定規だけの作図(straightedge-only construction)とは、目盛りのない定規で、2 点を通る直線を引くことと 2 直線の交点をとることだけを使う作図である(途中で勝手な点をとってよいが、得られる点は選び方によらないものとする)。2 点 $A$、$B$ だけが与えられたとき、線分 $AB$ の中点は定規だけでは作図できない。$A$、$B$ を動かさずに中点を動かし、直線を直線に移す変換(射影変換)で作図の実行を丸ごと移すと、同じ手順の結果が中点でなくなるからである。一方、$AB$ に平行な直線が 1 本与えられていれば、台形の脚の延長の交点と対角線の交点を結ぶ直線が平行な 2 辺の中点を通ることから、中点が作図できる。逆に中点が与えられていれば、どの点を通る $AB$ の平行線も作図できる。
前提知識: 定規とコンパスによる作図, 相似変換と相似の中心, 射影変換と複比
中学・高校の作図では定規とコンパスを使う。線分の中点は、両端を中心とする 2 つの円の交点を結べば作れる(定規とコンパスによる作図)。では、コンパスを使わず、定規だけで線分 $AB$ の中点を作れるだろうか。ここで定規は、2 点を通る直線を引くだけの道具で、目盛りは使わない。
実は、$AB$ に平行な直線が 1 本描かれていれば、定規だけで中点が作れる。まず数で確かめる。
$A(-1,0)$、$B(1,0)$ とし、$AB$ に平行な直線 $\ell\colon y=2$ が描かれているとする。
(1) $AB$ と $\ell$ の上にない点として $P(1,4)$ をとる。直線 $PA$ は $(-1,0)$ と $(1,4)$ を通るので $y=2x+2$ で、$\ell$ と $C(0,2)$ で交わる。直線 $PB$ は $x=1$ で、$\ell$ と $D(1,2)$ で交わる。
(2) 直線 $AD$ は $(-1,0)$ と $(1,2)$ を通るので $y=x+1$、直線 $BC$ は $(1,0)$ と $(0,2)$ を通るので $y=-2x+2$ である。連立すると $x+1=-2x+2$ より $x=\dfrac13$、$y=\dfrac43$ で、交点は $Q\left(\dfrac13,\dfrac43\right)$ である。
(3) 直線 $PQ$ の傾きは $\dfrac{4-\frac43}{1-\frac13}=\dfrac{\frac83}{\frac23}=4$ なので、$PQ$ は $y-4=4(x-1)$、つまり $y=4x$ である。直線 $AB$($y=0$)との交点は $M(0,0)$ で、これは $AB$ の中点である。
使ったのは「2 点を通る直線を引く」と「2 直線の交点をとる」だけである。
同じ手順を、$AB$ に平行でない直線で行うとどうなるか。
ex-sto-start と同じ $A(-1,0)$、$B(1,0)$ に対し、直線 $\ell'$ を 2 点 $C'\left(\dfrac35,2\right)$、$D'\left(1,\dfrac54\right)$ を通る直線とし、$P'\left(1,\dfrac52\right)$ をとる。$C'$ は直線 $P'A$ の上、$D'$ は直線 $P'B$ の上にある($P'A$ は傾き $\dfrac54$ の直線 $y=\dfrac54(x+1)$ で、$x=\dfrac35$ のとき $y=2$。$P'B$ は $x=1$)。
(1) 直線 $AD'$ は傾き $\dfrac{5/4}{2}=\dfrac58$ で $y=\dfrac58(x+1)$、直線 $BC'$ は傾き $\dfrac{2}{\frac35-1}=-5$ で $y=-5(x-1)$ である。連立すると $\dfrac58(x+1)=-5x+5$、両辺を $8$ 倍して $5x+5=-40x+40$、$x=\dfrac79$、$y=\dfrac{10}9$ で、交点は $Q'\left(\dfrac79,\dfrac{10}9\right)$ である。
