Frattini 部分群(Frattini subgroup)とは、群 $G$ の極大部分群(真部分群のうち包含について極大なもの)すべての共通部分 $\Phi(G)$ のことである。極大部分群を持たない群では $\Phi(G)=G$ と定める。$\Phi(G)$ は $G$ の特性部分群、よって正規部分群である。有限群では $\Phi(G)$ は非生成元(生成系から取り除いても生成系のままである元)の全体に等しい。巡回群 $\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ の Frattini 部分群は $p\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$、$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ と $3$ 次対称群の Frattini 部分群は自明であり、有理数の加法群は極大部分群を持たない。有限群の Frattini 部分群は冪零群である(Frattini の定理)。
群 $G$ の部分群 $M$ が極大部分群(maximal subgroup)であるとは、$M\neq G$ であり、$M\subsetneq K\subsetneq G$ となる部分群 $K$ が存在しないことをいう。$G$ の極大部分群全体の集合を $\mathrm{MaxGrp}(G)$ と書く。
群 $G$ の Frattini 部分群(Frattini subgroup)$\Phi(G)$ とは、$G$ の極大部分群すべての共通部分
$$
\Phi(G):=\bigcap_{M\in\mathrm{MaxGrp}(G)}M
$$
のことである。$G$ が極大部分群を一つも持たないときは $\Phi(G):=G$ と定める。
部分群の共通部分は部分群なので $\Phi(G)$ は $G$ の部分群である。$G\neq\{e\}$ が有限群なら極大部分群が存在する(lem-frattini-subgroup-maximal-exists)ので、有限群では規約を要するのは $G=\{e\}$ のときだけであり、そのとき $\Phi(G)=\{e\}$ である。
極大部分群は「あと一つ元を加えれば群全体が生成される」部分群である。どの極大部分群にも属する元は、生成系に加えても何も新しく生成しない「不要な生成元」であり、Frattini 部分群はそのような元の全体である(thm-frattini-subgroup-nongenerator)。$\Phi(G)$ が大きいほど、$G$ の生成には少数の元で足りる部分が大きい。
$p$ を素数、$n\ge1$ とし、$G=\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$(加法群)とする。$G$ の極大部分群は $p$ の倍数の類全体 $p\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ だけであり、$\Phi(G)=p\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$、位数は $p^{n-1}$ である(prop-frattini-subgroup-cyclic)。たとえば $\Phi(\mathbb{Z}/4\mathbb{Z})=\{0,2\}$ である。
$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の極大部分群は $\{0,2,4\}$ と $\{0,3\}$ の二つで、$\Phi(\mathbb{Z}/6\mathbb{Z})=\{0\}$ である。$3$ 次対称群 $S_3$ の極大部分群は $A_3=\{e,(1\,2\,3),(1\,3\,2)\}$ と位数 $2$ の三つの部分群で、$\Phi(S_3)=\{e\}$ である(prop-frattini-subgroup-small)。
次の例は「任意の群は極大部分群を持つ」が成り立たないことを示す。有理数の加法群 $\mathbb{Q}$ は極大部分群を一つも持たない(prop-frattini-subgroup-rationals)。したがって定義の規約により $\Phi(\mathbb{Q})=\mathbb{Q}$ である。有限群ではこのようなことは起こらない(lem-frattini-subgroup-maximal-exists)。
$G$ を有限群、$H\neq G$ を部分群とする。$H$ を含む極大部分群が存在する。特に $G\neq\{e\}$ なら極大部分群が存在する。
$H$ を含む $G$ の真部分群は $H$ 自身を含むので少なくとも一つあり、$G$ が有限なので有限個である。その中で位数が最大のものを $M$ とする。$M\subsetneq K\subsetneq G$ なる部分群 $K$ があれば $K$ は $H$ を含む真部分群で $|K|>|M|$ となり、$M$ の取り方に反する。よって $M$ は極大部分群である。後半は $H=\{e\}$ にとればよい。$\square$
任意の群 $G$ について、$\Phi(G)$ は $G$ の特性部分群である。特に $\Phi(G)$ は $G$ の正規部分群である。
