制御理論(control theory)とは、動く対象に加える入力を測った出力にもとづいて決め、対象を望む状態に保ったり望む動きに従わせたりする方法を扱う数学の分野である。線形時不変な系 $x'=Ax+Bu$ では、$A$ の固有値の実部がすべて負であることが漸近安定性と同値であり、可到達行列の階数が状態の次元に等しいことが任意の状態へ移せることと同値で、1 入力の可到達な系では状態フィードバックで閉ループの特性多項式を任意に選べる。周波数領域では、一巡伝達関数の曲線が点 $-1$ をどう回るかで閉ループの安定性が判定でき(Nyquist の判定法)、出力から状態を推定する観測器、2 次の費用を最小にする線形 2 次レギュレータとともに、航空機や化学プラントなどの自動制御の設計に使われる。
制御理論(control theory)は、動く対象(プラント)に加える入力を、測った出力にもとづいて決め、対象を望む状態に保つ・望む動きに従わせるための数学である。部屋の温度を保つ暖房、倒れようとする振り子を立てておく台車、目標の高度を保つ航空機の自動操縦は、どれも「測る → 目標との差を計算する → 入力を変える」という フィードバック の輪でできている。
$$
\begin{array}{ccccccc}
r & \longrightarrow & e=r-y & \xrightarrow{\ \text{制御器}\ } & u & \xrightarrow{\ \text{プラント}\ } & y\\
& & \Big\uparrow{\scriptstyle\text{測定}} & & & & \Big\downarrow\\
& & y & & \longleftarrow & & y
\end{array}
$$
数学の側から見ると、問いは大きく四つに分かれる。(1) 系は 安定 か(放っておいて、あるいは有界な入力に対して、状態や出力が暴れないか)。(2) 入力で状態を どこへでも動かせる か(可到達性)、出力から状態を 知ることができる か(可観測性)。(3) フィードバックで系の動き(極・固有値)を 望みどおりに変えられる か(極配置)、どれだけ変えても安定でいられるか(安定余裕)。(4) どの入力が 最もよい か(最適制御)、雑音の中で状態を 推定 できるか(Kalman フィルタ)。
この記事では、線形で時間によらない系に話を絞って、これらの問いを定義から述べ、安定性の判定、可到達性の階数条件(Kalman の判定)、1 入力の系の極配置(Ackermann の公式)を完全に証明する。そのほかの主要な定理は言明と所在を示し、詳しく扱う記事への道筋をまとめる。
$n,p,q\ge1$ とし、実数の行列 $A\in M_n(\mathbb{R})$、$B\in\mathbb{R}^{n\times p}$、$C\in\mathbb{R}^{q\times n}$、$D\in\mathbb{R}^{q\times p}$ をとる。区分的に連続な入力 $u\colon[0,\infty)\to\mathbb{R}^p$ と初期状態 $x(0)=x_0\in\mathbb{R}^n$ に対し
$$
x'(t)=Ax(t)+Bu(t),\qquad y(t)=Cx(t)+Du(t)
$$
で状態 $x(t)\in\mathbb{R}^n$ と出力 $y(t)\in\mathbb{R}^q$ を定めるものを 線形時不変な状態空間の系 という。$A$ を系の行列、$n$ を次数という。
線形微分方程式 の定理「定数変化法の公式(Duhamel の公式)」により、状態は
$$
x(t)=e^{tA}x_0+\int_0^te^{(t-\tau)A}Bu(\tau)\,d\tau
$$
である($e^{tA}$ は 行列の指数関数。入力が区分的に連続なときは、連続な区間ごとに公式を使ってつなぐ)。初期状態が $0$ のとき、入力の Laplace 変換 $U$ と出力の Laplace 変換 $Y$ は $Y=G\,U$、$G(s)=C(sI-A)^{-1}B+D$ で結ばれる。$p=q=1$ なら $G$ は 伝達関数 で扱う有理関数で、$(sI-A)^{-1}$ の成分の分母は $\det(sI-A)$ なので、$G$ の極は $A$ の固有値の一部である(約分で消える固有値もある)。このように、制御理論には入出力を $G$ で見る 周波数領域 の見方と、状態 $x$ を直接見る 状態空間 の見方の二つがある。
