t分布

同義語:t-distributionStudentのt分布Student's t-distribution

概要

t分布(t-distribution)とは、標準正規分布に従う $Z$ と、それと独立な自由度 $\nu$ のカイ二乗分布に従う $V$ の比 $Z/\sqrt{V/\nu}$ の分布であり、密度は $\Gamma(\frac{\nu+1}2)/(\sqrt{\nu\pi}\,\Gamma(\frac\nu2))\cdot(1+t^2/\nu)^{-(\nu+1)/2}$ である。正規分布に従う $n$ 個の独立な標本では、標本平均と不偏分散 $S^2$ が独立になり、$(\bar X-\mu)/(S/\sqrt n)$ が自由度 $n-1$ の $t$ 分布に従う(Student の定理)。裾は正規分布より厚く、$r$ 次の絶対積率が有限なのは $r<\nu$ のときに限り、$\nu\to\infty$ で標準正規分布に近づく。母分散が分からないときの平均の信頼区間や検定に使われる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 正規分布, Γ関数, 多変量正規分布, 独立性(確率論)

$t$ 分布は、標準正規分布に従う $Z$ と、それと独立な自由度 $\nu$ のカイ二乗分布に従う $V$ から作った比
$$ T=\frac{Z}{\sqrt{V/\nu}} $$
の分布であり、密度は
$$ f_\nu(t)=\frac{\Gamma\bigl(\frac{\nu+1}2\bigr)}{\sqrt{\nu\pi}\,\Gamma\bigl(\frac\nu2\bigr)}\Bigl(1+\frac{t^2}{\nu}\Bigr)^{-\frac{\nu+1}2}\qquad(t\in\mathbb{R}) $$
である。正規分布に従う標本から平均を推定するとき、母分散の代わりに標本から計算した不偏分散を使うと、標準化した標本平均は正規分布ではなく $t$ 分布に従う。これが $t$ 分布の主な使い道であり、母分散が分からないときの信頼区間と検定の土台になる。
$t$ 分布の密度は正規分布の密度と同じく $0$ について対称な山の形だが、裾が $\lvert t\rvert^{-(\nu+1)}$ の程度でしか減らず、正規分布より厚い。自由度 $\nu$ を大きくすると標準正規分布に近づき、$\nu=1$ では平均さえもたない Cauchy 分布になる。

定義

以下、確率空間 $(\Omega,\mathcal{F},P)$ の上の実数値確率変数を考える。$X$ が密度 $f$ をもつとは、$f\ge0$ が可積分で、すべての実数 $x$ について $P(X\le x)=\int_{-\infty}^xf(u)\,du$ となることをいう。

カイ二乗分布

自由度 $\nu$ のカイ二乗分布

$\nu>0$ とする。$(0,\infty)$ 上の密度
$$ g_\nu(v):=\frac{1}{2^{\nu/2}\,\Gamma(\nu/2)}\,v^{\nu/2-1}e^{-v/2}\qquad(v>0) $$
($v\le0$ では $0$)をもつ分布を、自由度 $\nu$ のカイ二乗分布といい、$\chi^2_\nu$ と書く。

Γ関数 の例「尺度変換と Laplace 型積分」の式 $\int_0^\infty v^{z-1}e^{-av}\,dv=\Gamma(z)/a^z$($a>0$、$z>0$)を $z=\nu/2$、$a=1/2$ で使うと $\int_0^\infty g_\nu=1$ が分かるので、$g_\nu$ は確率密度である。$\chi^2_\nu$ はガンマ分布(形のパラメータ $\nu/2$、尺度 $2$)の特別な場合である。

$t$ 分布

$t$ 分布

$\nu>0$ とする。$\mathbb{R}$ 上の密度
$$ f_\nu(t):=c_\nu\Bigl(1+\frac{t^2}{\nu}\Bigr)^{-\frac{\nu+1}2},\qquad c_\nu:=\frac{\Gamma\bigl(\frac{\nu+1}2\bigr)}{\sqrt{\nu\pi}\,\Gamma\bigl(\frac\nu2\bigr)} $$
をもつ分布を、自由度 $\nu$ の $t$ 分布(Student の $t$ 分布)といい、$t_\nu$ と書く。

$f_\nu$ の積分が $1$ であることは、thm-tdist-ratio で $f_\nu$ がある確率変数の密度として現れることから分かる(rem-tdist-beta では直接の計算も示す)。$f_\nu$ は偶関数で、$\lvert t\rvert$ について単調に減少する。

