Hansenの問題(Hansen's problem)とは、位置の分かった 2 点 $A$、$B$ と位置の分からない 2 点 $P$、$Q$ について、$P$ で測った角 $\angle APQ$、$\angle BPQ$、$Q$ で測った角 $\angle AQP$、$\angle BQP$ と、$A$、$B$ が $P$ から $Q$ へ向かう直線の左右どちらにあるかから、$P$、$Q$ の位置を求める測量の問題である。$A$、$B$ が直線 $PQ$ の上になければ、$P'=0$、$Q'=1$ として角から描いた仮の図 $A'$、$B'$ と本当の図は回転相似で移り合い、$Q-P=\frac{B-A}{B'-A'}$、$P=A-(Q-P)A'$ で $P$、$Q$ はただ 1 つに決まる。$PQ=\frac{AB}{A'B'}$ で、$A'B'$ は余弦定理の形の式で求まる。
前提知識: Snellius–Pothenotの問題, 相似変換と相似の中心, 余弦定理(高校数学), 複素数平面と図形
川の向こう岸に 2 つの塔 $A$、$B$ が立っていて、地図の上の位置は分かっている。こちら岸にいる 2 人の測量者 $P$、$Q$ は、自分たちの位置が分からない。塔までは行けず、巻き尺で長さを測ることもしない。$P$ と $Q$ はお互いが見えるので、$P$ では「$Q$ の方向と $A$ の方向のなす角」と「$Q$ の方向と $B$ の方向のなす角」を測り、$Q$ でも同じように $P$ の方向を基準にして 2 つの角を測る。この 4 つの角から、$P$ と $Q$ の位置を決められるだろうか。
Snellius–Pothenotの問題 では、位置の分かった点が 3 つあり、未知の点は 1 つだった。ここでは位置の分かった点が 2 つしかない代わりに、未知の 2 点が互いを見る角も使う。まず、角がきれいな値の場合を考える。
地図の上で $A(0,0)$、$B(100,0)$ とする。測った角は
$$
\angle APQ=90^\circ,\qquad\angle BPQ=45^\circ,\qquad\angle AQP=45^\circ,\qquad\angle BQP=90^\circ
$$
で、$P$ から $Q$ の方を向くと、$A$ も $B$ も左手に見えたとする。
長さが分からないので、仮に $P$ と $Q$ の距離を $1$ として、$P'(0,0)$、$Q'(1,0)$ に置いて描いてみる。$A$ にあたる点 $A'$ は、$P'$ で $90^\circ$、$Q'$ で $45^\circ$ の角をなし、左手(上側)にあるので、直角二等辺三角形の頂点 $A'(0,1)$ である。$B$ にあたる点 $B'$ は、$P'$ で $45^\circ$、$Q'$ で $90^\circ$ なので $B'(1,1)$ である。4 点 $A'$、$P'$、$Q'$、$B'$ は 1 辺 $1$ の正方形をつくる。
本当の図 $A$、$P$、$Q$、$B$ は、4 つの角が同じなので、この仮の図と相似になるはずである(thm-hns-shape で示す)。$A'B'=1=P'Q'$ なので本当の図でも $PQ=AB=100$ で、$APQB$ は 1 辺 $100$ の正方形である。$P$ から $Q$ を向くと $A$、$B$ が左手に見えるので、$P(0,-100)$、$Q(100,-100)$ である。
ex-hns-start では、「仮の長さで描いてから、本当の長さ $AB$ に合わせて拡大する」という方法で位置が決まった。この記事で答える問いは次の 3 つである。
川の向こうの位置の分かった 2 点 A、B と、位置の分からない 2 点 P、Q。P では Q の方向と A、B の方向のなす角を、Q では P の方向と A、B の方向のなす角を測る
平面の上に、位置の分かった異なる 2 点 $A$、$B$ と、位置の分からない異なる 2 点 $P$、$Q$ がある。$A$ も $B$ も直線 $PQ$ の上にはないとする。次の 2 つが分かっているとき、$P$、$Q$ の位置を求める問題を Hansen の問題 という。
(1) $P$ で測った角 $\alpha_1=\angle APQ$、$\beta_1=\angle BPQ$ と、$Q$ で測った角 $\alpha_2=\angle AQP$、$\beta_2=\angle BQP$。
