判別式形式(discriminant form)とは、非退化な対称双線形形式をもつ格子 $L$ に対し、双対格子との商 $L^\vee/L$ と、その上に元の形式から誘導される $\mathbb Q/\mathbb Z$ 値の対称双線形形式の組のことである。$L$ の Gram 行列を $M$ とすれば、群は $\mathbb Z^r/M\mathbb Z^r$ で位数は $|\det M|$、形式は $x^{\mathsf T}M^{-1}y \bmod \mathbb Z$ で与えられ、非退化になる。ユニモジュラーな格子の飽和した部分格子とその直交補は、符号を除いて同じ判別式形式をもつ。$\ell$ 進整数上でも同様に定義され、Brauer 群の自己双対性や曲面特異点の局所 Picard 群の議論に使われる。
前提知識: 格子(数論), 対称双線形形式, 有限アーベル群の基本定理, p進整数
整数を成分とする対称行列 $M$ が正則なら、商群 $\mathbb Z^r/M\mathbb Z^r$ は有限であり、その上には
$$
(\bar x,\bar y)\longmapsto x^{\mathsf T}M^{-1}y \bmod \mathbb Z
$$
という $\mathbb Q/\mathbb Z$ 値の対が定まる。これが判別式形式である。格子の言葉でいえば、格子 $L$ を双対格子 $L^\vee$ の中で見たときの「はみ出し」$L^\vee/L$ と、その上に元の形式が残す分数部分の情報である。
判別式形式は、格子がユニモジュラー(自己双対)からどれだけ離れているかを測る有限の不変量であり、とくに「ユニモジュラーな格子の飽和した部分格子とその直交補は、符号を除いて同じ判別式形式をもつ」という形で使われる。以下では整数 $\mathbb Z$ 上の場合と、素数 $\ell$ に対する $\ell$ 進整数 $\mathbb Z_\ell$ 上の場合を同時に扱う。
以下、$R$ は $\mathbb Z$ または $\mathbb Z_\ell$($\ell$ は素数)とし、$K$ をその商体($\mathbb Q$ または $\mathbb Q_\ell$)とする。どちらの $R$ も単項イデアル整域である。
$R$ 上の格子とは、階数有限の自由 $R$ 加群 $L$ と、対称な $R$ 双線形形式 $b:L\times L\to R$ の組であって、$b$ を $K$ 上に延ばした形式 $b_K:L_K\times L_K\to K$($L_K:=L\otimes_RK$)が非退化であるものをいう。$L$ の基底 $e_1,\dots,e_r$ に対する行列 $M=(b(e_i,e_j))_{i,j}$ を Gram 行列といい、非退化性は $\det M\neq0$ と同値である。
$L$ の双対格子を
$$
L^\vee:=\{x\in L_K : b_K(x,y)\in R\ \text{がすべての}\ y\in L\ \text{について成り立つ}\}
$$
と定める。$b$ が $R$ に値をとるので $L\subseteq L^\vee$ である。$L^\vee=L$ となる格子をユニモジュラーという。
$R$ 上の格子 $(L,b)$ に対し、有限生成 $R$ 加群
$$
A_L:=L^\vee/L
$$
と、その上の写像
$$
b_L:A_L\times A_L\longrightarrow K/R,\qquad b_L(\bar x,\bar y):=b_K(x,y)\bmod R
$$
の組 $(A_L,b_L)$ を $L$ の判別式形式という。$A_L$ を $L$ の判別式群と呼ぶこともある。
$x,y\in L^\vee$、$l\in L$ とする。$y\in L^\vee$ だから $b_K(l,y)\in R$ であり、
$$
b_K(x+l,y)=b_K(x,y)+b_K(l,y)\equiv b_K(x,y)\pmod R
$$
となる。第2変数についても、$b_K$ の対称性により同じ計算で $b_K(x,y+l)\equiv b_K(x,y)\pmod R$ が分かる。よって $b_L$ は $A_L\times A_L$ 上で定まる。双線形性と対称性は $b_K$ から引き継がれる。