独立性と密度についての約束

確率変数 $X_1,\dots,X_n$ が独立であるとは、すべての実数 $x_1,\dots,x_n$ について $P(X_1\le x_1,\dots,X_n\le x_n)=\prod_iP(X_i\le x_i)$ が成り立つことをいう。離散確率空間の上の確率変数では、これは 独立性(確率論) の定義「確率変数の独立性」と一致する。次の標準的な事実を証明なしに使う。

  • 独立な確率変数をいくつかの互いに交わらない組に分け、各組の可測関数をとると、それらは独立である(Dur19 §2.1)。
  • $X,Y$ が独立で、分布がそれぞれ $P_X,P_Y$ のとき、可測関数 $h\ge0$ について $E[h(X,Y)]=\iint h(x,y)\,P_X(dx)\,P_Y(dy)$ である(Dur19 §2.1。右辺は Fubiniの定理 により積分の順序によらない)。とくに独立な $X,Y\ge0$ について $E[XY]=E[X]E[Y]$ である。

カイ二乗分布の性質

カイ二乗分布の再生性
  1. $Z$ が標準正規分布 $N(0,1)$ に従うなら、$Z^2\sim\chi^2_1$ である。
  2. $a,b>0$ とし、$V\sim\chi^2_a$ と $W\sim\chi^2_b$ が独立なら、$V+W\sim\chi^2_{a+b}$ である。
  3. 2 の証明から、$\alpha,\beta>0$ について
    $$ B(\alpha,\beta):=\int_0^1s^{\alpha-1}(1-s)^{\beta-1}\,ds=\frac{\Gamma(\alpha)\Gamma(\beta)}{\Gamma(\alpha+\beta)} $$
    が従う。

要点:1 は置換 $z=\sqrt y$ と $\Gamma(\frac12)=\sqrt\pi$ による。2 は、畳み込みで得た $V+W$ の密度が $g_{a+b}$ の定数倍になり、両方の積分が $1$ であることから定数が $1$ と決まる。3 はその定数についての等式である。

詳しい証明を開く

1。 $x>0$ について、$Z$ の密度 $\varphi(z)=(2\pi)^{-1/2}e^{-z^2/2}$ は偶関数なので、置換 $z=\sqrt y$($dz=\frac{dy}{2\sqrt y}$)により$$P(Z^2\le x)=2\int_0^{\sqrt x}\varphi(z)\,dz=\int_0^x\frac{1}{\sqrt{2\pi}}\,y^{-1/2}e^{-y/2}\,dy$$である。Γ関数 の例「半整数での値」により $\Gamma(1/2)=\sqrt\pi$ なので、被積分関数は $2^{-1/2}\Gamma(1/2)^{-1}y^{-1/2}e^{-y/2}=g_1(y)$ である。$x\le0$ では両辺とも $0$ である。

2。 $(V,W)$ について節「独立性と密度についての約束」の 2 つめの事実を関数 $(v,w)\mapsto\mathbf{1}\{v+w\le x\}$ に使い、内側の積分で $w=u-v$ と置換してから Fubiniの定理 で積分の順序を入れ替えると$$P(V+W\le x)=\int_0^\infty g_a(v)\int_{-\infty}^{x-v}g_b(w)\,dw\,dv=\int_{-\infty}^x\Bigl(\int_0^\infty g_a(v)g_b(u-v)\,dv\Bigr)du$$となる。よって $V+W$ は密度 $h(u):=\int_0^\infty g_a(v)g_b(u-v)\,dv$ をもつ。$u\le0$ では $h(u)=0$ であり、$u>0$ では $g_b(u-v)=0$($v\ge u$)に注意して $v=us$ と置換すると$$h(u)=\frac{e^{-u/2}}{2^{(a+b)/2}\Gamma(\frac a2)\Gamma(\frac b2)}\int_0^uv^{\frac a2-1}(u-v)^{\frac b2-1}\,dv=\frac{B(\frac a2,\frac b2)}{2^{(a+b)/2}\Gamma(\frac a2)\Gamma(\frac b2)}\,u^{\frac{a+b}2-1}e^{-u/2}$$となる($e^{-v/2}e^{-(u-v)/2}=e^{-u/2}$ を使った)。すなわち、定数 $K:=B(\frac a2,\frac b2)\Gamma(\frac{a+b}2)/\bigl(\Gamma(\frac a2)\Gamma(\frac b2)\bigr)$ を用いて $h=K\,g_{a+b}$ である。$h$ は確率密度なので $\int h=1$、また $\int g_{a+b}=1$ なので $K=1$ であり、$h=g_{a+b}$ を得る。

