Brill–Noether理論(Brill–Noether theory)とは、種数 $g$ の代数曲線の上の次数 $d$、切断 $r+1$ 次元以上の可逆層の全体 $W^r_d(C)$ を調べる理論である。$W^r_d(C)$ は行列の階数の条件で定まり、空でなければ各成分の次元は Brill–Noether数 $\rho=g-(r+1)(g-d+r)$ 以上である。$\rho\ge0$ ならすべての曲線で空でなく、一般の曲線では $\rho< 0$ なら空、$\rho\ge0$ なら次元はちょうど $\rho$ である。接空間は Petri 写像で記述され、超楕円曲線などの特別な曲線では期待を超える線形系が現れる。
前提知識: Riemann–Rochの定理, Serre双対性, Jacobi多様体, Picardスキーム, Cliffordの定理(代数曲線)
Brill–Noether理論(Brill–Noether theory)とは、代数曲線の上の特殊な線形系がどれだけあるかを調べる理論である。種数 $g$ の曲線 $C$ に対して、次数 $d$ の可逆層で切断が $r+1$ 次元以上あるものの全体
$$
W^r_d(C)=\{L\in\operatorname{Pic}^d(C)\mid h^0(L)\ge r+1\}
$$
を考える。これは $C$ から $\mathbb{P}^r$ への次数 $d$ の写像を調べることに当たる。理論の中心は Brill–Noether数
$$
\rho(g,r,d):=g-(r+1)(g-d+r)
$$
である。$W^r_d(C)$ は行列の階数の条件で定まるので、期待される次元は $\rho$ であり、一般の曲線ではこの期待が正確に当たる。一方、超楕円曲線のように特別な曲線では、期待を超える線形系が現れる。
| 結果 | 内容 | この記事で |
|---|---|---|
| thm-bnt-lower | $W^r_d(C)$ のどの既約成分も次元が $\rho$ 以上 | 証明する |
| prop-bnt-tangent | 接空間は Petri 写像の像の直交補 | 証明する |
| prop-bnt-genus-four | 種数 $4$ の $W^1_3$ の完全な記述 | 証明する |
| thm-bnt-existence | $\rho\ge0$ なら $W^r_d(C)\ne\emptyset$(すべての曲線) | 証明の筋を述べる |
| thm-bnt-general | 一般の曲線での次元・滑らかさ・既約性・個数 | 引用する |
$k$ を代数閉体とし、曲線は $k$ 上の滑らかで連結な射影曲線とする。$C$ を種数 $g$ の曲線、$K$ を標準因子とする。可逆層 $L$ について $h^i(L):=\dim_kH^i(C,L)$ と書き、$K-L$ で $\omega_C\otimes L^{-1}$ を表す。Riemann–Rochの定理は $h^0(L)-h^0(K-L)=\deg L+1-g$ である。$\operatorname{Pic}^d(C)$ は次数 $d$ の可逆層の Picard スキームで(Picardスキーム)、$g$ 次元の滑らかな射影多様体であり、$L$ での接空間は $H^1(C,\mathcal{O}_C)$ である。
$C$ の完備線形系の次数 $d$、次元 $r$ のものを $g^r_d$ と書く(Cliffordの定理(代数曲線))。以下、整数 $d,r\ge0$ は $g-d+r\ge0$ を満たすとする。$g-d+r\le0$ なら Riemann–Roch の定理によりすべての $L$ で $h^0(L)\ge r+1$ となり、問題にならないからである。
集合として $W^r_d(C):=\{L\in\operatorname{Pic}^d(C)\mid h^0(L)\ge r+1\}$ とおく。スキームの構造は次のように与える。$E$ を次数 $m\ge2g-1-d$ の有効因子、$\mathcal{P}$ を $C\times\operatorname{Pic}^d(C)$ の上の Poincaré 束、$\pi$ を $\operatorname{Pic}^d(C)$ への射影とする。$h^1(L(E))=0$ なので、コホモロジーと底変換の定理により
$$
\mathcal{K}:=\pi_*\mathcal{P}(E),\qquad\mathcal{F}:=\pi_*\bigl(\mathcal{P}(E)|_{E\times\operatorname{Pic}^d(C)}\bigr)
$$
