球の詰め込み(sphere packing)とは、同じ半径の球を、互いに重ならないように空間に並べることである。大きな立方体の中で球がしめる体積の割合の極限を密度という。立方体の頂点に球を置く単純立方格子、頂点と中心に置く体心立方格子、頂点と面の中心に置く面心立方格子の詰め込み(半径は中心の最短距離の半分)の密度は、それぞれ $\frac{\pi}{6}$、$\frac{\sqrt3\pi}{8}$、$\frac{\pi}{3\sqrt2}\approx0.7405$ である。平面の六角形の並べ方の層を、前の層のくぼみに置いて積むと、積み方によらず密度は $\frac{\pi}{3\sqrt2}$ になり、3 種類の位置を順にくり返す積み方が面心立方格子である。$\frac{\pi}{3\sqrt2}$ が最大であるという Kepler の予想は Hales が証明した。
前提知識: 平面の円の詰め込み, 球の体積と表面積, 空間図形の計量, 空間座標と球面の方程式
同じ大きさのミカンをたくさん箱に詰める。すき間をなるべく少なくするには、どう並べればよいだろうか。平面では、硬貨を 1 段ごとに半分ずらして並べると、縦横にそろえるより詰まった(平面の円の詰め込み)。空間でも同じことが起こるかを、まず 2 つの並べ方で計算してみる。以下、ミカンは直径 $1$ の球とみなす。
直径 $1$ の球を、座標空間の点 $(m,n,l)$($m,n,l$ は整数)を中心にして並べる。となりの中心の距離は $1$ で、半径の和 $\dfrac12+\dfrac12=1$ に等しいので、となりの球はちょうど接し、重ならない。
1 辺 $1$ の立方体 $0\le x\le1$、$0\le y\le1$、$0\le z\le1$ を見る。8 つの頂点を中心とする球が、それぞれ $\dfrac18$ ずつこの立方体に入る(頂点のまわりを 3 つの座標平面で 8 つに分けたうちの 1 つ)。合わせて球 $1$ 個分で、体積は
$$
\frac43\pi\left(\frac12\right)^3=\frac\pi6
$$
である。空間はこの立方体を平行移動したもので埋め尽くされるので、球がしめる体積の割合は
$$
\frac{\pi/6}{1}=\frac\pi6\approx0.524
$$
である。半分近くがすき間である。
店先の果物の山のように、正方形の形に並べた球の上に、次の段の球を「4 つの球のくぼみ」に落として積む。1 段目を $4\times4$ 個、2 段目を $3\times3$ 個、3 段目を $2\times2$ 個、4 段目を $1$ 個にすると、四角錐の形の山になる(図 7 の形)。球の個数は
$$
1^2+2^2+3^2+4^2=30
$$
である($n$ 段なら $\dfrac{n(n+1)(2n+1)}6$ 個。数列の和と差分)。
段の間の高さを求める。1 段目の 4 つの球の中心は 1 辺 $1$ の正方形の頂点にあり、2 段目の球の中心はその正方形の中心の真上にある。正方形の中心から頂点までの距離は $\dfrac{\sqrt2}2$ で、上の球と下の球は接しているので中心の距離は $1$ である。三平方の定理により、段の間の高さ $h$ は
$$
h^2+\left(\frac{\sqrt2}2\right)^2=1^2,\qquad h=\frac{\sqrt2}2\approx0.707
$$
である。ex-spk-start の段の間隔 $1$ より低い。1 段あたりの球の並び方は同じ(1 辺 $1$ の正方形に球 1 個分)で、段の間隔だけが $\dfrac{\sqrt2}2$ 倍になるので、しめる割合は
$$
\frac{\pi/6}{1\cdot1\cdot\frac{\sqrt2}2}=\frac{\pi}{3\sqrt2}\approx0.740
$$
になると予想される(正確には thm-spk-main と prop-spk-pyramid で示す)。
2 つの例を比べると、ずらして積む方がずっと詰まる。この記事で答える問いは次の 3 つである。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| 立方体に入る球のかけら | 単位胞の中の球の個数 | 格子の基本領域 |
| 単位胞の中の球の体積の割合 | 密度 | 詰め込みの密度 |
| 正四面体の高さ | 層の間隔 | 面心立方格子の $(111)$ 面の間隔 |
| 1 つの球に接する球の数 | 接する球の数 | 接吻数(kissing number) |
平面のときと同じく、球は内部も含めて考える。半径 $r$ の 2 つの球の内部が共有点をもたないのは、中心の距離が $2r$ 以上のときである(空間座標と球面の方程式)。
半径 $r$ の球を、どの 2 つの内部も共有点をもたないように、空間に無限個並べたものを、半径 $r$ の 球の詰め込み という。中心どうしの距離がどれも $2r$ 以上であることと同じである。
正の数 $R$ に対して、立方体 $-R\le x,y,z\le R$ を $Q_R$ とし、$Q_R$ のうち球でおおわれている部分の体積を $V(R)$ とする。極限
$$
