Tate代数

同義語:Tate algebraテイト代数制限冪級数環restricted power series ring

概要

Tate代数(Tate algebra)とは、非Archimedes的絶対値について完備な体 $K$ 上の冪級数 $\sum a_\alpha t^\alpha$ のうち係数が $0$ に収束するもの全体の環 $K\{t_1,\dots,t_n\}$ で、閉単位多重円板上で収束する冪級数の環である。Gauss ノルム $\|f\|=\max|a_\alpha|$ は乗法的で、$K\{t\}$ は完備な Banach 代数かつ整域になる。Weierstrass の割り算定理により Noether 環・一意分解整域・Jacobson 環で、極大イデアルは閉単位多重円板の $\bar K$ 点の共役類に対応する。その商が affinoid 代数で、rigid 解析空間の局所座標環をなす。$\mathbb{Z}_p\{t\}$ は $\mathbb{Z}_p[t]$ の $p$ 進完備化である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 非Archimedes的絶対値, 完備化, 形式的冪級数, 多項式環, Noether環, Banach代数

定義

Tate 代数は、非Archimedes的絶対値について完備な $K$ 上の形式的冪級数のうち係数が $0$ に収束するもの全体のなす環であり、閉単位多重円板の上で収束する冪級数の環である。複素多様体論で多項式環や収束冪級数環が果たす役割を rigid 解析幾何(rigid解析空間)で担う。
以下、$K$ を非自明な非Archimedes的絶対値 $|\cdot|\colon K\to\mathbb{R}_{\ge0}$ について完備な体(完備非Archimedes付値体)とする。$K^\circ:=\{a\in K\mid |a|\le1\}$$K$付値環$K^{\circ\circ}:=\{a\in K\mid |a|<1\}$ をその極大イデアル$\tilde K:=K^\circ/K^{\circ\circ}$剰余体といい、$a\in K^\circ$ の像を $\tilde a\in\tilde K$ と書く。代表例は $p$ 進数体 $\mathbb{Q}_p$p進数$K^\circ=\mathbb{Z}_p$$\tilde K=\mathbb{F}_p$)、その有限次拡大$\mathbb{Q}_p$代数閉包完備化 $\mathbb{C}_p$、および標数 $p$完全体 $k$ の Witt ベクトル環 $W(k)$Wittベクトル)の商体 $W(k)[1/p]$ である。多重指数 $\alpha=(\alpha_1,\dots,\alpha_n)\in\mathbb{N}^n$ に対し $|\alpha|:=\alpha_1+\cdots+\alpha_n$$t^\alpha:=t_1^{\alpha_1}\cdots t_n^{\alpha_n}$ と書く。

Tate 代数と Gauss ノルム

形式的冪級数 $f=\sum_{\alpha\in\mathbb{N}^n}a_\alpha t^\alpha\in K[\![t_1,\dots,t_n]\!]$制限冪級数(restricted power series)であるとは、$|\alpha|\to\infty$ のとき $|a_\alpha|\to0$ となること、すなわち任意の $\varepsilon>0$ に対して $|a_\alpha|\ge\varepsilon$ となる $\alpha$ が有限個しかないことをいう。制限冪級数全体のなす集合を
$$ T_n=K\{t_1,\dots,t_n\}:=\Bigl\{\textstyle\sum_\alpha a_\alpha t^\alpha\in K[\![t_1,\dots,t_n]\!]\ \Big|\ |a_\alpha|\to0\ \ (|\alpha|\to\infty)\Bigr\} $$
と書き、$K$ 上の $n$ 変数の Tate 代数(Tate algebra)または制限冪級数環という(文献により $K\langle t_1,\dots,t_n\rangle$ とも書く)。$f\in T_n$ に対し
$$ \|f\|:=\max_{\alpha}|a_\alpha| $$
$f$Gauss ノルムという。$|a_\alpha|\to0$ なので最大値は存在し、$f\ne0$ なら $\|f\|>0$ は有限個の $\alpha$ で達成される。特に $f\ne0$ なら $\|f\|$$K$ の絶対値の値群 $|K^\times|$ に属する。

$T_n$をなすことと、「閉単位多重円板の上で収束する」という名前の由来を確かめる。$K$ の絶対値は $K$ の代数閉包 $\bar K$ にただ一通りに延び、$K$ の任意の有限次拡大 $L\subset\bar K$ はその絶対値について完備である(BGR84 §3.2)。$\bar K$ の点 $x=(x_1,\dots,x_n)$$|x_i|\le1$ を満たすものの全体を
$$ \mathbb{B}^n(\bar K):=\{x\in\bar K^n\mid |x_1|\le1,\dots,|x_n|\le1\} $$
と書き、閉単位多重円板という。完備非Archimedes付値体では、項が $0$ に収束する級数は項の順序によらず収束する($|b_m|\to0$ なら部分和の差 $\sum_{m=k}^{l}b_m$ の絶対値が $\max_{k\le m\le l}|b_m|$ 以下なので、部分和はCauchy列である)。

閉単位多重円板上の収束

$f=\sum_\alpha a_\alpha t^\alpha\in K[\![t_1,\dots,t_n]\!]$ について次は同値である。

  1. $f\in T_n$、すなわち $|a_\alpha|\to0$
  2. 任意の $x\in\mathbb{B}^n(\bar K)$ に対し $|a_\alpha x^\alpha|\to0$。したがって $f(x):=\sum_\alpha a_\alpha x^\alpha$ が体 $K(x_1,\dots,x_n)$ の中で収束する。
  3. $x=(1,\dots,1)$ に対し $|a_\alpha x^\alpha|\to0$
    また $T_n$$K[\![t_1,\dots,t_n]\!]$部分環多項式環 $K[t_1,\dots,t_n]$ を含み、各 $x\in\mathbb{B}^n(\bar K)$ に対して代入 $f\mapsto f(x)$$K$ 代数の環準同型 $\mathrm{ev}_x\colon T_n\to K(x_1,\dots,x_n)$ である。

