微分係数と導関数の定義(definition of the derivative)とは、平均変化率の極限として微分係数を定めることである。$f$ が $x=a$ で微分可能とは、極限 $f'(a)=\lim_{h\to0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h}$ が有限の値として存在することで、$f'(a)$ は点 $(a,f(a))$ での接線の傾きである。各点の微分係数を集めた関数が導関数で、定義から $(x^n)'=nx^{n-1}$($n$ は正の整数)が出る。微分可能な点では連続だが、逆は成り立たない($|x|$ は $x=0$ で連続だが微分可能でない)。$x=a$ で微分可能であることは、誤差を $h$ で割ると $0$ に近づく 1 次式 $f(a)+mh$ があることと同じで、その $m$ は $f'(a)$ に限る。
数学 II の微分は、「$x$ が少し変わったとき、$y$ はどれだけの割合で変わるか」を測るところから始まる。$x$ が $a$ から $b$ まで変わるときの $y$ の変化の割合を平均変化率という。平均変化率の区間を短くしていった行き先が微分係数である。まず、この手順を例で確かめる。
$f(x)=x^2$ で、$x$ が $1$ から $1+h$ まで変わるときの平均変化率を求める($h\ne0$)。
$$
\frac{f(1+h)-f(1)}{(1+h)-1}=\frac{(1+2h+h^2)-1}{h}=\frac{2h+h^2}{h}=2+h
$$
である。最後の約分は $h\ne0$ だから行える。$h$ にいくつかの値を入れると次のようになる。
| $h$ | $1$ | $0.1$ | $0.01$ | $0.001$ | $-0.1$ | $-0.01$ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 平均変化率 $2+h$ | $3$ | $2.1$ | $2.01$ | $2.001$ | $1.9$ | $1.99$ |
$h$ を正の側からも負の側からも $0$ に近づけると、平均変化率は $2$ に近づく。この $2$ を、$f$ の $x=1$ における微分係数といい、$f'(1)=2$ と書く(図1)。
$y=x^2$ の点 A$(1,1)$ と点 $(1+h,(1+h)^2)$ を結ぶ直線(割線)。$h=1,\ 0.5,\ 0.2$ と小さくすると、割線の傾き $3,\ 2.5,\ 2.2$ は $2$ に近づき、割線は A での接線 $y=2x-1$ に近づくことを見る図。
物体を静かに落とすと、$t$ 秒間に落ちる距離はおよそ $s(t)=4.9t^2$(メートル)である。$t=2$ から $t=2+h$ までの平均の速さは
$$
\frac{s(2+h)-s(2)}{h}=\frac{4.9(4+4h+h^2)-4.9\cdot4}{h}=\frac{4.9(4h+h^2)}{h}=19.6+4.9h
$$
である($h\ne0$)。$h=0.1$ なら $20.09$、$h=0.01$ なら $19.649$ で、$h\to0$ とすると $19.6$ に近づく。$t=2$ の瞬間の速さは秒速 $19.6$ メートルであり、これは $s'(2)=19.6$ ということである。
2 つの例では、どちらも同じ手順を踏んでいる。
| 高校の計算 | この記事での見方 | ボックス |
|---|---|---|
| 平均変化率 $\frac{f(b)-f(a)}{b-a}$ | 2 点を結ぶ直線(割線)の傾き | def-dfd-average-rate |
| $\lim_{h\to0}\frac{f(a+h)-f(a)}h$ | 微分係数(関数の極限の特別な場合) | def-dfd-derivative |
| $f'(x)$ を $x$ の式で書く | 導関数(点ごとの微分係数を集めた関数) | def-dfd-derivative-function |
| $(x^n)'=nx^{n-1}$、$(kf+lg)'=kf'+lg'$ | 定義から出る計算規則 | prop-dfd-power、prop-dfd-linear |
| 「微分できれば連続」 | 差分商に $h$ を掛けて極限をとる | thm-dfd-continuous |
| 接線は曲線に「接する」 | 誤差が $h$ より速く $0$ に近づく 1 次式(1 次近似) | thm-dfd-linear-approx |
以下、関数 $f$ は、考える点 $a$ を含むある開区間で定義されているとする。
