作図できる。この角が 3 等分できれば、$x$ 軸から $20^\circ$ 回った半直線が引け、単位円との交点 $(\cos20^\circ,\sin20^\circ)$ が作図できるので、$\cos20^\circ$ が作図できる。逆に $\cos20^\circ$ が作図できれば、$\sin20^\circ=\sqrt{1-\cos^2 20^\circ}$ も作図でき、点 $(\cos20^\circ,\sin20^\circ)$ と $O$ を結んで $20^\circ$ の角が得られる。
3 倍角の公式 $\cos3\theta=4\cos^3\theta-3\cos\theta$(加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く)で $\theta=20^\circ$ とおくと、$\cos60^\circ=\dfrac12$ なので
$$
\frac12=4c^3-3c,\qquad 8c^3-6c-1=0
$$
である。
段 3(円積)。与えられた円の半径を単位 $1$ にとる。面積は $\pi$ で、同じ面積の正方形の 1 辺は $\sqrt\pi$ である。$\square$
$\sqrt[3]2=1.25992\ldots$、$\cos20^\circ=0.93969\ldots$、$\sqrt\pi=1.77245\ldots$ である。$c=0.93969\ldots$ を $8c^3-6c-1$ に入れると、$8\times0.82977\ldots-6\times0.93969\ldots-1=6.63815\ldots-5.63815\ldots-1=0.0000\ldots$ となり、確かに $0$ になる。
$8c^3-6c-1=0$ は、$y=2c$ とおくと $y^3-3y-1=0$ と書ける($8c^3=(2c)^3$、$6c=3\cdot2c$)。この形のほうが係数が簡単なので、以下では $y=2\cos20^\circ=1.87938\ldots$ を調べる。
平方根を 1 つ付け加えた集まり $F(\sqrt d)$ の数 $\alpha=p+q\sqrt d$ に対し、$\sqrt d$ の前の符号を変えた $\bar\alpha:=p-q\sqrt d$ を $\alpha$ の 共役 と呼ぶ。分母の有理化で $3+2\sqrt2$ に掛ける $3-2\sqrt2$ がその例である。
$F$ を四則で閉じた集まり、$d$ を $F$ の正の数で $\sqrt d$ が $F$ に入らないものとする。$F(\sqrt d)$ の数 $\alpha$、$\beta$ について
$$
\overline{\alpha+\beta}=\bar\alpha+\bar\beta,\qquad \overline{\alpha\beta}=\bar\alpha\,\bar\beta
$$
であり、$F$ の数 $u$ については $\bar u=u$ である。また $\bar\alpha=\alpha$ となるのは $\alpha$ が $F$ に入るときだけである。
$\alpha=p+q\sqrt d$、$\beta=p'+q'\sqrt d$($p,q,p',q'\in F$)とする。書き方はただ 1 通りなので、$\bar\alpha$ は $\alpha$ だけで決まる。
段 1(和)。$\alpha+\beta=(p+p')+(q+q')\sqrt d$ なので $\overline{\alpha+\beta}=(p+p')-(q+q')\sqrt d=\bar\alpha+\bar\beta$ である。
段 2(積)。$\alpha\beta=(pp'+qq'd)+(pq'+qp')\sqrt d$ なので $\overline{\alpha\beta}=(pp'+qq'd)-(pq'+qp')\sqrt d$ である。一方
$$
\bar\alpha\,\bar\beta=(p-q\sqrt d)(p'-q'\sqrt d)=(pp'+qq'd)-(pq'+qp')\sqrt d
$$
であり、両者は等しい。
段 3($F$ の数)。$u\in F$ は $u+0\sqrt d$ と書けるので $\bar u=u-0\sqrt d=u$ である。逆に $\bar\alpha=\alpha$ なら $p-q\sqrt d=p+q\sqrt d$ で、書き方がただ 1 通りであることから $q=-q$、$q=0$ となり、$\alpha=p\in F$ である。$\square$