(2) 直線 $P'Q'$ の傾きは $\dfrac{\frac52-\frac{10}9}{1-\frac79}=\dfrac{\frac{25}{18}}{\frac29}=\dfrac{25}4$ で、$y=0$ とすると $x=1-\dfrac52\cdot\dfrac4{25}=\dfrac35$ である。$P'Q'$ と $AB$ の交点は $\left(\dfrac35,0\right)$ で、中点 $(0,0)$ ではない。
(3) 直線 $\ell'$ の傾きは $\dfrac{\frac54-2}{1-\frac35}=-\dfrac{15}8$ で、$AB$ に平行でない。
AB に平行な直線を使うと、P と対角線の交点 Q を結ぶ直線が AB の中点 M を通る
同じ手順を AB に平行でない直線で行うと、P′Q′ は AB を中点でない点 (3/5, 0) で切る
ex-sto-fail の点は、ex-sto-start の点を後で述べる変換 $T$ で移したものである。定規だけの作図は「どの点とどの点を結ぶか」だけで決まるので、直線を直線に移す変換で図を移すと、作図の結果も同じ変換で移る。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 2 点を通る直線、2 直線の交点 | 定規だけの作図 | 射影平面の結合の操作 |
| 分数の式 $\left(\dfrac{x+t}{1+tx},\ \dfrac{y}{1+tx}\right)$ | 直線を直線に移す変換 $T$ | 射影変換 |
| 平行線と中点 | 台形の補題 | 無限遠点と中点は調和共役 |
| 交点の座標は連立 1 次方程式の解 | 四則だけで座標が決まる | 座標の体は大きくならない |
平面の上に、いくつかの点と直線が与えられているとする。これらを「作図済み」とし、次の操作を有限回行う。
(R1) 作図済みの相異なる 2 点を通る直線を引く。
(R1) 作図済みの相異なる 2 直線が交わるとき、その交点をとる。
(R1) 勝手な点をとる。平面の上のどこでもよく、または作図済みの 1 本の直線の上にとってもよい。とる点が、作図済みのいくつかの点と異なり、作図済みのいくつかの直線の上にないという条件を付けてもよい。
これらの操作を並べた列を 作図の手順 という。操作 (iii) でとる点の選び方を決めて手順を最後まで行えたとき、それを手順の 実行 という(操作 (i) で 2 点が一致したり、操作 (ii) で 2 直線が一致したり平行になったりすると、そこで実行できない)。点 $X$ が 定規だけで作図できる とは、実行できる選び方が少なくとも 1 つあり、実行できるどの選び方でも最後に得られる点が $X$ になる手順があることをいう。直線についても同じように、実行できるどの選び方でも最後に同じ直線が引かれる手順があるとき、その直線は定規だけで作図できるという。
操作 (iii) は、中学・高校の作図で「直線の上に点をとり」「適当な点 $P$ をとり」と書くのと同じである。答えが選び方によらないことを求めるのは、偶然うまくいった選び方を作図とは呼ばないためである。定規とコンパスによる作図 のルールとの違いは、円を描く操作がないことと、勝手な点を使ってよいことである。
鍵になるのは、直線を直線に移し、$A$ と $B$ を動かさないが、中点を動かす変換である。
$0< t<1$ とし、$1+tx\ne0$ となる点 $(x,y)$(直線 $x=-\dfrac1t$ の上にない点)に対して
$$
T(x,y)=\left(\frac{x+t}{1+tx},\ \frac{y}{1+tx}\right)
$$
と定める。このとき次が成り立つ。
(R1) $T(-1,0)=(-1,0)$、$T(1,0)=(1,0)$、$T(0,0)=(t,0)$ である。
(R1) $T$ は、直線 $x=-\dfrac1t$ の上にない点の全体から、直線 $X=\dfrac1t$ の上にない点の全体への 1 対 1 の対応で、逆の対応は $(X,Y)\mapsto\left(\dfrac{X-t}{1-tX},\ \dfrac{(1-t^2)Y}{1-tX}\right)$ である。