$a\ne b$ とし、$f$ は $a$ と $b$ で定義されているとする。
$$
\frac{f(b)-f(a)}{b-a}
$$
を、$x$ が $a$ から $b$ まで変わるときの $f$ の平均変化率という。これは、グラフ上の 2 点 $(a,f(a))$ と $(b,f(b))$ を結ぶ直線(割線)の傾きである。$b=a+h$ と書けば、平均変化率は $\dfrac{f(a+h)-f(a)}{h}$ である。大学ではこの式を差分商と呼ぶ。
平均変化率の $h$ を $0$ に近づけるには、関数の極限を使う。$\lim_{h\to0}F(h)=L$ は、「$h$ を $0$ と異なる値をとりながら $0$ に限りなく近づけると、$F(h)$ が $L$ に限りなく近づく」という意味である。正確な定義(ε-δ 論法)は 極限とε-δ で扱う。大事なのは、極限は $h=0$ での値を見ないことである。
極限
$$
\lim_{h\to0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h}
$$
が有限の値として存在するとき、$f$ は $x=a$ で微分可能であるといい、この極限値を $f$ の $x=a$ における微分係数と呼んで $f'(a)$ と書く。
$x=a+h$ とおくと、$h\to0$ と $x\to a$ は同じことなので、
$$
f'(a)=\lim_{x\to a}\frac{f(x)-f(a)}{x-a}
$$
とも書ける。極限が存在しないとき(左右で近づく先が違う、限りなく大きくなる、揺れ続けるなど)、$f$ は $x=a$ で微分可能でないという。
平均変化率 $\dfrac{f(a+h)-f(a)}{h}$ に $h=0$ を代入すると $\dfrac00$ になり、値が決まらない。ex-dfd-parabola で $\dfrac{2h+h^2}{h}=2+h$ と約分できたのは $h\ne0$ だからである。約分した後の $2+h$ は $h=0$ でも意味をもつが、それは「約分した式」の値であり、もとの平均変化率の値ではない。
それでも $f'(1)=2$ と言ってよいのは、極限が $h=0$ での値を見ず、$0$ の近くでの値だけで決まるからである。$h\ne0$ では平均変化率と $2+h$ は等しいので、両者の $h\to0$ の極限も等しく、$2+h$ の極限は $2$ である(図2 左)。
左は $f(x)=x^2$、$a=1$ の平均変化率 $2+h$ を $h$ の関数として描いたもの。$h=0$ には値がない(白丸)が、$h\to0$ で $2$ に近づくので微分係数は $2$ である。右は $f(x)=|x|$、$a=0$ の平均変化率 $\frac{|h|}{h}$ で、右からは $1$、左からは $-1$ に近づき、極限がないことを見る図。
微分係数の定義の極限を、右側だけ・左側だけで考えることもある。
$h$ を正の値だけとりながら $0$ に近づけることを $h\to+0$、負の値だけとりながら近づけることを $h\to-0$ と書く。
$$
\lim_{h\to+0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h},\qquad \lim_{h\to-0}\frac{f(a+h)-f(a)}{h}
$$
が存在するとき、それぞれを $f$ の $x=a$ における右微分係数、左微分係数という。
関数の極限は、右からの極限と左からの極限がともに存在して等しいときに限って存在し、そのときの値は共通の値である(Leb26 Proposition 3.1.17。本記事では証明しない)。したがって、$f$ が $x=a$ で微分可能であることは、右微分係数と左微分係数がともに存在して等しいことと同じである。
微分係数 $f'(a)$ は、割線の傾きの行き先なので、グラフの点 $(a,f(a))$ での接線の傾きと考える。高校の教科書では、点 $(a,f(a))$ を通り傾き $f'(a)$ の直線
$$
y=f(a)+f'(a)(x-a)
$$
を接線と定める。
接線の方程式・法線、「接線は曲線と 1 点だけを共有する直線ではない」という注意は 接線・法線と曲線の凹凸 で扱う。接線がなぜ曲線に「接する」と言えるのかは、この記事の thm-dfd-linear-approx で式にする。
微分係数 $f'(a)$ は 1 つの点 $a$ ごとに決まる数である。点 $a$ を動かすと、$a$ に $f'(a)$ を対応させる関数ができる。
$f$ がある区間 $I$ のすべての点で微分可能なとき、$f$ は $I$ で微分可能であるという。このとき、$I$ の各点 $x$ にその点での微分係数 $f'(x)$ を対応させる関数
