常微分方程式

同義語:ordinary differential equationODE

概要

常微分方程式(ordinary differential equation)とは、1 つの実数の変数 $t$ の未知関数 $x(t)$ とその導関数の間の関係式であり、正規形 $x'=f(t,x)$ に初期値 $x(t_0)=x_0$ を与えたものを初期値問題という。$f$ が連続で $x$ について局所 Lipschitz 条件を満たせば解は局所的に存在してただ 1 つに決まり、最大解の存在区間が有界なら解は定義域の端へ逃げる。線形の方程式の解は区間全体で存在して斉次方程式の解空間は $n$ 次元であり、定数係数なら行列の指数関数で $x(t)=e^{(t-t_0)A}x_0$ と書ける。条件を外すと、一意性($x'=3x^{2/3}$)や大域存在($x'=x^2$)が崩れる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 微分積分学の基本定理, Lipschitz連続, 指数関数

高校での出発点:変化の規則から関数を決める

放射性物質の量 $x(t)$ は、そのときの量に比例する速さで減る。比例定数を $k>0$ とすると $x'(t)=-kx(t)$ である。ばねにつながれたおもりの位置 $x(t)$ は、位置に比例する力で引き戻されるので、単位をそろえると $x''(t)=-x(t)$ を満たす。どちらも「未知の関数とその導関数の間の関係」だけが分かっていて、そこから関数そのものを決めたい。$x'=-kx$ の解は $x(t)=Ce^{-kt}$ に限り、$x''=-x$ の解は $x(t)=A\cos t+B\sin t$ に限る(微分方程式としての指数関数・三角関数)。定数 $C$、$A$、$B$ は、最初の量や最初の位置と速度(初期値)を与えると決まる。
このように、1 つの実数の変数 $t$ の未知関数と、その導関数の関係を表す式を常微分方程式という。高校では解の公式を求めることが中心だが、一般の方程式では解を式で書けないことが多い。そこで大学では、式で解けるかどうかとは別に、次の問いを調べる。

  1. 解は存在するか。初期値を決めれば 1 つに決まるか。→ thm-ode-picard、cor-ode-uniqueness
  2. 初期値を少し変えると、解はどれだけ変わるか。→ thm-ode-dependence
  3. 解はどこまで延びるか。途中で終わるとしたら、どのように終わるか。→ thm-ode-maximal、thm-ode-blowup
  4. 線形の方程式の解は、どんな形をしているか。→ thm-ode-linear、thm-ode-matrix-exp-solution
  5. 条件を外すと何が崩れるか。→「反例:条件を外すと崩れること」の節
    高校での見方この記事の言葉
    $y'=ky$、$y''=-y$ を解く常微分方程式、解
    最初の量・最初の位置と速度初期値問題
    解はこれに限る解の一意性
    2 階の方程式1 階の連立方程式に直せる
    $y=Ce^{kx}$行列の指数関数 $e^{tA}x_0$
    未知関数が 2 つ以上の変数の関数で、偏導関数の関係を表す式は偏微分方程式といい、この記事では扱わない。個々の方程式の解き方(変数分離、積分因子など)は 変数分離形の微分方程式、1階線形微分方程式と積分因子(高校数学) にある。

定義

以下、$\mathbb{R}^n$ のベクトル $x$ の長さを $\lvert x\rvert$(Euclid のノルム)で表す。区間はとくに断らなければ 2 点以上を含むものとする。

常微分方程式と正規形

常微分方程式

$k\ge1$、$n\ge1$ とする。実数 $t$ の $\mathbb{R}^n$ 値の未知関数 $x(t)$ と、その $k$ 階までの導関数の間の関係式
$$ F\bigl(t,x,x',\dots,x^{(k)}\bigr)=0 $$
を $k$ 階の常微分方程式(ordinary differential equation)という。$n\ge2$ のときは連立の常微分方程式ともいう。最高階の導関数について解かれた形
$$ x^{(k)}=f\bigl(t,x,x',\dots,x^{(k-1)}\bigr) $$
を正規形という。ここで $U\subset\mathbb{R}\times(\mathbb{R}^n)^k$ は開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}^n$ は連続写像である。正規形の方程式の解とは、開区間 $I$ 上で $k$ 回微分可能な写像 $x\colon I\to\mathbb{R}^n$ で、すべての $t\in I$ について $\bigl(t,x(t),\dots,x^{(k-1)}(t)\bigr)\in U$ かつ $x^{(k)}(t)=f\bigl(t,x(t),\dots,x^{(k-1)}(t)\bigr)$ となるものをいう。

以下では主に 1 階の正規形を扱う。後の prop-ode-reduction のとおり、$k$ 階の方程式は 1 階の連立方程式に直せるからである。

1 階の方程式・初期値問題・自励系・線形方程式

$U\subset\mathbb{R}\times\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}^n$ を連続写像とする。
(R1) 開区間 $I$ 上の微分可能な写像 $x\colon I\to\mathbb{R}^n$ で、すべての $t\in I$ について $(t,x(t))\in U$ かつ $x'(t)=f(t,x(t))$ となるものを、方程式 $x'=f(t,x)$ の $I$ 上の解という。
(R2) $(t_0,x_0)\in U$ を与えて、$t_0\in I$ かつ $x(t_0)=x_0$ となる解を求める問題を初期値問題といい、$x'=f(t,x)$、$x(t_0)=x_0$ と書く。
(R3) $f$ が $t$ によらない($U=\mathbb{R}\times W$、$f(t,x)=g(x)$)とき、方程式 $x'=g(x)$ を自励系という。
(R4) 開区間 $J$ 上の連続な行列値関数 $A\colon J\to M_n(\mathbb{R})$ とベクトル値関数 $b\colon J\to\mathbb{R}^n$ によって $f(t,x)=A(t)x+b(t)$($U=J\times\mathbb{R}^n$)と書けるとき、方程式を線形といい、$b=0$ のとき斉次という。

解 $x$ は微分可能なので連続であり、$x'(t)=f(t,x(t))$ は連続関数の合成だから連続である。したがって解は自動的に $C^1$ 級である。解は「平面($n=1$ なら $(t,x)$ 平面)の各点に傾き $f(t,x)$ が指定されていて、その傾きに沿って進む曲線」と見ることができる(図 1)。