def-ctl-system の系について次のようにいう。
可到達は「可制御」と呼ばれることも多い(原点へ動かせることを可制御、任意の点へ動かせることを可到達と呼び分ける流儀もある)。また $n\times np$ 行列 $W_r:=\begin{pmatrix}B&AB&\cdots&A^{n-1}B\end{pmatrix}$ を 可到達行列、$nq\times n$ 行列 $W_o:=\begin{pmatrix}C\\CA\\\vdots\\CA^{n-1}\end{pmatrix}$ を 可観測行列 という。
| 問い | 代表的な定理 | この記事での扱い | 詳しく扱う記事 |
|---|---|---|---|
| 内部の安定性 | $A$ が漸近安定 $\iff$ 固有値の実部がすべて負 | thm-ctl-stability(証明) | 行列の指数関数 |
| 入出力の安定性 | BIBO 安定 $\iff$ 伝達関数の極が開左半平面 | 引用 | 伝達関数 の定理「BIBO 安定性と極」 |
| 正弦波への応答 | 定常応答の振幅と位相は $G(i\omega)$ | 引用 | 伝達関数, 周波数応答とBode線図 |
| 閉ループの安定性 | Nyquist の判定法 | thm-ctl-nyquist(言明) | 偏角の原理 |
| 可到達性 | 可到達 $\iff$ $\operatorname{rank}W_r=n$ | thm-ctl-kalman(証明) | — |
| 極配置 | 可到達な 1 入力の系では特性多項式を任意に選べる | thm-ctl-pole-placement(証明) | — |
| 可観測性・推定 | 可観測 $\iff$ $\operatorname{rank}W_o=n$、観測器の極配置 | prop-ctl-observable(証明) | — |
| 最適制御 | 線形 2 次レギュレータと Riccati 方程式 | 言明 | 凸最適化 |
| 離散時間の系 | 漸近安定 $\iff$ 固有値の絶対値がすべて $1$ 未満 | prop-ctl-discrete(証明) | z変換 |
$A\in M_n(\mathbb{R})$ について、次は同値である。
2 ⇒ 1。 行列の指数関数 の命題「Jordan 分解による計算」により、$e^{tA}$ の各成分は $t^ke^{\lambda t}$($\lambda$ は $A$ の固有値、$0\le k< n$)の 1 次結合である。$\lvert t^ke^{\lambda t}\rvert=t^ke^{(\operatorname{Re}\lambda)t}$ であり、$-\sigma$ を固有値の実部の最大値より大きい負の数にとると $t^ke^{(\operatorname{Re}\lambda+\sigma)t}$ は $t\ge0$ で有界である。よって成分は $Me^{-\sigma t}$ で押さえられ、解 $x(t)=e^{tA}x_0$(同じ記事の定理「指数関数の微分と $x'=Ax$ の解」)は $0$ に近づく。
1 ⇒ 2。 実部が $0$ 以上の固有値 $\lambda$ と固有ベクトル $v\in\mathbb{C}^n$ があったとする。同じ記事の命題「相似・転置・固有ベクトル」により $e^{tA}v=e^{\lambda t}v$ であり、その大きさ $e^{(\operatorname{Re}\lambda)t}\lvert v\rvert\ge\lvert v\rvert>0$ は $0$ に近づかない。$v=v_1+iv_2$($v_1,v_2\in\mathbb{R}^n$)と分けると、$e^{tA}$ は実行列なので $e^{tA}v_1$ と $e^{tA}v_2$ は実数の初期値からの解であり、両方が $0$ に近づけば $e^{tA}v$ も $0$ に近づくはずである。よってどちらかは $0$ に近づかず、1 が成り立たない。$\square$
実部が $0$ の固有値を許すと結論は崩れる(反例の表の 1 行目)。入出力だけを見る BIBO 安定性は、伝達関数の極(約分で残った固有値)だけで決まるので、内部の安定性より弱い(伝達関数 の反例の表)。非線形の系 $x'=f(x)$ の平衡点の安定性は、平衡点での線形化の行列にこの定理を当てて調べることが多い(AMF20 Theorem 5.1、p. 5-13 とその後の §5.4・§6.4)。
