存在定理(類体論)

同義語:類体論の存在定理大域存在定理高木の存在定理Takagiの存在定理類体existence theorem (class field theory)Takagi existence theoremclass field

概要

存在定理(類体論)(existence theorem of class field theory)とは、代数体 $K$ のイデール類群 $C_K$ の部分群 $H$ がある有限次アーベル拡大 $L/K$ のノルム群 $N_{L/K}(C_L)$ に等しいための必要十分条件は $H$ が開かつ指数有限であることであり、そのとき $L$($H$ の類体)はただ 1 つに決まる、という定理である。大域相互法則と合わせて、$K$ のアーベル拡大が $C_K$ の開部分群で分類される。イデアルの言葉では、射類群の部分群ごとに、有限個を除いてそこに属する素イデアルがちょうど完全分解するアーベル拡大が存在することを言い、Hilbert 類体や射類体の存在を含む。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 大域類体論, Artin写像とArtin相互法則, Kummer理論, イデールとイデール類群

代数体 $K$ のイデール類群 $C_K$ の部分群 $H$ が、ある有限次アーベル拡大 $L/K$ のノルム群 $N_{L/K}(C_L)$ に等しいための必要十分条件は、$H$ が開かつ指数有限であることである。これを類体論の 存在定理(existence theorem)という。このとき $L$ は $H$ からただ 1 つに決まり、$H$ の 類体 とよばれる。大域類体論 の記事の大域相互法則($C_K/N_{L/K}(C_L)\cong\operatorname{Gal}(L/K)$)は拡大から部分群への対応が単射であることを、存在定理はそれが全射であることを言っており、2 つを合わせて $K$ の有限次アーベル拡大が $C_K$ の開部分群で分類される。イデアルの言葉では、射類群の部分群 $H$ ごとに、有限個を除いて、$H$ に属する素イデアルがちょうど完全分解するアーベル拡大がある、という形になる(cor-ext-weber)。
証明の中心は Kummer 拡大である。$K$ が $1$ の $n$ 乗根を含むとき、有限個の素点 $S$ の外で単数となる元の $n$ 乗根をすべて添加した体のノルム群は、Kummer理論 と $S$ 単数定理で具体的に計算でき、$S$ の上で $n$ 乗、その外で単数、という部分群になる(lem-ext-kummer)。開部分群はこの形の群を含むので、$1$ の冪根を添加した体の上ではノルム群になる。そこから巡回拡大ごとに $K$ に降ろす(lem-ext-descent)。

定義と主張

以下 $K$ を 代数体 とし、イデール群 $J_K$、イデール類群 $C_K=J_K/K^\times$、有限次拡大 $L/K$ のイデールのノルム $N_{L/K}\colon C_L\to C_K$ は 大域類体論 の記事の定義「イデール群とイデール類群」とその直後のとおりとする。$C_K$ には商位相を入れる。イデールのノルムは各成分の局所体のノルムの積なので連続である。

ノルム群と類体

$L/K$ を有限次拡大とする。$N_L:=N_{L/K}(C_L)\subset C_K$ を $L/K$ の ノルム群 という。$C_K$ の部分群 $H$ があるアーベル拡大 $L/K$ のノルム群に等しいとき、$L$ を $H$ の 類体(class field)という。

存在定理

$K$ を代数体とし、アーベル拡大はすべて $K$ の 1 つの代数閉包の中で考える。

  1. $L/K$ が有限次アーベル拡大なら、$N_L$ は $C_K$ の開部分群で、$C_K/N_L\cong\operatorname{Gal}(L/K)$ である。
  2. $C_K$ の開かつ指数有限な部分群 $H$ には、類体 $L$ がただ 1 つ存在する。
  3. 有限次アーベル拡大 $L,L'$ について、$L\subset L'\iff N_{L'}\subset N_L$ であり、$N_{LL'}=N_L\cap N_{L'}$ である。
存在定理の読み方

1 は相互法則の側の主張であり、$L$ からノルム群 $N_L$ を作る対応が $C_K$ の開部分群を与えることを述べる。2 が存在定理の中身で、逆に開かつ指数有限な部分群から拡大 $L$ が作れ、しかも 1 つに決まることを述べる。3 により、$L\mapsto N_L$ は有限次アーベル拡大の集合と $C_K$ の開かつ指数有限な部分群の集合のあいだの包含を逆にする全単射になる。この定理は、$K$ のアーベル拡大をすべてイデール類群の言葉で分類することを可能にする。

