双対アーベル多様体

同義語:dual abelian variety双対Abel多様体Picard多様体(アーベル多様体の)

概要

双対アーベル多様体(dual abelian variety)とは、体 $k$ 上のアーベル多様体 $A$ に対し、Picard スキームの単位成分 $A^\vee=\operatorname{Pic}^0_{A/k}$ として定まる同次元のアーベル多様体で、$A$ 上の代数的に $0$ に同値な可逆層を分類する。可逆層 $L$ は準同型 $\varphi_L\colon A\to A^\vee$、$a\mapsto[t_a^*L\otimes L^{-1}]$ を定め、$L$ が豊富なら $\varphi_L$ は同種(偏極)である。二重双対 $A^{\vee\vee}\cong A$、同種の核の Cartier 双対、Weil 対、接空間 $t_{A^\vee}=H^1(A,\mathcal{O}_A)$ が基本性質で、楕円曲線は自己双対だが主偏極をもたないものもある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: アーベル多様体, Picardスキーム, 可逆層, 群スキーム, Cartier双対

定義

以下、$k$ を体、$\bar k$ をその代数閉包(代数閉体)、$A$ を $k$ 上の $g$ 次元アーベル多様体とし、群演算を加法的に書く。$m\colon A\times A\to A$ を加法、$p_1,p_2\colon A\times A\to A$ を射影、$a\in A(\bar k)$ に対し $t_a\colon A_{\bar k}\to A_{\bar k}$、$x\mapsto x+a$ を平行移動とする。可逆層(可逆層)の同型類のなす群を $\operatorname{Pic}(A)$ と書く(Picard群)。
$A_{\bar k}$ 上の可逆層 $L$ が代数的に $0$ に同値(algebraically equivalent to zero)であるとは、連結(連結空間)で有限型(有限型射)の $\bar k$ スキーム $T$、$A_{\bar k}\times T$ 上の可逆層 $\mathcal{L}$、および点 $t_0,t_1\in T(\bar k)$ で、$\mathcal{L}|_{A_{\bar k}\times\{t_0\}}\cong\mathcal{O}_{A_{\bar k}}$ かつ $\mathcal{L}|_{A_{\bar k}\times\{t_1\}}\cong L$ となるものが存在することをいう(代数的同値)。そのような $L$ の同型類の全体を $\operatorname{Pic}^0(A_{\bar k})$ と書く。族のテンソル積(テンソル積)と逆をとることにより $\operatorname{Pic}^0(A_{\bar k})$ は $\operatorname{Pic}(A_{\bar k})$ の部分群(部分群)である。
$A$ は有理点(有理点)$0\in A(k)$ をもつので、相対 Picard 関手(相対Picard関手)の値は $\operatorname{Pic}_{A/k}(T)=\operatorname{Pic}(A\times T)/\operatorname{Pic}(T)$ で与えられ(Picardスキームの記事の「切断があるときの有理点」の命題)、それを表現する $k$ 上局所有限型の可換群スキーム(群スキーム)$\operatorname{Pic}_{A/k}$ が存在する(同記事の存在定理)。

双対アーベル多様体の定義とPoincaré束

$A$ を体 $k$ 上のアーベル多様体とする。Picard スキーム $\operatorname{Pic}_{A/k}$ の単位成分(単位成分)
$$ A^\vee:=\operatorname{Pic}^0_{A/k} $$
を $A$ の双対アーベル多様体(dual abelian variety)という。$A\times A^\vee$ 上の可逆層 $\mathcal{P}$ が Poincaré 束(Poincaré bundle)であるとは、次の 2 条件を満たすことをいう。

  1. (正規化)$\mathcal{P}|_{\{0\}\times A^\vee}\cong\mathcal{O}_{A^\vee}$。
  2. (普遍性)$k$ スキーム $T$ と $A\times T$ 上の可逆層 $\mathcal{L}$ で、任意の幾何学的点(幾何学的点)$\bar t\colon\operatorname{Spec}\bar k\to T$ について $\mathcal{L}|_{A_{\bar k}\times\{\bar t\}}\in\operatorname{Pic}^0(A_{\bar k})$ となるものに対し、$k$ 上の射 $\phi\colon T\to A^\vee$ と $T$ 上の可逆層 $N$ で
    $$ \mathcal{L}\cong(1_A\times\phi)^*\mathcal{P}\otimes p_T^*N $$
    となるものが存在し、$\phi$ は一意である。さらに $\mathcal{L}|_{\{0\}\times T}$ が自明ならば $N$ は自明にとれる。
    $\xi\in A^\vee(\bar k)$ に対し $L_\xi:=\mathcal{P}|_{A_{\bar k}\times\{\xi\}}$ と書き、$\xi$ の表す可逆層という。

普遍性の意味は次のとおりである。$\mathcal{L}$ は $T$ をパラメータとする $A$ 上の可逆層の族であり、それを分類する射 $T\to\operatorname{Pic}_{A/k}$ が表現可能性から一意に定まる。族の各幾何学的ファイバーが代数的に $0$ に同値であることは、この射の像が開かつ閉(開かつ閉集合)な部分スキーム $A^\vee$ に入ることを意味し($T$ の各点はある幾何学的点の像なので、$A^\vee$ の逆像は $T$ 全体になる)、$\mathcal{P}$ はこの射に対する普遍族である。正規化の条件は $\mathcal{P}$ を同型を除いて一意に定める。

双対アーベル多様体の存在と基本構造

$A$ を体 $k$ 上の $g$ 次元アーベル多様体とする。

  1. $A^\vee=\operatorname{Pic}^0_{A/k}$ は $k$ 上の $g$ 次元アーベル多様体であり、$A^\vee(\bar k)=\operatorname{Pic}^0(A_{\bar k})$ である。$A\times A^\vee$ 上に Poincaré 束 $\mathcal{P}$ が同型を除いてただ 1 つ存在する。
  2. $A_{\bar k}$ 上の可逆層 $L$ について次は同値である。(i) $L\in\operatorname{Pic}^0(A_{\bar k})$。(ii) $A_{\bar k}\times A_{\bar k}$ 上の可逆層
    $$ \Lambda(L):=m^*L\otimes p_1^*L^{-1}\otimes p_2^*L^{-1} $$
    が自明である。(iii) すべての $a\in A(\bar k)$ について $t_a^*L\cong L$。
  3. $\operatorname{Pic}_{A/k}$ の各連結成分は $A^\vee$ の作用についてトーサーであり、$\operatorname{Pic}_{A/k}$ は $k$ 上滑らか(滑らかな射)である。連結成分のなす群 $\operatorname{Pic}_{A/k}/A^\vee$ は Néron–Severi 群(Néron–Severi群)$\operatorname{NS}(A_{\bar k})=\operatorname{Pic}(A_{\bar k})/\operatorname{Pic}^0(A_{\bar k})$ の $k$ 上の形であり、$\operatorname{NS}(A_{\bar k})$ は有限生成の自由アーベル群(自由アーベル群)である。
存在定理の出典と構成の筋

