中井–Moishezonの判定法(Nakai–Moishezon criterion)とは、代数閉体上の射影スキーム $X$ 上の可逆層 $\mathcal{L}$ が豊富であるための必要十分条件は、$X$ のすべての整な閉部分スキーム $Y$(次元 $d\ge1$)について交叉数 $(\mathcal{L}^{d}\cdot Y)$ が正であることだ、という判定法である。曲面では $(\mathcal{L}^{2})>0$ とすべての既約曲線 $C$ についての $(\mathcal{L}\cdot C)>0$ が条件になり、曲線との交叉数だけでは一般に足りない。十分性は次元についての帰納法により、漸近 Riemann–Roch から冪の切断を得て、その零点への制限から大域生成を導き、定まる射が有限であることに帰着して証明される。豊富性が数値的同値類だけで決まることが従う。
豊富な可逆層は「十分高い冪でひねればどの連接層も大域切断で生成される」可逆層であり、定義からその判定は簡単ではない。非特異射影曲線の上では、豊富であることは次数が正であることと同値である(豊富な可逆層 の命題「曲線上の豊富性と次数」)。中井–Moishezon の判定法は、これを高次元へ拡張し、豊富性を数値だけで判定する。射影スキーム $X$ 上の可逆層 $\mathcal{L}$ が豊富であるための必要十分条件は、$X$ のすべての整な閉部分スキーム $Y$(次元 $d\ge1$)について交叉数 $(\mathcal{L}^{d}\cdot Y)$ が正であることである。
曲面 $X$ では、条件は「$(\mathcal{L}^{2})>0$ かつすべての既約曲線 $C$ で $(\mathcal{L}\cdot C)>0$」となる。高次元では曲線との交叉数だけでは足りず、すべての次元の部分スキームを調べる必要がある(ex-nm-mumford)。交叉数は可逆層の数値同値類だけで決まるので、この判定法から豊富性が数値的な性質であることが従う(cor-nm-numerical)。
判定法は、中井喜和(Yoshikazu Nakai)が射影スキームについて、B. G. Moishezon が完備な抽象代数多様体について、それぞれ独立に示し、のちに S. Kleiman が証明を整理した(Har77 付録 A §5)。
この記事を通して、$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の射影スキーム(ある射影空間 $\mathbb{P}^{N}_k$ の閉部分スキーム)とし、$\mathcal{O}_X(1)$ をその埋め込みから来る可逆層とする。連接層 $\mathcal{F}$ のコホモロジーは有限次元で、$\chi(\mathcal{F})=\sum_i(-1)^i\dim_kH^i(X,\mathcal{F})$ をその Euler 標数とする。可逆層 $\mathcal{L}$ の $m$ 回のテンソル積を $\mathcal{L}^{\otimes m}$($m<0$ では双対の冪)と書く。
交叉数は 交叉数 の定義「交叉数」に従う。台の次元が $d$ 以下の連接層 $\mathcal{F}$ について、$(\mathcal{L}^{d}\cdot\mathcal{F})$ は Euler 標数の交代和として定まる整数であり、次の性質をもつ(いずれも 交叉数 で証明されている)。
$Y$ を次元 $d\ge1$ の閉部分スキームとし、$\mathcal{L}|_Y\cong\mathcal{O}_Y$ とする。交代和の各項 $\chi(\mathcal{O}_Y\otimes(\mathcal{L}^{\vee})^{\otimes i})=\chi(Y,\mathcal{O}_Y)$ は $i$ によらないので、$(\mathcal{L}^{d}\cdot Y)=\sum_{i=0}^{d}(-1)^i\binom{d}{i}\chi(Y,\mathcal{O}_Y)=0$ である。
$k$ を代数閉体、$X$ を $k$ 上の射影スキーム、$\mathcal{L}$ を $X$ 上の可逆層とする。$\mathcal{L}$ が豊富であるための必要十分条件は、$X$ のすべての整な閉部分スキーム $Y$ で $d=\dim Y\ge1$ となるものについて
$$
(\mathcal{L}^{d}\cdot Y)>0
$$
が成り立つことである。
必要性は lem-nm-necessity、十分性は prf-nm-main で示す。十分性の証明は次元についての帰納法で、(1) 整な場合への帰着(lem-nm-reduction)、(2) 漸近 Riemann–Roch による冪の切断の存在、(3) 切断の零点への制限による大域生成(lem-nm-generation)、(4) 大域生成な可逆層の定める射の有限性(lem-nm-finite)の 4 段からなる。
