進位相に関する形式的滑らかさと正則性(formal smoothness for adic topologies and regularity)とは、$I$ 進位相を入れた代数について $I$ のある冪を消す準同型だけを持ち上げの対象にした形式的滑らかさと、それが Noether 局所環では幾何的正則性と一致するという Grothendieck の定理のことである。体 $k$ を含む Noether 局所環 $(R,\mathfrak m)$ が $k$ 上 $\mathfrak m$ 進的に形式的に滑らかなら $R$ は正則であり、剰余体が $k$ 上分離的なら逆も成り立って、完備化は冪級数環と同型になる。一般には、$\mathfrak m$ 進的に形式的に滑らかであることと $k$ 上幾何的に正則であることが同値である。
前提知識: 形式的滑らかさ, 体の拡大の形式的滑らかさ, 完備化, 正則局所環, Cohenの構造定理
進位相に関する形式的滑らかさ(formal smoothness for adic topologies)とは、イデアル $I$ による $I$ 進位相を入れた代数 $B$ について、冪零な厚みをもつ環への準同型のうち $I$ のある冪を消すもの(連続なもの)だけを持ち上げの対象にした形式的滑らかさである。Noether 局所環 $(R,\mathfrak m)$ には極大イデアル $\mathfrak m$ による $\mathfrak m$ 進位相を入れて考える。この記事の主題は、体 $k$ を含む Noether 局所環 $R$ について、$R$ が $k$ 上 $\mathfrak m$ 進位相で形式的に滑らかであることと、$R$ が $k$ 上幾何的に正則であることが同値になるという Grothendieck の定理である。とくに剰余体が $k$ 上分離的なら($k$ が完全体ならつねに)、これは $R$ が正則局所環であることと同値になる。
位相を入れる理由は、形式的冪級数環 $k[\![t]\!]$ や完備化のような環を「無限小の意味で滑らか」と扱いたいからである。位相を入れない形式的滑らかさは、$R/\mathfrak m^\nu$ を経由しない準同型まで持上げを要求する。$\mathfrak m$ 進位相を入れると、試験に使う準同型は $R/\mathfrak m^\nu$ を経由するものに限られ、$R$ とその完備化 $\widehat R$ の区別もなくなる。
環は単位元をもつ可換環とする。環 $B$ のイデアル $I$ について、$\{I^\nu\}_{\nu\ge1}$ を $0$ の近傍の基本系とする位相を $I$ 進位相という(完備化 の定義「$I$ 進位相」)。離散位相をもつ環 $D$ への環準同型 $u\colon B\to D$ が連続であることは、ある $\nu$ について $u(I^\nu)=0$ となることと同値である。
$A$ を環、$B$ を $A$ 代数、$I\subset B$ をイデアルとし、$B$ に $I$ 進位相を入れる。$B$ が $A$ 上 $I$ 進的に形式的に滑らか($I$-smooth)であるとは、任意の $A$ 代数 $C$、その冪零イデアル $N$、$A$ 代数の準同型 $u\colon B\to C/N$ で $C/N$ の離散位相について連続なもの(ある $\nu$ で $u(I^\nu)=0$)に対し、$A$ 代数の準同型 $\tilde u\colon B\to C$ で射影 $\pi\colon C\to C/N$ との合成が $u$ になるもの($u$ の持上げ)が存在することをいう。持上げが高々 $1$ つのとき $I$ 進的に形式的不分岐、ちょうど $1$ つのとき $I$ 進的に形式的エタールという。$(R,\mathfrak m)$ が局所環で $I=\mathfrak m$ のとき、$\mathfrak m$ 進的に形式的に滑らか($\mathfrak m$-smooth)などという。
定義について 3 点注意する。
要点:1・2 は持上げを順に作るか、テンソル積の普遍性で読み替える。3 は $\widehat R/\widehat{\mathfrak m}^\nu\cong R/\mathfrak m^\nu$ から、試験に使う連続な準同型が両者で一致することによる。4 は冪零元への代入で切断した多項式環を経由させる。
1:$u\colon B'\to C/N$ を連続な $A$ 代数の準同型とすると、$u\circ g$ は $u(I'^\nu)=0$ から $u(g(I^{a\nu}))=0$ を満たし連続である。$B$ の性質により $A$ 代数の準同型 $w\colon B\to C$ で $\pi\circ w=u\circ g$ となるものがある。$w$ によって $C$ を $B$ 代数とみると、$u$ は $B$ 代数の準同型であり、$B'$ の性質により $B$ 代数の準同型 $\tilde u\colon B'\to C$ に持ち上がる。これは $A$ 代数の準同型でもある。