(2) $P$ から $Q$ へ向かう直線に対して、$A$ が左右どちらにあるか、$B$ が左右どちらにあるか(向きの情報)。左にあるとき $\varepsilon_A=1$、右にあるとき $\varepsilon_A=-1$ とし、$\varepsilon_B$ も同じように決める。
「左にある」とは、半直線 $PQ$ から半直線 $PA$ へ測った向きのついた角(複素数平面と図形)が、$-180^\circ$ より大きく $180^\circ$ 以下の範囲で正であることをいう。$A$ は直線 $PQ$ の上にないので、この向きのついた角は $\varepsilon_A\alpha_1$ である。
MathWorld の頁 Wei26 は、この問題を、位置の分かった近づけない 2 点 $A$、$B$ と、近づける未知の 2 点について、一方の点から他方の点と $A$、$B$ への方向を、他方の点から一方の点と $A$、$B$ への方向を測り、未知の 2 点の位置を決める測量の問題として述べている。
ex-hns-start の考え方を、一般の角で式にする。以下、平面の点を複素数で表し、点と複素数を同じ文字で書く。
def-hns-problem の角と向きの情報から、
$$
p=\frac{\sin\alpha_2}{\sin(\alpha_1+\alpha_2)},\qquad q=\frac{\sin\beta_2}{\sin(\beta_1+\beta_2)}
$$
とおき、4 点
$$
P'=0,\qquad Q'=1,\qquad A'=p\,(\cos\alpha_1+i\,\varepsilon_A\sin\alpha_1),\qquad B'=q\,(\cos\beta_1+i\,\varepsilon_B\sin\beta_1)
$$
を 仮の図 とよぶ。
$\alpha_1$、$\alpha_2$ は三角形 $APQ$ の 2 つの角なので $\alpha_1+\alpha_2<180^\circ$ で、$\sin(\alpha_1+\alpha_2)>0$ である。$A'$ は、$P'$ からの距離が $p$ で、半直線 $P'Q'$(実軸の正の部分)から測った向きのついた角が $\varepsilon_A\alpha_1$ の点である。測量と三角比 の定理「基線と両端の角による位置」で、基線を $P'Q'$(長さ $1$)、両端の角を $\alpha_1$、$\alpha_2$ として上側に作った点は、$P'$ からの距離が $\dfrac{\sin\alpha_2}{\sin(\alpha_1+\alpha_2)}=p$ で、半直線 $P'Q'$ となす角が $\alpha_1$ の点である。これは $\varepsilon_A=1$ のときの $A'$ で、$\varepsilon_A=-1$ のときの $A'$ はそれを実軸で折り返した点である。したがって $A'$ は、$P'$ で角 $\alpha_1$、$Q'$ で角 $\alpha_2$ をなし、実軸について向きの情報どおりの側にある点である。仮の図は、長さ $1$ の基線 $P'Q'$ から三角測量で $A'$、$B'$ を描いたものである。
def-hns-problem の状況で、def-hns-provisional の仮の図を作り、$a=Q-P$ とおく。このとき次が成り立つ。
(1) $A=P+aA'$、$B=P+aB'$ である。つまり、写像 $f(z)=P+az$ は、仮の図の 4 点 $P'$、$Q'$、$A'$、$B'$ をそれぞれ $P$、$Q$、$A$、$B$ に移す。
(2) $A'\ne B'$ であり、
$$
Q-P=\frac{B-A}{B'-A'},\qquad P=A-\frac{B-A}{B'-A'}\,A',\qquad Q=P+\frac{B-A}{B'-A'}
$$
である。右辺は $A$、$B$ と仮の図だけで書けているので、$P$ と $Q$ の位置はただ 1 つに決まる。
方針:比 $\dfrac{A-P}{Q-P}$ の絶対値と偏角を、測った角と正弦定理で求め、それが $A'$ に等しいことを示す。
段 1(比の絶対値と偏角)。$w=\dfrac{A-P}{Q-P}$ とおく。複素数平面と図形 の定理「3 点の比は長さの比と角を表す」により、$\lvert w\rvert=\dfrac{PA}{PQ}$ で、$w$ の偏角は半直線 $PQ$ から半直線 $PA$ へ測った向きのついた角である。向きの情報の決め方から、その角は $\varepsilon_A\alpha_1$ である。