$\mathcal{L}$ を豊富な可逆層、$\mathcal{F}$ を $\dim\operatorname{Supp}\mathcal{F}=d\ge0$ の連接層とすると、$(\mathcal{L}^{d}\cdot\mathcal{F})>0$ である。とくに整な閉部分スキーム $Y$ について $(\mathcal{L}^{\dim Y}\cdot Y)>0$ である。
豊富な可逆層 の定理「豊富な可逆層の冪は非常に豊富である」により、ある $r\ge1$ とはめ込み $\iota\colon X\to\mathbb{P}^{M}_k$ で $\mathcal{L}^{\otimes r}\cong\iota^{*}\mathcal{O}(1)$ となるものがあり、$X$ は $k$ 上固有なので $\iota$ の像は閉で、$\iota$ は閉埋め込みである。$d$ についての帰納法で示す。
$d=0$ のとき、$\mathcal{F}$ の台は有限集合なので $i\ge1$ で $H^i(X,\mathcal{F})=0$、$H^0$ は $0$ でない茎の直和であり、$(\mathcal{L}^{0}\cdot\mathcal{F})=\chi(\mathcal{F})=\dim_kH^0(X,\mathcal{F})>0$ である。
$d\ge1$ とする。$\mathcal{F}$ の随伴点は有限個である。各点 $x\in\mathbb{P}^M$ について、$x$ で消える 1 次形式の全体は 1 次形式の空間の真の部分空間であり(ある座標 $x_j$ は $x$ で消えない)、無限体 $k$ の上の有限次元ベクトル空間は有限個の真の部分空間の和集合にならない。よってどの随伴点でも消えない 1 次形式 $\ell$ があり、$s:=\iota^{*}\ell\in\Gamma(X,\mathcal{L}^{\otimes r})$ は $\mathcal{F}$ のどの随伴点でも消えない。制限の公式と多重線型性から
$$
r(\mathcal{L}^{d}\cdot\mathcal{F})=(\mathcal{L}^{d-1}\cdot\mathcal{L}^{\otimes r}\cdot\mathcal{F})=(\mathcal{L}^{d-1}\cdot\mathcal{F}/s\mathcal{F})
$$
であり、$\dim\operatorname{Supp}(\mathcal{F}/s\mathcal{F})\le d-1$ である。帰納法の仮定を使うため、等号を示す。
$\operatorname{Supp}\mathcal{F}$ の $d$ 次元の既約成分 $W$ をとり、被約な構造を入れる。超平面 $H=V(\ell)$ について $W\cap H\ne\emptyset$ である。実際、$W\subset\mathbb{P}^M\setminus H\cong\mathbb{A}^M_k$ なら $W$ はアフィンスキームの閉部分スキームとしてアフィンで、$k$ 上固有なので有限であり(アフィン射 の命題「固有かつアフィンな射は有限射」)、$\dim W=0$ となって矛盾する。$W$ の生成点は $\mathcal{F}$ の随伴点なので $\ell$ はそこで消えず、$W$ と交わる各アフィン開集合 $W\cap D_+(x_j)$(次元 $d$ の整なアフィンスキーム)で $W\cap H$ は $0$ でない 1 つの元 $\ell/x_j$ で定まる。Krullの単項イデアル定理 によりその上の極小素イデアルの高さは $1$ であり、体上有限生成な整域の次元公式によって $W\cap H$ の既約成分の次元は $d-1$ である。$x\in W\cap H$ では $\mathcal{F}_x\ne0$ で $s$ の芽は極大イデアルに属するので、中山の補題により $(\mathcal{F}/s\mathcal{F})_x\ne0$ である。よって $\dim\operatorname{Supp}(\mathcal{F}/s\mathcal{F})=d-1$ であり、帰納法の仮定から右辺は正、したがって $(\mathcal{L}^{d}\cdot\mathcal{F})>0$ である。$\square$