$$
f'(x)=\lim_{h\to0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}
$$
を $f$ の導関数という。区間 $I$ が端点を含むとき(たとえば $0\le x\le1$)、端点では両側の極限は考えられないので、端点での微分係数は片側の微分係数(左端では右微分係数、右端では左微分係数。def-dfd-one-sided)で置き換えて考える。$y=f(x)$ の導関数を $y'$、$\dfrac{dy}{dx}$、$\dfrac{d}{dx}f(x)$ とも書く。導関数を求めることを、$f$ を微分するという。
微分係数と導関数の違いは、「数」と「関数」の違いである。$f'(3)$ は 1 つの数、$f'(x)$ は $x$ の関数で、$f'(3)$ は $f'(x)$ に $x=3$ を代入した値である。
2 つの例の計算を見比べると、$(x+h)^n$ を展開して $x^n$ を引くと、残る項はすべて $h$ を因数にもち、$h$ で割った後で $h$ を含まない項は $nx^{n-1}$ だけになる。これを一般の $n$ で確かめる。
$n$ を正の整数とする。$f(x)=x^n$ はすべての実数 $x$ で微分可能で、
$$
(x^n)'=nx^{n-1}
$$
である。また、定数関数 $f(x)=c$ の導関数は $0$ である。
方針:$(x+h)^n$ を二項定理で展開し、$h$ で割った後の式で $h\to0$ とする。
段 1(展開)。二項定理と組合せの恒等式 の二項定理により
$$
(x+h)^n=\sum_{k=0}^{n}\binom nk x^{n-k}h^k=x^n+nx^{n-1}h+\sum_{k=2}^{n}\binom nk x^{n-k}h^k
$$
である($n=1$ のときは最後の和は項がなく、$0$ と読む)。ここで $\binom n0=1$、$\binom n1=n$ を使った。
段 2($h$ で割る)。段 1 から $x^n$ を引き、$h\ne0$ で割ると
$$
\frac{(x+h)^n-x^n}{h}=nx^{n-1}+\sum_{k=2}^{n}\binom nk x^{n-k}h^{k-1}
$$
である。
段 3(極限)。和の各項では $k\ge2$ なので $k-1\ge1$ であり、$h^{k-1}$ は $h\to0$ で $0$ に近づく。$\binom nk x^{n-k}$ は $h$ を含まない定数なので、各項は $0$ に近づく。項の数は $n-1$ 個(有限個)なので、和も $0$ に近づく(2 つの和の極限は極限の和である、という Leb26 Corollary 3.1.12 を、項の数だけくり返し使う)。よって、段 2 の式は $nx^{n-1}$ に近づき、$(x^n)'=nx^{n-1}$ である。
段 4(定数関数)。$f(x)=c$ なら、$h\ne0$ のとき $\dfrac{f(x+h)-f(x)}{h}=\dfrac{c-c}{h}=0$ である。値がいつも $0$ なので、極限も $0$ である。$\square$
公式 $(x^n)'=nx^{n-1}$ を、定数倍と和に広げる。
$f$ と $g$ が $x$ で微分可能で、$k$、$l$ が定数なら、$kf(x)+lg(x)$ も $x$ で微分可能で、
$$
\{kf(x)+lg(x)\}'=kf'(x)+lg'(x)
$$
である。
方針:$kf+lg$ の平均変化率を、$f$ の平均変化率と $g$ の平均変化率に分ける。
段 1。$F(x)=kf(x)+lg(x)$ とおく。$h\ne0$ のとき
$$
\frac{F(x+h)-F(x)}{h}=\frac{kf(x+h)+lg(x+h)-kf(x)-lg(x)}{h}=k\cdot\frac{f(x+h)-f(x)}{h}+l\cdot\frac{g(x+h)-g(x)}{h}
$$
である。分子の 4 つの項を、$f$ の 2 項と $g$ の 2 項に組み分けた。
段 2。仮定から、$h\to0$ で右辺の 1 つ目の分数は $f'(x)$ に、2 つ目の分数は $g'(x)$ に近づく。定数倍と和の極限は極限の定数倍と和なので(Leb26 Corollary 3.1.12)、右辺は $kf'(x)+lg'(x)$ に近づく。よって $F'(x)=kf'(x)+lg'(x)$ である。$\square$
多項式でない関数でも、定義から導関数を計算できる。