この補題をくり返し使うと、係数が $F$ に入る多項式 $f(x)=x^3+ax^2+bx+c$ について
$$
\overline{f(\alpha)}=\bar\alpha^3+a\bar\alpha^2+b\bar\alpha+c=f(\bar\alpha)
$$
となる($\overline{\alpha^3}=\bar\alpha^3$ などは積の規則から、$\bar a=a$ などは $a\in F$ から)。したがって $f(\alpha)=0$ なら $f(\bar\alpha)=\bar0=0$ である。つまり 根の共役もまた根 である。
$f(x)=x^3-x^2-2x+2$ を考える。$f(x)=x^2(x-1)-2(x-1)=(x-1)(x^2-2)$ なので、根は $\sqrt2$、$-\sqrt2$、$1$ である。$\sqrt2=0+1\cdot\sqrt2$ は $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ の数で、その共役 $-\sqrt2$ も根になっている。解と係数の関係から 3 つの根の和は $-(-1)=1$ なので、3 つ目の根は $1-\sqrt2-(-\sqrt2)=1$ で、有理数である。
このように、係数が有理数の 3 次方程式が $\mathbb{Q}(\sqrt d)$ の根をもつと、有理数の根が 1 つ取り出せる。次の補題はこれを一般の $F$ で述べたものである。
$F$ を四則で閉じた集まり、$d$ を $F$ の正の数で $\sqrt d$ が $F$ に入らないものとし、$f(x)=x^3+ax^2+bx+c$($a,b,c\in F$)とする。$f$ が $F(\sqrt d)$ の中に根をもつならば、$f$ は $F$ の中にも根をもつ。
方針:$F(\sqrt d)$ の根 $\alpha$ の共役 $\bar\alpha$ も根であることを使い、解と係数の関係で 3 つ目の根を $F$ の数で書く。
段 1($\alpha$ が $F$ に入るとき)。$\alpha=p+q\sqrt d$ で $q=0$ なら $\alpha\in F$ で、これが求める根である。以下 $q\ne0$ とする。
段 2(共役も根)。lem-icc-bar の後に述べたとおり $f(\bar\alpha)=\overline{f(\alpha)}=0$ である。$q\ne0$ なので $\bar\alpha=p-q\sqrt d\ne\alpha$ である。
段 3(因数分解)。$\alpha$ は $f$ の根なので、因数定理により $f(x)=(x-\alpha)g(x)$($g$ は 2 次式)と書ける(剰余の定理と因数定理)。$x=\bar\alpha$ を入れると $0=(\bar\alpha-\alpha)g(\bar\alpha)$ で、$\bar\alpha-\alpha\ne0$ なので $g(\bar\alpha)=0$ である。もう一度因数定理を使うと $g(x)=(x-\bar\alpha)(x-\gamma)$ と書け、
$$
f(x)=(x-\alpha)(x-\bar\alpha)(x-\gamma)
$$
となる。$\gamma$ も $f$ の根である。
段 4(3 つ目の根は $F$ に入る)。右辺を展開したときの $x^2$ の係数は $-(\alpha+\bar\alpha+\gamma)$ で、左辺の $x^2$ の係数 $a$ と等しい(n次方程式の解と係数の関係)。$\alpha+\bar\alpha=2p$ なので
$$
\gamma=-a-2p
$$
である。$a,p\in F$ なので $\gamma\in F$ であり、$\gamma$ が求める根である。$\square$
有理数係数の 3 次方程式 $f(x)=0$ が有理数の根をもたないならば、その実数の根はどれも作図できない。
方針:作図できる根があるとして、平方根の列の中で根が初めて現れる段を考え、lem-icc-conjugate で 1 段前に戻して矛盾を導く。
段 1(準備)。最高次の係数で割っても根は変わらないので、$f(x)=x^3+ax^2+bx+c$($a,b,c$ は有理数)としてよい。
