正弦定理(高校数学)は、三角形 $\mathrm{ABC}$ の辺の長さを $a,b,c$、それぞれの向かいの角を $A,B,C$、外接円の半径を $R$ とすると $\frac{a}{\sin A}=\frac{b}{\sin B}=\frac{c}{\sin C}=2R$ が成り立つ、という定理である。$A$ が直角でないとき、直径 $BD$ を斜辺とする直角三角形 $BCD$ で $\angle BDC$ は $A$ か $180^\circ-A$ に等しく、$\sin(180^\circ-A)=\sin A$ により鋭角・鈍角がまとめて示せる。系として $a:b:c=\sin A:\sin B:\sin C$ と面積 $S=\frac12bc\sin A=\frac{abc}{4R}$ が従う。2 辺と一方の向かいの角からは、三角形が 2 つできることがある。
前提知識: 三角比と鈍角への拡張, 円周角の定理(高校数学), 外接円
三角形 $\mathrm{ABC}$ で、頂点 $\mathrm A,\mathrm B,\mathrm C$ の角の大きさを $A,B,C$ と書き、それぞれの向かいの辺の長さを $a=\mathrm{BC}$、$b=\mathrm{CA}$、$c=\mathrm{AB}$ と書く。以下この記事では、この書き方を断りなく使う。
直角三角形では、三角比と鈍角への拡張 の定義から、辺と角の関係がすぐ分かる。$C=90^\circ$ なら $\sin A=\dfrac ac$ なので $\dfrac a{\sin A}=c$ である。同じく $\dfrac b{\sin B}=c$ で、$\sin90^\circ=1$ なので $\dfrac c{\sin C}=c$ でもある。つまり、3 つの比 $\dfrac a{\sin A}$、$\dfrac b{\sin B}$、$\dfrac c{\sin C}$ はどれも斜辺 $c$ に等しい。さらに、直角三角形の斜辺は、3 頂点を通る円の直径である(直径に対する円周角は直角)。
$a=3$、$b=4$、$c=5$、$C=90^\circ$ とする。$\sin A=\dfrac35$、$\sin B=\dfrac45$ なので
$$
\frac a{\sin A}=\frac3{3/5}=5,\qquad \frac b{\sin B}=\frac4{4/5}=5,\qquad \frac c{\sin C}=\frac51=5
$$
である。3 頂点を通る円は斜辺 $\mathrm{AB}$ を直径とする円で、その直径は $5$、半径は $\dfrac52$ である。3 つの比はどれも直径 $5$ に等しい。
$a=b=c=1$、$A=B=C=60^\circ$ とする。3 つの比はどれも
$$
\frac1{\sin60^\circ}=\frac1{\sqrt3/2}=\frac2{\sqrt3}=\frac{2\sqrt3}3
$$
である。一方、正三角形の 3 頂点を通る円の中心は重心と一致し、重心は中線(長さ $\dfrac{\sqrt3}2$)を $2:1$ に分けるので、中心から頂点までの距離は $\dfrac23\cdot\dfrac{\sqrt3}2=\dfrac{\sqrt3}3$ である。直径は $\dfrac{2\sqrt3}3$ で、やはり 3 つの比に等しい。
2 つの例では、比 $\dfrac a{\sin A}$ が 3 頂点を通る円の直径に等しかった。この記事では、これがすべての三角形で成り立つこと(正弦定理)を示す。
この記事で答える問いは次の 4 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| $\dfrac a{\sin A}=2R$ | 弦の長さは直径 × 円周角の正弦 | 円の弦の長さ $2R\sin\theta$ |
| $a:b:c=\sin A:\sin B:\sin C$ | 辺の比を角の比に直す | 相似な三角形の形は角だけで決まる |
| 面積 $\dfrac12bc\sin A=\dfrac{abc}{4R}$ | どの 2 辺で計算しても同じ面積 | 外積の大きさ $\lvert\vec{u}\times\vec{v}\rvert$ の対称性 |
| $\sin B=k$ から $B$ が 2 つ | $\sin\theta=\sin(180^\circ-\theta)$ | $\sin$ は $[0,\pi]$ で 1 対 1 でない |
