相加平均と相乗平均

同義語:相加相乗平均の不等式

概要

相加平均と相乗平均(arithmetic mean and geometric mean)とは、正の数 $a,b$ に対する $\frac{a+b}2$ と $\sqrt{ab}$ のことであり、3 数 $a,b,c$ では $\frac{a+b+c}3$ と $\sqrt[3]{abc}$ である。正の数について相乗平均は相加平均以下であり(相加相乗平均の不等式)、等号はすべての数が等しいときに限る。2 数の場合は差が $\frac12(\sqrt a-\sqrt b)^2$ になることから、3 数の場合は $p^3+q^3+r^3-3pqr$ の因数分解から示せる。積が一定の正の数の和の最小値や、和が一定の正の数の積の最大値を求めるのに使うが、等号が成り立つ値が考える範囲に入るかを確かめる必要がある。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 平方根, 累乗根, 因数分解

相加平均と相乗平均とは

2 つの数の「平均」というと、ふつうは足して 2 で割ったものを考える。しかし、掛けて平方根をとる平均もある。この記事では、この 2 つの平均の大小関係(相加相乗平均の不等式)を証明し、それを使って最小値・最大値を求める方法を学ぶ。
この記事で答える問いは次の 3 つである。

  • 2 つの平均はどちらが大きいか。等しくなるのはいつか。→ thm-agm-two、prop-agm-semicircle
  • 不等式を使って最小値を求めるには、何に気をつければよいか。→ ex-agm-min-4x、ex-agm-range
  • 3 つの数ではどうなるか。→ thm-agm-three
    高校の計算と、この記事の言葉、大学での見方の対応は次のとおりである。
    高校の計算この記事の言葉大学での見方
    $\frac{a+b}2-\sqrt{ab}=\frac12(\sqrt a-\sqrt b)^2\ge0$2 数の相加相乗平均の不等式上に凸な関数 $\log$ の弦の不等式(曲線の凹凸と接線)
    積が一定なら和が最小等号の点が範囲に入るかの確認下界と最小値の区別
    項を分けて 3 数にする3 数の相加相乗平均の不等式重み付きの相加相乗平均(平均の大小関係)
相加平均と相乗平均

$a,b$ を正の数とする。
$$ \frac{a+b}2 $$
を $a$ と $b$ の相加平均といい、
$$ \sqrt{ab} $$
を $a$ と $b$ の相乗平均という。
3 つの正の数 $a,b,c$ についても、$\frac{a+b+c}3$ を相加平均、$\sqrt[3]{abc}$ を相乗平均という。ここで $\sqrt[3]{c}$ は、3 乗すると $c$ になる正の数($c$ の正の 3 乗根)である。

相乗平均の「乗」は掛け算の意味である。相加平均が「足してから個数で割る」のに対し、相乗平均は「掛けてから個数乗根をとる」。

平均を計算する

2 数の場合:

$a$$b$相加平均 $\frac{a+b}2$相乗平均 $\sqrt{ab}$
$2$$8$$\frac{10}2=5$$\sqrt{16}=4$
$1$$9$$\frac{10}2=5$$\sqrt9=3$
$1$$4$$\frac52=2.5$$\sqrt4=2$
$4$$4$$\frac82=4$$\sqrt{16}=4$

3 数の場合:$1,3,9$ では相加平均 $\frac{1+3+9}3=\frac{13}3=4.33\ldots$、相乗平均 $\sqrt[3]{27}=3$ である。$2,4,8$ では相加平均 $\frac{14}3=4.66\ldots$、相乗平均 $\sqrt[3]{64}=4$ である。
どの例でも相乗平均は相加平均以下であり、2 つが等しいのは $4,4$ のようにすべての数が等しいときだけである。また、$2,8$ と $1,9$ は和が同じ $10$ なので相加平均は同じ $5$ だが、差が大きい $1,9$ のほうが相乗平均は小さい。