以下の補題では、豊富な可逆層 の定理「Serreのコホモロジー判定」を使う:$k$ 上固有なスキーム $Z$ の上の可逆層 $\mathcal{M}$ が豊富であることは、任意の連接層 $\mathcal{G}$ について十分大きい $n$ で $H^i(Z,\mathcal{G}\otimes\mathcal{M}^{\otimes n})=0$($i>0$)となることと同値である。閉部分スキーム $\iota\colon Z\to X$ の上の連接層 $\mathcal{G}$ については $H^i(X,\iota_*\mathcal{G}\otimes\mathcal{M})=H^i(Z,\mathcal{G}\otimes\mathcal{M}|_Z)$ なので、$\mathcal{O}_Z$ 加群とみなせる $X$ 上の層のコホモロジーは $Z$ の上で計算してよい。
$X$ の既約成分 $X_1,\dots,X_s$ に被約な構造を入れる。すべての $j$ で $\mathcal{L}|_{X_j}$ が豊富なら、$\mathcal{L}$ は豊富である。
要点:冪零根基による filtration で被約化へ、既約成分のイデアル層の積が $0$ であることで成分の個数についての帰納法へ持ち込み、Serre の判定で高次コホモロジーの消滅を受け渡す。
被約化。$X$ の冪零元のイデアル層 $\mathcal{N}$ は連接で、$X$ は Noether なのである $e$ で $\mathcal{N}^{e}=0$ である。$\mathcal{L}|_{X_{\mathrm{red}}}$ が豊富なら $\mathcal{L}$ が豊富であることを示す。連接層 $\mathcal{F}$ に対し $\mathcal{F}\supset\mathcal{N}\mathcal{F}\supset\dots\supset\mathcal{N}^{e}\mathcal{F}=0$ を考えると、各商 $\mathcal{N}^{j}\mathcal{F}/\mathcal{N}^{j+1}\mathcal{F}$ は $\mathcal{N}$ で零化されるので $X_{\mathrm{red}}$ の上の連接層であり、Serre の判定により十分大きい $n$ で $\mathcal{L}^{\otimes n}$ とのテンソル積の高次コホモロジーが消える。可逆層とのテンソル積は完全なので、短完全列 $0\to\mathcal{N}^{j+1}\mathcal{F}\to\mathcal{N}^{j}\mathcal{F}\to\mathcal{N}^{j}\mathcal{F}/\mathcal{N}^{j+1}\mathcal{F}\to0$ の長完全列を $j=e-1,\dots,0$ の順に使えば、十分大きい $n$ で $H^i(X,\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}^{\otimes n})=0$($i>0$)である。Serre の判定により $\mathcal{L}$ は豊富である。
既約成分。被約化により $X$ は被約としてよい。成分の個数 $s$ についての帰納法で示す。$s=1$ なら $X=X_1$ である。$s\ge2$ とし、$X_1$ のイデアル層を $\mathcal{I}$、$X':=X_2\cup\dots\cup X_s$(被約な構造)のイデアル層を $\mathcal{J}$ とする。$\mathcal{I}\mathcal{J}\subset\mathcal{I}\cap\mathcal{J}$ の局所切断はすべての点の剰余体で $0$ になり、$X$ は被約なので $0$ である。連接層 $\mathcal{F}$ について $0\to\mathcal{I}\mathcal{F}\to\mathcal{F}\to\mathcal{F}/\mathcal{I}\mathcal{F}\to0$ を考えると、$\mathcal{F}/\mathcal{I}\mathcal{F}$ は $X_1$ の上の連接層、$\mathcal{I}\mathcal{F}$ は $\mathcal{J}$ で零化されるので $X'$ の上の連接層である。$X'$ の既約成分は $X_2,\dots,X_s$ なので、帰納法の仮定により $\mathcal{L}|_{X'}$ は豊富である。両端の高次コホモロジーが十分大きい $n$ で消えるので、長完全列から $H^i(X,\mathcal{F}\otimes\mathcal{L}^{\otimes n})=0$($i>0$)であり、$\mathcal{L}$ は豊富である。$\square$
