整閉包の有限性

同義語:finiteness of integral closure正規化の有限性finiteness of normalization分離拡大における整閉包の有限性

概要

整閉包の有限性(finiteness of integral closure)とは、整域 $A$ の商体 $K$ の有限次拡大体 $L$ における $A$ の整閉包が、$A$ 加群として有限生成になる性質のことである。$A$ が Noether 環である整閉整域で $L/K$ が分離拡大なら、トレース形式の双対基底によって整閉包は有限生成な自由加群に挟まれ、有限になる。$A$ が体上有限生成な整域なら、$L/K$ が分離的でなくても、Noether の正規化と係数・変数の冪根の添加によって分離的な場合に帰着でき、整閉包は有限になる。代数体の整数環が有限生成な自由 $\mathbb{Z}$ 加群であることや、アフィン多様体の正規化が有限射であることはこの定理による。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 整閉包, 整閉整域, 分離拡大, Noether環, 体上有限生成環

整域 $A$ の商体 $K$ の有限次拡大体 $L$ をとり、$A$ 上整な $L$ の元をすべて集めると、$A$ を含む部分環 $\overline{A}^{L}$ が得られる。これが $L$ における $A$ の 整閉包 である。代数体の整数環や、代数曲線の座標環の正規化はこの形をしている。整閉包の元は一つずつは整だが、全体が $A$ 加群として有限個の元で生成されるかどうかは別の問題である。これが 整閉包の有限性 の問題である。
有限生成であれば、整閉包は $A$ に有限個の元を付け加えるだけで得られ、Noether 性などのよい性質を $A$ から受け継ぐ。この記事では、次の二つの場合に有限性を完全に証明する。

  • $A$ が Noether 環で整閉整域、$L/K$ が 分離拡大 の場合(thm-fic-separable)。証明の鍵は、体の拡大のトレースが定める双一次形式である。
  • $A$ が体 $k$ 上有限生成な整域の場合(thm-fic-finite-type)。$L/K$ は分離的でなくてよい。
    一方、仮定を外すと有限性は成り立たなくなる。無限個の変数を使うと、正規化が有限でない整域を初等的に作れる(ex-fic-infinitely-many-variables)。1 次元の Noether 整域でも正規化が有限でない例があり、そのとき正規化は有限ではないが Noether 環にはなる(Krull–秋月の定理)。

定義

この記事では、環は単位元をもつ可換環とする。整域 $A$ の商体を $K=\operatorname{Frac}(A)$ と書き、$K$ の拡大体 $L$ に対し、$A$ の $L$ における整閉包を $\overline{A}^{L}$ と書く(整閉包 の記事の記号)。とくに $\widetilde{A}:=\overline{A}^{K}$ は $A$ の正規化である。環 $A\subset B$ について、$B$ が $A$ 加群として有限生成であるとき、$B$ は $A$ 上 有限 であるという。

整閉包の有限性

$A$ を整域、$K$ をその商体、$L$ を $K$ の有限次拡大体とする。$\overline{A}^{L}$ が $A$ 上有限であるとき、$L$ における $A$ の整閉包は有限である という。$L=K$ の場合、すなわち正規化 $\widetilde{A}$ が $A$ 上有限であるとき、$A$ の正規化は有限である という。

$K$ のすべての有限次拡大 $L$ で整閉包が有限であるような整域は N-2 であるといい、$L=K$ の場合だけを要求する条件を N-1 という。Noether 環 $R$ で、すべての素イデアル $\mathfrak p$ について $R/\mathfrak p$ が N-2 であるものを 永田環 という。この記事は、個々の整域について有限性を示す二つの基本定理を扱う。
有限性を調べるために、体の拡大のトレースを使う。

体の拡大のトレース

$L/K$ を有限次拡大とする。$x\in L$ に対し、$x$ 倍写像 $m_x\colon L\to L$、$y\mapsto xy$ は $K$ 線形写像である。そのトレース($K$ 上のある基底に関する表現行列の対角成分の和)を $\operatorname{Tr}_{L/K}(x)\in K$ と書き、$x$ の $L/K$ に関する トレース という。$K$ 双一次形式 $(x,y)\mapsto\operatorname{Tr}_{L/K}(xy)$ を トレース形式 という。