3。 2 の $K=1$ を、任意の $\alpha,\beta>0$ について $a=2\alpha$、$b=2\beta$ として書けば、$B(\alpha,\beta)=\Gamma(\alpha)\Gamma(\beta)/\Gamma(\alpha+\beta)$ である。$\square$

$B(\alpha,\beta)$ はベータ関数であり、3 は Γ関数 の定理「相反公式・Beta関数・Legendreの倍数公式」の 2 の、正の実数の範囲での一つの証明になっている。確率密度の積分が $1$ であることを使って定数を決めるこの方法は、Dur19 §2.1 でガンマ分布の和について使われている。

標準正規分布の 2 乗和

$Z_1,\dots,Z_k$ が独立で、どれも $N(0,1)$ に従うなら、$Z_1^2+\cdots+Z_k^2\sim\chi^2_k$ である。

$Z_1^2,\dots,Z_k^2$ は独立で(Dur19 §2.1)、thm-tdist-chi2-sum の 1 によりどれも $\chi^2_1$ に従う。$Z_1^2+\cdots+Z_{j-1}^2$ と $Z_j^2$ も独立なので、thm-tdist-chi2-sum の 2 を $j=2,\dots,k$ と順に使えばよい。$\square$

$k$ 次元の標準正規分布に従うベクトルの長さの 2 乗の分布として、カイ二乗分布は 多変量正規分布 の命題「Mahalanobis 距離の 2 乗の分布」にも現れる。

正規分布とカイ二乗分布の比

$t$ 分布の密度

$\nu>0$ とし、$Z\sim N(0,1)$ と $V\sim\chi^2_\nu$ が独立であるとする。このとき
$$ T:=\frac{Z}{\sqrt{V/\nu}} $$
は密度 $f_\nu$ をもつ。すなわち $T\sim t_\nu$ である。

$V>0$ は確率 $1$ で成り立つので $T$ は確率 $1$ で定まる。$\varphi(z)=(2\pi)^{-1/2}e^{-z^2/2}$、$\Phi(x):=\int_{-\infty}^x\varphi$ とする。実数 $t$ を固定する。
段 1($v$ ごとに条件をつける)。 $\{T\le t\}=\{Z\le t\sqrt{V/\nu}\}$ なので、節「独立性と密度についての約束」の 2 つめの事実を関数 $(z,v)\mapsto\mathbf{1}\{z\le t\sqrt{v/\nu}\}$($v\le0$ では $0$ とおく)に使い、$z$ についての積分を先に行うと
$$ P(T\le t)=\int_0^\infty g_\nu(v)\,\Phi\bigl(t\sqrt{v/\nu}\bigr)\,dv $$
である。$v>0$ を固定し、$\Phi$ の積分で $z=u\sqrt{v/\nu}$ と置換すると $\Phi(t\sqrt{v/\nu})=\int_{-\infty}^t\varphi(u\sqrt{v/\nu})\sqrt{v/\nu}\,du$ となる。被積分関数はすべて $0$ 以上なので、Fubiniの定理(Tonelli の形)により積分の順序を入れ替えて
$$ P(T\le t)=\int_{-\infty}^t k(u)\,du,\qquad k(u):=\int_0^\infty g_\nu(v)\,\varphi\bigl(u\sqrt{v/\nu}\bigr)\sqrt{\frac v\nu}\,dv $$
を得る。よって $T$ は密度 $k$ をもつ。
段 2(ガンマ積分で計算する)。 $g_\nu$ と $\varphi$ を代入すると、指数の部分は $e^{-v/2}e^{-u^2v/(2\nu)}=e^{-v(1+u^2/\nu)/2}$、$v$ の冪は $v^{\nu/2-1}v^{1/2}=v^{\frac{\nu+1}2-1}$ なので
$$ k(u)=\frac{1}{2^{\nu/2}\Gamma(\frac\nu2)\sqrt{2\pi\nu}}\int_0^\infty v^{\frac{\nu+1}2-1}\exp\Bigl(-\frac{1+u^2/\nu}{2}\,v\Bigr)dv $$
である。Γ関数 の例「尺度変換と Laplace 型積分」を $z=\frac{\nu+1}2$、$a=\frac{1+u^2/\nu}2$ で使うと、積分は $\Gamma(\frac{\nu+1}2)\bigl(\frac{2}{1+u^2/\nu}\bigr)^{\frac{\nu+1}2}$ に等しい。$2^{\frac{\nu+1}2}/(2^{\nu/2}\sqrt{2\pi\nu})=1/\sqrt{\nu\pi}$ なので
$$ k(u)=\frac{\Gamma(\frac{\nu+1}2)}{\sqrt{\nu\pi}\,\Gamma(\frac\nu2)}\Bigl(1+\frac{u^2}{\nu}\Bigr)^{-\frac{\nu+1}2}=f_\nu(u) $$
である。$\square$