$X$ を整とし、$\mathcal{M}$ を可逆層、$\sigma\in\Gamma(X,\mathcal{M})$ を $0$ でない切断、$E$ を $\sigma$ の零点の閉部分スキーム($0\to\mathcal{M}^{\vee}\xrightarrow{\sigma}\mathcal{O}_X\to\mathcal{O}_E\to0$ が完全)とする。$\mathcal{M}|_E$ が豊富なら、十分大きいすべての $n$ で $\mathcal{M}^{\otimes n}$ は大域切断で生成される。
要点:$H^1(X,\mathcal{M}^{\otimes n})$ の次元が単調に減って一定になることから、$E$ の上の切断が $X$ に持ち上がる。
$X$ は整なので $\sigma$ 倍は単射であり、完全列に $\mathcal{M}^{\otimes n}$ を掛けて $0\to\mathcal{M}^{\otimes(n-1)}\to\mathcal{M}^{\otimes n}\to\mathcal{M}^{\otimes n}|_E\to0$ を得る。$\mathcal{M}|_E$ は豊富なので、$n_0$ があって $n\ge n_0$ で $H^1(E,\mathcal{M}^{\otimes n}|_E)=0$ かつ $\mathcal{M}^{\otimes n}|_E$ は大域切断で生成される。長完全列から $n\ge n_0$ で $H^1(X,\mathcal{M}^{\otimes(n-1)})\to H^1(X,\mathcal{M}^{\otimes n})$ は全射で、有限次元の $h^1(X,\mathcal{M}^{\otimes n})$ は $n\ge n_0-1$ で単調非増加である。よってある $n_1\ge n_0$ があって $n\ge n_1$ で $h^1(X,\mathcal{M}^{\otimes(n-1)})=h^1(X,\mathcal{M}^{\otimes n})$ となり、全射 $H^1(X,\mathcal{M}^{\otimes(n-1)})\to H^1(X,\mathcal{M}^{\otimes n})$ は同じ次元の空間の間の写像だから同型、とくに単射である。長完全列から $n\ge n_1$ で $H^0(X,\mathcal{M}^{\otimes n})\to H^0(E,\mathcal{M}^{\otimes n}|_E)$ は全射である。
$n\ge n_1$ とし、点 $x\in X$ をとる。$x\notin E$ なら $\sigma^{n}$ は $x$ で消えない。$x\in E$ なら、$\mathcal{M}^{\otimes n}|_E$ の大域切断で $x$ で消えないものがあり、それを $X$ の切断 $t$ に持ち上げると、$t$ の $x$ での値($\mathcal{M}^{\otimes n}_x\otimes\kappa(x)$ での像)は $0$ でない。中山の補題により、いずれの場合も $x$ で消えない大域切断が茎 $\mathcal{M}^{\otimes n}_x$ を生成する。$\square$
$\mathcal{M}$ を大域切断で生成される可逆層とし、$X$ のすべての整な閉部分スキーム $Z$($d=\dim Z\ge1$)で $(\mathcal{M}^{d}\cdot Z)>0$ とする。このとき $\mathcal{M}$ は豊富である。
$\Gamma(X,\mathcal{M})$ は有限次元なので、$\mathcal{M}$ を生成する有限個の切断 $s_0,\dots,s_N$ がとれ、$\varphi^{*}\mathcal{O}(1)\cong\mathcal{M}$ となる $k$ 上の射 $\varphi\colon X\to\mathbb{P}^{N}_k$ が定まる(射影空間への射 の定理「射影空間への射と切断の組」)。$X$ は $k$ 上固有で $\mathbb{P}^N_k$ は分離的なので、$\varphi$ は固有射である。
すべての点 $y\in\mathbb{P}^N_k$ でファイバー $X_y$ の次元が $0$ 以下であることを示す。$\{\,y\mid\dim X_y\ge1\,\}$ は $\mathbb{P}^N_k$ の閉集合である(ファイバーの次元の上半連続性 の系「閉写像のファイバーの次元」)。空でなければ、$k$ 上有限型のスキームの空でない閉集合として閉点 $y$ を含む。$X_y$ の次元 $d\ge1$ の既約成分に被約な構造を入れたものを $Z$ とすると、$Z$ は $X$ の整な閉部分スキームで、$\varphi(Z)=\{y\}$ である。$y\in D_+(x_i)$ となる $i$ をとると $\varphi|_Z$ は $D_+(x_i)$ を経由し、その上で $\mathcal{O}(1)$ は自明なので、$\mathcal{M}|_Z\cong(\varphi|_Z)^{*}\mathcal{O}(1)\cong\mathcal{O}_Z$ である。rem-nm-trivial により $(\mathcal{M}^{d}\cdot Z)=0$ となり、仮定に反する。