1 ⇒ 2:$|x_i|\le1$ より $|a_\alpha x^\alpha|=|a_\alpha|\prod_i|x_i|^{\alpha_i}\le|a_\alpha|\to0$ である。$K(x_1,\dots,x_n)$$K$ の有限次拡大なので完備であり、項が $0$ に収束する級数は収束する。2 ⇒ 3 は明らかで、3 ⇒ 1 は $|a_\alpha x^\alpha|=|a_\alpha|$ による。
部分環であること:$f=\sum a_\alpha t^\alpha$$g=\sum b_\alpha t^\alpha\in T_n$ とする。$|a_\alpha+b_\alpha|\le\max(|a_\alpha|,|b_\alpha|)\to0$ より $f+g,\,-f\in T_n$ である。$fg$$t^\gamma$ の係数は有限和 $c_\gamma=\sum_{\alpha+\beta=\gamma}a_\alpha b_\beta$ で、$|c_\gamma|\le\max_{\alpha+\beta=\gamma}|a_\alpha||b_\beta|$ を満たす。$f,g\ne0$ とし、$\varepsilon>0$ に対し、$|\alpha|\ge N$ なら $|a_\alpha|\le\varepsilon/\|g\|$ かつ $|b_\alpha|\le\varepsilon/\|f\|$ となる $N$ をとると、$|\gamma|\ge2N$ のとき $\alpha+\beta=\gamma$ なる各項で $|\alpha|\ge N$ または $|\beta|\ge N$ だから $|c_\gamma|\le\varepsilon$ である。ゆえに $fg\in T_n$ である。$1$ と多項式が $T_n$ に入ることは明らかである。
$\mathrm{ev}_x$ が加法を保つことは収束する級数の和の性質であり、乗法を保つことは、項が $0$ に収束する 2 つの級数の積が、項の積 $a_\alpha b_\beta x^{\alpha+\beta}$ をどの順序で足しても同じ値に収束するという完備非Archimedes付値体の級数の性質(BGR84 §1.1)による。

Gauss ノルムは $T_n$Banach代数にする。

Gauss ノルムと完備性

$f,g\in T_n$$c\in K$ について次が成り立つ。

  1. $\|f\|=0\iff f=0$$\|cf\|=|c|\|f\|$$\|f+g\|\le\max(\|f\|,\|g\|)$$\|fg\|\le\|f\|\|g\|$$\|1\|=1$
  2. $T_n$ は Gauss ノルムの定める距離 $d(f,g)=\|f-g\|$ について完備である。
  3. 多項式環 $K[t_1,\dots,t_n]$$T_n$稠密であり、したがって $T_n$ は Gauss ノルムに関する $K[t_1,\dots,t_n]$ の完備化である。
    特に $T_n$$K$ 上の Banach 代数である。

1.最初の 3 つは絶対値の性質から直ちに従う。$\|fg\|\le\|f\|\|g\|$ は、lem-tate-algebra-convergence の証明の評価 $|c_\gamma|\le\max_{\alpha+\beta=\gamma}|a_\alpha||b_\beta|\le\|f\|\|g\|$ による。
2.$(f_k)_k$ を Cauchy 列とし、$f_k=\sum_\alpha a^{(k)}_\alpha t^\alpha$ と書く。各 $\alpha$ について $|a^{(k)}_\alpha-a^{(l)}_\alpha|\le\|f_k-f_l\|$ なので $(a^{(k)}_\alpha)_k$$K$ の Cauchy 列であり、極限 $a_\alpha\in K$ をもつ。$\varepsilon>0$ に対し、$k,l\ge k_0$ なら $\|f_k-f_l\|\le\varepsilon$ となる $k_0$ をとり $l\to\infty$ とすれば、すべての $\alpha$$k\ge k_0$ について $|a_\alpha-a^{(k)}_\alpha|\le\varepsilon$ である。$f_{k_0}\in T_n$ だから $|\alpha|$ が大きいとき $|a^{(k_0)}_\alpha|\le\varepsilon$、したがって $|a_\alpha|\le\max(|a_\alpha-a^{(k_0)}_\alpha|,|a^{(k_0)}_\alpha|)\le\varepsilon$ となる。よって $f:=\sum_\alpha a_\alpha t^\alpha$$T_n$ に属し、$k\ge k_0$ のとき $\|f-f_k\|\le\varepsilon$、すなわち $f_k\to f$ である。
3.$f=\sum_\alpha a_\alpha t^\alpha\in T_n$ に対し、$N$ 次以下の項を取り出した多項式 $f_N:=\sum_{|\alpha|\le N}a_\alpha t^\alpha$$\|f-f_N\|=\max_{|\alpha|>N}|a_\alpha|\to0$ を満たす。完備な空間の稠密部分空間からの完備化の一意性により、$T_n$$K[t_1,\dots,t_n]$ の完備化である。

Tate 代数の商として得られる環が rigid 解析幾何の局所的な座標環である。

affinoid 代数の定義

$K$ 代数 $A$affinoid 代数(affinoid algebra)であるとは、ある $n\ge0$$T_n$イデアル $I$ について $K$ 代数として $A\cong T_n/I$ となることをいう(affinoid代数)。全射 $T_n\to A$ を固定したとき、$a\in A$ に対し
$$ |a|_I:=\inf\{\|g\|\mid g\in T_n,\ g\bmod I=a\} $$
$A$剰余ノルム(residue norm)という。

$I$ が閉であること(thm-tate-algebra-noetherian の 5)から剰余ノルムは $A$ のノルムであり、$A$ はそれについて Banach 代数になる。$T_n$ 自身は $I=0$ の場合である。

直感

非Archimedes的絶対値では級数の収束が「項が $0$ に収束する」ことだけで決まるので、閉単位円板 $|x|\le1$ の上で収束する冪級数の条件は「係数が $0$ に収束する」という単純な形になる。これが Tate 代数であり、Gauss ノルム $\|f\|=\max|a_\alpha|$ は閉単位多重円板上の $|f(x)|$ の上限に一致する(最大値原理、BGR84 §5.1)。
Tate 代数が多項式環と似た性質(Noether 性・一意分解性・零点定理)をもつ理由は、Gauss ノルムで大きさ $1$ に正規化して係数を剰余体 $\tilde K$ に落とすと多項式が現れることにある(lem-tate-algebra-reduction)。この還元を通して $\tilde K[t]$ の性質が $T_n$ に持ち上がり、その要が Weierstrass の割り算定理(thm-tate-algebra-weierstrass-division)である。極大イデアルの全体が閉単位多重円板の $\bar K$ 点を共役で割ったものに一致する(prop-tate-algebra-points)ので、$T_n$ は「閉単位多重円板の上の解析関数の環」である。

例と反例

以下の例では、単元の判定(prop-tate-algebra-units)と Weierstrass の割り算定理(thm-tate-algebra-weierstrass-division)を先取りして使う。

1 変数の Tate 代数の単元と幾何級数

$K=\mathbb{Q}_p$ とする。$1-pt$$\mathbb{Q}_p\{t\}$単元である。実際、形式的な逆元 $\sum_{m\ge0}p^mt^m$ は係数が $|p^m|=p^{-m}\to0$ を満たすので $\mathbb{Q}_p\{t\}$ に属する。一方 $1-t$ は単元でない。$K[\![t]\!]$ での逆元は $\sum_{m\ge0}t^m$ ただ 1 つで、その係数は $0$ に収束しないからである。prop-tate-algebra-units の言葉でいえば、$1-pt$ は定数項の絶対値 $1$ が他の係数の絶対値 $p^{-1}$ より真に大きいので単元であり、$1-t$$|a_0|=|a_1|=1$ なので単元でない。幾何的には、$1-t$ は閉単位円板の点 $t=1$ で零になるのに対し、$1-pt$ の零点 $t=1/p$$|1/p|=p>1$ で閉単位円板の外にある。