は階数 $n:=d+m+1-g$ と $m$ の局所自由層で、底変換と両立する。自然な射を $\sigma\colon\mathcal{K}\to\mathcal{F}$ とおく。各 $L$ のファイバーで完全列
$$
0\to H^0(L)\to H^0(L(E))\xrightarrow{\ \sigma_L\ }H^0(L(E)|_E)\to H^1(L)\to0
$$
があるので、$h^0(L)\ge r+1$ は $\operatorname{rank}\sigma_L\le n-r-1$ と同値である。$W^r_d(C)$ は $\sigma$ の $(n-r)$ 次の小行列式が定める閉部分スキームとする。
$\sigma$ の余核は $R^1\pi_*\mathcal{P}$ なので、この小行列式のイデアルはその Fitting イデアル(Fittingイデアル)であり、$E$ の取り方によらない。
Brill–Noether 数の意味を 2 通りに見る。1 つ目は上の定義で、$n\times m$ 行列の階数が $n-r-1$ 以下という条件の余次元が $(r+1)(g-d+r)$ であること(thm-bnt-lower の証明)。$\rho$ は $g=\dim\operatorname{Pic}^d(C)$ からこれを引いたものである。2 つ目は $r=1$ の場合の被覆の数え上げである。$C\to\mathbb{P}^1$ を次数 $d$ の被覆とする。分岐が単純なら分岐点は $2g+2d-2$ 個あり(Riemann–Hurwitzの公式)、分岐点を動かすと被覆が動く。$\mathbb{P}^1$ の自己同型の $3$ 次元を除くと $2g+2d-5$ 次元で、曲線のモジュライの次元 $3g-3$ を引いた $2d-g-2$ は $\rho(g,1,d)$ に等しい。これは発見法的な説明であり、証明ではない。
Riemann–Roch の定理で $L$ を $K-L$ に写すと、次の対称性が得られる。
$g-d+r\ge1$ のとき、$L\mapsto K-L$ は $W^r_d(C)$ と $W^{g-d+r-1}_{2g-2-d}(C)$ の全単射を与え、$\rho(g,r,d)=\rho(g,g-d+r-1,2g-2-d)$ である。
$h^0(L)\ge r+1$ と $h^0(K-L)\ge g-d+r$ は同値である(Riemann–Roch の定理)。$r':=g-d+r-1$、$d':=2g-2-d$ とおくと $r'+1=g-d+r$、$g-d'+r'=r+1$ なので、積 $(r+1)(g-d+r)$ は変わらない。$\square$
Fulton の本は $D+D'=K$ のときの $\ell(D)-\ell(D')=\frac12(\deg D-\deg D')$ を Brill–Noether の相互定理と呼んでいる(Ful08 Problem 8.30, p. 110)。これは上の同値と同じ内容である。
$W^r_d(C)$ の任意の既約成分の次元は $\rho(g,r,d)$ 以上である。
$W^r_d(C)$ の点 $L$ の近傍 $T\subset\operatorname{Pic}^d(C)$ で $\mathcal{K},\mathcal{F}$ を自明にすると、$\sigma$ は射 $T\to M$ を与える。$M$ は $m\times n$ 行列の空間である。$k:=n-r-1$($m$ を大きくとって $k\ge0$ とする)とし、$M_k\subset M$ を階数 $k$ 以下の行列の閉集合とする。$M_k$ は $k$ 次の行列の積の像なので既約で、次元は $k(n+m-k)$、余次元は
$$
c:=(n-k)(m-k)=(r+1)(g-d+r)
$$
である($n-k=r+1$、$m-k=m-n+r+1=g-d+r$)。$W^r_d(C)\cap T$ は、既約な $T\times M_k$(次元 $g+nm-c$)の中で $nm$ 個の式 $z_{ij}=\sigma_{ij}(t)$ の定める閉集合に同型である。Krull の標高定理により、そのどの既約成分も次元は $g-c=\rho(g,r,d)$ 以上である。$\square$
存在については、次の定理が基本である。
$\rho(g,r,d)\ge0$ なら、すべての曲線 $C$ について $W^r_d(C)\ne\emptyset$ である。