2:$B'=B\otimes_AA'$ とし、$u\colon B'\to C/N$ を連続な $A'$ 代数の準同型とする($C$ は $A'$ 代数)。$u$ と $B\to B'$ の合成は連続な $A$ 代数の準同型なので、$A$ 代数の準同型 $w\colon B\to C$ に持ち上がる。$w$ と構造射 $A'\to C$ からテンソル積の普遍性で $A'$ 代数の準同型 $\tilde u\colon B'\to C$ が定まり、$\pi\circ\tilde u$ と $u$ は $b\otimes1$ と $1\otimes a'$ の上で一致するので等しい。
3:Noether 局所環では $\widehat{\mathfrak m}=\mathfrak m\widehat R$ であり、自然な写像は同型 $R/\mathfrak m^\nu\cong\widehat R/\widehat{\mathfrak m}^\nu$ を与える(完備化 の命題「完備化の完全性と $\hat{A}\otimes_AM$」の 3 と命題「完備化が局所環であること」)。よって離散環 $D$ への連続な $A$ 代数の準同型 $\widehat R\to D$ と $R\to D$ は、ともにある $R/\mathfrak m^\nu$ からの準同型と一対一に対応し、この対応は持上げを持上げに移す。
4:$P=A[\![t_1,\dots,t_n]\!]$、$\mathfrak t=(t_1,\dots,t_n)$ とし、$u\colon P\to C/N$ を $u(\mathfrak t^\nu)=0$ をみたす $A$ 代数の準同型、$N^r=0$ とする。$u(t_i)$ の持上げ $c_i\in C$ をとると $\pi(c_i^\nu)=u(t_i)^\nu=0$ より $c_i^\nu\in N$、したがって $c_i^{\nu r}=0$ である。$M=\nu r$ とおくと、$P$ から $A[t]/(t_1^M,\dots,t_n^M)$ への切断は環準同型で、$t_i\mapsto c_i$ はそこから $C$ への $A$ 代数の準同型を定める。合成を $\tilde u$ とすると、$\pi\circ\tilde u$ と $u$ はともに $\mathfrak t^{nM}$ を消すので $P/\mathfrak t^{nM}=A[t]/\mathfrak t^{nM}$ を経由し、そこで $A$ と $t_i$ の上で一致するから等しい。
1・2 は Mat89 定理 28.1・28.2(pp. 214–215)、3・4 は同 §28 の例 1・例 2(p. 215)にある。3 から、$R\to\widehat R$ は $\mathfrak m$ 進的に形式的エタールであり、$\mathfrak m$ 進的な形式的滑らかさは完備化だけで決まる。体 $k$ に対する $k[\![t]\!]$ の場合の 4 は 形式的滑らかさ の例「形式的冪級数環」でも扱われている。
Noether 局所環 $(R,\mathfrak m,\kappa)$ と部分体 $k\subset R$ について、$R$ が $k$ 上幾何的に正則であるとは、$k$ の任意の有限次拡大体 $k'$ について $R\otimes_kk'$ が正則環であることをいう(幾何的正則性 の定義「幾何的正則性」)。$k'=k$ ととれば、幾何的に正則なら正則である。
$(R,\mathfrak m,\kappa)$ を Noether 局所環、$k\subset R$ を部分体とし、$R$ に $\mathfrak m$ 進位相を入れる。
この記事では 1・2 と、3 の「形式的に滑らかなら幾何的に正則」を完全に証明する。3 の逆向きは、剰余体 $\kappa$ が $k$ 上分離的な場合(標数 $0$ の場合を含む)には 2 から従う。標数 $p$ で $\kappa/k$ が分離的でない場合の逆向きはこの記事では証明しない。その証明は Mat89 定理 28.7(pp. 219–220、G. Faltings による証明)、EGA4 $0_{\mathrm{IV}}$(22.5.8)(p. 204)にある。4 は 1・2 と、完全体上の拡大がすべて分離的であること(分離生成拡大 の系「完全体上の拡大」)から従う。1・2 は Mat89 §28 の補題 1(pp. 216–217)、EGA4 $0_{\mathrm{IV}}$(19.6.4)・(19.6.5)(p. 102)に対応する。