行列のトレースは基底の取り方によらないので、$\operatorname{Tr}_{L/K}(x)$ は well-defined である。$m_{x+y}=m_x+m_y$、$m_{cx}=cm_x$($c\in K$)なので $\operatorname{Tr}_{L/K}$ は $K$ 線形であり、$c\in K$ なら $m_c$ は $c$ 倍のスカラー写像なので $\operatorname{Tr}_{L/K}(c)=[L:K]\,c$ である。

主定理

整閉包の有限性

$A$ を整域、$K=\operatorname{Frac}(A)$、$L$ を $K$ の有限次拡大体とする。次のいずれかの場合、$\overline{A}^{L}$ は $A$ 上有限である。

  1. $A$ は Noether 環で整閉整域であり、$L/K$ は分離拡大である。
  2. $A$ は体 $k$ 上有限生成な $k$ 代数である。
    とくに、体上有限生成な整域の正規化は $A$ 上有限であり、ふたたび体上有限生成な整域である。
証明の所在

1 は thm-fic-separable、2 は thm-fic-finite-type で証明する。最後の主張は 2 で $L=K$ とすればよい。$\widetilde{A}$ が有限個の元 $b_1,\dots,b_m$ で $A$ 加群として生成されるなら、$A=k[a_1,\dots,a_n]$ のとき $\widetilde{A}=k[a_1,\dots,a_n,b_1,\dots,b_m]$ である。

直感

$L/K$ の基底 $\omega_1,\dots,\omega_n$ を $\overline{A}^{L}$ の元からとると、$\overline{A}^{L}$ は自由加群 $\sum_jA\omega_j$ を含む。有限性を示すには、逆向きに $\overline{A}^{L}$ を何かの有限生成加群で上から押さえればよい。トレース形式が非退化なら、$\omega_j$ の双対基底 $\omega_j^{*}$ がとれ、整な元 $b$ の座標は $\operatorname{Tr}_{L/K}(b\omega_j)$ で読み取れる。整な元のトレースは $A$ に入るので、$\overline{A}^{L}$ は $\sum_jA\omega_j^{*}$ に収まる。こうして
$$ \sum_jA\omega_j\subset\overline{A}^{L}\subset\sum_jA\omega_j^{*} $$
と上下から挟まれ、Noether 性から有限性が従う。
非分離な拡大ではトレース形式が恒等的に $0$ になることがあり(ex-fic-inseparable-trace-zero)、この方法は使えない。体上有限生成の場合は、係数体と変数に $p$ 乗根を付け加えて拡大を分離的にしてから、上の方法を適用する。

トレースの二つの性質

整な元のトレース

$A$ を整閉整域、$K=\operatorname{Frac}(A)$、$L/K$ を有限次拡大とし、$x\in L$ は $A$ 上整であるとする。このとき、$x$ の $K$ 上の最小多項式の係数はすべて $A$ に属し、$\operatorname{Tr}_{L/K}(x)\in A$ である。

$\mu(T)=T^m+c_{m-1}T^{m-1}+\cdots+c_0\in K[T]$ を $x$ の $K$ 上の最小多項式とし、$L$ の代数閉包 $\Omega$ で $\mu(T)=\prod_{i=1}^m(T-x_i)$ と分解する。$\mu$ は既約なので、各 $i$ について $K$ 上の環準同型 $K(x)\cong K[T]/(\mu)\to\Omega$ で $x$ を $x_i$ に送るものがある。$x$ が満たす $A$ 係数のモニックな式をこの準同型で移せば、$x_i$ も同じ式を満たすので $A$ 上整である。$\Omega$ の中で $A$ 上整な元の全体は部分環をなすから(整拡大 の記事の命題「整な元の和と積」)、$x_i$ の基本対称式である $\pm c_j$ も $A$ 上整である。$c_j\in K$ であり $A$ は整閉なので、$c_j\in A$ である。
次にトレースを計算する。$d=[L:K(x)]$ とし、$e_1,\dots,e_d$ を $L$ の $K(x)$ 上の基底とすると、$x^ie_l$($0\le i< m$、$1\le l\le d$)は $L$ の $K$ 上の基底である。$x\cdot x^ie_l=x^{i+1}e_l$ であり、$x^me_l=-(c_{m-1}x^{m-1}+\cdots+c_0)e_l$ なので、この基底に関する $m_x$ の表現行列は $\mu$ の同伴行列を $d$ 個並べたブロック対角行列である。同伴行列の対角成分の和は $-c_{m-1}$ だから、$\operatorname{Tr}_{L/K}(x)=-d\,c_{m-1}\in A$ である。$\square$