積分方程式への書き換え

$I$ を $t_0$ を含む開区間、$x\colon I\to\mathbb{R}^n$ を連続写像で、すべての $t\in I$ について $(t,x(t))\in U$ となるものとする。$x$ が初期値問題 $x'=f(t,x)$、$x(t_0)=x_0$ の解であることと、すべての $t\in I$ で
$$ x(t)=x_0+\int_{t_0}^{t}f\bigl(s,x(s)\bigr)\,ds $$
が成り立つことは同値である(ベクトル値の積分は成分ごとにとる)。

$x$ が解なら、上で見たとおり $x'(s)=f(s,x(s))$ は連続なので、微分積分学の基本定理 の定理「原始関数による積分の計算」から $x(t)-x(t_0)=\int_{t_0}^tf(s,x(s))\,ds$ である。逆に積分の式が成り立つなら、被積分関数 $s\mapsto f(s,x(s))$ は連続なので、同じ記事の定理「積分の上端についての微分」から右辺は $t$ で微分可能で、導関数は $f(t,x(t))$ である。また $t=t_0$ とすれば $x(t_0)=x_0$ である。$\square$

この書き換えは、微分の条件を積分の条件に替えるので、不等式で評価しやすくなる。以下の証明の多くはこの形を使う。

高階の方程式と 1 階の連立方程式

def-ode-general の正規形 $x^{(k)}=f\bigl(t,x,\dots,x^{(k-1)}\bigr)$ に対し、$y=(y_1,\dots,y_k)\in(\mathbb{R}^n)^k$ について
$$ G(t,y):=\bigl(y_2,\ y_3,\ \dots,\ y_k,\ f(t,y_1,\dots,y_k)\bigr) $$
とおく($G\colon U\to(\mathbb{R}^n)^k$ は連続)。開区間 $I$ 上で次が成り立つ。
(R1) $x$ が $x^{(k)}=f(t,x,\dots,x^{(k-1)})$ の解なら、$y:=\bigl(x,x',\dots,x^{(k-1)}\bigr)$ は $y'=G(t,y)$ の解である。
(R2) 逆に $y=(y_1,\dots,y_k)$ が $y'=G(t,y)$ の解なら、$x:=y_1$ は $k$ 回微分可能で $x^{(k)}=f(t,x,\dots,x^{(k-1)})$ の解であり、$y=\bigl(x,x',\dots,x^{(k-1)}\bigr)$ である。
とくに、$x(t_0),x'(t_0),\dots,x^{(k-1)}(t_0)$ を指定する $k$ 階の初期値問題は、$y(t_0)$ を指定する 1 階の初期値問題と同じものである。

要点:$y'=G(t,y)$ を成分で書くと $y_1'=y_2$、…、$y_{k-1}'=y_k$、$y_k'=f(t,y)$ であり、前の $k-1$ 本の式は $y_j=y_1^{(j-1)}$ と同じことである。

詳しい証明を開く

(i):$y$ の各成分は微分可能で、$y_j'=x^{(j)}=y_{j+1}$($j< k$)、$y_k'=x^{(k)}=f(t,y_1,\dots,y_k)$ である。これは $y'=G(t,y)$ にほかならない。$(t,y(t))\in U$ は解の定義の条件そのものである。

(ii):$j$ についての帰納法で、$y_1$ は $j$ 回微分可能で $y_1^{(j-1)}=y_j$($1\le j\le k$)となる:$j=1$ は自明であり、$y_1^{(j-1)}=y_j$ で $y_j$ が微分可能なら $y_1^{(j)}=y_j'=y_{j+1}$ である。最後に $y_1^{(k)}=\bigl(y_1^{(k-1)}\bigr)'=y_k'=f(t,y_1,\dots,y_k)=f\bigl(t,x,\dots,x^{(k-1)}\bigr)$ である。$\square$

たとえば単振動 $x''=-x$ は、$y=(x,x')$ とおくと $y_1'=y_2$、$y_2'=-y_1$、すなわち行列 $A=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}$ による線形の自励系 $y'=Ay$ になる。

延長と最大解

解は開区間の上で考えるので、同じ初期値問題の解でも定義域の広さが違うものがある。

延長と最大解

$x'=f(t,x)$ の解 $x\colon I\to\mathbb{R}^n$ と $\tilde x\colon\tilde I\to\mathbb{R}^n$ について、$I\subset\tilde I$ かつ $\tilde x$ の $I$ への制限が $x$ に等しいとき、$\tilde x$ を $x$ の延長という。$I\ne\tilde I$ となる延長をもたない解を最大解といい、その定義域を最大存在区間という。最大存在区間が $\mathbb{R}$ 全体である解を大域解という。

例

指数関数と単振動

$x'=x$ の $\mathbb{R}$ 上の解は $x(t)=Ce^t$($C$ は定数)に限る。実際、解 $x$ について $\bigl(e^{-t}x(t)\bigr)'=e^{-t}(x'-x)=0$ なので $e^{-t}x(t)$ は定数である。初期値 $x(0)=x_0$ を与えると $C=x_0$ に決まる。同様に $x''=-x$ の解は $A\cos t+B\sin t$ に限り、$x(0)$ と $x'(0)$ で $A$、$B$ が決まる(微分方程式としての指数関数・三角関数 の定理「定数係数の 2 階線形微分方程式の一般解」)。どちらも後の thm-ode-matrix-exp-solution の特別な場合である。

ロジスティック方程式

人口の増え方のモデル $x'=x(1-x)$ は自励系である。初期値 $x(0)=x_0$ の解は
$$ x(t)=\frac{x_0e^t}{1-x_0+x_0e^t} $$
で与えられる(分母 $D(t):=1-x_0+x_0e^t$ が $0$ でない範囲で)。

解であることの確かめを開く

$D'(t)=x_0e^t$ なので $x'=\frac{x_0e^tD-x_0e^t\cdot x_0e^t}{D^2}=x\cdot\frac{D-x_0e^t}{D}=x(1-x)$ であり、$x(0)=x_0/D(0)=x_0$ である。