整数係数の制限冪級数環

$K=\mathbb{Q}_p$ のとき、Gauss ノルムが $1$ 以下の元の全体 $T_1^\circ=\{f\in\mathbb{Q}_p\{t\}\mid\|f\|\le1\}$ は、係数が $\mathbb{Z}_p$ に属し $0$ に収束する級数の環 $\mathbb{Z}_p\{t\}$ にほかならない(p進整数環)。これは $\mathbb{Z}_p[t]$$p$ 進完備化 $\varprojlim_m\mathbb{Z}_p[t]/p^m\mathbb{Z}_p[t]$ に等しい(過収束級数 の記事の命題(還元と $p$ 進完備化)を $W=\mathbb{Z}_p$$k=\mathbb{F}_p$ に適用する)。逆に $\mathbb{Q}_p\{t\}=\mathbb{Z}_p\{t\}[1/p]$ である。実際 $f\ne0$ に対し $\|f\|=p^k$$k\in\mathbb{Z}$)と書けば $\|p^kf\|=1$、すなわち $p^kf\in\mathbb{Z}_p\{t\}$ である。さらに $\{f\mid\|f\|<1\}=\{f\mid\|f\|\le p^{-1}\}=p\mathbb{Z}_p\{t\}$ だから、lem-tate-algebra-reduction により $\mathbb{Z}_p\{t\}/p\mathbb{Z}_p\{t\}\cong\mathbb{F}_p[t]$ である。同じことは $K=W(k)[1/p]$$k$ は標数 $p$ の完全体)についても成り立ち、$T_n^\circ=W(k)\{t_1,\dots,t_n\}$ は結晶コホモロジーや Monsky–Washnitzer コホモロジー(結晶コホモロジーMonsky–Washnitzerコホモロジー)で affine 空間の持上げとして現れる制限冪級数環である。

Tate 代数の商と閉単位円板の点

$K=\mathbb{Q}_p$ とする。$g=t^2-p$$\|g\|=1$ で、Gauss ノルムを達成する最大の次数は $d(g)=2$ である。Weierstrass の割り算定理により、任意の $f\in\mathbb{Q}_p\{t\}$$f=q(t^2-p)+(a+bt)$$q\in\mathbb{Q}_p\{t\}$$a,b\in\mathbb{Q}_p$)とただ一通りに書け、
$$ \mathbb{Q}_p\{t\}/(t^2-p)\cong\mathbb{Q}_p[t]/(t^2-p)\cong\mathbb{Q}_p(\sqrt p) $$
である(最初の同型は thm-tate-algebra-one-variable の 2。$p$$\mathbb{Q}_p$ で平方数でない。$v_p(p)=1$ が奇数だからである)。これは $\mathbb{Q}_p$ の 2 次拡大体で、$(t^2-p)$ は極大イデアルである。対応する閉単位円板の点は $\pm\sqrt p\in\bar{\mathbb{Q}}_p$ で、$|\sqrt p|=p^{-1/2}\le1$ であり、2 点は互いに共役だから 1 つの極大イデアルを与える(thm-tate-algebra-one-variable)。係数体を $L=\mathbb{Q}_p(\sqrt p)$ に取り替えると $t^2-p=(t-\sqrt p)(t+\sqrt p)$ と分解し、$L\{t\}/(t^2-p)\cong L\times L$ は 2 つの極大イデアル $(t-\sqrt p)$$(t+\sqrt p)$ をもつ。
対照的に $h=pt^2-1$$\|h\|=1$$d(h)=0$ なので prop-tate-algebra-units により単元であり、$\mathbb{Q}_p\{t\}/(pt^2-1)=0$ である。$h$ の零点 $\pm p^{-1/2}$ は絶対値 $p^{1/2}>1$ で閉単位円板の外にあり、閉単位円板の上では $h$ は零点をもたない。

反例:形式的冪級数環は Tate 代数でない

$K[\![t]\!]$$K\{t\}$ を真に含む。たとえば $\sum_{m\ge0}t^m$ は係数が $0$ に収束しないので $K\{t\}$ に入らない。$K=\mathbb{Q}_p$ では、$\log(1+t)=\sum_{m\ge1}(-1)^{m+1}t^m/m$$\exp(t)=\sum_{m\ge0}t^m/m!$$\mathbb{Q}_p\{t\}$ に入らない($|1/m|_p=p^{v_p(m)}$ は有界でなく、$|1/m!|_p\to\infty$ である)。破れる含意は「$K[\![t]\!]$ の元 $\Rightarrow$ 閉単位円板上で収束」であり、$K\{t\}\subsetneq K[\![t]\!]$ は真の包含である。
さらに $K[\![t]\!]$ は環としてどの $T_n$ とも同型でない。$K[\![t]\!]$ は定数項が $0$ でない元がすべて単元なので、極大イデアルを $(t)$ ただ 1 つしかもたない局所環であり、体ではない。一方 $T_0=K$ は体であり、$n\ge1$ のとき $T_n$ は無限個の極大イデアルをもつ。実際、$x\in(K^\circ)^n$ に対し $\mathrm{ev}_x\colon T_n\to K$全射だから $\mathfrak{m}_x:=\ker\mathrm{ev}_x$ は極大イデアルで、$x\ne y$ なら $x_i\ne y_i$ となる $i$ について $t_i-x_i\in\mathfrak{m}_x\setminus\mathfrak{m}_y$ である。$K$ の絶対値は非自明なので $0<|\varpi|<1$ なる $\varpi\in K$ があり、$\varpi,\varpi^2,\dots$$K^\circ$ の相異なる無限個の元である。$K[\![t]\!]$ は affinoid 代数でもない。affinoid 代数は Jacobson 環である(thm-tate-algebra-affinoid)が、$K[\![t]\!]$ では素イデアル $0$ が極大イデアルの共通部分 $(t)$ に一致しないからである。

性質

還元と Gauss ノルムの乗法性

剰余体への還元

$T_n^\circ:=\{f\in T_n\mid\|f\|\le1\}$$T_n^{\circ\circ}:=\{f\in T_n\mid\|f\|<1\}$ とおく。

