整閉包

同義語:integral closure

概要

整閉包(integral closure)とは、可換環の拡大 $A\subset B$ に対し、$A$ 係数のモニックな多項式の根になる $B$ の元をすべて集めた部分環のことである。これは $A$ を含み $B$ の中で整閉な部分環のうち最小のものである。$\mathbb{Z}$ の $\mathbb{Q}(\sqrt5)$ における整閉包は $\mathbb{Z}[(1+\sqrt5)/2]$ であり、整域 $A$ のその商体における整閉包を正規化という。正規化が $A$ 自身に一致する整域を整閉整域といい、一意分解整域や付値環はその例である。整閉包をとる操作は局所化と可換で、整閉整域であることは局所的な性質である。代数体の整数環や体上有限生成な整域の正規化は有限生成な加群になるが、$\mathbb{Z}$ の $\mathbb{C}$ における整閉包は有限生成でない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 可換環, 部分環, 整拡大, 商体, 局所化
整閉包は、環の拡大 $A\subset B$ に対し、$B$ の元のうち $A$ 係数のモニックな多項式の根になるもの($A$ 上整な元)をすべて集めた部分環である。$\mathbb{Z}$ の複素数体 $\mathbb{C}$ における整閉包は代数的整数全体の環であり、2 次体 $\mathbb{Q}(\sqrt5)$ における整閉包は $\mathbb{Z}[(1+\sqrt5)/2]$ である。整域 $A$ のその商体における整閉包は $A$ の正規化と呼ばれ、$A$ がそれと一致するとき $A$ は整閉整域であるという。整閉包を取る操作は局所化と可換であり、整閉であることは局所的な性質である。幾何学的には、曲線の座標環の正規化は曲線の特異点をほどく操作に当たり、たとえば結節点をもつ 3 次曲線の座標環の正規化は 1 変数の多項式環になる。本記事では、環は乗法の単位元 $1$ をもつ可換環とし(整拡大 の記事と同じ流儀)、環 $B$ の部分環 $A$ は $B$ の単位元を含むものとして、このとき $A\subset B$ を環の拡大という。

定義

多項式 $f\in A[x]$ の最高次の係数が $1$ であるとき、$f$ を モニック(monic)という。

整閉包

$A\subset B$ を環の拡大とする。

  1. $b\in B$ が $A$ 上 整(integral)であるとは、$A$ 係数のモニックな多項式 $f(x)=x^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_0$($n\ge1$、$a_i\in A$)で $f(b)=0$ となるものが存在することをいう。
  2. $A$ 上整な $B$ の元全体の集合を、$A$ の $B$ における 整閉包(integral closure)といい、本記事では $\overline{A}^{B}$ と書く。
  3. $\overline{A}^{B}=A$ のとき、$A$ は $B$ の中で 整閉(integrally closed)であるという。
  4. 整域 $A$ の、その商体 $\operatorname{Frac}(A)$ における整閉包 $\widetilde{A}:=\overline{A}^{\operatorname{Frac}(A)}$ を $A$ の 正規化(normalization)という。$\widetilde{A}=A$ のとき、$A$ を 整閉整域(integrally closed domain)または 正規整域(normal domain)という。

整な元・整拡大の定義と基本性質は 整拡大 の記事の定義「整元と整拡大」と同じであり、そこでも整閉包が定義されている(同記事の定義「環の中での整閉包」)。本記事は、整閉包という部分環そのものの性質と計算例を扱う。
$a\in A$ は $x-a$ の根なので、$A\subset\overline{A}^{B}$ である。$\overline{A}^{B}$ は $A$ を含む $B$ の部分環であり(整拡大 の記事の命題「整な元の和と積」)、定義から $A\subset\overline{A}^{B}$ は整拡大である。さらに $\overline{A}^{B}$ は $B$ の中で整閉である。すなわち、$\overline{A}^{B}$ 上整な $B$ の元は $A$ 上整である(同記事の系「整閉包の整閉性」)。したがって整閉包は、$A$ を含み、$B$ の中で整閉な $B$ の部分環のうち最小のものである(prop-integral-closure-intermediate の 1)。
より一般に環準同型 $\varphi\colon A\to B$ に対しては、部分環 $\varphi(A)$ の $B$ における整閉包を、$A$ の $B$ における整閉包という。整閉包は $B$ をどこにとるかに依存する(ex-integral-closure-depends-on-b)。