段 2(正弦定理)。三角形 $APQ$ の $A$ の角は $180^\circ-\alpha_1-\alpha_2$ である。正弦定理 $\dfrac{PA}{\sin\alpha_2}=\dfrac{PQ}{\sin(180^\circ-\alpha_1-\alpha_2)}$ と $\sin(180^\circ-\alpha_1-\alpha_2)=\sin(\alpha_1+\alpha_2)$ から、$\dfrac{PA}{PQ}=\dfrac{\sin\alpha_2}{\sin(\alpha_1+\alpha_2)}=p$ である。
段 3($A'$ に等しい)。段 1・段 2 から、$w$ は絶対値 $p$、偏角 $\varepsilon_A\alpha_1$ の複素数で、
$$
w=p\bigl(\cos(\varepsilon_A\alpha_1)+i\sin(\varepsilon_A\alpha_1)\bigr)=p\,(\cos\alpha_1+i\,\varepsilon_A\sin\alpha_1)=A'
$$
である($\varepsilon_A=\pm1$ なので $\cos(\varepsilon_A\alpha_1)=\cos\alpha_1$、$\sin(\varepsilon_A\alpha_1)=\varepsilon_A\sin\alpha_1$)。$w=\dfrac{A-P}{a}$ なので $A=P+aA'$ である。$B$ についても同じ議論で $B=P+aB'$ である。また $f(0)=P$、$f(1)=P+a=Q$ である。これで (1) が示された。
段 4((2) の証明)。(1) の 2 式を引くと $B-A=a(B'-A')$ である。$A\ne B$ なので $B'-A'\ne0$、つまり $A'\ne B'$ で、$a=\dfrac{B-A}{B'-A'}$ である。$A=P+aA'$ から $P=A-aA'$、$a=Q-P$ から $Q=P+a$ で、$a$ に $\dfrac{B-A}{B'-A'}$ を代入すると (2) の式になる。$\square$
写像 $f(z)=P+az$ は、原点のまわりに $a$ の偏角だけ回して $\lvert a\rvert$ 倍に拡大し、$P$ だけ平行移動する写像で、向きを保つ相似変換(回転相似)である(相似変換と相似の中心)。thm-hns-shape は「本当の図は仮の図を回転相似で移したもの」と言っている。仮の図の 4 点を $f$ で移したものが本当の図であることを式でまとめると、
$$
f(P')=P,\qquad f(Q')=Q,\qquad f(A')=A,\qquad f(B')=B
$$
である。4 つの角と向きの情報で決まるのは図の形(相似を除いた形)で、図の大きさと置き場所は、位置の分かった 2 点 $A$、$B$ で決まる。
ex-hns-start では $A'=i$、$B'=1+i$(ex-hns-provisional (1))、$A=0$、$B=100$ である。thm-hns-shape (2) により
$$
Q-P=\frac{100-0}{(1+i)-i}=100,\qquad P=0-100\cdot i=-100i,\qquad Q=-100i+100
$$
で、$P(0,-100)$、$Q(100,-100)$ である。ex-hns-start の答えと一致する。
地図の上で $A(0,0)$、$B(6,0)$ とする。$P$ と $Q$ で測った角が
$$
\tan\alpha_1=-27\ (\alpha_1\fallingdotseq92.12^\circ),\quad\tan\beta_1=\frac37\ (\beta_1\fallingdotseq23.20^\circ),\quad\tan\alpha_2=\frac97\ (\alpha_2\fallingdotseq52.13^\circ),\quad\beta_2=135^\circ
$$
で、$A$ も $B$ も $P$ から $Q$ へ向かう直線の左にあった($\varepsilon_A=\varepsilon_B=1$)とする。