  1. $T_n^\circ$$T_n$ の部分環で、係数がすべて $K^\circ$ に属する制限冪級数全体 $K^\circ\{t_1,\dots,t_n\}$ に一致し、$T_n^{\circ\circ}$$T_n^\circ$ のイデアルである。
  2. $\sum_\alpha a_\alpha t^\alpha\mapsto\sum_\alpha\tilde a_\alpha t^\alpha$ は全射な環準同型 $T_n^\circ\to\tilde K[t_1,\dots,t_n]$ を定め、その$T_n^{\circ\circ}$ である。したがって $T_n^\circ/T_n^{\circ\circ}\cong\tilde K[t_1,\dots,t_n]$ である。この準同型を還元といい、$f$ の像を $\tilde f$ と書く。
  3. $f\in T_n$$f\ne0$ とし、$c\in K$$|c|=\|f\|$ となるようにとる(def-tate-algebra によりそのような $c$ は存在する)。このとき $f/c\in T_n^\circ$ かつ $\widetilde{f/c}\ne0$ である。
  4. $T_n^{\circ\circ}=K^{\circ\circ}T_n^\circ$ である。

1.$\|f\|\le1$ はすべての係数が $|a_\alpha|\le1$ を満たすことと同値なので $T_n^\circ=K^\circ\{t\}$ であり、prop-tate-algebra-banach の 1 から $T_n^\circ$ は部分環、$T_n^{\circ\circ}$ はそのイデアルである。
2.$f\in T_n^\circ$ に対し $|a_\alpha|=1$ となる $\alpha$ は有限個なので、$\sum\tilde a_\alpha t^\alpha$ は多項式である。この対応が加法を保つことは明らかで、乗法については、$fg$$t^\gamma$ の係数が有限和 $\sum_{\alpha+\beta=\gamma}a_\alpha b_\beta$ であり、$K^\circ\to\tilde K$ が環準同型であることから従う。全射性は係数を持ち上げればよい(多項式は制限冪級数である)。核は「すべての $\alpha$$|a_\alpha|<1$」、すなわち最大値 $\|f\|$$1$ 未満であることと同値なので $T_n^{\circ\circ}$ に等しい。
3.$\|f/c\|=\|f\|/|c|=1$ なので $f/c\in T_n^\circ$ であり、$\|f\|=|a_\beta|$ となる $\beta$ について $|a_\beta/c|=1$、すなわち $\widetilde{a_\beta/c}\ne0$ である。
4.$K^{\circ\circ}T_n^\circ\subset T_n^{\circ\circ}$$\|cf\|=|c|\|f\|$ から明らかである。逆に $f\in T_n^{\circ\circ}$$f\ne0$ に対し $|c|=\|f\|<1$ なる $c$ をとれば $c\in K^{\circ\circ}$$f/c\in T_n^\circ$$f=c\cdot(f/c)$ である。

Gauss ノルムの乗法性

任意の $f,g\in T_n$ について $\|fg\|=\|f\|\|g\|$ である。特に $T_n$整域である。

$f=0$ または $g=0$ なら両辺とも $0$ である。$f,g\ne0$ とし、$|c|=\|f\|$$|c'|=\|g\|$ なる $c,c'\in K$ をとる。$f_1:=f/c$$g_1:=g/c'$$T_n^\circ$ の元で、lem-tate-algebra-reduction の 3 により $\tilde f_1\ne0$$\tilde g_1\ne0$ である。体上の多項式環 $\tilde K[t_1,\dots,t_n]$ は整域だから、還元が環準同型であることより $\widetilde{f_1g_1}=\tilde f_1\tilde g_1\ne0$ である。すなわち $f_1g_1\notin T_n^{\circ\circ}$ であり、$\|f_1g_1\|\le\|f_1\|\|g_1\|=1$ とあわせて $\|f_1g_1\|=1$ を得る。よって $\|fg\|=|cc'|\,\|f_1g_1\|=\|f\|\|g\|$ である。$f,g\ne0$ なら $\|fg\|>0$ だから $fg\ne0$ であり、$T_n$ は整域である。

単元の判定

$f=\sum_\alpha a_\alpha t^\alpha\in T_n$$f\ne0$ とし、$|c|=\|f\|$ なる $c\in K$ をとる。次は同値である。

  1. $f$$T_n$ の単元である。
  2. $\widetilde{f/c}$$\tilde K$$0$ でない定数である。
  3. $|a_0|=\|f\|$ かつ $\alpha\ne0$ なるすべての $\alpha$ について $|a_\alpha|<\|f\|$
    このとき $\|f^{-1}\|=\|f\|^{-1}$ である。特に $n=1$ のとき、$f=\sum_ma_mt^m$ が単元であることは、すべての $m\ge1$ について $|a_0|>|a_m|$ となることと同値である。

2 と 3 の同値:$\widetilde{f/c}=\sum\widetilde{a_\alpha/c}\,t^\alpha$$0$ でない定数であることは、$|a_0/c|=1$ かつ $\alpha\ne0$$|a_\alpha/c|<1$ ということである。
3 ⇒ 1:$h:=1-f/a_0$ とおくと、$h$ の定数項は $0$ で、他の係数は $|a_\alpha/a_0|<1$ を満たす。$T_n$ の元の係数は有限個を除いて絶対値が任意に小さいので $\|h\|<1$ である。$\|h^k\|\le\|h\|^k\to0$ だから、級数 $\sum_{k\ge0}h^k$ は完備な $T_n$prop-tate-algebra-banach)の中で収束し、$(1-h)\sum_{k\ge0}h^k=\lim_{N}(1-h^{N+1})=1$ である。よって $f=a_0(1-h)$ は単元である。
1 ⇒ 2:$fg=1$ とする。thm-tate-algebra-gauss-multiplicative により $\|f\|\|g\|=1$ である。$f_1:=f/c$$g_1:=cg$ とおくと $\|f_1\|=\|g_1\|=1$$f_1g_1=1$ だから、還元して $\tilde f_1\tilde g_1=1$ を得る。体上の多項式環の単元は $0$ でない定数だから $\tilde f_1$$0$ でない定数である。最後に $\|f^{-1}\|=\|f\|^{-1}$$\|f\|\|f^{-1}\|=\|1\|=1$ による。

Weierstrass の割り算定理と 1 変数の構造

多項式環の性質を Tate 代数に持ち上げる要は、Gauss ノルムを達成する最高次の項を「先頭項」とみなした割り算である。

Weierstrass 次数

$g=\sum_{m\ge0}b_mt^m\in T_1=K\{t\}$$g\ne0$ に対し
$$ d(g):=\max\{m\in\mathbb{N}\mid |b_m|=\|g\|\} $$
$g$Weierstrass 次数という($|b_m|\to0$ なので最大値は存在する)。$|c|=\|g\|$ なる $c\in K$ をとれば $d(g)=\deg\widetilde{g/c}$ である。文献では「$g$ は次数 $d(g)$$t$ 区別($t$-distinguished)元である」ともいう。

