モチーフ的ホモトピー型

概要

モチーフ的ホモトピー型(motivic homotopy type)とは、本記事ではA¹ホモトピー型、エタールshape、体上のschematization、有理ホモトピー型の4候補の総称であり、単一の完成済み対象ではない。Grothendieckの原構想と各候補の入力・局所性・到達範囲を、比較定理の仮定とともに区別して説明する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ホモトピー型, スキーム, モチーフ, 基本群, 実現関手(モチーフ)

一つの完成済み対象を指す言葉ではない

モチーフ的ホモトピー型という語は、2026年時点で一意に定まった標準対象の名前ではない。Grothendieckが構想した、モチーフとGalois対称性を含む高次の型と、その問題の一部を厳密に実現する複数の現代理論を結ぶ案内語として用いられる。
現代の主要な候補には、A¹ホモトピー型、エタール・トポスのshape、体上のschematization、有理ホモトピー型がある。これらは入力、局所性、普遍性、出力が異なる。比較関手や特定条件下の一致があっても、名称だけから同一視してはならない。

モチーフ的ホモトピー型(本記事の用法)

本記事ではモチーフ的ホモトピー型(motivic homotopy type)という語を、スキームまたは代数多様体 $X$ に対して定まる次の4候補の総称として用いる。

  1. A¹ホモトピー型:$X$ を不安定または安定なA¹ホモトピー圏へ送った対象。
  2. エタールshape:$X$ のhypercompleteエタール∞-トポスのshape。
  3. 体上のschematization:$X$ のBetti型(またはエタール型)を係数体 $K$ 上のschematic homotopy typeへ送った対象。
  4. 有理ホモトピー型:$X$ の複素点などの位相空間の有理化。
    これらのどれか一つを指して定義とするのではなく、各候補ごとに入力と到達範囲を比較する。なお、Ayoubらのモチーフ層の理論で「$X$ のモチーフ的ホモトピー型」と呼ばれる対象($X$ を $\mathrm{SH}(k)$ や $\mathrm{DA}(k)$ に送ったもの)は、本記事の用法では候補1の安定版に当たり、本記事の総称とは区別する。
『収穫と蒔いた種』の原構想

Grothendieckは『収穫と蒔いた種』第4部終盤で、幾何学的連結スキーム $X/k$ の相対モチーフ基本群を概念的に
$$ \pi_1^{\mathrm{mot}}(X/k) =\ker\!\left(\pi_1^{\mathrm{mot}}(X) \longrightarrow\pi_1^{\mathrm{mot}}(\operatorname{Spec}k)\right) $$
と捉え、より高次のモチーフ的ホモトピー型へ進む第1段階とした。複素点のBettiファイバーと、単連結の場合の有理ホモトピー型との対応も期待している。これは1985年の構想であり、右辺を構成する単一の圏と全高次型がそこで完成していたという主張ではない。G85 第4部終盤。

四つの現代的な対象

対象局所性・普遍性値主に残す情報
A¹ホモトピー型Nisnevich降下とA¹不変性motivic spaceまたはspectrum代数幾何的変形、純粋性、代表可能性
エタールshapeエタール∞-トポスのshapepro-space有限エタール被覆、エタール基本群と高次情報
schematizationschematic homotopy typeへの普遍射単体的前層とアフィンhomotopy sheafpro-algebraic基本群、unipotentな高次群
有理ホモトピー型有理同値による局所化cdgaや微分次数付きLie代数など有理Postnikovデータ

A¹ホモトピー型

A¹ホモトピー論は、基礎スキーム $S$ 上の滑らかなスキームから出発し、Nisnevich局所同値と射影
$$ X\times\mathbb A^1\longrightarrow X $$
を逆にする。アフィン直線を区間として扱うので、代数幾何の変形、ベクトル束、純粋性とよく適合する。構成と成立条件はA¹ホモトピー論が所有する。
この局所化は、エタール被覆を集める操作でも、係数体上の線形化でもない。不安定圏と、$\mathbb P^1$ などで安定化した圏も区別する。