  • $0\le x_0\le1$ なら $D(t)=(1-x_0)+x_0e^t>0$ がすべての $t$ で成り立つので、解は $\mathbb{R}$ 全体で定義される。$x_0=0,1$ では定数解 $0$、$1$ になり、$0< x_0<1$ では $t\to\infty$ で $1$ に、$t\to-\infty$ で $0$ に近づく。
  • $x_0>1$ なら $D(t)=0$ となるのは $t=\log\bigl(1-\frac1{x_0}\bigr)<0$ であり、解はそこから右にしか延びない($t$ を減らすと $+\infty$ に発散する)。$x_0<0$ なら $D(t)=0$ となるのは $t=\log\bigl(1-\frac1{x_0}\bigr)>0$ であり、解はその時刻で $-\infty$ に発散する。
    後の cor-ode-uniqueness から、異なる解のグラフは交わらない。そのため $0< x_0<1$ から出た解は、定数解 $0$ と $1$ にはさまれたまま動く。

ロジスティック方程式 x' = x(1 − x) の傾きの場と解曲線。x = 0 と x = 1 は定数解で、その間の解は 0 から 1 へ移る。x(0) = 1.5 の解は左の点線で、x(0) = −0.1 の解は右の点線で発散する ロジスティック方程式 x' = x(1 − x) の傾きの場と解曲線。x = 0 と x = 1 は定数解で、その間の解は 0 から 1 へ移る。x(0) = 1.5 の解は左の点線で、x(0) = −0.1 の解は右の点線で発散する
図 1 の短い線分は、各点 $(t,x)$ での傾き $x(1-x)$ を表す。解曲線はどの点でもこの線分に接する。

有限の時間で発散する解

$x'=x^2$、$x(0)=x_0>0$ の解は $x(t)=\frac{x_0}{1-x_0t}$ であり、最大存在区間は $\bigl(-\infty,\frac1{x_0}\bigr)$ である。実際 $x'(t)=\frac{x_0^2}{(1-x_0t)^2}=x(t)^2$ であり、$t\to\frac1{x_0}$ で $x(t)\to+\infty$ となるので、$\frac1{x_0}$ を越えて延長できない(延長があれば $\frac1{x_0}$ で連続なので有界になる)。右辺 $x^2$ は $\mathbb{R}$ 上いたるところ定義された多項式なのに、解は有限の時間で終わる(図 2)。初期値が大きいほど早く発散する。

x' = x² の解 x(0) = 0.5、1、2。点線の時刻 t = 1/x(0) で発散する x' = x² の解 x(0) = 0.5、1、2。点線の時刻 t = 1/x(0) で発散する

存在と一意性

Picard–Lindelöf の定理

解の一意性には、右辺が $x$ について急に変わりすぎないことが要る。次の条件を使う。

局所 Lipschitz 条件

$U\subset\mathbb{R}\times\mathbb{R}^n$ を開集合、$f\colon U\to\mathbb{R}^n$ を連続写像とする。$f$ が $x$ について局所 Lipschitz 条件を満たすとは、各点 $(t_0,x_0)\in U$ に対して、ある $\eta>0$、$r>0$、$L\ge0$ があって、$V:=[t_0-\eta,t_0+\eta]\times\{x\mid\lvert x-x_0\rvert\le r\}\subset U$ かつ
$$ \lvert f(t,x)-f(t,y)\rvert\le L\lvert x-y\rvert\qquad\bigl((t,x),(t,y)\in V\bigr) $$
となることをいう。

$f$ が $U$ 上 $C^1$ 級(すべての偏導関数が存在して連続)なら、この条件は満たされる。$V$ はコンパクトなので $x$ についての偏導関数は $V$ 上で有界であり、$V$ の各切り口 $\{\lvert x-x_0\rvert\le r\}$ は凸なので、$t$ を止めて $x$ と $y$ を結ぶ線分の上で平均値の定理を使えばよい(Lipschitz連続 の命題「連続微分可能な写像の局所Lipschitz性」と同じ議論)。線形の方程式 $f(t,x)=A(t)x+b(t)$ も満たす(thm-ode-linear の証明で確かめる)。

Picard–Lindelöf の定理

$f\colon U\to\mathbb{R}^n$ が連続で $x$ について局所 Lipschitz 条件を満たすなら、各 $(t_0,x_0)\in U$ に対してある $\varepsilon>0$ があり、初期値問題 $x'=f(t,x)$、$x(t_0)=x_0$ の解が $(t_0-\varepsilon,t_0+\varepsilon)$ 上に存在する。

証明の所在

この定理はこの記事では証明しない。$U$ を $V$ の内部 $(t_0-\eta,t_0+\eta)\times\{x\mid\lvert x-x_0\rvert< r\}$ に取り替えれば、Lipschitz連続 の定理「初期値問題の解の存在と一意性」の仮定が満たされ、存在はそこから従う。証明(積分方程式 lem-ode-integral の右辺が定める写像に縮小写像の原理を使う)と、存在する時間の評価は Tes12 Theorem 2.2 にある:$[t_0,t_0+T]\times\{\lvert x-x_0\rvert\le\delta\}\subset U$ の上で $\lvert f\rvert\le M$ なら、解は少なくとも $[t_0,t_0+\min\{T,\delta/M\}]$ で存在する($t\le t_0$ の側も同様)。一意性は、次の Grönwall の不等式から cor-ode-uniqueness で証明する。

$f$ が連続でありさえすれば、解の存在は言える(Peano の存在定理、Tes12 Theorem 2.19)。ただし一意性は一般に成り立たない(「反例:条件を外すと崩れること」の節)。

Grönwall の不等式と初期値への依存

Grönwall の不等式

$\psi\colon[t_0,t_1]\to\mathbb{R}$ を連続関数、$\alpha\in\mathbb{R}$、$\beta\ge0$ とし、
$$ \psi(t)\le\alpha+\beta\int_{t_0}^{t}\psi(s)\,ds\qquad(t_0\le t\le t_1) $$
が成り立つとする。このとき $\psi(t)\le\alpha e^{\beta(t-t_0)}$($t_0\le t\le t_1$)である。

要点:$\Phi(t):=\int_{t_0}^t\psi(s)\,ds$ とおくと仮定は $\Phi'\le\alpha+\beta\Phi$ となり、積分因子 $e^{-\beta(t-t_0)}$ を掛けて積分すれば $\beta\Phi(t)\le\alpha\bigl(e^{\beta(t-t_0)}-1\bigr)$ を得る。これを仮定に戻せばよい。