Weierstrass の割り算定理(1 変数)

$g\in T_1$$g\ne0$$d:=d(g)$ とする。任意の $f\in T_1$ に対し、
$$ f=qg+r,\qquad q\in T_1,\quad r\in K[t],\quad \deg r< d $$
を満たす $q,r$ がただ一組存在し、さらに $\|f\|=\max(\|q\|\|g\|,\|r\|)$ が成り立つ。

$|b_d|=\|g\|$ なので、$g$$g/b_d$ に取り替えてよい($f=qg+r$$f=(qb_d)(g/b_d)+r$ と同値で、$d(g/b_d)=d$$\|qb_d\|=\|q\|\|g\|$)。以下 $\|g\|=1$、したがって $|b_d|=1$、すべての $m$$|b_m|\le1$$m>d$$|b_m|<1$ とする。$g=g_0+g_1$$g_0:=\sum_{m\le d}b_mt^m$$g_1:=\sum_{m>d}b_mt^m$ と分け、$\varepsilon:=\|g_1\|$ とおく。$g_1$ の係数は絶対値が $1$ 未満で $0$ に収束するから $\varepsilon<1$ である。
$K[t]_{< d}$ を次数 $d$ 未満の多項式全体($d$ 次元の $K$ ベクトル空間$d=0$ なら $0$)とし、$E:=T_1\times K[t]_{< d}$ にノルム $\|(q,r)\|:=\max(\|q\|,\|r\|)$ を入れる。$K[t]_{< d}$$T_1$ の閉部分空間(次数 $d$ 以上の係数が $0$ という条件は係数ごとの収束で保たれる)だから完備であり、$E$ も完備である。
段 1($g_0$ による割り算).$K$ 線型写像 $\Phi\colon E\to T_1$$\Phi(q,r):=qg_0+r$ は全単射な等長写像である。まず $\|qg_0+r\|\le\max(\|q\|\|g_0\|,\|r\|)=\max(\|q\|,\|r\|)$ である。逆向きに $(q,r)\ne(0,0)$ とし、$|c|=\max(\|q\|,\|r\|)$ なる $c$ で割って $\max(\|q\|,\|r\|)=1$ としてよい。このとき $q,r\in T_1^\circ$$(\tilde q,\tilde r)\ne(0,0)$ であり、lem-tate-algebra-reduction により $\widetilde{qg_0+r}=\tilde q\tilde g_0+\tilde r$ である。$\tilde g_0$ は次数がちょうど $d$$\deg\tilde r< d$ だから、$\tilde q\ne0$ なら $\deg(\tilde q\tilde g_0)\ge d>\deg\tilde r$ で和は $0$ でなく、$\tilde q=0$ なら $\tilde r\ne0$ である。いずれにせよ $\|qg_0+r\|=1$ で、$\Phi$ は等長、特に単射である。$\Phi$ の像は完備な空間の等長像だから完備、したがって $T_1$閉集合であり、$K[t]$$g_0$$\deg g_0=d$)による通常の割り算ができるので像は $K[t]$ を含む。$K[t]$$T_1$ で稠密(prop-tate-algebra-banach)だから像は $T_1$ 全体であり、$\Phi$ は全単射で、$\Phi^{-1}$ も等長である。
段 2(摂動).$N\colon E\to E$$N(q,r):=\Phi^{-1}(qg_1)$ で定める。$N$$K$ 線型で $\|N(q,r)\|=\|qg_1\|\le\varepsilon\|q\|\le\varepsilon\|(q,r)\|$ を満たし、$e=(q,r)\in E$ に対し $\Phi(e+Ne)=qg_0+r+qg_1=qg+r$ である。$e\ne0$ なら $\|Ne\|\le\varepsilon\|e\|<\|e\|$ なので、非Archimedes的不等式により $\|e+Ne\|=\|e\|$、すなわち $\mathrm{id}_E+N$ は等長で単射である。全射性:$e_0\in E$ に対し $e:=\sum_{k\ge0}(-N)^ke_0$ とおくと、$\|(-N)^ke_0\|\le\varepsilon^k\|e_0\|\to0$ なのでこの級数は完備な $E$ の中で収束し、$N$ の連続性から $Ne=-\sum_{k\ge1}(-N)^ke_0$、よって $e+Ne=e_0$ である。
以上から $\Psi:=\Phi\circ(\mathrm{id}_E+N)\colon E\to T_1$$\Psi(q,r)=qg+r$ は全単射な等長写像である。全単射性が $(q,r)$ の存在と一意性、等長性が $\|f\|=\max(\|q\|,\|r\|)=\max(\|q\|\|g\|,\|r\|)$ である。

Weierstrass の準備定理(1 変数)

$g\in T_1$$g\ne0$$d:=d(g)$ とする。次数 $d$ のモニック多項式 $\omega\in K[t]$ と単元 $e\in T_1^\times$$g=e\omega$ となるものがただ一組存在する。さらに $\omega$ の係数は $K^\circ$ に属し($\|\omega\|=1$)、$d(\omega)=d$ である。

$g$$g/c$$|c|=\|g\|$)に取り替え、$\|g\|=1$ としてよい($c$$e$ に吸収される)。thm-tate-algebra-weierstrass-division により $t^d=qg+r$$\deg r< d$ と書け、$\omega:=t^d-r=qg$ とおく。$1=\|t^d\|=\max(\|q\|,\|r\|)$ より $\|q\|,\|r\|\le1$ であり、$\omega$ は係数が $K^\circ$ に属する次数 $d$ のモニック多項式で $\|\omega\|=1$$d(\omega)=d$ である。還元すると $\tilde\omega=\tilde q\tilde g$ で、$\deg\tilde\omega=d=\deg\tilde g$ だから $\tilde q$$0$ でない定数であり、prop-tate-algebra-units により $q$ は単元で、$e:=q^{-1}$ とおけば $g=e\omega$ である。一意性:$g=e'\omega'$$\omega'$ は次数 $d$ のモニック多項式、$e'$ は単元)とすると $t^d=e'^{-1}g+(t^d-\omega')$$\deg(t^d-\omega')< d$ なので、割り算の一意性から $\omega'=\omega$、したがって $e'=e$$T_1$ は整域)である。