def-ctl-system の系について、次は同値である。
1 ⇒ 2。 $\operatorname{rank}W_r< n$ とすると、$v^{\mathsf T}W_r=0$ となる $0$ でない $v\in\mathbb{R}^n$ がある。すなわち $0\le j\le n-1$ で $v^{\mathsf T}A^jB=0$ である。行列の指数関数 の注意「$e^{tA}$ は $A$ の多項式である」により $e^{sA}$ は $I,A,\dots,A^{n-1}$ の 1 次結合なので、すべての $s$ で $v^{\mathsf T}e^{sA}B=0$ である。$x_0=0$ のとき、どの入力と $T$ についても
$$
v^{\mathsf T}x(T)=\int_0^Tv^{\mathsf T}e^{(T-\tau)A}Bu(\tau)\,d\tau=0
$$
なので、$v^{\mathsf T}v\ne0$ を満たす点 $x_{\mathrm f}=v$ には到達できない。
2 ⇒ 3。 $T>0$ と $G_Tv=0$ を満たす $v\in\mathbb{R}^n$ をとる。$(e^{sA})^{\mathsf T}=e^{sA^{\mathsf T}}$(同じ記事の命題「相似・転置・固有ベクトル」)なので
$$
0=v^{\mathsf T}G_Tv=\int_0^T\bigl\lvert B^{\mathsf T}e^{sA^{\mathsf T}}v\bigr\rvert^2\,ds
$$
であり、被積分関数は連続で $0$ 以上なので $[0,T]$ 上で $v^{\mathsf T}e^{sA}B=0$ である。$s$ で $j$ 回微分して $s=0$ とおくと(同じ記事の定理「指数関数の微分と $x'=Ax$ の解」)$v^{\mathsf T}A^jB=0$ となり、$v^{\mathsf T}W_r=0$ である。2 から $v=0$ なので $G_T$ は正則である。
3 ⇒ 1。 与えた入力は連続である。状態の公式に代入し、$s=T-\tau$ と置き換えると
$$
x(T)=e^{TA}x_0+\Bigl(\int_0^Te^{sA}BB^{\mathsf T}e^{sA^{\mathsf T}}\,ds\Bigr)G_T^{-1}\bigl(x_{\mathrm f}-e^{TA}x_0\bigr)=x_{\mathrm f}
$$
である。$\square$
階数条件には時間 $T$ が現れない。可到達な系は、どんなに短い時間でも任意の点へ移せる(ただし $T$ が小さいと入力は大きくなる)。可到達の定義と階数条件は AMF20 Definition 7.1(p. 7-2)・Theorem 7.1(p. 7-4)にもある。
質点の位置 $x_1$ と速度 $x_2$ に力 $u$ を加える系 $x_1'=x_2$、$x_2'=u$:$A=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$、$B=\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}$。
答え:$W_r=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$ は階数 $2$ なので可到達である。$T=1$ で原点から $x_{\mathrm f}=(1,0)$ へ移す入力は $u(\tau)=6-12\tau$ である。
$e^{sA}=\begin{pmatrix}1&s\\0&1\end{pmatrix}$、$e^{sA}B=\begin{pmatrix}s\\1\end{pmatrix}$ なので $G_1=\int_0^1\begin{pmatrix}s^2&s\\s&1\end{pmatrix}ds=\begin{pmatrix}1/3&1/2\\1/2&1\end{pmatrix}$、$G_1^{-1}=\begin{pmatrix}12&-6\\-6&4\end{pmatrix}$。$u(\tau)=\begin{pmatrix}1-\tau&1\end{pmatrix}G_1^{-1}\begin{pmatrix}1\\0\end{pmatrix}=12(1-\tau)-6=6-12\tau$。実際 $x_2(1)=\int_0^1u=0$、$x_1(1)=\int_0^1(1-\tau)u(\tau)\,d\tau=1$ である。
