Rokhlinの定理(Rokhlin's theorem)とは、向き付けられた滑らかな閉 4 次元多様体が spin(第 2 Stiefel–Whitney 類が 0)ならば、その符号数は 16 の倍数である、という定理のことである。偶でユニモジュラな形式の符号数が 8 の倍数であること(van der Blij の補題)は代数だけで従うが、16 への改善は滑らかさによる。そのため符号数 8 の E8 多様体は滑らかな構造をもたず、偶な交叉形式をもつ単連結で滑らかな閉 4 次元多様体の符号数は 16 の倍数になる(K3 曲面により 16 は最良)。ホモロジー 3 球面には、spin な 4 次元多様体で囲んだときの符号数を 8 で割った数の偶奇として Rokhlin 不変量が定まり、Poincaré ホモロジー球面の値は 1 なので、それは滑らかなホモロジー球体の境界にならない。
前提知識: 位相多様体, 可微分多様体, Poincaré双対, カップ積, ホモロジー球面
Rokhlin の定理(Rokhlin's theorem)は、向き付けられた滑らかな閉 $4$ 次元多様体 $M$ が spin(第 2 Stiefel–Whitney 類 $w_2(M)$ が $0$)ならば、その符号数 $\sigma(M)$ は $16$ の倍数である、という定理である。Rokhlin が 1952 年に示した。
交叉形式が偶であることだけからは、代数的に $\sigma(M)\equiv0\pmod 8$ しか出ない(van der Blij の補題)。この「$8$ の倍数」は位相多様体でも成り立ち、実際に符号数 $8$ の spin な閉位相多様体(E8多様体)がある。したがって $16$ への改善は滑らかさを使って初めて得られるもので、Rokhlin の定理は、$4$ 次元で滑らかな多様体と位相多様体が食い違うことを示す最初の道具になる。
この定理から、ホモロジー $3$ 球面に $\mathbb{Z}/2$ に値をもつ Rokhlin 不変量が定まる。Poincaré ホモロジー球面の Rokhlin 不変量は $1$ で、そのため Poincaré ホモロジー球面は滑らかな可縮 $4$ 次元多様体の境界にならない。
この記事では、特性元の性質と van der Blij の補題(偶でユニモジュラな形式の符号数は $8$ の倍数)、偶な交叉形式をもつ滑らかな閉多様体についての系、Poincaré ホモロジー球面が滑らかなホモロジー球体の境界にならないこと、Rokhlin 不変量が well-defined であることを完全に証明する。Rokhlin の定理そのものと、奇で不定値の形式の分類は、所在を示して引用する。
多様体は Hausdorff かつ第 2 可算とし、閉多様体はコンパクトで境界のない多様体をいう。ホモロジー・コホモロジーは特異(コ)ホモロジーで、係数を書かないときは $\mathbb{Z}$ 係数とする。
有限階数の自由アーベル群 $L$ と、対称な双線形写像 $Q\colon L\times L\to\mathbb{Z}$ の組 $(L,Q)$ を整数上の対称双線形形式という(以下単に形式という)。基底 $e_1,\dots,e_r$ について行列 $(Q(e_i,e_j))$ を Gram 行列という。
形式 $(L,Q)$ について次のように定める(Kir89 Ch. II §3、p. 24)。
符号数は基底の取り方によらない(Sylvester の慣性法則)。$\langle\pm1\rangle$ で階数 $1$、$Q(e,e)=\pm1$ の形式を表し、$\oplus$ で直交直和を表す。$H$ は Gram 行列 $\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ の形式である。$\langle1\rangle$ は奇、$H$ は偶で、どちらもユニモジュラである。
$M$ を向き付けられたコンパクト $4$ 次元位相多様体とする。$FH^2(M):=H^2(M)/(\text{ねじれ部分})$ の上の
$$
Q_M(a,b):=\langle a\smile b,[M]\rangle
$$
($[M]$ は基本類。境界があるときは相対基本類 $[M,\partial M]$ と相対コホモロジーで同様に定める)を $M$ の交叉形式といい、$\sigma(M):=\sigma(Q_M)$ を $M$ の符号数という。$M$ が閉なら $Q_M$ はユニモジュラである(Poincaré双対 による。FNOP25 Definition 8.1、p. 60)。向きを逆にした $-M$ では $Q_{-M}=-Q_M$、$\sigma(-M)=-\sigma(M)$ である(Kir89 Ch. II §5、p. 28)。
