d'Alembertの公式

同義語:ダランベールの公式d'Alembert's formula

概要

d'Alembertの公式(d'Alembert's formula)とは、1 次元の波動方程式 $u_{tt}=c^2u_{xx}$ の初期値問題 $u(x,0)=g(x)$、$u_t(x,0)=h(x)$($g\in C^2$、$h\in C^1$)のただ 1 つの $C^2$ 級の解を $u(x,t)=\frac12\bigl(g(x+ct)+g(x-ct)\bigr)+\frac1{2c}\int_{x-ct}^{x+ct}h(s)\,ds$ と与える公式である。解は左右に速さ $c$ で進む 2 つの波の和で、点 $(x,t)$ の値は区間 $[x-c|t|,x+c|t|]$ の初期値だけで決まる。外力のある方程式、固定端での反射、エネルギーの等分配、滑らかでない初期値の扱いもこの公式から導かれる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 偏微分, 連鎖律, 偏微分方程式

d'Alembertの公式(d'Alembert's formula)は、1 次元の波動方程式の初期値問題
$$ u_{tt}=c^2u_{xx},\qquad u(x,0)=g(x),\qquad u_t(x,0)=h(x)\qquad(c>0) $$
の解を
$$ u(x,t)=\frac{g(x+ct)+g(x-ct)}{2}+\frac1{2c}\int_{x-ct}^{x+ct}h(s)\,ds $$
と与える公式である。張った弦の小さな振動では $u(x,t)$ が位置 $x$、時刻 $t$ での弦の変位で、$c$ は波の伝わる速さである。公式は、解が右へ進む波 $F(x-ct)$ と左へ進む波 $G(x+ct)$ の和であることを表している。
公式からは、解の値が初期値のどの範囲で決まるか(依存領域)、初期値の乱れがどこまで伝わるか(有限伝播速度)、壁での波の反射、エネルギーが運動と変形に等分されていくことなどが読み取れる。この記事では、まず方程式の一般解を特性座標で求めて公式を導き、そのあと非斉次方程式・半直線の問題・エネルギー・滑らかでない初期値の順に調べる。高次元の公式(Kirchhoff・Poisson)は 波動方程式 で扱う。

名前の似た用語

J. le Rond d'Alembert の名は、級数の比判定法(d'Alembert の判定法)、代数学の基本定理 の証明に使う d'Alembert の補題、波動方程式の作用素 $\partial_t^2-c^2\Delta$(d'Alembert 作用素)にも付いている。この記事が扱うのは 1 次元の波動方程式の解の公式である。

一般解

以下、$c>0$ を固定し、$I\subset\mathbb R$ を $0$ を含む区間とする。$\Omega:=\mathbb R\times I$ 上の関数 $u(x,t)$ について、$C^2$ 級とは 2 階までの偏導関数が $\Omega$ 上で連続であること($I$ の端点では片側の微分)とする。

特性線と特性座標

$\xi:=x-ct$、$\eta:=x+ct$ を 特性座標 といい、直線 $x-ct=\text{一定}$、$x+ct=\text{一定}$ を波動方程式の 特性線 という。逆に $x=(\xi+\eta)/2$、$t=(\eta-\xi)/(2c)$ である。

$u$ を特性座標で書いた関数を $U(\xi,\eta):=u\bigl((\xi+\eta)/2,(\eta-\xi)/(2c)\bigr)$ とする。$\partial x/\partial\xi=\frac12$、$\partial t/\partial\xi=-\frac1{2c}$、$\partial x/\partial\eta=\frac12$、$\partial t/\partial\eta=\frac1{2c}$ なので、連鎖律 により
$$ U_\eta=\frac12u_x+\frac1{2c}u_t,\qquad U_{\xi\eta}=\frac14u_{xx}-\frac1{4c^2}u_{tt}=-\frac1{4c^2}\bigl(u_{tt}-c^2u_{xx}\bigr)\qquad(1) $$
である($u_{xt}=u_{tx}$ を使った)。波動方程式は特性座標では $U_{\xi\eta}=0$ になる。