2 つの平均には、長方形と正方形を使った見方がある。

長方形と正方形で見る 2 つの平均

縦 $a$、横 $b$ の長方形を考える。

  • 周の長さ $2(a+b)$ が同じ正方形の 1 辺は $\frac{2(a+b)}4=\frac{a+b}2$、つまり相加平均である。
  • 面積 $ab$ が同じ正方形の 1 辺は $\sqrt{ab}$、つまり相乗平均である。
    たとえば $a=1$、$b=4$ なら、周の長さ $10$ の正方形の 1 辺は $2.5$、面積 $4$ の正方形の 1 辺は $2$ である。相乗平均 $\le$ 相加平均という不等式は、「周の長さが同じ長方形の中では、正方形の面積がいちばん大きい」という事実と同じ内容になる(ex-agm-rectangle)。

2 数の相加相乗平均の不等式

一般の証明の前に、具体的な数で「相加平均 − 相乗平均」を計算し、それがある数の 2 乗の半分になっていることを見ておく。

差が平方になることを数で確かめる

$a=2$、$b=8$ のとき、相加平均 − 相乗平均 $=5-4=1$ である。一方、$\sqrt2$ と $\sqrt8=2\sqrt2$ の差の 2 乗の半分は
$$ \frac12\bigl(\sqrt8-\sqrt2\bigr)^2=\frac12\bigl(2\sqrt2-\sqrt2\bigr)^2=\frac12\bigl(\sqrt2\bigr)^2=\frac12\cdot2=1 $$
であり、確かに一致する。
$a=1$、$b=9$ のとき、相加平均 − 相乗平均 $=5-3=2$ であり、
$$ \frac12\bigl(\sqrt9-\sqrt1\bigr)^2=\frac12(3-1)^2=\frac12\cdot4=2 $$
である。これも一致する。

2 数の相加相乗平均の不等式

$a,b$ を正の数とする。このとき
$$ \frac{a+b}2\ge\sqrt{ab} $$
が成り立つ。等号が成り立つのは $a=b$ のときに限る。

差を平方の形に変形する

方針:左辺から右辺を引き、それが「ある数の 2 乗の半分」になることを示す。2 乗は $0$ 以上なので、差は $0$ 以上になる。
段 1(平方根で書き直す)。$a>0$ なので $a=\bigl(\sqrt a\bigr)^2$ であり、同様に $b=\bigl(\sqrt b\bigr)^2$ である。また、$\sqrt a\sqrt b$ は $0$ 以上で、2 乗すると $ab$ になるので、$\sqrt{ab}=\sqrt a\sqrt b$ である。
段 2(差を計算する)。段 1 を使って差を書き直すと
$$ \begin{aligned} \frac{a+b}2-\sqrt{ab} &=\frac{\bigl(\sqrt a\bigr)^2+\bigl(\sqrt b\bigr)^2}2-\sqrt a\sqrt b\\ &=\frac{\bigl(\sqrt a\bigr)^2-2\sqrt a\sqrt b+\bigl(\sqrt b\bigr)^2}2\\ &=\frac{\bigl(\sqrt a-\sqrt b\bigr)^2}2 \end{aligned} $$
となる。2 行目は $\sqrt a\sqrt b=\frac{2\sqrt a\sqrt b}2$ として分数をまとめ、3 行目は展開公式 $(s-t)^2=s^2-2st+t^2$ を $s=\sqrt a$、$t=\sqrt b$ に使った。
段 3(不等式)。実数の 2 乗は $0$ 以上なので $\bigl(\sqrt a-\sqrt b\bigr)^2\ge0$ であり、段 2 より $\frac{a+b}2-\sqrt{ab}\ge0$、すなわち $\frac{a+b}2\ge\sqrt{ab}$ である。
段 4(等号の条件)。等号が成り立つのは段 2 の差が $0$ のとき、すなわち $\bigl(\sqrt a-\sqrt b\bigr)^2=0$ のときである。実数の 2 乗が $0$ になるのはその実数が $0$ のときだけなので、これは $\sqrt a=\sqrt b$ と同じである。$\sqrt a=\sqrt b$ なら両辺を 2 乗して $a=b$ であり、逆に $a=b$ なら $\sqrt a=\sqrt b$ である。よって等号は $a=b$ のときに限る。$\square$