1 は「無限小の持上げがいつでもできる局所環は、次元と同じ個数の座標をもつ」という主張であり、2 はその逆を、剰余体の分離性のもとで冪級数環への同型として与える。剰余体の分離性は 2 の十分条件だが必要条件ではなく、正しい必要十分条件が 3 の幾何的正則性である(ex-afs-inseparable-residue)。
段階 0:素体と完備な場合への帰着。 $k_0\subset k$ を素体($\mathbb Q$ または $\mathbb F_p$)とする。$k_0$ は完全体なので $k/k_0$ は分離的であり(分離生成拡大 の系「完全体上の拡大」)、$k$ は $k_0$ 上(離散位相で)形式的に滑らかである(体の拡大の形式的滑らかさ の定理「体の拡大の形式的滑らかさ」)。prop-afs-basic の 1 により $R$ は $k_0$ 上 $\mathfrak m$ 進的に形式的に滑らかであり、同じ命題の 3 により $\widehat R$ もそうである。$\widehat R$ は Noether 完備局所環で、$\dim\widehat R=\dim R$ であり、$R$ が正則であることと $\widehat R$ が正則であることは同値である(完備化 の定理「Noether 環の完備化は Noether 環」)。よって、$R$ は完備で $k=k_0$ と仮定してよい。
段階 1:2 次までの同一視。 $n=\dim_\kappa\mathfrak m/\mathfrak m^2$ とし、$y_1,\dots,y_n\in\mathfrak m$ を $\mathfrak m/\mathfrak m^2$ の基底の持上げとする(Nakayamaの補題により $\mathfrak m=(y_1,\dots,y_n)$)。$R$ は体を含む完備局所環なので係数体 $K'\subset R$ をもつ(Cohenの構造定理 の定理「等標数完備局所環の係数体」)。剰余写像が与える同型を $\rho\colon K'\xrightarrow{\sim}\kappa$ とする。$P=\kappa[\![X_1,\dots,X_n]\!]$、$\mathfrak X=(X_1,\dots,X_n)$ とおく。$R/\mathfrak m^2$ の元は $c+\sum_ia_i\bar y_i$($c,a_i\in K'$)とただ一通りに書け、$(\mathfrak m/\mathfrak m^2)^2=0$ なので、
$$\theta_2\Bigl(c+\sum_ia_i\bar y_i\Bigr)=\rho(c)+\sum_i\rho(a_i)X_i$$
は環の同型 $R/\mathfrak m^2\cong P/\mathfrak X^2$ を与える。環準同型はすべて素体 $k_0$ 上の準同型なので、$R\to R/\mathfrak m^2\xrightarrow{\theta_2}P/\mathfrak X^2$ は連続な $k_0$ 代数の準同型である。これも $\theta_2$ と書く。
段階 2:持上げの列。 $r\ge2$ について、全射 $P/\mathfrak X^{r+1}\to P/\mathfrak X^r$ の核 $\mathfrak X^r/\mathfrak X^{r+1}$ は平方零である。$\theta_r\colon R\to P/\mathfrak X^r$ が連続な $k_0$ 代数の準同型として得られたとき、$\mathfrak m$ 進的な形式的滑らかさにより、それを持ち上げる $k_0$ 代数の準同型 $\theta_{r+1}\colon R\to P/\mathfrak X^{r+1}$ がある。$\theta_{r+1}$ と $P/\mathfrak X^{r+1}\to P/\mathfrak X=\kappa$ の合成は剰余写像 $R\to\kappa$ に等しいので $\theta_{r+1}(\mathfrak m)\subset\mathfrak X/\mathfrak X^{r+1}$、したがって $\theta_{r+1}(\mathfrak m^{r+1})=0$ で、$\theta_{r+1}$ も連続である。こうして両立する列 $(\theta_r)_r$ が得られ、$P=\varprojlim_rP/\mathfrak X^r$ への環準同型 $\psi\colon R\to P$ が定まる。$\psi(\mathfrak m^r)\subset\mathfrak X^r$、$\psi(y_i)\equiv X_i\pmod{\mathfrak X^2}$、$c\in K'$ について $\psi(c)\equiv\rho(c)\pmod{\mathfrak X}$ である。