状態をすべて測れるとき、入力を $u=-Kx+v$($K$ は行列、$v$ は新しい入力)と決めると、系は $x'=(A-BK)x+Bv$ になる。$A-BK$ の固有値(閉ループの極)を望む位置に置けるかが問題である。1 入力($p=1$、$B=b$ は列ベクトル)では、可到達なら完全に自由に置ける。
$b\in\mathbb{R}^n$ とし、$W_r=\begin{pmatrix}b&Ab&\cdots&A^{n-1}b\end{pmatrix}$ が正則であるとする。実数係数の多項式 $\pi(s)=s^n+\pi_1s^{n-1}+\cdots+\pi_n$ を任意にとり、$e_n=(0,\dots,0,1)^{\mathsf T}$ として
$$
q^{\mathsf T}:=e_n^{\mathsf T}W_r^{-1},\qquad K:=q^{\mathsf T}\pi(A)
$$
とおく。このとき $\det\bigl(sI-(A-bK)\bigr)=\pi(s)$ である。
$A_K:=A-bK$ とおく。$q^{\mathsf T}W_r=e_n^{\mathsf T}$ なので、$q^{\mathsf T}A^jb$ は $0\le j\le n-2$ で $0$、$j=n-1$ で $1$ である。
(a) $0\le j\le n-1$ で $q^{\mathsf T}A_K^j=q^{\mathsf T}A^j$ である。$j=0$ は明らかで、$j\le n-2$ で成り立てば $q^{\mathsf T}A_K^{j+1}=q^{\mathsf T}A^j(A-bK)=q^{\mathsf T}A^{j+1}-(q^{\mathsf T}A^jb)K=q^{\mathsf T}A^{j+1}$ である。同じ計算で $q^{\mathsf T}A_K^n=q^{\mathsf T}A^{n-1}A_K=q^{\mathsf T}A^n-K$ となる。
(b) $\pi_0:=1$ とおくと、(a) から
$$
q^{\mathsf T}\pi(A_K)=\sum_{j=0}^{n}\pi_{n-j}\,q^{\mathsf T}A_K^j=\sum_{j=0}^{n}\pi_{n-j}\,q^{\mathsf T}A^j-K=q^{\mathsf T}\pi(A)-K=0.
$$
(c) 行ベクトル $r_j:=q^{\mathsf T}A^j$($0\le j\le n-1$)は 1 次独立である。実際、$r_j$ を並べた行列を $O$ とすると、$OW_r$ の $(j,k)$ 成分は $q^{\mathsf T}A^{j+k}b$ で、$j+k\le n-2$ なら $0$、$j+k=n-1$ なら $1$ である。$OW_r$ は反対角線に $1$ が並びその左上が $0$ の行列なので行列式は $\pm1$ であり、$O$ は正則である。
(d) (a) から $r_j=q^{\mathsf T}A_K^j$ なので、$r_j\pi(A_K)=q^{\mathsf T}\pi(A_K)A_K^j=0$ である((b))。$r_0,\dots,r_{n-1}$ はすべての行ベクトルを張るので $\pi(A_K)=O$ である。
(e) $A_K$ の最小多項式を $m$ とする。Cayley–Hamiltonの定理 の命題「最小多項式は零化多項式を割り切る」により $m$ は $\pi$ と $A_K$ の固有多項式 $\chi$ を割り切る。$d:=\deg m< n$ とすると、$m(A_K)=O$ から $A_K^d$ は $I,A_K,\dots,A_K^{d-1}$ の 1 次結合で、左から $q^{\mathsf T}$ を掛けると $r_d$ が $r_0,\dots,r_{d-1}$ の 1 次結合になり (c) に反する。よって $\deg m=n$ で、$m,\pi,\chi$ はどれも最高次の係数が $1$ の $n$ 次式なので $m=\pi=\chi$ である。$\square$