$a$ や $b$ が $0$ の場合も、同じ計算で $\frac{a+b}2\ge\sqrt{ab}$ が成り立つ($0$ の平方根は $0$ である)。一方、負の数を許すと成り立たない(ex-agm-negative)。

図で見る:半円の半径と垂線

相加平均と相乗平均は、1 つの半円の中に長さとして描ける。
直径 a+b の半円で、相加平均は半径、相乗平均は分点から立てた垂線の長さになる 直径 a+b の半円で、相加平均は半径、相乗平均は分点から立てた垂線の長さになる

半円の中の垂線の長さ

長さ $a+b$ の線分 $\mathrm{AB}$ を直径とする半円をかく。$\mathrm{AB}$ 上に $\mathrm{AP}=a$、$\mathrm{PB}=b$ となる点 $\mathrm P$ をとり、$\mathrm P$ で $\mathrm{AB}$ に垂直な直線が半円と交わる点を $\mathrm Q$ とする。このとき
$$ \mathrm{PQ}=\sqrt{ab} $$
である。半円の半径は $\frac{a+b}2$ である。

直角三角形 $\mathrm{OPQ}$ で計算する

方針:中心 $\mathrm O$ と $\mathrm Q$ を結び、直角三角形 $\mathrm{OPQ}$ に三平方の定理を使う。
段 1(長さを求める)。$\mathrm O$ は $\mathrm{AB}$ の中点なので、半径は $r:=\frac{a+b}2$、$\mathrm{AO}=r$ である。$\mathrm{AP}=a$ なので、$\mathrm P$ と $\mathrm O$ の距離は
$$ \mathrm{OP}=|r-a|=\Bigl|\frac{a+b}2-a\Bigr|=\frac{|b-a|}2 $$
である。$\mathrm Q$ は半円上の点なので $\mathrm{OQ}=r$ である。
段 2(三平方の定理)。角 $\mathrm{OPQ}$ は直角なので、$\mathrm{PQ}^2=\mathrm{OQ}^2-\mathrm{OP}^2$ である($\mathrm P=\mathrm O$ のときは $\mathrm{OP}=0$ で、この式はそのまま成り立つ)。よって
$$ \mathrm{PQ}^2=\frac{(a+b)^2}4-\frac{(b-a)^2}4=\frac{(a^2+2ab+b^2)-(a^2-2ab+b^2)}4=\frac{4ab}4=ab $$
である。$\mathrm{PQ}>0$ なので $\mathrm{PQ}=\sqrt{ab}$ である。$\square$

直角三角形 $\mathrm{OPQ}$ では、斜辺 $\mathrm{OQ}$ は他の辺 $\mathrm{PQ}$ より短くない。よって $\sqrt{ab}=\mathrm{PQ}\le\mathrm{OQ}=\frac{a+b}2$ であり、図の上でも thm-agm-two が読み取れる。等しくなるのは $\mathrm{OP}=0$、つまり $\mathrm P$ が中心に来て $a=b$ となるときである。

図の数値

図 1 は $a=1$、$b=4$ でかいてある。半径は $r=\frac{1+4}2=2.5$、$\mathrm{OP}=\frac{|4-1|}2=1.5$ なので
$$ \mathrm{PQ}=\sqrt{2.5^2-1.5^2}=\sqrt{6.25-2.25}=\sqrt4=2 $$
であり、確かに $\sqrt{ab}=\sqrt{1\cdot4}=2$ と一致する。赤い垂線(長さ $2$)は青い半径(長さ $2.5$)より短い。