よって各ファイバーは $\kappa(y)$ 上有限型の $0$ 次元以下のスキームで、点は有限個である。$\varphi$ は有限型なので準有限であり、固有かつ準有限だから有限射である(準有限射 の定理「固有かつ準有限なら有限」)。$\mathcal{O}(1)$ は豊富なので、豊富な可逆層 の命題「有限射による引き戻し」により $\mathcal{M}\cong\varphi^{*}\mathcal{O}(1)$ は豊富である。$\square$
$X$ の次元 $n$ についての帰納法で示す。すなわち、次元 $n$ 未満の射影スキームでは、条件をみたす可逆層は豊富であると仮定する。条件は閉部分スキームへ制限しても保たれる(閉部分スキームの整な閉部分スキームは $X$ のそれである)。
次元 0。 $X$ は Artin 局所環の $\operatorname{Spec}$ の有限個の非交和でアフィンであり、アフィンな Noether スキームの上ではすべての連接層が大域切断で生成されるので、$\mathcal{L}$ は豊富である。
段 1:整な場合への帰着。 $n\ge1$ とする。lem-nm-reduction により、各既約成分 $X_j$(被約な構造)の上で $\mathcal{L}|_{X_j}$ が豊富であることを示せばよい。$\dim X_j< n$ なら帰納法の仮定による。よって $X$ は整で $\dim X=n$ としてよい。このとき $X$ の真の閉部分スキームの次元は $n$ 未満なので、帰納法の仮定により、$\mathcal{L}$ のそれらへの制限は豊富である。
段 2:冪の切断の存在。 $\mathcal{H}:=\mathcal{O}_X(1)$ は非常に豊富なので豊富であり、$a\ge1$ があって $\mathcal{L}\otimes\mathcal{H}^{\otimes a}$ と $\mathcal{H}^{\otimes a}$ はどちらも大域切断で生成される。$X\ne\emptyset$ なので $0$ でない切断 $s\in\Gamma(X,\mathcal{L}\otimes\mathcal{H}^{\otimes a})$、$t\in\Gamma(X,\mathcal{H}^{\otimes a})$ がある。$X$ は整なので $s,t$ の掛け算は単射で、零点の閉部分スキームを $A$、$B$ とすると、$\mathcal{L}\cong(\mathcal{L}\otimes\mathcal{H}^{\otimes a})\otimes(\mathcal{H}^{\otimes a})^{\vee}$ から完全列
$$
0\to\mathcal{L}^{\otimes m}\otimes\mathcal{H}^{\otimes(-a)}\to\mathcal{L}^{\otimes(m+1)}\to\mathcal{L}^{\otimes(m+1)}|_A\to0,\qquad
0\to\mathcal{L}^{\otimes m}\otimes\mathcal{H}^{\otimes(-a)}\to\mathcal{L}^{\otimes m}\to\mathcal{L}^{\otimes m}|_B\to0
$$
を得る(前者は $s$、後者は $t$ による)。$A,B$ は $X$ の真の閉部分スキームなので $\mathcal{L}|_A$、$\mathcal{L}|_B$ は豊富であり、Serre の判定により $m_0$ があって $m\ge m_0$ で両端の層の高次コホモロジーは消える。2 つの長完全列から、$i\ge2$ と $m\ge m_0$ について
$$
H^i(X,\mathcal{L}^{\otimes m})\cong H^i(X,\mathcal{L}^{\otimes m}\otimes\mathcal{H}^{\otimes(-a)})\cong H^i(X,\mathcal{L}^{\otimes(m+1)})
$$
なので、$h^i(X,\mathcal{L}^{\otimes m})$($i\ge2$)は $m\ge m_0$ で一定値 $c_i$ をとる。したがって
$$
\chi(\mathcal{L}^{\otimes m})=h^0(X,\mathcal{L}^{\otimes m})-h^1(X,\mathcal{L}^{\otimes m})+\sum_{i\ge2}(-1)^ic_i\le h^0(X,\mathcal{L}^{\otimes m})+C