$K$ は実行列なので、置ける極は実数か複素共役の対である。多入力の系の極配置は、この記事では扱わない(thm-ctl-kalman の階数条件そのものは、入力の数 $p$ によらずに証明した)。可到達でない系では、$W_r$ の列が張る部分空間の外の動きは $K$ で変えられない(反例の表)。1 入力の極配置は AMF20 Theorem 7.3(p. 7-15)にもあり、同書は可到達標準形を経由して $K$ を求めている。
小さな角度に線形化し無次元化した倒立振子 $x_1'=x_2$、$x_2'=x_1+u$($x_1$ は角度):$A=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}$、$b=\begin{pmatrix}0\\1\end{pmatrix}$。固有値は $\pm1$ で、$u=0$ では倒れる。閉ループの特性多項式を $\pi(s)=(s+1)^2$ にする。
答え:$K=\begin{pmatrix}2&2\end{pmatrix}$、$A-bK=\begin{pmatrix}0&1\\-1&-2\end{pmatrix}$。$x(0)=(1,0)$ からの角度は $x_1(t)=(1+t)e^{-t}$ で、$x_1(3)\approx0.199148$。
$W_r=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}=W_r^{-1}$、$q^{\mathsf T}=e_2^{\mathsf T}W_r^{-1}=\begin{pmatrix}1&0\end{pmatrix}$。$\pi(A)=A^2+2A+I=\begin{pmatrix}2&2\\2&2\end{pmatrix}$ なので $K=\begin{pmatrix}2&2\end{pmatrix}$。$x_1''+2x_1'+x_1=0$、$x_1(0)=1$、$x_1'(0)=0$ を解くと $x_1=(1+t)e^{-t}$。
1。 入力が $0$ のとき $y(t)=Ce^{tA}x_0$ は $x_0$ について線形なので、可観測とは「$[0,T]$ 上で $Ce^{tA}v=0$ なら $v=0$」のことである。$W_ov=0$、$v\ne0$ なら、$e^{tA}$ が $I,\dots,A^{n-1}$ の 1 次結合であること(thm-ctl-kalman の証明と同じ)からすべての $t$ で $Ce^{tA}v=0$ となり、どの $T$ でも可観測でない。逆に $\operatorname{rank}W_o=n$ で $[0,T]$ 上 $Ce^{tA}v=0$ なら、$t=0$ で $j$ 回微分して $CA^jv=0$ となり、$W_ov=0$ から $v=0$ である。
2。 前半は転置の計算である。後半は、$(A^{\mathsf T},c^{\mathsf T})$ に thm-ctl-pole-placement を使って $A^{\mathsf T}-c^{\mathsf T}K$ の固有多項式を $\pi$ にし、$L:=K^{\mathsf T}$ とおけば、転置しても固有多項式は変わらないので $A-Lc$ の固有多項式も $\pi$ である。$\square$
2 の $L$ を使った 観測器 $\hat x'=A\hat x+Bu+L(y-C\hat x-Du)$ では、誤差 $\varepsilon=x-\hat x$ が $\varepsilon'=(A-LC)\varepsilon$ を満たすので、$A-LC$ を漸近安定にすれば推定値は真の状態に近づく。観測器の推定値で状態フィードバックをかけても、閉ループの固有値は $A-BK$ と $A-LC$ の固有値を合わせたものになる(AMF20 Theorem 8.3、p. 8-13)。雑音があるときに推定の誤差の 2 乗平均を最小にする観測器が Kalman フィルタ である(離散時間の場合は AMF20 Theorem 8.4、p. 8-18)。