最小値・最大値を求める

thm-agm-two は、次の 2 つの形でよく使われる。どちらも thm-agm-two を書き直しただけである。

使い方の 2 つの型

$a,b$ を正の数とする。

  1. 積が一定なら、和には最小値がある。$ab=k$(一定)なら、thm-agm-two の両辺を 2 倍して $a+b\ge2\sqrt{ab}=2\sqrt k$ である。等号は $a=b$ のとき、つまり $a=b=\sqrt k$ のときに成り立つ。
  2. 和が一定なら、積には最大値がある。$a+b=s$(一定)なら、$\sqrt{ab}\le\frac s2$ の両辺を 2 乗して $ab\le\frac{s^2}4$ である。等号は $a=b=\frac s2$ のときに成り立つ。
    どちらの型でも、「不等式が成り立つ」ことと「等号が実際に成り立つ $a,b$ がある」ことの両方を確かめて、はじめて最小値・最大値が決まる。
$x+\frac{4}{x}$ の最小値

$x>0$ のとき、$x+\frac4x$ の最小値を求める。
$x$ と $\frac4x$ はどちらも正で、積は $x\cdot\frac4x=4$ で一定である。rem-agm-two-patterns の 1 により
$$ x+\frac4x\ge2\sqrt{x\cdot\frac4x}=2\sqrt4=4 $$
である。等号は $x=\frac4x$ のとき、つまり $x^2=4$ で $x>0$ より $x=2$ のときに成り立つ。$x=2$ は範囲 $x>0$ に入っているので、最小値は $4$($x=2$ のとき)である。
いくつかの値で確かめる:$x=1$ で $1+4=5$、$x=2$ で $2+2=4$、$x=4$ で $4+1=5$、$x=\frac12$ で $\frac12+8=8.5$。どれも $4$ 以上であり、$x=2$ で $4$ になる。

y=x+4/x のグラフは直線 y=4 より下に来ず、x=2 でちょうど 4 になる y=x+4/x のグラフは直線 y=4 より下に来ず、x=2 でちょうど 4 になる
図 2 では、グラフが相加相乗平均による下界 $y=4$ に 1 点 $(2,4)$ だけで触れている。$x$ が小さいと $\frac4x$ が大きく、$x$ が大きいと $x$ 自身が大きいので、ちょうど 2 つの項が等しくなる所で和がいちばん小さくなる。

周の長さが 20 の長方形の面積の最大値

周の長さが $20$ の長方形の縦を $a$、横を $b$ とすると、$2(a+b)=20$ より $a+b=10$ である。rem-agm-two-patterns の 2 により
$$ ab\le\frac{10^2}4=25 $$
であり、等号は $a=b=5$ のときに成り立つ。よって面積の最大値は $25$ で、そのとき長方形は 1 辺 $5$ の正方形である。
確かめ:縦 $3$・横 $7$ で面積 $21$、縦 $4$・横 $6$ で面積 $24$、縦 $5$・横 $5$ で面積 $25$。

形を整えてから使う

$x>1$ のとき、$x+\frac1{x-1}$ の最小値を求める。このままでは $x$ と $\frac1{x-1}$ の積 $\frac x{x-1}$ が一定でないので、rem-agm-two-patterns の 1 は使えない。
そこで $t:=x-1$ とおく。$x>1$ より $t>0$ であり、$x=t+1$ なので
$$ x+\frac1{x-1}=t+\frac1t+1 $$
である。$t$ と $\frac1t$ の積は $1$ で一定なので、$t+\frac1t\ge2\sqrt1=2$ であり、
$$ x+\frac1{x-1}=t+\frac1t+1\ge2+1=3 $$
となる。等号は $t=\frac1t$、つまり $t=1$($x=2$)のときに成り立つ。よって最小値は $3$($x=2$ のとき)である。
確かめ:$x=2$ で $2+1=3$、$x=3$ で $3+\frac12=3.5$、$x=\frac32$ で $\frac32+2=3.5$。

3 数の相加相乗平均の不等式

3 つの正の数についても、相乗平均は相加平均以下である。証明には、次の因数分解の公式を使う。

3 乗の和の因数分解

すべての実数 $p,q,r$ について
$$ p^3+q^3+r^3-3pqr=(p+q+r)\bigl(p^2+q^2+r^2-pq-qr-rp\bigr) $$
であり、さらに
$$ p^2+q^2+r^2-pq-qr-rp=\frac12\Bigl((p-q)^2+(q-r)^2+(r-p)^2\Bigr) $$
である。