(R1) 1 本の直線 $\ell$ の上の点($T$ が定まるもの)を $T$ で移した点は、ある 1 本の直線 $\ell'$ の上にあり、逆に $\ell'$ の上の点(直線 $X=\dfrac1t$ の上にないもの)はどれも $\ell$ の上の点の像である。この $\ell'$ を $T(\ell)$ と書く。$T(\ell_1)=T(\ell_2)$ なら $\ell_1=\ell_2$ である。
要点:条件 (i) は代入するだけである。条件 (ii)・(iii) は、逆の対応を求め、直線の式 $ax+by+c=0$ に代入して分母を払うと、$X$、$Y$ の 1 次式になることから分かる。
段 1(条件 (i))。$T(-1,0)=\left(\dfrac{-1+t}{1-t},0\right)=(-1,0)$、$T(1,0)=\left(\dfrac{1+t}{1+t},0\right)=(1,0)$、$T(0,0)=(t,0)$ である。
段 2(条件 (ii))。$X=\dfrac{x+t}{1+tx}$ を $x$ について解く。$X(1+tx)=x+t$ より $x(tX-1)=t-X$、$x=\dfrac{X-t}{1-tX}$ である($1-tX=0$ となるのは、$X(1+tx)=x+t$ で $X=\dfrac1t$ とおくと $1+tx=tx+t^2$、$t^2=1$ となって $0< t<1$ に反するので、像は直線 $X=\dfrac1t$ の上にない)。このとき $1+tx=1+\dfrac{tX-t^2}{1-tX}=\dfrac{1-t^2}{1-tX}$ なので、$y=Y(1+tx)=\dfrac{(1-t^2)Y}{1-tX}$ である。逆に、$X\ne\dfrac1t$ の点 $(X,Y)$ からこの式で $(x,y)$ を作ると $1+tx=\dfrac{1-t^2}{1-tX}\ne0$ で、$T(x,y)=(X,Y)$ になる。よって $T$ は 1 対 1 の対応で、逆の対応は上の式である。
段 3(条件 (iii))。$\ell$ を $ax+by+c=0$($a$、$b$ の少なくとも一方は $0$ でない)とする。$(x,y)$ が $\ell$ の上にあり $T(x,y)=(X,Y)$ なら、段 2 の式を代入して $1-tX$ を掛けると$$a(X-t)+b(1-t^2)Y+c(1-tX)=0,\quad\text{つまり}\quad (a-ct)X+b(1-t^2)Y+(c-at)=0$$である。係数がすべて $0$ だとすると $b=0$、$a=ct$、$c=at$ で、$a=at^2$ から $a=0$、$c=0$ となり、$a$、$b$ の一方が $0$ でないことに反する。よってこれは直線 $\ell'$ の式である。計算を逆にたどると、$\ell'$ の上の点で $X\ne\dfrac1t$ のものは、$\ell$ の上の点の像である。最後に、$T(\ell_1)=T(\ell_2)$ なら、この直線の上の($X=\dfrac1t$ でない)無数の点の逆の像が $\ell_1$ と $\ell_2$ の両方にあるので、$\ell_1$ と $\ell_2$ は無数の共有点をもち、一致する。$\square$
相異なる 2 点 $A$、$B$ と直線 $AB$ だけが与えられているとき、線分 $AB$ の中点は定規だけで作図できない。つまり、def-sto-rule の操作 (i)〜(iii) の手順で、実行できるどの選び方でも $AB$ の中点を与えるものはない。
方針:中点を与える手順があったとして、うまくいった実行を lem-sto-proj の $T$ で丸ごと移す。移した実行も同じ手順の実行になっているのに、結果は中点でない点になる。
段 1(座標と、うまくいった実行)。長さの単位と座標を選び、$A(-1,0)$、$B(1,0)$ とする。中点は $O(0,0)$ である。中点を与える手順があったとして、その実行を 1 つとる。実行の中に現れる点(与えられた点、操作 (iii) でとった点、交点)は有限個なので、それらを $P_1,\dots,P_N$ とする。