証明は Mum70 §8(2 の同値。標数 $0$ では §8、一般には §10 の立方定理を使う)と §13(1 と 3。任意標数での $A^\vee$ の構成)、Mil08 第 I 章 §8–§10、FGAex 第 9 章に譲る。Mumford の構成は、豊富な可逆層(豊富な可逆層)$L$ をとり、$\Lambda(L)$ を第 2 因子 $A$ をパラメータとする族とみて、有限群スキーム(有限群スキーム)$K(L)$(def-dual-abelian-variety-phi)による商 $A/K(L)$ の上に $\Lambda(L)$ を降下させて(忠実平坦降下)Poincaré 束を作り、$A/K(L)$ が $\operatorname{Pic}^0$ を表現することを示す、というものである。したがって $A^\vee\cong A/K(L)$ であり、これが $\dim A^\vee=g$ の理由である。$k=\mathbb{C}$ での具体的な記述は ex-dual-abelian-variety-complex-torus にある。

可逆層の定める準同型と偏極

$A$ 上の可逆層 $L$ に対し、$A\times A$ 上の可逆層 $\Lambda(L)=m^*L\otimes p_1^*L^{-1}\otimes p_2^*L^{-1}$ を第 2 因子をパラメータとする族とみる。prop-dual-abelian-variety-phi で示すように、$\Lambda(L)$ は Poincaré 束の普遍性の条件を満たし、$k$ 上の準同型(群準同型)
$$ \varphi_L\colon A\longrightarrow A^\vee,\qquad \varphi_L(a)=[t_a^*L\otimes L^{-1}]\quad(a\in A(\bar k)) $$
を定める。その核(核)を $K(L):=\ker\varphi_L$ と書く。これは $A$ の閉部分群スキームで、$K(L)(\bar k)=\{a\in A(\bar k)\mid t_a^*L\cong L\}$ である。$L$ が豊富(豊富な可逆層)であるとき、$\varphi_L$ を $L$ の定める偏極(polarization、偏極)といい、偏極が同型であるとき主偏極(principal polarization)という。主偏極をもつアーベル多様体を主偏極アーベル多様体という。

双対準同型

$f\colon A\to B$ をアーベル多様体の準同型、$\mathcal{P}_B$ を $B\times B^\vee$ 上の Poincaré 束とする。$A\times B^\vee$ 上の可逆層 $(f\times1_{B^\vee})^*\mathcal{P}_B$ は、幾何学的ファイバーが $f^*L_\eta$($\eta\in B^\vee(\bar k)$)であり、$\{0\}\times B^\vee$ への制限が $f(0)=0$ により自明なので、Poincaré 束の普遍性から一意な射
$$ f^\vee\colon B^\vee\longrightarrow A^\vee,\qquad (f\times1)^*\mathcal{P}_B\cong(1_A\times f^\vee)^*\mathcal{P}_A $$
が定まる。これを $f$ の双対準同型(dual homomorphism)という。$\bar k$ 有理点の上では $f^\vee(\eta)=[f^*L_\eta]$ である。$f^\vee(0)=0$ なので、アーベル多様体の記事の「アーベル多様体の間の射」の系(剛性補題の帰結)により $f^\vee$ は準同型である(同系は代数閉体上の主張なので $\bar k$ に底変換して適用し、得られる $\bar k$ 有理点での等式 $f^\vee(\xi+\eta)=f^\vee(\xi)+f^\vee(\eta)$ から lem-dual-abelian-variety-points により $k$ 上の射の等式に戻す)。

ここで、$f^*L_\eta$ が代数的に $0$ に同値であることは、$L_\eta$ を $\mathcal{O}$ と結ぶ族を $f\times1_T$ で引き戻せばよい。$f\mapsto f^\vee$ は $(g\circ f)^\vee=f^\vee\circ g^\vee$、$(f+g)^\vee=f^\vee+g^\vee$ を満たす(前者は普遍性の一意性から、後者は $\bar k$ 有理点の上で $(f+g)^*L=f^*L\otimes g^*L$ が $L\in\operatorname{Pic}^0$ に対して成り立つこと($\Lambda(L)$ の自明性を $(f,g)\colon A\to B\times B$ で引き戻す)から従う)。

直感

$A$ 上の可逆層のうち「連続的に自明層まで変形できるもの」の全体が $\operatorname{Pic}^0(A)$ であり、これは離散的な不変量 $\operatorname{NS}(A)$ を捨てた「連続部分」である。この連続部分が再びアーベル多様体の構造をもつ、というのが双対アーベル多様体の主張である。$k=\mathbb{C}$ で $A=V/\Lambda$ なら、$\operatorname{Pic}^0(A)$ は $\Lambda$ の指標(指標)$\Lambda\to U(1)$ の群 $\operatorname{Hom}(\Lambda,U(1))\cong(S^1)^{2g}$ にほかならず、これは複素構造込みで再び $g$ 次元の複素トーラスになる。
双対アーベル多様体は、可逆層 $L$ を「$A$ から $A^\vee$ への準同型 $\varphi_L$」に翻訳する装置でもある。平方定理により $a\mapsto t_a^*L\otimes L^{-1}$ は加法的であり、その核 $K(L)$ の大きさが $L$ の「非退化さ」をはかる。$L$ が豊富なら $K(L)$ は有限で、$\varphi_L$ は同種(同種写像)になる。この意味で偏極とは、ベクトル空間の非退化双線型形式(双線型形式)$V\to V^*$ の類似物であり、主偏極は $A$ と $A^\vee$ の同一視を与える。楕円曲線と Jacobi 多様体はこの同一視を標準的にもつが、一般のアーベル多様体はもたない。