数体では、$C_K$ の開部分群は自動的に指数有限である(CF67 Chapter VII, §5.1, p. 172 の (D) の後の注意)。したがって 2 の「指数有限」は、開部分群であることの帰結として落とせる。

ノルム群の基本性質

大域類体論 の記事の命題「イデールの形の相互法則」により、有限次アーベル拡大 $L/K$ には連続な全射準同型 $\theta_{L/K}\colon C_K\to\operatorname{Gal}(L/K)$ があり、その核は $N_L$ で、$L\subset L'$ なら $\theta_{L'/K}(a)|_L=\theta_{L/K}(a)$ である。

ノルム群の対応

$L,L'$ を有限次アーベル拡大とする。

  1. $N_L$ は開部分群で、$(C_K:N_L)=[L:K]$ である。
  2. $N_{LL'}=N_L\cap N_{L'}$ である。
  3. $N_{L'}\subset N_L$ なら $L\subset L'$ である。とくに $N_L=N_{L'}$ なら $L=L'$ である。
  4. $C_K$ の部分群 $N$ が $N_L$ を含むなら、$N=N_M$ となる $L$ の部分体 $M$ がある。
相互写像の核と制限で読む

1。$N_L=\ker\theta_{L/K}$ は、有限群への連続な準同型の核なので開であり、$\theta_{L/K}$ は全射なので指数は $[L:K]$ である。
2。$L\subset L''$ なら、イデールのノルムの推移性 $N_{L''/K}=N_{L/K}\circ N_{L''/L}$ から $N_{L''}\subset N_L$ である。よって $N_{LL'}\subset N_L\cap N_{L'}$ である。逆に $a\in N_L\cap N_{L'}$ なら、$\theta_{LL'/K}(a)$ は $L$ と $L'$ への制限がともに自明なので、$LL'$ の上で自明であり、$a\in N_{LL'}$ である。
3。$N_{L'}\subset N_L$ なら 2 から $N_{LL'}=N_{L'}$ で、1 から $[LL':K]=[L':K]$、すなわち $LL'=L'$、$L\subset L'$ である。
4。$A:=\theta_{L/K}(N)$、$M:=L^A$ とする。$\theta_{M/K}(a)=\theta_{L/K}(a)|_M$ が自明であることは $\theta_{L/K}(a)\in A$ と同値で、$N\supset\ker\theta_{L/K}$ なので、これは $a\in N$ と同値である。よって $N_M=\ker\theta_{M/K}=N$ である。$\square$

1 と 3 から、thm-ext-main の 1・3 と、2 の一意性が従う。残るのは 2 の存在である。

Kummer 拡大のノルム群

この節では $n\ge1$ とし、$K$ は $1$ の原始 $n$ 乗根を含むとする。$S$ を $K$ の素点の有限集合で、すべての無限素点と $n$ を割るすべての素イデアルを含み、$J_K=J_{K,S}K^\times$ を満たすものとする($S$ がイデアル類群の各類の代表の素因子を含めばよい。イデールとイデール類群 の記事の命題「十分大きい $S$ の $S$ イデール」)。$s:=\lvert S\rvert$、$K_S:=K^\times\cap J_{K,S}$($S$ 単数群)とし、
$$ I_K(S):=\prod_{v\in S}(K_v^\times)^n\times\prod_{v\notin S}\mathcal{O}_v^\times,\qquad C_K(S):=I_K(S)K^\times/K^\times $$
とおく。$T:=K(\sqrt[n]{K_S})$ を、$K_S$ のすべての元の $n$ 乗根(すべての根)を $K$ に添加した体とする。