段 2(背理法の仮定)。$f$ の実数の根 $\alpha$ が作図できたとする。特徴づけにより、列 $\mathbb{Q}=F_0\subset F_1\subset\cdots\subset F_r$($F_i=F_{i-1}(\sqrt{d_i})$)で $\alpha\in F_r$ となるものがある。すると「$f$ の根を含む $F_k$」があるので、そのような $k$ のうち最小のものを $k_0$ とする。
段 3($k_0\ge1$ はありえない)。$k_0\ge1$ とすると、$f$ は $F_{k_0}=F_{k_0-1}(\sqrt{d_{k_0}})$ の中に根をもち、係数 $a,b,c$ は有理数なので $F_{k_0-1}$ に入る。lem-icc-conjugate により $f$ は $F_{k_0-1}$ の中にも根をもつ。これは $k_0$ の最小性に反する。
段 4(結論)。よって $k_0=0$ で、$f$ は $F_0=\mathbb{Q}$ の中に根をもつ。これは「有理数の根をもたない」という仮定に反する。したがって $f$ の実数の根は作図できない。$\square$
有理数の根があるかどうかは、次の方法で有限回の計算で確かめられる。
整数係数の多項式 $f(x)=a_nx^n+\cdots+a_1x+a_0$($a_n\ne0$、$a_0\ne0$)が有理数の根 $\dfrac rs$($r,s$ は互いに素な整数、$s>0$)をもつならば、$r$ は $a_0$ の約数で、$s$ は $a_n$ の約数である。とくに $a_n=1$ なら、有理数の根は $a_0$ の約数である整数に限られる。
$f\left(\dfrac rs\right)=0$ の両辺に $s^n$ を掛けると
$$
a_nr^n+a_{n-1}r^{n-1}s+\cdots+a_1rs^{n-1}+a_0s^n=0
$$
である。段 1:$a_0s^n$ 以外の項はすべて $r$ で割り切れるので、$a_0s^n=-(a_nr^n+\cdots+a_1rs^{n-1})$ も $r$ で割り切れる。$r$ と $s$ は互いに素なので $r$ と $s^n$ も互いに素であり、$r$ は $a_0$ を割り切る。段 2:同じように $a_nr^n$ 以外の項はすべて $s$ で割り切れるので、$s$ は $a_nr^n$ を割り切り、$s$ と $r^n$ は互いに素なので $s$ は $a_n$ を割り切る。$\square$
同じ命題は 剰余の定理と因数定理 の命題「有理数の根の候補」、実数とは何か:無理数の証明 の有理根定理にもある。
$\sqrt[3]2$ は作図できない。したがって、定規とコンパスでは立方体の倍積はできない。
$\sqrt[3]2$ は $f(x)=x^3-2=0$ の実数の根である。lem-icc-rational-root により、有理数の根があれば $-2$ の約数 $\pm1,\pm2$ のどれかである。ところが
$$
f(1)=-1,\qquad f(-1)=-3,\qquad f(2)=6,\qquad f(-2)=-10
$$
でどれも $0$ でない。よって $f$ は有理数の根をもたず、thm-icc-cubic により $\sqrt[3]2$ は作図できない。prop-icc-translate の 1 により倍積はできない。$\square$
$\cos20^\circ$ は作図できない。したがって、定規とコンパスでは $60^\circ$ の角を 3 等分できない。とくに「どんな角でも 3 等分する」定規とコンパスの手順は存在しない。
段 1。ex-icc-values により、$y=2\cos20^\circ$ は $g(y)=y^3-3y-1=0$ の根である。lem-icc-rational-root により有理数の根があれば $\pm1$ である。$g(1)=1-3-1=-3$、$g(-1)=-1+3-1=1$ でどちらも $0$ でないので、$g$ は有理数の根をもたない。
段 2。thm-icc-cubic により $2\cos20^\circ$ は作図できない。もし $\cos20^\circ$ が作図できれば、その 2 倍も作図できるはずなので、$\cos20^\circ$ も作図できない。
段 3。prop-icc-translate の 2 により、$60^\circ$ の角は 3 等分できない。$60^\circ$ の角は作図できる角なので、どんな角でも 3 等分する手順があれば $60^\circ$ も 3 等分できてしまう。よってそのような手順はない。$\square$