例と反例

楕円曲線の自己双対性

$(E,O)$ を体 $k$ 上の楕円曲線、$L:=\mathcal{O}_E(O)$ を原点の因子(因子)の定める可逆層とする。このとき $\varphi_L\colon E\to E^\vee$ は同型であり、$\bar k$ 有理点の上で
$$ \varphi_L(P)=[\mathcal{O}_E((-P)-(O))] $$
である。特に楕円曲線は主偏極をもち、自己双対 $E\cong E^\vee$ である。

点での計算と次数の計算

$P\in E(\bar k)$ とする。同型 $t_P$ による因子の引き戻しは $t_P^*\mathcal{O}_E(D)=\mathcal{O}_E(t_P^{-1}(D))$ を満たし、$t_P^{-1}(O)=\{Q\in E(\bar k)\mid Q+P=O\}=\{-P\}$ なので $t_P^*\mathcal{O}_E(O)=\mathcal{O}_E((-P))$ である。したがって
$$ \varphi_L(P)=[t_P^*L\otimes L^{-1}]=[\mathcal{O}_E((-P)-(O))]. $$
楕円曲線の記事の「群構造と因子類群」の定理により、$\kappa\colon E(\bar k)\to\operatorname{Pic}^0(E_{\bar k})$、$P\mapsto[(P)-(O)]$ は次数 $0$ の因子類のなす群への群の同型であり、$\varphi_L(P)=\kappa(-P)=-\kappa(P)$ である。ここで、曲線上では次数 $0$ の因子類と代数的に $0$ に同値な可逆層の類は一致する。実際、$E_{\bar k}\times E_{\bar k}$ 上の可逆層 $\mathcal{O}(\Delta)\otimes p_1^*\mathcal{O}_E(-O)$($\Delta$ は対角線)を第 2 因子をパラメータとする族とみると、$P$ でのファイバーは $\mathcal{O}_E((P)-(O))$、$O$ でのファイバーは自明なので、$\kappa$ の像は代数的に $0$ に同値である。逆に代数的に $0$ に同値な可逆層は、連結な底上の族の中で次数(Euler 標数)が一定であることから次数 $0$ である。よって $\varphi_L$ は $\bar k$ 有理点の上で $E(\bar k)$ から $E^\vee(\bar k)=\operatorname{Pic}^0(E_{\bar k})$ への全単射(全単射)であり、特に $K(L)(\bar k)=\{O\}$ で $K(L)$ は有限、$\varphi_L$ は同種(thm-dual-abelian-variety-phi-properties の 1)である。
次数を計算する。thm-dual-abelian-variety-phi-properties の 2 により $\deg\varphi_L=\chi(L)^2$ である。種数(種数)$1$ の曲線に対する Riemann–Roch の定理(Riemann–Rochの定理、Har77 IV.1.3)により、Euler 標数(Euler標数)は $\chi(\mathcal{O}_E(O))=\deg(O)+1-1=1$ である。よって $\deg\varphi_L=1$。同種は有限平坦な全射(アーベル多様体の記事の「同種の特徴づけ」)なので、$\varphi_L$ は次数 $1$ の有限(有限射)平坦(平坦射)射、すなわち $\mathcal{O}_E$ が $\varphi_L^{-1}\mathcal{O}_{E^\vee}$ 上局所的に階数 $1$ の自由加群(自由加群)になる射である。局所的に $B\to C$ を $C$ が $B$ 上階数 $1$ の自由加群である環準同型(環準同型)とすると、$1\in C$ を含む基底(基底)がとれるから、$B\to C$ は同型である。ゆえに $\varphi_L$ は同型である。$\bar k$ 有理点の上で全単射であることは、標数 $p>0$ で純非分離な同種(Frobenius 射、Frobenius射)が同型でないことからわかるように、それだけでは同型を導かないことに注意する。次数の計算がその隙間を埋めている。

Jacobi多様体の自己双対性

$C$ を体 $k$ 上の射影的で滑らかな幾何的連結な代数曲線(代数曲線)で種数 $g\ge1$、$C(k)\ne\emptyset$ とし、$J:=\operatorname{Pic}^0_{C/k}$ をその Jacobi 多様体(Jacobi多様体)とする。有理点 $P_0\in C(k)$ をとると、Abel–Jacobi 写像 $C\to J$、$P\mapsto[\mathcal{O}_C(P-P_0)]$ の $g-1$ 回の和の像として、テータ因子(テータ因子)$\Theta\subset J$ が定まる。$\Theta$ は豊富で、$\varphi_{\mathcal{O}_J(\Theta)}\colon J\to J^\vee$ は同型である。すなわち Jacobi 多様体は標準的な主偏極をもち自己双対である。さらに、Abel–Jacobi 写像 $C\to J$ が引き起こす $J^\vee\to\operatorname{Pic}^0_{C/k}=J$ は符号を除いて $\varphi_{\mathcal{O}_J(\Theta)}^{-1}$ に一致する。証明は Mil08 第 III 章 §6、BLR90 第 9 章に譲る。$g=1$ では $\Theta=\{O\}$ で prop-dual-abelian-variety-elliptic に戻る。

積の双対

$A,B$ を $k$ 上のアーベル多様体、$\mathcal{P}_A$、$\mathcal{P}_B$ をそれぞれの Poincaré 束とする。$A\times B\times A^\vee\times B^\vee$ 上の可逆層
$$ \mathcal{Q}:=p_{13}^*\mathcal{P}_A\otimes p_{24}^*\mathcal{P}_B $$
は、Poincaré 束の普遍性により同型
$$ \Phi\colon A^\vee\times B^\vee\xrightarrow{\ \sim\ }(A\times B)^\vee $$
を定め、$(1_{A\times B}\times\Phi)^*\mathcal{P}_{A\times B}\cong\mathcal{Q}$ である。逆写像は、包含 $i_A\colon A\to A\times B$、$a\mapsto(a,0)$ と $i_B\colon B\to A\times B$ の双対の組 $(i_A^\vee,i_B^\vee)\colon(A\times B)^\vee\to A^\vee\times B^\vee$ である。

