Dedekind–MacNeille完備化

同義語:Dedekind–MacNeille completionMacNeille完備化MacNeille completion切断による完備化completion by cuts

概要

Dedekind–MacNeille完備化(Dedekind–MacNeille completion)とは、半順序集合 $P$ の部分集合 $A$ のうち、上界全体の下界全体が $A$ 自身に一致するもの(切断)を包含で並べた完備束 $\mathrm{DM}(P)$ と、$x$ を $x$ 以下の元全体に送る埋め込みの組である。この埋め込みは $P$ にすでにある上限と下限を保ち、$\mathrm{DM}(P)$ のどの元も $P$ の元の上限としても下限としても書ける。この 2 つの稠密性で完備化は同型を除いて決まり、$P$ を順序埋め込みで含むどの完備束にも $\mathrm{DM}(P)$ が埋め込まれる。有理数の完備化は $\mathbb{R}\cup\{\pm\infty\}$ であり、Boole 代数の完備化は完備 Boole 代数になる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 半順序集合, 上限と下限, 完備束, 単調写像

有理数全体 $\mathbb Q$ は、$\{q\in\mathbb Q\mid q>0,\ q^2< 2\}$ のように上に有界なのに上限をもたない部分集合を含む。実数に $\pm\infty$ を加えた $[-\infty,\infty]$ では、どの部分集合も上限と下限をもつ。Dedekind–MacNeille完備化(Dedekind–MacNeille completion)は、この「すき間を埋めて、どの部分集合にも上限と下限があるようにする」操作を、任意の 半順序集合 $P$ に対して行うものである。Dedekind が有理数の切断で実数を作った考えを、MacNeille が一般の半順序集合に広げた(GvG23 Exercise 6.3.2、p. 178 はこれを MacNeille completion と呼んで MacNeille の 1937 年の論文を挙げている)。
作り方は簡単である。$P$ の部分集合 $A$ に対し、$A$ の上界全体の下界全体 $A^{\mathrm{ul}}$ をとり、$A^{\mathrm{ul}}=A$ となる $A$ を集める。こうしてできる $\mathrm{DM}(P)$ は 完備束 であり、$P$ は $x\mapsto\{y\mid y\le x\}$ によって $\mathrm{DM}(P)$ に埋め込まれる。この埋め込みは $P$ の中にすでにある上限と下限を保ち、$\mathrm{DM}(P)$ のどの元も $P$ の元の上限としても下限としても書ける。この 2 つの稠密性で完備化は同型を除いて決まり、また $P$ を順序埋め込みで含むどの完備束にも $\mathrm{DM}(P)$ が埋め込まれる。$\mathbb Q$ の完備化は $[-\infty,\infty]$ であり、Boole代数 の完備化は 完備Boole代数 になる。

定義

以下、$(P,\le)$ を半順序集合とする。

上界集合と下界集合

$A\subset P$ に対し、
$$ A^{\mathrm u}:=\{x\in P\mid (\forall a\in A)\ a\le x\},\qquad A^{\mathrm l}:=\{x\in P\mid (\forall a\in A)\ x\le a\} $$
とおき、それぞれ $A$ の 上界集合、下界集合 という。$A^{\mathrm{ul}}:=(A^{\mathrm u})^{\mathrm l}$、$A^{\mathrm{lu}}:=(A^{\mathrm l})^{\mathrm u}$ と書く。$x\in P$ について ${\downarrow}x:=\{y\in P\mid y\le x\}$、${\uparrow}x:=\{y\in P\mid x\le y\}$ とおく。

$\emptyset^{\mathrm u}=\emptyset^{\mathrm l}=P$ である(条件が空虚に満たされる)。$A$ が上限 $s$ をもつことは、$A^{\mathrm u}$ が最小元 $s$ をもつこと、すなわち $A^{\mathrm u}={\uparrow}s$ となる $s$ があることである(上限と下限 の定義「上限と下限」)。