Kummer拡大のノルム群

$T/K$ は次数 $n^s$ のアーベル拡大で、$N_T=C_K(S)$ である。

包含を局所で示し、指数を数える

段 1(次数)。$x\in K_S$ が $x=y^n$($y\in K^\times$)なら、$v\notin S$ の有限素点で $n\,v(y)=v(x)=0$ なので $y\in K_S$ である。よって $B:=K_S(K^\times)^n$ について $(B:(K^\times)^n)=(K_S:K_S^n)$ である。$S$ 単数定理(類体論の第一不等式 の記事の注意「使う事実」の (F2))により $K_S\cong\mu(K)\times\mathbb{Z}^{s-1}$ で、$\mu(K)$ は位数が $n$ で割り切れる巡回群なので $K_S/K_S^n\cong(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^s$ である。Kummer理論 の記事の定理「Kummer理論の基本定理」の 1 により、$T=K(B^{1/n})$ はアーベル拡大で $[T:K]=n^s$ である。
段 2($S$ の外で不分岐)。$K_S/K_S^n$ の代表 $x_1,\dots,x_s$ をとると $T=K(\sqrt[n]{x_1},\dots,\sqrt[n]{x_s})$ である。$v\notin S$ の有限素点 $\mathfrak{p}$ を固定する。$x_i$ は $\mathfrak{p}$ で単数なので、$\mathfrak{d}_i:=\{d\in\mathcal{O}_K\mid dx_i\in\mathcal{O}_K\}$ は $\mathfrak{p}$ に含まれず、$d_i\in\mathfrak{d}_i\setminus\mathfrak{p}$ がとれる。$\sqrt[n]{d_i^nx_i}=d_i\sqrt[n]{x_i}$ なので $x_i$ を $d_i^nx_i$ に取り替えても $T$ は変わらず、$d_i^nx_i$ は $\mathcal{O}_K$ に属し $\mathfrak{p}$ で単数である。よって $\mathfrak{p}$ を調べるときは $x_i\in\mathcal{O}_K$ としてよい(取り替えた $d_i^nx_i$ は $K_S$ の元とは限らないが、以下で使うのは $T$ が変わらないことと $\mathfrak{p}$ での性質だけである)。$\mathfrak{p}$ では $x_i$ は単数で $n$ も単数なので、$X^n-x_i$ の判別式 $\pm n^nx_i^{n-1}$ は単数であり、$\sqrt[n]{x_i}$ の最小多項式の判別式もそれを割る。1 つずつ添加し、代数体における素イデアルの分解 の記事の系「分岐する素イデアルは有限個」と分岐指数の乗法性を使うと、$\mathfrak{p}$ は $T$ で分岐しない。$\mathfrak{p}$ は $S$ の外の任意の有限素点なので、$T/K$ は $S$ の外で分岐しない。
段 3($C_K(S)\subset N_T$)。$a\in I_K(S)$ の各成分が局所ノルムであることを示す。$v\in S$ が有限素点なら、$T_w$ は $K_v$ にすべての元の $n$ 乗根を添加した体に含まれ、後者のノルム群は $(K_v^\times)^n$ である(局所類体論の存在定理 の記事の命題「最大のKummer拡大のノルム群」)ので、ノルムの推移性から $(K_v^\times)^n\subset N_{T_w/K_v}(T_w^\times)$ である。$v$ が無限素点なら、$n\ge3$ のとき $K$ は実素点をもたず $K_v=\mathbb{C}$ であり、$n\le2$ のとき $(K_v^\times)^n$ は $\mathbb{R}_{>0}$ か $\mathbb{C}^\times$ で局所ノルムである。$v\notin S$ では $a_v$ は単数で $T_w/K_v$ は不分岐なので、$a_v$ は $T_w$ の単数のノルムである(局所類体論 の記事の命題「不分岐拡大のノルム」の (a))。各 $v$ で 1 つの $w\mid v$ の成分にだけ原像を置き、ほかを $1$ とすると、有限個を除いて単数からなる $J_T$ の元が得られ、そのノルムは $a$ である。よって $I_K(S)\subset N_{T/K}(J_T)$ である。
段 4($I_K(S)\cap K^\times=K_S^n$)。$\supset$ は明らかである。$y\in I_K(S)\cap K^\times$ とすると $y\in K_S$ であり、$M:=K(\sqrt[n]y)$ は段 2 と同じく $S$ の外で不分岐で、$v\in S$ では $y\in(K_v^\times)^n$ なので $M_w=K_v$ である。$J_K=J_{K,S}K^\times$ なので $C_K$ の元は $J_{K,S}$ の元 $a$ で代表され、段 3 と同じく $a$ の各成分は $M$ からの局所ノルムなので $a\in N_{M/K}(J_M)$ である。よって $N_M=C_K$ で、prop-ext-lattice の 1 により $M=K$、すなわち $y=z^n$($z\in K^\times$)であり、段 1 の議論で $z\in K_S$ である。
段 5(指数)。$J_K=J_{K,S}K^\times$ と $I_K(S)\subset J_{K,S}$ から
$$ (C_K:C_K(S))=(J_{K,S}K^\times:I_K(S)K^\times)=\frac{(J_{K,S}:I_K(S))}{(K_S:K_S\cap I_K(S))} $$
である(右辺は $J_{K,S}/I_K(S)K_S$ の位数を 2 通りに書いたもの)。有限素点 $v\in S$ では $(K_v^\times:(K_v^\times)^n)=n^2/\lvert n\rvert_v$ であり(Neu99 Chapter II, Corollary (5.8), p. 142。$\mu_n\subset K_v$)、無限素点でも $\lvert\cdot\rvert_v$ を正規化された絶対値(複素素点では通常の絶対値の 2 乗)として同じ式が成り立つ($\mathbb{C}$ では $1=n^2/n^2$、$n=2$ の $\mathbb{R}$ では $2=4/2$)。$v\notin S$ では $\lvert n\rvert_v=1$ なので、アデール の記事の定理「積公式」から $\prod_{v\in S}\lvert n\rvert_v=1$ で、分子は $n^{2s}$ である。段 4 から分母は $(K_S:K_S^n)=n^s$ である。よって $(C_K:C_K(S))=n^s$ である。
段 3 と prop-ext-lattice の 1 から $C_K(S)\subset N_T$、$(C_K:N_T)=[T:K]=n^s=(C_K:C_K(S))$ なので、$N_T=C_K(S)$ である。$\square$

