台形公式とSimpsonの公式(trapezoidal rule and Simpson's rule)とは、区間 $[a,b]$ を $n$ 等分(幅 $h$)し、分点での値から定積分を近似する公式である。台形公式 $T_n$ は各小区間を台形で、Simpson の公式 $S_n$($n$ は偶数)は 2 区間ずつ 3 点を通る放物線で近似し、値に $1:4:1$ の重みを付ける。$f''$ が連続で $\lvert f''\rvert\le M_2$ なら台形公式の誤差は $\frac{(b-a)M_2}{12}h^2$ 以下で、$f''\ge0$ なら $T_n$ は積分以上になる。Simpson の公式は 3 次以下の多項式でちょうど正しく、$S_{2m}=\frac{4T_{2m}-T_m}{3}$ が成り立ち、$f^{(4)}$ が有界なら誤差は $h^4$ に比例して減る。
前提知識: 区分求積と積分の定義, 部分積分の使い方, 積分の評価, Newton法(高校数学)
定積分は、区間を細かく分けて長方形の面積を足したものの極限である(区分求積と積分の定義)。逆に、分割を止めたところで長方形の面積の和を計算すれば、積分の近似値が得られる。では、長方形の代わりに台形を使うと、近似はどれだけ良くなるだろうか。値の分かっている積分で試してみる。
$\displaystyle\int_0^1\frac{4}{1+x^2}\,dx=\Bigl[4\arctan x\Bigr]_0^1=4\cdot\frac\pi4=\pi$ である。$f(x)=\dfrac4{1+x^2}$ とし、区間 $[0,1]$ を 4 等分する(幅 $h=\dfrac14$)。分点での値は
$$
f(0)=4,\quad f\left(\tfrac14\right)=\frac{64}{17}=3.7647\ldots,\quad f\left(\tfrac12\right)=\frac{16}5=3.2,\quad f\left(\tfrac34\right)=\frac{64}{25}=2.56,\quad f(1)=2
$$
である。
(1) 左端の高さの長方形の和は $L_4=\dfrac14\left(4+\dfrac{64}{17}+3.2+2.56\right)=3.38117\ldots$、右端の高さの長方形の和は $R_4=\dfrac14\left(\dfrac{64}{17}+3.2+2.56+2\right)=2.88117\ldots$ である。
(2) 各小区間で、両端の点を線分で結んだ台形の面積を足すと
$$
T_4=\frac14\left(\frac{4}{2}+\frac{64}{17}+3.2+2.56+\frac{2}{2}\right)=3.13117\ldots
$$
となる。台形 1 つの面積は、左右の長方形の面積の平均なので、$T_4=\dfrac{L_4+R_4}2$ である。
$\pi=3.14159\ldots$ との差(真の値 $-$ 近似値)は、$L_4$ で $-0.240$、$R_4$ で $+0.260$、$T_4$ で $+0.0104$ である。台形にするだけで、誤差はおよそ $\dfrac1{25}$ になった。
さらに、放物線で近似する Simpson の公式を使うと、同じ 5 つの値から $3.1415686\ldots$ が得られ、誤差は $2.4\times10^{-5}$ まで下がる(ex-tsr-simpson-pi)。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 長方形の面積の和 | 区分求積(誤差は $h$ に比例) | Riemann 和 |
| 台形の面積の和 | 台形公式 $T_n$(誤差は $h^2$ に比例) | 1 次式による補間の積分 |
| 3 点を通る放物線の下の面積 | Simpson の公式 $S_n$(誤差は $h^4$ に比例) | 2 次式による補間、Newton–Cotes の公式 |
| $\dfrac{4T_{2n}-T_n}3$ | 台形公式から Simpson の公式を作る | Richardson の外挿 |
同じ関数を 2 等分し、左は左端の長方形、中央は台形、右は 3 点を通る放物線で近似した図で、面積は放物線が真の値に最も近い
以下、$a< b$、$n$ を正の整数とし、区間 $[a,b]$ を $n$ 等分する。幅を $h=\dfrac{b-a}n$、分点を $x_k=a+kh$($k=0,1,\ldots,n$)、そこでの値を $y_k=f(x_k)$ と書く。
$$
T_n=h\left(\frac{y_0}2+y_1+y_2+\cdots+y_{n-1}+\frac{y_n}2\right)
$$