上界集合と下界集合の基本性質

$A,B\subset P$、$x\in P$ について次が成り立つ。

  1. $A\subset B$ なら $B^{\mathrm u}\subset A^{\mathrm u}$、$B^{\mathrm l}\subset A^{\mathrm l}$。
  2. $A\subset A^{\mathrm{ul}}$、$A\subset A^{\mathrm{lu}}$。
  3. $(A^{\mathrm{ul}})^{\mathrm u}=A^{\mathrm u}$、$(A^{\mathrm{lu}})^{\mathrm l}=A^{\mathrm l}$。
  4. $A\mapsto A^{\mathrm{ul}}$ は $P$ 上の閉包作用素である。すなわち $A\subset A^{\mathrm{ul}}$、$(A^{\mathrm{ul}})^{\mathrm{ul}}=A^{\mathrm{ul}}$、$A\subset B\Rightarrow A^{\mathrm{ul}}\subset B^{\mathrm{ul}}$。
  5. $(B^{\mathrm l})^{\mathrm{ul}}=B^{\mathrm l}$。また $\{x\}^{\mathrm u}={\uparrow}x$、$\{x\}^{\mathrm{ul}}={\downarrow}x$。

要点:1 と 2 は定義から直接わかり、3〜5 は 1 と 2 を組み合わせて得られる。

詳しい証明を開く

1:$B$ の上界は $A$ の上界でもある。下界も同じである。

2:$a\in A$ と $x\in A^{\mathrm u}$ について $a\le x$ なので、$a$ は $A^{\mathrm u}$ の下界であり、$a\in A^{\mathrm{ul}}$ である。もう一方は順序を逆にすればよい。

3:2 の $A\subset A^{\mathrm{ul}}$ に 1 を当てると $(A^{\mathrm{ul}})^{\mathrm u}\subset A^{\mathrm u}$。2 の後半を $A^{\mathrm u}$ に当てると $A^{\mathrm u}\subset(A^{\mathrm u})^{\mathrm{lu}}=(A^{\mathrm{ul}})^{\mathrm u}$。もう一方の等式も同様である。

4:拡大性は 2、単調性は 1 を 2 回使う。冪等性は 3 から $(A^{\mathrm{ul}})^{\mathrm{ul}}=((A^{\mathrm{ul}})^{\mathrm u})^{\mathrm l}=(A^{\mathrm u})^{\mathrm l}=A^{\mathrm{ul}}$。

5:3 の後半を $B$ に当てると $(B^{\mathrm l})^{\mathrm{ul}}=((B^{\mathrm l})^{\mathrm u})^{\mathrm l}=B^{\mathrm l}$。$\{x\}$ の上界は $x$ 以上の元なので $\{x\}^{\mathrm u}={\uparrow}x$ であり、${\uparrow}x$ の下界は、$x\in{\uparrow}x$ なので $x$ 以下で、逆に $x$ 以下の元は推移律で ${\uparrow}x$ の下界なので、$\{x\}^{\mathrm{ul}}={\downarrow}x$ である。$\square$

MacNeille の切断と完備化

$A\subset P$ が $A^{\mathrm{ul}}=A$ を満たすとき、$A$ を $P$ の 切断(cut)という。切断全体を $\mathrm{DM}(P)$ と書き、包含で順序づける。写像
$$ \varphi\colon P\to\mathrm{DM}(P),\qquad\varphi(x):={\downarrow}x $$
とあわせた組 $(\mathrm{DM}(P),\varphi)$ を、$P$ の Dedekind–MacNeille完備化 という。

prop-dmc-galois の 5 により、切断はちょうど、ある $B\subset P$ の下界集合 $B^{\mathrm l}$ として書ける集合である($A$ が切断なら $A=(A^{\mathrm u})^{\mathrm l}$)。とくに切断は下に閉じている。$y\le a\in A$ なら、$y$ も $A^{\mathrm u}$ の下界だからである。また ${\downarrow}x=\{x\}^{\mathrm{ul}}$ なので $\varphi(x)$ は切断である。この構成は BS12 I §5 の Exercise 4(p. 21)にも、束について閉包作用素の練習問題として現れる。
切断 $A$ と上界集合 $A^{\mathrm u}$ の組は、$A^{\mathrm u}$ の下界がちょうど $A$、$A$ の上界がちょうど $A^{\mathrm u}$ となる組であり、$P$ を「下の部分」と「上の部分」に切り分けている。順序体の切断(Dedekind完備性 の定義「切断と切断の公理」)は、全体を互いに交わらない 2 つに分けるので、境目の元が上下どちらに入るかを選ぶ。ここでの切断では、$A$ と $A^{\mathrm u}$ は境目の元($A$ の最大元が $A^{\mathrm u}$ の最小元になる元)を共有してよい。