詳しい証明を開く

$\beta=0$ なら仮定そのものである。$\beta>0$ とする。$\psi$ は連続なので $\Phi'=\psi$ であり(微分積分学の基本定理)、仮定は $\Phi'(t)\le\alpha+\beta\Phi(t)$ と書ける。そこで

$$\frac{d}{dt}\Bigl(e^{-\beta(t-t_0)}\Phi(t)\Bigr)=e^{-\beta(t-t_0)}\bigl(\Phi'(t)-\beta\Phi(t)\bigr)\le\alpha e^{-\beta(t-t_0)}$$

であり、$t_0$ から $t$ まで積分すると($\Phi(t_0)=0$)$e^{-\beta(t-t_0)}\Phi(t)\le\frac\alpha\beta\bigl(1-e^{-\beta(t-t_0)}\bigr)$、すなわち $\beta\Phi(t)\le\alpha\bigl(e^{\beta(t-t_0)}-1\bigr)$ となる。仮定に戻すと $\psi(t)\le\alpha+\beta\Phi(t)\le\alpha e^{\beta(t-t_0)}$ である。$\square$

積分の中に未知の $\psi$ があるまま評価できるのがこの不等式の要点である。$\psi(t)=\alpha e^{\beta(t-t_0)}$ のとき仮定は等号で成り立つので、評価はこれ以上よくならない。

初期値への連続依存性

$x,y\colon I\to\mathbb{R}^n$ を $x'=f(t,x)$ の同じ開区間 $I$ 上の 2 つの解とし、$t_0\in I$ とする。ある $L\ge0$ があって、すべての $t\in I$ で $\lvert f(t,x(t))-f(t,y(t))\rvert\le L\lvert x(t)-y(t)\rvert$ が成り立つなら、
$$ \lvert x(t)-y(t)\rvert\le\lvert x(t_0)-y(t_0)\rvert\,e^{L\lvert t-t_0\rvert}\qquad(t\in I) $$
である。とくに $f$ が $x$ について大域的に Lipschitz 連続($U=J\times\mathbb{R}^n$ で、すべての $(t,u),(t,v)\in U$ について $\lvert f(t,u)-f(t,v)\rvert\le L\lvert u-v\rvert$)なら、この仮定は満たされる。

$t\ge t_0$ とする。lem-ode-integral から
$$ x(t)-y(t)=x(t_0)-y(t_0)+\int_{t_0}^{t}\bigl(f(s,x(s))-f(s,y(s))\bigr)\,ds $$
であり、$\psi(t):=\lvert x(t)-y(t)\rvert$(連続)について $\psi(t)\le\psi(t_0)+L\int_{t_0}^t\psi(s)\,ds$ となる。lem-ode-gronwall から $\psi(t)\le\psi(t_0)e^{L(t-t_0)}$ である。$t< t_0$ のときは、$\tilde x(s):=x(-s)$、$\tilde y(s):=y(-s)$ が方程式 $z'=-f(-s,z)$ の解であり、右辺が同じ $L$ の評価を満たすので、$s=-t\ge-t_0$ について同じ議論を使えばよい。$\square$

$\lvert x(t_0)-y(t_0)\rvert$ が小さければ、有界な時間の範囲では解の差も小さい。一方、差は時間とともに最大で指数関数的に広がりうる。$x'=x$ の解 $x_0e^t$ と $y_0e^t$ の差は $\lvert x_0-y_0\rvert e^t$ であり、評価の等号が成り立つ(Tes12 §2.4 の注意と同じ)。

解の一意性

$f$ が $x$ について局所 Lipschitz 条件を満たすとする。初期値問題 $x'=f(t,x)$、$x(t_0)=x_0$ の 2 つの解 $x\colon I\to\mathbb{R}^n$、$y\colon J\to\mathbb{R}^n$ は、$I\cap J$ の上で一致する。

$S:=\{t\in I\cap J\mid x(t)=y(t)\}$ とおく。$t_0\in S$ なので $S$ は空でなく、$x-y$ が連続なので $S$ は $I\cap J$ の中で閉じている。$S$ が開集合であることを示す。$s\in S$ とし、点 $(s,x(s))\in U$ に局所 Lipschitz 条件の $V=[s-\eta,s+\eta]\times\{\lvert u-x(s)\rvert\le r\}$ と $L$ をとる。$x$、$y$ は連続で $x(s)=y(s)$ なので、ある $\eta'\in(0,\eta]$ があって、$\lvert t-s\rvert<\eta'$ なら $t\in I\cap J$ かつ $(t,x(t)),(t,y(t))\in V$ である。開区間 $(s-\eta',s+\eta')$ の上で thm-ode-dependence の仮定が成り立つので、$\lvert x(t)-y(t)\rvert\le\lvert x(s)-y(s)\rvert e^{L\lvert t-s\rvert}=0$ である。よって $(s-\eta',s+\eta')\subset S$ である。$I\cap J$ は区間なので連結であり、空でない開かつ閉な部分集合 $S$ は全体に等しい。$\square$

同じ理由で、局所 Lipschitz 条件の下では、異なる初期値から出た解のグラフは交わらない(交わる点を初期値とみると 2 つの解は一致してしまう)。

最大解と爆発

最大解の存在

最大解の存在と一意性

$f$ が連続で $x$ について局所 Lipschitz 条件を満たすなら、各 $(t_0,x_0)\in U$ について、初期値問題 $x'=f(t,x)$、$x(t_0)=x_0$ の最大解がただ 1 つ存在する。その最大存在区間 $(T_-,T_+)$($-\infty\le T_-< t_0< T_+\le\infty$)は開区間であり、同じ初期値問題の任意の解は最大解の制限である。

要点:初期値問題の解をすべて集め、定義域の和集合の上に貼り合わせる。一意性 cor-ode-uniqueness から、重なる部分で値が食い違わない。

詳しい証明を開く

$\mathcal{S}$ を、この初期値問題の解(開区間上で定義されたもの)全体とする。thm-ode-picard から $\mathcal{S}$ は空でない。$x\in\mathcal{S}$ の定義域を $I_x$ と書き、$I:=\bigcup_{x\in\mathcal{S}}I_x$ とおく。各 $I_x$ は $t_0$ を含む開区間なので、$I$ も $t_0$ を含む開区間である。