切断であることと次元の比較

$\mathcal{Q}$ を第 3・4 因子 $A^\vee\times B^\vee$ をパラメータとする $A\times B$ 上の可逆層の族とみる。幾何学的点 $(\xi,\eta)$ でのファイバーは $p_1^*L_\xi\otimes p_2^*M_\eta$($L_\xi=\mathcal{P}_A|_{A\times\{\xi\}}$、$M_\eta=\mathcal{P}_B|_{B\times\{\eta\}}$)である。$L_\xi$ を $\mathcal{O}_A$ と結ぶ連結族を $p_1$ で、$M_\eta$ を $\mathcal{O}_B$ と結ぶ連結族を $p_2$ で引き戻してテンソル積をとれば、$p_1^*L_\xi\otimes p_2^*M_\eta$ は $A\times B$ 上で代数的に $0$ に同値である。また $\{(0,0)\}\times A^\vee\times B^\vee$ への制限は $\mathcal{P}_A|_{\{0\}\times A^\vee}$ と $\mathcal{P}_B|_{\{0\}\times B^\vee}$ の引き戻しのテンソル積であり、正規化により自明である。したがって普遍性から射 $\Phi\colon A^\vee\times B^\vee\to(A\times B)^\vee$ で $(1\times\Phi)^*\mathcal{P}_{A\times B}\cong\mathcal{Q}$ となるものがただ 1 つ定まる。
次に $\psi:=(i_A^\vee,i_B^\vee)\colon(A\times B)^\vee\to A^\vee\times B^\vee$ とおき、$\psi\circ\Phi=1$ を示す。$i_A^\vee\circ\Phi\colon A^\vee\times B^\vee\to A^\vee$ を分類する $A\times A^\vee\times B^\vee$ 上の可逆層は、def-dual-abelian-variety-dual-hom により
$$ (1_A\times\Phi)^*(i_A\times1)^*\mathcal{P}_{A\times B}=(i_A\times1_{A^\vee\times B^\vee})^*(1_{A\times B}\times\Phi)^*\mathcal{P}_{A\times B}\cong(i_A\times1)^*\mathcal{Q} $$
である。$(i_A\times1)^*p_{13}^*\mathcal{P}_A$ は射影 $A\times A^\vee\times B^\vee\to A\times A^\vee$ による $\mathcal{P}_A$ の引き戻し、$(i_A\times1)^*p_{24}^*\mathcal{P}_B$ は $\mathcal{P}_B|_{\{0\}\times B^\vee}$ の引き戻しで自明である。よって $(i_A\times1)^*\mathcal{Q}\cong(1_A\times\mathrm{pr}_1)^*\mathcal{P}_A$ であり、普遍性の一意性から $i_A^\vee\circ\Phi=\mathrm{pr}_1$ を得る。同様に $i_B^\vee\circ\Phi=\mathrm{pr}_2$ であり、$\psi\circ\Phi=1_{A^\vee\times B^\vee}$ である。
$\Phi$ が同型であることを示す。$\psi$ は分離的(分離射)な $k$ スキームの間の射なので分離射であり、その切断 $\Phi$ は閉埋め込み(閉埋め込み)である(Har77 II 演習 4.8:切断は対角射 $\Delta_\psi$ の底変換である)。$(A\times B)^\vee$ は thm-dual-abelian-variety-existence の 1 により既約(既約)かつ被約(被約スキーム)で次元 $\dim A+\dim B$ をもち、閉部分スキーム $\Phi(A^\vee\times B^\vee)$ も同じ次元 $\dim A^\vee+\dim B^\vee=\dim A+\dim B$ をもつから、両者は集合として一致する。被約スキームの上で台が全体であるような閉埋め込みは同型である(定義イデアル層(イデアル層)は各茎で冪零元(冪零元)からなり、被約なので $0$)。ゆえに $\Phi$ は同型である。$\Phi(0,0)=0$ なので $\Phi$ は準同型でもあり(def-dual-abelian-variety-dual-hom の末尾と同じ剛性の議論)、アーベル多様体の同型である。

複素トーラスとしての記述

$k=\mathbb{C}$ とし、$A(\mathbb{C})=V/\Lambda$($V$ は $g$ 次元複素ベクトル空間、$\Lambda\subset V$ は階数 $2g$ の格子(格子))とする(複素トーラス)。$\bar V^*$ を $V$ 上の反線型汎関数の空間、$\hat\Lambda:=\{\ell\in\bar V^*\mid\operatorname{Im}\ell(\Lambda)\subset\mathbb{Z}\}$ とすると、$\hat\Lambda$ は $\bar V^*$ の格子であり、
$$ A^\vee(\mathbb{C})\cong\bar V^*/\hat\Lambda $$
である。対応は、$\ell\in\bar V^*$ に指標 $\chi_\ell\colon\Lambda\to U(1)$、$\lambda\mapsto\exp(2\pi\sqrt{-1}\operatorname{Im}\ell(\lambda))$ を対応させ、$\chi_\ell$ に $V\times\mathbb{C}$ を $\lambda\cdot(v,z)=(v+\lambda,\chi_\ell(\lambda)z)$ で割った平坦な直線束(直線束)を対応させるものである。$\operatorname{Pic}^0(A)$ が $\operatorname{Hom}(\Lambda,U(1))$ と同一視されることは Appell–Humbert の定理(Appell–Humbertの定理、BL04 第 2 章、Mum70 §2)による。$L$ の第 1 Chern 類(第1Chern類)を $\Lambda$ 上の整数値交代形式(交代形式)$E$ で表し、$H$ を $\operatorname{Im}H=E$ となる $V$ 上の Hermite 形式(Hermite形式)とすると、$\varphi_L$ は $v\mapsto H(v,\cdot)\in\bar V^*$ で与えられる。$E$ が非退化なら $\varphi_L$ は同種で、その核は $\Lambda^\perp/\Lambda$($\Lambda^\perp:=\{v\in V\mid E(v,\lambda)\in\mathbb{Z}\ (\lambda\in\Lambda)\}$)、$\deg\varphi_L=\det E=\chi(L)^2$ である($\det E$ は $\Lambda$ の基底に関する行列式)。$E$ の基本行列の型が $(d_1,\dots,d_g)$ のとき $\chi(L)=d_1\cdots d_g$ である(BL04 第 3 章)。