1 次元の波動方程式の一般解

$u\in C^2(\Omega)$ について、次は同値である。

  1. $\Omega$ 上で $u_{tt}=c^2u_{xx}$ である。
  2. $F,G\in C^2(\mathbb R)$ があって、$\Omega$ 上で $u(x,t)=F(x-ct)+G(x+ct)$ である。
    2 の $F,G$ は、$F+k$、$G-k$($k$ は定数)への取り替えを除いて一意である。

2 ⇒ 1:$u_{tt}=c^2F''(x-ct)+c^2G''(x+ct)$、$u_{xx}=F''(x-ct)+G''(x+ct)$ である。
1 ⇒ 2:$(x,t)\mapsto(\xi,\eta)$ は $\Omega$ を帯 $D:=\{(\xi,\eta)\mid\eta-\xi\in 2cI\}$ に写す。$D$ は対角線 $\xi=\eta$($t=0$)を含み、各 $(\xi,\eta)\in D$ について、$(\xi,\eta)$ と $(\eta,\eta)$ を結ぶ水平な線分、$(\xi,\xi)$ と $(\xi,\eta)$ を結ぶ垂直な線分は $D$ に含まれる。(1) から $D$ 上で $\partial_\xi(U_\eta)=0$ なので、水平な線分に沿って $U_\eta(\xi,\eta)=U_\eta(\eta,\eta)=:\gamma(\eta)$ であり、$\gamma$ は連続である。$\Gamma(s):=\int_0^s\gamma$ とおくと、$V(\xi,\eta):=U(\xi,\eta)-\Gamma(\eta)$ は $V_\eta=0$ を満たすので、垂直な線分に沿って $V(\xi,\eta)=V(\xi,\xi)=:F(\xi)$ である。よって $U(\xi,\eta)=F(\xi)+G(\eta)$、$G:=\Gamma$ である。$F(s)=u(s,0)-G(s)$ で、$G'=\gamma$、$\gamma(s)=U_\eta(s,s)=\frac12u_x(s,0)+\frac1{2c}u_t(s,0)$ は $C^1$ 級なので、$F,G\in C^2$ である。
一意性:$F(\xi)+G(\eta)=\tilde F(\xi)+\tilde G(\eta)$ が $D$ で成り立てば、$\eta=\xi$ と $\eta$ を動かした式を比べて、$F-\tilde F=\tilde G-G$ は定数である。$\square$

$F(x-ct)$ は形 $F$ を保ったまま速さ $c$ で右へ動く波、$G(x+ct)$ は左へ動く波である。2 次元の Lorentz 計量の光的座標でみた同じ分解は 光的座標 の系「2 次元の波動方程式の一般解」にある。

初期値問題と d'Alembert の公式

d'Alembert の公式

$g\in C^2(\mathbb R)$、$h\in C^1(\mathbb R)$ とする。$\Omega=\mathbb R\times I$ 上で
$$ u_{tt}=c^2u_{xx},\qquad u(x,0)=g(x),\qquad u_t(x,0)=h(x) $$
を満たす $u\in C^2(\Omega)$ はただ 1 つ存在し、
$$ u(x,t)=\frac{g(x+ct)+g(x-ct)}{2}+\frac1{2c}\int_{x-ct}^{x+ct}h(s)\,ds\qquad(2) $$
である。