1 変数の Tate 代数の構造

$T_1=K\{t\}$ について次が成り立つ。

  1. $0$ でない任意のイデアル $I$ は、係数が $K^\circ$ に属するモニック多項式 $\omega$ によって $I=(\omega)$ と書ける。特に $T_1$単項イデアル整域であり、したがって Noether環かつ一意分解整域である。
  2. 係数が $K^\circ$ に属するモニック多項式 $\omega$ に対し、自然な写像 $K[t]/(\omega)\to T_1/(\omega)$ は同型である。特に任意の極大イデアル $\mathfrak{m}$ について $T_1/\mathfrak{m}$$K$ の有限次拡大体である(1 変数の零点定理)。
  3. $x\in\mathbb{B}^1(\bar K)$ に対し $\mathfrak{m}_x:=\ker(\mathrm{ev}_x\colon T_1\to\bar K)$ は極大イデアルで、$x$$K$ 上の最小多項式 $\omega_x$ により $\mathfrak{m}_x=(\omega_x)$ である。$x\mapsto\mathfrak{m}_x$ は、$\mathbb{B}^1(\bar K)$$K$ 上の共役($\mathrm{Aut}(\bar K/K)$ の作用)で割った集合から、$T_1$ の極大イデアル全体 $\operatorname{Max}T_1$ への全単射を与える。
  4. $g\ne0$$g=e\omega$cor-tate-algebra-weierstrass-preparation)と書くと、$\mathbb{B}^1(\bar K)$ における $g$ の零点は $\omega$ の根にほかならない。したがって $g$ は閉単位円板に高々 $d(g)$ 個の零点しかもたず、重複度込みでちょうど $d(g)$ 個である。特に、閉単位円板に零点をもたない $g$ は単元である。

1.$I\ne0$ とし、$g\in I\setminus\{0\}$$d(g)$ が最小になるようにとる。$f\in I$ に対し thm-tate-algebra-weierstrass-division$f=qg+r$$\deg r< d(g)$ と書くと $r=f-qg\in I$ である。$r\ne0$ なら $d(r)\le\deg r< d(g)$ となり最小性に反するので $r=0$、よって $I=(g)$ である。$g=e\omega$ と書けば $I=(\omega)$ である。単項イデアル整域が Noether 環であることと一意分解整域であることは標準的である(AM69 第 6 章・第 9 章)。
2.$\omega$ を次数 $d$ とする。$\|\omega\|=1$$d(\omega)=d$ だから、thm-tate-algebra-weierstrass-division により任意の $f\in T_1$$\omega$ を法として次数 $d$ 未満の多項式と合同であり、$K[t]\to T_1/(\omega)$ は全射である。核について、$P\in K[t]$$P=q\omega$$q\in T_1$)と書けたとし、$K[t]$ でモニックな $\omega$ による割り算 $P=q'\omega+r'$$q',r'\in K[t]$$\deg r'< d$)を行うと、$T_1$ における割り算の一意性から $q=q'$$r'=0$ であり、$P\in\omega K[t]$ である。ゆえに $K[t]/(\omega)\cong T_1/(\omega)$ である。$\mathfrak{m}$ を極大イデアルとすると、$t$ は単元でない(prop-tate-algebra-units)ので $\mathfrak{m}\ne0$ であり、1 により $\mathfrak{m}=(\omega)$$\deg\omega=d\ge1$ で、$T_1/\mathfrak{m}\cong K[t]/(\omega)$$K$$d$ 次元の体である。
3.$x\in\mathbb{B}^1(\bar K)$ とする。$\mathrm{ev}_x\colon T_1\to K(x)$ は環準同型(lem-tate-algebra-convergence)で、像は $K[x]=K(x)$$x$$K$ 上代数的)を含むので全射であり、$\mathfrak{m}_x$ は極大イデアルである。$\omega_x$$x$ の最小多項式($K[t]$ のモニックな既約多項式)とする。$\omega_x$ の任意の根 $y\in\bar K$ について、$K$ 上の同型 $K(x)\cong K[t]/(\omega_x)\cong K(y)$$\bar K$$K$ 自己同型 $\sigma$$\sigma(x)=y$ なるものに延びる(体論の標準事実)。$|\cdot|\circ\sigma$$K$ の絶対値を延長する $\bar K$ の絶対値だから、延長の一意性により $|y|=|x|\le1$ である。したがって $\omega_x$ の根はすべて $\bar K^\circ$ に属し、その係数(根の基本対称多項式)は $\bar K^\circ\cap K=K^\circ$ に属する。ゆえに 2 により $(\omega_x)$ は極大イデアルであり、$(\omega_x)\subset\mathfrak{m}_x$ から $\mathfrak{m}_x=(\omega_x)$ である。$y$$x$ の共役なら $\omega_y=\omega_x$ だから $\mathfrak{m}_y=\mathfrak{m}_x$ であり、写像は共役類の上で定まる。単射性:$\mathfrak{m}_x=\mathfrak{m}_y$ なら $\omega_x(y)=0$ で、上で見たように $y$$x$ の共役である。全射性:$\mathfrak{m}$ を極大イデアルとすると 1・2 により $\mathfrak{m}=(\omega)$$\omega$ は係数が $K^\circ$ に属するモニック多項式で、$K[t]/(\omega)$ が体だから既約である。その根 $x\in\bar K$$|x|\le1$ を満たす。実際 $|x|>1$ なら、$\omega(x)=0$$x^d=-\sum_{i< d}c_ix^i$$|c_i|\le1$)と書いて $|x|^d\le\max_{i< d}|c_i||x|^i\le|x|^{d-1}$ となり矛盾する。よって $x\in\mathbb{B}^1(\bar K)$$\omega=\omega_x$$\mathfrak{m}=\mathfrak{m}_x$ である。
4.$x\in\mathbb{B}^1(\bar K)$ に対し $g(x)=e(x)\omega(x)$ であり、$e(x)e^{-1}(x)=1$ から $e(x)\ne0$ なので、$g(x)=0\iff\omega(x)=0$ である。$\omega$ は係数が $K^\circ$ に属する次数 $d(g)$ のモニック多項式だから、その根はすべて $\mathbb{B}^1(\bar K)$ に属し、重複度込みでちょうど $d(g)$ 個である。$g$ が零点をもたなければ $d(g)=0$$\omega=1$$g=e$ は単元である。

多変数の Tate 代数と affinoid 代数

1 変数で示した性質は、多変数の Weierstrass 割り算と変数の個数に関する帰納法によりすべての $n$ に広がる。

Tate 代数の環論的性質

任意の $n\ge0$ について次が成り立つ。

  1. $T_n$ は Noether 環である。
  2. $T_n$ は一意分解整域である。
  3. $T_n$Jacobson環である。すなわち任意の素イデアルは、それを含む極大イデアルの共通部分に等しい。
  4. $T_n$Krull次元$n$ で、すべての極大イデアルの高さは $n$ である。
  5. $T_n$ の任意のイデアルは Gauss ノルムについて閉である。
  6. (零点定理)任意の極大イデアル $\mathfrak{m}$ について $T_n/\mathfrak{m}$$K$ の有限次拡大体である。
  7. (Noether 正規化)$T_n$ の任意のイデアル $I\ne T_n$ に対し、ある $d\le n$ と有限かつ単射な $K$ 代数の準同型 $T_d\to T_n/I$ が存在する。このとき $d$$T_n/I$ の Krull 次元に等しい。
環論的性質の出典と証明の筋