を、$\displaystyle\int_a^bf(x)\,dx$ の近似値として使うことを 台形公式 という。これは、小区間 $[x_{k-1},x_k]$ ごとに台形の面積 $\dfrac h2(y_{k-1}+y_k)$ を求めて足したものである(内側の $y_k$ は隣り合う 2 つの台形に 1 回ずつ現れるので係数が $1$、両端は $\dfrac12$)。
放物線で近似するために、まず「3 点を通る放物線の下の面積」を求める。
$h>0$ とする。2 次以下の多項式 $p(x)$ について、$y_0=p(c-h)$、$y_1=p(c)$、$y_2=p(c+h)$ とおくと
$$
\int_{c-h}^{c+h}p(x)\,dx=\frac h3\,(y_0+4y_1+y_2)
$$
である。
$x=c+t$ とおくと、$q(t)=p(c+t)$ も 2 次以下の多項式なので、$q(t)=At^2+Bt+C$ と書ける。置換積分により左辺は
$$
\int_{-h}^{h}(At^2+Bt+C)\,dt=\left[\frac{At^3}3+\frac{Bt^2}2+Ct\right]_{-h}^{h}=\frac{2Ah^3}3+2Ch
$$
である($Bt$ の項は $t=h$ と $t=-h$ で同じ値 $\dfrac{Bh^2}2$ になり、差が $0$)。一方
$$
y_0+4y_1+y_2=(Ah^2-Bh+C)+4C+(Ah^2+Bh+C)=2Ah^2+6C
$$
なので、$\dfrac h3(y_0+4y_1+y_2)=\dfrac{2Ah^3}3+2Ch$ で、左辺と一致する。$\square$
$n$ が偶数のとき
$$
S_n=\frac h3\bigl(y_0+4y_1+2y_2+4y_3+2y_4+\cdots+2y_{n-2}+4y_{n-1}+y_n\bigr)
$$
を、$\displaystyle\int_a^bf(x)\,dx$ の近似値として使うことを Simpson の公式 という。係数は両端が $1$、内側は奇数番目が $4$、偶数番目が $2$ である。これは、2 つずつ組にした小区間 $[x_{2j},x_{2j+2}]$ ごとに、3 点 $(x_{2j},y_{2j})$、$(x_{2j+1},y_{2j+1})$、$(x_{2j+2},y_{2j+2})$ を通る 2 次以下の多項式のグラフの下の面積 $\dfrac h3(y_{2j}+4y_{2j+1}+y_{2j+2})$(lem-tsr-parabola)を足したものである(組の境目の $y_{2j}$ は 2 つの組に現れるので係数が $2$)。
3 点を通る 2 次以下の多項式は、中点を $c$ として $t=x-c$ とおくと
$$
p(x)=y_1+\frac{y_2-y_0}{2h}\,t+\frac{y_0-2y_1+y_2}{2h^2}\,t^2
$$
で与えられる($t=-h,0,h$ を代入すると $y_0,y_1,y_2$ になる)。ただし、Simpson の公式を使うのに、この多項式を実際に求める必要はない。3 つの値に $1:4:1$ の重みを付けて足すだけでよい。
$\displaystyle\int_1^2\frac{dx}x=\log2=0.693147\ldots$ を $n=4$($h=\dfrac14$)で近似する。分点での値は $1,\ \dfrac45,\ \dfrac23,\ \dfrac47,\ \dfrac12$ である。
(1) 台形公式:
$$
T_4=\frac14\left(\frac12+\frac45+\frac23+\frac47+\frac14\right)=\frac{1171}{1680}=0.697023\ldots
$$
(2) Simpson の公式:
$$
S_4=\frac1{12}\left(1+4\cdot\frac45+2\cdot\frac23+4\cdot\frac47+\frac12\right)=\frac{1747}{2520}=0.693253\ldots
$$
誤差(真の値 $-$ 近似値)は $T_4$ で $-3.9\times10^{-3}$、$S_4$ で $-1.1\times10^{-4}$ である。
台形 1 つの誤差を、正確な等式で書くことから始める。鍵は部分積分を 2 回使うことである(部分積分の使い方)。
$h>0$ とし、$f$ は $[c,c+h]$ で 2 回微分可能で $f''$ が連続とする。このとき
$$
\int_c^{c+h}f(x)\,dx-\frac h2\bigl(f(c)+f(c+h)\bigr)=-\frac12\int_c^{c+h}(x-c)(c+h-x)\,f''(x)\,dx
$$
である。