y³ − 3y − 1 のグラフ。3 つの根 2cos 20°, 2cos 140°, 2cos 260° はどれも整数でなく、整数の候補 y = ±1 での値は −3 と 1 で 0 にならない
一般に、角 $3\theta$ が作図できるとき、それを 3 等分することは $x=\cos\theta$ を作ることで、$x$ は $4x^3-3x-\cos3\theta=0$ の根である。
(1) $3\theta=90^\circ$:$\cos90^\circ=0$ なので $4x^3-3x=x(4x^2-3)=0$ である。有理数の根 $0$ があるので thm-icc-cubic は使えない。実際 $x=\cos30^\circ=\dfrac{\sqrt3}2$ は作図でき、直角は 3 等分できる(ex-icc-possible の (2))。
(2) $3\theta=180^\circ$:$\cos180^\circ=-1$ なので $4x^3-3x+1=(x+1)(2x-1)^2=0$ で、$x=\cos60^\circ=\dfrac12$ は有理数である。$180^\circ$(一直線)は 3 等分できる。
(3) $3\theta=120^\circ$:$\cos120^\circ=-\dfrac12$ なので $8x^3-6x+1=0$、$y=2x$ とおいて $y^3-3y+1=0$ である。有理数の根の候補 $\pm1$ で値は $1-3+1=-1$、$-1+3+1=3$ で $0$ にならない。よって $\cos40^\circ$ は作図できず、$120^\circ$ は 3 等分できない。
(1)(2) は「3 等分できる角もある」ことを示し、(3) は $60^\circ$ 以外にも 3 等分できない角があることを示す。thm-icc-trisect が否定しているのは「すべての角を 3 等分する手順」であり、「どの角も 3 等分できない」ではない。
$\sqrt\pi$ については、3 次方程式の方法は使えない。$\pi$ はどんな有理数係数の方程式の根にもならないからである。そこで、作図できる数がみたす性質を 1 つ取り出す。
実数 $\alpha$ が、$0$ でない有理数係数の多項式 $h(x)$ の根になるとき($h(\alpha)=0$)、$\alpha$ を 代数的数 という。代数的数でない実数を 超越数 という。
たとえば $\sqrt2$ は $x^2-2$ の根、$\sqrt[3]2$ は $x^3-2$ の根、$2\cos20^\circ$ は $x^3-3x-1$ の根なので、どれも代数的数である。
作図できる数は代数的数である。さらに、特徴づけの列 $F_0\subset\cdots\subset F_r$ の $F_r$ に入る数は、次数が $2^r$ 以下の $0$ でない有理数係数の多項式の根になる。
方針:係数が $F(\sqrt d)$ に入る多項式に、係数の共役をとった多項式を掛けると、係数が $F$ に下りる。これを列にそって $r$ 回くり返す。
段 1(1 段下ろす)。$F$、$d$ を lem-icc-bar のとおりとし、$\alpha$ が $0$ でない多項式 $g(x)=c_nx^n+\cdots+c_1x+c_0$($c_j\in F(\sqrt d)$、$c_n\ne0$)の根であるとする。係数の共役をとった $\bar g(x)=\bar c_nx^n+\cdots+\bar c_0$ と、積 $h(x)=g(x)\bar g(x)$ を考える。
$\alpha=\sqrt{1+\sqrt2}=1.5537\ldots$ は、列 $\mathbb{Q}\subset\mathbb{Q}(\sqrt2)\subset\mathbb{Q}(\sqrt2)(\alpha)$ の最後に入る。$\alpha$ は $g(x)=x^2-(1+\sqrt2)$ の根で、係数は $\mathbb{Q}(\sqrt2)$ に入る。係数の共役をとると $\bar g(x)=x^2-(1-\sqrt2)$ であり、
$$
g(x)\bar g(x)=(x^2-1)^2-(\sqrt2)^2=x^4-2x^2+1-2=x^4-2x^2-1
$$
となる。係数は有理数で、$\alpha^4-2\alpha^2-1=(1+\sqrt2)^2-2(1+\sqrt2)-1=3+2\sqrt2-2-2\sqrt2-1=0$ である。次数は $4=2^2$ である。
円周率 $\pi$ は超越数である。
$\sqrt\pi$ は作図できない。したがって、定規とコンパスでは円と同じ面積の正方形を作図できない。