段階 3:$\psi$ は全射。 $L'=\psi(K')$ は $P$ の部分体で、剰余写像 $P\to\kappa$ により $\kappa$ と同型に写る。すなわち $L'$ は $P$ の係数体である。$z_i=\psi(y_i)$ は $\mathfrak X/\mathfrak X^2$ の基底を代表するので、Nakayama の補題により $\mathfrak X=(z_1,\dots,z_n)$ である。Cohenの構造定理 の命題「有限生成極大イデアルと級数表示」により、任意の $f\in P$ は $f=\sum_\alpha\lambda_\alpha z^\alpha$($\lambda_\alpha\in L'$、多重指数 $\alpha$ についての $\mathfrak X$ 進収束級数)と書ける。$\lambda_\alpha=\psi(c_\alpha)$、$c_\alpha\in K'$ とし、$R$ の完備性により $x=\sum_\alpha c_\alpha y^\alpha\in R$ をとる。各 $r$ について $x-\sum_{|\alpha|< r}c_\alpha y^\alpha\in\mathfrak m^r$ なので、$\psi(x)-\sum_{|\alpha|< r}\lambda_\alpha z^\alpha\in\mathfrak X^r$ であり、$f$ も同じ部分和との差が $\mathfrak X^r$ に入る。$\bigcap_r\mathfrak X^r=0$ より $\psi(x)=f$ である。
段階 4:次元の比較。 $P\cong R/\ker\psi$ であり、$P$ は $n$ 次元の正則局所環である(正則局所環 の例「体・冪級数環・多項式環の局所化」)。剰余環の素イデアルの鎖は $R$ の素イデアルの鎖に持ち上がるので $\dim R\ge\dim P=n$ である。一方、$\mathfrak m$ は $n$ 個の元で生成されるので、Krull の一般高さ定理(Krullの高さ定理 の定理「Krullの一般高さ定理」)により $\dim R=\operatorname{ht}\mathfrak m\le n$ である。よって $\dim R=n=\dim_\kappa\mathfrak m/\mathfrak m^2$ であり、$R$ は正則局所環である。$\square$
段階 0 で素体に下りるのは、$k$ を含む係数体が存在するとは限らないからである。素体上なら係数体は自動的に $k_0$ を含むので、2 次までの同一視 $\theta_2$ を $k_0$ 代数の準同型として作れる。
$R$ を正則局所環、$\kappa/k$ を分離的とする。$\widehat R$ も正則局所環で剰余体は $\kappa$ であり(完備化 の定理「Noether 環の完備化は Noether 環」)、prop-afs-basic の 3 により $\mathfrak m$ 進的な形式的滑らかさは $\widehat R$ で調べればよい。以下 $R$ は完備とする。
係数体。 体の拡大の形式的滑らかさ の系「指定した体を含む係数体」により、$R$ は $k$ を含む係数体 $K'$ をもつ。$K'$ は $k$ 代数として $\kappa$ と同型である。
冪級数環との同型。 $n=\dim R$ とし、正則パラメータ系 $y_1,\dots,y_n$ をとる。$Q=K'[\![T_1,\dots,T_n]\!]$ から $R$ への $k$ 代数の準同型 $\Phi\colon\sum_\alpha c_\alpha T^\alpha\mapsto\sum_\alpha c_\alpha y^\alpha$ は、Cohenの構造定理 の命題「有限生成極大イデアルと級数表示」により全射である。$Q$ は $n$ 次元の正則局所環なので整域である(正則局所環 の命題「正則局所環は整域」)。$\ker\Phi\ne0$ と仮定すると、$R\cong Q/\ker\Phi$ の長さ $n$ の素イデアルの鎖 $\mathfrak q_0\subsetneq\cdots\subsetneq\mathfrak q_n$ は $\ker\Phi$ を含む $Q$ の素イデアルの鎖に持ち上がり、$\ker\Phi\ne0$ なので $0\subsetneq\mathfrak q_0$ を先頭に付け加えられる。これは長さ $n+1$ の鎖で $\dim Q=n$ に反する。よって $\Phi$ は同型であり、$R\cong K'[\![T_1,\dots,T_n]\!]\cong\kappa[\![T_1,\dots,T_n]\!]$($k$ 代数として)である。
形式的滑らかさ。 $K'\cong\kappa$ は $k$ 上分離的なので、$K'$ は $k$ 上(離散位相で)形式的に滑らかである(体の拡大の形式的滑らかさ の定理「体の拡大の形式的滑らかさ」)。$Q$ は $K'$ 上 $(T_1,\dots,T_n)$ 進的に形式的に滑らかである(prop-afs-basic の 4)。離散位相をもつ $K'$ から $Q$ への写像は連続なので、prop-afs-basic の 1 により $Q$、したがって $R$ は $k$ 上 $\mathfrak m$ 進的に形式的に滑らかである。$\square$
