基底と次元(basis and dimension)とは、ベクトル空間の元をただ一通りの有限線形結合で表す線形独立な生成系と、その元の個数による空間の大きさである。基底を選ぶと各ベクトルの係数が座標を与え、有限生成空間では Steinitz の交換補題から基底の個数が取り方によらない。これを $\dim V$ と書き、$\dim K^n=n$、$\dim K[x]_{\le n}=n+1$、$\dim_{\mathbb{R}}\mathbb{C}=2$ である。$n$ 次元空間では $n$ 個の独立系も生成系も基底であり、$\dim(W_1+W_2)=\dim W_1+\dim W_2-\dim(W_1\cap W_2)$ が成り立つ。一般の基底の存在は Zorn の補題による。
$K$ を体、$V$ を $K$ 上のベクトル空間とする。$V$ のベクトルの族 $(v_i)_{i\in I}$(または部分集合 $B\subset V$)が次の 2 条件を満たすとき、これを $V$ の基底(basis)という。
ベクトル空間 $V$ が有限個のベクトルで生成されるとき、$V$ を有限次元(finite-dimensional)といい、そうでないとき無限次元という。有限次元のベクトル空間は有限個の元からなる基底をもち(thm-basis-and-dimension-existence-finite)、その元の個数は基底の取り方によらない(thm-basis-and-dimension-uniqueness)。この個数を $V$ の次元(dimension)といい $\dim V$(係数体を明示するときは $\dim_KV$)と書く。零空間 $\{0\}$ は空集合を基底にもち、$\dim\{0\}=0$ である。無限次元のベクトル空間についても基底は存在し(thm-basis-and-dimension-existence-general)、その濃度を次元とよぶ。Axl15
生成系は「そのベクトルたちの線形結合で空間全体を作れる」という充足性を、線形独立は「どのベクトルも余分でない」という非冗長性を表す。基底はこの両方を満たす族であり、「過不足のない座標軸の組」にあたる。基底を 1 つ選ぶことは、抽象的なベクトル空間の各元に $K^n$ の数の組(座標)を対応させることであり、この対応は線形同型 $K^n\cong V$ を与える(線形写像の記事の命題「座標写像による同型」)。
次元は「独立な方向がいくつあるか」を数える量である。基底は無数にあるが、その元の個数がつねに一致することは自明ではなく、Steinitzの交換補題(「$n$ 個のベクトルで生成される空間には $n+1$ 個の線形独立なベクトルはない」)を要する。これが定まるおかげで、有限次元のベクトル空間は次元という 1 つの数で同型を除いて分類される。
$m\times n$ 型の行列全体 $M_{m,n}(K)$ において、$(i,j)$ 成分だけが $1$ で他が $0$ の行列 $E_{ij}$($1\le i\le m$、$1\le j\le n$)は基底をなす。任意の $A=(a_{ij})$ は $A=\sum_{i,j}a_{ij}E_{ij}$ と書け、$\sum a_{ij}E_{ij}=O$ なら各成分を比べて $a_{ij}=0$ である。よって $\dim M_{m,n}(K)=mn$ である。$n$ 次対称行列全体は $E_{ii}$($n$ 個)と $E_{ij}+E_{ji}$($i< j$、$n(n-1)/2$ 個)を基底にもつので、次元は $n(n+1)/2$ である。
$K^3$ の部分空間 $W:=\{(x,y,z)\mid x+y+z=0\}$ を考える。$W$ の元は $z=-x-y$ により $(x,y,-x-y)=x(1,0,-1)+y(0,1,-1)$ と書けるので、$(1,0,-1),(0,1,-1)$ は $W$ を生成する。$a(1,0,-1)+b(0,1,-1)=(a,b,-a-b)=0$ なら $a=b=0$ なので線形独立でもあり、$W$ の基底である。よって $\dim W=2$ である。一般に斉次連立1次方程式の解空間の次元は「未知数の個数 $-$ 係数行列の階数」に等しく、これは次元定理(線形代数学 の記事の定理「次元定理」)の内容である。
複素数全体 $\mathbb{C}$ は、$\mathbb{C}$ 上のベクトル空間としては $1$ を基底にもち $\dim_{\mathbb{C}}\mathbb{C}=1$ であるが、$\mathbb{R}$ 上のベクトル空間としては $1,i$ を基底にもち $\dim_{\mathbb{R}}\mathbb{C}=2$ である($1,i$ の $\mathbb{R}$ 上の線形独立性は 線形独立 の記事の例「係数体への依存」)。さらに $\mathbb{R}$ を有理数体 $\mathbb{Q}$ 上のベクトル空間とみると無限次元である(同記事の例「無限次元の例」)。一般に体の拡大 $L/K$ について $\dim_KL$ を拡大次数といい $[L:K]$ と書く。
$V$ をベクトル空間、$B\subset V$ を部分集合とする。次は同値である。
1 と 2 の同値。$B$ が生成することは「各元が線形結合で表される」ことであり、その表し方が一意であることと $B$ が線形独立であることの同値は 線形独立 の記事の定理「線形独立性の同値条件」の 1 と 3 の同値である(有限部分集合ごとに適用すればよい)。