直感

$\mathbb{Z}$ が $\mathbb{Q}$ の中で「整数」を与えるように、整閉包は大きな環 $B$ の中で「$A$ に対する整数」を集めたものである。$A$ 上整な元は $A$ の元と足し算・掛け算で閉じ、しかもそれ以上は増えない(整閉包の整閉包はもとの整閉包である)。代数体 $K$ の整数環 $\mathcal{O}_K$ は、$\mathbb{Z}$ の $K$ における整閉包として定まる。
整域 $A$ の正規化 $\widetilde{A}$ は、商体を変えずに $A$ を「分数で書けるが整な元」で補ったものである。$A=\mathbb{Z}[\sqrt5]$ では、$\varphi=(1+\sqrt5)/2$ が $\mathbb{Z}[\sqrt5]$ の商体の元で $x^2-x-1$ の根なのに $A$ に入っていないので、$A$ は整閉でなく、正規化は $\mathbb{Z}[\varphi]$ になる。幾何学的には、曲線の座標環 $A$ が整閉でないことは曲線が特異点をもつことに対応し、正規化 $\operatorname{Spec}\widetilde{A}\to\operatorname{Spec}A$ は特異点を「ほどく」写像である。結節点(2 本の枝が交わる点)は、正規化で 2 点に分かれる(ex-integral-closure-node)。Krull次元が $1$ の Noether 整域(Noether環である整域)では、整閉であることと、$0$ でない各素イデアルでの局所化が離散付値環であること(曲線でいえば各点の局所環が正則局所環であること)が同値になる(Dedekind整域 の記事の定理「Noether整域におけるDedekind整域の特徴づけ」)。

例と反例

整数環と一意分解整域
  1. $\mathbb{Z}$ は $\mathbb{Q}$ の中で整閉であり、$\widetilde{\mathbb{Z}}=\mathbb{Z}$ である。より一般に、一意分解整域は整閉整域である(整拡大 の記事の例「一意分解整域は整閉」)。とくに体 $k$ 上の多項式環 $k[x_1,\dots,x_n]$ は整閉整域である。
  2. $\mathbb{Z}$ の $\mathbb{C}$ における整閉包 $\overline{\mathbb{Z}}^{\mathbb{C}}$ は、定義により代数的整数全体の環 $\overline{\mathbb{Z}}$ である(代数的整数 の記事の定義「代数的整数」)。代数体 $K$ における $\mathbb{Z}$ の整閉包は $K$ の整数環 $\mathcal{O}_K$ である。
  3. 付値環は整閉整域である(付値環 の記事の命題「付値環は整閉」)。
2 次体の整数環