エタール∞-トポスのshape

$X$ のhypercompleteエタール∞-トポスを $X_{\mathrm{ét}}^\wedge$ とする。∞-トポスのshapeは、空間への定値層関手のpro左随伴(随伴関手のpro-圏への拡張)で単位対象を送った
$$ \Pi_\infty(X_{\mathrm{ét}}^\wedge)\in\operatorname{Pro}(\mathcal S) $$
として定義される。一般には一つの空間でなくpro-空間(pro-space)である。局所連結なスキームでは、Friedlanderのエタール・トポロジー型がこのshapeを表す。H18 Definition 2.3, Corollary 5.6。
この対象は有限局所定数層やエタール基本群だけでなく高次のエタール・ホモトピー情報も持つ。ただし、その定義はすべてのA¹射影を逆にする局所化ではない。

体上のschematization

$K$ を体、$X$ を基点付き連結単体的集合とする。schematization
$$ X\longrightarrow (X\otimes K)^{\mathrm{sch}} $$
は、$X$ から基点付きschematic homotopy typeへの射に関して普遍である。Katzarkov–Pantev–Toënはこの対象の存在を示し、基本群が $\pi_1(X)$ のpro-代数的完備化(pro-algebraic completion)、高次homotopy sheafが可換でunipotent(冪単群)なアフィン群スキームになることを証明した。KPT09 Definition 2.1, Theorem 2.2。
pro-algebraic completionは有限商だけを集めるprofinite completionではない。係数体上の線形表現を通して見える対称性も含む。また、体と基点への依存を落として一般の基礎環上の同じ構成だとはいえない。

有理ホモトピー型

単連結またはnilpotent(基本群が冪零群で、高次ホモトピー群への作用も冪零)な有限型空間の有理ホモトピー型は、Sullivanの可換微分次数付き代数などでモデル化できる。標数0、単連結、有限型という範囲では、schematizationの大域切断は通常の有理ホモトピー型を回収する。
非自明で非nilpotentな基本群があると、schematizationはそのpro-algebraic completionと高次群への作用を保持しようとする。従って、単純な有理化と同じ対象ではない。高次群をテンソル積で書くには、単連結性、有限型、またはalgebraic goodnessなどの条件が要る。

比較関手が与えるもの

同値を保つ関手の合成

$B:\mathcal C\to\mathcal D$ と $S:\mathcal D\to\mathcal E$ が、それぞれ指定された弱同値を弱同値へ送るなら、合成 $S\circ B$ も弱同値を弱同値へ送る。

証明

$f$ を $\mathcal C$ の指定された弱同値とする。仮定により $B(f)$ は $\mathcal D$ の弱同値であり、もう一つの仮定により $S(B(f))$ は $\mathcal E$ の弱同値である。これは $(S\circ B)(f)$ に等しい。
この形式的事実は、例えば定義域が適合するときBetti実現の後にschematizationを施せることを保証するだけである。$\mathcal C$ の対象と $\mathcal E$ の対象が同じだとは結論しない。

異なる局所化の普遍性だけから同一性は従わない

圏 $\mathcal C$ の二つの反射的局所化 $L_1,L_2$ を考える。ある射 $f$ について $L_1(f)$ が同型で $L_2(f)$ が同型でないなら、二つの局所化関手も局所対象の充満部分圏も一致しない。

証明

もし局所化関手が自然同型なら、$L_1(f)$ と $L_2(f)$ は自然同型の可換正方形で対応するため、片方が同型であることと他方が同型であることは同値になる。これは仮定に反する。
また局所対象の充満部分圏が一致すれば、その包含に対する左随伴は随伴の一意性により自然同型である。従って部分圏も一致しない。A¹局所化とエタールshapeについては、逆にする射の定義が違うというだけで具体的な全比較が決まるわけではなく、基礎体や係数を指定して個別に調べる必要がある。