| 球面の三角形では成り立たない | 平面であることが必要 | 球面三角法・双曲幾何の正弦定理 |
三角形 $\mathrm{ABC}$ の 3 つの頂点をすべて通る円を、三角形の 外接円 といい、その中心を 外心、半径を 外接円の半径 という。外接円の半径をふつう $R$ で表す。
どの三角形にも、外接円がちょうど 1 つある。その中心は、3 辺の垂直二等分線の交点である。
方針:「2 点 $\mathrm X,\mathrm Y$ から等しい距離にある点全体は、線分 $\mathrm{XY}$ の垂直二等分線である」(中学校で学ぶ事実)を使う。
段 1(中心の候補)。円の中心 $\mathrm O$ が 3 頂点を通るとは、$\mathrm{OA}=\mathrm{OB}=\mathrm{OC}$ となることである。$\mathrm{OA}=\mathrm{OB}$ は $\mathrm O$ が辺 $\mathrm{AB}$ の垂直二等分線 $\ell$ の上にあることと同じで、$\mathrm{OB}=\mathrm{OC}$ は $\mathrm O$ が辺 $\mathrm{BC}$ の垂直二等分線 $m$ の上にあることと同じである。
段 2(交点がある)。$\ell$ は直線 $\mathrm{AB}$ に垂直、$m$ は直線 $\mathrm{BC}$ に垂直である。もし $\ell$ と $m$ が平行なら、それらに垂直な直線 $\mathrm{AB}$ と $\mathrm{BC}$ も平行になり、どちらも $\mathrm B$ を通るので同じ直線になる。これは $\mathrm A,\mathrm B,\mathrm C$ が一直線上にないことに反する。よって $\ell$ と $m$ はちょうど 1 点 $\mathrm O$ で交わる。
段 3(存在と一意性)。段 1 により、$\mathrm O$ は $\mathrm{OA}=\mathrm{OB}=\mathrm{OC}$ を満たすので、$\mathrm O$ を中心とする半径 $\mathrm{OA}$ の円が外接円である。逆に外接円の中心は段 1 により $\ell$ と $m$ の両方の上にあるので、交点 $\mathrm O$ に限る。中心が決まれば半径も $\mathrm{OA}$ に決まる。さらに $\mathrm{OA}=\mathrm{OC}$ なので、$\mathrm O$ は辺 $\mathrm{CA}$ の垂直二等分線の上にもある。$\square$
$\mathrm A(0,0)$、$\mathrm B(4,0)$、$\mathrm C(1,3)$ の外心 $\mathrm O(x,y)$ を求める。$\mathrm{OA}^2=\mathrm{OB}^2$ から $x^2+y^2=(x-4)^2+y^2$、展開して $0=-8x+16$、つまり $x=2$ である。$\mathrm{OA}^2=\mathrm{OC}^2$ から $x^2+y^2=(x-1)^2+(y-3)^2$、展開して $0=-2x-6y+10$、つまり $x+3y=5$ である。$x=2$ を代入して $y=1$ となる。よって $\mathrm O(2,1)$ で、$R=\mathrm{OA}=\sqrt{2^2+1^2}=\sqrt5$ である。確かめると $\mathrm{OB}=\sqrt{2^2+1^2}=\sqrt5$、$\mathrm{OC}=\sqrt{1^2+2^2}=\sqrt5$ である。
外心の性質(3 本の垂直二等分線が 1 点で交わること、鋭角三角形では外心が内部にあることなど)は 三角形の外心 で詳しく扱う。
三角形 $\mathrm{ABC}$ の外接円の半径を $R$ とすると
$$
\frac a{\sin A}=\frac b{\sin B}=\frac c{\sin C}=2R
$$
が成り立つ。
証明には、円周角の定理(高校数学) から従う次の 3 つの事実を使う。円周角の定理そのものの証明は、用語解説 円周角の定理 と 円周角の定理(高校数学) で扱う。
図1:外接円と、B を通る直径 BD。左は A が鋭角で、D は直線 BC に関して A と同じ側にあり ∠BDC = A。中央は A が直角で、BC が直径。右は A が鈍角で、D は A と反対側にあり ∠BDC = 180° − A
