距離正則グラフ(distance-regular graph)とは、連結なグラフで、距離 $i$ にある 2 頂点 $x,y$ をどうとっても、$y$ の隣接頂点のうち $x$ から距離 $i-1,i,i+1$ にあるものの個数 $c_i,a_i,b_i$ が $i$ だけで決まるもののことである。$\{b_0,\dots,b_{d-1};c_1,\dots,c_d\}$ を交差配列といい、閉路・Petersen グラフ・Hamming グラフなどが例で、直径 $2$ のものは連結な強正則グラフである。直径 $d$ なら相異なる固有値はちょうど $d+1$ 個で、交差数を並べた三重対角行列の固有値に等しい。重複度は Biggs の公式で交差配列から決まり、それが整数であることが存在の条件になる。スペクトルが一致しても距離正則とは限らない。
距離正則グラフ(distance-regular graph)とは、連結なグラフで、距離 $i$ にある 2 頂点 $x,y$ をどうとっても、$y$ の隣接頂点のうち $x$ から距離 $i-1$、$i$、$i+1$ にあるものの個数が $x,y$ によらず $i$ だけで決まるもののことである。その個数を $c_i,a_i,b_i$ と書き、$\{b_0,\dots,b_{d-1};c_1,\dots,c_d\}$ を 交差配列(intersection array)という。完全グラフ、閉路、Petersen グラフ、立方体、Hamming グラフ、Johnson グラフなどが例であり、直径 $2$ の距離正則グラフは連結な強正則グラフにほかならない。
距離正則グラフでは、距離がちょうど $i$ の頂点の対を表す行列 $A_i$ が隣接行列 $A$ の $i$ 次の多項式になる。このことから、直径 $d$ の距離正則グラフは相異なる固有値をちょうど $d+1$ 個もち、それらは交差数を並べた $(d+1)$ 次の三重対角行列の固有値として計算でき、重複度も交差配列だけから決まる(Biggs の公式)。この記事の主定理はこれらの事実であり、記事の中で完全に証明する。
この記事のグラフは有限の単純グラフとする。連結なグラフ $\Gamma$ の 2 頂点 $x,y$ の距離を $d(x,y)$、直径を $d$ とし(距離(グラフ))、$x$ から距離 $i$ にある頂点の集合を $\Gamma_i(x)$ と書く。$\Gamma(x):=\Gamma_1(x)$ は $x$ の隣接頂点の集合である。$y\in\Gamma(x)$ のとき $|d(x,z)-d(y,z)|\le1$ がすべての $z$ で成り立つ(三角不等式)。
直径 $d$ の連結なグラフ $\Gamma$ が 距離正則 であるとは、整数 $c_i,a_i,b_i$($0\le i\le d$)があって、$d(x,y)=i$ をみたす任意の頂点 $x,y$ について
$$
|\Gamma_{i-1}(x)\cap\Gamma(y)|=c_i,\qquad |\Gamma_i(x)\cap\Gamma(y)|=a_i,\qquad |\Gamma_{i+1}(x)\cap\Gamma(y)|=b_i
$$
が成り立つことをいう($\Gamma_{-1}(x)=\Gamma_{d+1}(x)=\emptyset$ とする)。$c_i,a_i,b_i$ を 交差数(intersection numbers)、$\{b_0,b_1,\dots,b_{d-1};\,c_1,c_2,\dots,c_d\}$ を 交差配列 という。
定義から $c_0=0$、$b_d=0$、$a_0=0$、$c_1=1$ であり、$y$ の隣接頂点は $x$ から距離 $i-1,i,i+1$ のどれかにあるので、$k:=b_0$ とおくと
$$
c_i+a_i+b_i=k\qquad(0\le i\le d)
$$
である。とくに $\Gamma$ は $k$ 正則である。$a_i=k-b_i-c_i$ なので、交差配列からすべての交差数が決まる。$1\le i\le d$ で $c_i\ge1$($y$ から $x$ への最短の道の 2 番目の頂点)、$0\le i\le d-1$ で $b_i\ge1$(距離 $i+1$ の対 $x,z$ をとり、$x$ から $z$ への最短の道で $z$ の手前の頂点を $y$ とすると、$z\in\Gamma_{i+1}(x)\cap\Gamma(y)$)である。定義は vDKT16 §2.1(p. 8)と BH11 Chapter 12・§12.1(p. 173)による。