段 2($t$ を選ぶ)。$P_1,\dots,P_N$ の $x$ 座標の絶対値の最大値を $K$ とし、$0< t<1$ かつ $tK<1$ となる $t$ をとる。すると各 $P_i=(x_i,y_i)$ について $1+tx_i\ge1-tK>0$ なので、$T(P_i)$ が定まる。
段 3(移した実行)。同じ手順を、操作 (iii) でとる点をもとの点の $T$ による像に変えて行う。手順の 1 段ごとに、「得られる点はもとの実行の点の $T$ による像で、引かれる直線はもとの直線の $T$ による像である」ことを、段の順に確かめる。はじめに与えられた点 $A$、$B$ は lem-sto-proj の条件 (i) で動かず、直線 $AB$($y=0$)の像は $Y=0$、つまり直線 $AB$ である。
段 3 で確かめたことを図式で書くと、次のようになる。
$$
\xymatrix{
\text{もとの選び方} \ar[r]^{\text{手順}} \ar[d]_{T} & \text{もとの結果 } O \ar[d]^{T} \\
\text{移した選び方} \ar[r]_{\text{手順}} & \text{移した結果 } T(O)
}
$$
この図式が可換であるとは、「選び方を $T$ で移してから手順を行った結果」と「手順を行ってから結果を $T$ で移したもの」が等しいということである。式で書けば、$(\text{移した選び方での結果})=T(\text{もとの結果})$ である。中点は $T$ で動くが、$A$、$B$ は動かないので、中点は「$A$ と $B$ から手順で決まる点」にはなれない。
$t=\dfrac35$ とすると、分母と分子に $5$ を掛けて
$$
T(x,y)=\left(\frac{5x+3}{3x+5},\ \frac{5y}{3x+5}\right)
$$
である(直線 $x=-\dfrac53$ の上では定まらない)。ex-sto-start の実行の点を移すと、次のようになる。
| もとの点 | 計算 | 像 |
|---|---|---|
| $A(-1,0)$、$B(1,0)$ | lem-sto-proj の条件 (i) | $A$、$B$(動かない) |
| $P(1,4)$ | $\left(\frac{8}{8},\frac{20}{8}\right)$ | $\left(1,\frac52\right)$ |
| $C(0,2)$ | $\left(\frac35,\frac{10}{5}\right)$ | $\left(\frac35,2\right)$ |
| $D(1,2)$ | $\left(\frac88,\frac{10}8\right)$ | $\left(1,\frac54\right)$ |
| $Q\left(\frac13,\frac43\right)$ | $\left(\frac{14/3}{6},\frac{20/3}{6}\right)$ | $\left(\frac79,\frac{10}9\right)$ |
| $M(0,0)$ | $\left(\frac35,0\right)$ | $\left(\frac35,0\right)$ |
像は ex-sto-fail の $P'$、$C'$、$D'$、$Q'$ と、結果の点 $\left(\dfrac35,0\right)$ である。ex-sto-fail で直接計算した結果と一致している。直線 $\ell\colon y=2$ の像は $C'$、$D'$ を通る直線 $\ell'$ で、$AB$ と $\left(\dfrac53,0\right)$ で交わる。平行だった 2 直線が、$T$ で移すと交わる直線になる。
$A$、$B$ のほかに点 $C_1,\dots,C_k$ も与えられている場合、thm-sto-no-midpoint の証明は $C_1,\dots,C_k$ も $T$ で動かすので、そのままでは使えない。実際、$C_1$、$C_2$ が $AB$ に平行な直線の上にあれば、ex-sto-start のように中点が作れる。証明から分かるのは、「$C_1,\dots,C_k$ がどこにあっても、実行できれば中点を与える手順」はないということである。$C_1,\dots,C_k$ を $T(C_1),\dots,T(C_k)$ に置きかえた図形に同じ手順を行うと、結果は中点でない $(t,0)$ になるからである。