向き付けられた $4$ 次元多様体 $M$ が spin であるとは、第 2 Stiefel–Whitney 類 $w_2(M)\in H^2(M;\mathbb{Z}/2)$ が $0$ であることとする(滑らかなら接束の Stiefel–Whitney 類、位相多様体では Wu の公式で定める。FNOP25 §7、p. 57)。spin な $4$ 次元多様体の交叉形式は偶である(FNOP25 Proposition 8.4、pp. 61–62)。逆に、$Q_M$ が偶で $H_1(M)$ が位数 $2$ の元をもたなければ(たとえば $M$ が単連結なら)、$M$ は spin である(FNOP25 Remark 8.9、pp. 64–65、Kir89 Ch. II Lemma 4.1、p. 27)。
$M$ を向き付けられた滑らかな閉 $4$ 次元多様体とし、$w_2(M)=0$ とする。このとき $\sigma(M)$ は $16$ の倍数である。
偶なユニモジュラ形式の符号数が $8$ の倍数であることは、形式の代数だけから従う(van der Blij の補題。後の節)。Rokhlin の定理は、滑らかな多様体であることを使って、これを $16$ の倍数に引き上げる。滑らかさは外せない:Freedman によれば、交叉形式が $E_8$ で符号数 $8$ の単連結な閉位相 $4$ 次元多様体が存在し、これは滑らかな構造をもたない。
これは Rokhlin(1952)の定理で、FNOP25 Theorem 8.8(p. 64)、Rud01 Theorem 7.1(p. 42。PL 多様体の場合も同じ証明が通り、$4$ 次元では PL と滑らかの区別がないことも述べる)、Kir89 Ch. III Theorem 1.1(p. 31。証明は Ch. XI §1、p. 64)による。この記事では証明しない。Kir89 の証明は、spin 同境群 $\Omega_4^{\mathrm{spin}}$ が $\sigma/16$ で $\mathbb{Z}$ と同型で、K3 曲面が生成元であることを同時に示す(同 p. 64)。
$16$ は最良である:K3曲面 は滑らかで単連結な spin の閉 $4$ 次元多様体で、複素構造から定まる向きでは、交叉形式は $-E_8\oplus-E_8\oplus H\oplus H\oplus H$ と同型で、符号数は $-16$ である($-E_8$ は負定値で階数 $8$、$H$ の符号数は $0$。K3曲面 の節「複素数体上の K3 曲面」)。向きを逆にすると、$-H\cong H$ なので交叉形式は $E_8\oplus E_8\oplus H\oplus H\oplus H$、符号数は $16$ になる(FNOP25 Example 8.2 (4)、p. 61 はこの形で述べている)。
$(L,Q)$ をユニモジュラな形式とする。$w\in L$ が特性元であるとは、すべての $x\in L$ で $Q(w,x)\equiv Q(x,x)\pmod 2$ となることをいう。$Q$ が偶であることは、$0$ が特性元であることと同じである。
$(L,Q)$ をユニモジュラな形式とする。
1. $Q(x+y,x+y)=Q(x,x)+Q(y,y)+2Q(x,y)$ なので、$x\mapsto Q(x,x)\bmod2$ は準同型 $L\to\mathbb{Z}/2$ である。基底 $e_1,\dots,e_r$ について $\varphi(e_i):=Q(e_i,e_i)$ で準同型 $\varphi\colon L\to\mathbb{Z}$ を定める。ユニモジュラなので $\varphi=Q(w,\cdot\,)$ となる $w\in L$ がある。$x\mapsto Q(w,x)\bmod2$ と $x\mapsto Q(x,x)\bmod2$ はどちらも準同型で基底の上で一致するので、すべての $x$ で一致し、$w$ は特性元である。
2. $u:=w'-w$ とおくと、すべての $x$ で $Q(u,x)\equiv0\pmod2$ なので、$x\mapsto Q(u,x)/2$ は準同型 $L\to\mathbb{Z}$ であり、ユニモジュラなので $Q(z,\cdot\,)$($z\in L$)と書ける。$Q(u-2z,\cdot\,)=0$ で、ユニモジュラな形式は非退化なので $u=2z$ である。すると