前半は AM69 Proposition 5.15(p. 63)の $\mathfrak a=A$ の場合であり、後半は同書 Proposition 5.17 の証明の中(p. 64)で用いられている。

分離拡大のトレース形式は非退化

$L/K$ を $n$ 次の分離拡大とする。$L$ の $K$ 上の任意の基底 $\omega_1,\dots,\omega_n$ について $\det\bigl(\operatorname{Tr}_{L/K}(\omega_i\omega_j)\bigr)_{i,j}\neq0$ である。したがって、$\operatorname{Tr}_{L/K}(\omega_i\omega_j^{*})=\delta_{ij}$ を満たす $L$ の $K$ 上の基底 $\omega_1^{*},\dots,\omega_n^{*}$(双対基底)がただ一つ存在する。

分離拡大 の記事の定理「原始元定理」により $L=K(\theta)$ と書ける。$\theta$ の $K$ 上の最小多項式 $f$ は次数 $n$ の分離多項式なので、$\Omega$ で相異なる根 $\theta_1,\dots,\theta_n$ をもつ。$1,\theta,\dots,\theta^{n-1}$ は $L$ の $K$ 上の基底であり、この基底に関する $m_\theta$ の表現行列 $C$ は $f$ の同伴行列である。$C$ の固有多項式は $f$ で、$\Omega$ 上で相異なる $n$ 個の固有値 $\theta_1,\dots,\theta_n$ をもつから、$\Omega$ 上で対角化できる:$P^{-1}CP=\operatorname{diag}(\theta_1,\dots,\theta_n)$。$m_{\theta^k}=(m_\theta)^k$ の表現行列は $C^k$ で、$P^{-1}C^kP=\operatorname{diag}(\theta_1^k,\dots,\theta_n^k)$ なので
$$ \operatorname{Tr}_{L/K}(\theta^k)=\operatorname{tr}(C^k)=\sum_{l=1}^n\theta_l^k\qquad(k\ge0) $$
である。よって基底 $\theta^0,\dots,\theta^{n-1}$ に関する行列 $G=\bigl(\operatorname{Tr}_{L/K}(\theta^{a+b})\bigr)_{a,b}$ は、$V=(\theta_l^{\,b})_{l,b}$ とおくと $G=V^{\mathsf T}V$ と書ける。Vandermondeの行列式 により $\det V=\prod_{l< l'}(\theta_{l'}-\theta_l)\neq0$ なので $\det G=(\det V)^2\neq0$ である。
任意の基底 $\omega_i$ は可逆な $Q\in GL_n(K)$ により $\omega_i=\sum_aQ_{ia}\theta^a$ と書け、$\bigl(\operatorname{Tr}_{L/K}(\omega_i\omega_j)\bigr)=QGQ^{\mathsf T}$ なので、その行列式も $0$ でない。双対基底は、行列 $\bigl(\operatorname{Tr}_{L/K}(\omega_i\omega_j)\bigr)$ の逆行列を使って $\omega_j^{*}=\sum_iu_{ij}\omega_i$ と係数 $u_{ij}$ を一意に解けば得られる。$\square$

$\det\bigl(\operatorname{Tr}_{L/K}(\omega_i\omega_j)\bigr)$ を基底 $\omega$ の 判別式 という。上の証明は、$L=K(\theta)$ の基底 $1,\theta,\dots,\theta^{n-1}$ の判別式が、$f$ の 判別式(根の差の積の 2 乗)に等しいことも示している。

分離拡大の場合

分離拡大における整閉包の有限性

$A$ を Noether 環である整閉整域、$K=\operatorname{Frac}(A)$、$L/K$ を $n$ 次の分離拡大とし、$B:=\overline{A}^{L}$ とおく。$B$ に属する $L$ の $K$ 上の基底 $\omega_1,\dots,\omega_n$ が存在し、その双対基底 $\omega_j^{*}$ について
$$ \sum_{j=1}^nA\omega_j\subset B\subset\sum_{j=1}^nA\omega_j^{*} $$
が成り立つ。とくに $B$ は $A$ 上有限である。