巡回拡大からの降下

巡回拡大からの降下

$L/K$ を有限次巡回拡大、$H\subset C_K$ を開部分群とする。$H':=N_{L/K}^{-1}(H)\subset C_L$ がある有限次アーベル拡大 $M/L$ のノルム群なら、$H$ は $K$ のある有限次アーベル拡大のノルム群である。

$\operatorname{Gal}(M/L)$ が中心に入ることを示す

段 1($M/K$ は Galois)。$\sigma$ を $K$ の代数閉包の $K$ 上の自己同型とする。$\sigma(L)=L$ であり、$\sigma|_L$ は $C_L$ に作用して $N_{L/K}(\sigma x)=N_{L/K}(x)$ を満たすので $\sigma(H')=H'$ である。$\sigma(M)/L$ はアーベル拡大で、$\sigma$ によってノルムを移すとそのノルム群は $\sigma(N_{M/L}C_M)=\sigma(H')=H'$ である。prop-ext-lattice の 3(基礎体 $L$)により $\sigma(M)=M$ なので、$M/K$ は Galois 拡大である。
段 2($\operatorname{Gal}(M/K)$ はアーベル群)。$E:=\operatorname{Gal}(M/K)$、$A:=\operatorname{Gal}(M/L)$ とし、$\theta:=\theta_{M/L}\colon C_L\to A$ とする。$\tilde\sigma\in E$ と、その $L$ への制限 $\sigma$ について
$$ \theta(\sigma x)=\tilde\sigma\,\theta(x)\,\tilde\sigma^{-1}\qquad(x\in C_L)\qquad(1) $$
である(下の確認)。$N_{L/K}(\sigma(x)x^{-1})=1\in H$ なので $\sigma(x)x^{-1}\in H'=\ker\theta$ であり、(1) から $\tilde\sigma$ は $\theta(C_L)=A$ のすべての元と可換である。よって $A$ は $E$ の中心に含まれる。$E/A\cong\operatorname{Gal}(L/K)$ は巡回群なので、その生成元の持ち上げ $\tau$ と $A$ で $E$ は生成され、$\tau$ は $A$ と可換なので $E$ はアーベル群である。