$t\in I$ に対し、$t\in I_x$ となる $x\in\mathcal{S}$ をとって $x_{\max}(t):=x(t)$ と定める。cor-ode-uniqueness から、2 つの解 $x,y\in\mathcal{S}$ は $I_x\cap I_y$ の上で一致するので、この値は $x$ の選び方によらない。各 $t\in I$ の近くでは $x_{\max}$ はある解 $x\in\mathcal{S}$ と一致する($I_x$ は開区間なので $t$ の近傍を含む)から、$x_{\max}$ は $I$ 上の解である。作り方から、すべての $x\in\mathcal{S}$ は $x_{\max}$ の制限であり、$x_{\max}$ の延長もまた $\mathcal{S}$ に属するので定義域は $I$ に含まれる。よって $x_{\max}$ は最大解である。最大解 $\tilde x$ がもう 1 つあれば、$\tilde x\in\mathcal{S}$ なので $\tilde x$ は $x_{\max}$ の制限であり、$\tilde x$ の最大性から $\tilde x=x_{\max}$ である。$\square$

爆発の二者択一

最大存在区間が有界になるのは、解が $U$ の「端」に向かうときに限る。

爆発の二者択一

$f$ が連続で $x$ について局所 Lipschitz 条件を満たすとし、$x$ を初期値問題 $x'=f(t,x)$、$x(t_0)=x_0$ の最大解、$(T_-,T_+)$ をその最大存在区間とする。$T_+<\infty$ なら、$[t_0,T_+]\times C\subset U$ となる任意のコンパクト集合 $C\subset\mathbb{R}^n$ について、ある $t_C< T_+$ があって、$t_C< t< T_+$ のとき $x(t)\notin C$ となる。$T_-$ の側も同様である。
とくに $U=\mathbb{R}\times\mathbb{R}^n$ で $T_+<\infty$ なら、$t\to T_+$ で $\lvert x(t)\rvert\to\infty$ である。

結論を否定して、$T_+<\infty$ であり、あるコンパクト集合 $C$($[t_0,T_+]\times C\subset U$)と $t_m\to T_+$($t_0\le t_m< T_+$)があって $x(t_m)\in C$ となるとする。$C$ はコンパクトなので、部分列をとって $x(t_m)\to y\in C$ としてよい。$(T_+,y)\in U$ である。
段 1(極限の存在).$t\to T_+$ で $x(t)\to y$ となることを示す。$U$ は開集合なので、ある $\delta>0$ で $V:=[T_+-\delta,T_+]\times\{\lvert u-y\rvert\le\delta\}\subset U$ となり、連続関数 $\lvert f\rvert$ はコンパクト集合 $V$ 上で最大値 $M$ をとる。

詳細

そうでないとすると、ある $\gamma\in(0,\delta)$ と $\tau_m\to T_+$ があって $\lvert x(\tau_m)-y\rvert\ge\gamma$ となる。$t_m\to T_+$、$x(t_m)\to y$、$\tau_m\to T_+$ なので、番号を取り直して、すべての $m$ で $t_m>T_+-\delta$、$\lvert x(t_m)-y\rvert<\gamma$、$t_m<\tau_m$ としてよい。中間値の定理($t\mapsto\lvert x(t)-y\rvert$ に使う)から、$t_m$ より後で初めて $\lvert x(t)-y\rvert=\gamma$ となる時刻 $\sigma_m\in(t_m,\tau_m]$ があり、$[t_m,\sigma_m]$ の上では $(t,x(t))\in V$ である。lem-ode-integral から

$$\gamma=\lvert x(\sigma_m)-y\rvert\le\lvert x(\sigma_m)-x(t_m)\rvert+\lvert x(t_m)-y\rvert\le\int_{t_m}^{\sigma_m}\lvert f(s,x(s))\rvert\,ds+\lvert x(t_m)-y\rvert\le M(\sigma_m-t_m)+\lvert x(t_m)-y\rvert$$

であり、右辺は $m\to\infty$ で $0$ に近づく。これは $\gamma>0$ に反する。(ベクトル値の積分の絶対値の評価 $\bigl\lvert\int g\bigr\rvert\le\int\lvert g\rvert$ は、$\int g$ の方向の単位ベクトル $e$ との内積 $e\cdot\int g=\int e\cdot g\le\int\lvert g\rvert$ から従う。)


段 2(延長).thm-ode-picard から、初期値問題 $z'=f(t,z)$、$z(T_+)=y$ の解 $z$ がある $\varepsilon>0$ について $(T_+-\varepsilon,T_++\varepsilon)$ 上に存在する。$(T_-,T_++\varepsilon)$ 上の写像 $w$ を、$t< T_+$ で $w(t):=x(t)$、$t\ge T_+$ で $w(t):=z(t)$ と定める。段 1 から $w$ は $T_+$ で連続である。$t< T_+$ で $x'(t)=f(t,x(t))\to f(T_+,y)$($t\to T_+$)なので、各成分に平均値の定理を使うと $w$ の $T_+$ での左微分係数は $f(T_+,y)$ であり、右微分係数も $z'(T_+)=f(T_+,y)$ である。よって $w$ は $T_+$ で微分可能で、$(T_-,T_++\varepsilon)$ 上の解であり、$x$ の真の延長になる。これは $x$ が最大解であることに反する。
後半:$U=\mathbb{R}\times\mathbb{R}^n$ なら、任意の $R>0$ について $C:=\{\lvert u\rvert\le R\}$ は条件を満たすので、$t$ が $T_+$ に十分近ければ $\lvert x(t)\rvert>R$ である。$\square$

ex-ode-blowup の $x'=x^2$ では $U=\mathbb{R}\times\mathbb{R}$ で $T_+=\frac1{x_0}<\infty$ であり、確かに $x(t)\to\infty$ となっている。逆に言えば、解が有界な範囲にとどまることを示せれば、解は延び続ける。これが次の節で線形の方程式の解が区間全体で存在することを示す方法である。定理の形と証明の方針は Tes12 Lemma 2.14・Corollary 2.15・Corollary 2.16 と同じである。