反例:主偏極をもたないアーベル多様体

すべてのアーベル多様体が自己双対なわけではない。$g\ge2$ とし、$k=\mathbb{C}$ 上のアーベル多様体 $A$ で、$\operatorname{NS}(A)=\mathbb{Z}\cdot[L]$ が型 $(1,\dots,1,d)$、$d\ge2$ の豊富な可逆層 $L$ で生成されるものをとる(型 $(1,\dots,1,d)$ の偏極アーベル多様体のモジュライ(モジュライ空間)の一般の点で $\operatorname{NS}(A)$ の階数が $1$ になることは Hodge 理論(Hodge理論)による標準的な事実で、BL04 に譲る。言明)。$A$ 上の任意の豊富な可逆層は $\operatorname{Pic}^0(A)$ の元を除いて $L^{\otimes n}$($n\ge1$)に同型で、prop-dual-abelian-variety-phi-functorial により $\varphi_{L^{\otimes n}\otimes M}=n\varphi_L$($M\in\operatorname{Pic}^0(A)$)である。したがって $A$ の偏極の次数は $\deg(n\varphi_L)=n^{2g}\chi(L)^2=n^{2g}d^2\ge4$ であり、主偏極は存在しない。この $A$ は「主偏極アーベル多様体である」という性質を満たさず、したがって「偏極 $\varphi_L$ による標準的な同型 $A\cong A^\vee$」は存在しない。一方で、任意のアーベル多様体は主偏極アーベル多様体に同種である(Mum70 §23 系 1。$K(L)$ の極大な等方部分群スキームで割る)。さらに、$A$ と $A^\vee$ が抽象的にも同型でない例が知られている:型 $(1,p)$($p$ は素数)の偏極アーベル曲面のモジュライ上で $(A,L)\mapsto(A^\vee,L^\vee)$($L^\vee$ は双対偏極)は自明でない対合を定め、その一般の点では $A\not\cong A^\vee$ である(GH98。言明)。

性質

準同型 $\varphi_L$

まず、$\bar k$ 有理点での等式から射の等式を導く補題を用意する。以下で繰り返し使う。

幾何学的点での一致

$X$ を $k$ 上有限型で幾何的被約なスキーム、$Y$ を $k$ 上分離的なスキーム、$u,v\colon X\to Y$ を $k$ 上の射とする。任意の $x\in X(\bar k)$ について $u(x)=v(x)$($\operatorname{Spec}\bar k\to Y$ として等しい)ならば $u=v$ である。

等化子の稠密性

$\bar k$ に底変換した射 $u',v'\colon X_{\bar k}\to Y_{\bar k}$ を考える。$Y_{\bar k}$ は $\bar k$ 上分離的なので、対角射 $\Delta\colon Y_{\bar k}\to Y_{\bar k}\times Y_{\bar k}$ は閉埋め込みであり、その $(u',v')\colon X_{\bar k}\to Y_{\bar k}\times Y_{\bar k}$ による逆像 $Z\subset X_{\bar k}$ は閉部分スキームである。仮定により $Z$ は $X_{\bar k}$ のすべての閉点(閉点。$\bar k$ 有理点)を含む。$X_{\bar k}$ は $\bar k$ 上有限型なので、閉点はその任意の閉部分集合で稠密(稠密集合)であり(Hilbert の零点定理(Hilbertの零点定理)の帰結)、$X_{\bar k}\setminus Z$ が空でない開集合(開集合)なら閉点を含んで矛盾する。よって $Z$ は集合として $X_{\bar k}$ 全体であり、$X_{\bar k}$ は被約なので $Z=X_{\bar k}$、すなわち $u'=v'$ である。最後に $\pi\colon X_{\bar k}\to X$ は忠実平坦(忠実平坦射)であり、$u\circ\pi=v\circ\pi$ から $u=v$ が従う(忠実平坦射はスキームの圏のエピ射である。忠実平坦降下)。

可逆層の定める射は準同型である

$L$ を $A$ 上の可逆層とする。

  1. $A\times A$ 上の可逆層 $\Lambda(L)=m^*L\otimes p_1^*L^{-1}\otimes p_2^*L^{-1}$ を第 2 因子をパラメータとする族とみると、その $a\in A(\bar k)$ でのファイバーは $t_a^*L\otimes L^{-1}$ であり、これは代数的に $0$ に同値である。また $\{0\}\times A$ への制限は自明である。したがって $k$ 上の射 $\varphi_L\colon A\to A^\vee$ で $(1_A\times\varphi_L)^*\mathcal{P}\cong\Lambda(L)$ となるものがただ 1 つ存在し、$\varphi_L(a)=[t_a^*L\otimes L^{-1}]$ である。
  2. $\varphi_L$ は準同型である。
平方定理による加法性
  1. $A\times\{a\}$ 上では $m$ は $t_a$、$p_1$ は恒等射、$p_2$ は定数射 $a$ になるから、$\Lambda(L)|_{A\times\{a\}}\cong t_a^*L\otimes L^{-1}\otimes\mathcal{O}_A=t_a^*L\otimes L^{-1}$ である。$\{0\}\times A$ 上では $m$ と $p_2$ は恒等射、$p_1$ は定数射 $0$ になるから、$\Lambda(L)|_{\{0\}\times A}\cong L\otimes\mathcal{O}_A\otimes L^{-1}=\mathcal{O}_A$ である。$A_{\bar k}$ は連結で、族 $\Lambda(L)_{\bar k}$ の $a=0$ でのファイバーは $t_0^*L\otimes L^{-1}=\mathcal{O}_{A_{\bar k}}$ なので、代数的同値の定義($T=A_{\bar k}$、$t_0=0$、$t_1=a$)により各ファイバー $t_a^*L\otimes L^{-1}$ は代数的に $0$ に同値である。$\Lambda(L)$ は $k$ 上定義されているから、Poincaré 束の普遍性(正規化つき)により $k$ 上の射 $\varphi_L\colon A\to A^\vee$ が一意に定まり、$\bar k$ 有理点 $a$ での値は $\Lambda(L)|_{A\times\{a\}}$ の類 $[t_a^*L\otimes L^{-1}]$ である。
  2. $a,b\in A(\bar k)$ とする。平方定理(アーベル多様体の記事の「立方定理と平方定理」の定理の 3)により $t_{a+b}^*L\otimes L\cong t_a^*L\otimes t_b^*L$ であり、両辺に $L^{-2}$ をテンソルして
    $$ t_{a+b}^*L\otimes L^{-1}\cong(t_a^*L\otimes L^{-1})\otimes(t_b^*L\otimes L^{-1}) $$
    を得る。$A^\vee(\bar k)=\operatorname{Pic}^0(A_{\bar k})$ の群構造はテンソル積なので、これは $\varphi_L(a+b)=\varphi_L(a)+\varphi_L(b)$ を意味する。すなわち 2 つの射 $\varphi_L\circ m$ と $m_{A^\vee}\circ(\varphi_L\times\varphi_L)\colon A\times A\to A^\vee$ は $\bar k$ 有理点の上で一致する。$A\times A$ は $k$ 上有限型で幾何的被約(アーベル多様体は幾何的整)、$A^\vee$ は分離的なので、lem-dual-abelian-variety-points により両者は等しい。単位元・逆元との両立は加法との両立から従う。