この記事では証明しないが、筋は次のとおりである(CDPR12 §1, p. 1)。$W^r_d(C)$ は $\sigma$ の退化軌跡なので、Thom–Porteous の公式により $\mathcal{K},\mathcal{F}$ の Chern 類で書ける期待される類を台にもつ。Kempf と Kleiman–Laksov の計算により、この類はテータ因子(テータ因子)の類 $\theta$ の冪 $\theta^{(r+1)(g-d+r)}$ の $0$ でない定数倍である。$\theta$ は豊富なので、$(r+1)(g-d+r)\le g$ すなわち $\rho\ge0$ ならこの類は $0$ でなく、$W^r_d(C)$ は空でない。$r=1$ の場合は「$d\ge\frac12g+1$ ならどの曲線でも $W^1_d(C)\ne\emptyset$ である」という形になる(Har77 IV, Remark 5.5.1, p. 345)。
$\rho\ge0$ のとき、thm-bnt-existence と thm-bnt-lower により、$W^r_d(C)$ の次元は $\rho$ 以上である。逆向きの不等式はすべての曲線では成り立たない(ex-bnt-special)。
可逆層 $L$ に対して、切断の積の写像
$$
\mu_L\colon H^0(L)\otimes H^0(K-L)\to H^0(K)
$$
を Petri 写像という。
$h^0(L)=r+1$ とする。$H^1(\mathcal{O}_C)$ と $H^0(K)$ の Serre 双対(Serre双対性)のもとで
$$
T_LW^r_d(C)=(\operatorname{im}\mu_L)^\perp\subset H^1(\mathcal{O}_C)=T_L\operatorname{Pic}^d(C)
$$
である。とくに $\dim T_LW^r_d(C)=\rho(g,r,d)+\dim\ker\mu_L$ である。
要点:接ベクトル $\xi$ が $W^r_d$ に接することは、$L$ のすべての切断が $\xi$ の方向の 1 次の変形に延びることと同値で、延びる条件は $s\cup\xi=0$ である。これを Serre 双対で読む。
$\xi\in H^1(\mathcal{O}_C)$ は、$k[\varepsilon]$($\varepsilon^2=0$)に値をもつ点、つまり $C\times\operatorname{Spec}k[\varepsilon]$ の可逆層 $L_\varepsilon$ に対応する。$\mathcal{K},\mathcal{F}$ は底変換と両立するので、この点で $\sigma$ は $A+\varepsilon B$ の形($A=\sigma_L$)の行列であり、その核は $H^0(L_\varepsilon)$ である。
$A$ の階数はちょうど $k=n-r-1$ である。基底をとって $A=\operatorname{diag}(I_k,0)$ とすると、$A+\varepsilon B$ の $k+1$ 次の小行列式は、$\varepsilon^2=0$ のもとで $\varepsilon$ 倍の $B$ の右下の $(m-k)\times(n-k)$ 区画の成分になる。よって $\xi\in T_LW^r_d(C)$ は、この区画が $0$、つまり $B(\ker A)\subset\operatorname{im}A$ と同値である。一方 $s\in\ker A$ について $(A+\varepsilon B)(s+\varepsilon s')=\varepsilon(As'+Bs)$ なので、$Bs\in\operatorname{im}A$ は $s$ が $H^0(L_\varepsilon)$ の元に延びることと同値である。
$C$ の上の完全列 $0\to L\to L_\varepsilon\to L\to0$ の拡大類は $\xi\in\operatorname{Ext}^1(L,L)=H^1(\mathcal{O}_C)$ であり、連結準同型は $H^0(L)\to H^1(L)$、$s\mapsto s\cup\xi$ である。したがって $\xi$ が接するのは、すべての $s\in H^0(L)$ で $s\cup\xi=0$ のときである。$H^1(L)$ は $H^0(K-L)$ の双対で、$t\in H^0(K-L)$ について $\langle s\cup\xi,t\rangle=\langle\xi,st\rangle$ なので、この条件は $\xi\perp\operatorname{im}\mu_L$ と同値である。
最後に $h^0(K-L)=r+1-d-1+g=g-d+r$ なので $\mu_L$ の始域の次元は $(r+1)(g-d+r)$ であり、$\dim(\operatorname{im}\mu_L)^\perp=g-\operatorname{rank}\mu_L=\rho(g,r,d)+\dim\ker\mu_L$ である。$\square$