線形の方程式

行列 $B\in M_n(\mathbb{R})$ の大きさを $\|B\|_{\mathrm{op}}:=\sup_{\lvert u\rvert=1}\lvert Bu\rvert$ で測る。Cauchy–Schwarz の不等式から $\lvert Bu\rvert\le\bigl(\sum_{i,j}B_{ij}^2\bigr)^{1/2}\lvert u\rvert$ なので $\|B\|_{\mathrm{op}}$ は有限で、成分の連続関数 $\bigl(\sum_{i,j}B_{ij}^2\bigr)^{1/2}$ 以下である。定義から $\lvert Bu\rvert\le\|B\|_{\mathrm{op}}\lvert u\rvert$、$\|BC\|_{\mathrm{op}}\le\|B\|_{\mathrm{op}}\|C\|_{\mathrm{op}}$ であり、各成分について $\lvert B_{ij}\rvert=\lvert e_i\cdot Be_j\rvert\le\|B\|_{\mathrm{op}}$ である($e_j$ は標準基底)。

線形方程式の解の大域存在と解空間

$J$ を開区間、$A\colon J\to M_n(\mathbb{R})$、$b\colon J\to\mathbb{R}^n$ を連続とし、線形の方程式 $x'=A(t)x+b(t)$ を考える。
(R1) 任意の $t_0\in J$、$x_0\in\mathbb{R}^n$ について、初期値問題 $x'=A(t)x+b(t)$、$x(t_0)=x_0$ の最大解は $J$ 全体で定義される。
(R2) 斉次方程式 $x'=A(t)x$ の $J$ 上の解全体 $\mathcal{V}$ は $\mathbb{R}$ 上のベクトル空間であり、各 $t_0\in J$ について $x\mapsto x(t_0)$ は線形同型写像 $\mathcal{V}\to\mathbb{R}^n$ である。とくに $\dim\mathcal{V}=n$ である。
(R3) 非斉次方程式の $J$ 上の解全体は、1 つの解 $x_p$ を使って $\{x_p+x\mid x\in\mathcal{V}\}$ と書ける。

局所 Lipschitz 条件:$(t_0,x_0)\in J\times\mathbb{R}^n$ について $[t_0-\eta,t_0+\eta]\subset J$ となる $\eta>0$ をとると、そこで $\| A(t)\|_{\mathrm{op}}\le a$ となる $a$ があり(連続関数の最大値)、$\lvert f(t,u)-f(t,v)\rvert=\lvert A(t)(u-v)\rvert\le a\lvert u-v\rvert$ である。よって thm-ode-maximal と thm-ode-blowup が使える。
(i):最大存在区間を $(T_-,T_+)$ とし、$T_+<\sup J$ と仮定する。$[t_0,T_+]\subset J$ の上で $\| A(t)\|_{\mathrm{op}}\le a$、$\lvert b(t)\rvert\le\beta$ となる定数をとる。lem-ode-integral から $t_0\le t< T_+$ で
$$ \lvert x(t)\rvert\le\lvert x_0\rvert+\int_{t_0}^{t}\bigl(a\lvert x(s)\rvert+\beta\bigr)\,ds\le\bigl(\lvert x_0\rvert+\beta(T_+-t_0)\bigr)+a\int_{t_0}^{t}\lvert x(s)\rvert\,ds $$
であり、lem-ode-gronwall($[t_0,t]$ の上で使う)から $\lvert x(t)\rvert\le R:=\bigl(\lvert x_0\rvert+\beta(T_+-t_0)\bigr)e^{a(T_+-t_0)}$ である。すると $C:=\{\lvert u\rvert\le R\}$ について $[t_0,T_+]\times C\subset U=J\times\mathbb{R}^n$ であり、$x(t)$ は $T_+$ の直前でも $C$ にとどまるので、thm-ode-blowup に反する。よって $T_+=\sup J$ であり、$T_-$ の側も同様である。
(ii):$x,y\in\mathcal{V}$、$c\in\mathbb{R}$ なら $(x+cy)'=A(t)x+cA(t)y=A(t)(x+cy)$ なので $x+cy\in\mathcal{V}$ である。$x\mapsto x(t_0)$ は線形である。(i) から任意の $x_0$ に対して $J$ 上の解があるので全射であり、cor-ode-uniqueness から $x(t_0)=0$ となる解は $0$ に限るので単射である。
(iii):$x_p$ と $x$ が非斉次方程式の解なら $(x-x_p)'=A(t)(x-x_p)$ なので $x-x_p\in\mathcal{V}$ であり、逆に $x_p+x$($x\in\mathcal{V}$)は非斉次方程式の解である。$\square$

(ii) の同型から、$\mathcal{V}$ の基底 $x^{(1)},\dots,x^{(n)}$(基本解系)を並べた行列 $\Phi(t)=\bigl(x^{(1)}(t),\dots,x^{(n)}(t)\bigr)$ はすべての $t\in J$ で正則であり、斉次方程式の解はすべて $\Phi(t)c$($c\in\mathbb{R}^n$)と書ける。高校で学ぶ「一般解=特殊解+同次方程式の解」は (iii) の $n=1$ の場合である(1階線形微分方程式と積分因子(高校数学) の系「一般解 = 特殊解 + 同次方程式の解」)。

定数係数の方程式と行列の指数関数

$n=1$ の $x'=ax$ の解は $e^{ta}x_0$ である。係数が定数の行列 $A$ の場合も、指数関数を行列に広げると同じ形で書ける。行列の大きさは前節の $\|B\|_{\mathrm{op}}$ で測る。

行列の指数関数

$A\in M_n(\mathbb{R})$ に対して
$$ e^{A}:=\sum_{k=0}^{\infty}\frac1{k!}A^k=I+A+\frac12A^2+\frac16A^3+\cdots $$
と定め、行列の指数関数という($\exp A$ とも書く)。和は成分ごとの級数の和である。