ベータ関数による定数の表示

置換により $\int_{-\infty}^\infty(1+t^2/\nu)^{-\frac{\nu+1}2}dt=\sqrt\nu\,B(\frac\nu2,\frac12)$ となり、定数は $c_\nu=1/\bigl(\sqrt\nu\,B(\frac\nu2,\frac12)\bigr)$ とも書ける。

計算を開く

置換 $t=\sqrt\nu x$ と $s=1/(1+x^2)$($x>0$ で $dx=-\frac12s^{-3/2}(1-s)^{-1/2}ds$)により$$\int_{-\infty}^\infty\Bigl(1+\frac{t^2}\nu\Bigr)^{-\frac{\nu+1}2}dt=2\sqrt\nu\int_0^\infty(1+x^2)^{-\frac{\nu+1}2}dx=\sqrt\nu\int_0^1s^{\frac\nu2-1}(1-s)^{-\frac12}\,ds=\sqrt\nu\,B\Bigl(\frac\nu2,\frac12\Bigr)$$である。thm-tdist-chi2-sum の 3 と $\Gamma(\frac12)=\sqrt\pi$ により右辺は $\sqrt{\nu\pi}\,\Gamma(\frac\nu2)/\Gamma(\frac{\nu+1}2)=1/c_\nu$ なので、$\int f_\nu=1$ が直接確かめられる。定数は $c_\nu=1/\bigl(\sqrt\nu\,B(\frac\nu2,\frac12)\bigr)$ とも書ける。

Student の定理

$X_1,\dots,X_n$($n\ge2$)に対し、標本平均と不偏分散を
$$ \bar X:=\frac1n\sum_{i=1}^nX_i,\qquad S^2:=\frac1{n-1}\sum_{i=1}^n(X_i-\bar X)^2 $$
と定め、$S:=\sqrt{S^2}$ とする。

Student の定理

$n\ge2$ とし、$X_1,\dots,X_n$ が独立で、どれも正規分布 $N(\mu,\sigma^2)$($\sigma>0$)に従うとする。このとき次が成り立つ。

  1. $\bar X\sim N(\mu,\sigma^2/n)$ である。
  2. $(n-1)S^2/\sigma^2\sim\chi^2_{n-1}$ である。
  3. $\bar X$ と $S^2$ は独立である。
  4. $\displaystyle T:=\frac{\bar X-\mu}{S/\sqrt n}$ は自由度 $n-1$ の $t$ 分布に従う。