$H(s):=\int_0^sh$ とおく。$H\in C^2$ である。
一意性:解 $u$ は thm-daf-general により $F(x-ct)+G(x+ct)$ と書ける。$t=0$ とその $t$ 微分から $F+G=g$、$c(G'-F')=h$ で、後者を積分すると $G-F=H/c+k$($k$ は定数)である。よって $F=\frac12(g-H/c-k)$、$G=\frac12(g+H/c+k)$ で、
$$ u=F(x-ct)+G(x+ct)=\frac{g(x-ct)+g(x+ct)}2+\frac{H(x+ct)-H(x-ct)}{2c} $$
となり、これは (2) である。
存在:$F:=\frac12(g-H/c)$、$G:=\frac12(g+H/c)$ は $C^2$ 級で、(2) は $F(x-ct)+G(x+ct)$ なので thm-daf-general の 2 ⇒ 1 により方程式を満たす。$u(x,0)=F(x)+G(x)=g(x)$、$u_t(x,0)=c(G'(x)-F'(x))=H'(x)=h(x)$ である。$\square$

偏微分方程式 の記事は、同じ公式を作用素の分解 $\partial_t^2-\partial_x^2=(\partial_t+\partial_x)(\partial_t-\partial_x)$ と輸送方程式から証明している($c=1$)。$u(x,t)=v(x,ct)$ とおけば $v$ は $c=1$ の方程式を満たすので、2 つの形は同じ内容である。特性座標による導き方は、両端を固定した弦の問題として LebDQ26 §4.8.1–4.8.2(pp. 252–254)にもある。

解の評価と連続依存性

thm-daf-main の解について、$X>0$ と $(x,t)\in\Omega$、$|x|\le X$ に対して
$$ |u(x,t)|\le\sup_{|s|\le X+c|t|}|g(s)|+|t|\sup_{|s|\le X+c|t|}|h(s)| $$
である。とくに、初期値を有界な区間の上で少し変えると、解は対応する有界な領域の上で少ししか変わらない。

  1. の第 1 項は $g$ の値 2 つの平均で、第 2 項は長さ $2c|t|$ の区間での $h$ の積分を $2c$ で割ったものである。どちらも区間 $[x-c|t|,x+c|t|]\subset[-X-c|t|,X+c|t|]$ の値しか使わない。差 $u-\tilde u$ も初期値の差を初期値とする解なので、同じ評価が差に使える。$\square$

存在・一意性・連続依存性がそろうので、この初期値問題は Hadamard の意味で適切である。

依存領域と影響領域

  1. の $u(x,t)$ は、$g$ の 2 点 $x\pm ct$ での値と、$h$ の区間 $[x-c|t|,x+c|t|]$ での値だけで決まる。この区間を点 $(x,t)$ の 依存領域 という(多次元の場合と一般の時空の場合は 依存領域)。逆に、初期値を $[x_0-\delta,x_0+\delta]$ の中だけで変えると、その影響は $|x-x_0|\le c|t|+\delta$ の範囲にしか現れない。$\delta\to0$ とした範囲 $|x-x_0|\le c|t|$ を点 $x_0$ の 影響領域 という。乱れは速さ $c$ より速く伝わらない。
    ただし $g$ と $h$ で伝わり方が違う。初期値を $[x_0-\delta,x_0+\delta]$ の中だけで変えると、$g$ の変化の影響は特性線 $x=x_0\pm ct$ のまわりの 2 本の帯 $\lvert x\mp ct-x_0\rvert\le\delta$ にしか現れないが、$h$ の変化の影響は 2 本の帯の間を含む $\lvert x-x_0\rvert\le c\lvert t\rvert+\delta$ の全体に現れうる。
初期速度が残す台地

$h\in C^1(\mathbb R)$ を $[-1,1]$ の外で $0$ とし、$A:=\int_{-1}^1h$ とする。$g=0$ の解は
$$ u(x,t)=\frac1{2c}\int_{x-ct}^{x+ct}h(s)\,ds $$
で、$t>0$、$|x|\le ct-1$ なら積分区間が $[-1,1]$ を含むので $u(x,t)=A/(2c)$ である。$|x|\ge ct+1$ なら $u=0$ である。$A\ne0$ なら、波が通り過ぎたあとも弦は元の位置に戻らず、高さ $A/(2c)$ の台地が広がっていく。逆に $h=0$ で $g$ が $[-1,1]$ の外で $0$ なら、$t>1/c$、$|x|< ct-1$ で $x\pm ct\notin[-1,1]$ なので $u(x,t)=0$ であり、2 つに分かれた波の間は静止している。