$h^0(L)=r+1$ のとき、$W^r_d(C)$ が $L$ で滑らかで次元 $\rho(g,r,d)$ であることと、$\mu_L$ が単射であることは同値である。
$L$ での局所次元を $e$ とする。thm-bnt-lower と接空間の一般の不等式により $\rho\le e\le\dim T_L=\rho+\dim\ker\mu_L$ である。$\mu_L$ が単射なら等号が成り立つ。逆に滑らかで次元 $\rho$ なら $\dim T_L=\rho$ なので $\ker\mu_L=0$ である。$\square$
鉛筆の場合は、核が計算できる。
$L$ が基点をもたず $h^0(L)=2$ なら、$\ker\mu_L\cong H^0(K-2L)$ である。
$H^0(L)$ の基底は基点のない鉛筆である。Max Noetherの定理(標準埋め込み) の鉛筆の補題を $D=L$、$F=K-L$ に当てると、核は $H^0(F-D)=H^0(K-2L)$ と同型である。$\square$
種数 $2$ では $W^1_2=\{K\}$ で、$\rho(2,1,2)=0$ である。実際、次数 $2$ で $h^0\ge2$ なら Riemann–Roch の定理により $h^0(K-L)\ge1$ で、$K-L$ は次数 $0$ なので $L\cong K$ である。
種数 $3$ では $\rho(3,1,3)=1$ である。次数 $3$ で $h^0(L)\ge2$ なら $h^0(K-L)\ge1$ で、$K-L$ は次数 $1$ なので $K-L=\mathcal{O}(p)$ である。逆に $h^0(K-p)=2$ なので、$W^1_3=\{K-p\mid p\in C\}$ は $C$ の像である $1$ 次元の集合で、次元は $\rho$ に等しい。超楕円的でないとき、これは平面 $4$ 次曲線の点 $p$ からの射影である(Har77 IV, Example 5.5.2, p. 346)。
$C$ を超楕円的でない種数 $4$ の曲線とする。標準埋め込み $C\subset\mathbb{P}^3$ は、ただ 1 つの既約な 2 次曲面 $Q$ と 3 次曲面の完全交叉である(Max Noetherの定理(標準埋め込み) の例「種数 4:2 次曲面と 3 次曲面の交わり」)。
要点:$g^1_3$ の因子は直線上に並ぶので、その直線は $Q$ の母線である。母線の族が $g^1_3$ に対応し、$L$ と $K-L$ の関係は prop-bnt-pencil と cor-bnt-smooth で読める。
$L\in W^1_3(C)$ とする。$C$ は超楕円的でないので $L$ は基点をもたず、Cliffordの定理(代数曲線) により $h^0(L)=2$ である。$D\in\lvert L\rvert$ について Riemann–Roch の定理から $h^0(K-D)=2$ なので、$D$ を含む超平面は $1$ 次元の族をなす。よって $D$ は直線 $\ell_D$ に含まれる。$\ell_D$ は $Q$ と長さ $3$ 以上で交わるので $\ell_D\subset Q$ である(Bézoutの定理)。$D$ が動くと $\ell_D$ も動く(固定されれば $C$ の無限個の点が $1$ 直線に載る)ので、$\ell_D$ は $Q$ の直線の族の 1 つを動く。$C=Q\cap F$($F$ は 3 次曲面)で $C$ は直線を含まないので $\ell_D\not\subset F$ であり、$\ell_D\cap C=\ell_D\cap F$ は長さ $3$、よって $D=\ell_D\cap C$ である。つまり $L$ は母線の族で切られる $g^1_3$ である。
逆に、$Q$ が滑らかなら $C$ は $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ の型 $(3,3)$ の曲線で、$2$ つの母線の族がそれぞれ $g^1_3$ を切る(Har77 IV, Example 5.5.2, p. 346)。これを $L,L'$ とすると、平面切断は $2$ 本の母線の和なので $L+L'=K$ である。$L=L'$ なら $C\to\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ の像が $(1,1)$ 型の曲線に含まれ、$C$ が平面に載るので $L\ne L'$ である。$K-2L=L'-L$ は次数 $0$ で自明でないので $h^0(K-2L)=0$ となり、prop-bnt-pencil と cor-bnt-smooth により $L,L'$ は被約な点である($\rho(4,1,3)=0$)。