段 1(標準化と回転)。 $Z_i:=(X_i-\mu)/\sigma$ とおくと $Z_1,\dots,Z_n$ は独立で $N(0,1)$ に従う。独立な正規分布に従う確率変数の 1 次結合は正規分布に従う(正規分布 の定理「1 次変換で正規分布は保たれる」と定理「独立な正規分布の和」を、項の個数についての帰納法で使う。係数が $0$ の項は分散 $0$ の退化した正規分布と見る)ので、$Z:=(Z_1,\dots,Z_n)^{\top}$ は多変量正規分布 $N_n(0,I_n)$ に従う。
$u:=(1/\sqrt n,\dots,1/\sqrt n)^{\top}$ は長さ $1$ のベクトルなので、$u$ を含む $\mathbb{R}^n$ の正規直交基底 $u,w_2,\dots,w_n$ がとれる(Gram–Schmidt の直交化)。これらを行とする行列 $Q$ は直交行列である。$Y:=QZ$ とおくと、多変量正規分布 の定理「1 次変換で多変量正規分布は保たれる」により $Y\sim N_n(0,QQ^{\top})=N_n(0,I_n)$ であり、同じ記事の定理「無相関なら独立」により $Y_1,\dots,Y_n$ は独立で、どれも $N(0,1)$ に従う。
段 2(平均と平方和を $Y$ で書く)。 $Y_1=u^{\top}Z=\sqrt n\,\bar Z$($\bar Z:=\frac1n\sum_iZ_i$)である。$Q^{\top}Q=I_n$ なので $\sum_iY_i^2=Y^{\top}Y=Z^{\top}Q^{\top}QZ=Z^{\top}Z=\sum_iZ_i^2$ であり、
$$ \sum_{i=2}^nY_i^2=\sum_{i=1}^nZ_i^2-n\bar Z^2=\sum_{i=1}^n(Z_i-\bar Z)^2=\frac{(n-1)S^2}{\sigma^2} $$
となる(中央の等号は $\sum_i(Z_i-\bar Z)^2=\sum_iZ_i^2-2\bar Z\sum_iZ_i+n\bar Z^2$ と $\sum_iZ_i=n\bar Z$ による。最後の等号は $X_i-\bar X=\sigma(Z_i-\bar Z)$ による)。
段 3(結論)。 1:$\bar X=\mu+\sigma\bar Z=\mu+\frac{\sigma}{\sqrt n}Y_1$ で $Y_1\sim N(0,1)$ なので $\bar X\sim N(\mu,\sigma^2/n)$ である。2:$(n-1)S^2/\sigma^2=\sum_{i\ge2}Y_i^2$ は cor-tdist-chi2-normal により $\chi^2_{n-1}$ に従う。3:$\bar X$ は $Y_1$ の関数、$S^2$ は $(Y_2,\dots,Y_n)$ の関数なので、節「独立性と密度についての約束」の 1 つめの事実により独立である。4:$V:=\sum_{i\ge2}Y_i^2$ とおくと、$S/\sigma=\sqrt{V/(n-1)}$ なので
$$ T=\frac{\sigma Y_1/\sqrt n}{\sigma\sqrt{V/(n-1)}/\sqrt n}=\frac{Y_1}{\sqrt{V/(n-1)}} $$
であり、$Y_1\sim N(0,1)$ と $V\sim\chi^2_{n-1}$ は独立だから、thm-tdist-ratio により $T\sim t_{n-1}$ である。$\square$

4 の $T$ では、未知の $\sigma$ が分子と分母で約分されて消えている。$\sigma$ が分かっていれば $\frac{\bar X-\mu}{\sigma/\sqrt n}\sim N(0,1)$ を使えるが、$\sigma$ を $S$ で置き換えると分母も揺れるので、分布の裾が厚くなる。自由度が $n$ でなく $n-1$ になるのは、$n$ 個の偏差 $X_i-\bar X$ の和が $0$ という 1 つの制約のために、平方和が実質 $n-1$ 個の独立な $N(0,1)$ の 2 乗和になるからであり、段 2 はこのことを回転 $Q$ で正確に表している。
この分布は W. S. Gosset が「Student」の筆名で 1908 年に発表した論文で導かれた(GrS06 §9.3, p. 360 の脚注)。

自由度を大きくしたとき

$\Gamma$ 関数の比の評価

$x>0$ について
$$ \sqrt{\frac{x}{x+1/2}}\le\frac{\Gamma(x+\frac12)}{\Gamma(x)\sqrt x}\le1 $$
である。とくに $x\to\infty$ で中央の比は $1$ に収束する。

要点:Γ関数 の対数凸性を、$x+\frac12$ が $x$ と $x+1$ の中点であること、$x+1$ が $x+\frac12$ と $x+\frac32$ の中点であることに使う。

詳しい証明を開く

Γ関数 の定理「$\Gamma$ 関数の対数凸性」を重み $\frac12,\frac12$ で使う。$x+\frac12$ は $x$ と $x+1$ の中点なので $\Gamma(x+\frac12)\le\Gamma(x)^{1/2}\Gamma(x+1)^{1/2}=\Gamma(x)\sqrt x$ である(Γ関数 の命題「関数等式と階乗」の $\Gamma(x+1)=x\Gamma(x)$ を使った)。また $x+1$ は $x+\frac12$ と $x+\frac32$ の中点なので$$x\Gamma(x)=\Gamma(x+1)\le\Gamma\bigl(x+\tfrac12\bigr)^{1/2}\Gamma\bigl(x+\tfrac32\bigr)^{1/2}=\Gamma\bigl(x+\tfrac12\bigr)\sqrt{x+\tfrac12}$$であり、両辺を $\Gamma(x)\sqrt x\sqrt{x+1/2}$ で割ると左側の不等式を得る。$\square$