$\Gamma$ を距離正則グラフとする。$|\Gamma_i(x)|$ は $x$ によらず、$k_i$ と書くと
$$
k_0=1,\qquad k_{i+1}=\frac{b_i\,k_i}{c_{i+1}}=\frac{b_0b_1\cdots b_i}{c_1c_2\cdots c_{i+1}}\quad(0\le i\le d-1),\qquad v=k_0+k_1+\dots+k_d
$$
である($v$ は頂点の個数)。
頂点 $x$ を固定し、$\Gamma_i(x)$ と $\Gamma_{i+1}(x)$ を結ぶ辺の本数を 2 通りに数える。$\Gamma_i(x)$ の各頂点は $\Gamma_{i+1}(x)$ にちょうど $b_i$ 個の隣接頂点をもち、$\Gamma_{i+1}(x)$ の各頂点は $\Gamma_i(x)$ にちょうど $c_{i+1}$ 個の隣接頂点をもつ(隣接する 2 頂点の距離の差は $1$ 以下なので、これで辺はすべて数えている)。よって $|\Gamma_i(x)|\,b_i=|\Gamma_{i+1}(x)|\,c_{i+1}$ である。$|\Gamma_0(x)|=1$ から帰納法により $|\Gamma_i(x)|$ は上の式で与えられ、$x$ によらない。頂点全体は $\Gamma_0(x),\dots,\Gamma_d(x)$ に分かれるので $v=\sum_ik_i$ である。$\square$
この命題は vDKT16 §2.1(p. 8)と Proposition 2.3 (i)(p. 11)にある。$k_i$ は整数でなければならないので、$c_1\cdots c_{i+1}$ が $b_0\cdots b_i$ を割り切ることが、交差配列が実在するための最初の条件になる。
連結なグラフ $\Gamma$ について、$\Gamma$ が直径 $2$ の距離正則グラフであることと、$\Gamma$ が連結な強正則グラフであることは同値である。このとき $\Gamma=\mathrm{srg}(v,k,\lambda,\mu)$ の交差配列は $\{k,\ k-1-\lambda;\ 1,\ \mu\}$ である。
$\Gamma$ が直径 $2$ の距離正則グラフなら、$k$ 正則で、隣接する 2 頂点の共通の隣接頂点は $a_1$ 個、距離 $2$ の 2 頂点(隣接しない相異なる 2 頂点)の共通の隣接頂点は $c_2$ 個である。直径 $2$ なので隣接する対も隣接しない対もあり、$\Gamma$ は $\mathrm{srg}(v,k,a_1,c_2)$ である。
逆に $\Gamma$ を連結な $\mathrm{srg}(v,k,\lambda,\mu)$ とする。強正則グラフ の記事の命題「連結でない強正則グラフ」により $\mu\ge1$ なので、隣接しない 2 頂点は共通の隣接頂点をもち、距離は $2$ である。完全グラフでないので直径はちょうど $2$ である。距離 $1$ の $x,y$ について、$y$ の隣接頂点のうち $x$ 自身が $1$ 個、$x$ にも隣接するものが $\lambda$ 個、残り $k-1-\lambda$ 個は距離 $2$ にある。距離 $2$ の $x,y$ について、$y$ の隣接頂点のうち $x$ に隣接するものが $\mu$ 個、残り $k-\mu$ 個は距離 $2$ にある(直径 $2$ なので距離 $3$ はない)。よって $c_1=1$、$a_1=\lambda$、$b_1=k-1-\lambda$、$c_2=\mu$、$a_2=k-\mu$ で、距離正則である。$\square$
vDKT16 §2.2.3(p. 9)も、直径 $2$ の距離正則グラフがちょうど連結な強正則グラフであると述べている。
$Q$ を $q\ge2$ 個の元からなる集合とし、$Q^n$ を頂点とし、ちょうど 1 つの座標だけが異なる 2 点を隣接させたグラフを Hamming グラフ $H(n,q)$ という。$q=2$ なら立方体 $Q_n$ である。$H(n,q)$ は直径 $n$ の距離正則グラフで、
$$