証明は BGR84 第 5 章 §5.2–§5.3(Weierstrass 理論、Noether 性と一意分解性、Krull 次元、Noether 正規化)と第 6 章 §6.1(イデアルの閉性、零点定理)、および Bos14 §2.2–§2.3・§3.1、FvdP04 第 3 章に譲る。筋は次のとおりである。$g\in T_n$$g\ne0$$t_n$ について区別されている($g$$T_{n-1}\{t_n\}$ の元とみて、$\|g\|$ を達成する最高次の $t_n^d$ の係数が $T_{n-1}$ の単元になる)とき、thm-tate-algebra-weierstrass-division と同じ証明で $g$ による割り算ができ、$T_n/(g)$$T_{n-1}$ 上階数 $d$自由加群になる。任意の $0$ でない $g$ は、$K$ 代数の自己同型 $t_i\mapsto t_i+t_n^{c_i}$$i< n$$c_i$ は十分大きい整数)で $t_n$ について区別された元に移せる。この 2 つで $n$ に関する帰納法を回すと Noether 正規化・Noether 性・零点定理が得られ、一意分解性は Weierstrass 多項式(係数が $T_{n-1}$ に属するモニック多項式)についての Gauss の補題型の議論で、Jacobson 性は零点定理と Noether 正規化から従う。イデアルの閉性も同じ帰納法で、$T_{n-1}$ 上の有限生成加群の部分加群が閉であることに帰着する。零点定理の原型は Tat71 にある。

一般の $n$ でも、極大イデアルは閉単位多重円板の点である。

極大イデアルと閉単位多重円板の点

$x\in\mathbb{B}^n(\bar K)$ に対し $\mathfrak{m}_x:=\ker(\mathrm{ev}_x\colon T_n\to\bar K)$$T_n$ の極大イデアルである。$x,y\in\mathbb{B}^n(\bar K)$ について、$\mathfrak{m}_x=\mathfrak{m}_y$ となるのは、ある $\sigma\in\mathrm{Aut}(\bar K/K)$$y=\sigma(x)$$\sigma$ を各成分に施す)となるとき、かつそのときに限る。さらに $T_n$ のすべての極大イデアルはこの形である。したがって $x\mapsto\mathfrak{m}_x$ は全単射
$$ \mathbb{B}^n(\bar K)/\mathrm{Aut}(\bar K/K)\ \xrightarrow{\ \sim\ }\ \operatorname{Max}T_n $$
を与える。

$\mathrm{ev}_x$ の像は $K[x_1,\dots,x_n]=K(x_1,\dots,x_n)$(各 $x_i$$K$ 上代数的)を含み $K(x_1,\dots,x_n)$ に含まれるので、像は体であり $\mathfrak{m}_x$ は極大イデアルである。
$y=\sigma(x)$ とする。$\sigma$ は絶対値を保つ(延長の一意性)ので $\bar K$ の等長写像、したがって連続であり、収束する級数と可換で $K$ の元を動かさない。ゆえに $\mathrm{ev}_{\sigma(x)}=\sigma\circ\mathrm{ev}_x$ で、$\mathfrak{m}_y=\mathfrak{m}_x$ である。逆に $\mathfrak{m}_x=\mathfrak{m}_y$ とすると、$\mathrm{ev}_x$$\mathrm{ev}_y$ の誘導する同型 $K(x)\cong T_n/\mathfrak{m}_x=T_n/\mathfrak{m}_y\cong K(y)$$x_i\mapsto y_i$ なる $K$ 上の同型 $\tau$ であり、$\tau$$\bar K$$K$ 自己同型 $\sigma$ に延ばせば $\sigma(x)=y$ である。
最後に $\mathfrak{m}$ を極大イデアルとする。thm-tate-algebra-noetherian の 6 により $F:=T_n/\mathfrak{m}$$K$ の有限次拡大体で、$K$ 上の埋め込み $F\hookrightarrow\bar K$ をとれる。合成 $\phi\colon T_n\to F\to\bar K$ は核が $\mathfrak{m}$$K$ 代数の準同型で、$x_i:=\phi(t_i)$ とおく。$\phi$ を部分環 $K\{t_i\}\cong T_1$ に制限すると、像は有限次元 $K$ 代数 $F$ の部分環で整域だから体であり、核は $T_1$ の極大イデアル、したがって thm-tate-algebra-one-variable の 3 によりある $z\in\mathbb{B}^1(\bar K)$$\mathfrak{m}_z$ である。$K\{t_i\}/\mathfrak{m}_z\cong K(z)$$\phi$ の誘導する同型を合わせると $z\mapsto x_i$ なる $K$ 上の同型 $K(z)\cong K(x_i)$ を得るので、$x_i$$z$ の共役で $|x_i|=|z|\le1$、すなわち $x\in\mathbb{B}^n(\bar K)$ である。
次に $\phi=\mathrm{ev}_x$ を示す。両者は $K$ 代数の準同型で $t_i$ の行き先が一致するから $K[t]$ の上で一致する。$\mathrm{ev}_x$$|f(x)|\le\max_\alpha|a_\alpha x^\alpha|\le\|f\|$ により連続である。$\phi$ の連続性:thm-tate-algebra-noetherian の 5 により $\mathfrak{m}$ は閉なので剰余ノルム $|\cdot|_{\mathfrak{m}}$$F$ のノルムであり、商写像 $T_n\to F$$|\bar f|_{\mathfrak{m}}\le\|f\|$ を満たして連続である。$F$ は完備体 $K$ 上の有限次元ベクトル空間だからその上のノルムはすべて同値で(BGR84 §2.3)、$\bar K$ の絶対値の $F$ への制限と剰余ノルムは同じ位相を定める。よって $\phi$ は連続である。連続な 2 つの写像が稠密な部分集合 $K[t]$prop-tate-algebra-banach)の上で一致するので $\phi=\mathrm{ev}_x$$\mathfrak{m}=\mathfrak{m}_x$ である。