仮の図を作る。$\tan\alpha_1=-27$ で $\alpha_1$ は鈍角なので $\cos\alpha_1=-\dfrac1{\sqrt{730}}$、$\sin\alpha_1=\dfrac{27}{\sqrt{730}}$、$\tan\alpha_2=\dfrac97$ から $\cos\alpha_2=\dfrac7{\sqrt{130}}$、$\sin\alpha_2=\dfrac9{\sqrt{130}}$ である。加法定理から
$$
\sin(\alpha_1+\alpha_2)=\sin\alpha_1\cos\alpha_2+\cos\alpha_1\sin\alpha_2=\frac{27\cdot7-9}{\sqrt{730}\sqrt{130}}=\frac{180}{\sqrt{730}\sqrt{130}}
$$
で、$p=\dfrac{9}{\sqrt{130}}\cdot\dfrac{\sqrt{730}\sqrt{130}}{180}=\dfrac{\sqrt{730}}{20}$ である。よって
$$
A'=\frac{\sqrt{730}}{20}\left(-\frac1{\sqrt{730}}+\frac{27}{\sqrt{730}}i\right)=-\frac1{20}+\frac{27}{20}i
$$
である。同じように $\cos\beta_1=\dfrac7{\sqrt{58}}$、$\sin\beta_1=\dfrac3{\sqrt{58}}$、$\sin(\beta_1+\beta_2)=\dfrac3{\sqrt{58}}\cdot\left(-\dfrac{\sqrt2}2\right)+\dfrac7{\sqrt{58}}\cdot\dfrac{\sqrt2}2=\dfrac{2\sqrt2}{\sqrt{58}}$ から $q=\dfrac{\sqrt2}2\cdot\dfrac{\sqrt{58}}{2\sqrt2}=\dfrac{\sqrt{58}}4$ で、
$$
B'=\frac{\sqrt{58}}4\left(\frac7{\sqrt{58}}+\frac3{\sqrt{58}}i\right)=\frac74+\frac34i
$$
である。$B'-A'=\dfrac95-\dfrac35i$ なので、thm-hns-shape (2) により
$$
Q-P=\frac{6}{\frac95-\frac35i}=\frac{30}{9-3i}=\frac{10}{3-i}=\frac{10(3+i)}{(3-i)(3+i)}=3+i
$$
である。さらに
$$
P=A-(3+i)A'=-(3+i)\cdot\frac{-1+27i}{20}=-\frac{-30+80i}{20}=\frac32-4i,\qquad Q=P+(3+i)=\frac92-3i
$$
で、$P\left(\dfrac32,-4\right)$、$Q\left(\dfrac92,-3\right)$ が求まる。$PQ=\lvert3+i\rvert=\sqrt{10}\fallingdotseq3.162$ である。
$\overrightarrow{PQ}=(3,1)$、$\overrightarrow{PA}=\left(-\dfrac32,4\right)$、$\overrightarrow{PB}=\left(\dfrac92,4\right)$、$\overrightarrow{QP}=(-3,-1)$、$\overrightarrow{QA}=\left(-\dfrac92,3\right)$、$\overrightarrow{QB}=\left(\dfrac32,3\right)$ である。内積から $\cos\angle APQ=\dfrac{-\frac92+4}{\sqrt{10}\cdot\frac{\sqrt{73}}2}=-\dfrac1{\sqrt{730}}$、$\cos\angle BPQ=\dfrac{\frac{27}2+4}{\sqrt{10}\cdot\frac{\sqrt{145}}2}=\dfrac{35}{\sqrt{1450}}=\dfrac7{\sqrt{58}}$、$\cos\angle AQP=\dfrac{\frac{27}2-3}{\sqrt{10}\cdot\frac{\sqrt{117}}2}=\dfrac{21}{\sqrt{1170}}=\dfrac7{\sqrt{130}}$、$\cos\angle BQP=\dfrac{-\frac92-3}{\sqrt{10}\cdot\frac{\sqrt{45}}2}=-\dfrac{15}{\sqrt{450}}=-\dfrac1{\sqrt2}$ で、測った角と一致する。$\overrightarrow{PQ}=(x_1,y_1)$ から $\overrightarrow{PA}=(x_2,y_2)$ への回転が反時計回りであることは、$\dfrac{A-P}{Q-P}$ の虚部が正であること、つまり $x_1y_2-y_1x_2>0$ と同じである。$3\cdot4-1\cdot\left(-\dfrac32\right)=\dfrac{27}2>0$、$B$ についても $3\cdot4-1\cdot\dfrac92=\dfrac{15}2>0$ で、$A$、$B$ は左にある。