$K=\mathbb{Q}(\sqrt5)=\{a+b\sqrt5\mid a,b\in\mathbb{Q}\}$、$\varphi:=(1+\sqrt5)/2$ とする。$\mathbb{Z}$ の $K$ における整閉包は
$$ \overline{\mathbb{Z}}^{K}=\mathbb{Z}[\varphi]=\{u+v\varphi\mid u,v\in\mathbb{Z}\} $$
である。
$\varphi$ は $x^2-x-1$ の根なので $\mathbb{Z}$ 上整であり、整閉包は部分環なので $\mathbb{Z}[\varphi]\subset\overline{\mathbb{Z}}^{K}$ である。$\varphi^2=\varphi+1$ なので $\mathbb{Z}[\varphi]=\mathbb{Z}+\mathbb{Z}\varphi$ である。
逆に $x=a+b\sqrt5$($a,b\in\mathbb{Q}$)が $\mathbb{Z}$ 上整であるとする。$\sigma(a+b\sqrt5):=a-b\sqrt5$ は、直接の計算 $(a+b\sqrt5)(c+d\sqrt5)=(ac+5bd)+(ad+bc)\sqrt5$ からわかるように $K$ の環の自己同型で、$\mathbb{Q}$ の元を動かさない。$x$ の整従属関係に $\sigma$ を施すと、$\sigma(x)$ も同じモニックな多項式の根になり、$\mathbb{Z}$ 上整である。整な元の和と積は整なので、
$$ m:=x+\sigma(x)=2a,\qquad x\sigma(x)=a^2-5b^2 $$
は $\mathbb{Z}$ 上整な有理数であり、ex-integral-closure-ufd の 1 により整数である。$4(a^2-5b^2)-m^2=-20b^2$ も整数である。$b=p/q$($p,q$ は互いに素な整数、$q\ge1$)と書くと $q^2\mid20p^2$ から $q^2\mid20$、したがって $q\in\{1,2\}$ であり、$n:=2b$ は整数である。$m^2-5n^2=4(a^2-5b^2)$ は $4$ の倍数で、$5n^2\equiv n^2\pmod4$ なので $m^2\equiv n^2\pmod4$ である。平方数は偶数なら $4$ で割って $0$、奇数なら $1$ 余るので、$m\equiv n\pmod2$ である。よって
$$ x=\frac{m+n\sqrt5}{2}=\frac{m-n}{2}+n\varphi\in\mathbb{Z}[\varphi] $$
である。
$\mathbb{Z}\subset\mathbb{Z}[\sqrt5]\subset\mathbb{Z}[\varphi]$ はどれも整拡大なので、$\mathbb{Z}[\sqrt5]$ の $K$ における整閉包も $\mathbb{Z}[\varphi]$ である(prop-integral-closure-intermediate)。$K$ は $\mathbb{Z}[\sqrt5]$ の商体なので、$\mathbb{Z}[\sqrt5]$ の正規化は $\mathbb{Z}[\varphi]$ であり、$\varphi\notin\mathbb{Z}[\sqrt5]$ なので $\mathbb{Z}[\sqrt5]$ は整閉整域でない。一般の 2 次体の整数環は 代数的整数 の記事の命題「2 次体の整数環の決定」で、最小多項式の係数を使う別の方法で決定されている。

結節点をもつ曲線の正規化

$k$ を体、$f=y^2-x^2(x+1)\in k[x,y]$、$A=k[x,y]/(f)$ とする。$k$ の標数が $2$ でなければ原点は結節点である(標数 $2$ では原点は結節点でなく尖点になるが、以下の正規化の計算は標数によらない)。$A$ の正規化は 1 変数の多項式環 $k[t]$ である。
環準同型 $\psi\colon k[x,y]\to k[t]$ を $\psi(x)=t^2-1$、$\psi(y)=t(t^2-1)$ で定める。$\psi(f)=t^2(t^2-1)^2-(t^2-1)^2t^2=0$ である。逆に $\psi(g)=0$ とする。$f$ は $y$ についてモニックな 2 次式なので、$k[x][y]$ での割り算(除法の原理)により $g=fh+g_0(x)+g_1(x)y$($h\in k[x,y]$、$g_0,g_1\in k[x]$)と書ける。
$$ 0=\psi(g)=g_0(t^2-1)+t(t^2-1)\,g_1(t^2-1) $$
の右辺の第 1 項は $t$ の偶数次の項だけ、第 2 項は奇数次の項だけからなるので、どちらも $0$ である。$g\mapsto g(t^2-1)$ は次数を 2 倍にし最高次の係数を保つので単射であり、$k[t]$ は整域で $t(t^2-1)\ne0$ なので、$g_0=g_1=0$ である。よって $\ker\psi=(f)$ であり、$\psi$ は同型 $A\cong R:=k[t^2-1,\,t^3-t]\subset k[t]$ を与える。とくに $A$ は整域である。
$t=(t^3-t)/(t^2-1)$ は $R$ の商体の元なので、$R$ の商体は $k(t)$ である。$t$ は $R$ 係数のモニックな多項式 $T^2-\bigl((t^2-1)+1\bigr)$ の根なので $R$ 上整であり、$k[t]=R[t]\subset\widetilde{R}$ である。逆に $\widetilde{R}$ の元は $R$ 上整なので $k[t]$ 上整な $k(t)$ の元であり、$k[t]$ は整閉整域(ex-integral-closure-ufd)なので $k[t]$ に属する。よって $\widetilde{R}=k[t]$ である。
$t\notin R$ である。実際 $R$ の元は $g_0(t^2-1)+(t^3-t)g_1(t^2-1)$ の形であり、これが $t$ に等しければ偶数次の部分から $g_0=0$、奇数次の部分から $1=(t^2-1)g_1(t^2-1)$ となるが、$t^2-1$ は $k[t]$ の単元でない。よって $A\cong R$ は整閉整域でない。
幾何学的には、$\operatorname{Spec}k[t]\to\operatorname{Spec}A$ は直線 $\mathbb{A}^1$ から曲線 $y^2=x^2(x+1)$ への写像 $t\mapsto(t^2-1,t^3-t)$ であり、原点に写る点は $t=1$ と $t=-1$ である。$k$ の標数が $2$ でなければこれは相異なる 2 点であり、原点で交わる 2 本の枝が正規化で分かれる。尖点の座標環 $k[t^2,t^3]$ の正規化も $k[t]$ である(整拡大 の記事の例「尖点の座標環」)。