基本群だけでは高次型を決めない

基本群が同型でも、二つの連結空間のホモトピー型が同じとは限らない。

証明

$S^2$ と一点 $*$ はともに基本群が自明である。一方、球面のホモトピー群の計算により
$$ \pi_2(S^2)\cong\mathbb Z,\qquad \pi_2(*)=0 $$
なので、両者は弱ホモトピー同値でない。従って、相対モチーフ基本群を構成しても、それだけで全Postnikov塔を含むモチーフ的ホモトピー型を構成したことにはならない。

複素数体上で見えるHodge構造

$X$ を基点付き滑らか射影複素多様体とする。Katzarkov–Pantev–Toënは $(X^{\mathrm{top}}\otimes\mathbb C)^{\mathrm{sch}}$ 上に離散群としての $\mathbb C^\times$ の作用を構成し、コホモロジー、完成された基本群、単連結の場合の複素化高次ホモトピー群にHodge分解を回収する。KPT08 Theorems A and B。
この結果のsmooth projectiveという条件は本質的である。開多様体では混合Hodge構造が現れ、特異多様体も同じ純粋分解の主張には入らない。また、A¹ホモトピー型とschematizationが対象として一致するという定理でもない。実現関手(モチーフ)は、代数幾何的対象からBetti・de Rham・ℓ進などへ移る際の定義域と失われる情報を扱う。

有限体と整数上の到達点

有限体上では、エタール型に絶対Galois群とFrobeniusが作用する。Pridhamは $\ell\ne p$ とし、smoothまたはproper normalなどの条件の下で、ℓ進pro-algebraic homotopy groupsの重みを調べた。smooth properの場合にはGalois作用と両立するformalityが得られる。Artin–Mazur型profinite群との比較にはrelative goodnessや有限次元性が加わる。P11 Corollary 6.7, Theorem 6.10。
有限体上のFrobenius重みから複素多様体の有理ホモトピー型が直接決まるわけではない。比較には持ち上げ、実現関手、係数、良い還元などの橋が要る。
整数上では、Toënのintegral affinationが単連結有限型空間について構成される。T20 Theorem 4.1, Corollary 5.5。HorelとKubrak–Shuklin–Zakharovのbinomial modelは、連結nilpotent有限型の整数ホモトピー型を回収する。Ho22, KSZ23。integral affination、derived binomial model、任意の基本群を含むintegral schematizationは別の範囲を持つ。

どこまで原構想に到達したか

各方向には強い理論がある。A¹ホモトピー論は代数幾何固有の変形を扱い、エタールshapeはGalois的な局所性を高次まで保持し、schematizationは基本群と高次群をアフィン群スキームへ移し、有理・binomialモデルは係数を指定したPostnikov情報を計算可能にする。モチーフ的Galois群は線形テンソル実現の自己対称性を群スキームとして記述する。
残っているのは、Betti、de Rham、ℓ進、crystallineなどの実現、任意の基本群とその高次作用、基礎体のGalois作用を、一つの普遍的高次対象として無条件に統合する問題である。既存の構成を一括して「完成」と呼ばず、比較定理の仮定を一つずつ明記することが、Grothendieckの構想を現代的に継ぐための出発点になる。

関連項目

参考文献

[1]
Alexandre Grothendieck, Récoltes et Semailles: Réflexions et témoignage sur un passé de mathématicien, Grothendieck Circle (provisional transcription edited by Mateo Carmona), 1985, Part IV, final sections; transcription PDF pp. 1445–1501
[2]
Marc Hoyois, Higher Galois theory, Journal of Pure and Applied Algebra, 2018, Definition 2.3 and Corollary 5.6
[6]
Bertrand Toën, Le problème de la schématisation de Grothendieck revisité, HAL open archive (hal-03045669), 2020, Theorem 4.1 and Corollary 5.5
[7]
Geoffroy Horel, Binomial rings and homotopy theory, arXiv (arXiv:2211.02349), 2022, Main equivalence and integral homotopy applications
[8]
Dmitry Kubrak, Georgii Shuklin, Alexander Zakharov, Derived binomial rings I, arXiv (arXiv:2308.01110; accepted in Journal of the London Mathematical Society), 2023, Integral homotopy reconstruction results

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