基本定理

完備化の基本定理

$P$ を半順序集合とする。

  1. $(\mathrm{DM}(P),\subset)$ は完備束であり、切断の族 $(A_i)_{i\in I}$ の下限は $\bigcap_iA_i$、上限は $\bigl(\bigcup_iA_i\bigr)^{\mathrm{ul}}$ である($I=\emptyset$ のとき、共通部分は $P$ と約束する)。
  2. $\varphi$ は順序埋め込みである。すなわち $x\le y\iff\varphi(x)\subset\varphi(y)$。
  3. $S\subset P$ が $P$ の中で上限 $s$ をもてば $\varphi(s)=\bigvee_{x\in S}\varphi(x)$ であり、下限 $t$ をもてば $\varphi(t)=\bigwedge_{x\in S}\varphi(x)$ である。
  4. 各切断 $A$ について
    $$ A=\bigvee_{a\in A}\varphi(a)=\bigwedge_{b\in A^{\mathrm u}}\varphi(b). $$

1. prop-dmc-galois の 4 により $A\mapsto A^{\mathrm{ul}}$ は閉包作用素であり、切断はその閉集合である。完備束 の定理「閉包作用素と閉包系の対応」の 1 により、切断全体は共通部分で閉じ(閉包系をなし)、$A^{\mathrm{ul}}$ は $A$ を含む最小の切断である。同じ記事の定理「閉包系は完備束」により、$\mathrm{DM}(P)$ は完備束で、下限は共通部分、上限は合併を含む最小の切断 $\bigl(\bigcup_iA_i\bigr)^{\mathrm{ul}}$ である。
2. $x\le y$ なら推移律で ${\downarrow}x\subset{\downarrow}y$ である。逆に ${\downarrow}x\subset{\downarrow}y$ なら $x\in{\downarrow}x$ から $x\le y$ である。
3. 上限:$U:=\bigcup_{x\in S}{\downarrow}x$ とおく。$U\supset S$ であり、$U$ の元はある $x\in S$ 以下なので、$U$ の上界と $S$ の上界は同じである。$s$ は $S$ の上限なので $S^{\mathrm u}={\uparrow}s$ である。よって 1 と prop-dmc-galois の 5 により
$$ \bigvee_{x\in S}\varphi(x)=U^{\mathrm{ul}}=(S^{\mathrm u})^{\mathrm l}=({\uparrow}s)^{\mathrm l}=\{s\}^{\mathrm{ul}}={\downarrow}s=\varphi(s). $$
下限:$\bigcap_{x\in S}{\downarrow}x$ は $S$ のすべての元以下の元の集合 $S^{\mathrm l}$ であり、$t$ が下限なので $S^{\mathrm l}={\downarrow}t$ である。$S=\emptyset$ のときも、どちらの計算も約束(空な共通部分は $P$、空集合の上限は最小元、下限は最大元)のもとでそのまま成り立つ。
4. 切断 $A$ は下に閉じているので $\bigcup_{a\in A}{\downarrow}a=A$ であり、1 により $\bigvee_{a\in A}\varphi(a)=A^{\mathrm{ul}}=A$ である。また $\bigcap_{b\in A^{\mathrm u}}{\downarrow}b$ は $A^{\mathrm u}$ のすべての元以下の元の集合 $(A^{\mathrm u})^{\mathrm l}=A$ である。$\square$

3 は、$P$ の中で上限や下限が存在する場合には、完備化してもそれが変わらないことを言っている。4 は、完備化で付け加わる元が、すべて $P$ の元の上限としても下限としても表されることを言っている。4 の性質に名前を付けておく。

結び稠密と交わり稠密

$L$ を半順序集合、$Q\subset L$ とする。$L$ のどの元も $Q$ のある部分集合の $L$ での上限として書けるとき、$Q$ は $L$ で 結び稠密(join-dense)であるという。どの元も $Q$ のある部分集合の下限として書けるとき、交わり稠密(meet-dense)であるという。

thm-dmc-main の 4 により、$\varphi(P)$ は $\mathrm{DM}(P)$ で結び稠密かつ交わり稠密である。

最小性と特徴付け

順序埋め込み(単調写像 の定義「単調写像・反単調写像・順序埋め込み」)とは、$x\le y\iff\psi(x)\le\psi(y)$ を満たす写像 $\psi$ のことである。