方針:両端で $0$ になり、2 回微分すると $1$ になる 2 次式 $w(x)$ を用意し、$\displaystyle\int wf''\,dx$ を部分積分で $f$ の積分に戻す。
段 1(補助の 2 次式)。$w(x)=\dfrac12(x-c)(x-c-h)$ とおく。$w(c)=w(c+h)=0$ で、展開して微分すると
$$
w'(x)=x-c-\frac h2,\qquad w''(x)=1
$$
である。特に $w'(c)=-\dfrac h2$、$w'(c+h)=\dfrac h2$ である。
段 2(1 回目の部分積分)。$w$ を微分する側、$f''$ を積分する側にとると
$$
\int_c^{c+h}w\,f''\,dx=\Bigl[w\,f'\Bigr]_c^{c+h}-\int_c^{c+h}w'\,f'\,dx=-\int_c^{c+h}w'\,f'\,dx
$$
である($w$ は両端で $0$ なので、はじめの項は $0$)。
段 3(2 回目の部分積分)。同じく
$$
\int_c^{c+h}w'\,f'\,dx=\Bigl[w'\,f\Bigr]_c^{c+h}-\int_c^{c+h}w''\,f\,dx=\frac h2f(c+h)+\frac h2f(c)-\int_c^{c+h}f\,dx
$$
である($w''=1$ を使った)。
段 4(まとめる)。段 2 と段 3 から
$$
\int_c^{c+h}w\,f''\,dx=\int_c^{c+h}f\,dx-\frac h2\bigl(f(c)+f(c+h)\bigr)
$$
となる。$w(x)=\dfrac12(x-c)(x-c-h)=-\dfrac12(x-c)(c+h-x)$ なので、これが示す式である。$\square$
右辺の重み $(x-c)(c+h-x)$ は、区間 $[c,c+h]$ の中で $0$ 以上で、両端で $0$ になる山形の 2 次式である。$f''$ はグラフの曲がり具合を表すので、この等式は「台形の誤差は、区間の中での曲がり具合を重み付きで足したもの」と読める。$f$ が 1 次式なら $f''=0$ で、台形公式はちょうど正しい。重みの積分が $\dfrac{h^3}6$ であること(prf-tsr-trap)と合わせると、1 つの区間の誤差は区間の中のある点 $\xi$ を使って $-\dfrac{h^3}{12}f''(\xi)$ と書くこともできる(Wei26a。この記事では上界の形だけを使う)。
$f$ は $[a,b]$ で 2 回微分可能で $f''$ が連続とし、$[a,b]$ で $\lvert f''(x)\rvert\le M_2$ とする。このとき
$$
\left\lvert\int_a^bf(x)\,dx-T_n\right\rvert\le\frac{(b-a)M_2}{12}\,h^2\qquad\left(h=\frac{b-a}n\right)
$$
が成り立つ。
段 1(1 つの小区間)。lem-tsr-one を $c=x_{k-1}$ として使い、絶対値をとる。積分の絶対値は絶対値の積分以下である(積分の評価)。$(x-c)(c+h-x)\ge0$ と $\lvert f''\rvert\le M_2$ から
$$
\left\lvert\int_{x_{k-1}}^{x_k}f\,dx-\frac h2(y_{k-1}+y_k)\right\rvert\le\frac12\int_c^{c+h}(x-c)(c+h-x)\,\lvert f''(x)\rvert\,dx\le\frac{M_2}2\int_c^{c+h}(x-c)(c+h-x)\,dx
$$
である。$t=x-c$ とおくと
$$
\int_c^{c+h}(x-c)(c+h-x)\,dx=\int_0^ht(h-t)\,dt=\frac{h^3}2-\frac{h^3}3=\frac{h^3}6
$$
なので、1 つの小区間の誤差は $\dfrac{M_2}2\cdot\dfrac{h^3}6=\dfrac{M_2h^3}{12}$ 以下である。
段 2(足す)。$\displaystyle\int_a^bf\,dx-T_n$ は、段 1 の $n$ 個の誤差の和である。和の絶対値は絶対値の和以下なので、全体の誤差は
$$
n\cdot\frac{M_2h^3}{12}=\frac{(nh)M_2h^2}{12}=\frac{(b-a)M_2}{12}\,h^2
$$
以下である($nh=b-a$)。$\square$
$h$ を半分にすると上界は $\dfrac14$ になる。分割の数 $n$ を 2 倍にすると、誤差はほぼ $\dfrac14$ になると期待できる。lem-tsr-one からは誤差の符号も分かる。