冪零元と冪等元

$A\subset B$ を任意の環の拡大とする。$B$ の冪零元 $b$($b^n=0$)は $x^n$ の根、冪等元 $e$($e^2=e$)は $x^2-x$ の根なので、どちらも $A$ 上整であり、$\overline{A}^{B}$ に属する。とくに $B$ の冪零根基は $\overline{A}^{B}$ に含まれる。たとえば体 $k$ について、$k$ の $k[x]/(x^2)$ における整閉包は $k[x]/(x^2)$ 全体であり、$k$ の直積環 $k\times k$($k$ は対角線 $\{(c,c)\}$ として含まれる)における整閉包は $k\times k$ 全体である。整閉包は整域でない環の中でも意味をもち、$B$ が整域でなければ $\overline{A}^{B}$ は整域とは限らない(上の 2 例のように、$B$ の冪零元や冪等元を含みうる)。

反例:整閉包は取る環に依存する

$A=\mathbb{Z}$、$B=\mathbb{Z}[\sqrt5]$ とする。$B$ は $\mathbb{Z}$ 上整なので $\overline{\mathbb{Z}}^{B}=B$ であり、整閉包 $\overline{\mathbb{Z}}^{B}$ は(どの整閉包もそうであるように)$B$ の中で整閉である。しかし ex-integral-closure-quadratic により $B=\mathbb{Z}[\sqrt5]$ は整閉整域でない。同じ $\mathbb{Z}$ でも、$\mathbb{Z}[\sqrt5]$ における整閉包は $\mathbb{Z}[\sqrt5]$、$\mathbb{Q}(\sqrt5)$ における整閉包は $\mathbb{Z}[\varphi]$ である。
この例は「$\overline{A}^{B}$ は $B$ の中で整閉」を満たすが「$\overline{A}^{B}$ は整閉整域」を満たさず、含意「整閉包は整閉整域である」を破る。整閉包が整閉整域になるのは、たとえば $A$ が整域で $B$ がその商体の代数拡大体の場合である(prop-integral-closure-denominators)。

反例:有限でない整閉包

$\overline{\mathbb{Z}}=\overline{\mathbb{Z}}^{\mathbb{C}}$ は $\mathbb{Z}$ 加群として有限生成でない(整拡大 の記事の例「反例:整だが有限でない拡大」)。一方、代数体 $K$ の整数環 $\mathcal{O}_K$ は $\mathbb{Z}$ 上有限生成である(thm-integral-closure-finiteness)。この例は「$\mathbb{Z}$ は Noether 整閉整域」を満たすが「$\mathbb{C}$ は商体 $\mathbb{Q}$ の有限次拡大」を満たさず、含意「整閉包は有限生成な加群である」を破る。

性質

中間の環と整閉包

中間の環の整閉包

$A\subset C\subset B$ を環の拡大とする。

  1. $\overline{A}^{B}\subset\overline{C}^{B}$ である。
  2. $C$ が $A$ 上整なら、$\overline{A}^{B}=\overline{C}^{B}$ である。

1:$b\in B$ が $A$ 係数のモニックな多項式の根なら、同じ多項式を $C$ 係数とみて $b$ は $C$ 上整である。
2:$b\in\overline{C}^{B}$ とすると、$C$ は $A$ 上整で $C[b]$ は $C$ 上整であるから($C[b]$ は $C$ 上整な元 $b$ と $C$ で生成され、整閉包は部分環である)、整拡大 の記事の命題「整拡大の推移性」を $A\subset C\subset C[b]$ に適用して、$b$ は $A$ 上整である。よって $\overline{C}^{B}\subset\overline{A}^{B}$ であり、1 と合わせて等号が成り立つ。$\square$