$f(x)=\sqrt x$($x\ge0$)を $x>0$ で微分する。$h\ne0$、$x+h>0$ のとき、分子を有理化する。
$$
\frac{\sqrt{x+h}-\sqrt x}{h}=\frac{(\sqrt{x+h}-\sqrt x)(\sqrt{x+h}+\sqrt x)}{h(\sqrt{x+h}+\sqrt x)}=\frac{(x+h)-x}{h(\sqrt{x+h}+\sqrt x)}=\frac{1}{\sqrt{x+h}+\sqrt x}
$$
である。$h\to0$ のとき $\sqrt{x+h}\to\sqrt x$ なので($\sqrt{\ }$ は連続関数である)、
$$
(\sqrt x)'=\frac{1}{2\sqrt x}\qquad(x>0)
$$
である。$x=4$ では $\dfrac14=0.25$ で、$h=0.01$ の平均変化率は $\dfrac{\sqrt{4.01}-2}{0.01}=0.24984\ldots$ である。
$x=0$ では事情が違う。$f$ は $x\ge0$ でしか定義されていないので、$x=0$ は定義域の端であり、$0$ を含む開区間では定義されていない。したがって def-dfd-derivative の両側の極限はそもそも考えられない。そこで右微分係数(def-dfd-one-sided)を調べる。$h>0$ のとき
$$
\frac{\sqrt h-\sqrt0}{h}=\frac{1}{\sqrt h}
$$
で、$h\to+0$ とするといくらでも大きくなる($h=0.01$ で $10$、$h=0.0001$ で $100$)。極限は有限の値ではないので、$\sqrt x$ の $x=0$ での右微分係数は存在しない。$\sqrt x$ を区間 $x\ge0$ で考えるとき、端点 $x=0$ では右微分係数を使う(def-dfd-derivative-function の中の注意)ので、$\sqrt x$ は $x=0$ で(右側から)微分可能でない。グラフは原点で縦に立つ。
$(\sqrt x)'=\dfrac1{2\sqrt x}=\dfrac12x^{-\frac12}$ は、公式 $(x^n)'=nx^{n-1}$ に $n=\frac12$ を入れた形になっている。指数が実数のときの公式 $(x^r)'=rx^{r-1}$ は、連鎖律(高校数学) で示す。
グラフが途中で切れている関数には、切れ目で接線を引けそうにない。これを式で言ったのが次の定理である。関数 $f$ が $x=a$ で連続であるとは、$\lim_{x\to a}f(x)=f(a)$ が成り立つこと、$h$ で書けば $\lim_{h\to0}f(a+h)=f(a)$ が成り立つことである(連続関数)。
$f$ が $x=a$ で微分可能なら、$f$ は $x=a$ で連続である。
方針:$f(a+h)-f(a)$ を「平均変化率 × $h$」と書き、積の極限を使う。
段 1。$h\ne0$ のとき
$$
f(a+h)-f(a)=\frac{f(a+h)-f(a)}{h}\cdot h
$$
である。右辺は $h$ で割って $h$ を掛けただけなので、左辺と等しい。
段 2。$h\to0$ のとき、仮定から右辺の分数は $f'(a)$ に近づき、$h$ は $0$ に近づく。積の極限は極限の積なので(Leb26 Corollary 3.1.12)、右辺は $f'(a)\cdot0=0$ に近づく。
段 3。段 1・段 2 から $\lim_{h\to0}\{f(a+h)-f(a)\}=0$、つまり $\lim_{h\to0}f(a+h)=f(a)$ である。これは $f$ が $x=a$ で連続であることである。$\square$
証明の段 2 では、$f'(a)$ が有限の値であることを使った。平均変化率がいくらでも大きくなる場合には、$h$ を掛けても $0$ に近づくとは限らない。この定理の対偶は「$x=a$ で連続でなければ、$x=a$ で微分可能でない」である。
$H(x)=\begin{cases}1&(x\ge0)\\ 0&(x<0)\end{cases}$ とする。$h<0$ のとき $H(h)=0$ なので $\lim_{h\to-0}H(h)=0\ne1=H(0)$ で、$H$ は $x=0$ で連続でない。thm-dfd-continuous の対偶から、$H$ は $x=0$ で微分可能でない。
直接確かめると、$h<0$ のとき平均変化率は $\dfrac{H(h)-H(0)}{h}=\dfrac{0-1}{h}=-\dfrac1h$ で、$h=-0.1$ で $10$、$h=-0.01$ で $100$ となり、$h\to-0$ でいくらでも大きくなる。$h>0$ のときは $\dfrac{1-1}{h}=0$ である。左右で振る舞いが違い、極限は存在しない。