Gram 行列の行列式 $\det M$ は、基底を $P\in GL_r(R)$ で取り替えると $\det(P^{\mathsf T}MP)=(\det P)^2\det M$ となり、$R$ の単数の平方倍だけ変わる。したがって $R=\mathbb Z$ なら $|\det M|$ が、$R=\mathbb Z_\ell$ なら $\ell$ 進付値 $v_\ell(\det M)$ が、基底によらない量として定まる。これを $L$ の判別式の大きさとして用いる。
判別式形式は Gram 行列から直接計算できる。
$L=R^r$、$b(x,y)=x^{\mathsf T}My$($M$ は $R$ 成分の対称行列で $\det M\neq0$)とする。このとき次が成り立つ。
1. $u\in K^r$ が $L^\vee$ に属するのは、すべての $x\in R^r$ について $x^{\mathsf T}Mu\in R$ となるとき、すなわち $Mu\in R^r$ のときである。よって $L^\vee=M^{-1}R^r$。写像 $u\mapsto Mu$ は $M^{-1}R^r$ を $R^r$ へ、$R^r$ を $MR^r$ へ同型に移すので、商の同型を誘導する。
2. $\bar x,\bar y\in R^r/MR^r$ に対応する $A_L$ の元は $M^{-1}x,\ M^{-1}y$ の類である。$M$ が対称なので $M^{-1}$ も対称であり、
$$
b_K(M^{-1}x,M^{-1}y)=(M^{-1}x)^{\mathsf T}M(M^{-1}y)=x^{\mathsf T}M^{-1}y
$$
となる。
3. $R$ は単項イデアル整域なので、単因子論(Smith 標準形)により $P,Q\in GL_r(R)$ を選んで $PMQ=\operatorname{diag}(d_1,\dots,d_r)$ とできる(有限アーベル群の基本定理)。すると
$$
R^r/MR^r\cong\bigoplus_{i=1}^rR/d_iR,\qquad \det M=(\text{単数})\cdot d_1\cdots d_r
$$
である。$R=\mathbb Z$ なら $|\mathbb Z/d_i|=|d_i|$、$R=\mathbb Z_\ell$ なら $|\mathbb Z_\ell/d_i|=\ell^{v_\ell(d_i)}$ だから主張を得る。最後の同値は、$A_L=0$ と $|A_L|=1$ が同じことから従う。
$b_L$ は非退化である。すなわち、$\bar x\in A_L$ について「すべての $\bar y\in A_L$ で $b_L(\bar x,\bar y)=0$」ならば $\bar x=0$ である。したがって $\bar x\mapsto b_L(\bar x,-)$ は単射 $A_L\to\operatorname{Hom}(A_L,K/R)$ を与え、$A_L$ が有限なので両辺の位数を比べるとこれは同型である。
前の命題の座標で考える。$b_L(\bar x,\bar y)=0$ がすべての $y\in R^r$ で成り立つとは、$x^{\mathsf T}M^{-1}y\in R$ がすべての $y$ で成り立つこと、すなわち $M^{-1}x\in R^r$ である。これは $x\in MR^r$、すなわち $\bar x=0$ を意味する。
同型であることについて:有限 $R$ 加群 $A=\bigoplus_iR/d_iR$ に対し、$\operatorname{Hom}(R/dR,K/R)\cong d^{-1}R/R\cong R/dR$ だから $|\operatorname{Hom}(A,K/R)|=|A|$ である。位数の等しい有限集合の間の単射は全単射である。
上の二つの証明のうち、行列による表示の 2 で $M$ の対称性が使われている。$M$ が対称でないと、$x^{\mathsf T}M^{-1}y$ は第1変数を $MR^r$ の元だけずらしたときに値が変わりうる。これは後の反例で具体的に確かめる。
整数 $m\neq0$ に対し、$L=\mathbb Z$、$b(x,y)=mxy$ とする。Gram 行列は $(m)$ なので
$$
A_L\cong\mathbb Z/|m|,\qquad b_L(\bar1,\bar1)=\frac1m\bmod\mathbb Z
$$
である。たとえば $m=-2$ なら $A_L\cong\mathbb Z/2$ で、$b_L(\bar1,\bar1)=-\tfrac12\equiv\tfrac12$ となる。$m=\pm1$ のときに限り $A_L=0$、すなわち $L$ はユニモジュラーである。