$L$ の $K$ 上の基底 $v_1,\dots,v_n$ を一つとる。整閉包 の記事の命題「分母を払うことと正規化」の 1 により、$0$ でない $a_j\in A$ で $a_jv_j\in B$ となるものがある。$\omega_j:=a_jv_j$ はふたたび $L$ の $K$ 上の基底で、$B$ に属する。$B$ は部分環なので $\sum_jA\omega_j\subset B$ である。
lem-fic-trace-nondegenerate により双対基底 $\omega_1^{*},\dots,\omega_n^{*}$ をとる。$b\in B$ を $b=\sum_jc_j\omega_j^{*}$($c_j\in K$)と書くと、トレースの $K$ 線形性から
$$ \operatorname{Tr}_{L/K}(b\,\omega_i)=\sum_jc_j\operatorname{Tr}_{L/K}(\omega_j^{*}\omega_i)=c_i $$
である。$b\omega_i\in B$ は $A$ 上整なので、lem-fic-trace-integral により $c_i\in A$ である。よって $B\subset\sum_jA\omega_j^{*}$ である。
右辺 $M:=\sum_jA\omega_j^{*}$ は、$\omega_j^{*}$ が $K$ 上一次独立なので階数 $n$ の自由 $A$ 加群である。Noether 環上の有限生成加群は Noether加群 なので、その部分加群 $B$ も有限生成である。$\square$

包含 $B\subset\sum_jA\omega_j^{*}$ だけなら Noether 性は使わない(AM69 Proposition 5.17)。有限性の結論で使うのは、Noether 環上の有限生成加群の部分加群が有限生成であることだけである。同じ定理は Mat86 §33, Lemma 1(p. 262)と MatCA (31.B), Proposition 31.1 にあり、どちらも $L$ を Galois 拡大へ広げ、共役の行列式で座標を解いている。上の証明は原始元をとってトレース形式を計算するので、Galois 閉包を使わない。

単項イデアル整域の場合は自由加群

thm-fic-separable で $A$ が 単項イデアル整域 なら、$B$ は階数 $n$ の自由 $A$ 加群である。とくに、代数体 $L$ の整数環 $\mathcal{O}_L=\overline{\mathbb{Z}}^{L}$ は、階数 $[L:\mathbb{Q}]$ の自由 $\mathbb{Z}$ 加群である。

$B$ は自由加群 $\sum_jA\omega_j^{*}$ の部分加群なので、自由加群 の記事の定理「任意階数の自由加群の部分加群」により自由で、階数は $n$ 以下である。一方 $B$ は一次独立な $n$ 個の元 $\omega_1,\dots,\omega_n$ を含むので、階数は $n$ 以上である。$\mathbb{Q}$ は 完全体 なので代数体は $\mathbb{Q}$ 上分離的であり、$\mathbb{Z}$ は単項イデアル整域で整閉整域だから、後半は前半の特別な場合である。$\square$

体上有限生成な整域の場合

分離的でない拡大を扱うために、標数 $p>0$ では次の補題で拡大を分離的に直す。以下、$\Omega$ を標数 $p$ の代数閉体とすると、$x\mapsto x^p$ は $\Omega$ の単射な環準同型(Frobenius 写像)で、全射でもある。そこで $p$ の冪 $q$ と $a\in\Omega$ に対し、$b^q=a$ を満たすただ一つの $b\in\Omega$ を $a^{1/q}$ と書く。

係数と変数の冪根による分離化

$k$ を標数 $p>0$ の体、$P=k[y_1,\dots,y_r]$ を多項式環、$F=k(y_1,\dots,y_r)$ をその商体、$L/F$ を有限次拡大、$\Omega$ を $L$ の代数閉包とする。このとき、$p$ の冪 $q$ と、$\Omega$ に含まれる $k$ の有限次拡大体 $k'$ が存在して、$z_i:=y_i^{1/q}$、$P':=k'[z_1,\dots,z_r]$、$F':=k'(z_1,\dots,z_r)$ について次が成り立つ。

  1. $z_1,\dots,z_r$ は $k'$ 上代数的独立である。したがって $P'$ は $k'$ 上の多項式環で、Noether 環である整閉整域であり、商体は $F'$ である。
  2. $P'$ は $P$ 上有限である。
  3. $\Omega$ の中で $F'$ と $L$ が生成する部分体 $L'$ は、$F'$ の有限次分離拡大である。

要点:各生成元の最小多項式を $g(T^{p^{e}})$($g$ は分離多項式)の形に書き、$g$ の係数の $p^{e}$ 乗根を含むように係数体と変数に $q$ 乗根を添加すると、生成元は分離多項式 $\tilde g$ の根になる。$P'$ は変数の $q$ 乗根を変数とする多項式環である。