(1) の確認を開く

Frobenius 元について:$M/L$ で分岐しない $L$ の素イデアル $\mathfrak{P}$、その上の $\mathfrak{P}'$、$\varphi:=\operatorname{Frob}_{\mathfrak{P}'}(M/L)$ とすると、$\psi:=\tilde\sigma\varphi\tilde\sigma^{-1}\in A$($A$ は正規部分群)は $x\in\mathcal{O}_M$ について $\psi(x)=\tilde\sigma(\varphi(\tilde\sigma^{-1}x))\equiv x^{N\mathfrak{P}}\pmod{\tilde\sigma\mathfrak{P}'}$ を満たし、$N(\sigma\mathfrak{P})=N\mathfrak{P}$ なので、Frobenius元 の記事の命題「Frobenius元の特徴づけ」の 1 により $\psi=\operatorname{Frob}_{\tilde\sigma\mathfrak{P}'}(M/L)$ である。よって Artin 写像について $\psi_{M/L}(\sigma\mathfrak{a})=\tilde\sigma\psi_{M/L}(\mathfrak{a})\tilde\sigma^{-1}$ である。$M/L$ の定義法 $\mathfrak{m}$ を、整数 $m$ と $L$ のすべての実素点により $\mathfrak{m}=m\infty$ の形にとる(定義法の倍数は定義法なので、$m$ を十分割り切れるようにとればよい)。$\mathfrak{m}$ は $\sigma$ で不変なので、$x$ の代表 $a$ に $\alpha a\in W_{\mathfrak{m}}$ となる $\alpha$ をとれば $\sigma(\alpha a)=\sigma(\alpha)\sigma(a)\in W_{\mathfrak{m}}$ で、$\iota^{\mathfrak{m}}(\sigma(\alpha a))=\sigma(\iota^{\mathfrak{m}}(\alpha a))$ である。大域類体論 の記事の命題「イデールの形の相互法則」の $\theta$ の定義から (1) が従う。


段 3(結論)。$N_{M/K}(C_M)=N_{L/K}(N_{M/L}C_M)=N_{L/K}(H')\subset H$ なので、$H$ はアーベル拡大 $M/K$ のノルム群を含み、prop-ext-lattice の 4 によりノルム群である。$\square$

存在定理の証明

thm-ext-main の 2 の存在の証明。$H$ を $C_K$ の開かつ指数有限な部分群とし、$n:=(C_K:H)$ とする。$K':=K(\zeta_n)$ とおくと、$\operatorname{Gal}(K'/K)$ は $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^\times$ の部分群と同型なのでアーベル群であり、部分群の列 $\operatorname{Gal}(K'/K)=G_0\supset G_1\supset\cdots\supset G_r=1$ で各 $G_i/G_{i+1}$ が巡回群のものがとれる。$K_i:=K'^{G_i}$ とすると、$K=K_0\subset K_1\subset\cdots\subset K_r=K'$ で、各 $K_{i+1}/K_i$ は巡回拡大である。
$H_i:=N_{K_i/K}^{-1}(H)\subset C_{K_i}$ とおく。ノルムは連続なので $H_i$ は開部分群であり、ノルムが引き起こす $C_{K_i}/H_i\to C_K/H$ は単射なので、$(C_{K_i}:H_i)$ は $n$ を割る。ノルムの推移性から $H_{i+1}=N_{K_{i+1}/K_i}^{-1}(H_i)$ である。
段 1($K'$ の上ではノルム群)。$H_r$ の $J_{K'}$ での原像 $\hat H_r$ は開部分群なので、ある有限集合 $S_0$ について $\prod_{v\notin S_0}\mathcal{O}_v^\times$($S_0$ の成分は $1$)を含む。$(C_{K'}:H_r)$ は $n$ を割るので、$\hat H_r$ は $n$ 乗の全体 $J_{K'}^n$ を含む。$S$ を、$S_0$ とすべての無限素点と $n$ を割る素イデアルを含み $J_{K'}=J_{K',S}K'^\times$ を満たす有限集合とすると、$\hat H_r\supset\prod_{v\in S}(K_v'^\times)^n\times\prod_{v\notin S}\mathcal{O}_v^\times=I_{K'}(S)$ である。$K'$ は $1$ の原始 $n$ 乗根を含むので、lem-ext-kummer により $H_r\supset C_{K'}(S)=N_T$ であり、prop-ext-lattice の 4 により $H_r$ は $K'$ のアーベル拡大のノルム群である。
段 2(降下)。$H_{i+1}$ がノルム群なら、$K_{i+1}/K_i$ は巡回拡大で $H_{i+1}=N_{K_{i+1}/K_i}^{-1}(H_i)$ なので、lem-ext-descent により $H_i$ もノルム群である。$i=r-1,\dots,0$ と降りると、$H_0=H$ はノルム群である。$\square$