正規分布への収束

$\varphi(t)=(2\pi)^{-1/2}e^{-t^2/2}$ を標準正規分布の密度とする。

  1. 各実数 $t$ について、$\nu\to\infty$ で $f_\nu(t)\to\varphi(t)$ である。
  2. $T_\nu\sim t_\nu$、$Z\sim N(0,1)$ とすると、$\nu\to\infty$ で
    $$ \sup_{A}\bigl\lvert P(T_\nu\in A)-P(Z\in A)\bigr\rvert\le\int_{-\infty}^\infty\lvert f_\nu(t)-\varphi(t)\rvert\,dt\to0 $$
    である($A$ は $\mathbb{R}$ の Borel 集合全体を動く)。とくに分布関数は一様に収束する。

要点:1 は lem-tdist-gamma-ratio による $c_\nu\to1/\sqrt{2\pi}$ と $(1+t^2/\nu)^{-\frac{\nu+1}2}\to e^{-t^2/2}$ による。2 は $0\le(\varphi-f_\nu)^+\le\varphi$ に優収束定理を使う(Scheffé の議論)。

詳しい証明を開く

1。 $x:=\nu/2$ とおくと $c_\nu=\Gamma(x+\frac12)/(\Gamma(x)\sqrt{2\pi x})$ なので、lem-tdist-gamma-ratio により $c_\nu\to1/\sqrt{2\pi}$ である。また $t\ne0$ のとき $y:=t^2/\nu\to0$ で、$\log(1+y)/y\to1$ なので$$\log\Bigl(1+\frac{t^2}\nu\Bigr)^{-\frac{\nu+1}2}=-\frac{t^2}{2}\cdot\frac{\log(1+y)}{y}-\frac12\log(1+y)\to-\frac{t^2}2$$である($t=0$ では両辺 $0$)。指数関数の連続性から $f_\nu(t)\to\varphi(t)$ を得る。

2。 任意の Borel 集合 $A$ について $\lvert P(T_\nu\in A)-P(Z\in A)\rvert=\bigl\lvert\int_A(f_\nu-\varphi)\bigr\rvert\le\int\lvert f_\nu-\varphi\rvert$ である。$\int f_\nu=\int\varphi=1$ なので $\int(\varphi-f_\nu)=0$ であり、$\int\lvert f_\nu-\varphi\rvert=2\int(\varphi-f_\nu)^+$ となる($(\cdot)^+$ は正の部分)。$0\le(\varphi-f_\nu)^+\le\varphi$ で、$\varphi$ は可積分、1 により各点で $(\varphi-f_\nu)^+\to0$ なので、$\nu\to\infty$ となる任意の列について 優収束定理 により $\int(\varphi-f_\nu)^+\to0$ である。$\square$

2 の議論は、密度の各点収束から全変動での収束を導く一般の方法(Scheffé の補題)である。標本の大きさ $n$ が大きいときに $t$ 分布の代わりに正規分布を使ってよいのはこのためで、大数の法則 により $S$ が $\sigma$ に近づくことと合っている。

積率

$t$ 分布の積率

$\nu>0$、$T\sim t_\nu$ とする。

  1. $r>0$ について、$E[\lvert T\rvert^r]< \infty$ であることと $r< \nu$ は同値である。
  2. $\nu>1$ なら $E[T]=0$ である。
  3. $\nu>2$ なら $\mathrm{Var}(T)=E[T^2]=\dfrac{\nu}{\nu-2}$ である。

要点:1 は $f_\nu(t)$ が $\lvert t\rvert^{-(\nu+1)}$ と同程度に減ることによる。3 は $T=Z/\sqrt{V/\nu}$ と書いて $E[T^2]=\nu E[1/V]$、$E[1/V]=1/(\nu-2)$ を計算する。

詳しい証明を開く

1。 $\lvert t\rvert\ge1$ では $\frac{t^2}\nu\le1+\frac{t^2}\nu\le(1+\frac1\nu)t^2$ なので、正の定数 $A,B$($\nu$ によるが $t$ によらない)で $A\lvert t\rvert^{-(\nu+1)}\le f_\nu(t)\le B\lvert t\rvert^{-(\nu+1)}$ となる。$[-1,1]$ 上の積分は有限なので、$E[\lvert T\rvert^r]< \infty$ は $\int_1^\infty t^{r-\nu-1}\,dt< \infty$、すなわち $r-\nu-1< -1$ と同値である。