詳しい証明を開く

段 1(最小多項式の形).$L=F(\alpha_1,\dots,\alpha_s)$ と有限個の元で生成し、$\alpha_i$ の $F$ 上の最小多項式を $h_i$ とする。$h_i\in F[T^{p^{e}}]$ となる最大の $e\ge0$ を $e_i$ とし、$h_i(T)=g_i(T^{p^{e_i}})$ と書く。$e_i$ の最大性から $g_i\notin F[T^p]$、すなわち導関数 $g_i'$ は $0$ でない。$g_i$ は既約である($g_i=uv$ と定数でない多項式の積に分解すれば $h_i=u(T^{p^{e_i}})\,v(T^{p^{e_i}})$ となり $h_i$ の既約性に反する)。既約な $g_i$ と、次数の低い $0$ でない $g_i'$ の最大公約元は $1$ なので、$g_i$ は重根をもたない。$h_i$ はモニックなので $g_i$ もモニックである。

段 2($q$ と $k'$ の選び方).$q=p^e$ を $e\ge e_1,\dots,e_s$ となるようにとる。$g_i$ の係数は有限個の $F$ の元で、それぞれ $k[y_1,\dots,y_r]$ の元の商である。それらの分子と分母に現れる $k$ の係数の全体(有限集合)を $S$ とし、$k':=k(a^{1/q}:a\in S)\subset\Omega$ とおく。$k'$ は有限個の代数的な元で生成されるので $k$ の有限次拡大である。$u=\sum_\nu a_\nu y^\nu$($a_\nu\in S$)に対して $u^{\flat}:=\sum_\nu a_\nu^{1/q}z^\nu\in P'$ とおくと、Frobenius 写像が環準同型であることから $(u^{\flat})^q=u$ である。よって $g_i$ の各係数 $c=u/v$ について $c^{1/q}=u^{\flat}/v^{\flat}\in F'$ であり、$c^{1/p^{e_i}}=(c^{1/q})^{q/p^{e_i}}\in F'$ である。

段 3(分離性).$g_i$ の各係数 $c$ を $c^{1/p^{e_i}}\in F'$ で置き換えた多項式を $\tilde g_i\in F'[T]$ とする。Frobenius 写像は $\Omega[T]$ でも和を保つので $\tilde g_i(T)^{p^{e_i}}=g_i(T^{p^{e_i}})=h_i(T)$ である。$g_i=\prod_j(T-\gamma_j)$($\gamma_j\in\Omega$ は相異なる)とし、$\delta_j:=\gamma_j^{1/p^{e_i}}$ とおくと、Frobenius 写像の単射性から $\delta_j$ も相異なり、 $$ \prod_j(T-\delta_j)^{p^{e_i}}=\prod_j(T^{p^{e_i}}-\gamma_j)=g_i(T^{p^{e_i}})=\tilde g_i(T)^{p^{e_i}} $$ である。$\Omega[T]$ での一次式への分解の一意性から $\tilde g_i=\prod_j(T-\delta_j)$ となり、$\tilde g_i$ は重根をもたない。$\tilde g_i(\alpha_i)^{p^{e_i}}=h_i(\alpha_i)=0$ より $\tilde g_i(\alpha_i)=0$ なので、$\alpha_i$ は $F'$ 上分離的である。$L'=F'(\alpha_1,\dots,\alpha_s)$ は分離的な元で生成されるので、分離拡大 の記事の定理「分離拡大の推移性」の後半により $F'$ の分離拡大であり、有限個の代数的な元で生成されるので有限次である。これが 3 である。

段 4($P'$ の性質).$k'/k$ は代数拡大で、$z_i$ は $F$ 上代数的なので、$F'$ の $k'$ 上の 超越次数 は $F$ の $k$ 上の超越次数 $r$ に等しい。$F'$ は $k'$ 上 $r$ 個の元 $z_1,\dots,z_r$ で生成されるので、これらは代数的独立である。よって $P'$ は $k'$ 上の多項式環であり、Hilbertの基底定理 により Noether 環、一意分解整域 なので整閉整域である(整閉整域 の記事の定理「一意分解整域の整閉性」)。$k'$ の $k$ 上の基底 $b_1,\dots,b_t$ をとると、単項式 $z^\nu$ は $z^{\nu}=z^{\mu}y^{\lambda}$($\nu=\mu+q\lambda$、$0\le\mu_i< q$)と書けるので、$P'$ は有限個の元 $b_lz^\mu$($0\le\mu_i< q$)で $P$ 加群として生成される。これが 2 である。