仮の図。P′=0、Q′=1 として、測った角から A′、B′ を置く
本当の図。仮の図を回して拡大し、A′、B′ を地図の上の A、B に重ねると、P′、Q′ が P、Q に重なる
図 2 と図 3 は ex-hns-calc の仮の図と本当の図である。2 つの図は同じ形で、図 3 は図 2 を $3+i$ 倍して(原点のまわりに約 $18.43^\circ$ 回して $\sqrt{10}$ 倍に拡大して)$P$ だけずらしたものである。
thm-hns-shape の $\lvert Q-P\rvert$ を、複素数を使わずに角と長さで書く。
def-hns-problem の状況で、$p$、$q$ を def-hns-provisional のとおりとし、$\varepsilon=\varepsilon_A\varepsilon_B$ とする($A$ と $B$ が直線 $PQ$ の同じ側にあれば $\varepsilon=1$、反対側にあれば $\varepsilon=-1$)。このとき
$$
PQ=\frac{AB}{A'B'},\qquad A'B'^2=p^2+q^2-2pq\cos(\alpha_1-\varepsilon\beta_1)
$$
である。さらに $PA=p\cdot PQ$、$PB=q\cdot PQ$ である。
段 1($PQ$)。thm-hns-shape (1) の 2 式を引いた $B-A=(Q-P)(B'-A')$ の絶対値をとると $AB=PQ\cdot A'B'$ で、$A'B'\ne0$ なので $PQ=\dfrac{AB}{A'B'}$ である。
段 2($A'B'^2$)。$A'$、$B'$ を座標で書くと $A'=(p\cos\alpha_1,\ \varepsilon_Ap\sin\alpha_1)$、$B'=(q\cos\beta_1,\ \varepsilon_Bq\sin\beta_1)$ である。2 点間の距離の公式と $\varepsilon_A^2=\varepsilon_B^2=1$ から
$$
A'B'^2=(p\cos\alpha_1-q\cos\beta_1)^2+(\varepsilon_Ap\sin\alpha_1-\varepsilon_Bq\sin\beta_1)^2=p^2+q^2-2pq(\cos\alpha_1\cos\beta_1+\varepsilon\sin\alpha_1\sin\beta_1)
$$
である。$\varepsilon=\pm1$ なので $\varepsilon\sin\beta_1=\sin(\varepsilon\beta_1)$、$\cos\beta_1=\cos(\varepsilon\beta_1)$ で、加法定理から括弧の中は $\cos(\alpha_1-\varepsilon\beta_1)$ である。
段 3($PA$、$PB$)。thm-hns-shape の証明の段 2 から $\dfrac{PA}{PQ}=p$ で、$B$ についても同じく $\dfrac{PB}{PQ}=q$ である。$\square$
$A$ と $B$ が直線 $PQ$ の同じ側にあるとき、$\angle A'P'B'=\lvert\alpha_1-\beta_1\rvert$ なので、段 2 の式は三角形 $A'P'B'$ の余弦定理 $A'B'^2=P'A'^2+P'B'^2-2P'A'\cdot P'B'\cos\angle A'P'B'$ そのものである(余弦定理(高校数学))。座標で計算したので、$A'$、$P'$、$B'$ が一直線上に並ぶ場合も、$A$ と $B$ が反対側にある場合も、同じ式で済む。