thm-dfd-continuous の逆「連続なら微分可能」は成り立たない。次の 3 つの関数は、どれも $x=0$ で連続だが、$x=0$ で微分可能でない(図3)。平均変化率の極限が存在しない理由が、それぞれ違う。
$f(x)=|x|$ とする。
連続であること:$|f(h)-f(0)|=|h|$ なので、$h\to0$ で $f(h)\to f(0)=0$ である。
微分できないこと:ex-dfd-one-sided の 2 で見たとおり、平均変化率 $\dfrac{|h|}{h}$ は $h>0$ で $1$、$h<0$ で $-1$ である。右微分係数 $1$ と左微分係数 $-1$ が等しくないので、$x=0$ で微分可能でない。グラフは原点で折れ曲がり、1 本の接線が決まらない。
$x\ne0$ では微分可能で、$x>0$ なら $f(x)=x$ なので $f'(x)=1$、$x<0$ なら $f(x)=-x$ なので $f'(x)=-1$ である($x$ の近くでは $f$ の式が変わらないことを使った)。
$f(x)=\sqrt[3]{x}$ とする(負の $x$ にも実数の 3 乗根を考える。$\sqrt[3]{-8}=-2$ など)。
連続であること:$|\sqrt[3]{h}|=\sqrt[3]{|h|}$ であり、$\sqrt[3]{\ }$ は大小を保つので、$|h|<0.001$ なら $|\sqrt[3]{h}|<0.1$、$|h|<0.000001$ なら $|\sqrt[3]{h}|<0.01$ である。一般に、正の数 $\varepsilon$ に対して $|h|<\varepsilon^3$ なら $|\sqrt[3]{h}|<\varepsilon$ である。よって $h\to0$ で $f(h)\to0=f(0)$ である(この言い方は 極限とε-δ の定義そのものである)。
微分できないこと:$h\ne0$ のとき $\sqrt[3]{h}=t$ とおくと $h=t^3$ で、$t\ne0$ である。平均変化率は
$$
\frac{\sqrt[3]{h}-0}{h}=\frac{t}{t^3}=\frac1{t^2}
$$
である。$h\to0$ のとき $t\to0$ なので $\dfrac1{t^2}$ はいくらでも大きくなる。$h=0.001$ なら $t=0.1$ で平均変化率は $100$、$h=-0.001$ なら $t=-0.1$ で同じく $100$ である。極限は有限の値ではないので、微分可能でない。グラフは原点で $y$ 軸に接するように縦に立つ(図3 中央)。
$f(x)=\begin{cases}x\sin\dfrac1x&(x\ne0)\\ 0&(x=0)\end{cases}$ とする。
連続であること:$|\sin\theta|\le1$ なので、$h\ne0$ で $|f(h)-f(0)|=|h|\,\bigl|\sin\frac1h\bigr|\le|h|$ である。$h\to0$ で $|h|\to0$ なので、はさみうちの原理(はさみうちと評価の技法)により $f(h)\to0=f(0)$ である。
微分できないこと:$h\ne0$ のとき、平均変化率は
$$
\frac{f(h)-f(0)}{h}=\frac{h\sin\frac1h}{h}=\sin\frac1h
$$
である。$h$ を 2 通りの数列で $0$ に近づける。
$x=0$ で連続だが微分可能でない 3 つの関数。左の $|x|$ は左右の傾きが $-1$ と $1$ で食い違い、中央の $\sqrt[3]{x}$ は原点で縦に立ち、右の $x\sin\frac1x$ は $y=\pm x$(点線)の間で揺れ続けて割線の傾きが定まらないことを見る図。
最後の反例の数列を使う議論は、「極限が存在すれば、どんな近づき方でも同じ値に近づく」という事実によっている(Leb26 Lemma 3.1.7)。この事実(数列による極限の特徴づけ)の証明は 極限とε-δ にあり、同記事では同じ 2 つの型の数列を使って、$\sin\frac1x$ が $x\to0$ で極限をもたないことも示している。近づき方によって行き先が違えば、極限は存在しない。
点 $(a,f(a))$ を通る直線は、傾き $m$ を決めれば $y=f(a)+m(x-a)$ と書ける。$x=a+h$ での曲線と直線の高さの差(誤差)を
$$
r_m(h)=f(a+h)-\bigl\{f(a)+mh\bigr\}
$$