$Q$ が錐なら、頂点は $C$ に載らない(載れば完全交叉 $C$ がそこで特異になる)。母線の族は $1$ つで $g^1_3$ を切り、これを $L$ とする。頂点を通る平面が $Q$ に接するとき、平面切断は同じ母線の $2$ 倍なので $2L=K$ である。すると $h^0(K-2L)=1$ で、$\ker\mu_L\ne0$ となり、prop-bnt-tangent により接空間は $1$ 次元である。$W^1_3$ の台は $1$ 点なので、この点は被約でない。$\square$
$\rho(4,1,3)=0$ のときの点の個数は、thm-bnt-general の 4 の $\lambda=2$ である。prop-bnt-genus-four の 2 の場合は、$2$ 点が重なった退化と見ることができる。これは個数が「一般の曲線」でしか額面どおりでないことの最小の例である。
$\rho(5,1,4)=1$、$\rho(5,1,3)=-1$ である。超楕円的でない種数 $5$ の曲線で $g^1_3$ があることと、標準曲線 $C\subset\mathbb{P}^4$ が 3 点で交わる直線をもつことは同値である(Riemann–Roch の定理)。3 つの 2 次超曲面の滑らかな完全交叉 $C$ は種数 $5$ の標準曲線である。$C$ と 3 点で交わる直線があれば、それは 3 つの 2 次超曲面すべてに含まれ、したがって $C$ に含まれてしまう。これは起こらないので、$C$ は $g^1_3$ をもたず、$W^1_3(C)=\emptyset$ である。一方 thm-bnt-existence により、どの種数 $5$ の曲線にも $g^1_4$ がある(Har77 IV, Example 5.5.3, p. 346)。
一般の曲線とは、種数 $g$ の曲線のモジュライの、適当な稠密開集合に属する曲線のことをいう。次の定理は理論の主定理である。1 と 2 は任意の代数閉体で成り立ち(CDPR12 の要旨、JP14 §1, p. 2)、3 と 4 は $k=\mathbb{C}$ で述べる。
$C$ を種数 $g$ の一般の曲線とする(この記事では証明しない)。
2 と cor-bnt-smooth から、$h^0(L)=r+1$ の点では次元がちょうど $\rho$ である。また $\mu_L$ の単射性を次元で読むと、Clifford の不等式と並ぶ次の評価になる。
$C$ が一般の曲線なら、すべての可逆層 $L$ について $h^0(L)\,h^0(K-L)\le g$ である。
thm-bnt-general の 2 により $\mu_L$ は単射なので、始域の次元 $h^0(L)h^0(K-L)$ は終域の次元 $h^0(K)=g$ 以下である。$\square$
曲線のゴナリティ(gonality)を、$C$ から $\mathbb{P}^1$ への定数でない射の次数の最小値と定める。$L\in W^1_d(C)$ の $2$ つの独立な切断の比は次数 $d$ 以下の定数でない射を与え、逆に次数 $d$ の射は $W^1_d(C)$ の点を与えるので、ゴナリティは $W^1_d(C)\ne\emptyset$ となる最小の $d$ である。
種数 $g$ のすべての曲線のゴナリティは $\lfloor(g+3)/2\rfloor$ 以下であり、一般の曲線ではこの値に等しい。
$\rho(g,1,d)=2d-g-2$ なので、$\rho\ge0$ となる最小の $d$ は $\lceil(g+2)/2\rceil=\lfloor(g+3)/2\rfloor$ である。この $d$ は $g-d+1\ge0$ を満たす。thm-bnt-existence で上界が、thm-bnt-general の 1 で等号が得られる。$\square$
個数 $\lambda$ は長方形 $(r+1)\times(g-d+r)$ の標準盤の個数でもある(CDPR12 §1, p. 3)。$r=1$、$g=2a$、$d=a+1$ のとき $\lambda=\frac{(2a)!}{a!(a+1)!}$ で、Catalan 数である。
| $(g,r,d)$ | $(2,1,2)$ | $(3,2,4)$ | $(4,1,3)$ | $(6,1,4)$ | $(8,1,5)$ | $(9,2,8)$ |
|---|---|---|---|---|---|---|
| $\lambda$ | $1$ | $1$ | $2$ | $5$ | $14$ | $42$ |