イデアルの形

$K$ の法 $\mathfrak{m}$、$I_K^{\mathfrak{m}}$、$P_{K,\mathfrak{m}}$ は Artin写像とArtin相互法則 の記事の定義「法と射類群」のとおりとし、$W_{\mathfrak{m}}$、$\iota^{\mathfrak{m}}$ は 大域類体論 の記事の節「イデールの形の相互法則」のとおりとする。$W_{\mathfrak{m}}$ の元で $\mathfrak{m}_0$ を割らない有限素点の成分がすべて単数であるものの群を $W_{\mathfrak{m}}^1$ と書く。$\mathfrak{p}\nmid\mathfrak{m}_0$ について、$\mathfrak{p}$ 成分が素元でほかの成分が $1$ のイデールを $c_{\mathfrak{p}}$ と書く。

射類群の部分群の類体

$\mathfrak{m}$ を $K$ の法、$H$ を $P_{K,\mathfrak{m}}\subset H\subset I_K^{\mathfrak{m}}$ となる部分群とする。このとき有限次アーベル拡大 $L/K$ で、有限個を除く $\mathfrak{p}\nmid\mathfrak{m}_0$ について「$\mathfrak{p}$ が $L$ で完全分解する $\iff\mathfrak{p}\in H$」を満たすものがただ 1 つ存在し、$\operatorname{Gal}(L/K)\cong I_K^{\mathfrak{m}}/H$ である。

イデール類群の商に移して存在定理を使う

$a\in J_K$ に $\alpha a\in W_{\mathfrak{m}}$ となる $\alpha\in K^\times$ をとり、$\varphi(a):=\iota^{\mathfrak{m}}(\alpha a)\bmod P_{K,\mathfrak{m}}$ とおく。大域類体論 の記事の命題「イデールの形の相互法則」の証明の 1 と同じく、$\varphi\colon J_K\to I_K^{\mathfrak{m}}/P_{K,\mathfrak{m}}$ は $\alpha$ によらない準同型で、$\varphi(c_{\mathfrak{a}})=[\mathfrak{a}]$ から全射であり、$K^\times W_{\mathfrak{m}}^1\subset\ker\varphi$ である。逆に $\varphi(a)=1$ なら、$\iota^{\mathfrak{m}}(\alpha a)=(\beta)$ で、$\beta\equiv1\pmod{^\times\mathfrak{m}_0}$ かつ $\mathfrak{m}_\infty$ で正にとれる。Artin写像とArtin相互法則 の記事の補題「ノルムと合同条件」の 1 により $\beta\in W_{\mathfrak{m}}$ であり、$\beta^{-1}\alpha a\in W_{\mathfrak{m}}^1$ なので $a\in K^\times W_{\mathfrak{m}}^1$ である。よって $\ker\varphi=K^\times W_{\mathfrak{m}}^1$ である。
$\hat H:=\varphi^{-1}(H/P_{K,\mathfrak{m}})/K^\times\subset C_K$ は開部分群 $W_{\mathfrak{m}}^1$ の像を含むので開であり、$C_K/\hat H\cong I_K^{\mathfrak{m}}/H$ は射類群の商なので有限である(類体論の第二不等式 の記事の注意「使う事実」の (A1))。thm-ext-main により $N_L=\hat H$ となる有限次アーベル拡大 $L$ があり、$\operatorname{Gal}(L/K)\cong C_K/\hat H\cong I_K^{\mathfrak{m}}/H$ である。$\mathfrak{m}$ で割り切れる $L/K$ の定義法 $\mathfrak{n}$ をとる。$\mathfrak{p}\nmid\mathfrak{n}_0$ なら、大域類体論 の記事の同命題の 3 により $\operatorname{Frob}_{\mathfrak{p}}(L/K)=\theta_{L/K}(c_{\mathfrak{p}})$ であり、これが自明であることは $c_{\mathfrak{p}}\in N_L=\hat H$、すなわち $\varphi(c_{\mathfrak{p}})=[\mathfrak{p}]\in H/P_{K,\mathfrak{m}}$ と同値である。例外は $\mathfrak{n}_0$ を割り $\mathfrak{m}_0$ を割らない有限個の素イデアルだけである。
一意性:条件を満たす $L,L'$ は、有限個を除いて同じ素イデアルが完全分解するので、Chebotarevの密度定理 の記事の系「完全分解する素イデアルによる Galois 拡大の決定」により $L=L'$ である。$\square$