ex-hns-calc の角で、$p=\dfrac{\sqrt{730}}{20}$、$q=\dfrac{\sqrt{58}}4$、$\varepsilon=1$ である。$\cos(\alpha_1-\beta_1)=\cos\alpha_1\cos\beta_1+\sin\alpha_1\sin\beta_1=\dfrac{-7+81}{\sqrt{730}\sqrt{58}}=\dfrac{74}{\sqrt{730}\sqrt{58}}$ なので
$$
A'B'^2=\frac{730}{400}+\frac{58}{16}-2\cdot\frac{\sqrt{730}}{20}\cdot\frac{\sqrt{58}}4\cdot\frac{74}{\sqrt{730}\sqrt{58}}=\frac{73}{40}+\frac{29}8-\frac{37}{20}=\frac{73+145-74}{40}=\frac{144}{40}=\frac{18}5
$$
である。$PQ=\dfrac{6}{\sqrt{18/5}}=\sqrt{\dfrac{36\cdot5}{18}}=\sqrt{10}$ で、ex-hns-calc と一致する。$PA=p\sqrt{10}=\dfrac{\sqrt{7300}}{20}=\dfrac{\sqrt{73}}2\fallingdotseq4.272$、$PB=q\sqrt{10}=\dfrac{\sqrt{580}}4=\dfrac{\sqrt{145}}2\fallingdotseq6.021$ である。
$A(0,0)$、$B(6,0)$、$P(2,-2)$、$Q(4,1)$ では、$A$ は $P$ から $Q$ へ向かう直線の左、$B$ は右にあり、$\varepsilon=-1$ である。4 つの角は $\alpha_1\fallingdotseq78.69^\circ$、$\beta_1\fallingdotseq29.74^\circ$、$\alpha_2\fallingdotseq42.27^\circ$、$\beta_2\fallingdotseq97.13^\circ$ で、$p\fallingdotseq0.7845$、$q\fallingdotseq1.2403$ である。thm-hns-length の式は $\cos(\alpha_1+\beta_1)$ を使い、$A'B'\fallingdotseq1.6641$、$PQ=\dfrac6{1.6641}\fallingdotseq3.6056$ となる。実際の $PQ=\sqrt{2^2+3^2}=\sqrt{13}\fallingdotseq3.6056$ と一致する(数値は計算機で確かめた)。
def-hns-problem の条件を外すと、$P$、$Q$ が決まらなくなる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 向きの情報が分かっている | ex-hns-calc の 4 つの角 | $P$、$Q$ が決まる($B$ が右にある別の位置でも同じ角) |
| $A$ が直線 $PQ$ の上にない | $A(0,0)$、$B(10,0)$ と、$P(8,4)$、$Q(4,2)$ | $P$、$Q$ が決まる($P(9,3)$、$Q(6,2)$ でも同じ角) |
| $P$ と $Q$ の両方で角を測る | $P$ でだけ角を測る | $P$、$Q$ が決まる($Q$ を半直線 $PQ$ の上で動かしても同じ角) |
ex-hns-calc と同じ 4 つの角で、$B$ が $P$ から $Q$ へ向かう直線の右にある($\varepsilon_B=-1$)と考える。仮の図の $B$ にあたる点は、$B'$ を実軸で折り返した $\overline{B'}=\dfrac74-\dfrac34i$ になり、thm-hns-shape (2) の式から
$$
Q-P=\frac{6}{\frac74-\frac34i-\left(-\frac1{20}+\frac{27}{20}i\right)}=\frac{6}{\frac95-\frac{21}{10}i}=\frac{60}{18-21i}=\frac{20(6+7i)}{85}=\frac{24+28i}{17}
$$