展開して比べる

段 1(1 つ目の式)。右辺の $(p+q+r)$ を 1 文字ずつ掛ける。
$$ \begin{aligned} p\,(p^2+q^2+r^2-pq-qr-rp)&=p^3+pq^2+pr^2-p^2q-pqr-p^2r\\ q\,(p^2+q^2+r^2-pq-qr-rp)&=p^2q+q^3+qr^2-pq^2-q^2r-pqr\\ r\,(p^2+q^2+r^2-pq-qr-rp)&=p^2r+q^2r+r^3-pqr-qr^2-pr^2 \end{aligned} $$
3 行を足す。$pq^2$ と $-pq^2$、$pr^2$ と $-pr^2$、$-p^2q$ と $p^2q$、$-p^2r$ と $p^2r$、$qr^2$ と $-qr^2$、$-q^2r$ と $q^2r$ がそれぞれ打ち消し合い、残るのは $p^3+q^3+r^3$ と、$-pqr$ が 3 つである。よって和は $p^3+q^3+r^3-3pqr$ であり、1 つ目の式が成り立つ。
段 2(2 つ目の式)。右辺の 3 つの 2 乗を展開すると
$$ (p-q)^2+(q-r)^2+(r-p)^2=(p^2-2pq+q^2)+(q^2-2qr+r^2)+(r^2-2rp+p^2)=2\bigl(p^2+q^2+r^2-pq-qr-rp\bigr) $$
である。両辺を 2 で割れば 2 つ目の式になる。$\square$

公式を数で確かめる

$p=1$、$q=2$、$r=3$ とする。左辺は $1+8+27-3\cdot6=36-18=18$ である。右辺は
$$ \frac12(1+2+3)\bigl((1-2)^2+(2-3)^2+(3-1)^2\bigr)=\frac12\cdot6\cdot(1+1+4)=18 $$
であり、一致する。$p=q=r=2$ なら左辺は $8+8+8-24=0$、右辺も 2 乗がすべて $0$ なので $0$ である。

3 数の相加相乗平均の不等式

$a,b,c$ を正の数とする。このとき
$$ \frac{a+b+c}3\ge\sqrt[3]{abc} $$
が成り立つ。等号が成り立つのは $a=b=c$ のときに限る。

3 乗根をおいて因数分解の公式を使う

方針:$a,b,c$ を 3 乗の形に書き、$a+b+c-3\sqrt[3]{abc}$ を lem-agm-cubes で「正の数 × 2 乗の和」に変形する。
段 1(3 乗根をおく)。$p:=\sqrt[3]a$、$q:=\sqrt[3]b$、$r:=\sqrt[3]c$ とおく。これらは正の数で、$p^3=a$、$q^3=b$、$r^3=c$ である。また、$pqr$ は正で $(pqr)^3=p^3q^3r^3=abc$ なので、$pqr=\sqrt[3]{abc}$ である。
段 2(差を書き直す)。段 1 より
$$ a+b+c-3\sqrt[3]{abc}=p^3+q^3+r^3-3pqr $$
であり、lem-agm-cubes の 2 つの式を続けて使うと
$$ a+b+c-3\sqrt[3]{abc}=\frac12(p+q+r)\Bigl((p-q)^2+(q-r)^2+(r-p)^2\Bigr) $$
となる。
段 3(不等式)。$p+q+r>0$ であり、2 乗の和は $0$ 以上なので、右辺は $0$ 以上である。よって $a+b+c\ge3\sqrt[3]{abc}$ であり、両辺を 3 で割って結論を得る。
段 4(等号の条件)。$p+q+r>0$ なので、段 2 の右辺が $0$ になるのは $(p-q)^2+(q-r)^2+(r-p)^2=0$ のときだけである。$0$ 以上の 3 数の和が $0$ なら 3 数とも $0$ なので、$p=q$、$q=r$ である。3 乗すると $a=b=c$ である。逆に $a=b=c$ なら $p=q=r$ で右辺は $0$ である。$\square$