c_i=i,\qquad a_i=i(q-2),\qquad b_i=(n-i)(q-1)
$$
である。
$x,y$ の異なる座標の個数(Hamming 距離)を $h(x,y)$ とする。1 回の移動で $h$ は高々 $1$ しか変わらないので $d(x,y)\ge h(x,y)$ であり、異なる座標を 1 つずつ $x$ の値に直せば長さ $h(x,y)$ の道ができるので $d(x,y)=h(x,y)$ である。$h(x,y)=i$ とし、異なる座標の集合を $D$($|D|=i$)とする。$y$ の隣接頂点は、1 つの座標 $j$ の値を別の値に替えたものである。$j\in D$ で $x_j$ に替えると距離 $i-1$($i$ 通り)、$j\in D$ で $x_j,y_j$ 以外に替えると距離 $i$($i(q-2)$ 通り)、$j\notin D$ で替えると距離 $i+1$($(n-i)(q-1)$ 通り)である。どれも $x,y$ によらない。
Johnson グラフ $J(n,m)$($n$ 元集合の $m$ 元部分集合を頂点とし、共通部分が $m-1$ 元のとき隣接)も距離正則で、$c_i=i^2$、$b_i=(m-i)(n-m-i)$、直径は $\min(m,n-m)$ である(BH11 §12.3.2、p. 175。$J(6,3)$ の交差配列 $\{9,4,1;1,4,9\}$ は計算機で確かめた)。
隣接頂点へ移ることは、1 元を取り除いて別の 1 元を加えることである。1 回で $|X\cap Y|$ は高々 $1$ しか変わらないので $d(X,Y)\ge m-|X\cap Y|$ であり、$Y\setminus X$ の元を $X\setminus Y$ の元と 1 つずつ入れ替えれば等号が成り立つ。$d(X,Y)=i$ のとき、$Y$ の隣接頂点 $Y-\{y\}+\{z\}$($y\in Y$、$z\notin Y$)が $X$ に近づくのは $y\in Y\setminus X$、$z\in X\setminus Y$ のときで $i\cdot i$ 通り、遠ざかるのは $y\in X\cap Y$、$z\notin X\cup Y$ のときで $(m-i)(n-m-i)$ 通りである。$|X\cap Y|\ge\max(0,2m-n)$ から直径は $\min(m,n-m)$ である。
$\Gamma$ を直径 $d$ の距離正則グラフとし、頂点に番号を付ける。$0\le i\le d$ について、$d(x,y)=i$ なら $1$、そうでなければ $0$ を $(x,y)$ 成分とする行列 $A_i$ を 距離 $i$ の行列 という。$A_0=I$、$A_1=A$(隣接行列)であり、$A_0+A_1+\dots+A_d=J$(すべての成分が $1$ の行列)である。$A_i$ は対称で、台($0$ でない成分の位置)が互いに交わらないので、$A_0,\dots,A_d$ は線形独立である。
$0\le i\le d$ について
$$
AA_i=b_{i-1}A_{i-1}+a_iA_i+c_{i+1}A_{i+1}
$$
である($b_{-1}A_{-1}=c_{d+1}A_{d+1}=0$ とする)。
$(AA_i)_{xy}=\sum_zA_{xz}(A_i)_{zy}$ は、$x$ の隣接頂点 $z$ で $d(z,y)=i$ となるものの個数である。$j:=d(x,y)$ とおく。$z$ が $x$ に隣接するなら $|d(z,y)-j|\le1$ なので、$j\notin\{i-1,i,i+1\}$ ならこの個数は $0$ である。$j=i+1$ なら、これは $|\Gamma_{j-1}(y)\cap\Gamma(x)|=c_j=c_{i+1}$ である(定義を $x,y$ の役を入れ替えて使う)。$j=i$ なら $a_i$、$j=i-1$ なら $|\Gamma_{j+1}(y)\cap\Gamma(x)|=b_j=b_{i-1}$ である。右辺の $(x,y)$ 成分も、$j=i-1,i,i+1$ に応じて $b_{i-1},a_i,c_{i+1}$、ほかは $0$ なので、両辺は等しい。$\square$