$\square$

体上有限生成な整域の整閉包の有限性

$k$ を体、$A$ を $k$ 上有限生成な整域、$K=\operatorname{Frac}(A)$、$L$ を $K$ の有限次拡大体とする。このとき $\overline{A}^{L}$ は $A$ 上有限である。$L/K$ が分離的であることは仮定しない。

整拡大 の記事の定理「正規化の定理」により、$k$ 上代数的独立な $y_1,\dots,y_r\in A$ で、$A$ が $P:=k[y_1,\dots,y_r]$ 上有限になるものがとれる。$F:=\operatorname{Frac}(P)$ とする。$A=P[a_1,\dots,a_m]$ の各 $a_i$ は $P$ 上整なので $F$ 上代数的であり、体 $F(a_1,\dots,a_m)$ は $A$ を含み $K$ に含まれるから $K$ に等しい。よって $K/F$、したがって $L/F$ は有限次拡大である。
$P\subset A\subset L$ で $A$ は $P$ 上整なので、整閉包 の記事の命題「中間の環の整閉包」の 2 により $C:=\overline{A}^{L}=\overline{P}^{L}$ である。$C$ が $P$ 上有限なら、同じ生成元で $A$ 上有限でもある。そこで $C$ が $P$ 上有限であることを示す。
標数が $0$ の場合:$L/F$ は分離拡大である(分離拡大 の記事の命題「標数が 0 の体と有限体の上の代数拡大」)。$P$ は多項式環なので Noether 環である整閉整域であり、thm-fic-separable により $C$ は $P$ 上有限である。
標数が $p>0$ の場合:lem-fic-separabilize の $q$、$k'$、$P'$、$F'$、$L'$ をとる。$L'/F'$ は有限次分離拡大で、$P'$ は Noether 環である整閉整域、商体は $F'$ なので、thm-fic-separable により $D:=\overline{P'}^{L'}$ は $P'$ 上有限である。$P'$ は $P$ 上有限なので、$D$ は $P$ 上有限である(整拡大 の記事の補題「有限性の推移性」)。$C$ の元は $L\subset L'$ に属し、$P\subset P'$ 係数のモニックな式を満たすので $D$ に属する。よって $C$ は有限生成 $P$ 加群 $D$ の部分加群であり、$P$ は Noether 環なので $C$ は $P$ 上有限である。$\square$

この証明は Mat86 §33(pp. 262–263)の議論を、補題の形に分けて細部を補ったものである。Mat86 は Noether の正規化を無限体の場合だけ証明しているが、ここで引いた 整拡大 の記事の定理は任意の体で証明されている。

例

2 次体の整数環を挟む

$A=\mathbb{Z}$、$L=\mathbb{Q}(\sqrt5)$ とし、基底 $\omega_1=1$、$\omega_2=\sqrt5$ をとる。$\operatorname{Tr}_{L/\mathbb{Q}}(1)=2$、$\operatorname{Tr}_{L/\mathbb{Q}}(\sqrt5)=0$、$\operatorname{Tr}_{L/\mathbb{Q}}(5)=10$ なので、トレース形式の行列は $\operatorname{diag}(2,10)$ であり、双対基底は $\omega_1^{*}=1/2$、$\omega_2^{*}=\sqrt5/10$ である。thm-fic-separable は
$$ \mathbb{Z}+\mathbb{Z}\sqrt5\subset\mathcal{O}_L\subset\mathbb{Z}\tfrac12+\mathbb{Z}\tfrac{\sqrt5}{10} $$
を与える。実際 $\mathcal{O}_L=\mathbb{Z}[\varphi]$、$\varphi=(1+\sqrt5)/2=\tfrac12+5\cdot\tfrac{\sqrt5}{10}$ である(整閉包 の記事の例「2 次体の整数環」)。左右の加群の指数は $2\cdot10=20$ で、$\mathcal{O}_L$ は左から指数 $2$、右から指数 $10$ のところにある。基底 $1,\varphi$ のトレース形式の行列は $\begin{pmatrix}2&1\\1&3\end{pmatrix}$ で、その行列式 $5$ が $L$ の判別式である。