とくに $\mathfrak{m}=(1)$(無限部分なし)、$H=P_K$ とすると、Galois 群が類群 $\operatorname{Cl}_K$ と同型で、単項素イデアルが(有限個を除いて)ちょうど完全分解するアーベル拡大が得られる。これが Hilbert類体 であり、それがすべての素点で不分岐であることはこの記事では証明しない(Neu99 Chapter VI, Proposition (6.9), p. 399)。$H=P_{K,\mathfrak{m}}$ に対応する体を法 $\mathfrak{m}$ の 射類体 という。

例

円分体とその実部分体

$K=\mathbb{Q}$、$\mathfrak{m}=m\infty$($m\ge3$)とする。大域類体論 の記事の定理「円分体の Artin 相互法則」により、$p\nmid m$ が $\mathbb{Q}(\zeta_m)$ で完全分解することは $\operatorname{Frob}_p=1$、すなわち $p\equiv1\pmod m$、すなわち $(p)\in P_{\mathbb{Q},m\infty}$ と同値である。cor-ext-weber の一意性により、$\mathbb{Q}(\zeta_m)$ は $H=P_{\mathbb{Q},m\infty}$ の類体、すなわち法 $m\infty$ の射類体である。
次に $H:=\{(r/s)\mid r,s>0,\ r\equiv\pm s\pmod m\}$ とする。複素共役 $c$ は $\chi(c)=-1$ に対応し、$\mathbb{Q}(\zeta_m)^+:=\mathbb{Q}(\zeta_m+\zeta_m^{-1})$ は $c$ の固定体である。$p$ が $\mathbb{Q}(\zeta_m)^+$ で完全分解することは $\operatorname{Frob}_p\in\{1,c\}$、すなわち $p\equiv\pm1\pmod m$ と同値なので、$\mathbb{Q}(\zeta_m)^+$ は $H$ の類体で、Galois 群は $(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z})^\times/\{\pm1\}$ である。

$\mathbb{Q}$ の 2 乗根の Kummer 拡大

$K=\mathbb{Q}$、$n=2$、$S=\{\infty,2\}$ とする。$\mathbb{Q}$ の類数は $1$ なので $J_{\mathbb{Q}}=J_{\mathbb{Q},S}\mathbb{Q}^\times$ であり、$K_S=\{\pm2^k\}$、$K_S/K_S^2$ は $-1,2$ の類で生成される位数 $4$ の群である。よって $T=\mathbb{Q}(\sqrt{-1},\sqrt2)=\mathbb{Q}(\zeta_8)$ で、lem-ext-kummer により $N_{\mathbb{Q}(\zeta_8)}$ は $\mathbb{R}_{>0}\times(\mathbb{Q}_2^\times)^2\times\prod_{p\ne2}\mathbb{Z}_p^\times$ の $C_{\mathbb{Q}}$ での像である。lem-ext-kummer の証明の段 5 の数え方では、$(\mathbb{R}^\times:\mathbb{R}_{>0})=2=4/\lvert2\rvert_\infty$、$(\mathbb{Q}_2^\times:(\mathbb{Q}_2^\times)^2)=8=4/\lvert2\rvert_2$ で分子は $16$、分母は $(K_S:K_S^2)=4$ で、指数は $4=[\mathbb{Q}(\zeta_8):\mathbb{Q}]$ である。$(\mathbb{Q}_2^\times)^2=4^{\mathbb{Z}}(1+8\mathbb{Z}_2)$ で、$2$ 成分だけが $4$ のイデールは主イデール $4$ で割ると $W_{8\infty}^1$ に入るので、この像は $\mathbb{R}_{>0}\times(1+8\mathbb{Z}_2)\times\prod_{p\ne2}\mathbb{Z}_p^\times=W_{8\infty}^1$ の像に等しい。これは ex-ext-cyclotomic で $m=8$ としたときの、cor-ext-weber の証明の $\hat H$ である。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
$H$ が開部分群$C_{\mathbb{Q}}$ の、開でない指数 $2$ の部分群$H$ がノルム群である
拡大がアーベル$\mathbb{Q}(\sqrt[3]2)$ と $\mathbb{Q}(\omega\sqrt[3]2)$($\omega=e^{2\pi i/3}$)ノルム群が拡大を決める
lem-ext-kummer で $K$ が $1$ の $n$ 乗根を含む$K=\mathbb{Q}$、$n=3$、$S=\{\infty,3\}$$T/K$ が次数 $n^s$ のアーベル拡大
反例の確認