ex-sto-start の作図がいつも中点を与える理由は、次の補題にある。台形の 2 本の脚の延長の交点と、2 本の対角線の交点を結ぶ直線は、平行な 2 辺の中点を通る。
直線 $AB$ と直線 $\ell$ が平行で異なるとし、$\ell$ の上に相異なる 2 点 $C$、$D$ をとる。直線 $AC$ と直線 $BD$ が点 $P$ で交わり、直線 $AD$ と直線 $BC$ が点 $Q$ で交わるとする。線分 $AB$、$CD$ の中点を $M$、$N$ とすると、4 点 $P$、$Q$、$M$、$N$ は 1 本の直線の上にある。
方針:$P$ を中心とする相似変換(拡大・縮小)は $A$、$B$ を $C$、$D$ に移し、$Q$ を中心とする相似変換は $A$、$B$ を $D$、$C$ に移す(相似変換と相似の中心)。どちらも中点 $M$ を中点 $N$ に移すので、$P$、$M$、$N$ と $Q$、$M$、$N$ がそれぞれ一直線に並ぶ。点を位置ベクトルで表し、同じ文字で書く。
段 1($P$ を中心とする相似変換)。$C$ は直線 $PA$ の上にあり $P$ と異なる($P=C$ なら $P$ は直線 $BD$ と $\ell$ の上にあり、$BD$ と $\ell$ の交点は $D$ だけなので $C=D$ となる)ので、$C-P=k(A-P)$ となる数 $k\ne0$ がある。$h(X)=P+k(X-P)$ とおく。$h(A)=C$ である。$h(B)=P+k(B-P)$ は直線 $PB$ の上にあり、
$$
h(B)-C=k(B-P)-k(A-P)=k(B-A)
$$
なので、$C$ を通り $AB$ に平行な直線、つまり $\ell$ の上にある。直線 $PB$ と $\ell$ の交点は $D$ だけなので、$h(B)=D$ である。
段 2(中点を移す)。$M=\dfrac{A+B}2$ なので
$$
h(M)=P+k\left(\frac{A+B}2-P\right)=\frac{\bigl(P+k(A-P)\bigr)+\bigl(P+k(B-P)\bigr)}2=\frac{C+D}2=N
$$
である。よって $N-P=k(M-P)$ で、$P$、$M$、$N$ は一直線に並ぶ。
段 3($Q$ を中心とする相似変換)。$D$ は直線 $QA$ の上にあり $Q$ と異なる($Q=D$ なら $D$ は直線 $BC$ と $\ell$ の交点、つまり $C$ に等しくなる)ので、$D-Q=k'(A-Q)$ となる数 $k'\ne0$ がある。段 1 と同じ計算で、$h'(X)=Q+k'(X-Q)$ は $A$ を $D$ に、$B$ を「直線 $QB$ の上で $\ell$ の上にある点」つまり $C$ に移す。段 2 と同じ計算で $h'(M)=\dfrac{D+C}2=N$ となり、$Q$、$M$、$N$ は一直線に並ぶ。
段 4(まとめ)。$M$ は直線 $AB$ の上、$N$ は $\ell$ の上にあり、2 直線は平行で異なるので $M\ne N$ である。段 2 と段 3 から、$P$ と $Q$ はどちらも直線 $MN$ の上にある。$\square$
段 1(条件 (i) の手順)。ex-sto-rule の (3) の手順をとる。勝手な点 $P$ を、直線 $AB$ と $\ell$ の上にないようにとる。直線 $PA$、$PB$ は $AB$ に平行でない($A$ や $B$ で $AB$ と交わるから)ので、$\ell$ と交わる。その交点を $C$、$D$ とする。$PA$ と $PB$ は相異なり、共有点は $P$ だけで、$P$ は $\ell$ の上にないので、$C\ne D$ である。直線 $AD$ と $BC$ の交点 $Q$、直線 $PQ$ と $AB$ の交点 $M$ をとる。