方針:$a=2R\sin A$ を示す。頂点の名前を付け替えれば、同じ議論で $b=2R\sin B$、$c=2R\sin C$ も成り立つ。$0^\circ< A<180^\circ$ なので $\sin A>0$ であり、両辺を $\sin A$ で割れば $\dfrac a{\sin A}=2R$ を得る。そのために、辺 $\mathrm{BC}$ を斜辺でない辺にもち、斜辺が直径 $2R$ の直角三角形を作る(図 1)。
段 1($A=90^\circ$ の場合)。(iii) により $\mathrm{BC}$ は外接円の直径なので、$a=2R$ である。$\sin90^\circ=1$ なので $a=2R\sin A$ が成り立つ。
段 2(直径 $\mathrm{BD}$ をとる)。以下 $A\ne90^\circ$ とする。外心を $\mathrm O$ とし、直線 $\mathrm{BO}$ が外接円と $\mathrm B$ 以外で交わる点を $\mathrm D$ とする。$\mathrm{BD}$ は直径なので $\mathrm{BD}=2R$ である。$\mathrm D=\mathrm C$ なら $\mathrm{BC}$ が直径で、(iii) により $A=90^\circ$ となり仮定に反するので、$\mathrm D\ne\mathrm C$ である。
段 3(直角三角形 $\mathrm{BCD}$)。$\mathrm C$ は円周上の点で、$\mathrm B,\mathrm D$ とは異なるので、(iii) により $\angle\mathrm{BCD}=90^\circ$ である。直角三角形 $\mathrm{BCD}$ で、角 $\angle\mathrm{BDC}$ の対辺は $\mathrm{BC}=a$、斜辺は $\mathrm{BD}=2R$ なので、三角比の定義により
$$
\sin\angle\mathrm{BDC}=\frac a{2R},\qquad\text{つまり}\qquad a=2R\sin\angle\mathrm{BDC}
$$
である。
段 4($\angle\mathrm{BDC}$ と $A$ の関係)。$\mathrm D=\mathrm A$ のときは $\angle\mathrm{BDC}=A$ である。$\mathrm D\ne\mathrm A$ のとき、$\mathrm A$ と $\mathrm D$ はどちらも円周上にあって直線 $\mathrm{BC}$ の上にはないので、次の 2 つの場合のどちらかである。
prf-los-main の段 3 の $\angle\mathrm{BDC}$ は直角三角形の直角でない角なので、鋭角である。したがって、段 4 の 1 つ目の場合($\angle\mathrm{BDC}=A$)は $A$ が鋭角のときに、2 つ目の場合($\angle\mathrm{BDC}=180^\circ-A$)は $A$ が鈍角のときに起こる。教科書では「$A$ が鋭角・直角・鈍角の 3 つの場合」に分けて証明するが、それはこの対応による。鈍角のときに $\sin(180^\circ-A)=\sin A$ が使えることが、三角比を鈍角まで広げておいた理由の 1 つである。
$A=45^\circ$、$B=60^\circ$、$a=2$ の三角形で、$b$ と $R$ を求める。thm-los-main により
$$
\frac b{\sin60^\circ}=\frac2{\sin45^\circ}=\frac2{\sqrt2/2}=2\sqrt2
$$
なので、$2R=2\sqrt2$、$R=\sqrt2$ であり、$b=2\sqrt2\cdot\dfrac{\sqrt3}2=\sqrt6$ である。
残りの角は $C=180^\circ-45^\circ-60^\circ=75^\circ$ である。$\sin75^\circ=\dfrac{\sqrt6+\sqrt2}4$(加法定理で $\sin(45^\circ+30^\circ)$ を計算する。加法定理から2倍角・半角・3倍角の公式を導く)を使うと、$c=2\sqrt2\cdot\dfrac{\sqrt6+\sqrt2}4=\dfrac{\sqrt{12}+2}2=\sqrt3+1$ である。
ex-los-circumcenter の三角形 $\mathrm A(0,0)$、$\mathrm B(4,0)$、$\mathrm C(1,3)$ では $R=\sqrt5$ だった。