$n\geq1$ とし、$C_n$ を $A_n$ 型の Cartan 行列(対角成分が $2$、そのすぐ隣の成分が $-1$、他が $0$ の $n$ 次対称行列)とする。$M=-C_n$ を Gram 行列とする格子 $L=\mathbb Z^n$ について
$$
A_L\cong\mathbb Z/(n+1),\qquad b_L(\bar e_1,\bar e_1)=\frac1{n+1}\bmod\mathbb Z
$$
であり、$\bar e_1$ が $A_L$ の生成元になる。$n=1$ のとき $M=(-2)$ となり、前の例と一致する。
行列式。$d_n:=\det C_n$ とおくと、第1行で展開して $d_n=2d_{n-1}-d_{n-2}$($d_0:=1$、$d_1=2$)を得る。帰納法で $d_n=n+1$ である。よって $|\det M|=n+1$ で、$|A_L|=n+1$。
巡回性。$C_n$ から第1行と第 $n$ 列を除いた $n-1$ 次の小行列は、対角成分がすべて $-1$ の上三角行列なので、行列式は $\pm1$ である。したがって $n-1$ 次小行列式の最大公約数は $1$ であり、単因子は $1,\dots,1,n+1$ となる。よって $A_L\cong\mathbb Z/(n+1)$。
形式の値。$C_n^{-1}$ の $(1,1)$ 成分は、余因子 $\det C_{n-1}=n$ を $\det C_n=n+1$ で割った $\tfrac n{n+1}$ である。$M^{-1}=-C_n^{-1}$ だから
$$
b_L(\bar e_1,\bar e_1)=-\frac n{n+1}=\frac1{n+1}-1\equiv\frac1{n+1}\pmod{\mathbb Z}.
$$
$k\bar e_1=0$ なら $k\,b_L(\bar e_1,\bar e_1)=\tfrac k{n+1}\in\mathbb Z$ なので $n+1\mid k$。よって $\bar e_1$ の位数は $n+1$ で、$\bar e_1$ は生成元である。
$M=-C_n$ は負定値である。二次元の正規特異点の最小解消に現れる例外曲線の交叉行列はこの型をとることがあり、そのときの判別式群が特異点の局所的な不変量になる(後述)。ただし、どの特異点でどの配置の例外曲線が現れるかは幾何の側の事実であり、この記事の行列の計算とは別の話である。
判別式形式が最もよく働くのは、ユニモジュラーな格子 $H$ の中で、部分格子 $N$ とその直交補を比べる場面である。
$H$ を $R$ 上の格子、$N\subseteq H$ を部分加群とする。$H/N$ が捩れをもたないとき、$N$ は $H$ の中で飽和しているという。$R$ は単項イデアル整域なので、このとき $H/N$ は自由であり、$N$ は $H$ の直和因子である。また
$$
N^\perp:=\{x\in H : b(x,y)=0\ \text{がすべての}\ y\in N\ \text{について成り立つ}\}
$$
とおく。
$H$ を $R$ 上のユニモジュラーな格子、$N\subseteq H$ を飽和した部分加群で、$b|_N$ が $K$ 上非退化なものとする。このとき次が成り立つ。
1. $rx\in N^\perp$($r\in R$、$r\neq0$)なら $r\,b(x,y)=0$ だから $b(x,y)=0$ であり、$N^\perp$ は飽和している。$b_K|_{N_K}$ は非退化なので $H_K=N_K\oplus(N_K)^\perp$ であり、$(N_K)^\perp=N^\perp_K$ である。$b_K$ は $H_K$ 上非退化なので、直交直和の一方の成分 $N^\perp_K$ の上でも非退化である。$(N^\perp)^\perp$ は $N$ を含み、$K$ 上で $(N^\perp_K)^\perp=N_K$ だから $(N^\perp)^\perp\subseteq H\cap N_K$ である。$N$ は飽和しているので $H\cap N_K=N$ となり、$(N^\perp)^\perp=N$ を得る。