非斉次方程式

外力 $f(x,t)$ のある方程式 $u_{tt}-c^2u_{xx}=f$ の解は、各時刻 $s$ に加わる力を初速度とする解を重ね合わせて得られる(Duhamel の原理)。

外力のある場合の公式

$f$ と $f_x$ が $\Omega$ 上で連続とし、
$$ w(x,t):=\frac1{2c}\int_0^t\int_{x-c(t-s)}^{x+c(t-s)}f(y,s)\,dy\,ds $$
とおく。$w\in C^2(\Omega)$ で、$w_{tt}-c^2w_{xx}=f$、$w(x,0)=w_t(x,0)=0$ である。したがって $g\in C^2$、$h\in C^1$ について、(2) の右辺に $w$ を加えたものは $u_{tt}-c^2u_{xx}=f$、$u(x,0)=g$、$u_t(x,0)=h$ の $C^2$ 級の解であり、thm-daf-main の一意性から解はこれに限る。

積分記号の下での微分による。

計算を開く

$f^\pm(s):=f(x\pm c(t-s),s)$、$f_x^\pm(s):=f_x(x\pm c(t-s),s)$ と略す。内側の積分は $s=t$ で長さ $0$ の区間の積分なので、$t$ で微分するとき外側の上端からの寄与は $0$ で、$$w_t=\frac12\int_0^t\bigl(f^+(s)+f^-(s)\bigr)\,ds,\qquad w_x=\frac1{2c}\int_0^t\bigl(f^+(s)-f^-(s)\bigr)\,ds$$である。さらに微分すると、$s=t$ で $f^\pm(t)=f(x,t)$ なので$$w_{tt}=f(x,t)+\frac c2\int_0^t\bigl(f_x^+-f_x^-\bigr)\,ds,\qquad w_{xx}=\frac1{2c}\int_0^t\bigl(f_x^+-f_x^-\bigr)\,ds,\qquad w_{xt}=\frac12\int_0^t\bigl(f_x^++f_x^-\bigr)\,ds$$で、どれも連続である。よって $w\in C^2$、$w_{tt}-c^2w_{xx}=f$ である。$t=0$ では積分区間が $[0,0]$ なので $w=w_t=0$ である。差を考えれば、2 つの解の差は斉次方程式の初期値 $0$ の解なので $0$ である。$\square$

半直線での反射

弦の左端 $x=0$ を固定した問題
$$ u_{tt}=c^2u_{xx}\ (x\ge0),\qquad u(x,0)=g(x),\quad u_t(x,0)=h(x)\ (x\ge0),\qquad u(0,t)=0\qquad(3) $$
は、初期値を奇関数に延ばして全直線の公式を使えば解ける。$g$ の奇関数への延長を $g_{\mathrm{o}}(x):=-g(-x)$($x< 0$)、$g_{\mathrm{o}}=g$($x\ge0$)と書き、$h_{\mathrm{o}}$ も同様とする。

固定端の半直線の問題

$g\in C^2([0,\infty))$、$h\in C^1([0,\infty))$ とし、$\Omega_+:=[0,\infty)\times\mathbb R$ とする。(3) を満たす $u\in C^2(\Omega_+)$ が存在するための必要十分条件は
$$ g(0)=0,\qquad h(0)=0,\qquad g''(0)=0\qquad(4) $$
である。このとき解はただ 1 つで、$g_{\mathrm o}$、$h_{\mathrm o}$ を初期値とする (2) の解の $x\ge0$ の部分である。$t\ge0$ では、$x\ge ct$ なら (2) と同じ式、$0\le x< ct$ なら
$$ u(x,t)=\frac{g(x+ct)-g(ct-x)}{2}+\frac1{2c}\int_{ct-x}^{x+ct}h(s)\,ds $$
である。