$f$ を $G$ の自己同型とする。$f$ は部分群を部分群に写し、$f^{-1}$ も自己同型なので、部分群の包含関係を保ち、かつ反映する($A\subsetneq B\iff f(A)\subsetneq f(B)$)。よって $M$ が極大部分群なら $f(M)$ も極大部分群であり、$M\mapsto f(M)$ は $\mathrm{MaxGrp}(G)$ から自身への全単射である(逆写像は $M\mapsto f^{-1}(M)$)。$G$ が極大部分群を持たなければ $\Phi(G)=G$ で $f(G)=G$ である。持つときは、$f$ が単射なので部分集合の共通部分を保ち、
$$
f(\Phi(G))=\bigcap_{M\in\mathrm{MaxGrp}(G)}f(M)=\bigcap_{M'\in\mathrm{MaxGrp}(G)}M'=\Phi(G)
$$
となる。よって $\Phi(G)$ は特性部分群であり、特性部分群は正規部分群である(特性部分群 の基本性質。内部自己同型 $x\mapsto gxg^{-1}$ が自己同型であることから直ちに従う)。$\square$
$G$ を有限群とする。$x\in G$ について次は同値である。
$\langle S\rangle$ で $S$ が生成する部分群を表す。
(1)⇒(2):$x\in\Phi(G)$、$\langle S\cup\{x\}\rangle=G$ とし、$\langle S\rangle\neq G$ と仮定する。lem-frattini-subgroup-maximal-exists により $\langle S\rangle$ を含む極大部分群 $M$ がある。$x\in\Phi(G)\subset M$ なので $S\cup\{x\}\subset M$、よって $G=\langle S\cup\{x\}\rangle\subset M\neq G$ となり矛盾する。
(2)⇒(1):$x\notin\Phi(G)$ とすると、$G$ は極大部分群を持ち($G=\{e\}$ なら $\Phi(G)=G\ni x$)、$x\notin M$ となる極大部分群 $M$ がある。$S=M$ とすると $\langle M\cup\{x\}\rangle$ は $M$ を真に含む部分群なので、$M$ の極大性から $G$ に等しい。一方 $\langle M\rangle=M\neq G$ である。よって $x$ は非生成元でない。$\square$
$p$ を素数、$n\ge1$、$G=\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ とする。$G$ の部分群は $p^k\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$($0\le k\le n$、位数 $p^{n-k}$)で尽くされ、極大部分群は $p\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ のみである。したがって $\Phi(G)=p\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ で、$|\Phi(G)|=p^{n-1}$ である。
$H$ を $G$ の部分群とする。Lagrange の定理により $|H|=p^{n-k}$($0\le k\le n$)である。$H$ の各元 $x$ の位数は $|H|$ を割るので $p^{n-k}x=0$、すなわち $p^n\mid p^{n-k}x$ から $p^k\mid x$ であり、$H\subset p^k\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ である。後者は $p^k$ の倍数の類 $0,p^k,2p^k,\dots$ からなり、その個数は $p^{n-k}$ なので、位数を比べて $H=p^k\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ である。これらは $k$ について包含の鎖 $G=p^0\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}\supsetneq p\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}\supsetneq\cdots\supsetneq p^n\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}=\{0\}$ をなすので、真部分群のうち極大なものは $p\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ だけである。$\square$
$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の極大部分群は $\{0,2,4\}$ と $\{0,3\}$ の二つであり、$\Phi(\mathbb{Z}/6\mathbb{Z})=\{0\}$ である。$S_3$ の極大部分群は $A_3=\{e,(1\,2\,3),(1\,3\,2)\}$ と、互換が生成する位数 $2$ の部分群 $\{e,(1\,2)\}$、$\{e,(1\,3)\}$、$\{e,(2\,3)\}$ の計四つであり、$\Phi(S_3)=\{e\}$ である。