この式は vDKT16 (1)(p. 13)にある。$c_{i+1}\ge1$($i< d$)なので、漸化式を $A_{i+1}=\frac1{c_{i+1}}\bigl(AA_i-a_iA_i-b_{i-1}A_{i-1}\bigr)$ と解くと、帰納法により、$A_i=p_i(A)$ となる $i$ 次の多項式 $p_i$ がある。例えば $p_0=1$、$p_1=x$、$p_2=\frac{x^2-a_1x-k}{c_2}$ である。
交差数を並べた $(d+1)$ 次の三重対角行列
$$
L:=\begin{pmatrix}a_0&b_0&&&\\c_1&a_1&b_1&&\\&c_2&a_2&\ddots&\\&&\ddots&\ddots&b_{d-1}\\&&&c_d&a_d\end{pmatrix}
$$
($L_{i,i-1}=c_i$、$L_{i,i}=a_i$、$L_{i,i+1}=b_i$、添字は $0$ から $d$、空欄は $0$)を 交差行列 という。
$\Gamma$ を直径 $d$ の距離正則グラフ、$A$ をその隣接行列とする。
段 1($\mathbb R[A]$ の次元と固有値).$A$ の相異なる固有値を $\theta_0,\dots,\theta_t$ とし、固有ベクトルからなる正規直交基底をとる(スペクトル定理)。多項式 $p$ について、$p(A)$ は固有値 $\theta_j$ の固有ベクトルを $p(\theta_j)$ 倍するので、$p(A)=0$ であることと、すべての $j$ で $p(\theta_j)=0$ であることは同値である。これは $p$ が $\prod_{j=0}^t(x-\theta_j)$ で割り切れることと同値なので、$p\mapsto p(A)$ の核は $t+1$ 次の多項式の倍数全体であり、$\dim\mathbb R[A]=t+1$ である。
段 2(1 と 2).$M:=\langle A_0,\dots,A_d\rangle$($A_0,\dots,A_d$ の張る空間)とおく。lem-drg-recurrence の後で見たとおり $A_i=p_i(A)\in\mathbb R[A]$ なので $M\subset\mathbb R[A]$ である。逆に、lem-drg-recurrence により $AM\subset M$ で、$I=A_0\in M$ なので、帰納法によりすべての $A^m$ は $M$ に属し、$\mathbb R[A]\subset M$ である。よって $\mathbb R[A]=M$ で、$A_0,\dots,A_d$ は線形独立だから基底であり、$\dim\mathbb R[A]=d+1$ である。段 1 と合わせて $t+1=d+1$、すなわち相異なる固有値はちょうど $d+1$ 個である。
段 3(3).線形写像 $\Phi\colon M\to M$、$X\mapsto AX$ を考える。lem-drg-recurrence により
$$
\Phi(A_j)=b_{j-1}A_{j-1}+a_jA_j+c_{j+1}A_{j+1}=\sum_{i=0}^dL_{ij}A_i
$$
なので($i=j-1,j,j+1$ の係数がそれぞれ $L_{j-1,j}=b_{j-1}$、$L_{jj}=a_j$、$L_{j+1,j}=c_{j+1}$)、基底 $A_0,\dots,A_d$ に関する $\Phi$ の表現行列は $L$ であり、$L$ と $\Phi$ の固有値は一致する。
$\Phi$ の固有値を求める。$\theta$ が $\Phi$ の固有値で、$p(A)\neq0$、$Ap(A)=\theta p(A)$ とすると、$(x-\theta)p(x)$ はすべての $\theta_j$ で $0$ になる。$p(A)\neq0$ なので $p(\theta_j)\neq0$ となる $j$ があり、そこで $\theta_j-\theta=0$ である。よって $\theta$ は $A$ の固有値である。逆に、$A$ の固有値 $\theta_j$ について $q_j(x):=\prod_{l\neq j}(x-\theta_l)$ とおくと、$q_j(\theta_j)\neq0$ なので $q_j(A)\neq0$ であり、$(x-\theta_j)q_j(x)$ はすべての $\theta_l$ で $0$ なので $Aq_j(A)=\theta_jq_j(A)$ である。よって $\theta_j$ は $\Phi$ の固有値である。以上から $\Phi$ の固有値の集合は $\{\theta_0,\dots,\theta_d\}$ で、これは $d+1$ 個の相異なる数だから、$d+1$ 次の行列 $L$ の固有値はこれらがちょうど 1 つずつである。$\square$