三角形 $\mathrm{ABC}$ について
$$
a:b:c=\sin A:\sin B:\sin C
$$
である。特に、$a>b$ と $\sin A>\sin B$ は同値である。
方針:thm-los-main を辺について解く。
thm-los-main により $a=2R\sin A$、$b=2R\sin B$、$c=2R\sin C$ である。3 つの辺は同じ正の数 $2R$ を $\sin A,\sin B,\sin C$ に掛けたものなので、$a:b:c=\sin A:\sin B:\sin C$ である。また $a-b=2R(\sin A-\sin B)$ で $2R>0$ なので、$a-b$ と $\sin A-\sin B$ は同じ符号をもつ。$\square$
$A:B:C=1:2:3$ の三角形では、$A+B+C=180^\circ$ から $A=30^\circ$、$B=60^\circ$、$C=90^\circ$ である。cor-los-ratio により
$$
a:b:c=\sin30^\circ:\sin60^\circ:\sin90^\circ=\frac12:\frac{\sqrt3}2:1=1:\sqrt3:2
$$
である。角の比 $1:2:3$ と辺の比 $1:\sqrt3:2$ は違う。辺の比は角の比ではなく、角の正弦の比である。
次の系は、三角形の面積を 2 通りに表す。三角形の面積の公式 でさらに多くの表し方を扱う。
三角形 $\mathrm{ABC}$ の面積を $S$ とすると
$$
S=\frac12bc\sin A,\qquad S=\frac{abc}{4R}
$$
である。
方針:辺 $\mathrm{AB}$ を底辺とし、高さを $b\sin A$ で表す。そこに thm-los-main の $\sin A=\dfrac a{2R}$ を代入する。
段 1(高さ)。$\mathrm C$ から直線 $\mathrm{AB}$ に下ろした垂線の足を $\mathrm H$ とし、高さを $h=\mathrm{CH}$ とする。
2 辺 $a,b$ と、そのうち $a$ の向かいの角 $A$ が分かっているとき、正弦定理 $\sin B=\dfrac{b\sin A}a$ で $\sin B$ が求まる。しかし 三角比と鈍角への拡張 の命題「三角比の値と角の個数」のとおり、$0^\circ< B<180^\circ$ で $\sin B=k$($0< k<1$)となる $B$ は 2 つある。そのどちらが三角形になるかを調べる必要がある。
$a=\sqrt2$、$b=2$、$A=30^\circ$ の三角形を求める。thm-los-main により
$$
\sin B=\frac{b\sin A}a=\frac{2\cdot\frac12}{\sqrt2}=\frac1{\sqrt2}=\frac{\sqrt2}2
$$
なので、$B=45^\circ$ または $B=135^\circ$ である。どちらも $A+B<180^\circ$($75^\circ$ と $165^\circ$)なので、残りの角 $C=180^\circ-A-B$ は正であり、三角形が 2 つできる。
図2:A = 30°、AC = 2 を固定し、C を中心とする半径 √2 の円と直線 AB の交点を見る。交点 B₁, B₂ の 2 つがあり、B₁ では B = 135°、B₂ では B = 45° の 2 つの三角形ができる
2 辺と 1 つの角から三角形がいくつできるかの全体の分類は 三角形の決定と解の個数 で扱う。3 辺や、2 辺とその間の角が分かっているときは、余弦定理(高校数学) で三角形がただ 1 つに決まる。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 辺 $a$ と角 $A$ が向かい合っていること | $\dfrac a{\sin A}=2R$ | ex-los-wrong-side |
| 角の候補を三角形の条件で確かめること | $\sin B$ から $B$ が 1 つに決まる | ex-los-ssa-two |
| 平面の三角形であること | $\dfrac a{\sin A}$ が 3 つの頂点で等しい | ex-los-sphere |