$p^3+q^3+r^3-3pqr$ のような対称式を基本対称式で書き直す一般的な方法は 対称式の基本定理(高校数学) で扱う。
2 数のときと同じく、3 数でも「積が一定なら和は最小値をもち、和が一定なら積は最大値をもつ」。

直方体の体積の最大値

縦・横・高さの和が $12$ の直方体の体積の最大値を求める。縦・横・高さを $a,b,c$ とすると $a+b+c=12$ であり、thm-agm-three より $\sqrt[3]{abc}\le\frac{12}3=4$、両辺を 3 乗して $abc\le64$ である。等号は $a=b=c=4$ のときに成り立つので、最大値は $64$(1 辺 $4$ の立方体)である。
確かめ:$3\times4\times5=60$、$2\times4\times6=48$ はどちらも $64$ より小さい。

項を分けて積を一定にする

$x>0$ のとき、$x^2+\frac2x$ の最小値を求める。
2 数 $x^2$ と $\frac2x$ に thm-agm-two を使うと $x^2+\frac2x\ge2\sqrt{x^2\cdot\frac2x}=2\sqrt{2x}$ となるが、右辺が $x$ によって変わるので、最小値はわからない。積 $x^2\cdot\frac2x=2x$ が一定でないからである。
そこで $\frac2x=\frac1x+\frac1x$ と 2 つに分け、3 数 $x^2,\frac1x,\frac1x$ を考える。この 3 数の積は $x^2\cdot\frac1x\cdot\frac1x=1$ で一定である。thm-agm-three の両辺を 3 倍して
$$ x^2+\frac2x=x^2+\frac1x+\frac1x\ge3\sqrt[3]{x^2\cdot\frac1x\cdot\frac1x}=3\sqrt[3]1=3 $$
である。等号は $x^2=\frac1x$、つまり $x^3=1$ で $x=1$ のときに成り立つ。よって最小値は $3$($x=1$ のとき)である。
確かめ:$x=1$ で $1+2=3$、$x=2$ で $4+1=5$、$x=\frac12$ で $\frac14+4=4.25$。

4 つの数についても、2 数の不等式を 2 回使うと同じ形の不等式が得られる。

4 数の場合を 2 数から導く

正の数 $p,q,r,s$ について、まず $p,q$ の組と $r,s$ の組に thm-agm-two を使い、次に 2 数 $\sqrt{pq}$、$\sqrt{rs}$ に thm-agm-two を使うと
$$ \frac{p+q+r+s}4=\frac12\Bigl(\frac{p+q}2+\frac{r+s}2\Bigr)\ge\frac{\sqrt{pq}+\sqrt{rs}}2\ge\sqrt{\sqrt{pq}\sqrt{rs}}=\sqrt[4]{pqrs} $$
となる。最後の等号は $\sqrt{\sqrt{pq}\sqrt{rs}}$ を 4 乗すると $pqrs$ になることからわかる。
数値例:$1,2,4,8$ では、相加平均は $\frac{15}4=3.75$、相乗平均は $\sqrt[4]{64}=2\sqrt2=2.828\ldots$ である。
5 個以上の場合と、数ごとに重みを付けた場合は 平均の大小関係 で扱う。

例と反例

相加相乗平均の不等式を使うときに外せない条件をまとめる。

外した条件崩れることボックス
数が正であること不等式そのものex-agm-negative
等号の点が考える範囲に入ること「下界 = 最小値」ex-agm-range
積が一定であること下界が定数にならず、最小値がわからないex-agm-not-constant
反例:負の数では不等式は成り立たない

$a=-1$、$b=-4$ とする。$ab=4>0$ なので $\sqrt{ab}=2$ は計算できるが、相加平均は $\frac{-1-4}2=-\frac52$ であり、$-\frac52\ge2$ は成り立たない。prf-thm-agm-two の段 1 で使った $a=\bigl(\sqrt a\bigr)^2$ は、$a<0$ では $\sqrt a$ が実数にならないので使えない。「$a,b$ が正(または $0$)」という仮定を外すと、不等式は成り立たなくなる。