プラントの伝達関数 $P$ と制御器の伝達関数 $F$ を直列にした $L:=PF$ を 一巡伝達関数 という。冒頭の図の輪では、目標 $r$ から出力 $y$ までの伝達関数は $\dfrac{L}{1+L}$ である(伝達関数 の公式の表のフィードバックの行で $H=1$ とした場合)。$L=b/a$(既約)なら $\frac{L}{1+L}=\frac{b}{a+b}$ も既約なので、閉ループの極は $a+b$ の根、すなわち $1+L$ の零点である。
$L$ を実数係数の真にプロパーな有理関数とし、$L$ の極はすべて開左半平面にあるとする。このとき、閉ループ $\frac{L}{1+L}$ の極がすべて開左半平面にあることと、次の 2 条件は同値である:曲線 $\omega\mapsto L(i\omega)$($\omega$ は $-\infty$ から $\infty$ まで)が点 $-1$ を通らず、$-1$ のまわりを回る回数が $0$ である。
曲線が $-1$ にどれだけ近づかないかが 安定余裕 である。$L(i\omega)$ が負の実軸と交わる周波数でのゲインの逆数を ゲイン余裕、$\lvert L(i\omega)\rvert=1$ となる周波数での位相と $-180^\circ$ との差を 位相余裕 という(AMF20 式 (10.5)・(10.6)、p. 10-15)。どちらも Bode 線図から読める(周波数応答とBode線図)。
可到達な系 $x'=Ax+Bu$ について、正定値な対称行列 $Q_x,Q_u$ をとり、費用 $J=\int_0^\infty\bigl(x^{\mathsf T}Q_xx+u^{\mathsf T}Q_uu\bigr)\,dt$ を最小にする入力を求める問題を 線形 2 次レギュレータ(LQR)という。答えは状態フィードバック $u=-Kx$、$K=Q_u^{-1}B^{\mathsf T}S$ で与えられ、$S$ は代数 Riccati 方程式
$$
A^{\mathsf T}S+SA-SBQ_u^{-1}B^{\mathsf T}S+Q_x=O
$$
の正定値な解のうち $A-BK$ を漸近安定にするものである(この記事では証明しない。AMF20 §7.5、式 (7.33)、pp. 7-28〜7-29)。極配置が「どこへ極を置くか」を設計者に委ねるのに対し、LQR は状態の大きさと入力の大きさの釣り合いから $K$ を決める。
計算機で制御するときは、時刻 $kT$($T>0$ は標本化の間隔)ごとに状態を測り入力を変える。区間 $[kT,(k+1)T)$ で入力を一定にすると、状態の公式から $x[k]:=x(kT)$ は
$$
x[k+1]=A_dx[k]+B_du[k],\qquad A_d=e^{TA},\quad B_d=\int_0^Te^{sA}B\,ds
$$
を満たす。出力を $y[k]=Cx[k]+Du[k]$ とし初期状態を $0$ とすると、離散時間の系の伝達関数は、z 変換で $C(zI-A_d)^{-1}B_d+D$ となる(z変換 の畳み込み定理)。
$A_d\in M_n(\mathbb{R})$ について、$x[k+1]=A_dx[k]$ のすべての解が $0$ に近づくことと、$A_d$ の固有値の絶対値がすべて $1$ 未満であることは同値である。$A_d=e^{TA}$ のとき、これは $A$ の固有値の実部がすべて負であることと同値である。
解は $x[k]=A_d^kx[0]$ である。固有値の絶対値の最大値を $\rho$ とする。$M_n(\mathbb{C})$ に作用素ノルムを入れると複素単位的 Banach 代数になり、そのスペクトルは固有値の集合なので、スペクトル半径 の定理「Gelfand のスペクトル半径公式」により $\|A_d^k\|^{1/k}\to\rho$ である。$\rho<1$ なら、$\rho<\theta<1$ をとると十分大きな $k$ で $\|A_d^k\|\le\theta^k\to0$ である。逆に $\lvert\lambda\rvert\ge1$ の固有値と固有ベクトル $v$ があれば $A_d^kv=\lambda^kv$ は $0$ に近づかず、thm-ctl-stability の証明と同じく実部・虚部のどちらかが $0$ に近づかない解を与える。後半は、行列の指数関数 の定理「指数関数の固有値と行列式」により $e^{TA}$ の固有値が $e^{T\lambda}$($\lambda$ は $A$ の固有値)であり、$\lvert e^{T\lambda}\rvert=e^{T\operatorname{Re}\lambda}$ であることによる。$\square$