辺 $3,4,5$ の直角三角形(ex-los-345、$\sin A=\dfrac35$)で、角 $A$ と、$A$ の向かいでない辺 $b=4$ を組にすると、$\dfrac b{\sin A}=\dfrac4{3/5}=\dfrac{20}3$ で、$2R=5$ と等しくない。正弦定理は、角とその 向かいの 辺の組についての定理である。prf-los-main で、直角三角形 $\mathrm{BCD}$ の斜辺でない辺として $\mathrm{BC}=a$ を使ったのは、$a$ が $A$ の向かいの辺だからである。
半径 $1$ の球面の上で、北極 $\mathrm N$ と、赤道上の経度 $0^\circ$ の点 $\mathrm E_1$、経度 $60^\circ$ の点 $\mathrm E_2$ を、球面上の最短の道(大円の弧)で結んだ三角形を考える。辺の長さは球面に沿った弧の長さで測る。
正弦定理を使うと、外接円の半径 $R$ を単位として、三角形のすべての長さを角の三角比で書ける。長さの大小の問題が、角の三角比の不等式に変わる。
Let $ABC$ be an acute-angled triangle with circumcentre $O$. Let $P$ on $BC$ be the foot of the altitude from $A$. Suppose that $\angle BCA\ge\angle ABC+30^\circ$. Prove that $\angle CAB+\angle COP<90^\circ$.
和訳:鋭角三角形 $\mathrm{ABC}$ の外心を $\mathrm O$ とし、$\mathrm A$ から辺 $\mathrm{BC}$ に下ろした垂線の足を $\mathrm P$ とする。$\angle\mathrm{BCA}\ge\angle\mathrm{ABC}+30^\circ$ ならば、$\angle\mathrm{CAB}+\angle\mathrm{COP}<90^\circ$ であることを示せ。
出典:第 42 回国際数学オリンピック(2001 年、ワシントン)第 1 問(Oly01)。
図3:A = 60°、B = 40°、C = 80° の場合。外接円の半径を 1 とすると CP = 0.223…、OP = 0.814… で CP < OP となり、三角形 OPC で ∠COP < ∠OCP である
方針:三角形 $\mathrm{OPC}$ で、$\angle\mathrm{OCP}=90^\circ-A$ であることを示す。すると結論は $\angle\mathrm{COP}<\angle\mathrm{OCP}$ と同じになり、これは向かいの辺の大小 $\mathrm{CP}<\mathrm{OP}$ から従う。$\mathrm{CP}$ を正弦定理で $R$ と角で表し、$\mathrm{CP}<\dfrac R2$ を示す(図 3)。角の大きさを $A=\angle\mathrm{CAB}$、$B=\angle\mathrm{ABC}$、$C=\angle\mathrm{BCA}$、外接円の半径を $R$ とする。
段 1(図の位置)。$B,C$ が鋭角なので、垂線の足 $\mathrm P$ は辺 $\mathrm{BC}$ の両端を除く部分にある(cor-los-area の証明の段 1 と同じ理由)。また、外心 $\mathrm O$ は直線 $\mathrm{BC}$ の上にない。$\mathrm O$ が直線 $\mathrm{BC}$ の上にあれば、$\mathrm{BC}$ は中心を通る弦、つまり直径になり、(iii) により $A=90^\circ$ となって、鋭角三角形であることに反するからである。よって $\mathrm O,\mathrm P,\mathrm C$ は三角形をつくる。(鋭角三角形では外心が三角形の内部にあることも知られている(三角形の外心)が、この解答で使うのは $\mathrm O$ が直線 $\mathrm{BC}$ の上にないことだけである。)
段 2($\angle\mathrm{OCP}=90^\circ-A$)。円周角の定理(高校数学) により、弧 $\mathrm{BC}$($\mathrm A$ を含まない方)に対する中心角は $2A$ で、$2A<180^\circ$ なので $\angle\mathrm{BOC}=2A$ である。$\mathrm{OB}=\mathrm{OC}=R$ なので三角形 $\mathrm{OBC}$ は二等辺三角形で、底角は $\dfrac{180^\circ-2A}2=90^\circ-A$ である。$\mathrm P$ は線分 $\mathrm{BC}$ 上にあるので、$\angle\mathrm{OCP}=\angle\mathrm{OCB}=90^\circ-A$ である。