尖点の正規化

$k$ を体、$A=k[t^2,t^3]\subset k[t]$ とする。$A$ は体上有限生成な整域で、商体は $k(t)$ である($t=t^3/t^2$)。$t$ は $T^2-t^2$ の根なので $A$ 上整で、$k[t]$ は一意分解整域だから整閉である。よって $\widetilde{A}=k[t]$ であり、$t^n$($n\ne1$)は $A$ に属するから $\widetilde{A}=A\cdot1+A\cdot t$ は $A$ 上有限である。thm-fic-finite-type の特別な場合である。

トレース形式が消える純非分離拡大

$p$ を素数、$A=\mathbb{F}_p[x]$、$K=\mathbb{F}_p(x)$、$w=x^{1/p}$、$L=K(w)$ とする。$T^p-x$ は $x$ についての Eisenstein 多項式なので既約で、$[L:K]=p$ である。$z\in L$ を $z=\sum_ic_iw^i$($c_i\in K$)と書くと、$z^p=\sum_ic_i^px^i\in K$ である。$z\in K$ なら $\operatorname{Tr}_{L/K}(z)=pz=0$ である。$z\notin K$ なら $K(z)=L$ で、最小多項式は $T^p-z^p$ なので、lem-fic-trace-integral の証明の計算で $\operatorname{Tr}_{L/K}(z)=0$ である。したがってトレース形式は恒等的に $0$ で、thm-fic-separable の方法は使えない。
それでも $\overline{A}^{L}=\mathbb{F}_p[w]$ は $A$ 上有限で、$1,w,\dots,w^{p-1}$ を基底とする自由加群である。実際、$\mathbb{F}_p[w]$ は $A$ 上整な $w$ で生成されるので $A$ 上整であり、商体が $L$ の多項式環なので $L$ の中で整閉である。これは thm-fic-finite-type の結論と一致する。

反例

反例:無限個の変数で作る整域

$k$ を体、$R=k[x_1,x_2,\dots]$ を可算無限個の変数の多項式環とし、$A=k[x_i^2,x_i^3:i\ge1]\subset R$ とおく。このとき $\widetilde{A}=R$ であり、$R$ は $A$ 上有限でない。$A$ は整域だが、体上有限生成ではない。

$x_i=x_i^3/x_i^2$ なので $\operatorname{Frac}(A)=\operatorname{Frac}(R)$ である。各 $x_i$ は $T^2-x_i^2$ の根なので $A$ 上整で、$R$ は整な元で生成されるから $A$ 上整である。$R$ は一意分解整域なので整閉であり、$\widetilde{A}$ の元は $R$ 上整だから $R$ に属する。よって $\widetilde{A}=R$ である。
次に、$A$ は単項式 $x^\alpha=\prod_ix_i^{\alpha_i}$ のうち、すべての $i$ で $\alpha_i\ne1$ を満たすもの全体で $k$ 上張られることを確かめる。$2$ 以上の整数は $2a+3b$($a,b\ge0$)と書けるので、そのような単項式は $A$ に属する。逆に、それらの張る部分空間は生成元 $x_i^2,x_i^3$ を含み、指数の各成分が $\{0\}\cup\{2,3,\dots\}$ に属するという条件は和で保たれるから、積で閉じた部分環であり $A$ を含む。
$R=\sum_{j=1}^mAf_j$ と仮定し、$f_j$ に現れる変数がすべて $x_1,\dots,x_N$ に含まれるように $N$ をとる。$x_{N+1}=\sum_ja_jf_j$($a_j\in A$)と書き、両辺の単項式 $x_{N+1}$ の係数を比べる。右辺の単項式は $x^\alpha x^\beta$($x^\alpha$ は $a_j$ の、$x^\beta$ は $f_j$ の単項式)の形で、$\beta_{N+1}=0$、$\alpha_{N+1}\ne1$ だから、$x_{N+1}$ の指数は $1$ にならない。よって右辺の $x_{N+1}$ の係数は $0$ で、矛盾である。
最後に、$A$ が体上有限生成なら thm-fic-finite-type により $\widetilde{A}$ は $A$ 上有限のはずなので、$A$ は体上有限生成でない。$\square$