要点:(4) は奇関数の延長が $C^2$($h$ は $C^1$)になる条件である。解を奇関数に延ばすと全直線の解になるので、一意性も全直線の場合に帰着する。

詳しい証明を開く

必要性.$u$ が解なら $g(0)=u(0,0)=0$、$h(0)=u_t(0,0)=0$ である。$u(0,t)=0$ を $t$ で 2 回微分すると $u_{tt}(0,t)=0$ なので、方程式から $u_{xx}(0,t)=0$、とくに $g''(0)=u_{xx}(0,0)=0$ である。

延長の滑らかさ.$x< 0$ で $g_{\mathrm o}'(x)=g'(-x)$、$g_{\mathrm o}''(x)=-g''(-x)$ なので、$g_{\mathrm o}$ が $x=0$ で連続 $\iff g(0)=0$ である。$g(0)=0$ なら $(-\infty,0]$ の上で $g_{\mathrm o}(x)=-g(-x)$ なので、$x=0$ での左右の微分係数はともに $g'(0)$ で、$g_{\mathrm o}$ は $\mathbb R$ で微分可能、$g_{\mathrm o}'$ は連続である。さらに $g_{\mathrm o}'$ の $x=0$ での左右の微分係数は $-g''(0)$ と $g''(0)$ なので、$g_{\mathrm o}$ が $x=0$ で 2 回微分可能 $\iff g''(0)=0$ であり、そのとき $g_{\mathrm o}''$ は連続である。よって (4) の下で $g_{\mathrm o}\in C^2(\mathbb R)$、同様に $h(0)=0$ の下で $h_{\mathrm o}\in C^1(\mathbb R)$ である。

存在.(4) を仮定し、$g_{\mathrm o}$、$h_{\mathrm o}$ を初期値とする thm-daf-main の解を $\tilde u$ とする。$-\tilde u(-x,t)$ も同じ初期値の解なので、一意性から $\tilde u$ は $x$ について奇関数で、$\tilde u(0,t)=0$ である。よって $\tilde u$ の $\Omega_+$ への制限は (3) の解である。$0\le x< ct$ では、奇関数の性質から $g_{\mathrm o}(x-ct)=-g(ct-x)$、$\int_{x-ct}^{ct-x}h_{\mathrm o}=0$ なので、式は上のとおりになる。

一意性.$u$ を (3) の解とし、$x< 0$ で $\tilde u(x,t):=-u(-x,t)$ と延ばす。必要性の段から $u(0,t)=u_t(0,t)=u_{tt}(0,t)=u_{xx}(0,t)=0$ なので、$\tilde u$ と 2 階までの偏導関数は $x=0$ の両側で同じ値に近づき、$\tilde u\in C^2(\mathbb R^2)$ である。$\tilde u$ は全直線で方程式を満たし、初期値は $g_{\mathrm o}$、$h_{\mathrm o}$ なので、thm-daf-main の一意性から延長は 1 つに決まる。$\square$

$0\le x< ct$ の式の $-g(ct-x)/2$ は、左へ進んだ波が $x=0$ で符号を変えて跳ね返ってきたものである。固定端では波は上下が反転して反射する。

自由端と有限区間

端の条件が $u_x(0,t)=0$(自由端)のときは偶関数への延長を使う。延長が $C^2$($h$ は $C^1$)になる条件は $g'(0)=h'(0)=0$ で、$0\le x< ct$ では $u=\frac12\bigl(g(x+ct)+g(ct-x)\bigr)+\frac1{2c}\bigl(\int_0^{x+ct}h+\int_0^{ct-x}h\bigr)$ となり、波は反転せずに反射する。両端 $x=0,L$ を固定した弦では、初期値を奇関数かつ周期 $2L$ の関数に延ばして同じ公式を使う(波動方程式と弦の振動、LebDQ26 §4.8.2 の (4.17)、p. 253)。