である。$P=-\dfrac{24+28i}{17}\cdot\dfrac{-1+27i}{20}=\dfrac{39-31i}{17}$、$Q=P+\dfrac{24+28i}{17}=\dfrac{63-3i}{17}$ で、この $P$、$Q$ からも 4 つの角は ex-hns-calc と同じになる。$PQ=\dfrac{4\sqrt{85}}{17}\fallingdotseq2.169$ で、$\sqrt{10}\fallingdotseq3.162$ とは違う。4 つの角だけでは、$\varepsilon_A$、$\varepsilon_B$ の選び方 4 通りに応じて 4 通りの位置が残る($\varepsilon_A=\varepsilon_B=-1$ の組は ex-hns-calc の位置を直線 $AB$ で折り返した $P\left(\dfrac32,4\right)$、$Q\left(\dfrac92,3\right)$ で、$\varepsilon_A=-1$、$\varepsilon_B=1$ の組はこの例の位置を直線 $AB$ で折り返したものである)。向きの情報で 1 つに決まる。
$P\left(\dfrac{39}{17},-\dfrac{31}{17}\right)$、$Q\left(\dfrac{63}{17},-\dfrac3{17}\right)$ で、$\overrightarrow{PQ}=\dfrac1{17}(24,28)$、$\overrightarrow{PA}=\dfrac1{17}(-39,31)$、$\overrightarrow{PB}=\dfrac1{17}(63,31)$、$\overrightarrow{QA}=\dfrac1{17}(-63,3)$、$\overrightarrow{QB}=\dfrac1{17}(39,3)$ である。内積から $\cos\angle APQ=\dfrac{24\cdot(-39)+28\cdot31}{\sqrt{1360}\sqrt{2482}}=\dfrac{-68}{\sqrt{3375520}}=-\dfrac1{\sqrt{730}}$($3375520=68^2\cdot730$)で、ex-hns-calc の $\cos\alpha_1$ と一致する。残りの 3 つの角も同じように一致する(計算機で分数のまま確かめた)。$\overrightarrow{PQ}$ と $\overrightarrow{PB}$ で $24\cdot31-28\cdot63=-1020<0$ なので、$B$ は右にある。
$A(0,0)$、$B(10,0)$ とし、$P(8,4)$、$Q(4,2)$ をとる。$A$、$Q$、$P$ は直線 $y=\dfrac x2$ の上にこの順に並ぶので、$\angle APQ=0^\circ$、$\angle AQP=180^\circ$ である。$\overrightarrow{PB}=(2,-4)$、$\overrightarrow{PQ}=(-4,-2)$ の内積は $0$ で $\angle BPQ=90^\circ$、$\overrightarrow{QB}=(6,-2)$、$\overrightarrow{QP}=(4,2)$ から $\cos\angle BQP=\dfrac{20}{\sqrt{40}\sqrt{20}}=\dfrac1{\sqrt2}$ で $\angle BQP=45^\circ$ である。
$P(9,3)$、$Q(6,2)$ でも、$A$、$Q$、$P$ は直線 $y=\dfrac x3$ の上にこの順に並び、$\overrightarrow{PB}=(1,-3)$、$\overrightarrow{PQ}=(-3,-1)$ の内積は $0$、$\overrightarrow{QB}=(4,-2)$、$\overrightarrow{QP}=(3,1)$ から $\cos\angle BQP=\dfrac{10}{\sqrt{20}\sqrt{10}}=\dfrac1{\sqrt2}$ である。4 つの角がまったく同じなのに、位置が違う。三角形 $APQ$ がつぶれて、thm-hns-shape の証明の段 2 の正弦定理が使えないので、$PA$ と $PQ$ の比が角から決まらないのである。
ex-hns-calc の $A(0,0)$、$B(6,0)$、$P\left(\dfrac32,-4\right)$ で、$Q$ を $\left(\dfrac92,-3\right)$ から $\left(\dfrac{15}2,-2\right)$ に動かしても、$Q$ は半直線 $PQ$ の上にあるので、$P$ で測る $\angle APQ$、$\angle BPQ$ は変わらない。$Q$ で角を測らなければ、$Q$ の位置は決まらない。未知数は $P$、$Q$ の座標の 4 つなのに、測った量が 2 つしかない。