完備束への埋め込みの延長

$M$ を完備束、$\psi\colon P\to M$ を順序埋め込みとする。切断 $A$ に対し
$$ \theta(A):=\bigvee_{a\in A}\psi(a)\quad(M\text{ での上限}) $$
とおくと、$\theta\colon\mathrm{DM}(P)\to M$ は順序埋め込みであり、$\theta\circ\varphi=\psi$ を満たす。

$A\subset A'$ なら上限をとる集合が大きくなるので $\theta(A)\le\theta(A')$ である。$\psi$ は単調なので、${\downarrow}x$ の像の最大元は $\psi(x)$ であり、$\theta(\varphi(x))=\bigvee_{y\le x}\psi(y)=\psi(x)$ である。
順序を反映することを示す。切断 $A,B$ について $\theta(A)\le\theta(B)$ とし、$A\subset B$ を示す。$B=B^{\mathrm{ul}}$ なので、$a\in A$ と $c\in B^{\mathrm u}$ について $a\le c$ を示せばよい。$c$ は $B$ の上界なので、$b\in B$ について $\psi(b)\le\psi(c)$、したがって $\theta(B)\le\psi(c)$ である。すると $\psi(a)\le\theta(A)\le\theta(B)\le\psi(c)$ であり、$\psi$ は順序埋め込みなので $a\le c$ である。$\square$

したがって、$P$ を順序埋め込みで含むどの完備束も、$\varphi(P)$ を $\psi(P)$ に重ねる形で $\mathrm{DM}(P)$ を含む。この意味で $\mathrm{DM}(P)$ は $P$ を含む最小の完備束である。次の定理は、2 つの稠密性が完備化を決めることを述べる。

稠密な埋め込みによる特徴付け

$L$ を完備束、$\psi\colon P\to L$ を順序埋め込みとし、$\psi(P)$ は $L$ で結び稠密かつ交わり稠密であるとする。このとき thm-dmc-minimal の $\theta\colon\mathrm{DM}(P)\to L$ は順序同型である。さらに、$\theta'\circ\varphi=\psi$ を満たす順序同型 $\theta'\colon\mathrm{DM}(P)\to L$ は $\theta$ だけである。

thm-dmc-minimal により $\theta$ は順序埋め込みなので、全射を示せばよい(全射な順序埋め込みは順序同型である。順序同型 の節「近接概念との違い」)。$y\in L$ とする。交わり稠密性により、$y=\bigwedge_{b\in B}\psi(b)$ となる $B\subset P$ がある。$A:=B^{\mathrm l}$ は prop-dmc-galois の 5 により切断である。$\theta(A)=y$ を示す。
$a\in A$ なら $b\in B$ について $a\le b$ なので $\psi(a)\le\psi(b)$、したがって $\psi(a)\le y$ である。よって $\theta(A)\le y$ である。逆に、結び稠密性により $y=\bigvee_{c\in C}\psi(c)$ となる $C\subset P$ がある。$c\in C$ と $b\in B$ について $\psi(c)\le y\le\psi(b)$ なので $c\le b$ であり、$c\in B^{\mathrm l}=A$ である。よって $y=\bigvee_{c\in C}\psi(c)\le\theta(A)$ である。
一意性:$\theta'$ を $\theta'\circ\varphi=\psi$ を満たす順序同型とする。順序同型は任意の部分集合の上限を保つ(順序同型 の命題「任意部分集合の上限と下限の保存」)。thm-dmc-main の 4 により $A=\bigvee_{a\in A}\varphi(a)$ なので、$\theta'(A)=\bigvee_{a\in A}\theta'(\varphi(a))=\bigvee_{a\in A}\psi(a)=\theta(A)$ である。$\square$

とくに $P$ がはじめから完備束なら、恒等写像 $P\to P$ に定理を当てはめて($y=\bigvee\{y\}=\bigwedge\{y\}$ なので稠密性は明らか)、$\varphi\colon P\to\mathrm{DM}(P)$ は順序同型である。完備束の切断はすべて ${\downarrow}x$ の形である。

例

有理数の完備化

$P=\mathbb Q$(通常の順序)とする。$\mathrm{DM}(\mathbb Q)$ は $[-\infty,\infty]=\mathbb R\cup\{-\infty,\infty\}$ と順序同型で、同型は切断 $A$ を $[-\infty,\infty]$ での上限 $\sup A$ に送る。切断は
$$ \emptyset,\qquad\mathbb Q,\qquad\{q\in\mathbb Q\mid q\le r\}\ (r\in\mathbb R) $$
であり、$r$ が無理数なら $\{q\le r\}=\{q< r\}$ である。$a\in\mathbb Q$ について $\{q< a\}$ は切断ではない。その上界集合は $\{q\ge a\}$ で、下界集合は $\{q\le a\}$ だからである。