$$
Q(w',w')=Q(w,w)+4\bigl(Q(w,z)+Q(z,z)\bigr)
$$
で、$w$ は特性元なので $Q(w,z)+Q(z,z)\equiv2Q(z,z)\equiv0\pmod2$ である。よって $Q(w',w')\equiv Q(w,w)\pmod8$ である。$\square$
次の分類を引用する。
奇で不定値のユニモジュラな形式は、ある $p,q\ge1$ について $p\langle1\rangle\oplus q\langle-1\rangle$ と同型である。
この分類は、奇でかつ不定値の場合に限った主張である。奇で不定値なら、符号数や階数にかかわらず、形式は $\langle1\rangle$ と $\langle-1\rangle$ の和に対角化できる。偶な場合や定値の場合には、このような単純な形にはならない(偶な不定値の形式は $E_8$ と $H$ の和などで表され、定値の形式は階数が大きいと非常に多くの同型類がある)。
これは Kir89 Ch. II Theorem 3.2(p. 25)で、その証明は「不定値なユニモジュラ形式は $Q(x,x)=0$ となる $x\ne0$ をもつ」という Meyer の補題(Kir89 Ch. II Lemma 3.1、p. 25、Milnor–Husemoller の本からの引用)による。不定値なユニモジュラ形式の一般の分類(階数・型・符号数で決まる)は FNOP25 p. 65 が Milnor–Husemoller Theorem II.5.3 を引いて述べている。この記事では証明しない。
$(L,Q)$ をユニモジュラな形式、$w$ をその特性元とすると、$\sigma(Q)\equiv Q(w,w)\pmod 8$ である。とくに、偶でユニモジュラな形式の符号数は $8$ の倍数である。
$L':=L\oplus\langle1\rangle\oplus\langle-1\rangle$ とし、後の 2 つの直和成分の生成元を $\alpha$、$\beta$ とする($Q(\alpha,\alpha)=1$、$Q(\beta,\beta)=-1$、互いに、また $L$ と直交)。$L'$ の Gram 行列はブロック対角で行列式は $L$ のものの $-1$ 倍なので $L'$ はユニモジュラであり、$Q(\alpha,\alpha)=1$ なので奇、$\alpha$ と $\beta$ があるので不定値で、$\sigma(L')=\sigma(L)+1-1=\sigma(L)$ である。
thm-rok-odd-indefinite により、$L'$ には $Q(f_i,f_i)=\varepsilon_i\in\{\pm1\}$、$Q(f_i,f_j)=0$($i\ne j$)となる基底 $f_1,\dots,f_m$ がある。$\varepsilon_i=1$ となる $i$ の個数を $p$、$-1$ となる個数を $q$ とすると $p-q=\sigma(L')=\sigma(L)$ である。
$w_0:=\sum_if_i$ は $L'$ の特性元である。実際 $x=\sum_ix_if_i$ について
$$
Q(w_0,x)=\sum_i\varepsilon_ix_i\equiv\sum_ix_i\equiv\sum_i\varepsilon_ix_i^2=Q(x,x)\pmod2
$$
($\varepsilon_i\equiv1$、$x_i^2\equiv x_i$)であり、$Q(w_0,w_0)=\sum_i\varepsilon_i=p-q=\sigma(L)$ である。
一方 $w_1:=w+\alpha+\beta$ も $L'$ の特性元である。実際 $x=y+a\alpha+b\beta$($y\in L$)について
$$
Q(w_1,x)=Q(w,y)+a-b\equiv Q(y,y)+a^2-b^2=Q(x,x)\pmod2
$$
であり、$Q(w_1,w_1)=Q(w,w)+1-1=Q(w,w)$ である。
lem-rok-char の 2 により $\sigma(L)=Q(w_0,w_0)\equiv Q(w_1,w_1)=Q(w,w)\pmod8$ である。$Q$ が偶なら $w=0$ にとれて $\sigma(L)\equiv0\pmod8$ となる。$\square$