平方定理を使わずに、$\varphi_L(0)=[\mathcal{O}_A]=0$ とアーベル多様体の剛性(アーベル多様体の記事の「アーベル多様体の間の射」の系)から準同型性を導くこともできる。逆に、$\varphi_L$ が準同型であることは平方定理の言い換えである。

準同型 $\varphi_L$ の関手性

$L,M$ を $A$ 上の可逆層、$b\in A(k)$、$n\in\mathbb{Z}$、$f\colon B\to A$ をアーベル多様体の準同型とする。

  1. $\varphi_{L\otimes M}=\varphi_L+\varphi_M$、$\varphi_{L^{-1}}=-\varphi_L$、$\varphi_{L^{\otimes n}}=n\varphi_L$。
  2. $\varphi_{t_b^*L}=\varphi_L$。
  3. $M$ が代数的に $0$ に同値ならば $\varphi_M=0$。特に $\varphi_L$ は $L$ の Néron–Severi 群 $\operatorname{NS}(A)$ での類にだけ依存する。
  4. $\varphi_{f^*L}=f^\vee\circ\varphi_L\circ f$。
点での計算

いずれも $\bar k$ 有理点 $a$ での等式を示せば、lem-dual-abelian-variety-points により射の等式が従う。

  1. $t_a^*(L\otimes M)\otimes(L\otimes M)^{-1}\cong(t_a^*L\otimes L^{-1})\otimes(t_a^*M\otimes M^{-1})$ であり、$\operatorname{Pic}^0(A_{\bar k})$ の群構造はテンソル積なので $\varphi_{L\otimes M}(a)=\varphi_L(a)+\varphi_M(a)$ である。残りは繰り返しである。
  2. $t_a\circ t_b=t_b\circ t_a$ なので $t_a^*t_b^*L\otimes(t_b^*L)^{-1}\cong t_b^*(t_a^*L\otimes L^{-1})$ である。$t_a^*L\otimes L^{-1}$ は代数的に $0$ に同値だから、thm-dual-abelian-variety-existence の 2 の (iii) により平行移動で不変であり、$\varphi_{t_b^*L}(a)=\varphi_L(a)$ を得る。
  3. 同じく (iii) により $t_a^*M\cong M$、したがって $\varphi_M(a)=0$ である。$L$ と $L'$ が $\operatorname{NS}(A)$ で同じ類をもてば $L'\cong L\otimes M$($M\in\operatorname{Pic}^0$)なので、1 と合わせて $\varphi_{L'}=\varphi_L$ である。
  4. $f$ は準同型なので $f\circ t_a=t_{f(a)}\circ f$ である。よって
    $$ t_a^*f^*L\otimes(f^*L)^{-1}\cong f^*(t_{f(a)}^*L\otimes L^{-1}) $$
    であり、def-dual-abelian-variety-dual-hom により右辺の類は $f^\vee(\varphi_L(f(a)))$ である。
代数的に0に同値な可逆層とn倍写像

$L\in\operatorname{Pic}^0(A_{\bar k})$、$n\in\mathbb{Z}$ とする。

  1. $(-1_A)^*L\cong L^{-1}$。
  2. $n_A^*L\cong L^{\otimes n}$。
  3. $n$ 倍写像の双対は $n$ 倍写像である:$(n_A)^\vee=n_{A^\vee}$。特に $A^\vee[n]=\ker(n_A)^\vee$ である。
反対角線への制限
  1. thm-dual-abelian-variety-existence の 2 により $\Lambda(L)$ は自明である。$\Lambda(L)$ を反対角射 $\delta\colon A\to A\times A$、$x\mapsto(x,-x)$ で引き戻す。$m\circ\delta$ は定数射 $0$、$p_1\circ\delta=1_A$、$p_2\circ\delta=-1_A$ なので、
    $$ \mathcal{O}_A\cong\delta^*\Lambda(L)\cong\mathcal{O}_A\otimes L^{-1}\otimes(-1_A)^*L^{-1} $$
    であり、$(-1_A)^*L\cong L^{-1}$ を得る。
  2. アーベル多様体の記事の「立方定理と平方定理」の定理の 4 により、任意の可逆層 $L$ について $n_A^*L\cong L^{\otimes(n^2+n)/2}\otimes(-1_A)^*L^{\otimes(n^2-n)/2}$ である。$L\in\operatorname{Pic}^0$ なら 1 により右辺は $L^{\otimes(n^2+n)/2-(n^2-n)/2}=L^{\otimes n}$ である。
  3. $\xi\in A^\vee(\bar k)$ に対し、def-dual-abelian-variety-dual-hom と 2 により $(n_A)^\vee(\xi)=[n_A^*L_\xi]=[L_\xi^{\otimes n}]=n\xi$ である。lem-dual-abelian-variety-points により $(n_A)^\vee=n_{A^\vee}$ であり、核をとって $A^\vee[n]=\ker(n_A)^\vee$ を得る。