$[-\infty,\infty]$ は完備束である(完備束 の例「完備束の例」の 2)。包含写像 $\psi\colon\mathbb Q\to[-\infty,\infty]$ は順序埋め込みである。結び稠密:実数 $x$ については、有理数が稠密なので $x=\sup\{q\in\mathbb Q\mid q< x\}$ である。また $\infty=\sup\mathbb Q$、$-\infty=\sup\emptyset$ である。交わり稠密も同様に $x=\inf\{q\mid q>x\}$、$-\infty=\inf\mathbb Q$、$\infty=\inf\emptyset$ からわかる。thm-dmc-characterization により $A\mapsto\sup A$ は順序同型である。
逆写像は、特徴付けの証明のとおり $y\in[-\infty,\infty]$ を $\{q\in\mathbb Q\mid q\le y\}$ に送る($y$ 以上の有理数全体の下界集合)。$y=-\infty$ なら $\emptyset$、$y=\infty$ なら $\mathbb Q$、$y=r\in\mathbb R$ なら $\{q\le r\}$ である。これで切断の一覧が得られる。$\square$

有限の半順序集合の例
  1. 2 元の反鎖 $P=\{a,b\}$:切断は $\emptyset$($\emptyset^{\mathrm u}=P$、$P^{\mathrm l}=\emptyset$)、$\{a\}$、$\{b\}$、$P$ の 4 つで、$\mathrm{DM}(P)$ は $a,b$ の下に最小元、上に最大元を加えた 4 元の束である。
  2. $V=\{a,b,1\}$、$a< 1$、$b< 1$($a,b$ は比較不能):$\{a,b\}^{\mathrm u}=\{1\}$、$\{1\}^{\mathrm l}=V$ なので $\{a,b\}$ は切断ではない。切断は $\emptyset,\{a\},\{b\},V$ の 4 つで、完備化は最小元を 1 つ加えるだけである。$a$ と $b$ の上限 $1$ は $V$ の中にすでにあり、thm-dmc-main の 3 によりそれが保たれる。
  3. 空でない有限の 束 は完備束なので(束 の命題「空でない有限束は完備束」)、完備化しても変わらない。
  4. $\mathbb Z$ の完備化は $\mathbb Z\cup\{-\infty,\infty\}$、$\mathbb N$ の完備化は $\mathbb N\cup\{\infty\}$ である($\mathbb N$ は最小元 $0$ をもつので、$\emptyset^{\mathrm{ul}}=\{0\}$ となり $\emptyset$ は切断でない)。どちらも thm-dmc-characterization を包含写像に当てはめればわかる。

Boole 代数の完備化

Boole代数 $B$($0\ne1$ とし、補元を $\neg b$ と書く)の完備化は、完備Boole代数 の記事の Boole 完備化と一致する。$B^+:=B\setminus\{0\}$ に $B$ の順序を制限した強制概念は分離的である。$p\not\le q$ なら $r:=p\wedge\neg q\ne0$ で、$r\le p$ であり、$s\le r$、$s\le q$ なら $s\le q\wedge\neg q=0$ となって $s\notin B^+$ だからである。したがって 完備Boole代数 の定理「Boole 完備化の存在」により、完備 Boole 代数 $\widehat B$ と稠密埋め込み $e\colon B^+\to\widehat B^+$ がある。

Boole代数の切断による完備化

上の $e$ を $e(0):=0$ で $B$ 全体に延ばした $\hat e\colon B\to\widehat B$ は順序埋め込みで、$\hat e(B)$ は $\widehat B$ で結び稠密かつ交わり稠密である。したがって $\mathrm{DM}(B)$ は $\widehat B$ と順序同型であり、とくに完備 Boole 代数である。

要点:結び稠密性は Boole 完備化の稠密性から、交わり稠密性は $\hat e$ が補元を保つことと De Morgan の法則から従う。あとは thm-dmc-characterization を当てはめる。

