完全距離化可能空間(completely metrizable space)とは、位相に適合する完備な距離をもつ位相空間のことである。完備性は距離の性質だが、このような距離が存在することは位相的性質であり、開区間 $(0,1)$ や無理数全体は完全距離化可能、有理数全体 $\mathbb{Q}$ はそうでない。閉部分空間・開部分空間・可算積・$G_\delta$-集合に遺伝し、逆に距離化可能空間の完全距離化可能な部分空間は $G_\delta$-集合である。完全距離化可能空間は Baire 空間であり、可分なものは Polish 空間と呼ばれる。
前提知識: 距離化可能空間, 完備距離空間, G_δ-集合, Baireのカテゴリー定理
距離空間の完備性は距離の性質であって、位相の性質ではない。開区間 $(0,1)$ は通常の距離では完備でないが、完備な $\mathbb{R}$ と同相である。そこで「位相を変えずに完備な距離に取り替えられるか」を問うと、これは位相だけで決まる性質になる。この性質をもつ空間が完全距離化可能空間である。
この記事では、完全距離化可能空間の定義と例を述べ、閉部分空間・開部分空間・可算積・$G_\delta$-集合への遺伝を証明する。逆に、距離化可能空間の中で完全距離化可能な部分空間は必ず $G_\delta$-集合であることも示す。これにより、完全距離化可能空間の中の部分集合については「完全距離化可能 $\Leftrightarrow$ $G_\delta$」という判定が得られる。最後に、可分なものとして Polish 空間を定義し、Baire 空間との関係を表にまとめる。
位相空間 $X$ が完全距離化可能(completely metrizable)であるとは、$X$ の位相に適合する距離 $d$ で、$(X,d)$ が完備距離空間になるものが存在することをいう。このとき $X$ を完全距離化可能空間という。完備距離化可能空間ともいう。
完全距離化可能空間は距離化可能空間であり、同相写像で保たれる。Mun00 §43 は同じ概念を topologically complete と呼ぶ。
2 の $(0,1)$ は、同じ位相を定める 2 つの距離の一方だけが完備になる例である(距離化可能空間 の例「反例:完備性は位相的性質でない」)。
完全距離化可能空間の可算族 $(X_n)_{n\ge1}$ の直積 $\prod_n X_n$ は、直積位相について完全距離化可能である。
各 $X_n$ の完備な適合距離 $d_n$ をとり、$\delta_n:=\min\{d_n,1\}$、$D(x,y):=\sum_n 2^{-n}\delta_n(x_n,y_n)$ とおく。$D$ は直積位相に適合する距離である(距離化可能空間 の定理「距離化可能空間の可算積」)。$\delta_n$ と $d_n$ は $1$ 未満の距離で一致するので、$\delta_n$ についての Cauchy 列は $d_n$ についても Cauchy で、$\delta_n$ も完備である。
$(x^{(k)})_k$ を $D$ についての Cauchy 列とする。$\delta_n(x^{(k)}_n,x^{(l)}_n)\le 2^nD(x^{(k)},x^{(l)})$ なので、各成分 $(x^{(k)}_n)_k$ は $\delta_n$ について Cauchy であり、極限 $x_n\in X_n$ をもつ。$x:=(x_n)_n$ とおく。$\varepsilon>0$ に対し $2^{-N}<\varepsilon/2$ となる $N$ をとり、$k$ を大きくとって $n\le N$ の各成分で $\delta_n(x^{(k)}_n,x_n)<\varepsilon/2$ とすれば、
$$
D(x^{(k)},x)\le\sum_{n\le N}2^{-n}\cdot\frac{\varepsilon}{2}+\sum_{n>N}2^{-n}<\frac{\varepsilon}{2}+2^{-N}<\varepsilon
$$
となる。よって $x^{(k)}\to x$ であり、$D$ は完備である。$\square$
完全距離化可能空間 $X$ の開集合 $U$ は、部分空間として完全距離化可能である。
$U=X$ なら明らかなので $U\ne X$ とし、$X$ の完備な適合距離 $d$ をとる。$F:=X\setminus U$ は空でない閉集合なので、$\rho(x):=d(x,F)$ は連続で、$U$ の上で正である。$\varphi:=1/\rho\colon U\to\mathbb{R}$ も連続である。
$$
f\colon U\to X\times\mathbb{R},\qquad f(x):=(x,\varphi(x))
$$
は連続な単射で、逆写像 $f(U)\to U$ は第 1 成分への射影の制限なので連続である。よって $f$ は埋め込みである。
$f(U)$ が $X\times\mathbb{R}$ の閉集合であることを示す。$f(x_k)=(x_k,\varphi(x_k))\to(x,t)$ とする。$\varphi(x_k)\to t$ なので $\varphi(x_k)$ は有界であり、ある $c>0$ について $\rho(x_k)\ge c$ がすべての $k$ で成り立つ。$\rho$ は連続なので $\rho(x)\ge c>0$、すなわち $x\in U$ であり、$\varphi$ の連続性から $t=\varphi(x)$ である。よって $(x,t)=f(x)\in f(U)$ である。
$X\times\mathbb{R}$ は prop-cms-product(有限積の場合)により完全距離化可能で、その閉部分空間 $f(U)$ も完全距離化可能である(ex-cms-basic の 3)。$U$ は $f(U)$ と同相なので完全距離化可能である。$\square$