段 3(示すことの言い換え)。結論 $A+\angle\mathrm{COP}<90^\circ$ は、段 2 により $\angle\mathrm{COP}<\angle\mathrm{OCP}$ と同じである。三角形では大きい辺の向かいの角が大きい(中学校で学ぶ事実)。三角形 $\mathrm{OPC}$ で $\angle\mathrm{COP}$ の向かいは $\mathrm{CP}$、$\angle\mathrm{OCP}$ の向かいは $\mathrm{OP}$ なので、$\mathrm{CP}<\mathrm{OP}$ を示せばよい。
段 4($\mathrm{CP}$ を角で表す)。三角形 $\mathrm{APC}$ は $\mathrm P$ で直角で、$\mathrm C$ での角は $C$ なので、$\mathrm{CP}=b\cos C$ である。thm-los-main により $b=2R\sin B$ なので
$$
\mathrm{CP}=2R\sin B\cos C
$$
である。
段 5(積を和に直す)。加法定理 $\sin(C+B)=\sin C\cos B+\cos C\sin B$、$\sin(C-B)=\sin C\cos B-\cos C\sin B$ を引き算すると $2\sin B\cos C=\sin(B+C)-\sin(C-B)$ である(加法定理から積和・和積・合成・正接の公式を導く)。$B+C=180^\circ-A$ なので $\sin(B+C)=\sin A$ であり
$$
\mathrm{CP}=R\bigl(\sin A-\sin(C-B)\bigr)
$$
である。
段 6(評価する)。$A$ は鋭角なので $A\ne90^\circ$ で、$\sin A<1$ である($\sin\theta=1$ となるのは $\theta=90^\circ$ だけ)。仮定から $C-B\ge30^\circ$ であり、$C<90^\circ$、$B>0^\circ$ なので $C-B<90^\circ$ である。$30^\circ\le\theta\le150^\circ$ で $\sin\theta\ge\dfrac12$ なので(三角比と鈍角への拡張 の例「三角比の不等式」)、$\sin(C-B)\ge\dfrac12$ である。よって
$$
\mathrm{CP}< R\left(1-\frac12\right)=\frac R2
$$
である。
段 7($\mathrm{OP}$ と比べる)。三角形 $\mathrm{OPC}$ の三角不等式 $\mathrm{OP}+\mathrm{CP}\ge\mathrm{OC}=R$ と段 6 から
$$
\mathrm{OP}\ge R-\mathrm{CP}>R-\frac R2=\frac R2>\mathrm{CP}
$$
である。段 3 により $\angle\mathrm{COP}<\angle\mathrm{OCP}=90^\circ-A$、つまり $\angle\mathrm{CAB}+\angle\mathrm{COP}<90^\circ$ である。$\square$
この問題の主張は、三角形を拡大・縮小しても変わらない(角だけの主張である)。そこで $R=1$ としてよい。すると正弦定理により、辺・高さ・外心までの距離など、三角形に現れる長さはすべて $A,B,C$ の三角比の式になる。$C=180^\circ-A-B$ なので、三角形の形は 2 つの数 $(A,B)$ で決まり、問題は「平面の領域 $\{(A,B)\mid A,B>0,\ A+B<180^\circ\}$ の中の、条件で決まる部分で、ある関数が負である」という 2 変数の不等式になる。
大学では、このように「図形を、変換で変わらない量(ここでは角)で分類し、分類の空間の上の関数として問題を見る」ことがよくある。相似な三角形の全体を点として並べた空間は、三角形の 形の空間(モジュライ空間)の最も簡単な例である。正弦定理は、長さを形の空間の上の関数に直す道具である。