$\sqrt\pi$ が作図できたとすると、作図できる数の積も作図できるので、$\pi=\sqrt\pi\cdot\sqrt\pi$ も作図できる。prop-icc-algebraic により $\pi$ は代数的数になるが、これは thm-icc-lindemann に反する。よって $\sqrt\pi$ は作図できず、prop-icc-translate の 3 により円積問題は作図できない。$\square$
正九角形は定規とコンパスで作図できるか。
段 1。正五角形と黄金比 と同じく、「正九角形が作図できる」とは、原点 $O$ を中心とする単位円に内接し $(1,0)$ を頂点とする正九角形が作図できることとする。1 辺の両端と中心を結ぶ角(中心角)は $360^\circ\mathbin{÷}9=40^\circ$ なので、$(1,0)$ の隣の頂点は $(\cos40^\circ,\sin40^\circ)$ である。この点が作図できれば、点と座標の関係により $\cos40^\circ$ が作図できる。
段 2。ところが ex-icc-angles の (3) により、$y=2\cos40^\circ$ は $y^3-3y+1=0$ の根で、この方程式は有理数の根をもたないので、thm-icc-cubic により $2\cos40^\circ$ は作図できない。$\cos40^\circ$ が作図できれば $2\cos40^\circ$ も作図できるはずなので矛盾する。よって正九角形は作図できない。$\square$
大学の言葉では、有理数の根をもたない 3 次式は $\mathbb{Q}$ の上で既約多項式であり、その根 $\alpha$ について $\mathbb{Q}(\alpha)$ は $\mathbb{Q}$ 上の 3 次元のベクトル空間になる(拡大次数 が $3$)。一方、作図できる数は次数 $2^r$ の体 $F_r$ に入るので、次数の掛け算の規則(塔の次数は各段の次数の積)により、作図できる数の次数は $2^r$ の約数、つまり $2$ の冪である。$3$ は $2$ の冪の約数でないので、$\sqrt[3]2$、$2\cos20^\circ$、$2\cos40^\circ$ は作図できない(Mil22 Corollary 1.38–1.40)。lem-icc-conjugate の共役の操作は、大学では体の自己同型と呼ばれ、Galois理論 の出発点になる。
正九角形については、正 $n$ 角形が作図できるのは $n$ が $2$ の冪と相異なる Fermat 素数($3,5,17,257,65537$)の積のときに限る(Gauss–Wantzel の定理)。$9=3^2$ は同じ Fermat 素数 $3$ を 2 回含むので作図できない。これは 作図可能数 の記事で証明され、高校向けには 正多角形の作図可能性 で扱う。
円積問題は性質が違う。$\sqrt[3]2$ や $\cos20^\circ$ は代数的数だが次数が合わないので作図できないのに対し、$\sqrt\pi$ はそもそも代数的数でない。前者は代数(多項式と平方根)だけで証明できるが、後者には解析(Lindemann の定理)が必要である(Mil22 Corollary 1.41)。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 定規に目盛りがない | $60^\circ$ は 3 等分できない | ex-icc-neusis |
| 3 次方程式である | 有理数の根がなければ根は作図できない | ex-icc-quartic |
| 有理数の根をもたない | 根は作図できない | ex-icc-angles の (1)(2)、ex-icc-conjugate |
| 正確な作図(有限回で正確に一致) | $20^\circ$ は作れない | ex-icc-approx |
定規に 2 つの印(間の長さ $1$)を付けることを許す。$O$ を中心とする単位円の上に $B(1,0)$ と、$\angle AOB=\theta$ となる点 $A$ をとる。定規を $A$ に当てたまま動かし、定規が $x$ 軸の負の部分と交わる点 $D$ と、単位円と交わる点 $C$ の間の長さが、ちょうど印の間の長さ $1$ になる位置で直線を引く(図 3)。このとき $\angle ADO=\dfrac\theta3$ である。