エネルギーの等分配

$u_t$ と $cu_x$ を一般解で書くと、エネルギーの振る舞いが具体的にわかる。

エネルギーの保存と等分配

$g\in C^2$、$h\in C^1$ とし、$g'$ と $h$ は $[-R,R]$ の外で $0$ とする。thm-daf-main の解 $u$($I=\mathbb R$)について
$$ K(t):=\frac12\int_{\mathbb R}u_t^2\,dx,\qquad P(t):=\frac{c^2}2\int_{\mathbb R}u_x^2\,dx $$
とおく。$E:=K+P$ は $t$ によらない。さらに $|t|> R/c$ なら $K(t)=P(t)=E/2$ である。

prf-daf-main の $F,G$ について $F'=\frac12(g'-h/c)$、$G'=\frac12(g'+h/c)$ で、どちらも $[-R,R]$ の外で $0$ である。$u_t=-cF'(x-ct)+cG'(x+ct)$、$cu_x=cF'(x-ct)+cG'(x+ct)$ なので
$$ u_t^2+c^2u_x^2=2c^2\bigl(F'(x-ct)^2+G'(x+ct)^2\bigr),\qquad u_t^2-c^2u_x^2=-4c^2F'(x-ct)G'(x+ct) $$
である。第 1 式を $x$ で積分すると、平行移動で積分は変わらないので $E=c^2\bigl(\int F'^2+\int G'^2\bigr)$ で、$t$ によらない。$F'(x-ct)$ は $x\in[ct-R,ct+R]$、$G'(x+ct)$ は $x\in[-ct-R,-ct+R]$ の外で $0$ で、$|t|> R/c$ ならこの 2 つの区間は交わらない。よって第 2 式は恒等的に $0$ で、$K=P$ である。$\square$

台がコンパクトな初期値に対する全空間でのエネルギーの保存は 波動方程式 の定理「エネルギー保存と有限伝播速度」($c=1$)に、有界な領域で境界の値を $0$ にした場合は 偏微分方程式 の定理「波動方程式のエネルギー保存と一意性」にある。1 次元では、さらに右と左の波が離れたあと運動のエネルギーと変形のエネルギーがちょうど等しくなる。

滑らかでない初期値

はじいた弦の初期の形のように、$g$ が連続でも微分可能でないことがある。このとき (2) は古典解ではないが、次の意味で解とみなせる。

連続な初期値に対する公式

$g,h\in C(\mathbb R)$ とし、$u$ を (2) で定める($I=\mathbb R$)。

  1. $u$ は連続で、$C^2$ 級の初期値 $g_n$、$C^1$ 級の初期値 $h_n$ が有界な区間の上で一様に $g$、$h$ に収束するとき、対応する古典解 $u_n$ は有界な集合の上で一様に $u$ に収束する。
  2. すべての $\varphi\in C_c^\infty(\mathbb R^2)$ について $\displaystyle\iint_{\mathbb R^2}u\,(\varphi_{tt}-c^2\varphi_{xx})\,dx\,dt=0$ である($u$ は 超関数 の意味で方程式を満たす)。

要点:1 は cor-daf-stability の評価を差に当てる。2 は $u=F(x-ct)+G(x+ct)$($F,G$ は連続)と書いて特性座標に変数変換し、$\eta$ についての積分が完全微分の積分になることを使う。

詳しい証明を開く

1.$H:=\int_0^{\cdot}h$ は $C^1$ 級なので (2) は連続である。cor-daf-stability の証明は (2) の形だけを使うので、$g,h$ が連続でも、$u-u_n$ に評価 $|u-u_n|\le\sup|g-g_n|+|t|\sup|h-h_n|$(上限は $|s|\le X+c|t|$)が成り立つ。このような $g_n,h_n$ は、たとえば 軟化子 との畳み込みでとれる。