段 2(条件 (i) の結果)。手順が実行できたとする。$P$ は直線 $AC$($=PA$)と $BD$($=PB$)の交点、$Q$ は $AD$ と $BC$ の交点なので、lem-sto-trapezoid により $P$、$Q$ は $AB$ の中点と $CD$ の中点を結ぶ直線の上にある。$P\ne Q$ なので(直線 $PQ$ を引けたことからそうなっている)、直線 $PQ$ はその直線そのもので、$AB$ と $AB$ の中点で交わる。よって得られる $M$ は、実行できるどの $P$ でも $AB$ の中点である。実行できる $P$ があることも確かめる。$P\ne Q$ はいつも成り立つ($Q=P$ なら $P$ は直線 $AC$ と $AD$ の両方の上にあり、この 2 直線の共有点は $A$ だけなので $P=A$ となるが、$P$ は直線 $AB$ の上にない)。手順が止まるのは直線 $AD$ と $BC$ が平行なときだけで、そのときは $AB\parallel CD$ と合わせて四角形 $ABCD$ が平行四辺形になり、$P$ はその対角線 $AC$、$BD$ の交点、つまり $AB$ と $\ell$ のちょうど真ん中の平行線の上の点である。よって、この平行線の上にない $P$ を選べば実行できる。
段 3(条件 (ii) の手順)。$R$ が直線 $AB$ の上にないとする。直線 $AR$ を引き、その上に $A$、$R$ と異なる勝手な点 $P$ をとる。直線 $PM$ と直線 $BR$ の交点 $Q$、直線 $AQ$ と直線 $PB$ の交点 $S$ をとり、直線 $RS$ を引く。
段 4(条件 (ii) の結果)。手順が実行できたとする。$P$ は直線 $AB$ の上にない(直線 $AR$ と $AB$ の共有点は $A$ だけ)ので、直線 $PB$ は $AB$ に平行でない。$R$ を通り $AB$ に平行な直線 $\ell$ は、$PB$ と 1 点 $S'$ で交わる。$\ell$ の上の 2 点 $R$、$S'$ について、直線 $AR$ と $BS'$ の交点は $P$ である。直線 $AS'$ と $BR$ の交点を $Q'$ とすると、lem-sto-trapezoid により $Q'$ は直線 $PM$ の上にある。$Q'$ は直線 $BR$ の上にもあるので、$Q'$ は $PM$ と $BR$ の交点、つまり $Q$ である。すると $S'$ は直線 $AQ$($=AQ'$)と直線 $PB$ の上にあるので、$S'=S$ である。よって直線 $RS$ は $\ell$ で、$AB$ に平行である。実行できる $P$ があることも確かめる。$P$ が線分 $AR$ の中点でなければ、直線 $AS'$ と $BR$ は平行でない(平行なら $AB\parallel RS'$ と合わせて四角形 $ABRS'$ は平行四辺形で、その対角線 $AR$ と $BS'$ の交点 $P$ は $AR$ の中点になる)。すると $Q'$ があり、直線 $PM$ と $BR$ は相異なる($P$ は $BR$ の上にない)ので交点は $Q'$ で、上の議論で $Q'=Q$、$S'=S$ となって手順は最後まで実行できる。$\square$
段 2 で、ex-sto-fail のように $\ell$ が $AB$ に平行でないと、台形の補題が使えず、結果は中点にならない。一方、thm-sto-parallel の条件 (i) は勝手な点 $P$ の選び方によらない。実行できないのは、直線 $AD$ と $BC$ が平行になるとき、つまり $AB$ と $\ell$ のちょうど真ん中の平行線の上に $P$ をとったときだけである(段 2)。
$A(-1,0)$、$M(0,0)$、$B(1,0)$ と、点 $R\left(-\dfrac12,2\right)$ をとる。