主定理は次の 2 つである。1 つ目は Alexandroff(可分な場合)と Hausdorff による(Eng89 Theorem 4.3.23、p. 274)。
完全距離化可能空間 $X$ の G_δ-集合 $A$ は、部分空間として完全距離化可能である。
$A=\bigcap_{n\ge1}U_n$(各 $U_n$ は $X$ の開集合)と書く。lem-cms-open により各 $U_n$ は完全距離化可能であり、prop-cms-product により $P:=\prod_n U_n$ も完全距離化可能である。対角写像
$$
\Delta\colon A\to P,\qquad \Delta(a):=(a,a,a,\dots)
$$
は連続な単射で、逆写像は第 1 成分への射影の制限なので連続である。よって $\Delta$ は埋め込みである。
$\Delta(A)$ が $P$ の閉集合であることを示す。$\Delta(a_k)\to u=(u_1,u_2,\dots)\in P$ とすると、各成分で $a_k\to u_n$($X$ の中で)となる。$X$ は Hausdorff なので極限は一意であり、$u_1=u_2=\cdots=:u_0$ である。$u_0=u_n\in U_n$ がすべての $n$ で成り立つので $u_0\in A$、$u=\Delta(u_0)\in\Delta(A)$ である。
よって $A$ は完全距離化可能空間 $P$ の閉部分空間 $\Delta(A)$ と同相であり、完全距離化可能である。$\square$
逆向きの主張が次の定理である。証明は、完備な距離で直径の小さい開集合を可算回とって交わりを作る。
$X$ を距離化可能空間、$M\subset X$ をその部分空間とする。$M$ が完全距離化可能ならば、$M$ は $X$ の $G_\delta$-集合である。
$X$ の適合距離を $d$、$M$ の部分空間位相に適合する完備な距離を $\rho$ とし、$\overline M$ を $X$ での閉包とする。$n\ge1$ について
$$
O_n:=\{x\in\overline M\mid x\text{ の }X\text{ での開近傍 }V\text{ で } \operatorname{diam}_\rho(V\cap M)<1/n\text{ となるものがある}\}
$$
とおく。$O_n$ は $\overline M$ の開集合である(上の $V$ の点はすべて $O_n$ に入る)。
段 1:$M\subset O_n$。$m\in M$ の $\rho$-開球 $B_\rho(m,\tfrac1{3n})$ は $M$ の開集合なので、$X$ の開集合 $W$ により $W\cap M=B_\rho(m,\tfrac1{3n})$ と書ける。$V:=W$ とすれば $\operatorname{diam}_\rho(V\cap M)\le\tfrac2{3n}<\tfrac1n$ である。
段 2:$\bigcap_nO_n\subset M$。$x\in\bigcap_nO_n$ をとり、$O_n$ の定義の開近傍 $V_n$ を選ぶ。$W_n:=V_1\cap\dots\cap V_n\cap B_d(x,\tfrac1n)$ は $x$ の開近傍で、$x\in\overline M$ なので点 $m_n\in W_n\cap M$ がとれる。$k\ge n$ なら $m_k,m_n\in V_n\cap M$ なので $\rho(m_k,m_n)<\tfrac1n$ であり、$(m_n)$ は $\rho$ について Cauchy 列である。$\rho$ は完備なので $\rho$-極限 $m\in M$ をもつ。$\rho$ は $M$ の部分空間位相を定めるので、$X$ の中でも $m_n\to m$ である。一方 $d(m_n,x)<\tfrac1n$ なので $m_n\to x$ である。$X$ は Hausdorff なので $x=m\in M$ である。
段 3:以上より $M=\bigcap_nO_n$ である。$O_n=G_n\cap\overline M$($G_n$ は $X$ の開集合)と書け、距離空間の閉集合 $\overline M$ は $G_\delta$-集合である(G_δ-集合 の命題「距離空間の閉集合は $G_\delta$-集合」)。よって $M=\bigcap_nG_n\cap\overline M$ は $G_\delta$-集合である。$\square$
Eng89 Theorem 4.3.24(p. 274)は同じ主張を連続写像の $G_\delta$-集合への延長定理(同 Theorem 4.3.20)から導いている。上の証明は延長定理を経ずに直接示したものである。
完全距離化可能空間 $X$ の部分集合 $A$ について、$A$ が部分空間として完全距離化可能であることと、$A$ が $X$ の $G_\delta$-集合であることは同値である。
$\Leftarrow$ は thm-cms-gdelta、$\Rightarrow$ は thm-cms-converse($X$ は距離化可能)による。$\square$
無理数全体 $\mathbb{P}:=\mathbb{R}\setminus\mathbb{Q}$ は $\mathbb{R}$ の $G_\delta$-集合である(G_δ-集合 の例「無理数全体」)。よって thm-cms-gdelta により完全距離化可能である。$\mathbb{P}$ の通常の距離 $|x-y|$ は完備でない(無理数の列で有理数に収束するものがある)ので、完備な距離は別に作る必要がある。prf-cms-gdelta の構成はその距離を与える。