偏極と同種の双対

偏極の基本性質

$A$ を体 $k$ 上の $g$ 次元アーベル多様体、$L$ を $A$ 上の可逆層とする。

  1. $\varphi_L$ が同種(同種写像)であることと $K(L)$ が有限群スキーム(有限群スキーム)であることは同値である。$L$ が豊富ならば $K(L)$ は有限であり、したがって偏極 $\varphi_L$ は同種である。
  2. (Riemann–Roch)$K(L)$ が有限ならば $\deg\varphi_L=\chi(L)^2$ である。ここで $\chi(L)=\sum_i(-1)^i\dim_kH^i(A,L)$ は $L$ の Euler 標数であり、$L$ が豊富なら $H^i(A,L)=0$($i>0$)なので $\chi(L)=\dim_kH^0(A,L)$ である。さらに $\chi(L)=(L^g)/g!$($(L^g)$ は自己交点数(交点数))である。
  3. $\varphi_L=0$ であることと $L_{\bar k}\in\operatorname{Pic}^0(A_{\bar k})$ であることは同値である。したがって $[L]\mapsto\varphi_L$ は単射 $\operatorname{NS}(A_{\bar k})\to\operatorname{Hom}(A_{\bar k},A^\vee_{\bar k})$ を定め、その像は 4 の同一視のもとで $\psi^\vee=\psi$ を満たす対称な準同型の全体である。
  4. (二重双対)Poincaré 束 $\mathcal{P}$ を $A^\vee\times A$ 上の族(第 2 因子 $A$ をパラメータとする)とみて得られる準同型 $\kappa_A\colon A\to A^{\vee\vee}$ は同型である。$\kappa_A$ のもとで $(f^\vee)^\vee=f$、$\varphi_L^\vee=\varphi_L$ である。
  5. 主偏極 $\lambda\colon A\xrightarrow{\sim}A^\vee$ が存在すれば、$A$ は $\lambda$ を通して自己双対である。任意のアーベル多様体は主偏極アーベル多様体に同種である。
偏極の基本性質の出典

1 と 3 と 4 は Mum70 §8(標数 $0$)・§13(一般)、Mil08 第 I 章 §8–§10。2 は Mum70 §16(Riemann–Roch の定理)、$\chi(L)=(L^g)/g!$ も同節。5 の後半は Mum70 §23 系 1。3 の「像が対称な準同型全体」は Mum70 §20 と Mil08 第 I 章 §13。$\varphi_L$ が同種であるための「$K(L)$ 有限」は $\dim A=\dim A^\vee$ とアーベル多様体の記事の「同種の特徴づけ」の (iii) から従う。$L$ が豊富なら $K(L)$ が有限であることの筋は、$K(L)$ の単位成分の被約化 $Y$ 上で $L|_Y$ が平行移動で不変な豊富層になり、$L|_Y\otimes(-1)^*L|_Y$ が自明かつ豊富になるので $\dim Y=0$、というものである。

同種の双対とCartier双対

$f\colon A\to B$ をアーベル多様体の同種とする。

  1. $f^\vee\colon B^\vee\to A^\vee$ も同種であり、$\deg f^\vee=\deg f$ である。
  2. $\ker f^\vee$ は有限群スキーム $\ker f$ の Cartier 双対(Cartier双対)$(\ker f)^D$ に標準的に同型である。すなわち完全列(完全列)$0\to\ker f\to A\xrightarrow{f}B\to0$ の双対 $0\to(\ker f)^D\to B^\vee\xrightarrow{f^\vee}A^\vee\to0$ は完全である。
  3. 特に $f=n_A$ として、prop-dual-abelian-variety-pic0 の 3 と合わせて
    $$ A^\vee[n]\cong A[n]^D $$
    である。$n$ が $k$ で可逆なら $A[n](\bar k)\cong(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})^{2g}$ で、$A^\vee[n](\bar k)\cong\operatorname{Hom}(A[n](\bar k),\mu_n(\bar k))$ である。
  4. $L$ が豊富なとき、$K(L)=\ker\varphi_L$ の位数(位数。$k$ 上の座標環の次元)は $\chi(L)^2$ であり、$K(L)$ には非退化な交代的双線型形式(Mumford の交換子対)$K(L)\times K(L)\to\mathbb{G}_m$ が入る。
同種の双対の出典

1 と 2 は Mum70 §15 定理 1(証明は $f$ を $\ker f$ トーサーとみて $\operatorname{Pic}$ を降下理論で記述する)、Mil08 第 I 章 §11。Cartier双対の記事の「同種の核の双対」の定理に同じ主張があり、そこでは相対 Frobenius と Verschiebung の双対 $(F_A)^\vee=V_{A^\vee}$ も述べられている。4 は Mum70 §23(テータ群 $\mathcal{G}(L)$ と交換子対)。3 の後半は $n$ が可逆なときエタール(エタール射)な群スキーム $A[n]$ の Cartier 双対が $\operatorname{Hom}(A[n](\bar k),\mu_n)$ で表されること(Cartier双対の記事の「エタール群の双対は乗法型である」の命題)による。

Weil対

Weil対の定義

$n\ge1$ とし、$a\in A[n](\bar k)$、$\xi\in A^\vee[n](\bar k)$、$L:=L_\xi$ とする。$n\xi=0$ は $L^{\otimes n}\cong\mathcal{O}_{A_{\bar k}}$ を意味し、prop-dual-abelian-variety-pic0 の 2 により $n_A^*L\cong L^{\otimes n}\cong\mathcal{O}_{A_{\bar k}}$ である。同型 $\tau\colon\mathcal{O}_{A_{\bar k}}\xrightarrow{\sim}n_A^*L$ を 1 つ選ぶ。$na=0$ から $n_A\circ t_a=t_{na}\circ n_A=n_A$ なので $t_a^*n_A^*L=n_A^*L$ であり、$t_a^*\tau\colon\mathcal{O}_{A_{\bar k}}\to n_A^*L$ も同型である。合成 $\tau^{-1}\circ t_a^*\tau$ は $\mathcal{O}_{A_{\bar k}}$ の自己同型、すなわち $\Gamma(A_{\bar k},\mathcal{O}^\times)=\bar k^\times$ の元であり、$\tau$ の取り方によらない($\tau$ を定数倍しても両辺の定数が打ち消す)。これを
$$ e_n(a,\xi):=\tau^{-1}\circ t_a^*\tau\in\bar k^\times $$
と書き、Weil 対(Weil pairing、Weil対)という。