1 と 4 の同値は 線形独立 の記事の命題「極大線形独立集合と基底」である。
1 ならば 3。$B$ が基底で、$B'\subsetneq B$ が $V$ を生成したとする。$b\in B\setminus B'$ をとると、$b\in V=\operatorname{span}(B')$ であるから $b$ は $B'$ の有限個の元の線形結合 $b=\sum_ia_ib_i$($b_i\in B'$、$b_i\ne b$)で書ける。すると $1\cdot b-\sum_ia_ib_i=0$ は $B$ の元の非自明な線形関係であり、$B$ の線形独立性に反する。
3 ならば 1。$B$ が極小な生成系で線形独立でないとする。$B$ の相異なる元 $b_1,\ldots,b_n$ と、すべては $0$ でない係数 $a_1,\ldots,a_n$ で $\sum_ia_ib_i=0$ となるものがある。$a_j\ne0$ とすると、体の非零元は可逆であるから $b_j=-a_j^{-1}\sum_{i\ne j}a_ib_i\in\operatorname{span}(B\setminus\{b_j\})$ である。すると $B\subset\operatorname{span}(B\setminus\{b_j\})$ であり、ベクトル空間の記事の命題「線形包は最小の部分空間」により $V=\operatorname{span}(B)\subset\operatorname{span}(B\setminus\{b_j\})$ となる。よって真部分集合 $B\setminus\{b_j\}$ が $V$ を生成し、極小性に反する。$\square$
$V$ を有限次元のベクトル空間とし、有限集合 $S\subset V$ が $V$ を生成するとする。このとき $S$ の部分集合で $V$ の基底になるものが存在する。とくに $V$ は有限個の元からなる基底をもつ。Axl15
$V$ を生成する $S$ の部分集合全体の集まりを $\mathcal{G}$ とおく。$S\in\mathcal{G}$ であるから $\mathcal{G}$ は空でなく、各元は有限集合である。したがって元の個数が最小の $B\in\mathcal{G}$ が存在する(自然数の部分集合が最小元をもつことによる)。$B$ は $V$ を生成し、$B$ の真部分集合 $B'$ は元の個数が $B$ より少ないので $\mathcal{G}$ に属さない、すなわち $V$ を生成しない。よって $B$ は極小な生成系であり、thm-basis-and-dimension-characterizationの 3 により基底である。$V=\{0\}$ のときは $B=\emptyset$ がとれる。$\square$
$V$ を有限次元のベクトル空間とする。
1 を示す。$S=\{u_1,\ldots,u_n\}$ を $V$ の有限な生成系、$L$ を線形独立な部分集合とする。$L$ の任意の有限部分集合 $\{w_1,\ldots,w_m\}$ は線形独立であるから、Steinitzの交換補題(線形独立 の記事の定理「Steinitzの交換補題の言明」)により $m\le n$ である。$L$ が $n+1$ 個以上の元をもてば、そのうち $n+1$ 個をとって矛盾するから、$L$ は高々 $n$ 個の元からなる有限集合である。
2 を示す。thm-basis-and-dimension-existence-finiteにより有限な基底 $B$ が存在する。$B'$ を任意の基底とする。$B'$ は線形独立で $B$ は有限な生成系であるから、1 により $B'$ は有限で $|B'|\le|B|$ である。すると $B'$ も有限な生成系であり、$B$ は線形独立であるから、再び 1 により $|B|\le|B'|$ である。よって $|B|=|B'|$ である。$\square$
上の証明で使った「$n$ 個のベクトルで生成される空間の線形独立な族は高々 $n$ 個の元しかもたない」という事実の証明は Steinitzの交換補題 の記事に譲る(出典 Axl15 Chapter 2、Lan02 Chapter III §5)。この補題を経由せずに、斉次連立1次方程式「未知数が方程式より多ければ非自明な解をもつ」から直接示す道筋もある。
$V$ を $n$ 次元のベクトル空間とする。
1 を示す。前半はthm-basis-and-dimension-uniquenessの 1 である($V$ は $n$ 個の元からなる基底を生成系としてもつ)。$v_1,\ldots,v_n$ を線形独立とし、基底でないと仮定すると生成しないので、$v\in V\setminus\operatorname{span}\{v_1,\ldots,v_n\}$ がとれる。線形独立 の記事の命題「一ベクトルの追加」により $v_1,\ldots,v_n,v$ は $n+1$ 個の線形独立なベクトルとなり、前半に反する。