とおく。$r_m(0)=0$ なので、どの直線でも $h\to0$ で誤差は $0$ に近づく($f$ が連続なら)。接線が特別なのは、誤差が $h$ よりも速く $0$ に近づく点である。まず例で比べる。
$f(x)=x^2$、$a=1$ とする。$f(1+h)=1+2h+h^2$ である。
| $h$ | $0.1$ | $0.01$ | $0.001$ |
|---|---|---|---|
| $r_2(h)=h^2$ | $0.01$ | $0.0001$ | $0.000001$ |
| $r_2(h)/h$ | $0.1$ | $0.01$ | $0.001$ |
| $r_{2.1}(h)=h^2-0.1h$ | $0$ | $-0.0009$ | $-0.000099$ |
| $r_{2.1}(h)/h$ | $0$ | $-0.09$ | $-0.099$ |
$f$ は $a$ を含む開区間で定義されているとする。次の 2 つは同じことである。
方針:$\dfrac{r_m(h)}{h}$ が「平均変化率 $-\,m$」に等しいことを使って、2 つの条件を行き来する。
段 1(式の書き換え)。$h\ne0$ のとき
$$
\frac{r_m(h)}{h}=\frac{f(a+h)-f(a)-mh}{h}=\frac{f(a+h)-f(a)}{h}-m
$$
である。
段 2(1 から 2)。$f$ が $x=a$ で微分可能なら、$m=f'(a)$ とおく。段 1 の右辺の分数は $h\to0$ で $f'(a)$ に近づくので、右辺は $f'(a)-f'(a)=0$ に近づく。よって 2 が成り立つ。
段 3(2 から 1)。2 を満たす $m$ があるとする。段 1 の式を移項すると
$$
\frac{f(a+h)-f(a)}{h}=m+\frac{r_m(h)}{h}
$$
で、右辺は $h\to0$ で $m+0=m$ に近づく。よって平均変化率の極限が存在して $m$ に等しい。つまり $f$ は $x=a$ で微分可能で、$f'(a)=m$ である。
段 4($m$ はただ 1 つ)。2 を満たす $m$ は、段 3 により必ず $f'(a)$ に等しい。極限の値は 1 つに決まるので、2 を満たす $m$ は $f'(a)$ だけである。$\square$
微分可能を仮定した向き(段 2 の 1 から 2)と傾きの一意性は、接線・法線と曲線の凹凸 の「接線は最良の 1 次近似」と同じ命題で、同記事では接線の性質として扱っている($\sqrt x$ の $x=4$ での数値の表もある)。本記事で加えたのは逆向き(段 3 の 2 から 1)で、これにより「1 次近似をもつこと」を微分可能の定義として使ってよいことがわかる。この見方が、次の節の多変数の微分につながる。
定理の 2 は、「$x=a$ のごく近くでは、$f(a+h)$ は 1 次式 $f(a)+f'(a)h$ で、$h$ に比べて無視できる誤差で近似できる」と言っている。この 1 次式を $f$ の $x=a$ における 1 次近似 という。接線は 1 次近似のグラフであり、ex-dfd-error-compare のとおり、ほかの傾きの直線では誤差を $h$ で割ったものが $0$ に近づかない。この意味で、接線は曲線を「いちばんよく」近似する直線である。
図4 は、$y=x^2$ を点 $(1,1)$ のまわりで拡大していったものである。拡大するほど曲線と接線は見分けがつかなくなる。一方、$y=|x|$ の原点は、どれだけ拡大しても折れ曲がったままである。「微分可能」とは、「拡大すると直線に見える」ことだと言ってもよい。
上段は $y=x^2$ を点 $(1,1)$ のまわりで横幅 $2$、$0.2$、$0.02$ の窓で拡大したもので、拡大するほど曲線(黒)と接線 $y=2x-1$(赤)が重なっていく。下段は $y=|x|$ を原点のまわりで同じように拡大したもので、どの倍率でも同じ折れ線に見えることを見る図。
1 次近似をさらに 2 次、3 次の式に広げたものが 関数の近似とテイラー展開 である。
高校の定義と、thm-dfd-linear-approx の 2 の言い方は、1 変数では同じことである。しかし、変数が 2 つ以上になると、平均変化率 $\frac{f(a+h)-f(a)}{h}$ はそのままでは使えない。$h$ が平面のベクトルになると、ベクトルで割ることができないからである。一方、1 次近似の言い方は、そのまま使える。
$h\mapsto f'(a)h$ という対応は、$h$ に定数 $f'(a)$ を掛けるだけの 1 次の関数(線形写像)である。thm-dfd-linear-approx は、「$x=a$ で微分可能」を「$f(a+h)-f(a)$ が、ある線形写像 $L(h)=mh$ で、$h$ に比べて無視できる誤差で近似できる」と言い換えた。