Tate 代数の商である affinoid 代数(def-tate-algebra-affinoid)にも、これらの性質が受け継がれる。

affinoid 代数の基本性質

$A=T_n/I$ を affinoid 代数とする。

  1. $A$ は Noether 環かつ Jacobson 環であり、$A$ の任意のイデアルは剰余ノルムについて閉である。剰余ノルム $|\cdot|_I$$A$ の完備なノルムであり、$A$ は Banach 代数である。$A$ の別の表示 $A\cong T_{n'}/I'$ から得られる剰余ノルムは $|\cdot|_I$ と同値で、同じ位相を定める。
  2. affinoid 代数の間の任意の $K$ 代数の準同型 $\varphi\colon A\to B$ は、剰余ノルムについて連続である。
  3. (Noether 正規化)$d$$A$ の Krull 次元とすると、有限かつ単射な $K$ 代数の準同型 $T_d\to A$ が存在する。
  4. (零点定理)$A$ の任意の極大イデアル $\mathfrak{m}$ について $A/\mathfrak{m}$$K$ の有限次拡大体である。$A$ の極大イデアルは $I$ を含む $T_n$ の極大イデアルにほかならず、prop-tate-algebra-points により $\operatorname{Max}A$$I$ の零点集合 $\{x\in\mathbb{B}^n(\bar K)\mid f(x)=0\ (f\in I)\}$ を共役で割ったものと同一視される。
affinoid 代数の性質の出典

証明は BGR84 §6.1、Bos14 §3.1–§3.2、FvdP04 第 3 章に譲る。2 の筋は、prop-tate-algebra-points の証明と同じ議論で $\varphi(t_i)$$\operatorname{Max}B$ の各点での値の絶対値が $1$ 以下になり、したがって $\varphi(t_i)$ の冪 $\varphi(t_i)^k$$k\ge0$)が剰余ノルムについて有界になることから、$T_n\to B$$t_i\mapsto\varphi(t_i)$ が連続になることによる。これらの結果はすべて Tate の原論文 Tat71 に遡る。

rigid 解析空間と過収束級数への案内

rigid 解析空間への案内

affinoid 代数 $A$ の極大イデアルの集合 $\operatorname{Sp}A:=\operatorname{Max}A$affinoid 空間という。prop-tate-algebra-points により $\operatorname{Sp}T_n$ は閉単位多重円板 $\mathbb{B}^n(\bar K)$ を共役で割ったものであり、$A$ の元は $\operatorname{Sp}A$ 上の関数とみなせる。半径 $|c|$$c\in K^\times$)の閉円板上で収束する級数の環 $\{\sum_ma_mt^m\mid |a_m||c|^m\to0\}$ は変数変換 $t=cs$ により $K\{s\}$ と同型であり、単位円周 $\{|x|=1\}$ は affinoid 代数 $K\{t,s\}/(ts-1)$ に対応する。閉単位円板は開集合かつ閉集合である部分集合に分割できる($\{|x|\le|c|\}$$\{|c|<|x|\le1\}$ など)ので、$\operatorname{Sp}A$ の通常の位相で層を貼り合わせると関数が増えすぎる。そこで Tate は、許容開集合と許容被覆を指定した Grothendieck 位相(Grothendieck位相。景)を導入し、有限個の affinoid 部分領域による許容被覆について Čech コホモロジー(Čechコホモロジー)が消えること(Tate の非輪状定理)を示した。affinoid 空間をこの景で貼り合わせたものが rigid解析空間 であり、非輪状定理・構造層・貼り合わせの言明と出典はその記事に譲る。$K$ 上の有限型スキームには rigid 解析化 $X^{\mathrm{an}}$ が伴い、固有なら GAGA 型の比較定理(GAGA)が成り立つ。閉単位円板の点を極大イデアルから乗法的半ノルムまで広げると Berkovich 空間(Berkovich空間)、付値まで広げると adic 空間(adic空間)になり、いずれも Tate 代数を基本の座標環とする(Bos14FvdP04)。

過収束級数との関係

係数の減衰が指数的なもの、すなわちある $r>1$ について $|a_\alpha|r^{|\alpha|}\to0$ となる級数の全体
$$ K\{t_1,\dots,t_n\}^\dagger:=\{f\in T_n\mid \exists r>1,\ |a_\alpha|r^{|\alpha|}\to0\} $$
$T_n$ の部分環で、多項式環を含むので $T_n$ で稠密であるが完備ではない(完備化は $T_n$ である)。これは半径 $1$ より大きいある閉多重円板の上で収束する級数の環であり、Witt ベクトル環 $W=W(k)$ を係数とする版 $W\{t\}^\dagger$(弱完備化)は 過収束級数 の記事で扱う。$K=W[1/p]$ のとき $K\{t\}^\dagger=W\{t\}^\dagger\otimes_WK$ であり、$T_n^\circ=W\{t\}$$W[t]$$p$ 進完備化である(ex-tate-algebra-integral-model)。affine 直線の de Rham コホモロジー(de Rhamコホモロジー)を $W\{t\}$ で計算すると $H^1$$K$ 係数でも消えず($\sum_{j\ge0}p^jt^{p^j-1}\,dt$ の原始関数 $\sum_jt^{p^j}$$W\{t\}[1/p]$ に入らない)、$W\{t\}^\dagger$ に取り替えると消える。この違いが、Monsky–Washnitzer コホモロジー(Monsky–Washnitzerコホモロジー)と rigid コホモロジーで Tate 代数そのものではなく過収束級数の環を使う理由である。

関連項目

参考文献

[1]
Siegfried Bosch, Ulrich Güntzer, Reinhold Remmert, Non-Archimedean Analysis: A Systematic Approach to Rigid Analytic Geometry, Springer, 1984, §1.1(非Archimedes的級数)、§2.3(完備体上の有限次元ノルム空間)、§3.2(絶対値の代数閉包への延長)、第 5 章 §5.1–§5.3(Tate 代数、Gauss ノルムと最大値原理、Weierstrass 理論、Noether 性・一意分解性・Krull 次元、Noether 正規化)、第 6 章 §6.1(affinoid 代数、剰余ノルム、イデアルの閉性、準同型の連続性、零点定理)
[2]
Siegfried Bosch, Lectures on Formal and Rigid Geometry, Springer, 2014, §2.2–§2.3(Tate 代数と Weierstrass 理論)、§3.1–§3.2(affinoid 代数、Noether 正規化、零点定理)、第 5 章(rigid 解析空間)
[3]
Jean Fresnel, Marius van der Put, Rigid Analytic Geometry and Its Applications, Birkhäuser, 2004, 第 3 章(affinoid 代数)、第 4 章(rigid 解析空間)、第 7 章(Monsky–Washnitzer コホモロジー)
[4]
John Tate, Rigid analytic spaces, Inventiones Mathematicae 12, pp. 257–289, doi:10.1007/BF01403307, 1971, Tate 代数と affinoid 代数の定義、零点定理、非輪状定理
[5]
Michael F. Atiyah, Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969, 第 6 章(Noether 環)、第 7 章(Hilbert の基底定理)、第 9 章(単項イデアル整域と離散付値環)

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