この議論は Kir89 Ch. II Lemma 3.3・3.4(p. 25)の形である。$4$ 次元多様体に当てはめると次のようになる:向き付けられた spin な閉位相 $4$ 次元多様体の交叉形式は偶でユニモジュラなので、その符号数は $8$ の倍数である(FNOP25 Proposition 8.5、p. 62)。この結論は滑らかさを使わず、位相多様体ではこれ以上は改善できない。実際 E8多様体 は符号数 $8$ の spin な閉位相多様体である。
$M$ を向き付けられた滑らかな閉 $4$ 次元多様体とし、$H_1(M)$ は位数 $2$ の元をもたない(たとえば $M$ は単連結)とする。$Q_M$ が偶なら、$\sigma(M)$ は $16$ の倍数である。とくに、偶でユニモジュラな形式のうち符号数が $16$ で割って $8$ 余るもの($E_8$、$E_8\oplus H$、$E_8\oplus E_8\oplus E_8$ など)は、単連結で滑らかな閉 $4$ 次元多様体の交叉形式にならない。
$Q_M$ が偶で $H_1(M)$ が位数 $2$ の元をもたないので、$M$ は spin である(FNOP25 Remark 8.9、pp. 64–65)。thm-rok-main により $\sigma(M)$ は $16$ の倍数である。後半は、$E_8$ 形式が偶でユニモジュラで符号数 $8$ であること(E8多様体 の命題「$E_8$ 形式の性質」)と、$\sigma(E_8\oplus H)=8$、$\sigma(E_8^{\oplus3})=24$ による。$\square$
偶でユニモジュラな形式の符号数は thm-rok-mod8 により $8$ の倍数なので、この系は「$8$ の倍数のうち半分は滑らかには実現できない」と言っている。位相多様体ではすべてのユニモジュラ形式が単連結な閉多様体の交叉形式として実現される(Freedman。FNOP25 Theorem 12.2、p. 93)ので、この半分が滑らかな多様体と位相多様体の差である。
$S^2$ 上の Euler 数 $2$ の円板束($S^2$ の接円板束)$8$ 個を、$E_8$ 型の木($7$ 頂点の道の端から $3$ 番目の頂点にもう 1 頂点をつけた木)に沿って plumbing した滑らかな $4$ 次元多様体を $\Pi$ とする。$\Pi$ はコンパクトで単連結、交叉形式は $E_8$ 形式で、境界は向きを除いて Poincaré ホモロジー球面 $P$ である(Kir89 Ch. II §3、pp. 23–24、Kos93 Ch. VI §12、p. 122、KSch79 pp. 114–116、Rud01 Comment 7.3、p. 42)。$\Pi$ は平行化可能で(Rud01 Comment 7.3)、とくに spin である。
境界が $P$ と微分同相で、整数係数のホモロジーが 1 点と同じ($\tilde H_*(W)=0$)ような滑らかなコンパクト $4$ 次元多様体 $W$ は存在しない。とくに $P$ は滑らかな可縮 $4$ 次元多様体の境界にならない。
そのような $W$ があったとする。$H_1(W)=0$ なので $\pi_1(W)$ は指数 $2$ の部分群をもたず、$W$ は向き付け可能である(内部に Hat02 Proposition 3.25、p. 234 を使う)。$W$ に向きを入れ、境界の微分同相写像 $\partial W\to\partial\Pi$ が境界の向きを逆にするようにしておく(そうでなければ $W$ の向きを反転する)。これで貼った
$$
X:=\Pi\cup_{\partial}W
$$
は向き付けられた滑らかな閉 $4$ 次元多様体である(境界に沿った貼り合わせと連結和 の定理「貼り合わせの滑らかな構造」「貼り合わせと向き」)。$\Sigma:=\Pi\cap W\cong P$ とおく。$\tilde H_*(\Sigma)=0$($*\ne3$)である。
段 1:$Q_X\cong Q_\Pi$。 $W$ はホモロジーが 1 点と同じなので、普遍係数定理により $H^1(W)=H^2(W)=0$ である。対 $(X,W)$ の完全列 $H^1(W)\to H^2(X,W)\to H^2(X)\to H^2(W)$ により $j\colon H^2(X,W)\to H^2(X)$ は同型である。切除により $H^2(X,W)\cong H^2(\Pi,\Sigma)$ であり、$H^1(\Sigma)=H^2(\Sigma)=0$ なので対 $(\Pi,\Sigma)$ の完全列から $H^2(\Pi,\Sigma)\to H^2(\Pi)$ も同型である。$a,b\in H^2(X)$ について $a=j(\tilde a)$ とすると、カップ積の自然性から