2.$F:=\frac12(g-H/c)$、$G:=\frac12(g+H/c)$ は連続で、$u=F(x-ct)+G(x+ct)$ である。$\psi(\xi,\eta):=\varphi\bigl((\xi+\eta)/2,(\eta-\xi)/(2c)\bigr)$ とおくと、(1) と同じ計算で $\varphi_{tt}-c^2\varphi_{xx}=-4c^2\psi_{\xi\eta}$ であり、$dx\,dt=d\xi\,d\eta/(2c)$ である。よって$$\iint F(x-ct)(\varphi_{tt}-c^2\varphi_{xx})\,dx\,dt=-2c\int_{\mathbb R}F(\xi)\Bigl(\int_{\mathbb R}\partial_\eta(\psi_\xi)\,d\eta\Bigr)d\xi=0$$である($\psi_\xi$ は $\eta$ について台がコンパクト)。$G(x+ct)$ の項も、$\xi$ についての積分を先にして同じく $0$ である。$\square$

はじいた弦

$c=1$、$h=0$、$g(x)=\max(0,1-|x|)$ とする(LebDQ26 Exercise 4.8.6、p. 257)。$g$ は $x=0,\pm1$ で微分できない。(2) は $u(x,t)=\frac12g(x-t)+\frac12g(x+t)$ で、高さ $\frac12$ の 2 つの三角形が左右に分かれて進む。$0\le t\le1$ では $u(0,t)=g(t)=1-t$ で、$t\ge1$ では 2 つの三角形の台 $[t-1,t+1]$ と $[-t-1,-t+1]$ は内点を共有せず、その間で $u=0$ である。$u$ が微分できない点は、特性線 $x=\pm t$、$x=\pm1\pm t$ の上にある。初期値の角は特性線に沿って運ばれ、なめらかにならない。

条件を外した反例

thm-daf-main と thm-daf-halfline の条件を 1 つずつ外すと、結論が成り立たなくなる。

外す条件反例成り立たなくなること
$g\in C^2$$g(x)=x\lvert x\rvert$、$h=0$$C^2$ 級の解の存在
$h\in C^1$$g=0$、$h(x)=\lvert x\rvert$$C^2$ 級の解の存在
初期速度の条件$u(x,0)=0$ だけを課す解の一意性
半直線での $g''(0)=0$$g(x)=x^2$、$h=0$、$u(0,t)=0$$C^2$ 級の解の存在
反例:表の各行の確かめ

各行は左の列の条件だけを破っている。

確かめを開く

1 行目:$g(x)=x|x|$ は $C^1$ 級で $g'(x)=2|x|$ は $x=0$ で微分できないので $C^2$ 級でない。$h=0$ は $C^1$ 級である。$C^2$ 級の解 $u$ があれば $g=u(\cdot,0)$ は $C^2$ 級になるので、解はない。

2 行目:$h(x)=|x|$ は連続だが $C^1$ 級でない。$C^2$ 級の解があれば $h=u_t(\cdot,0)$ は $C^1$ 級になるので、解はない。

3 行目:$u=0$ と $u=t$ はどちらも $C^2$ 級で方程式と $u(x,0)=0$ を満たし、異なる。初期速度を $0$ と $1$ にした 2 つの問題の解である。

4 行目:$g(0)=0$、$h(0)=0$ は成り立ち、$g''(0)=2\ne0$ である。thm-daf-halfline の必要性の段により、$C^2(\Omega_+)$ の解はない。(3) を満たす関数として奇関数の延長から作った (2) は、$0\le x< ct$ で $u=\frac12\bigl((x+ct)^2-(ct-x)^2\bigr)=2cxt$、$x\ge ct$ で $u=x^2+c^2t^2$ となり、特性線 $x=ct$ の上で $u_{xx}$ が $0$ から $2$ に跳ぶ。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する