2. $h\in H$ と $y\in N$ について $b_K(p_1h,y)=b(h,y)\in R$ だから $p_1h\in N^\vee$ である。全射性を示す。$H$ はユニモジュラーなので、$h\mapsto b(h,-)$ は同型 $H\cong\operatorname{Hom}_R(H,R)$ である。$N$ は $H$ の直和因子なので、制限 $\operatorname{Hom}_R(H,R)\to\operatorname{Hom}_R(N,R)$ は全射である。一方、$b_K|_{N_K}$ が非退化であることから、$u\mapsto b_K(u,-)|_N$ は同型 $N^\vee\cong\operatorname{Hom}_R(N,R)$ を与える。任意の $u\in N^\vee$ に対し、$b(h,-)|_N=b_K(u,-)|_N$ となる $h\in H$ を取ると、$b_K(p_1h-u,-)|_N=0$ となるので $p_1h=u$ である。$p_1$ の核は $H\cap N^\perp_K=N^\perp$ である。
$p_2$ についても同じ議論が成り立つ。実際、1 により $N^\perp$ は飽和していて $b|_{N^\perp}$ は非退化であり、$(N^\perp)^\perp=N$ だから、$N$ と $N^\perp$ の役割を入れ替えられる。
3. 2 より $H/N^\perp\cong N^\vee$ で、この同型は $N$ の像を $N$ 自身に移す($y\in N$ なら $p_1y=y$)。よって
$$
H/(N\oplus N^\perp)\cong N^\vee/N=A_N
$$
であり、これは有限である。$p_2$ についても同様である。$\gamma$ は二つの同型の合成なので同型である。
形式について:$h,h'\in H$ とすると、直交性から
$$
b(h,h')=b_K(p_1h,p_1h')+b_K(p_2h,p_2h')
$$
であり、左辺は $R$ に属する。$\xi,\eta\in A_N$ を $h,h'$ の $p_1$ による像の類とすると、$\gamma\xi,\gamma\eta$ は $p_2h,p_2h'$ の類だから、$K/R$ で $b_N(\xi,\eta)+b_{N^\perp}(\gamma\xi,\gamma\eta)=0$ となる。位数の等式は二つの同型から従う。
$R=\mathbb Z$ のとき、判別式の大きさについて $|\det N|=|\det N^\perp|$ が成り立つ(行列による表示の 3 と合わせる)。$R=\mathbb Z_\ell$ なら $v_\ell(\det N)=v_\ell(\det N^\perp)$ である。
次の系は、Grothendieck が曲面の Brauer 群の双対性を論じたときに証明なしで用いた判定を、上の定理から導くものである。
定理の仮定のもとで、$\Lambda:=H/N$ とおく。
定理の 2 の $p_2$ は同型 $\Lambda=H/N\cong(N^\perp)^\vee$ を誘導し、$N^\perp$ 上では恒等写像である。したがって、標準写像 $N^\perp\to\Lambda$ はこの同型を通して包含 $N^\perp\subseteq(N^\perp)^\vee$ と一致する。また $\beta$ はこの同型を通して $b_K$ の $(N^\perp)^\vee$ への制限と一致する(両者は $N^\perp$ 上で一致し、$K$ 上で双線形に延びるから)。
1. 単射性は包含だから明らか。余核は $A_{N^\perp}$ で、定理の 3 よりその位数は $|A_N|$ である。
2. $L:=N^\perp$ とおく。まず、$L^\vee$ を $b_K$ で格子とみたときの双対 $(L^\vee)^\vee:=\{u\in L_K: b_K(u,L^\vee)\subseteq R\}$ は $L$ に等しい。実際、座標 $L=R^r$、Gram 行列 $M$ をとると $L^\vee=M^{-1}R^r$ であり、$u\in(L^\vee)^\vee$ はすべての $x\in R^r$ で $(M^{-1}x)^{\mathsf T}Mu=x^{\mathsf T}u\in R$ となること、すなわち $u\in R^r$ と同値である。
いま $b_K$ が $L^\vee\times L^\vee$ 上で $R$ に値をとるとすると、$L^\vee\subseteq(L^\vee)^\vee=L$ となるので $L^\vee=L$、すなわち $A_L=0$ であり、定理の 3 より $A_N=0$ である。逆に $A_N=0$ なら $A_L=0$、すなわち $L^\vee=L$ で、$b$ は $L$ 上 $R$ に値をとる。$R=\mathbb Z_\ell$ のとき $A_N=0$ と $v=0$ が同値であることは、行列による表示の 3 による。