2。 $\nu>1$ なら 1 により $E[\lvert T\rvert]< \infty$ であり、$f_\nu$ は偶関数なので $E[T]=\int tf_\nu(t)\,dt=0$ である。

3。 $E[T^2]$ は $T$ の分布だけで決まるので、thm-tdist-ratio の $T=Z/\sqrt{V/\nu}$ で計算してよい。$Z^2$ と $1/V$ は独立で $0$ 以上なので $E[T^2]=\nu E[Z^2]E[1/V]=\nu E[1/V]$ である。$\nu>2$ なら Γ関数 の例「尺度変換と Laplace 型積分」と関数等式 $\Gamma(\frac\nu2)=(\frac\nu2-1)\Gamma(\frac\nu2-1)$ により$$E\Bigl[\frac1V\Bigr]=\frac{1}{2^{\nu/2}\Gamma(\frac\nu2)}\int_0^\infty v^{\frac\nu2-2}e^{-v/2}\,dv=\frac{2^{\nu/2-1}\Gamma(\frac\nu2-1)}{2^{\nu/2}\Gamma(\frac\nu2)}=\frac{1}{\nu-2}$$である。2 より $E[T]=0$ なので $\mathrm{Var}(T)=E[T^2]=\nu/(\nu-2)$ である。$\square$

分散 $\frac{\nu}{\nu-2}$ は $1$ より大きく、$\nu\to\infty$ で $1$ に近づく。母分散を推定値で置き換えたことによる「余分なばらつき」がこの差である。

例

自由度 1:Cauchy 分布

$\nu=1$ では $\Gamma(1)=1$、$\Gamma(\frac12)=\sqrt\pi$ より $f_1(t)=\dfrac{1}{\pi(1+t^2)}$ であり、これは標準の Cauchy分布 の密度である。thm-tdist-ratio により、独立な $Z,Z'\sim N(0,1)$ について $Z/\lvert Z'\rvert$ が Cauchy 分布に従う。prop-tdist-moments の 1 により $E[\lvert T\rvert]=\infty$ で、平均をもたない。分布関数は $F_1(t)=\frac12+\frac1\pi\arctan t$ である。

自由度 2:分布関数が初等関数で書ける場合

$\nu=2$ では $\Gamma(\frac32)=\frac{\sqrt\pi}2$ より $c_2=\frac{1}{2\sqrt2}$ で、$f_2(t)=\frac{1}{2\sqrt2}\bigl(\frac{2}{2+t^2}\bigr)^{3/2}=(2+t^2)^{-3/2}$ である。$\frac{d}{dt}\frac{t}{2\sqrt{2+t^2}}=\frac12\cdot\frac{(2+t^2)-t^2}{(2+t^2)^{3/2}}=(2+t^2)^{-3/2}$ なので、分布関数は
$$ F_2(t)=\frac12+\frac{t}{2\sqrt{2+t^2}} $$
である。$F_2(c)=0.975$ を解くと $\frac{c^2}{2+c^2}=0.95^2$ より $c=\sqrt{2\cdot0.9025/0.0975}=4.302\ldots$ であり、正規分布の $1.96$ よりはるかに大きい。$E[\lvert T\rvert]< \infty$ だが $E[T^2]=\infty$ である。

自由度ごとの密度の値と、両側 $95\%$ の点 $t_{0.975,\nu}$($P(\lvert T\rvert\le t_{0.975,\nu})=0.95$ となる値)を比べると次のようになる(数値積分による)。

自由度 $\nu$$f_\nu(0)$$f_\nu(3)$$t_{0.975,\nu}$
$1$$0.318$$0.0318$$12.706$
$2$$0.354$$0.0274$$4.303$
$4$$0.375$$0.0197$$2.776$
$9$$0.388$$0.0121$$2.262$
$29$$0.396$$0.0069$$2.045$
正規分布($\nu=\infty$)$0.399$$0.0044$$1.960$
母分散が分からないときの信頼区間