$$
\langle a\smile b,[X]\rangle=\langle\tilde a\smile b,[X]\rangle=\langle\tilde a|_\Pi\smile b|_\Pi,[\Pi,\Sigma]\rangle
$$
である($[X]$ の $H_4(X,W)\cong H_4(\Pi,\Sigma)$ での像は $[\Pi,\Sigma]$)。右辺は $\Pi$ の交叉形式なので、制限 $H^2(X)\to H^2(\Pi)$ は $Q_X$ から $Q_\Pi\cong E_8$ への同型を与える。よって $Q_X$ は偶で、$\sigma(X)=8$ である。
段 2:$X$ は spin。 Mayer–Vietoris 完全列 $H_1(\Pi)\oplus H_1(W)\to H_1(X)\to\tilde H_0(\Sigma)$ で両端は $0$ なので $H_1(X)=0$ である。段 1 により $Q_X$ は偶なので、$X$ は spin である(FNOP25 Remark 8.9、Kir89 Ch. II Lemma 4.1、p. 27)。
$X$ は滑らかな spin の閉 $4$ 次元多様体で $\sigma(X)=8$ となり、thm-rok-main に反する。$\square$
一方、位相的には $P$ はコンパクトで可縮な $4$ 次元多様体 $C$ の境界になる(Freedman。FNOP25 p. 74、Kir89 Ch. III §2、p. 31)。この命題により、$C$ は境界を $P$ と微分同相にするような滑らかな構造をもたない。$\Pi$ と $C$ を境界で貼ったものが E8多様体 である。
ホモロジー $3$ 球面 $\Sigma$ は滑らかな多様体とし、向きを固定する。$\Sigma$ は滑らかでコンパクトな spin $4$ 次元多様体 $W$ の境界になる($3$ 次元の spin 同境群が $0$ であることによる。FNOP25 p. 74。$\Sigma$ は平行化可能な $4$ 次元多様体の境界になることも知られている。Rud01 Examples 21.6、p. 85)。
ホモロジー $3$ 球面 $\Sigma$ について、$\partial W=\Sigma$(向きも込めて)となる滑らかでコンパクトな spin $4$ 次元多様体 $W$ をとり、
$$
\mu(\Sigma):=\frac{\sigma(W)}{8}\bmod 2\in\mathbb{Z}/2
$$
と定める。これを $\Sigma$ の Rokhlin 不変量という。
これは FNOP25 p. 74、Kir89 Ch. XI §3(p. 66)、Man16 §2.3(p. 6)の定義である。次の命題で、$\sigma(W)$ が $8$ の倍数で、$\mu(\Sigma)$ が $W$ によらないことを示す。
$\Sigma$ をホモロジー $3$ 球面とし、$W$、$W'$ を $\partial W=\partial W'=\Sigma$ となる滑らかでコンパクトな spin $4$ 次元多様体とする。
1. $W$ は spin なので交叉形式は偶である(FNOP25 Proposition 8.4、pp. 61–62)。境界がホモロジー球面なので交叉形式はユニモジュラである(Kir89 Ch. XI §3、pp. 66–67)。thm-rok-mod8 により $\sigma(W)$ は $8$ の倍数である。
2. $W$ と $-W'$(向きを反転したもの)を $\Sigma$ に沿って貼り、滑らかな閉 $4$ 次元多様体 $X:=W\cup_\Sigma(-W')$ を作る(境界に沿った貼り合わせと連結和 の定理「貼り合わせと向き」)。
$X$ が spin であることを示す。$\mathbb{Z}/2$ 係数の Mayer–Vietoris 完全列
$$
H^1(\Sigma;\mathbb{Z}/2)\to H^2(X;\mathbb{Z}/2)\to H^2(W;\mathbb{Z}/2)\oplus H^2(W';\mathbb{Z}/2)
$$
で、$H_1(\Sigma)=0$ と普遍係数定理から $H^1(\Sigma;\mathbb{Z}/2)=\operatorname{Hom}(H_1(\Sigma),\mathbb{Z}/2)=0$ なので、右の写像(制限の組)は単射である。$w_2(X)$ の $W$、$W'$ への制限はそれぞれの接束の $w_2$ なので $0$ であり、単射性から $w_2(X)=0$ である。