(1) 直線 $AR$ の上に $P=A+\dfrac32(R-A)=\left(-\dfrac14,3\right)$ をとる。直線 $PM$ は $(0,0)$ と $\left(-\dfrac14,3\right)$ を通るので $y=-12x$、直線 $BR$ は $(1,0)$ と $\left(-\dfrac12,2\right)$ を通るので $y=-\dfrac43(x-1)$ である。連立すると $-12x=-\dfrac43x+\dfrac43$、$-\dfrac{32}3x=\dfrac43$ より $x=-\dfrac18$、$y=\dfrac32$ で、$Q\left(-\dfrac18,\dfrac32\right)$ である。
(2) 直線 $AQ$ は傾き $\dfrac{3/2}{7/8}=\dfrac{12}7$ で $y=\dfrac{12}7(x+1)$、直線 $PB$ は傾き $\dfrac{-3}{5/4}=-\dfrac{12}5$ で $y=-\dfrac{12}5(x-1)$ である。連立すると $\dfrac{x+1}7=-\dfrac{x-1}5$、$5x+5=-7x+7$ より $x=\dfrac16$、$y=\dfrac{12}7\cdot\dfrac76=2$ で、$S\left(\dfrac16,2\right)$ である。
(3) $R$ と $S$ の $y$ 座標はどちらも $2$ なので、直線 $RS$ は $y=2$ で、$AB$ に平行である。
中点 M を使い、R を通る AB の平行線を定規だけで引く。P は直線 AR の上の点、Q は PM と BR の交点、S は AQ と PB の交点で、RS は AB に平行になる
lem-sto-trapezoid は、完全四角形による調和共役点の作図(調和点列)の特別な場合である。直線 $AB$ の上で、$M$ と、$AB$ に平行な方向の「無限遠の点」が、$A$、$B$ について調和共役になっている。ex-sto-image で見たように、$T$ は平行な直線 $\ell$ を $AB$ と $\left(\dfrac53,0\right)$ で交わる直線に移し、中点 $(0,0)$ を $\left(\dfrac35,0\right)$ に移す。$\left(\dfrac35,0\right)$ と $\left(\dfrac53,0\right)$ は $A(-1,0)$、$B(1,0)$ について調和共役である($\dfrac35\cdot\dfrac53=1$)。調和共役の関係は射影変換で保たれるが、「片方が無限遠にある」ことは射影変換で保たれない。これが、平行線がないと中点が作れない理由である。
| 道具 | 与えられるもの | 作図できる点 | 記事 |
|---|---|---|---|
| 定規とコンパス | 2 点 | 座標が四則と平方根で書ける点 | 定規とコンパスによる作図 |
| コンパスだけ | 2 点 | 定規とコンパスと同じ | Mohr–Mascheroniの定理 |
| 定規だけ | 2 点 $A$、$B$ | 中点さえ作れない | thm-sto-no-midpoint |
| 定規だけ | $A$、$B$ と $AB$ の平行線 | $AB$ の中点 | thm-sto-parallel |
| 定規だけ | $A$、$B$ と中点 $M$ | $AB$ の平行線 | thm-sto-parallel |
| 定規と 1 つの円 | 描かれた円とその中心 | 定規とコンパスと同じ | Poncelet–Steinerの定理 |
定規だけの作図で失われるのは、長さを比べる力である。コンパスは「中心から等しい距離」の点を描くので長さを写せるが、定規は点を結んで交わらせるだけなので、lem-sto-proj のように長さの比を変える変換で図を移しても、作図の手順は同じように進む。
平行な 2 直線にも交点があると考え、各方向に 1 つずつ「無限遠の点」を付け加え、それらを全部集めて 1 本の「無限遠直線」とした平面を 射影平面 という(射影空間)。射影平面では、相異なる 2 直線はいつもちょうど 1 点で交わる。lem-sto-proj の $T$ は、直線 $x=-\dfrac1t$ を無限遠直線に移す 射影変換 で、射影変換と複比 で扱う変換の 1 つである。定規だけの作図は、射影変換で移しても同じ手順で進む。だから定規だけで作図できる点は、与えられた図形との関係が射影変換で保たれるものに限られる。中点は、無限遠の点との調和共役として決まるので(rem-sto-harmonic)、無限遠直線が分からなければ作れない。