位数 $6$ の群の真部分群の位数は $1,2,3$ である(Lagrange の定理)。位数 $2$ または $3$ の部分群 $K$ を真に含む部分群は位数が $6$、すなわち群全体だから、位数 $2$・$3$ の部分群はすべて極大部分群である。位数 $1$ の部分群 $\{e\}$ は位数 $2$ の部分群に真に含まれるので極大でない(位数 $6$ の群には位数 $2$ の元がある:単位元でない元を逆元と組にすると、$g=g^{-1}$ となる元が奇数個あり、$e$ 以外にも存在する)。したがって極大部分群は位数 $2$・$3$ の部分群の全体である。
$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$:位数 $3$ の部分群の元 $x$ は $3x=0$ を満たすので $\{0,2,4\}$ に含まれ、位数を比べて等しい。位数 $2$ の部分群の元は $2x=0$ を満たすので $\{0,3\}$ に等しい。よって極大部分群はこの二つで、共通部分は $\{0\}$。
$S_3$:位数 $3$ の部分群は位数 $3$ の元 $(1\,2\,3)$ または $(1\,3\,2)$ で生成され、いずれも $A_3$ に等しい($(1\,2\,3)^2=(1\,3\,2)$、$(1\,2\,3)^3=e$)。位数 $2$ の部分群は位数 $2$ の元、すなわち三つの互換の一つで生成される。よって極大部分群は四つで、$A_3\cap\{e,(1\,2)\}=\{e\}$ から $\Phi(S_3)=\{e\}$。$\square$
有理数の加法群 $\mathbb{Q}$ は極大部分群を持たない。
$M$ を $\mathbb{Q}$ の極大部分群と仮定する。$M$ は正規部分群(アーベル群)なので剰余群 $Q:=\mathbb{Q}/M$ が定まり、$Q\neq\{0\}$ である。$Q$ の部分群は $M$ を含む $\mathbb{Q}$ の部分群 $K$($K/M$ の形)と一対一に対応するので、$M$ の極大性から $Q$ は $\{0\}$ と $Q$ 以外の部分群を持たない。$0\neq y\in Q$ をとると $\langle y\rangle=Q$ である。$\langle y\rangle$ が無限巡回群なら $\langle 2y\rangle$ は $\{0\}$ でも $Q$ でもない部分群($y\notin\langle2y\rangle$)となり矛盾するので、$Q$ は位数 $m\ge2$ の有限巡回群である。$m=ab$($1< a< m$)と分解できれば $\langle ay\rangle$ は位数 $b$ の部分群で $\{0\}$ でも $Q$ でもないから、$m=p$ は素数である。よって任意の $q\in\mathbb{Q}$ について $p\,q\in M$ である。ところが任意の $q\in\mathbb{Q}$ は $q=p\cdot(q/p)$ と書けるので $q\in M$、すなわち $M=\mathbb{Q}$ となり、$M$ が真部分群であることに反する。$\square$
有限群 $G$ の Frattini 部分群 $\Phi(G)$ は冪零群である。
thm-frattini-subgroup-nilpotent は Frattini の定理として知られ、証明には Sylow 部分群に関する Frattini 論法を用いる。本記事では証明を与えず DF04 §6.1 を引用するにとどめる。冪零群の定義も本記事では扱わない。
| 群 $G$ | 極大部分群 | $\Phi(G)$ | 根拠 |
|---|---|---|---|
| $\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ | $p\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$ のみ | $p\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}$(位数 $p^{n-1}$) | prop-frattini-subgroup-cyclic |
| $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ | $\{0,2,4\}$、$\{0,3\}$ | $\{0\}$ | prop-frattini-subgroup-small |
| $S_3$ | $A_3$ と位数 $2$ の三つ | $\{e\}$ | prop-frattini-subgroup-small |
| $\{e\}$ | なし | $\{e\}$(規約) | 定義 |
| $\mathbb{Q}$(加法群) | なし | $\mathbb{Q}$(規約) | prop-frattini-subgroup-rationals |
$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ と $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の違いは、前者の真部分群が一本の鎖をなすのに対し、後者では位数 $2$ と位数 $3$ の極大部分群が互いに含み合わないことによる。
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