2 から、整閉包の整閉包は整閉包そのものである($C=\overline{A}^{B}$ とすればよい)。これは 整拡大 の記事の系「整閉包の整閉性」の言い換えである。

局所化との可換性

整閉包と局所化

$A\subset B$ を環の拡大、$C:=\overline{A}^{B}$、$S$ を $A$ の積閉集合とする。$S^{-1}A\subset S^{-1}C\subset S^{-1}B$ を部分環とみなすと
$$ \overline{S^{-1}A}^{\,S^{-1}B}=S^{-1}C $$
である。すなわち、整閉包をとる操作と局所化は可換である。

包含 $A\subset C\subset B$ は $A$ 加群の単射なので、局所化しても単射であり(局所化 の記事の注意「部分加群・商加群との両立」)、$S^{-1}C=\{c/s\mid c\in C,\ s\in S\}$ は $S^{-1}B$ の部分環、$S^{-1}A$ はその部分環とみなせる。
($\supset$)$A\subset C$ は整拡大なので、整拡大 の記事の命題「剰余環と局所化で保たれること」の 2 により $S^{-1}C$ は $S^{-1}A$ 上整である。
($\subset$)$b/s\in S^{-1}B$($b\in B$、$s\in S$)が $S^{-1}A$ 上整であるとする。係数を通分して、$S^{-1}B$ において
$$ \Bigl(\frac bs\Bigr)^n+\frac{a_1}{s'}\Bigl(\frac bs\Bigr)^{n-1}+\cdots+\frac{a_n}{s'}=0\qquad(a_i\in A,\ s'\in S,\ n\ge1) $$
とする。両辺に $(ss')^n$ を掛けると、$\dfrac{a_i}{s'}\Bigl(\dfrac bs\Bigr)^{n-i}(ss')^n=a_is^is'^{\,i-1}(s'b)^{n-i}$ なので
$$ \frac{(s'b)^n+c_1(s'b)^{n-1}+\cdots+c_n}{1}=0,\qquad c_i:=a_is^is'^{\,i-1}\in A $$
となる。局所化の定義により、ある $u\in S$ で $u\bigl((s'b)^n+c_1(s'b)^{n-1}+\cdots+c_n\bigr)=0$ が $B$ で成り立つ。これに $u^{n-1}$ を掛けると
$$ (us'b)^n+uc_1(us'b)^{n-1}+u^2c_2(us'b)^{n-2}+\cdots+u^nc_n=0 $$
であり、$us'b$ は $A$ 上整、すなわち $us'b\in C$ である。よって $b/s=(us'b)/(us's)\in S^{-1}C$ である。$\square$

整閉であることは局所的な性質

整閉整域の局所判定

$A$ を整域とする。次は同値である。

  1. $A$ は整閉整域である。
  2. すべての素イデアル $\mathfrak{p}$ について、局所化 $A_{\mathfrak{p}}$ は整閉整域である。
  3. すべての極大イデアル $\mathfrak{m}$ について、局所化 $A_{\mathfrak{m}}$ は整閉整域である。

$K=\operatorname{Frac}(A)$ とする。積閉集合 $S\subset A\setminus\{0\}$ について、$S^{-1}A$ は $A\subset S^{-1}A\subset K$ となる整域であり、その商体は $K$ である。$S$ の元は $K$ で可逆なので $S^{-1}K=K$ であり、prop-integral-closure-localization を $A\subset K$ に適用すると、$S^{-1}A$ の正規化は $S^{-1}\widetilde{A}$ である。したがって
$$ S^{-1}A\ \text{が整閉整域}\iff S^{-1}\widetilde{A}=S^{-1}A\iff S^{-1}\bigl(\widetilde{A}/A\bigr)=0 $$
である。最後の同値は、$A$ 加群の短完全列 $0\to A\to\widetilde{A}\to\widetilde{A}/A\to0$ を局所化すると $S^{-1}(\widetilde{A}/A)\cong S^{-1}\widetilde{A}/S^{-1}A$ となること(局所化 の記事の注意「部分加群・商加群との両立」)による。
1 ⇒ 2:$\widetilde{A}/A=0$ なら、すべての $\mathfrak{p}$ について $(\widetilde{A}/A)_{\mathfrak{p}}=0$ であり、上の同値($S=A\setminus\mathfrak{p}$)により $A_{\mathfrak{p}}$ は整閉整域である。
2 ⇒ 3:極大イデアルは素イデアルである。
3 ⇒ 1:すべての極大イデアル $\mathfrak{m}$ で $(\widetilde{A}/A)_{\mathfrak{m}}=0$ なので、局所化 の記事の命題「零加群であることの局所判定」により $\widetilde{A}/A=0$、すなわち $\widetilde{A}=A$ である。$\square$