詳しい証明を開く

順序埋め込み。 $p,q\in B^+$ については稠密埋め込みの条件 1 による。$0$ はどちらの側でも最小元で、$e(p)\in\widehat B^+$ は $0$ 以下にならないので、$0$ を含む場合も $p\le q\iff\hat e(p)\le\hat e(q)$ が成り立つ。

結び稠密。 $b\in\widehat B$ について $c:=\bigvee\{e(p)\mid p\in B^+,\ e(p)\le b\}$ とおくと $c\le b$ である。$b\wedge\neg c\ne0$ なら、稠密埋め込みの条件 2 により $e(p)\le b\wedge\neg c$ となる $p$ があり、$e(p)\le b$ から $e(p)\le c$ なので $e(p)\le c\wedge\neg c=0$ となって矛盾する。よって $b\wedge\neg c=0$、すなわち $b\le c$ であり、$b=c$ である($b=0$ なら空な上限)。

補元を保つ。 まず $e(1)=1$ である。$\neg e(1)\ne0$ なら $e(r)\le\neg e(1)$ となる $r$ があるが、$r\le1$ から $e(r)\le e(1)$ なので $e(r)=0$ となって矛盾する。次に $p\in B^+$、$p\ne1$ とする。$e(p)\wedge e(\neg p)\ne0$ なら、条件 2 で $e(r)\le e(p)\wedge e(\neg p)$ となる $r$ をとると、条件 1 から $r\le p$、$r\le\neg p$ で $r=0$ となり矛盾する。$e(p)\vee e(\neg p)\ne1$ なら、$e(r)\le\neg e(p)\wedge\neg e(\neg p)$ となる $r$ がある。$r\wedge p\ne0$ なら $e(r\wedge p)\le e(r)\wedge e(p)\le\neg e(p)\wedge e(p)=0$ となって矛盾するので $r\wedge p=0$、同様に $r\wedge\neg p=0$ であり、分配律から $r=(r\wedge p)\vee(r\wedge\neg p)=0$ となって矛盾する。よって $e(\neg p)$ は $e(p)$ の補元であり、補元の一意性から $\hat e(\neg p)=\neg\hat e(p)$ である。$p=0,1$ でも $\hat e(0)=0=\neg\hat e(1)$ により成り立つ。

交わり稠密。 $b\in\widehat B$ に結び稠密性を $\neg b$ について使うと、$\neg b=\bigvee_{p\in S}\hat e(p)$ となる $S\subset B$ がある。完備Boole代数 の命題「無限分配律と De Morgan の法則」により $b=\neg\neg b=\bigwedge_{p\in S}\neg\hat e(p)=\bigwedge_{p\in S}\hat e(\neg p)$ である。

以上と thm-dmc-characterization により $\mathrm{DM}(B)$ と $\widehat B$ は順序同型である。束の演算と補元は順序だけから決まる(補元 $\neg b$ は $b\wedge c=0$ かつ $b\vee c=1$ となる唯一の $c$)ので、$\mathrm{DM}(B)$ は完備 Boole 代数である。$\square$

この系により、Boole 代数を完備化するには、切断の全体をとるだけでよい。分配律や補元の存在を $\mathrm{DM}(B)$ の上で直接確かめる必要はなく、それらは $\widehat B$ との同型から従う。

下集合による完備化との違い

下に閉じた部分集合(下集合)の全体 $\mathcal D(P)$ も、合併と共通部分で閉じるので完備束であり、$x\mapsto{\downarrow}x$ は $P$ から $\mathcal D(P)$ への順序埋め込みである。切断は下集合なので $\mathrm{DM}(P)\subset\mathcal D(P)$ であるが、一般に $\mathcal D(P)$ のほうが大きく、thm-dmc-main の 3 のうち上限の保存が成り立たない。

  • ex-dmc-finite の 2 の $V$ では、$V$ の中で $a$ と $b$ の上限は $1$ だが、$\mathcal D(V)$ での ${\downarrow}a$ と ${\downarrow}b$ の上限は合併 $\{a,b\}$ であり、${\downarrow}1=V$ と異なる。$\mathcal D(V)$ は $\emptyset,\{a\},\{b\},\{a,b\},V$ の 5 元からなる。
  • $\mathbb Q$ では、$\mathcal D(\mathbb Q)$ は ex-dmc-rationals の切断に加えて、$a\in\mathbb Q$ ごとの $\{q< a\}$ を含む。有理数 $a$ のところで、$a$ を含む側と含まない側の 2 つの元に分かれている。$\mathcal D(\mathbb Q)$ は $\mathcal P(\mathbb Q)$ の極大鎖でもある(Hausdorffの極大原理 の例「有理数の下集合がなす極大鎖」)。
    下限のほうは $\mathcal D(P)$ でも保たれる。$\bigcap_{x\in S}{\downarrow}x=S^{\mathrm l}$ は $S$ に下限 $t$ があれば ${\downarrow}t$ だからである。切断だけに限ると上限も保たれるのは、上限を「合併の上界集合の下界集合」としてとるからである。