3. $A_N=0$ なら 1 より $N^\perp\to\Lambda$ は同型で、$A_{N^\perp}=0$ だから $N^\perp$ はユニモジュラーである。
系の 2 の「整数値なら $v=0$」の向きは、判別式の付値を数えることでも見える。この見方は Grothendieck の議論を補うときに要となる一段なので、別に述べておく。
$L'\subseteq L$ を $K$ 上の同じ空間の中の、有限指数の部分格子とする(形式は共通)。$L'$ の基底を $L$ の基底で表す行列を $P$ とすると、Gram 行列は $M'=P^{\mathsf T}MP$ となり、単因子論により $[L:L']=|R/\det P\,R|$ である。したがって
$$
R=\mathbb Z:\ |\det M'|=|\det M|\cdot[L:L']^2,\qquad R=\mathbb Z_\ell:\ v_\ell(\det M')=v_\ell(\det M)+2\,v_\ell([L:L'])
$$
が成り立つ。$R=\mathbb Z_\ell$ で系の記号を使い、$L'=N^\perp\subseteq L=\Lambda$(形式 $\beta$)に当てはめる。定理より $v_\ell(\det N^\perp)=v$、系の 1 より $[\Lambda:N^\perp]=\ell^v$ なので、
$$
v=v_\ell(\det\beta|_\Lambda)+2v,\qquad\text{すなわち}\qquad v_\ell(\det\beta|_\Lambda)=-v
$$
である。$\beta$ が $\Lambda$ 上で整数値なら左辺の行列式は $\mathbb Z_\ell$ に属し、$-v\geq0$ となる。$v\geq0$ と合わせて $v=0$ を得る。
$H=\mathbb Z^2$(標準内積)、$N=\mathbb Z(1,1)$ とする。$N$ は飽和しており、$\det N=2$、$A_N\cong\mathbb Z/2$ で生成元での値は $\tfrac12$ である。直交補は $N^\perp=\mathbb Z(1,-1)$ で、$\det N^\perp=2$、$A_{N^\perp}\cong\mathbb Z/2$、値は $\tfrac12\equiv-\tfrac12$ である。定理どおり $A_N\cong A_{N^\perp}$ で、形式は符号を除いて一致する。
同じことを $R=\mathbb Z_\ell$ で見る。$\Lambda=H/N$ は $\bar e_1$ で生成され、$e_2\equiv-e_1$ だから $N^\perp$ の生成元 $(1,-1)$ の像は $2\bar e_1$ である。
$H=\mathbb Z^3$(標準内積)、$N=\mathbb Z(1,1,1)$ とする。$\det N=3$ で、$A_N\cong\mathbb Z/3$、生成元での値は $\tfrac13$ である。直交補 $N^\perp$ は成分の和が $0$ のベクトルからなり、基底 $(1,-1,0),(0,1,-1)$ に関する Gram 行列は $A_2$ 型の Cartan 行列 $C_2$ である。$C_2^{-1}$ の $(1,1)$ 成分は $\tfrac23$ なので、$A_{N^\perp}\cong\mathbb Z/3$ の生成元での値は $\tfrac23\equiv-\tfrac13$ となる。形式の符号が実際に反転していることが分かる。
$M=\begin{pmatrix}2&1\\0&1\end{pmatrix}$ とする。$\det M=2\neq0$ なので $\mathbb Z^2/M\mathbb Z^2$ は位数 $2$ の群である(成分の最大公約数が $1$ なので $\mathbb Z/2$)。しかし $M$ は対称でない。
$M^{-1}=\begin{pmatrix}1/2&-1/2\\0&1\end{pmatrix}$ である。$x=0$ と $x'=Me_2=(1,1)^{\mathsf T}$ は同じ類を表すが、$y=e_1$ に対して
$$
x^{\mathsf T}M^{-1}y=0,\qquad x'^{\mathsf T}M^{-1}y=(1,1)\begin{pmatrix}1/2\\0\end{pmatrix}=\frac12