たとえば $A=\mathbb{Z}[\sqrt5]$ では、$\varphi=(1+\sqrt5)/2$ について $2\varphi=1+\sqrt5\in A$ なので、$2$ を含まない極大イデアル $\mathfrak{m}$ での局所化では $\varphi=(1+\sqrt5)/2\in A_{\mathfrak{m}}$ となる。prop-integral-closure-local の意味で整閉性が破れうるのは、$2$ を含む極大イデアルでの局所化だけである。

商体の代数拡大における整閉包

分母を払うことと正規化

$A$ を整域、$K=\operatorname{Frac}(A)$、$L$ を $K$ の代数拡大体とし、$B:=\overline{A}^{L}$ とする。

  1. 任意の $x\in L$ に対し、$ax\in B$ となる $a\in A$、$a\neq0$ が存在する。
  2. $B$ の商体は $L$ であり、$B$ は整閉整域である。また $B\cap K=\widetilde{A}$ である。
  3. 正規化 $\widetilde{A}$ は整閉整域で、商体は $K$ である。さらに $A\subset C\subset K$ を満たす整閉整域 $C$ はすべて $\widetilde{A}$ を含む。すなわち $\widetilde{A}$ は、$A$ を含む $K$ の部分環で整閉整域であるもののうち最小である。

1:$x$ は $K$ 上代数的なので、$K$ 係数の $0$ でない多項式の根であり、分母を払うと $a_nx^n+a_{n-1}x^{n-1}+\cdots+a_0=0$($a_i\in A$、$a_n\neq0$、$n\ge1$)を満たす。両辺に $a_n^{n-1}$ を掛けると
$$ (a_nx)^n+a_{n-1}(a_nx)^{n-1}+a_{n-2}a_n(a_nx)^{n-2}+\cdots+a_0a_n^{n-1}=0 $$
となり、これは $a_nx$ についての $A$ 係数のモニックな式である。よって $a:=a_n$ とすれば $ax\in B$ である。
2:$B$ は体 $L$ の部分環なので整域であり、$\operatorname{Frac}(B)\subset L$ とみなせる。1 により $x=(ax)/a$ は $B$ の元の商なので $L\subset\operatorname{Frac}(B)$ である。$B$ は $L$ の中で整閉なので(整拡大 の記事の系「整閉包の整閉性」)、商体 $L$ の中で整閉、すなわち整閉整域である。$B\cap K$ は $A$ 上整な $K$ の元の全体なので $\widetilde{A}$ に等しい。
3:$L=K$ とすると 2 により $\widetilde{A}$ は商体 $K$ をもつ整閉整域である。$C$ を $A\subset C\subset K$ を満たす整閉整域とする。$C$ の商体は $K$ である($A\subset C\subset K$ と $K=\operatorname{Frac}(A)$ から)。$x\in\widetilde{A}$ は $A$ 上整なので $C$ 上整であり(prop-integral-closure-intermediate の 1)、$C$ は $K$ の中で整閉なので $x\in C$ である。$\square$

$A=\mathbb{Z}$ の場合、1 は 代数的整数 の記事の命題「代数的数の整数倍」である。$L/K$ が代数拡大であるという仮定は 1 に必要である。$L=K(t)$($t$ は超越元)では、$a\neq0$ をどう選んでも $at$ は $A$ 上整でない($at$ も $K$ 上超越的なので、どんな $0$ でない多項式の根にもならない)。

付値環による記述と有限性

付値環の共通部分としての正規化

$A$ を整域、$K=\operatorname{Frac}(A)$ とする。$A$ の正規化 $\widetilde{A}$ は、$A$ を含む $K$ の付値環すべての共通部分に等しい。