2 を示す。$S$ を生成系とする。$S$ が有限ならthm-basis-and-dimension-existence-finiteにより $S$ は基底 $B$ を含み、thm-basis-and-dimension-uniquenessの 2 により $|B|=n$ であるから $|S|\ge n$ である。$S$ が無限なら主張は明らかである。$S$ がちょうど $n$ 個の元からなるとき、$B\subset S$ かつ $|B|=n=|S|$ であるから $S=B$ は基底である。
3 を示す。$W$ が有限次元で $\dim W\le n$ であることは 線形代数学 の記事の補題「部分空間の基底と基底の延長」の 1 による。$\dim W=n$ とし、$W$ の基底 $w_1,\ldots,w_n$ をとると、これらは $V$ の $n$ 個の線形独立なベクトルであるから 1 により $V$ の基底であり、$W=\operatorname{span}\{w_1,\ldots,w_n\}=V$ である。逆に $W=V$ なら $\dim W=n$ である。$\square$
$W_1\cap W_2$ は部分空間である(ベクトル空間の記事の命題「部分空間の共通部分と和」)から有限次元であり、その基底 $u_1,\ldots,u_k$ をとる。これは $W_1$ の線形独立な族であるから、線形代数学 の記事の補題「部分空間の基底と基底の延長」の 2 により $v_1,\ldots,v_p$ を付け加えて $W_1$ の基底にできる。同様に $w_1,\ldots,w_q$ を付け加えて $W_2$ の基底にできる。$\dim W_1=k+p$、$\dim W_2=k+q$、$\dim(W_1\cap W_2)=k$ であるから、
$$
u_1,\ldots,u_k,\ v_1,\ldots,v_p,\ w_1,\ldots,w_q
$$
が $W_1+W_2$ の基底であることを示せば、$\dim(W_1+W_2)=k+p+q$ となり主張が従う。
生成すること。$W_1+W_2$ の元 $x_1+x_2$($x_i\in W_i$)について、$x_1$ は $u,v$ たちの、$x_2$ は $u,w$ たちの線形結合であるから、和は上の族の線形結合である。
線形独立であること。$\sum_ia_iu_i+\sum_jb_jv_j+\sum_lc_lw_l=0$ とする。$y:=\sum_lc_lw_l$ とおくと $y\in W_2$ であり、また $y=-\sum_ia_iu_i-\sum_jb_jv_j\in W_1$ である。よって $y\in W_1\cap W_2$ であり、$y=\sum_id_iu_i$ と書ける。すると $\sum_lc_lw_l-\sum_id_iu_i=0$ であり、$u_1,\ldots,u_k,w_1,\ldots,w_q$ は $W_2$ の基底で線形独立であるから、すべての $c_l$(と $d_i$)は $0$ である。したがって $y=0$ で、$\sum_ia_iu_i+\sum_jb_jv_j=0$ となり、$u_1,\ldots,u_k,v_1,\ldots,v_p$ の線形独立性からすべての $a_i,b_j$ は $0$ である。$\square$
$V$ を任意のベクトル空間、$L\subset S\subset V$ とし、$L$ は線形独立、$S$ は $V$ を生成するとする。このとき $L\subset B\subset S$ を満たす $V$ の基底 $B$ が存在する。とくに、任意のベクトル空間は基底をもち($L=\emptyset$、$S=V$)、任意の線形独立な部分集合は基底に延長でき($S=V$)、任意の生成系は基底を含む($L=\emptyset$)。さらに、$V$ の任意の 2 つの基底は等しい濃度をもつ。
証明は Zornの補題 による。$L$ を含み $S$ に含まれる線形独立な部分集合全体を包含関係で順序付けると、鎖の合併は再び線形独立(線形関係は有限個の元しか含まないため)であるから上界をもち、Zorn の補題により極大元 $B$ が存在する。$B$ の極大性と 線形独立 の記事の命題「一ベクトルの追加」により $S\subset\operatorname{span}(B)$、したがって $\operatorname{span}(B)=V$ となる。無限基底の濃度の一意性は Lan02 Chapter III §5 のベクトル空間の節に譲る。本定理は Zornの補題 を仮定した上での主張であり、より弱い集合論での強さは本記事の範囲外とする。有限次元の場合にはthm-basis-and-dimension-existence-finiteと 線形代数学 の記事の補題「部分空間の基底と基底の延長」により選択公理は不要である。
基底と次元の概念は係数を環に広げた加群でも定義できるが、基底をもつ加群(自由加群)は特別であり、また基底をもっても元の個数が一定でない環(IBN 性をもたない環)が存在する。体上ではこれらの病理が起こらないことが、線形代数を「次元」だけで分類できる理由である。基底の選び方は線形写像の表現行列の形を決め、良い基底を選ぶことが対角化や Jordan標準形 の主題である。内積空間では正規直交基底という特別な基底が中心的な役割を果たす。本記事の内容は Axl15 Chapter 2 および Lan02 Chapter III §5 による。
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