向きの情報がないと、同じ 4 つの角を与える位置の組がほかにもある。図は、B が P から Q へ向かう直線の左にある組と右にある組
A が直線 PQ の上にあると、同じ 4 つの角を与える位置の組が無数にある
図 4 は ex-hns-cx-side、図 5 は ex-hns-cx-line の 2 組の位置である。
角から位置を決める 3 つの問題で、未知数の個数と測る量の個数を比べる。
| 問題 | 未知数 | 測る量 | 決まらない配置 |
|---|---|---|---|
| 三角測量(測量と三角比) | $P$ の座標 2 つ | 角 2 つ | 両端の角の和が $180^\circ$ 以上($P$ がない) |
| Snellius–Pothenotの問題 | $P$ の座標 2 つ | 角 2 つ | $P$ が $A$、$B$、$C$ を通る円の上 |
| Hansen の問題 | $P$、$Q$ の座標 4 つ | 角 4 つ | $A$ か $B$ が直線 $PQ$ の上 |
どの問題でも、未知数の個数と、測る量(方程式)の個数は同じである。それでも、Snellius–Pothenot の問題では危険円の上で位置が決まらなかった。方程式の個数が合っていても、方程式が互いに独立でない配置では解が 1 つに決まらない。角から位置への写像の偏微分を並べた行列(Jacobi行列)の行列式が $0$ になる所が、その配置の候補になる(この記事では証明しない)。
Hansen の問題では、thm-hns-shape により、$A$、$B$ が直線 $PQ$ の上になく、向きの情報が分かっていれば、$P$、$Q$ はいつもただ 1 つに決まる。危険円にあたる配置はなく、決まらないのは ex-hns-cx-line のように三角形がつぶれる場合だけである。
地図の上で $A(0,0)$、$B(100,0)$ とする。$\angle APQ=\angle AQP=60^\circ$、$\angle BPQ=90^\circ$、$\angle BQP=45^\circ$ で、$A$、$B$ はどちらも $P$ から $Q$ へ向かう直線の左にある。$PQ$ を求めよ。
ex-hns-provisional (2) から $A'=\dfrac12+\dfrac{\sqrt3}2i$ である。$q=\dfrac{\sin45^\circ}{\sin135^\circ}=1$ で $B'=\cos90^\circ+i\sin90^\circ=i$ である。$A'B'^2=\left(\dfrac12\right)^2+\left(1-\dfrac{\sqrt3}2\right)^2=\dfrac14+1-\sqrt3+\dfrac34=2-\sqrt3$ で、$\left(\dfrac{\sqrt6-\sqrt2}2\right)^2=\dfrac{8-4\sqrt3}4=2-\sqrt3$ なので $A'B'=\dfrac{\sqrt6-\sqrt2}2$ である。thm-hns-length により $PQ=\dfrac{100}{A'B'}=\dfrac{200}{\sqrt6-\sqrt2}=\dfrac{200(\sqrt6+\sqrt2)}{4}=50(\sqrt6+\sqrt2)\fallingdotseq193.19$ である。
ex-hns-start と同じ角で、$B$ だけが $P$ から $Q$ へ向かう直線の右にあると取り違えたとする。このとき thm-hns-length の式で求めた $PQ$ はいくらになるか。
$B'$ の代わりに実軸で折り返した $1-i$ を使う。$A'=i$ との距離は $\lvert(1-i)-i\rvert=\lvert1-2i\rvert=\sqrt5$ なので、$PQ=\dfrac{100}{\sqrt5}=20\sqrt5\fallingdotseq44.72$ である。正しい値 $100$ とは大きく違う。thm-hns-length の式でも、$p=1$、$q=\sqrt2$、$\varepsilon=-1$、$\cos(90^\circ+45^\circ)=-\dfrac{\sqrt2}2$ から $A'B'^2=1+2+2\sqrt2\cdot\dfrac{\sqrt2}2=5$ となる。
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