行列の指数関数の性質

$A,B\in M_n(\mathbb{R})$ とする。
(R1) $e^A$ の各成分の級数は絶対収束し、$\|e^A\|_{\mathrm{op}}\le e^{\|A\|_{\mathrm{op}}}$ である。
(R2) $t\mapsto e^{tA}$ は $\mathbb{R}$ 上微分可能で、$\dfrac{d}{dt}e^{tA}=Ae^{tA}=e^{tA}A$ である。
(R3) $e^{(s+t)A}=e^{sA}e^{tA}$ であり、$e^{tA}$ は正則で $(e^{tA})^{-1}=e^{-tA}$ である。
(R4) $AB=BA$ なら $e^{A+B}=e^Ae^B$ である。また正則な $P$ について $e^{PAP^{-1}}=Pe^AP^{-1}$ である。

要点:成分は収束半径が無限大の冪級数なので項別に微分でき、(iii)・(iv) は両辺が同じ線形の初期値問題の解であることから、一意性 cor-ode-uniqueness で従う。

詳しい証明を開く

(i):$\|A^k\|_{\mathrm{op}}\le\|A\|_{\mathrm{op}}^k$ なので $\lvert(A^k)_{ij}\rvert/k!\le\|A\|_{\mathrm{op}}^k/k!$ であり、右辺の和 $e^{\|A\|_{\mathrm{op}}}$ と比べて各成分は絶対収束する。部分和の $\|\cdot\|_{\mathrm{op}}$ は $\sum_{k\le m}\|A\|_{\mathrm{op}}^k/k!$ 以下で、$\lvert Bu\rvert$ は $B$ の成分について連続なので、極限でも $\|e^A\|_{\mathrm{op}}\le e^{\|A\|_{\mathrm{op}}}$ である。

(ii):$e^{tA}$ の $(i,j)$ 成分は冪級数 $\sum_kc_kt^k$、$c_k:=(A^k)_{ij}/k!$ である。$\lvert t\rvert\le R$ で、項別に微分した級数 $\sum_{k\ge1}kc_kt^{k-1}$ の各項は $\|A\|_{\mathrm{op}}^kR^{k-1}/(k-1)!$ 以下なので一様収束し(一様収束 の定理「Weierstrassの優級数判定法」)、一様収束 の定理「一様収束と微分の交換」から項別に微分できる。よって $\frac{d}{dt}e^{tA}=\sum_{k\ge1}\frac{t^{k-1}}{(k-1)!}A^k$ であり、これは $A\sum_j\frac{t^j}{j!}A^j=Ae^{tA}$ にも、$e^{tA}A$ にも等しい(有限和で $A$ を外に出してから極限をとる)。

(iii):$s$ を固定し、$X(t):=e^{(s+t)A}$、$Y(t):=e^{sA}e^{tA}$ とおく。(ii) と合成関数の微分から $X'=AX$、$Y'=e^{sA}Ae^{tA}=Ae^{sA}e^{tA}=AY$($e^{sA}$ と $A$ は可換)であり、$X(0)=Y(0)=e^{sA}$ である。$X$、$Y$ の各列は同じ初期値をもつ $x'=Ax$ の解なので、cor-ode-uniqueness から $X=Y$ である。$s=-t$ とすれば $e^{-tA}e^{tA}=e^{0}=I$ である。

(iv):$AB=BA$ なら $B$ は $A^k$ と可換なので $e^{tA}B=Be^{tA}$ である。$Z(t):=e^{tA}e^{tB}$ は積の微分法から $Z'=Ae^{tA}e^{tB}+e^{tA}Be^{tB}=(A+B)Z$、$Z(0)=I$ を満たし、$e^{t(A+B)}$ も同じ初期値問題を満たすので、両者は一致する。$t=1$ とすればよい。後半は $(PAP^{-1})^k=PA^kP^{-1}$ から部分和が $P(\cdot)P^{-1}$ で移り合い、極限でも等しい。$\square$

定数係数の線形方程式の解

$A\in M_n(\mathbb{R})$、$t_0\in\mathbb{R}$、$x_0\in\mathbb{R}^n$ とする。
(R1) 初期値問題 $x'=Ax$、$x(t_0)=x_0$ の解は $\mathbb{R}$ 上の $x(t)=e^{(t-t_0)A}x_0$ だけである。
(R2) $b\colon\mathbb{R}\to\mathbb{R}^n$ が連続なら、初期値問題 $x'=Ax+b(t)$、$x(t_0)=x_0$ の解は
$$ x(t)=e^{(t-t_0)A}x_0+\int_{t_0}^{t}e^{(t-s)A}b(s)\,ds $$
だけである(定数変化法の公式)。

(i):prop-ode-matrix-exp の性質 (ii) から $x'(t)=Ae^{(t-t_0)A}x_0=Ax(t)$ であり、$x(t_0)=e^{0}x_0=x_0$ である。解が 1 つしかないことは cor-ode-uniqueness(右辺 $Ax$ は局所 Lipschitz 条件を満たす)と thm-ode-maximal から従う。
(ii):右辺を $e^{tA}$ と積分の積に書き直して、積の微分法と微分積分学の基本定理を使う。

詳細

prop-ode-matrix-exp の性質 (iii) から $x(t)=e^{tA}\Bigl(e^{-t_0A}x_0+\int_{t_0}^te^{-sA}b(s)\,ds\Bigr)$ と書ける。括弧の中は 微分積分学の基本定理 の定理「積分の上端についての微分」(成分ごと)により微分可能で、導関数は $e^{-tA}b(t)$ である。積の微分法から $x'(t)=Ae^{tA}(\cdots)+e^{tA}e^{-tA}b(t)=Ax(t)+b(t)$ であり、$x(t_0)=x_0$ である。


一意性は (i) と同じである。$\square$

単振動と回転

$A=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix}$ では $A^2=-I$ なので、偶数番目と奇数番目の項をまとめて
$$ e^{tA}=\Bigl(1-\frac{t^2}{2!}+\frac{t^4}{4!}-\cdots\Bigr)I+\Bigl(t-\frac{t^3}{3!}+\cdots\Bigr)A=\begin{pmatrix}\cos t&\sin t\\-\sin t&\cos t\end{pmatrix} $$
となる。prop-ode-reduction で $x''=-x$ を $y=(x,x')$ の方程式 $y'=Ay$ に直すと、解は $y(t)=e^{tA}y(0)$ であり、第 1 成分から $x(t)=x(0)\cos t+x'(0)\sin t$ を得る。$e^{tA}$ は時計回りに角 $t$ だけ回す回転の行列で、$(x,x')$ は円の上を回る。