付値環による記述の出典

証明は AM69 Chapter 5 に譲る。共通部分が $\widetilde{A}$ を含むことは、付値環が整閉整域であること(ex-integral-closure-ufd の 3)と prop-integral-closure-denominators の 3 から直ちに従う。逆の包含には、$x\notin\widetilde{A}$ に対し $x^{-1}$ を含む極大イデアルをもつ部分環 $A[x^{-1}]$ から、$x$ を含まない付値環を Zorn の補題で構成する議論が要る(付値環 の記事の「補足」も参照)。

整閉包の有限性

$A$ を整域、$K=\operatorname{Frac}(A)$、$L$ を $K$ の有限次拡大体、$B=\overline{A}^{L}$ とする。次のいずれかの場合、$B$ は $A$ 加群として有限生成(とくに $B$ は $A$ 上有限)である。

  1. $A$ は Noether 環で整閉整域であり、$L/K$ は分離拡大である。
  2. $A$ は体 $k$ 上有限生成な $k$ 代数である(体上有限生成環)。
有限性の出典と帰結

1 は $L/K$ のトレース形式が非退化であることを使って $B$ を有限生成な自由 $A$ 加群の中に入れる議論で、AM69 Chapter 5 にある。2 は Noether の正規化定理(整拡大 の記事の定理「正規化の定理」)で $A$ を多項式環上の有限な拡大にして 1 に帰着させる(非分離な場合の処理を含む)もので、Eis95 Chapter 13、Har77 Chapter I §3 にある。
1 を $A=\mathbb{Z}$ に適用すると、$\mathbb{Q}$ は完全体なので有限次拡大はすべて分離的であり、代数体 $K$ の整数環 $\mathcal{O}_K$ は $\mathbb{Z}$ 上有限生成である。2 により、体上有限生成な整域の正規化は再び体上有限生成な整域であり、アフィン代数多様体 $X=\operatorname{Spec}A$ の正規化 $\operatorname{Spec}\widetilde{A}\to X$ は有限射になる。Dedekind整域 $A$ の $L$ における整閉包は Dedekind 整域である(Dedekind整域 の記事の定理「整閉包へのDedekind性の遺伝」。$L/K$ が分離的でない場合は Krull–秋月の定理による。Mat86 §11)。

整閉包と多項式環の関係として、$A\subset B$ に対し $A[x]$ の $B[x]$ における整閉包は $\overline{A}^{B}[x]$ であり、とくに $A$ が整閉整域なら多項式環 $A[x]$ も整閉整域である(AM69 Chapter 5 の演習問題)。

補足

正規化と特異点

整域 $A$ に対し $A\subset\widetilde{A}$ は整拡大なので、$\operatorname{Spec}\widetilde{A}\to\operatorname{Spec}A$ は全射で、Krull 次元は変わらない(整拡大 の記事の定理「lying over と going up」の 1 と系「整拡大と Krull 次元」)。また $\widetilde{A}$ と $A$ は商体が等しいので、この写像は双有理的である。スキームでは、整域の正規化を貼り合わせて正規化 $\widetilde{X}\to X$ が定まり、局所環がすべて整閉整域であるスキームを正規スキームという(Har77 Chapter II §3 の演習問題)。整閉であることが局所的な性質であること(prop-integral-closure-local)は、この定義がアフィンの場合に整閉整域の定義と一致することを保証する。代数曲線では正規化は特異点をすべて解消し(特異点解消)、ex-integral-closure-node のように結節点を 2 点に分ける。次元 2 以上では、正規であっても特異点は残りうる(たとえば 2 次錐 $k[x,y,z]/(xy-z^2)$ は整閉整域だが原点で特異である)。

関連項目

参考文献

[1]
Michael F. Atiyah, Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969, Chapter 5(整閉包、局所化との可換性、付値環の共通部分、分離拡大における有限性、多項式環の整閉包の演習問題)
[2]
David Eisenbud, Commutative Algebra: with a View Toward Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 150, Springer, 1995, Chapter 13(Noether の正規化定理と、体上有限生成な整域の正規化の有限性)
[3]
Robin Hartshorne, Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 52, Springer, 1977, Chapter I §3(整閉包の有限性)、Chapter II §3 の演習問題(スキームの正規化)

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