反例:等号の点が範囲外なら下界は最小値ではない

$x\ge2$ の範囲で $x+\frac1x$ の最小値を求める。
thm-agm-two から $x+\frac1x\ge2\sqrt{x\cdot\frac1x}=2$ は成り立つ。しかし等号の条件 $x=\frac1x$ は $x=1$ であり、範囲 $x\ge2$ に入らない。したがって、$x\ge2$ で $x+\frac1x=2$ となる $x$ はなく、$2$ は最小値ではない。
正しい最小値を求める。$2\le x< y$ とすると
$$ \Bigl(y+\frac1y\Bigr)-\Bigl(x+\frac1x\Bigr)=(y-x)-\frac{y-x}{xy}=(y-x)\Bigl(1-\frac1{xy}\Bigr) $$
である。$y-x>0$ であり、$xy>2\cdot2=4>1$ なので $1-\frac1{xy}>0$ である。よって右辺は正であり、$x+\frac1x$ は $x\ge2$ で増加する。したがって最小値は $x=2$ のときの $2+\frac12=\frac52$ である($x=3$ では $\frac{10}3$ で、確かに大きい)。

x≧2 では y=x+1/x は下界 y=2 に届かず、最小値は x=2 での 5/2 になる x≧2 では y=x+1/x は下界 y=2 に届かず、最小値は x=2 での 5/2 になる
図 3 のとおり、下界 $2$ に触れる点 $(1,2)$ は考える範囲の外にある。不等式 $F(x)\ge c$ が正しくても、範囲の中に等号の点がなければ、$c$ は最小値ではない。

反例:積が一定でない組に使っても最小値は出ない

$x>0$ のとき、$x+\frac1{x^2}$ の最小値を求める。
2 数 $x$、$\frac1{x^2}$ に thm-agm-two を使うと $x+\frac1{x^2}\ge2\sqrt{\frac1x}$ となる。右辺は $x$ によって変わるので、これでは最小値はわからない。たとえば $x=1$ では右辺は $2$ で、左辺も $2$ となり等号が成り立つが、$x=\frac32$ では左辺は $\frac32+\frac49=1.944\ldots$ で、$2$ より小さい。「等号が成り立つ点の値 $2$」は最小値ではない。
直し方:$x=\frac x2+\frac x2$ と分けると、3 数 $\frac x2,\frac x2,\frac1{x^2}$ の積は $\frac14$ で一定になる。thm-agm-three により
$$ x+\frac1{x^2}=\frac x2+\frac x2+\frac1{x^2}\ge3\sqrt[3]{\frac x2\cdot\frac x2\cdot\frac1{x^2}}=3\sqrt[3]{\frac14}=\frac3{\sqrt[3]4}=1.8898\ldots $$
であり、等号は $\frac x2=\frac1{x^2}$、つまり $x^3=2$ で $x=\sqrt[3]2$ のときに成り立つ。よって最小値は $\frac3{\sqrt[3]4}$ である。

さらに先へ

  • 対数で見る:$a,b>0$ のとき、thm-agm-two の両辺の自然対数をとると、対数関数 $\log$ が増加関数であることから $\frac{\log a+\log b}2\le\log\frac{a+b}2$ と同じ内容になる。これは「$y=\log x$ のグラフ上の 2 点を結ぶ線分の中点は、グラフより下にある」という、グラフの形(上に凸であること)についての主張である。この見方は 曲線の凹凸と接線 で扱う。
  • 個数と重みを増やす:$n$ 個の正の数についての $\sqrt[n]{a_1\cdots a_n}\le\frac{a_1+\cdots+a_n}n$ や、重み付きの形、調和平均・2 乗平均との大小は 平均の大小関係 で証明する。
  • 凸関数の不等式として:相加相乗平均の不等式は、凸関数についての Jensenの不等式(高校数学) の特別な場合である(BV04 §3.1.9)。

関連項目

参考文献

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