証明:$\angle CDO=\alpha$ とおく。三角形 $DCO$ は $CD=CO=1$ の二等辺三角形なので $\angle COD=\alpha$ で、外角 $\angle OCA=2\alpha$ である。三角形 $OCA$ は $OC=OA=1$ の二等辺三角形なので $\angle OAC=2\alpha$ である。三角形 $AOD$ の外角として $\angle AOB=\angle ODA+\angle OAD=\alpha+2\alpha=3\alpha$ なので、$\alpha=\dfrac\theta3$ である。数値では、$\theta=60^\circ$ のとき $D=(-2\cos20^\circ,0)=(-1.8793\ldots,0)$、$C=(-0.9396\ldots,0.3420\ldots)$ となる。
満たす性質:直線と円だけを使う。満たさない性質:定規は 2 点を通る直線を引くだけに使う(ここでは「長さ $1$ を合わせながら動かす」使い方をしている)。破る含意:thm-icc-trisect。印を合わせる条件を式にすると、$c=\cos\theta$、$D=(-t,0)$($t=OD>0$)として、$C$ は $D$ から $A$ の向きに長さ $1$ だけ進んだ点 $\overrightarrow{OC}=\overrightarrow{OD}+\dfrac{1}{AD}\overrightarrow{DA}$ で、$OC=1$ である。$\overrightarrow{OD}\cdot\overrightarrow{DA}=-t(t+c)$ を使って $OC^2=1$ を展開すると $t\cdot AD=2(t+c)$ となり、両辺を 2 乗して $AD^2=t^2+2ct+1$ を代入すると、$t$ についての 4 次方程式 $t^4+2ct^3-3t^2-8ct-4c^2=0$ が出る。この作図の場合には、この 4 次式が $(t+2c)(t^3-3t-2c)$ と因数分解され(因数 $t+2c$ が $0$ になるのは $AD=1$、つまり $C$ が $A$ に重なる場合で、作図には使わない)、3 次方程式 $t^3-3t=2\cos\theta$ に帰着する。その根が $t=2\cos\dfrac\theta3$ で、$\theta=60^\circ$ では thm-icc-trisect の 3 次方程式 $y^3-3y-1=0$ そのものである。こうして、座標が平方根だけで決まるという制約が外れる。
目盛り付き定規による角の 3 等分(θ = 60°)。A を通る直線を、x 軸との交点 D と円との交点 C の間がちょうど 1 になるように引くと、∠ADO = θ/3 になる
$h(x)=x^4-2x^2-1$ の有理数の根の候補は $\pm1$ で、$h(\pm1)=1-2-1=-2\ne0$ なので、$h$ は有理数の根をもたない。ところが根 $\sqrt{1+\sqrt2}$ は作図できる(ex-icc-algebraic、定規とコンパスによる作図 の例)。
満たす性質:有理数係数で、有理数の根をもたない。満たさない性質:3 次である。破る含意:「有理数係数の方程式が有理数の根をもたなければ、根は作図できない」。thm-icc-cubic の証明の lem-icc-conjugate は、根を 2 つ(共役の組)取り除くと残りが 1 つになる 3 次式だからこそ使えた。4 次式では共役の組を 2 つ取ると何も残らない。
$60^\circ$ の角を 2 等分する操作をくり返すと、$15^\circ$、$15^\circ+3.75^\circ=18.75^\circ$、$18.75^\circ+0.9375^\circ=19.6875^\circ$、… と作図でき、$n$ 段目の誤差は $\dfrac{20^\circ}{4^n}$ である($\dfrac14+\dfrac1{16}+\cdots\to\dfrac13$)。5 段目で $19.98046875^\circ$、誤差は $0.02^\circ$ 未満になる。
満たす性質:各段は有限回の定規とコンパスの操作。満たさない性質:$20^\circ$ に正確に一致する。破る含意:「$20^\circ$ はいくらでも正確に作れるから作図できる」。作図の不可能性は「正確に一致する有限の手順がない」という意味で、近似の作図とは矛盾しない(定規とコンパスによる作図 の反例「無限回の 2 等分」)。
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