thm-tsr-trap の仮定のもとで、$[a,b]$ で $f''\ge0$ なら $T_n\ge\displaystyle\int_a^bf(x)\,dx$、$f''\le0$ なら $T_n\le\displaystyle\int_a^bf(x)\,dx$ である。
lem-tsr-one の右辺で $(x-c)(c+h-x)\ge0$ なので、$f''\ge0$ なら右辺は $0$ 以下で、各小区間で積分 $\le$ 台形の面積である。$n$ 個を足せば $\displaystyle\int_a^bf\,dx\le T_n$ である。$f''\le0$ なら不等号が逆になる。$\square$
図で見ると、下に凸のグラフでは両端を結ぶ線分(弦)がグラフより上にあるので、台形は面積を多めに数える。積分で円周率を評価する の注意「台形にすると良くなる」は、上に凸な $\sqrt{1-x^2}$ で台形が小さめになることを使っている。
| $n$ | $T_n$ | 誤差 $\log2-T_n$ | 上界 $\dfrac{h^2}6$ | 前の行の誤差との比 |
|---|---|---|---|---|
| $2$ | $0.708333$ | $-1.52\times10^{-2}$ | $4.17\times10^{-2}$ | |
| $4$ | $0.697024$ | $-3.88\times10^{-3}$ | $1.04\times10^{-2}$ | $3.92$ |
| $8$ | $0.694122$ | $-9.75\times10^{-4}$ | $2.60\times10^{-3}$ | $3.98$ |
| $16$ | $0.693391$ | $-2.44\times10^{-4}$ | $6.51\times10^{-4}$ | $3.99$ |
Simpson の公式は 2 次式で近似するので、2 次以下の多項式ではちょうど正しい(lem-tsr-parabola)。ところが、実際には 1 つ上の 3 次式でもちょうど正しい。さらに、台形公式の値 2 つから計算できる。
$n$ を偶数とする。
(1) $f$ が 3 次以下の多項式なら、$S_n=\displaystyle\int_a^bf(x)\,dx$ である。
(2) どんな関数 $f$ についても、$[a,b]$ を $m$ 等分した台形公式の値 $T_m$ と $2m$ 等分した値 $T_{2m}$ から
$$
S_{2m}=\frac{4T_{2m}-T_m}{3}
$$
が成り立つ。
ex-tsr-start で $T_4=3.131176\ldots$ だった。2 等分の台形公式は $T_2=\dfrac12\left(\dfrac42+\dfrac{16}5+\dfrac22\right)=3.1$ なので、thm-tsr-simpson (2) により
$$
S_4=\frac{4\times3.131176\ldots-3.1}{3}=3.1415686\ldots
$$
である。直接 $S_4=\dfrac1{12}\left(4+4\cdot\dfrac{64}{17}+2\cdot3.2+4\cdot2.56+2\right)$ と計算しても同じ値になる。誤差は $2.4\times10^{-5}$ で、$T_4$ の誤差 $0.0104$ の約 $\dfrac1{430}$ である。
$f(x)=x^4$、$[-1,1]$、$n=2$($h=1$)とする。積分は $\displaystyle\int_{-1}^1x^4\,dx=\frac25$ で、Simpson の公式は $S_2=\dfrac13(1+4\cdot0+1)=\dfrac23$ である。差は $\dfrac25-\dfrac23=-\dfrac4{15}\ne0$ である。thm-tsr-simpson (1) は、3 次より高い多項式では成り立たない。
台形公式の thm-tsr-trap と同じように、Simpson の公式にも誤差の上界がある。
$f$ の 4 回目までの導関数が連続で、$[a,b]$ で $\lvert f^{(4)}\rvert\le M_4$ なら、$n$ が偶数のとき
$$
\left\lvert\int_a^bf(x)\,dx-S_n\right\rvert\le\frac{(b-a)M_4}{180}\,h^4
$$
が成り立つ。これは、組にした 2 つの小区間ごとの誤差(真の値 $-$ 近似値)が $-\dfrac{h^5}{90}f^{(4)}(\xi)$($\xi$ はその区間の点)と書けることから出る(Wei26b)。この記事では証明しない。ex-tsr-x4 では $f^{(4)}=24$、$b-a=2$、$h=1$ なので右辺は $\dfrac{2\cdot24}{180}=\dfrac4{15}$ で、実際の誤差と等しい。上界の定数 $\dfrac1{180}$ はこれ以上小さくできない。