Weil対の性質
  1. $e_n(a,\xi)$ は $1$ の $n$ 乗根(1の冪根)であり、$e_n\colon A[n](\bar k)\times A^\vee[n](\bar k)\to\mu_n(\bar k)$ は双線型(双線型写像)で、絶対 Galois 群(絶対Galois群)$\operatorname{Gal}(\bar k/k)$ の作用と両立する。
  2. $e_n$ は thm-dual-abelian-variety-dual-isogeny の同型 $A^\vee[n]\cong A[n]^D$ に対応する Cartier 対 $A[n]\times A[n]^D\to\mu_n$ に一致し、群スキームの対として非退化である。特に $n$ が $k$ で可逆なら $e_n$ は $\bar k$ 有理点の上で完全対である。
  3. (関手性)準同型 $f\colon A\to B$、$a\in A[n](\bar k)$、$\eta\in B^\vee[n](\bar k)$ について $e_n(f(a),\eta)=e_n(a,f^\vee(\eta))$。
  4. (両立性)$a\in A[mn](\bar k)$、$\xi\in A^\vee[n](\bar k)$ について $e_{mn}(a,\xi)=e_n(ma,\xi)$。したがって $\ell$ を $k$ の標数と異なる素数とすると、Tate 加群(Tate加群)の完全対 $e_\ell\colon T_\ell A\times T_\ell A^\vee\to\mathbb{Z}_\ell(1)$(Tate捻り)が得られ、$T_\ell A^\vee\cong\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}_\ell}(T_\ell A,\mathbb{Z}_\ell(1))$ である。
  5. 可逆層 $L$ に対し $e^L_n(a,b):=e_n(a,\varphi_L(b))$($a,b\in A[n](\bar k)$)は交代的である:$e^L_n(a,a)=1$。$\ell$ 進の極限 $e^L_\ell\colon T_\ell A\times T_\ell A\to\mathbb{Z}_\ell(1)$ は $L$ の Riemann 形式であり、$L$ が豊富なら非退化である。
Weil対の出典と楕円曲線の場合

1・3・4・5 は Mum70 §20、Mil08 第 I 章 §16。2 は Oda69 §1 および Mum70 §20 の $e_n$ の定義がそのまま Cartier 対であることによる(Cartier双対の記事の「同種の核の双対」の定理の 2)。楕円曲線では prop-dual-abelian-variety-elliptic の主偏極 $\varphi_{\mathcal{O}(O)}$ により $e^L_n\colon E[n]\times E[n]\to\mu_n$ が得られ、これが Sil09 III.8 の Weil 対(関数 $f$、$g$ で $\operatorname{div}f=n(T)-n(O)$、$g^n=f\circ n_E$ として $e_n(S,T)=g(X+S)/g(X)$ と定めるもの)と符号を除いて一致する。Sil09 の定義の関数 $g$ は、上の定義の $\tau$ を有理関数で書いたものにほかならない。

接空間とde Rhamコホモロジー

双対アーベル多様体の接空間

$A$ を体 $k$ 上の $g$ 次元アーベル多様体、$t_A:=\operatorname{Lie}A$ を原点での接空間(接空間、Lie代数)、$\check t_A:=t_A^\vee=H^0(A,\Omega^1_{A/k})$ を不変微分形式(微分形式)の空間とする。

  1. $A^\vee$ の原点での接空間は $t_{A^\vee}\cong H^1(A,\mathcal{O}_A)$ である(層コホモロジー)。特に $\dim_kH^1(A,\mathcal{O}_A)=g$ であり、二重双対により $H^1(A^\vee,\mathcal{O}_{A^\vee})\cong t_A$ である。
  2. 一般に $H^q(A,\Omega^p_{A/k})\cong\bigwedge^p\check t_A\otimes_k\bigwedge^qt_{A^\vee}$ である。
  3. 1 次の de Rham コホモロジー(de Rhamコホモロジー)は、$k$ ベクトル空間の完全列
    $$ 0\longrightarrow\check t_A\longrightarrow H^1_{dR}(A/k)\longrightarrow t_{A^\vee}\longrightarrow0 $$
    に入る(Hodge–de Rham スペクトル系列(スペクトル系列)の $E_1$ 退化)。この列は $\operatorname{End}(A)$ の作用と両立し、$\dim_kH^1_{dR}(A/k)=2g$ である。
接空間の出典とDieudonné加群との関係

1 は Picardスキームの記事の「原点での接空間」の命題($\operatorname{Pic}_{A/k}$ の原点での接空間が $H^1(A,\mathcal{O}_A)$ であること。双対数 $k[\varepsilon]$ 上の点の計算)と、$A^\vee$ が $\operatorname{Pic}_{A/k}$ の開部分スキーム(開部分スキーム)で $g$ 次元の滑らかな群スキームであることから従う(Mum70 §13)。2 は Mum70 §13 とアーベル多様体の記事の「不変微分形式と余接束の自明化」の命題。3 は Oda69・Mum70 §13 とアーベル多様体の記事の「1次de Rhamコホモロジーの完全列」の定理で、参考書『代数的 de Rham コホモロジー』のアーベル多様体の章の主題である。$k$ が標数 $p>0$ の完全体のとき、この完全列は $A[p]$ の完全列 $0\to\ker F_A\to A[p]\to\ker V_A\to0$ の Dieudonné 加群(Dieudonné加群とBarsotti–Tate群)と同一視され、$\ker F_{A^\vee}=(\ker V_A)^D$ の Lie 代数が $t_{A^\vee}$ である(Cartier双対の記事の「証明の所在と使いどころ」の注意)。

関連項目

参考文献

[1]
David Mumford, Abelian Varieties, Oxford University Press / Tata Institute of Fundamental Research, 1974, §2(Appell–Humbert の定理)、§8($\operatorname{Pic}^0$ と標数 $0$ の双対)、§13(任意標数の双対アーベル多様体、$H^1(A,\mathcal{O}_A)$)、§15(同種の核の Cartier 双対、定理 1)、§16(Riemann–Roch、$\deg\varphi_L=\chi(L)^2$)、§20(Weil 対 $e_n$)、§23(テータ群、主偏極アーベル多様体との同種)
[3]
Christina Birkenhake, Herbert Lange, Complex Abelian Varieties, Springer, 2004, 第 2 章(Appell–Humbert の定理、双対複素トーラス)、第 3 章(Riemann–Roch と偏極の型)
[5]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer, 1977, II 演習 4.8(分離射の切断は閉埋め込み)、IV.1.3(曲線の Riemann–Roch)
[7]
Siegfried Bosch, Werner Lütkebohmert, Michel Raynaud, Néron Models, Springer, 1990, 第 9 章(Jacobi 多様体と標準的な主偏極)
[8]
Tadao Oda, The first de Rham cohomology group and Dieudonné modules, Annales scientifiques de l'École Normale Supérieure (4) 2, pp. 63–135, 1969, §1(Cartier 双対と Weil 対)、§5($H^1_{dR}$ と Dieudonné 加群)
[9]
Valeri Gritsenko, Klaus Hulek, Minimal Siegel modular threefolds, Mathematical Proceedings of the Cambridge Philosophical Society 123, pp. 461–485, 1998, 型 $(1,p)$ の偏極アーベル曲面のモジュライ上の対合 $(A,L)\mapsto(A^\vee,L^\vee)$

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