$$
となり、$\bmod\ \mathbb Z$ で値が異なる。
$M=\begin{pmatrix}-1&1\\1&-1\end{pmatrix}$ とする。$M$ は対称だが $\det M=0$ である。$M\mathbb Z^2=\mathbb Z(1,-1)$ だから、$(a,b)\mapsto a+b$ により $\mathbb Z^2/M\mathbb Z^2\cong\mathbb Z$ となり、有限群ではない。また $M^{-1}$ が存在しないので、形式の式そのものが意味をもたない。
$H=\mathbb Z^2$(標準内積)、素数 $p$ に対し $N=\mathbb Z(p,0)$ とする。$H$ はユニモジュラーで、$b|_N$ は非退化だが、$H/N\cong\mathbb Z/p\oplus\mathbb Z$ は捩れをもつので $N$ は飽和していない。
$\det N=p^2$ だから $A_N\cong\mathbb Z/p^2$ である。一方 $N^\perp=\mathbb Z(0,1)$ はユニモジュラーで $A_{N^\perp}=0$ である。よって $A_N\not\cong A_{N^\perp}$。また $N^\perp\to H/N$ の余核は $\mathbb Z/p$ で、位数は $|A_N|=p^2$ と異なる。
$H=\mathbb Z^2$ に Gram 行列 $\operatorname{diag}(2,1)$ の形式を入れ、$N=\mathbb Z e_1$ とする。$N$ は飽和しており、$b|_N$ は非退化である。しかし $A_N\cong\mathbb Z/2$、$N^\perp=\mathbb Z e_2$ はユニモジュラーで $A_{N^\perp}=0$ となり、両者は同型でない。
判別式形式は、Grothendieck の論文 Le groupe de Brauer III[Gro68]の §8 で、二つの場面に現れる。どちらの場面でも、原論文は代数の部分を一言で済ませており、上の定理と系がその中身にあたる。幾何の側の入力は、以下では引用として述べ、この記事では証明しない。
曲面の Brauer 群の自己双対性(§8.2)。$X$ を代数閉体 $k$ 上の固有で滑らかな連結曲面、$\ell$ を $k$ の標数と異なる素数とする。$H:=H^2(X,\mathbb Z_\ell(1))/\mathrm{Tors}$ とし、$N$ を Néron–Severi 群から来る部分 $(NS(X)/\mathrm{Tors})\otimes\mathbb Z_\ell$ の $H$ における像とする。$H^2(X,\mu_\ell)$ の有限性などの標準的な入力のもとで、完全列
$$
0\to N\to H\to T_\ell(Br'(X))\to0
$$
が得られ、$N$ は $H$ の中で飽和している(右端が捩れをもたないため。ℓ進コホモロジー、コホモロジー的Brauer群)。さらに次の三つを引用として認める:杯積による Poincaré 双対で $H$ がユニモジュラーになること、その形式が $N$ 上で交叉形式に一致すること、交叉形式が $NS(X)/\mathrm{Tors}$ 上非退化であること。すると上の系を $\Lambda=T_\ell(Br'(X))$ に当てはめることができ、
二次元正規特異点の局所 Picard 群(§8.4)。原論文の設定に従い、$A$ を剰余体 $k$ が代数閉である次元 2 の完備正規局所環とし、剰余体が $A$ の部分体に持ち上がること、および $U$ の上で同型な固有双有理射 $\tilde X\to\operatorname{Spec}A$ で $\tilde X$ が正則なもの(解消)が存在することを仮定する。$U$ を閉点を除いた穴あきスペクトル、$C_1,\dots,C_r$ を閉点の逆像の既約成分(例外曲線)とし、交叉行列 $M=(C_i\cdot C_j)$ を考える。次の二つを引用として認める:$M$ が負定値であること(Mumford)、$U$ の Néron–Severi 群 $NS(U)$ が $M:\mathbb Z^r\to\mathbb Z^r$ の余核と標準的に同型であること(SGA 2 の構成)。すると
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