$h$ を半分にすると上界は $\dfrac1{16}$ になる。ex-tsr-log2 の積分で確かめる。
$\displaystyle\int_1^2\frac{dx}x=\log2$ では $f^{(4)}(x)=\dfrac{24}{x^5}$ で、$M_4=24$、上界は $\dfrac{24}{180}h^4=\dfrac{2}{15}h^4$ である。
| $n$ | 誤差 $\log2-S_n$ | 上界 $\dfrac2{15}h^4$ | 前の行の誤差との比 |
|---|---|---|---|
| $2$ | $-1.30\times10^{-3}$ | $8.33\times10^{-3}$ | |
| $4$ | $-1.07\times10^{-4}$ | $5.21\times10^{-4}$ | $12.1$ |
| $8$ | $-7.35\times10^{-6}$ | $3.26\times10^{-5}$ | $14.5$ |
| $16$ | $-4.72\times10^{-7}$ | $2.03\times10^{-6}$ | $15.6$ |
比は $16$ に近づいていく。$n=16$ では、台形公式の誤差 $2.4\times10^{-4}$ に対して Simpson の公式は $4.7\times10^{-7}$ で、同じ 17 個の値から 500 倍ほど正確な値が得られる。
両対数のグラフで、台形公式の誤差は傾き −2、Simpson の公式の誤差は傾き −4 の直線に沿って減り、√x の台形公式の誤差は傾きがゆるい
図 2 は両対数のグラフである。誤差が $h^p$ に比例するなら、$n$ に対して傾き $-p$ の直線になる。台形公式は傾き $-2$、Simpson の公式は傾き $-4$ に近い。赤の破線は次の節の反例である。
3 つの近似をまとめる。
| 長方形(左端) | 台形公式 $T_n$ | Simpson の公式 $S_n$ | |
|---|---|---|---|
| 各区間で使う形 | 定数 | 1 次式 | 2 次式 |
| ちょうど正しい多項式 | 0 次 | 1 次以下 | 3 次以下 |
| 誤差の上界 | $h$ に比例 | $h^2$ に比例 | $h^4$ に比例 |
| $n$ を 2 倍にすると誤差は | 約 $\dfrac12$ | 約 $\dfrac14$ | 約 $\dfrac1{16}$ |
| 使う条件 | $n$ が偶数 |
長方形の誤差が $h$ に比例することは、単調な関数については 積分の評価 の系「単調関数の区分求積の誤差」にある。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $f''$ が $[a,b]$ で連続(有界) | $\displaystyle\int_0^1\sqrt x\,dx$ の台形公式 | 誤差が $h^2$ に比例して減る |
| $f$ が 3 次以下の多項式 | $\displaystyle\int_{-1}^1x^4\,dx$ の Simpson の公式 | Simpson の公式がちょうど正しい(ex-tsr-x4) |
| $n$ が偶数 | $n=3$ の Simpson の公式 | 公式そのものが作れない |
$f(x)=\sqrt x$ の $[0,1]$ での積分は $\dfrac23$ である。$f''(x)=-\dfrac14x^{-3/2}$ は $x\to+0$ で限りなく大きくなるので、$\lvert f''\rvert\le M_2$ となる $M_2$ はなく、thm-tsr-trap は使えない。台形公式の誤差を計算すると次のようになる。
| $n$ | 誤差 $\dfrac23-T_n$ | 前の行の誤差との比 |
|---|---|---|
| $4$ | $2.34\times10^{-2}$ | |
| $8$ | $8.54\times10^{-3}$ | $2.74$ |
| $16$ | $3.09\times10^{-3}$ | $2.77$ |
| $32$ | $1.11\times10^{-3}$ | $2.79$ |
| $64$ | $3.96\times10^{-4}$ | $2.80$ |
$n$ を 2 倍にしても、誤差は $\dfrac14$ ではなく、約 $\dfrac1{2.8}$ にしかならない(数値計算)。$2^{3/2}=2.828\ldots$ なので、誤差はおよそ $h^{3/2}$ に比例していると考えられる(この記事では証明しない)。誤差の大部分は、グラフが縦に立っている $x=0$ の近くの最初の小区間から来る。Simpson の公式でも $n=64$ の誤差は $1.6\times10^{-4}$ で、台形公式と同じ程度にしか良くならない。$\sqrt x=t$ と置換して $\displaystyle\int_0^12t^2\,dt$ にすると、被積分関数は多項式になり、Simpson の公式はちょうど正しい値を与える。