1 と 2 は vDKT16 Proposition 2.6(p. 13)、3 は同 Proposition 2.7(pp. 13–14)と BH11 §12.2(p. 174)にある。vDKT16 は 3 を、$L$ の固有ベクトルから $A$ の固有ベクトルを作って示し、$L$ の固有値が互いに異なることを $L-\theta I$ の階数から導いている。上の証明は、$L$ を $\mathbb R[A]$ の上の掛け算の表現行列とみる形に組み替えた。
隣接行列 の記事の定理「直径と相異なる固有値の個数」によれば、直径 $d$ の連結グラフは相異なる固有値を $d+1$ 個以上もつ。距離正則グラフはその等号の場合である。
$\theta$ を $L$ の固有値、$u=(u_0,\dots,u_d)^{\mathsf T}$ を $Lu=\theta u$ の固有ベクトルとする。$L$ の第 $0$ 行は $b_0u_1=\theta u_0$、第 $i$ 行($1\le i\le d-1$)は $c_iu_{i-1}+a_iu_i+b_iu_{i+1}=\theta u_i$ なので、$b_i\ge1$ により $u_0$ から $u_1,\dots,u_d$ が順に決まる。とくに $u_0\neq0$ であり、$u_0=1$ と正規化したものを $\theta$ に対する 標準列(standard sequence)という。$u_1=\theta/k$ である。
$\Gamma$ を直径 $d$、頂点数 $v$ の距離正則グラフとし、$\theta$ を $A$ の固有値、$(u_i)$ をその標準列とする。$\theta$ の重複度 $m(\theta)$ は
$$
m(\theta)=\frac{v}{\sum_{i=0}^dk_iu_i^2}
$$
である。
$A$ の固有値を $\theta_0,\dots,\theta_d$、$\theta=\theta_0$ とし、$E$ を固有値 $\theta$ の固有空間 $V_\theta$ への直交射影とする。
段 1($E$ は $A_i$ の 1 次結合).$q(x):=\prod_{l\neq0}\frac{x-\theta_l}{\theta-\theta_l}$ とおくと、$q(A)$ は $V_\theta$ の上で恒等写像、ほかの固有空間の上で $0$ なので、固有ベクトルからなる正規直交基底で比べて $q(A)=E$ である。thm-drg-eigenvalues の 1 により、実数 $\alpha_0,\dots,\alpha_d$ があって $E=\sum_i\alpha_iA_i$ と書ける。
段 2(係数は標準列の定数倍).$AE=\theta E$ である。左辺に lem-drg-recurrence を使って $A_i$ ごとに係数を集めると
$$
AE=\sum_j\alpha_j\bigl(b_{j-1}A_{j-1}+a_jA_j+c_{j+1}A_{j+1}\bigr)=\sum_i\bigl(c_i\alpha_{i-1}+a_i\alpha_i+b_i\alpha_{i+1}\bigr)A_i
$$
であり($\alpha_{-1}=\alpha_{d+1}=0$)、$A_i$ が線形独立なので $c_i\alpha_{i-1}+a_i\alpha_i+b_i\alpha_{i+1}=\theta\alpha_i$、すなわち $L\alpha=\theta\alpha$ である。標準列の説明と同じく $\alpha$ は $\alpha_0$ から決まるので、$\alpha=\alpha_0u$ である。
段 3(跡と $E^2=E$).直交射影の跡は像の次元なので $\operatorname{tr}E=\dim V_\theta=m(\theta)$ である(スペクトル定理 により重複度は固有空間の次元に等しい)。$A_i$($i\ge1$)の対角成分は $0$ なので $\operatorname{tr}E=\alpha_0\operatorname{tr}I=v\alpha_0$ であり、$m(\theta)\ge1$ から $\alpha_0>0$ である。次に $E$ は対称で $E^2=E$ なので、1 つの頂点 $x$ について