定規だけの作図では、座標に平方根が現れない。四則で閉じた数の集まり $F$(たとえば有理数の全体 $\mathbb{Q}$)をとり、与えられた点の座標がすべて $F$ に入るとする。操作 (iii) を使わない手順では、得られる点の座標もすべて $F$ に入る。
理由:座標が $F$ に入る 2 点 $(x_1,y_1)$、$(x_2,y_2)$ を通る直線は $(y_2-y_1)(x-x_1)-(x_2-x_1)(y-y_1)=0$ で、係数は $F$ に入る。係数が $F$ に入る 2 直線 $ax+by=e$、$cx+dy=f$ が交わるとき($ad-bc\ne0$)、交点は $x=\dfrac{ed-bf}{ad-bc}$、$y=\dfrac{af-ce}{ad-bc}$ で、$F$ の数の四則で書ける。手順の段の順に、これをくり返せばよい。
たとえば $(0,0)$、$(1,0)$、$(0,1)$、$(1,1)$ から操作 (iii) を使わずに定規だけで作れる点の座標は、すべて有理数である。したがって、操作 (iii) を使わない手順では $(\sqrt2,0)$ は得られない。一方、定規とコンパスによる作図 では円と直線の交点で 2 次方程式を解くので、平方根が現れる。Poncelet–Steinerの定理 は、描かれた円 1 つとその中心があれば、定規だけでも平方根が作れることを示す。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $AB$ に平行な直線が与えられている | 2 点 $A$、$B$ だけ(thm-sto-no-midpoint) | 中点が定規だけで作図できる |
| 与えられた直線が $AB$ に平行 | ex-sto-fail の直線 $\ell'$ | 同じ手順の結果が中点になる |
| 定規に目盛りがない | 目盛り付きの定規(ex-sto-cx-ruler) | 2 点だけからは中点が作れない |
| 勝手な点をとってよい | 操作 (iii) を使わない(ex-sto-rule の (1)) | 点を増やせる |
| 勝手な点のとり方 | $P$ を $AB$ と $\ell$ の真ん中の平行線の上にとる(ex-sto-cx-mid) | 手順が実行できる |
定規に目盛りがあれば、線分 $AB$ の長さを読みとり(たとえば $6.4$ cm)、$A$ から $3.2$ cm の所に印を付けて中点が得られる。これは「長さを測って写す」という、def-sto-rule にない操作を使っている。満たす性質:定規で直線を引く。満たさない性質:定規では長さを測らない。破る含意:thm-sto-no-midpoint「2 点だけからは中点が作図できない」。この記事の定規は、目盛りのない定規(straightedge)である。
ex-sto-start の $A(-1,0)$、$B(1,0)$、$\ell\colon y=2$ で、勝手な点を $P(1,1)$(直線 $y=1$ の上)にとる。直線 $PA$ は $y=\dfrac12(x+1)$ で $\ell$ と $C(3,2)$ で交わり、直線 $PB$ は $x=1$ で $\ell$ と $D(1,2)$ で交わる。直線 $AD$ の傾きは $\dfrac22=1$、直線 $BC$ の傾きは $\dfrac{2}{3-1}=1$ で、2 直線は平行になり、交点 $Q$ がとれない。四角形 $ABCD$ は平行四辺形で、$P$ はその対角線 $AC$ と $BD$ の交点である。thm-sto-parallel の条件 (i) の手順は、この選び方では実行できない。別の点 $P$ を選べば実行でき、結果は中点になる。
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