反例:特徴付けの条件を外す

thm-dmc-characterization の仮定は「$L$ が完備束」「$\psi$ が順序埋め込み」「$\psi(P)$ が結び稠密」「$\psi(P)$ が交わり稠密」の 4 つである。どれを外しても $L$ は $\mathrm{DM}(P)$ と同型とは限らない。

外す条件反例成り立たなくなること
$\psi(P)$ が交わり稠密$V$ の下集合全体 $\mathcal D(V)$、$\psi(x)={\downarrow}x$$L$ と $\mathrm{DM}(P)$ が順序同型
$\psi(P)$ が結び稠密$V$ の上集合全体を包含の逆で順序づけたもの、$\psi(x)={\uparrow}x$$L$ と $\mathrm{DM}(P)$ が順序同型
$L$ が完備束$\mathbb Q$ と恒等写像$L$ と $\mathrm{DM}(P)$ が順序同型
$\psi$ が順序埋め込み反鎖 $\{a,b\}$ から 2 元の鎖 $\{0< 1\}$ への $\psi(a)=0$、$\psi(b)=1$$L$ と $\mathrm{DM}(P)$ が順序同型
表の反例の確かめ

$V=\{a,b,1\}$ は ex-dmc-finite の 2 のもので、$\mathrm{DM}(V)$ は 4 元である。
1 行目:$\mathcal D(V)$ は合併と共通部分で閉じるので完備束で、上限は合併である。どの下集合 $D$ も $D=\bigcup_{d\in D}{\downarrow}d$ なので結び稠密であり($\emptyset$ は空な上限)、$\psi$ は順序埋め込みである。$\psi(V)=\{\{a\},\{b\},V\}$ の部分集合の下限は共通部分で、$V$(空な下限)、$\{a\}$、$\{b\}$、$\emptyset$ しか現れないので、$\{a,b\}$ はその形に書けず、交わり稠密でない。$\mathcal D(V)$ は 5 元なので $\mathrm{DM}(V)$ と同型でない。
2 行目:上集合(上に閉じた部分集合)は $\emptyset,\{1\},\{a,1\},\{b,1\},V$ の 5 つで、包含の逆の順序では上限が共通部分、下限が合併であり、完備束である。$x\le y\iff{\uparrow}y\subset{\uparrow}x$ なので $\psi$ は順序埋め込みである。どの上集合も ${\uparrow}u$ の合併なので交わり稠密である。一方 ${\uparrow}a,{\uparrow}b,{\uparrow}1$ の共通部分はどれも $1$ を含むので、$\emptyset$ は $\psi(V)$ の部分集合の上限として書けず、結び稠密でない。5 元なので $\mathrm{DM}(V)$ と同型でない。
3 行目:$\mathbb Q$ のどの元 $y$ も $\{y\}$ の上限かつ下限なので、恒等写像の像は結び稠密かつ交わり稠密である。しかし $\mathbb Q$ は完備束でなく($\{q\in\mathbb Q\mid q>0,\ q^2< 2\}$ に上限がない。上限と下限 の命題「有理数体における上限の不存在」)、完備束 $\mathrm{DM}(\mathbb Q)$ とは同型でない。
4 行目:$\{a,b\}$ には自明でない順序関係がないので $\psi$ は単調な単射であり、$0=\bigvee\{\psi(a)\}=\bigwedge\{\psi(a)\}$、$1=\bigvee\{\psi(b)\}=\bigwedge\{\psi(b)\}$ なので像は両方の意味で稠密である。しかし $\psi(a)\le\psi(b)$ なのに $a\not\le b$ なので順序埋め込みでなく、$\{0< 1\}$ は 2 元、$\mathrm{DM}(\{a,b\})$ は 4 元(ex-dmc-finite の 1)なので同型でない。

関連項目

参考文献

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