ある長さを 5 回測って $9.8,\ 10.2,\ 10.1,\ 9.9,\ 10.5$ を得たとし、測定値は独立に $N(\mu,\sigma^2)$ に従うとする($\mu,\sigma$ は未知)。$\bar X=10.1$、偏差の平方和は $0.09+0.01+0+0.04+0.16=0.30$ なので $S^2=0.30/4=0.075$、$S/\sqrt5=0.1224\ldots$ である。thm-tdist-student の 4 により $T=(\bar X-\mu)/(S/\sqrt5)\sim t_4$ なので
$$ P\Bigl(\bar X-2.776\frac{S}{\sqrt5}\le\mu\le\bar X+2.776\frac{S}{\sqrt5}\Bigr)=P(\lvert T\rvert\le2.776)\approx0.95 $$
であり、$\mu$ の $95\%$ 信頼区間は $10.1\pm0.340$、すなわち $[9.760,\ 10.440]$ である。$S$ を $\sigma$ と見なして $1.96$ を使うと $10.1\pm0.240$ となり、区間が狭すぎる。このやり方で作った区間が $\mu$ を含む確率は $P(\lvert T\rvert\le1.96)=0.878\ldots$($T\sim t_4$、数値積分)で、$0.95$ に届かない。高校数学の 区間推定(高校数学) で $1.96$ を使うのは、$\sigma$ が分かっているか、標本が大きくて thm-tdist-normal-limit の近似が使える場合である。

反例:条件を外したとき

外す条件反例成り立たなくなること
$Z$ と $V$ が独立(thm-tdist-ratio)$\nu=1$、$Z\sim N(0,1)$、$V:=Z^2$$Z/\sqrt{V}\sim t_1$
$X_i$ が正規分布に従う(thm-tdist-student の 3)$n=2$、$X_1,X_2$ は独立で $P(X_i=0)=P(X_i=1)=\frac12$$\bar X$ と $S^2$ が独立
$X_1,\dots,X_n$ が独立(thm-tdist-student の 2・4)$n=2$、$X_1=X_2=X\sim N(\mu,\sigma^2)$$(n-1)S^2/\sigma^2\sim\chi^2_1$、$T\sim t_1$
$\nu>2$(prop-tdist-moments の 3)$\nu=2$$T$ の分散が有限で $\nu/(\nu-2)$ に等しい
反例の確かめ

1 行目:$Z/\sqrt{Z^2}=Z/\lvert Z\rvert$ は $\pm1$ の 2 つの値しかとらないので、密度 $f_1$ をもたない。$Z$ と $V$ はどちらも定理の仮定どおりの分布をもつが、独立でない。
2 行目:$\bar X=\frac12$ となるのは $X_1\ne X_2$ のときで、そのとき $S^2=(X_1-X_2)^2/2=\frac12$、それ以外のとき $S^2=0$ である。よって $P(\bar X=\frac12,\ S^2=0)=0$ だが $P(\bar X=\frac12)P(S^2=0)=\frac12\cdot\frac12$ であり、独立でない。$X_i$ は独立で分散 $\frac14>0$ をもち、正規分布でないことだけが仮定と違う。
3 行目:$X_1=X_2$ なので $S^2=0$ が確率 $1$ で成り立ち、$(n-1)S^2/\sigma^2=0$ は $\chi^2_1$ に従わず、$T$ は分母が $0$ になって定まらない。
4 行目:prop-tdist-moments の 1 で $r=2=\nu$ の場合にあたり、$E[T^2]=\infty$ である。実際 $\lvert t\rvert\ge1$ では $2+t^2\le3t^2$ なので $t^2f_2(t)=t^2(2+t^2)^{-3/2}\ge t^2(3t^2)^{-3/2}=\frac{1}{3\sqrt3\,\lvert t\rvert}$ であり、$\int_1^\infty\frac{dt}{t}=\infty$ である。

補足

  • 検定での使われ方。 母平均が $\mu_0$ であるという仮説のもとで $T=(\bar X-\mu_0)/(S/\sqrt n)$ は $t_{n-1}$ に従うので、観測した $\lvert T\rvert$ が $t_{0.975,n-1}$ を超えれば、有意水準 $5\%$ でこの仮説を棄却する。これが 1 標本の $t$ 検定であり、信頼区間と同じ不等式の別の読み方である(仮説検定(高校数学) の考え方を、$\sigma$ が未知の場合に正確にしたもの)。
  • 正規性の仮定。 thm-tdist-student は母集団が正規分布であることを使っている。正規分布でない母集団では $\bar X$ と $S^2$ の独立性が一般に崩れ(反例の表の 2 行目)、小さい標本では $T$ の分布も $t_{n-1}$ からずれる。
  • 自由度が整数でない場合。 def-tdist と thm-tdist-ratio は整数に限らず任意の実数 $\nu>0$ で意味をもち、成り立つ。このときの $V\sim\chi^2_\nu$ は、正規分布の 2 乗和ではなくガンマ分布として定義される。

関連項目

参考文献

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