$$
($C$ は $m$ によらない定数)である。漸近 Riemann–Roch により $\chi(\mathcal{L}^{\otimes m})=\frac{(\mathcal{L}^{n}\cdot X)}{n!}m^{n}+(\text{低次})$ であり、仮定から $(\mathcal{L}^{n}\cdot X)>0$、$n\ge1$ なので、$m\to\infty$ で $\chi(\mathcal{L}^{\otimes m})\to\infty$ である。よってある $m_1\ge1$ で $\Gamma(X,\mathcal{L}^{\otimes m_1})\ne0$ である。
段 3:大域生成。 $0$ でない $\sigma\in\Gamma(X,\mathcal{L}^{\otimes m_1})$ の零点を $E$ とする。$E$ は真の閉部分スキームなので $\mathcal{L}|_E$ は豊富で、その冪 $\mathcal{L}^{\otimes m_1}|_E$ も豊富である(豊富な可逆層 の命題「テンソル積と冪」)。lem-nm-generation により、ある $q\ge1$ で $\mathcal{M}:=\mathcal{L}^{\otimes m_1q}$ は大域切断で生成される。
段 4:有限性。 整な閉部分スキーム $Z$($d=\dim Z\ge1$)について、多重線型性から $(\mathcal{M}^{d}\cdot Z)=(m_1q)^{d}(\mathcal{L}^{d}\cdot Z)>0$ である。lem-nm-finite により $\mathcal{M}$ は豊富であり、豊富な可逆層 の命題「テンソル積と冪」の 1 により $\mathcal{L}$ も豊富である。$\square$
1:$1$ 次元の $X$ の整な閉部分スキームで次元が $1$ のものは、$1$ 次元の既約成分に被約な構造を入れたものに限る。2:整な $2$ 次元の $X$ の整な閉部分スキームで次元が $1$ 以上のものは、$X$ 自身と整な曲線である。いずれも thm-nm-main の条件を書き下したものである。$\square$
2 は Hartshorne の教科書が非特異射影曲面について Riemann–Roch の定理から示している形である(Har77 V 定理 1.10)。非特異射影曲面では $(\mathcal{L}^2)$、$(\mathcal{L}\cdot C)$ は 曲面の交点形式とRiemann–Rochの定理 の交点数に一致する。
$\mathcal{L}$ と $\mathcal{L}'$ が数値的に同値(すべての整な曲線 $C$ で $(\mathcal{L}\cdot C)=(\mathcal{L}'\cdot C)$)なら、$\mathcal{L}$ が豊富であることと $\mathcal{L}'$ が豊富であることは同値である。
交叉数 $(\mathcal{L}^{d}\cdot Y)$ は $\mathcal{L}$ の数値的同値類だけで決まる(数値同値 の定理「数値的に自明な可逆層の交叉数」)。thm-nm-main の条件は交叉数だけで書かれているので、主張が従う。$\square$
$X\subset\mathbb{P}^N_k$ を閉部分スキーム、$\mathcal{L}=\mathcal{O}_X(1)$ とする。整な閉部分スキーム $Y$(次元 $d\ge1$)について $\chi(Y,\mathcal{O}_Y(m))$ は $Y$ の Hilbert 多項式で、$(\mathcal{L}^{d}\cdot Y)$ は $Y$ の次数($m^{d}$ の係数の $d!$ 倍)であり、lem-nm-necessity により正である。$Y$ が一般の位置の $d$ 個の超平面と交わる点の個数と見ることもできる(交叉数 の系「有効因子の交わりと点の個数」)。