大学の解析学では、$n$ 変数から $\ell$ 変数への関数 $f$ に対しても、同じ形で微分を定める。$f$ が点 $a$ で微分可能とは、ある線形写像 $L$($\ell\times n$ 行列で表される)があって
$$
\lim_{h\to0}\frac{\|f(a+h)-f(a)-L(h)\|}{\|h\|}=0
$$
となることで、この $L$ を $f$ の $a$ での微分という(Leb26b Definition 8.3.1)。ここで $\|h\|$ はベクトル $h$ の長さである。$n=\ell=1$ のときは $L(h)=mh$ で、thm-dfd-linear-approx の 2 そのものになる。この定義を Fréchet微分(全微分)という。
$L$ を表す行列の成分は偏微分係数で、この行列を Jacobi行列 という(Leb26b Proposition 8.3.9)。「微分係数は数」という高校の見方は、「微分は 1 次写像で、1 変数ではそれが数 1 つで決まる」という見方の特別な場合である。誤差の条件 $\frac{r(h)}{h}\to0$ は、Landau記号 を使って $r(h)=o(h)$ とも書く。
微分を 1 次写像と見ると、合成関数の微分は「1 次写像の合成」、つまり拡大率の掛け算になる。これは 連鎖律(高校数学) の主題である。
この記事の主張で仮定を外すと、何が崩れるかをまとめる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 仮定を「微分可能」から「連続」に弱める | 定理の逆「連続なら微分可能」 | ex-dfd-abs、ex-dfd-cbrt、ex-dfd-xsin |
| 連続 | 微分可能(連続でなければ必ず崩れる) | ex-dfd-step |
| (1 点で微分可能のほかに)その近くの各点で微分可能 | 導関数がその近くで定義される(1 点で微分可能なだけでは、近くの点で連続でさえないことがある) | ex-dfd-one-point |
| 右微分係数と左微分係数が等しい | 微分可能(両方あっても等しくなければ不可) | ex-dfd-abs |
| 平均変化率の極限が有限 | 微分可能(極限が限りなく大きいときは不可。定義域の端では右微分係数・左微分係数で同じことが起こる) | ex-dfd-cbrt、ex-dfd-sqrt |
| $h\ne0$ | 平均変化率の式($h=0$ では $\frac00$) | rem-dfd-why-not-substitute |
| 傾きが $f'(a)$ | 誤差を $h$ で割ると $0$ に近づく | ex-dfd-error-compare |
$f(x)=\begin{cases}x^2&(x\text{ が有理数})\\ 0&(x\text{ が無理数})\end{cases}$ とする。
$x=0$ では微分可能である:$h\ne0$ のとき、平均変化率 $\dfrac{f(h)-f(0)}{h}=\dfrac{f(h)}{h}$ は、$h$ が有理数なら $\dfrac{h^2}{h}=h$、無理数なら $0$ である。どちらの場合も絶対値は $|h|$ 以下なので、はさみうちの原理により $h\to0$ で $0$ に近づく。よって $f'(0)=0$ である。
$x=a\ne0$ では連続でない:どんな区間にも有理数と無理数がある(実数とは何か:無理数の証明 の稠密性)ので、$a$ に近づく無理数の列 $(x_n)$ と、$a$ に近づく有理数の列 $(y_n)$ がとれる(どちらも $a$ とは異なる項だけからなるようにとる)。無理数の列に沿っては $f(x_n)=0\to0$、有理数の列に沿っては $f(y_n)=y_n^2\to a^2$ で、$a\ne0$ なので $0\ne a^2$ である。$f(a)$ はこの 2 つの値の両方に等しくはなれないので、数列による特徴づけ(極限とε-δ)から $\lim_{x\to a}f(x)=f(a)$ は成り立たない。よって、thm-dfd-continuous の対偶から $x=a$ で微分可能でない。
したがって、「1 点で微分可能」から「その近くで微分可能」や「その近くで連続」は出てこない。導関数を考えるには、区間のすべての点で微分可能であること(def-dfd-derivative-function)を仮定する必要がある。
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