形式的に滑らかなら幾何的に正則。 $k'/k$ を有限次拡大とし、$R'=R\otimes_kk'$ とおく。$R'$ は有限階数の自由 $R$ 加群なので Noether 環で、$R\to R'$ は単射な整拡大である。prop-afs-basic の 2 により、$R'$ は $k'$ 上 $\mathfrak mR'$ 進的に形式的に滑らかである。$\mathfrak n$ を $R'$ の極大イデアルとすると、整拡大での極大イデアルの縮約は極大なので(整拡大 の系「極大イデアルの縮約」)$\mathfrak n\cap R=\mathfrak m$、すなわち $\mathfrak mR'\subset\mathfrak n$ である。局所化 $R''=R'_{\mathfrak n}$ は極大イデアル $\mathfrak n''=\mathfrak nR''$ をもつ Noether 局所環で、$R'\to R''$ は(離散位相で)形式的エタールである(形式的滑らかさ の命題「底変換・合成・局所化」の 3)。定義の後の注意 3 により $R''$ は $R'$ 上 $\mathfrak n''$ 進的にも形式的に滑らかであり、$\mathfrak mR''\subset\mathfrak n''$ から $R'\to R''$ は連続である。prop-afs-basic の 1 により $R''$ は $k'$ 上 $\mathfrak n''$ 進的に形式的に滑らかであり、主定理の 1 から $R''=R'_{\mathfrak n}$ は正則局所環である。正則局所環の局所化は正則なので(正則局所環 の定理「正則局所環の局所化は正則」)、$R'$ のすべての素イデアルでの局所化は正則であり、$R'$ は正則環である。
幾何的に正則なら形式的に滑らか($\kappa/k$ が分離的な場合)。 $k'=k$ として $R$ は正則局所環であり、主定理の 2 から従う。
4。 $k$ が完全体なら $\kappa/k$ は分離的なので、1 と 2 から従う。$\square$
以下、$k$ を標数 $p>0$ の体、$a\in k\setminus k^p$ とする。$x^p-a$ は $k[x]$ で既約である。実際、代数閉包では $x^p-a=(x-\alpha)^p$ と分解し、次数 $r$($0< r< p$)のモニックな因子 $(x-\alpha)^r$ が $k[x]$ にあれば、その $x^{r-1}$ の係数 $-r\alpha$ から $\alpha\in k$、$a=\alpha^p\in k^p$ となって矛盾する。
$R=k[x]_{(x^p-a)}$ とする。$R$ は単項イデアル整域 $k[x]$ の $0$ でない素イデアルでの局所化なので、$1$ 次元の正則局所環(離散付値環)であり、剰余体 $\kappa=k[x]/(x^p-a)=k(a^{1/p})$ は $k$ 上分離的でない。それでも $R$ は $k$ 上 $\mathfrak m$ 進的に形式的に滑らかである。実際、$k[x]$ は $k$ 上(離散位相で)形式的に滑らかで、局所化は形式的エタールなので(形式的滑らかさ の命題「多項式環の形式的滑らかさ」と命題「底変換・合成・局所化」)、$R$ は $k$ 上離散位相で形式的に滑らかであり、定義の後の注意 3 により $\mathfrak m$ 進的にも形式的に滑らかである。主定理の 3 により $R$ は $k$ 上幾何的に正則である。主定理の 2 の分離性の仮定は十分条件であって、必要条件ではない。
$R=k[x]/(x^p-a)=k(a^{1/p})$ とする。$R$ は体なので $0$ 次元の正則局所環であり、$\mathfrak m=0$ だから $\mathfrak m$ 進位相は離散位相である。$R/k$ は分離的でない代数拡大なので、$R$ は $k$ 上形式的に滑らかでない(体の拡大の形式的滑らかさ の定理「体の拡大の形式的滑らかさ」)。幾何的正則性も破れている。$k'=R$ とすると、$R\otimes_kR$ の元 $z=x\otimes1-1\otimes x$ は $z^p=a\otimes1-1\otimes a=0$ を満たすが、$x^i\otimes x^j$($0\le i,j< p$)が基底なので $z\ne0$ である。正則局所環は整域なので、冪零元をもつ $R\otimes_kR$ は正則環でない。