$$
\alpha_0=E_{xx}=(E^2)_{xx}=\sum_yE_{xy}^2=\sum_{i=0}^d\ \sum_{y\in\Gamma_i(x)}\alpha_i^2=\sum_{i=0}^dk_i\alpha_i^2=\alpha_0^2\sum_{i=0}^dk_iu_i^2
$$
である($y\in\Gamma_i(x)$ なら $E_{xy}=\alpha_i$)。$\alpha_0>0$ で割って $\alpha_0=1/\sum_ik_iu_i^2$、したがって $m(\theta)=v\alpha_0=v/\sum_ik_iu_i^2$ を得る。$\square$
この公式は vDKT16 Theorem 2.8(pp. 14–15)にあり、証明はそれに従って細部を補った。$\sum_ik_iu_i^2\ge k_0u_0^2=1$ なので $m(\theta)\le v$ である。$\theta=k$ では標準列はすべて $1$ で($c_i+a_i+b_i=k$ から)、$m(k)=v/\sum_ik_i=1$ となり、連結な正則グラフで $k$ の重複度が $1$ であることと一致する。
Petersen グラフ.交差配列 $\{3,2;1,1\}$ から $a_1=0$、$a_2=3-1=2$、$k_i=1,3,6$ で
$$
L=\begin{pmatrix}0&3&0\\1&0&2\\0&1&2\end{pmatrix},\qquad \det(xI-L)=(x-3)(x-1)(x+2)
$$
である。$\theta=1$ の標準列は $u_1=\frac13$、第 1 行 $1+0+2u_2=\frac13$ から $u_2=-\frac13$ で、$\sum k_iu_i^2=1+\frac39+\frac69=2$、重複度は $\frac{10}2=5$ である。$\theta=-2$ の標準列は $u_1=-\frac23$、$1+2u_2=\frac43$ から $u_2=\frac16$ で、$\sum k_iu_i^2=1+\frac43+\frac16=\frac52$、重複度は $4$ である。スペクトル $3,\ 1^{(5)},\ (-2)^{(4)}$ は 隣接行列 の記事の例「Petersen グラフ」と一致する。
立方体 $Q_3$.$\{3,2,1;1,2,3\}$ から $a_i=0$、$k_i=1,3,3,1$ で、$L$ の固有値は $3,1,-1,-3$ である。$\theta=1$ の標準列は $(1,\frac13,-\frac13,-1)$ で $\sum k_iu_i^2=1+\frac13+\frac13+1=\frac83$、重複度は $3$ である。同様に $-1$ は重複度 $3$、$-3$ は重複度 $1$ で、スペクトル $3,1^{(3)},(-1)^{(3)},-3$ を得る。
どちらも、行列 $L$ の固有値と重複度を計算機で求め、グラフの固有値を直接求めた結果と照合した。一般に $H(n,q)$ の固有値は $(q-1)n-qi$、重複度は $\binom ni(q-1)^i$($0\le i\le n$)である(BH11 §12.3.1、p. 174)。
$K_q$ の隣接行列 $B=J-I$ は、$\mathbf 1$ の上で $q-1$、$\mathbf 1$ に直交する $q-1$ 次元の上で $-1$ である。$H(n,q)$ の隣接行列は、$n$ 個の座標のうち 1 つで $B$、ほかで $I$ を並べたテンソル積 $I\otimes\cdots\otimes B\otimes\cdots\otimes I$ の $n$ 個の和である。$B$ の固有ベクトル $w_1,\dots,w_n$ のテンソル積 $w_1\otimes\cdots\otimes w_n$ は、この和の固有ベクトルで、固有値は各 $w_j$ の固有値の和である。$-1$ に属する $w_j$ が $i$ 個なら固有値は $(q-1)(n-i)-i=(q-1)n-qi$ で、そのようなテンソル積の基底は $\binom ni(q-1)^i$ 個ある。これらを合わせると $\mathbb R^{q^n}$ の基底になる。