連続時間の「固有値の実部が負」が、標本化すると「固有値の絶対値が $1$ 未満」に変わる。z 変換の側から見た同じ事実が z変換 の定理「有理関数の因果的な逆変換と安定性」である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 固有値の実部が負(thm-ctl-stability) | $A=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$(固有値 $0$) | $x(0)=(0,1)$ からの解 $(t,1)$ は $0$ に近づかない |
| 可到達(thm-ctl-kalman、thm-ctl-pole-placement) | $A=-I_2$、$b=(1,1)^{\mathsf T}$ | 原点からは直線 $x_1=x_2$ の上にしか行けず、どの $K$ でも $A-bK$ は固有値 $-1$ をもつ |
| 可観測(prop-ctl-observable) | $A=\begin{pmatrix}-1&0\\0&-2\end{pmatrix}$、$c=(1,0)$ | $x(0)=(0,1)$ でも $y\equiv0$ で、$x(0)=0$ と区別できない |
| 開ループが安定(thm-ctl-nyquist) | $L(s)=\frac{2}{s-1}$ | 閉ループ $\frac{2}{s+1}$ は安定だが、$L(i\omega)$ は $-1$ のまわりを 1 回まわる |
| 離散時間では絶対値で判定(prop-ctl-discrete) | $x[k+1]=-2x[k]$ | 固有値 $-2$ の実部は負だが $x[k]=(-2)^kx[0]$ は発散する |
各行が外す条件は一つだけであることを確かめる。
1 行目:$e^{tA}=\begin{pmatrix}1&t\\0&1\end{pmatrix}$ である。2 行目:$W_r=\begin{pmatrix}1&-1\\1&-1\end{pmatrix}$ の階数は $1$ で、$v=(1,-1)^{\mathsf T}$ について $v^{\mathsf T}b=0$ なので $v^{\mathsf T}(A-bK)=-v^{\mathsf T}$、すなわち $-1$ は $(A-bK)^{\mathsf T}$ の固有値である。$A$ 自身は漸近安定であり、外れているのは可到達性だけである。3 行目:$W_o=\begin{pmatrix}1&0\\-1&0\end{pmatrix}$ の階数は $1$ で、$y(t)=ce^{tA}x(0)=e^{-t}x_1(0)$ は $x_2(0)$ によらない。4 行目:$1+L=\frac{s+1}{s-1}$ なので $1+L(i\omega)=-\frac{1+i\omega}{1-i\omega}=-e^{2i\arctan\omega}$ であり、$\omega$ が $-\infty$ から $\infty$ まで動くと偏角は $2\pi$ 増える。閉ループの極は $-1$ である。$L$ は真にプロパーで、外れているのは $L$ の極 $1$ が右半平面にあることだけである。5 行目:$\lvert-2\rvert>1$ である。
フィードバック増幅器の発振の研究から、Nyquist は 1932 年に安定性の判定法を発表した(AMF20 §10.6、p. 10-27)。Bode は複素関数論を使い、最小位相の系のゲインと位相の関係などの基本的な結果を得た(同書 §12.7、p. 12-30)。1960 年の Kalman の論文は状態のモデルと状態フィードバックの重要性を論じ、2 次の費用を最小にするフィードバックを導いた。可到達性・可観測性の概念も Kalman による。任意の位置に固有値を置けることは 1959 年に Bertram が最初に気づいた(同書 §7.6、p. 7-33)。観測器は、Kalman(離散時間)と Kalman–Bucy(1961 年、連続時間)の Kalman フィルタとして現れた(同書 §8.6、p. 8-32)。
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