各行は、表の条件だけを外すと結論が破れることを示す。

各行の確認を開く

1 行目:大域類体論 の記事の命題「有理数体のイデール類群」により $C_{\mathbb{Q}}\cong\mathbb{R}_{>0}\times\prod_p\mathbb{Z}_p^\times$ である。奇素数 $p$ ごとの全射 $\mathbb{Z}_p^\times\to\mathbb{F}_p^\times\to\{\pm1\}$ を並べて、$\mathbb{F}_2$ 上のベクトル空間 $V:=\prod_{p\ne2}\{\pm1\}$ への全射を作る。有限個の成分を除いて $1$ の元の部分空間 $V_0$ は $V$ と異なるので、$V_0$ の上で $0$ で $0$ でない線形写像 $\lambda\colon V\to\mathbb{F}_2$ がある(基底の延長による。選択公理を使う)。合成 $C_{\mathbb{Q}}\to\mathbb{F}_2$ の核 $H$ は指数 $2$ である。$H$ が開なら、ある有限集合 $S$ について $\prod_{p\notin S}\mathbb{Z}_p^\times$ を含み、その像は $S$ の外に台をもつ $V$ の元をすべて含む。$V$ の元は $V_0$ の元とそのような元の和なので $\lambda=0$ となり矛盾する。thm-ext-main の 1 によりノルム群は開なので、$H$ はノルム群でない。

2 行目:$\mathbb{Q}$ 上の体の同型 $\sigma\colon M:=\mathbb{Q}(\sqrt[3]2)\to\sigma M=\mathbb{Q}(\omega\sqrt[3]2)$ は素点と完備化の同型を引き起こし、イデール群の同型 $J_M\to J_{\sigma M}$ で主イデールを主イデールに、$\mathbb{Q}$ へのノルムをノルムに移す。よって $N_M=N_{\sigma M}$ だが、$M\subset\mathbb{R}$、$\sigma M\not\subset\mathbb{R}$ なので $M\ne\sigma M$ である。ノルム群が体を決めるのはアーベル拡大の間だけである。

3 行目:$K_S=\{\pm3^k\}$ で、$1$ の 3 乗根と $3$ の 3 乗根をすべて添加するので $T=\mathbb{Q}(\zeta_3,\sqrt[3]3)$ である。これは既約多項式 $X^3-3$($3$ についての Eisenstein 多項式)の最小分解体で、次数 $6$、Galois 群は $S_3$ でアーベル群でない。次数も $6\ne n^s=9$ である。

補足

文献と名前

thm-ext-main は Neu99 Chapter VI, Theorem (6.1), p. 395 と CF67 Chapter VII, §5.1 (D), p. 172 にある。lem-ext-kummer は Neu99 Chapter VI, Theorem (4.2) と Lemma (4.3), pp. 381–382 の、補助の素点の集合を使わない形であり、段 4 で相互法則を使う点が異なる。lem-ext-descent と、1 の冪根を添加した体からの降下による証明は CF67 Chapter VII, §12, pp. 201–202 による(そこでは指数についての帰納法を使う)。Weber が予想した射類体の存在を高木貞治が証明したことは Neu99 Chapter VI, §7, p. 406 に述べられており、この定理は高木の存在定理ともよばれる。cor-ext-weber で得た体が $\mathfrak{m}$ の外で不分岐であること(導手)は Neu99 Chapter VI, Proposition (6.5) と Corollary (6.6), pp. 397–398 にあり、この記事では証明しない。

関連項目

参考文献

[1]
Jürgen Neukirch (translated by Norbert Schappacher), Algebraic Number Theory, Springer, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften 322, 1999, Chapter II, Corollary (5.8), p. 142; Chapter VI, Theorem (4.2) と Lemma (4.3), pp. 381–382; Theorem (6.1), p. 395; Proposition (6.5) と Corollary (6.6), pp. 397–398; Proposition (6.9), p. 399; §7, p. 406
[2]
J. W. S. Cassels, A. Fröhlich (eds.), Algebraic Number Theory, Academic Press, 1967, Chapter VII(J. T. Tate, Global Class Field Theory):§5.1 (D), p. 172、§12, pp. 201–202

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