Novikov の加法性(Kir89 Ch. II Theorem 5.3、p. 29)と $\sigma(-W')=-\sigma(W')$ により $\sigma(X)=\sigma(W)-\sigma(W')$ である。thm-rok-main により $\sigma(X)\equiv0\pmod{16}$ なので、$\sigma(W)\equiv\sigma(W')\pmod{16}$ である。$\square$
1 と 2 により $\sigma(W)/8\bmod2$ は $W$ によらない。$\mu(-\Sigma)=\mu(\Sigma)$ である($\sigma(-W)=-\sigma(W)$ で、$\mathbb{Z}/2$ では $-1=1$)。
$\mu$ は、ホモロジー $3$ 球面を「ホモロジー同境」(両端への包含がホモロジーの同型を引き起こす滑らかな同境)で割った群 $\Theta^3_{\mathbb{Z}}$ から $\mathbb{Z}/2$ への全射準同型(Rokhlin 準同型)を与える(Man16 §2.3、pp. 5–6)。$\mu(P)=1$ なので $\Theta^3_{\mathbb{Z}}\ne0$ である。この準同型の核との拡大が分裂しないことが、$5$ 次元以上の三角形分割できない多様体の存在と同値になる(三角形分割予想とManolescuの定理)。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 滑らか(位相多様体にする) | $E_8$ 多様体($\sigma=8$) | $\sigma(M)\equiv0\pmod{16}$ |
| spin | $\mathbb{C}P^2$($\sigma=1$) | $\sigma(M)\equiv0\pmod{16}$ |
| 閉 | plumbing $\Pi$($\sigma=8$、境界は $P$) | $\sigma(M)\equiv0\pmod{16}$ |
| $H_1$ に位数 $2$ の元がないこと(cor-rok-even) | 偶な交叉形式で $\sigma=8$ の滑らかな閉多様体 | 偶な交叉形式なら $\sigma\equiv0\pmod{16}$ |
| (逆は成り立たない) | 交叉形式 $E_8\oplus E_8$ の単連結な閉位相多様体 | 偶で $\sigma\equiv0\pmod{16}$ なら滑らかな構造がある |
1 行目:E8多様体 は単連結な閉位相 $4$ 次元多様体で、交叉形式は $E_8$ 形式、したがって偶で spin、$\sigma=8$ である。破れるのは滑らかさで、実際 thm-rok-main からこの多様体は滑らかな構造をもたない(FNOP25 Theorem 8.10、p. 65)。
2 行目:$\mathbb{C}P^2$ の交叉形式は $\langle1\rangle$ で(FNOP25 Example 8.2 (2)、p. 61)、奇なので spin でない(spin なら偶)。$\sigma=1$ は $16$ の倍数でない。
3 行目:$\Pi$ は滑らかでコンパクトな spin 多様体で $\sigma(\Pi)=8$ だが、境界 $P$ が空でない。prop-rok-poincare の証明が示すように、この境界をホモロジー球体でふさぐことはできない。
4 行目:偶な交叉形式と $\sigma=8$ をもつ向き付けられた滑らかな閉 $4$ 次元多様体がある(FNOP25 Remark 8.9、p. 65。Habegger らの例)。Rokhlin の定理によりこれは spin でなく、$H_1$ は位数 $2$ の元をもつ。偶な交叉形式は $w_2=0$ を意味しないので、cor-rok-even の $H_1$ の条件は外せない。
5 行目:交叉形式 $E_8\oplus E_8$ の単連結な閉位相 $4$ 次元多様体は存在し(FNOP25 Theorem 12.2、p. 93)、偶で $\sigma=16$ なので Rokhlin の定理とは矛盾しないが、Donaldson の定理により滑らかな構造をもたない(FNOP25 Example 9.4、p. 74)。Rokhlin の条件は滑らかさの必要条件にすぎない。
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