$k$ を任意の体とする。$R=k[x,y]_{(x,y)}/(xy)$ は $1$ 次元だが、$xy\in\mathfrak m^2$ なので $\dim_k\mathfrak m/\mathfrak m^2=2$ であり、正則でない。主定理の 1 により $R$ は $k$ 上 $\mathfrak m$ 進的に形式的に滑らかでない。$R=k[x]/(x^2)$ も $0$ 次元で体でないので正則でなく、$\mathfrak m$ 進的に形式的に滑らかでない。この場合 $\mathfrak m$ は冪零なので $\mathfrak m$ 進位相は離散位相であり、形式的滑らかさ の例「反例:二重数環」と同じことを言っている。
主定理の 2 の仮定を 1 つずつ外すと、次のようになる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 剰余体 $\kappa$ が $k$ 上分離的 | $k(a^{1/p})$、$a\in k\setminus k^p$(ex-afs-inseparable-field) | $\mathfrak m$ 進的に形式的に滑らか($R$ は正則) |
| $R$ が正則局所環 | $k[x,y]_{(x,y)}/(xy)$(ex-afs-not-regular) | $\mathfrak m$ 進的に形式的に滑らか($\kappa=k$ は分離的) |
1 行目の $R$ は体なので正則であり、外したのは剰余体の分離性だけである。2 行目では剰余体は $k$ 自身で、外したのは正則性だけである。主定理の 4 で $k$ の完全性を外した場合の反例も 1 行目の環である。
位相の役割にも注意する。$\mathfrak m$ 進位相を離散位相に替えると条件は強くなる(定義の後の注意 3)。したがって主定理の 1 は離散位相で形式的に滑らかな場合にも当てはまるが、主定理の 2・3 の「形式的に滑らか」を離散位相の意味に替えてよいかは別の問題であり、この記事では扱わない。
離散位相の形式的滑らかさは、平方零拡大がすべて分裂するという条件に言い換えられる(平方零拡大)。$I$ 進位相では、分裂を「十分小さな開イデアルで割った段階まで引き戻せば分裂する」に緩める。
$A$ を環、$B$ を $A$ 代数、$I\subset B$ をイデアルとし、$B_\nu=B/I^\nu$ とおく。次は同値である。
要点:1 ⇒ 2 は $B\to B_\nu$ を $E$ へ持ち上げればよく、2 ⇒ 1 は試験環 $C$ と $B_\nu$ の引戻しに 2 を当てればよい。
1 ⇒ 2:$E$ を離散な $A$ 代数とみると、射影 $B\to B_\nu=E/M$ は連続なので、$A$ 代数の準同型 $v\colon B\to E$ に持ち上がる。定義の後の注意 1 によりある $\mu\ge\nu$ で $v(I^\mu)=0$ であり、$b\bmod I^\mu\mapsto(v(b),\,b\bmod I^\mu)$ が引戻しの $A$ 代数の切断を与える。
2 ⇒ 1:$N^2=0$ をみたすイデアル $N\subset C$ と、$u(I^\nu)=0$ をみたす $A$ 代数の準同型 $u\colon B\to C/N$ をとり、$u$ が誘導する $\bar u\colon B_\nu\to C/N$ を考える。$E=\{(c,\beta)\in C\times B_\nu\mid\pi(c)=\bar u(\beta)\}$ は成分ごとの演算で $A$ 代数になり、第 2 射影 $E\to B_\nu$ は全射で、核 $N\times0$ は平方零である。2 によりある $\mu$ で引戻し $E\times_{B_\nu}B_\mu=\{(c,\beta)\in C\times B_\mu\mid\pi(c)=\bar u(\beta\bmod I^\nu)\}$ の切断 $s$ があり、$B\to B_\mu\xrightarrow{s}E\times_{B_\nu}B_\mu\to C$(最後は第 1 射影)が $u$ の持上げになる。一般の冪零イデアルは定義の後の注意 2 で扱える。
2 の条件は、$B_\nu$ の $M$ による平方零拡大の類の群 $\operatorname{Exal}_A(B_\nu,M)$ を $\nu$ について帰納極限にとった位相的な拡大群 $\varinjlim_\nu\operatorname{Exal}_A(B_\nu,M)$ が、ある $I^{\nu_0}$ で消える任意の $B$ 加群 $M$ について $0$ である、と言い換えられる。この定義と判定は EGA4 $0_{\mathrm{IV}}$(18.5.1)(p. 66)と(19.4.4)(pp. 86–87)で、一般の線型位相環について述べられている。各段階 $B_\nu$ で分裂することまでは要求せず、より小さい開イデアルへ引き戻した後で分裂すればよい点が、離散位相の場合との違いである。
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