完全距離化可能空間は Baire 空間である。すなわち、稠密な開集合の可算族の共通部分は稠密である。
稠密性と開集合は位相だけで決まるので、完備な適合距離を 1 つとって Baireのカテゴリー定理 の定理「Baire のカテゴリー定理」の 1 を当てればよい。$\square$
$\mathbb{Q}$ は距離化可能だが、完全距離化可能でない。$\mathbb{Q}$ は Baire 空間でない(Baireのカテゴリー定理 の例「有理数全体は Baire 空間でない」)ので、prop-cms-baire に反するからである。
thm-cms-converse からも同じ結論が出る。$\mathbb{Q}$ が完全距離化可能なら $\mathbb{R}$ の $G_\delta$-集合になるが、$\mathbb{Q}=\bigcap_nG_n$($G_n$ は開)とすると各 $G_n$ は $\mathbb{Q}$ を含むので稠密であり、$G_n\cap(\mathbb{R}\setminus\{q\})$($q\in\mathbb{Q}$)の全体は稠密な開集合の可算族で、その共通部分は $\mathbb{Q}\setminus\mathbb{Q}=\emptyset$ となって Baire のカテゴリー定理に反する。
$\mathbb{R}^2$ の部分空間
$$
Y:=\bigl(\mathbb{R}\times(0,1)\bigr)\cup\bigl(\mathbb{Q}\times\{0\}\bigr)
$$
を考える。開集合 $U:=\mathbb{R}\times(0,1)$ は $Y$ で稠密で、それ自身完全距離化可能($\mathbb{R}^2$ の開集合、lem-cms-open)なので Baire 空間である。$Y$ の稠密な開集合 $G_n$ をとると、$G_n\cap U$ は $U$ の稠密な開集合なので $\bigcap_n G_n\cap U$ は $U$ で稠密、したがって $Y$ で稠密である。よって $Y$ は Baire 空間である。一方 $\mathbb{Q}\times\{0\}=Y\cap(\mathbb{R}\times\{0\})$ は $Y$ の閉集合で $\mathbb{Q}$ と同相なので、$Y$ が完全距離化可能なら $\mathbb{Q}$ も完全距離化可能になり、ex-cms-rationals に反する。
可分空間である完全距離化可能空間を Polish 空間(Polish space)という。
$\mathbb{R}^n$、$[0,1]$、Cantor集合、無理数全体 $\mathbb{P}$、Baire 空間 $\mathbb{N}^{\mathbb{N}}$(Baire空間(記述集合論))、Hilbert 立方体 $[0,1]^{\mathbb{N}}$ はどれも Polish 空間である。可分性は部分空間と可算積に遺伝する(可分距離化可能空間は第 2 可算で、第 2 可算性は部分空間と可算積に遺伝する)ので、cor-cms-criterion と prop-cms-product から次が従う。
1・2 は上に述べたとおりである。3:可分距離化可能空間は第 2 可算な $T_3$ 空間なので $Q$ に埋め込める(Tychonoffの埋め込み定理 の定理「Urysohnの埋め込み定理」)。埋め込みの像を $X'$ とする。$Q$ はコンパクト距離空間なので完備であり、完全距離化可能である。$X$ が Polish なら $X'$ も完全距離化可能なので、thm-cms-converse により $X'$ は $Q$ の $G_\delta$-集合である。逆に $X'$ が $Q$ の $G_\delta$-集合なら thm-cms-gdelta により完全距離化可能であり、$X$ は可分なので Polish である。$\square$
Eng89 Corollary 4.3.25(p. 274)は 3 と同じ趣旨を「$\mathbb{R}^{\aleph_0}$ の閉部分空間に埋め込める」という形で述べている。
thm-cms-gdelta・thm-cms-converse・prop-cms-baire の仮定を 1 つずつ外すと、次の反例がある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 部分集合が $G_\delta$(thm-cms-gdelta) | $\mathbb{Q}\subset\mathbb{R}$ | 部分空間が完全距離化可能 |
| 全体が距離化可能(thm-cms-converse) | 順序数空間 $[0,\omega_1]$ の一点集合 $\{\omega_1\}$ | 完全距離化可能な部分空間が $G_\delta$-集合 |
| 完全距離化可能(prop-cms-baire の逆向き) | ex-cms-baire-not-cm の $Y$ | Baire 空間なら完全距離化可能 |
| 位相を変えない距離の取り替え | ex-cms-basic の $(0,1)$ と通常の距離 | 完全距離化可能な空間のどの適合距離も完備 |
2 行目の $\{\omega_1\}$ は一点なので完全距離化可能であるが、$[0,\omega_1]$ の $G_\delta$-集合ではない(順序数空間 の命題「1 点が $G_\delta$ でない」)。$[0,\omega_1]$ は距離化可能でない。
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