Simpson の公式は小区間を 2 つずつ組にするので、$n=3$ では 1 つ余る。$[0,3]$ を 3 等分して $1:4:1$ の重みを当てようとしても、3 つ目の小区間 $[2,3]$ に対応する 3 点がない。奇数個の区間には、余った区間だけ別の公式(台形公式など)を使うか、4 点を通る 3 次式を使う公式を用いる。
台形公式は、いつも Simpson の公式より劣るわけではない。
$\displaystyle\int_0^{2\pi}e^{\cos x}\,dx=7.954926521\ldots$ を台形公式で近似する(この値は数値計算による)。
| $n$ | 台形公式の誤差 | Simpson の公式の誤差 |
|---|---|---|
| $4$ | $-3.4\times10^{-2}$ | $5.3\times10^{-1}$ |
| $8$ | $-1.3\times10^{-6}$ | $1.1\times10^{-2}$ |
| $16$ | $-9.3\times10^{-18}$ | $4.2\times10^{-7}$ |
$n=16$ の台形公式の誤差は、倍精度の計算機で計算すると丸め誤差($10^{-15}$ 程度)に埋もれてしまうほど小さい。同じ点を使う Simpson の公式よりはるかに良い。周期 $2\pi$ の関数では、左端と右端の値が等しく、端での導関数もすべて等しい。台形公式の誤差の主な部分は端での導関数の差で決まるので(rem-tsr-em)、それがすべて打ち消し合う。この記事では、この高い精度の証明はしない。
e の cos x 乗のグラフを 0 から 2π まで 8 つの台形で近似した図で、台形の上の辺はグラフに近い
thm-tsr-simpson (2) の後で、「台形公式の誤差がほぼ $Ch^2$」と仮定して Simpson の公式を読んだ。この仮定は、次のように精密にできる。
$f$ が十分なめらかなら
$$
T_n-\int_a^bf(x)\,dx=\frac{h^2}{12}\bigl(f'(b)-f'(a)\bigr)-\frac{h^4}{720}\bigl(f'''(b)-f'''(a)\bigr)+\cdots
$$
という展開がある(Euler–Maclaurin の公式)。刻み $1$ の場合の 1 次・2 次の公式と証明は Euler–Maclaurinの公式(高校数学) にある。この記事では一般の $h$ での証明はしない。
$\displaystyle\int_1^2\frac{dx}x$ では $f'(x)=-\dfrac1{x^2}$ なので $f'(2)-f'(1)=\dfrac34$ で、第 1 項は $\dfrac{h^2}{16}$ である。$n=4$ では $\dfrac1{256}=0.00391$ で、実際の $T_4-\log2=0.00388$ とほぼ一致する。$\displaystyle\int_0^1\frac4{1+x^2}dx$ では $f'(0)=0$、$f'(1)=-2$ なので第 1 項は $-\dfrac{h^2}6$ で、$n=4$ では $-\dfrac1{96}=-0.01042$ となり、実際の $T_4-\pi=-0.01042$ と一致する。この関数では $f'''(0)=f'''(1)=0$ で第 2 項が消えるので、Simpson の公式の誤差は $h^4$ よりさらに速く、$n$ を 2 倍にするごとに約 $\dfrac1{64}$ になる(数値計算で $n=16,32,64$ の比が $63.9$、$64.0$、$64.0$)。
展開の $h^2$ の項を消したのが Simpson の公式 $\dfrac{4T_{2m}-T_m}3$ である。同じ考えで、Simpson の公式の値 2 つを $\dfrac{16S_{2m}-S_m}{15}$ と組み合わせると $h^4$ の項も消える。これをくり返す方法を Romberg 積分、誤差の展開を使って項を消す考え方を Richardson の外挿 という。周期関数では端での導関数の差がすべて $0$ なので、展開のどの項も消え、ex-tsr-periodic のように台形公式が非常に正確になる。
ex-tsr-start のように $\pi$ の近似を求めるときも、$n$ を大きくするより、公式の次数を上げるか外挿を使う方が、少ない計算で精度が上がる。
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