$X=\mathbb{P}^1_k\times_k\mathbb{P}^1_k$(二次曲面)、$p,q$ を 2 つの射影とし、$\mathcal{O}(a,b):=p^{*}\mathcal{O}(a)\otimes q^{*}\mathcal{O}(b)$ とおく。閉点 $P,Q\in\mathbb{P}^1$ に対し、ファイバー $F_P:=\{P\}\times\mathbb{P}^1$ の上で $\mathcal{O}(a,b)|_{F_P}\cong\mathcal{O}_{\mathbb{P}^1}(b)$、$G_Q:=\mathbb{P}^1\times\{Q\}$ の上で $\mathcal{O}(a,b)|_{G_Q}\cong\mathcal{O}_{\mathbb{P}^1}(a)$ なので、$(\mathcal{O}(a,b)\cdot F_P)=b$、$(\mathcal{O}(a,b)\cdot G_Q)=a$ である。$h_1:=\mathcal{O}(1,0)$、$h_2:=\mathcal{O}(0,1)$ は有効因子 $F_P$、$G_Q$ の可逆層であり、$F_P\cap F_{P'}=\emptyset$($P\ne P'$)と、$F_P$ と $G_Q$ が 1 点で横断的に交わることから、交叉数 の系「有効因子の交わりと点の個数」により $(h_1^{2})=(h_2^{2})=0$、$(h_1\cdot h_2)=1$ である。多重線型性から
$$
(\mathcal{O}(a,b)^{2})=2ab
$$
である。$a\le0$ または $b\le0$ なら、$G_Q$ または $F_P$ との交叉数が正でないので、lem-nm-necessity により $\mathcal{O}(a,b)$ は豊富でない。$a,b>0$ なら $\mathcal{O}(a,b)$ は豊富であり(豊富な可逆層 の命題「射影空間の積の上の豊富な可逆層」)、thm-nm-main の条件はすべて成り立つ。とくに $\mathcal{O}(-1,-1)$ は $(\mathcal{L}^{2})=2>0$ をみたすが豊富でない。
非特異射影曲面 $X$ と因子 $D$ で、すべての既約曲線 $C$ について $(D\cdot C)>0$ だが $(D^{2})=0$ となり、したがって豊富でないものが存在する(Mumford の例。Hartshorne は Har77 V 例 1.10.1 でこの例の存在を述べている)。この記事では構成を述べない。高次元では、曲線との交叉数がすべて正であることは豊富性を保証しない。
thm-nm-main の十分性について、条件を 1 つずつ弱める。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $1$ 次元の $Y$(曲線)についての正値性 | $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ 上の $\mathcal{O}(-1,-1)$(ex-nm-quadric) | 十分性($(\mathcal{L}^{2})=2>0$ だが $(\mathcal{L}\cdot F_P)=-1$ で、豊富でない) |
| $2$ 次元以上の $Y$ についての正値性 | Mumford の例(ex-nm-mumford) | 十分性(曲線との交叉数はすべて正だが、豊富でない) |
| 不等号が真であること($\ge0$ に弱める) | $\mathbb{P}^1\times\mathbb{P}^1$ 上の $\mathcal{O}(1,0)$ | 十分性(すべての交叉数は $0$ 以上だが、$(\mathcal{L}^{2})=0$、$(\mathcal{L}\cdot F_P)=0$ で、豊富でない) |
$\mathcal{O}(1,0)=p^{*}\mathcal{O}(1)$ は大域切断で生成されるので、整な曲線との交叉数は $0$ 以上である。それでも $F_P$ を点に縮める射 $p$ を定めるだけで、埋め込みを与えない(豊富な可逆層 の例「反例:大域生成だが豊富でない可逆層」)。すべての整な曲線との交叉数が $0$ 以上の可逆層を nef(numerically effective)という。
判定法は $X$ が代数閉体上の固有スキームでも成り立つ(Har77 付録 A 定理 5.1 に主張があり、証明は Kleiman の論文に譲られている。この記事では証明しない)。$k$ が任意の体で $X$ が射影的な場合の十分性の主張と、この記事と同じ筋(段 1〜4)の証明は Vak25 定理 20.4.1(p. 589)と §20.4.5(pp. 590–591)にある。曲面の場合の証明は Har77 V 定理 1.10(pp. 365–366)にあり、段 3・4 に当たる議論(零点の因子への制限による大域生成と、定まる射の有限性)は同じである。射影的なスキームでは、さらに Kleiman の判定法により、数値的同値類の空間の中で、豊富な類のなす錐は nef な類のなす錐の内部であり、nef な類のなす錐は豊富な類のなす錐の閉包である(Kleimanの判定法(豊富性) の系「豊富錐と nef 錐」。Vak25 定理 20.4.7、p. 592)。
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