$(3,2,4)$ の $1$ は $L=K$、$(4,1,3)$ の $2$ は prop-bnt-genus-four の $L,L'$ である。
上界と非存在が難しいのは、一般の曲線を具体的に書くのが難しいからである。証明はどれも退化か特別な曲面を用いる(CDPR12 §1, pp. 1–2、JP14 §1, p. 1)。
thm-bnt-general の結論は、「一般の」という条件を外すと成り立たない。
| 曲線 | $(g,r,d)$ | $\rho(g,r,d)$ | 起こること |
|---|---|---|---|
| 超楕円曲線、$g\ge3$ | $(g,1,2)$ | $2-g< 0$ | $W^1_2\ne\emptyset$ |
| $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ の型 $(3,b)$ の滑らかな曲線、$b\ge4$ | $(2b-2,1,3)$ | $6-2b< 0$ | $W^1_3\ne\emptyset$ |
| 滑らかな平面 $e$ 次曲線、$e\ge5$ | $(\frac{(e-1)(e-2)}2,2,e)$ | $-(e-2)(e-4)< 0$ | $W^2_e\ne\emptyset$ |
| 超楕円曲線、$g\ge4$ | $(g,1,3)$ | $4-g< 1$ | $\dim W^1_3=1>\rho$ |
| 錐の上の種数 $4$ の曲線 | $(4,1,3)$ | $0$ | $W^1_3$ は被約でない |
thm-bnt-general の 3 の $\rho>0$ も外せない。$\rho=0$ の $(4,1,3)$ では、一般の曲線の $W^1_3$ は $2$ 点で既約でない。
1 行目.超楕円曲線は定義により $g^1_2$ をもち(超楕円曲線)、$\rho(g,1,2)=g-2(g-1)=2-g$ である。種数 $g$ の超楕円曲線の族の次元は $2g-1$ で、$g\ge3$ なら $3g-3$ より小さいので、これらは一般の曲線ではない。
2 行目.型 $(3,b)$ の滑らかな曲線 $C$ の種数は $2(b-1)$ である(2次曲面上の曲線)。一方の射影が次数 $3$ の射 $C\to\mathbb{P}^1$ を与える。$g=2b-2$ として $\rho(g,1,3)=g-2(g-2)=4-g=6-2b$ である。
3 行目.直線の切る線形系は次数 $e$、次元 $2$ である。$g=\frac{(e-1)(e-2)}2$ として、$\rho=g-3(g-e+2)=-2g+3e-6=-(e-2)(e-4)$ である。とくに $e=5$ の $g=6$ では、$\rho=-3$ である。
4 行目.超楕円曲線の $g^1_2+p$($p\in C$)は $W^1_3$ の $1$ 次元の族である。上界の $\dim W^r_d\le\rho$ が成り立たず、thm-bnt-lower の不等式が真に大きい例である。
5 行目.prop-bnt-genus-four の 2 である。$\mu_L$ が単射でないので、Gieseker–Petri の定理の結論が成り立たない。
特別な曲線の族についても、精密な答えが知られている。超楕円曲線では $g-d+r>0$ の範囲で、$d\ge2r$ なら $\dim W^r_d=d-2r$ であり、$d< 2r$ なら $W^r_d=\emptyset$ である。すべての $g^r_d$ が $r\cdot g^1_2$ に $d-2r$ 個の基点を足して得られるからである(JR20 §1.1, p. 2)。より一般に、$k=\mathbb{C}$ のとき、ゴナリティ $a\ge2$ の曲線のうち一般のものでは、$r':=\min\{r,g-d+r-1\}$、$\rho_a(g,r,d):=\max_{0\le\ell\le r'}\bigl(\rho(g,r-\ell,d)-\ell a\bigr)$ とおくと、$g-d+r>0$ のとき $\dim W^r_d=\rho_a(g,r,d)$ である($\rho_a(g,r,d)< 0$ のときは $W^r_d=\emptyset$ である)。上界は Pflueger により、等号は Jensen–Ranganathan により示された(JR20 Theorem A, p. 1)。ここでは既約成分の次元はそろうとは限らない。たとえば型 $(3,4)$ の一般の曲線($g=6$)の $W^1_4$ には、$g^1_3$ に基点を足した $1$ 次元の成分と、もう一方の射影が与える孤立点がある(同 p. 2)。
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