Biggs の公式の右辺が正の整数であることは、交差配列が実在するための強い条件である。重複度は、$L$ の固有値を知るだけで計算できるので、グラフを作らずに交差配列を調べられる。vDKT16 p. 15 は、それまでの条件をみたす多くの交差配列がこの条件で退けられると述べている。
| 外す条件・替える条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 交差数が一定であること(正則で、頂点推移的でもよい) | 三角柱(三角形 2 つを対応する頂点で結んだグラフ) | 隣接する対の共通の隣接頂点が $1$ または $0$ で $a_1$ が定まらず、距離正則でない |
| thm-drg-eigenvalues の逆(正則で、相異なる固有値が $d+1$ 個) | $H(3,3)$ の直線 27 本を頂点とし、交わる直線を隣接させたグラフ $\Delta$ | $H(3,3)$ と同じスペクトルをもち直径 $3$ だが、距離 $2$ の対の共通の隣接頂点が $1$ または $3$ で、距離正則でない |
| 交差配列で同型が決まるか | $H(2,4)$ と Shrikhande グラフ | どちらも $\{6,3;1,2\}$ だが同型でない |
| 交差配列の割り算の条件 | $\{4,2;1,3\}$ | $k_2$ が整数にならず、グラフが存在しない |
| 重複度の整数性 | $\{3,2;1,2\}$ | Biggs の公式の値が整数でなく、グラフが存在しない |
| 距離正則から距離推移的へ | Shrikhande グラフ | 距離正則だが、同じ距離の頂点の対を互いに写す自己同型があるとは限らない |
各行で破れている条件と、成り立たなくなることを確かめる。
1 行目:三角柱は 3 正則で、どの頂点もほかの頂点に自己同型で写る。三角形の辺の両端は三角形の残りの頂点を共通の隣接頂点にもつが、2 つの三角形を結ぶ辺の両端は共通の隣接頂点をもたない。
2 行目:$H(3,3)$ の頂点 $\{0,1,2\}^3$ のうち 2 つの座標を固定したもの(3 点)を直線と呼ぶと、直線は $27$ 本あり、各直線は $6$ 本の直線と交わる。点と直線の接続行列 $N$ について $NN^{\mathsf T}-3I$ が $H(3,3)$ の、$N^{\mathsf T}N-3I$ が $\Delta$ の隣接行列で、$NN^{\mathsf T}$ と $N^{\mathsf T}N$ は同じ $27$ 次の正方行列として同じ固有値をもつので、2 つのグラフは同じスペクトル $6,3^{(6)},0^{(12)},(-3)^{(8)}$ をもつ(BH11 §12.3.1、pp. 174–175)。$\Delta$ の距離 $2$ の対の共通の隣接頂点が $1$ 個または $3$ 個であることは同所にあり、計算機でも確かめた。
3 行目:vDKT16 §2.3(p. 10)にある。2 つのグラフが同型でないことは 強正則グラフ の記事の反例の確認で示した(隣接頂点の上の誘導部分グラフが 2 つの三角形か六角形か)。
4 行目:prop-drg-ki の $k_2=b_0b_1/(c_1c_2)$ である。ほかの基本的な条件($c_i$ が増え $b_i$ が減る、$a_i\ge0$)はみたしている。
5 行目:ex-drg-infeasible で計算した。
6 行目:自己同型群が各距離の頂点の対の上に推移的に働くグラフを 距離推移的 といい、距離推移的なら距離正則である。Shrikhande グラフは距離推移的でない最小の距離正則グラフである(vDKT16 §2.10、p. 20。同所は証明を付けていない)。距離推移的でないことは、計算機で自己同型群(位数 $192$)を求め、距離 $2$ の順序対が 2 つの軌道に分かれることで確かめた(有限計算)。最小であることはこの記事では証明しない。
2 行目の $\Delta$ は、相異なる固有値の個数だけでなくスペクトル全体が距離正則グラフと一致しても、距離正則とは限らないことを示している。距離正則性はスペクトルだけからは決まらない。
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