外す条件反例成り立たなくなること
$A$ が整閉整域(thm-fic-separable)正規化が有限でない 1 次元 Noether 局所整域(rem-fic-noetherian-not-finite)$L=K$ での整閉包(正規化)が有限
$L/K$ が分離的(thm-fic-separable)永田環でない標数 $p$ の離散付値環(rem-fic-noetherian-not-finite)ある有限次純非分離拡大 $L$ で $\overline{A}^{L}$ が有限
$L/K$ が有限次$A=\mathbb{Z}$、$L=\overline{\mathbb{Q}}$$\overline{\mathbb{Z}}$ が $\mathbb{Z}$ 上有限
$A$ が体上有限生成(thm-fic-finite-type)ex-fic-infinitely-many-variables正規化が有限

3 行目は 整拡大 の記事の例「反例:整だが有限でない拡大」である。$\mathbb{Z}$ は Noether 環である整閉整域で、$\overline{\mathbb{Q}}/\mathbb{Q}$ は分離的だが有限次でない。4 行目の $A$ は体上有限生成でも Noether 環でもない。

Noether 整域でも有限にならない例

この記事では証明しないが、Noether 整域でも整閉包が有限にならない例がある。

  1. 正規化が有限でない Noether 整域の最初の例は秋月による(MatCA (31.A))。Mat86 §33(pp. 263–264)には、1 次元の Noether 局所整域について「完備化が被約であることと正規化が有限であることは同値」という Krull の結果と、秋月が完備化の被約でない 1 次元 Noether 局所整域を構成したことが述べられている。この例は thm-fic-separable の仮定のうち整閉性だけを満たさない。それでも正規化は Noether 環であり、Dedekind整域 になる(Krull–秋月の定理)。
  2. MatCA (34.B) は、$[k:k^p]=\infty$ を満たす標数 $p$ の体 $k$ を使って、永田環でない離散付値環を構成している。離散付値環は Noether 環である整閉整域なので、同書 (31.A) の定義と Corollary 31.2 により、ある有限次純非分離拡大での整閉包が有限でない。thm-fic-separable で分離性を外せないことを示す例である。

帰結と位置づけ

  • 代数体の整数環:cor-fic-pid-free により、代数体 $L$ の整数環は階数 $[L:\mathbb{Q}]$ の自由 $\mathbb{Z}$ 加群で、とくに Noether 環である。
  • アフィン多様体の正規化:thm-fic-main により、体上有限生成な整域 $A$ の正規化は $A$ 上有限な体上有限生成環である。幾何学的には、アフィン多様体の正規化の写像が 有限射 であることを意味する(正規化 の記事の命題「有限型の代数幾何での有限性」)。
  • Dedekind 整域の拡大:体でない Dedekind整域 $A$ の商体の有限次分離拡大 $L$ では、thm-fic-separable により $\overline{A}^{L}$ は $A$ 上有限なので Noether 環であり、整拡大なので Krull 次元は $1$ のままである(整拡大 の記事の系「整拡大と Krull 次元」)。$\overline{A}^{L}$ は整閉整域でもあるので(整閉包 の記事の命題「分母を払うことと正規化」の 2)、Dedekind整域 の記事の定理「Noether整域におけるDedekind整域の特徴づけ」により Dedekind 整域になる。$L/K$ が分離的でないと有限性は一般に成り立たないが、Dedekind 整域であることは Krull–秋月の定理 により保たれる。
  • 永田環:thm-fic-finite-type は、体上有限生成な整域が N-2 であることを述べている。$\mathbb{Z}$ のように商体の標数が $0$ の場合は thm-fic-separable だけで N-2 がわかる。N 条件の一般論は 永田環 の記事で扱う。

関連項目

参考文献

[1]
Michael F. Atiyah, Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969, Chapter 5, Proposition 5.15(p. 63、整閉整域上整な元の最小多項式)、Proposition 5.17(p. 64、分離拡大での整閉包を双対基底の加群に入れる)
[2]
Hideyuki Matsumura (translated by Miles Reid), Commutative Ring Theory, Cambridge Studies in Advanced Mathematics 8, Cambridge University Press, 1989, §33「Integral closure of a Noetherian integral domain」, Lemma 1(p. 262、分離拡大)、体上有限生成な整域の正規化の有限性(pp. 262–263)、1 次元 Noether 局所整域の完備化の被約性と正規化の有限性、秋月の例(pp. 263–264)
[3]
Hideyuki Matsumura, Commutative Algebra, Second edition, Benjamin/Cummings, 1980, (31.A) N-1・N-2 の定義と秋月の例への言及、(31.B) Proposition 31.1 と Corollary 31.2、(34.B) 永田環でない離散付値環の例

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