Jordan 細胞の指数関数

$m$ 次の Jordan 細胞 $J=\lambda I+N$($N$ は対角線のすぐ上が $1$、ほかが $0$ の行列で $N^m=0$)では、$\lambda I$ と $N$ が可換なので prop-ode-matrix-exp の性質 (iv) から
$$ e^{tJ}=e^{\lambda t}e^{tN}=e^{\lambda t}\Bigl(I+tN+\frac{t^2}{2!}N^2+\cdots+\frac{t^{m-1}}{(m-1)!}N^{m-1}\Bigr) $$
である($e^{t\lambda I}=e^{\lambda t}I$)。たとえば $m=2$ では $e^{tJ}=e^{\lambda t}\begin{pmatrix}1&t\\0&1\end{pmatrix}$ であり、解に $te^{\lambda t}$ の形の項が現れる。一般の $A$ は複素数の範囲で $A=PJ'P^{-1}$($J'$ は Jordan 行列)と書けるので(Jordan標準形)、$e^{tA}=Pe^{tJ'}P^{-1}$ は Jordan 細胞ごとの計算に帰着する(複素行列の指数関数も同じ級数で定義し、上の性質は同じ証明で成り立つ)。$A$ が対角化できる場合は $e^{tA}=P\,\mathrm{diag}(e^{\lambda_1t},\dots,e^{\lambda_nt})P^{-1}$ である(対角化)。

反例:条件を外すと崩れること

存在・一意性・大域存在の定理の仮定を外すと、次のように結論が崩れる。

外す条件反例成り立たなくなること
$x$ についての局所 Lipschitz 条件$x'=3x^{2/3}$、$x(0)=0$解の一意性(無数の解がある)
線形(または $\lvert f(t,x)\rvert$ が $\lvert x\rvert$ の 1 次式で抑えられること)$x'=x^2$、$x(0)=1$解の大域存在($t=1$ で発散)
$f$ の連続性$x'=\operatorname{sgn}^{*}(x)$(下の ex-ode-no-solution)、$x(0)=0$解の存在($t\ge0$ の側に解がない)
反例:一意性が崩れる

$f(x)=3x^{2/3}$($x^{2/3}:=(x^{1/3})^2$、$x^{1/3}$ は実数の立方根)は $\mathbb{R}$ 上連続だが、$0$ の近くで Lipschitz 条件を満たさない。初期値問題 $x'=f(x)$、$x(0)=0$ には $x\equiv0$ と $x(t)=t^3$ の 2 つの解がある(Lipschitz連続 の例「反例:Lipschitz条件のない初期値問題」)。さらに各 $c\ge0$ について
$$ x_c(t):=\begin{cases}0&(t\le c)\\(t-c)^3&(t>c)\end{cases} $$
も解である。$t\ne c$ では明らかで、$t=c$ では左右の微分係数がともに $0=f(0)$ である。したがって解は無数にある。満たす性質は「$f$ の連続性」(したがって Peano の定理による存在)、満たさない性質は「$x$ についての局所 Lipschitz 条件」、破れる結論は cor-ode-uniqueness である。

反例:大域存在が崩れる

ex-ode-blowup の $x'=x^2$、$x(0)=1$ の解 $x(t)=\frac1{1-t}$ は $t\to1$ で発散する。右辺 $x^2$ は $C^1$ 級なので局所 Lipschitz 条件は満たすが、$\lvert x^2\rvert$ は $\lvert x\rvert$ の 1 次式では抑えられない。thm-ode-linear の証明では、この 1 次式の評価が Grönwall の不等式を通じて解を有界に保っていた。$\lvert f(t,x)\rvert\le M+L\lvert x\rvert$ の形の評価があれば、同じ証明で解は大域的に存在する(Tes12 Theorem 2.17)。

反例:右辺が連続でないと解がない

$\operatorname{sgn}^{*}(x):=1$($x\le0$)、$:=-1$($x>0$)と定め、初期値問題 $x'=\operatorname{sgn}^{*}(x)$、$x(0)=0$ を考える。$\varepsilon>0$ と $[0,\varepsilon)$ 上の関数 $x$ で、$x(0)=0$ かつすべての $t\in[0,\varepsilon)$ で $x'(t)=\operatorname{sgn}^{*}(x(t))$($t=0$ では右微分係数)となるものは存在しない。
実際、そのような $x$ があれば $x'(0)=\operatorname{sgn}^{*}(0)=1>0$ なので、十分小さい $t_1>0$ について $0< t\le t_1$ で $x(t)>0$ である。すると $0< t\le t_1$ で $x'(t)=-1$ であり、$[0,t_1]$ で平均値の定理を使うと $x(t_1)=x(0)+x'(\xi)t_1=-t_1<0$ となって矛盾する。一方 $t\le0$ の側では $x(t)=t$ が解である。$\operatorname{sgn}^{*}$ は $0$ で連続でないので、Peano の定理の仮定が満たされていない。満たさない性質は「$f$ の連続性」、破れる結論は「解の存在」(thm-ode-picard と Peano の定理)である。

補足

自励系はベクトル場の流れとして幾何的に見ることができ、解を式で書けない方程式も数値的に追うことができる。

流れと数値解法を開く
  • 自励系 $x'=g(x)$ の解は、$\mathbb{R}^n$ の各点にベクトル $g(x)$ を置いたもの(ベクトル場)に沿って進む曲線である。初期値 $x_0$ から出た最大解を $\varphi_t(x_0)$ と書くと、両辺が定義される範囲で $\varphi_{s+t}=\varphi_s\circ\varphi_t$ が成り立つ(両辺が $s$ の関数として同じ初期値問題の解であることから、一意性で従う)。多様体の上でのこの見方は ベクトル場 の定理「流れの基本定理」にある。線形の場合の流れが $\varphi_t=e^{tA}$ であり、性質 $e^{(s+t)A}=e^{sA}e^{tA}$ はその特別な場合である。
  • 小さな刻み幅で傾きに沿って進む近似(Euler 法、Euler法(高校数学))で解を数値的に追える。Peano の存在定理の証明は、この近似の極限をとる(Tes12 §2.7)。

関連項目

参考文献

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