段 6 で、$\sin(C-B)=\dfrac12$ となるのは $C-B=30^\circ$ のときで、そのとき結論の不等式を真にしているのは $\sin A<1$ の余裕だけである。実際、$C-B=30^\circ$ のまま $A$ を $90^\circ$ に近づけると、$A+\angle\mathrm{COP}$ は $90^\circ$ にいくらでも近づく。数値で計算すると、$A=80^\circ$($B=35^\circ$、$C=65^\circ$)で $89.15\ldots^\circ$、$A=89^\circ$($B=30.5^\circ$、$C=60.5^\circ$)で $89.999\ldots^\circ$ である。したがって、結論の $90^\circ$ はこれ以上小さい数に置き換えられない。
cor-los-area の $S=\dfrac12bc\sin A$ は、どの頂点で計算しても同じ面積なので
$$
2S=bc\sin A=ca\sin B=ab\sin C
$$
である。$abc$ で割ると $\dfrac{\sin A}a=\dfrac{\sin B}b=\dfrac{\sin C}c=\dfrac{2S}{abc}$ となり、外接円を使わずに比が等しいことが分かる。外接円が必要なのは、共通の値 $\dfrac{2S}{abc}$ が $\dfrac1{2R}$ に等しいことを示す部分だけである。
大学の言葉では、辺をベクトル $\vec u=\overrightarrow{\mathrm{AB}}$、$\vec v=\overrightarrow{\mathrm{AC}}$ で表すと、$2S$ は $\vec u,\vec v$ の張る平行四辺形の面積で、成分では $\lvert u_1v_2-u_2v_1\rvert$(2 次の行列式の絶対値)、空間では外積の大きさ $\lvert\vec u\times\vec v\rvert$ である(1次変換と行列式:面積の拡大率、空間の平面と法線ベクトル)。$bc\sin A=\lvert\vec u\times\vec v\rvert$ が頂点のとり方によらないことが、正弦定理の比の部分の正体である。
thm-los-main は「半径 $R$ の円で、円周角 $\theta$ に対する弦の長さは $2R\sin\theta$」と言い換えられる。中心角で言えば、中心角 $2\theta$ の弦の長さが $2R\sin\theta$ である。たとえば半径 $1$ の円に内接する正 $n$ 角形の 1 辺は、中心角 $\dfrac{360^\circ}n$ の弦なので $2\sin\dfrac{180^\circ}n$ である。この式で円周率を挟む話は 正多角形で円周率を挟む にある。複素数平面では、単位円上の 2 点 $\cos\alpha+i\sin\alpha$ と $\cos\beta+i\sin\beta$ の距離が $2\left\lvert\sin\dfrac{\alpha-\beta}2\right\rvert$ になることと同じ内容である(複素数の掛け算は回転と拡大)。
ex-los-sphere で見たように、球面の上では平面の正弦定理は成り立たない。半径 $1$ の球面の三角形では
$$
\frac{\sin a}{\sin A}=\frac{\sin b}{\sin B}=\frac{\sin c}{\sin C}
$$
が、曲率 $-1$ の双曲平面の三角形では
$$
\frac{\sinh a}{\sin A}=\frac{\sinh b}{\sin B}=\frac{\sinh c}{\sin C}
$$
が成り立つ(Hit18 定理 6.3.14(b)(PDF 版 p. 148)、定理 5.4.12(c)(PDF 版 p. 114)。この記事では証明しない)。Hit18 の定理 6.3.14 は楕円幾何、つまり球面の向かい合う 2 点(対蹠点)を同じ点とみなしたモデルについての定理であるが、球面の上の三角形でも同じ式が成り立つ。ここで $a,b,c$ は曲面に沿って測った辺の長さ、$\sinh x=\dfrac{e^x-e^{-x}}2$ である。辺が短い三角形では $\sin a$ も $\sinh a$ もほぼ $a$ に等しいので、どちらの式も平面の正弦定理の比の部分に近づく。平面の正弦定理が外接円の直径 $2R$ という値まで言えるのは、平面の円周角の定理を使えるからである。
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