\lim_{R\to\infty}\frac{V(R)}{(2R)^3}
$$
があるとき、これを詰め込みの 密度 という。
ex-spk-start のように、1 つの立方体の中身を平行移動して空間全体を埋める並べ方では、密度は立方体 1 つの中で計算できる。
正の数 $a$ と、半径 $r$ の球の詰め込みがある。中心の全体が、ベクトル $(a,0,0)$、$(0,a,0)$、$(0,0,a)$ による平行移動で変わらず、立方体 $0\le x< a$、$0\le y< a$、$0\le z< a$(端の一方を含まない)の中にちょうど $k$ 個の中心があるとする。このとき詰め込みの密度は
$$
\frac{k\cdot\frac43\pi r^3}{a^3}
$$
である。この立方体を 単位胞 と呼ぶ。
要点:単位胞を $a$ の整数倍だけ平行移動したもので空間は重なりなく埋め尽くされ、どの単位胞にもちょうど $k$ 個の中心がある。$Q_R$ に含まれる単位胞と $Q_R$ と共有点をもつ単位胞を数えると、$Q_R$ の中の中心の個数は $k\left(\dfrac{2R}a\right)^3$ に近く、平面の円の詰め込み の命題「格子の詰め込みの密度」と同じはさみうちで結論を得る。
段 1(単位胞で埋める)。$C=\{(x,y,z)\mid 0\le x,y,z< a\}$ とし、整数 $m,n,l$ に対して $C_{m,n,l}=C+(ma,na,la)$ とおく。どの点 $(x,y,z)$ も、$m$ を $\dfrac xa$ 以下の最大の整数($n,l$ も同様)とすればただ 1 つの $C_{m,n,l}$ に入る。中心の全体は平行移動で変わらないので、どの $C_{m,n,l}$ にもちょうど $k$ 個の中心がある。
段 2(中心の個数)。$Q_R$ の中の中心の個数を $N(R)$ とする。$Q_R$ に含まれる単位胞は、$ma$ が $-R$ 以上 $R-a$ 以下などをみたすもので、1 つの座標の向きに $\dfrac{2R}a-2$ 個以上ある。$Q_R$ と共有点をもつ単位胞は、1 つの座標の向きに $\dfrac{2R}a+2$ 個以下である。よって $k\left(\dfrac{2R}a-2\right)^3\le N(R)\le k\left(\dfrac{2R}a+2\right)^3$($R>a$ のとき)で、$(2R)^3$ で割ると $\dfrac{N(R)}{(2R)^3}\to\dfrac k{a^3}$ である。
段 3(体積)。中心が $Q_{R-r}$ にある球は $Q_R$ に含まれ、互いに内部が重ならないので $V(R)\ge N(R-r)\cdot\dfrac43\pi r^3$ である。$Q_R$ と共有点をもつ球は中心が $Q_{R+r}$ にあるので $V(R)\le N(R+r)\cdot\dfrac43\pi r^3$ である。$(2R)^3$ で割って段 2 を使うと、両端はどちらも $\dfrac{k}{a^3}\cdot\dfrac43\pi r^3$ に近づく。はさみうちの原理により結論を得る。$\square$
ex-spk-start は $a=1$、$k=1$(単位胞の中の中心は原点だけ)、$r=\dfrac12$ の場合で、密度は $\dfrac\pi6$ である。「8 つの頂点の球が $\dfrac18$ ずつ」という数え方と、「単位胞 $0\le x,y,z<1$ に中心が 1 個」という数え方は、同じ答え $1$ を出す。後者の方が数え間違えにくい(「例と反例」の節)。
立方体の頂点だけでなく、立方体の中心や面の中心にも球を置く並べ方を考える。
正の数 $a$ を 1 つ決め、$m,n,l$ は整数全体を動くとする。
(1) 点 $(am,an,al)$ の全体を、1 辺 $a$ の 単純立方格子 という。1 辺 $a$ の立方体の頂点の全体である。
(2) 単純立方格子の点に、立方体の中心 $\left(a\left(m+\frac12\right),a\left(n+\frac12\right),a\left(l+\frac12\right)\right)$ を加えた点の全体を 体心立方格子 という。
(3) 単純立方格子の点に、立方体の面の中心 $\left(a\left(m+\frac12\right),a\left(n+\frac12\right),al\right)$、$\left(a\left(m+\frac12\right),an,a\left(l+\frac12\right)\right)$、$\left(am,a\left(n+\frac12\right),a\left(l+\frac12\right)\right)$ を加えた点の全体を 面心立方格子 という。
これらの点を中心とし、重ならない範囲で最も大きい半径の球を置いた詰め込みを、それぞれの格子の詰め込みという。
$b=\dfrac a2$ とおいて座標を $b$ の整数倍 $(bx,by,bz)$ で書くと、次のように言いかえられる。
3 つの格子で、原点と他の点の距離の最小値 $d$ と、原点から距離 $d$ にある点の個数は次のとおりである。
(1) 単純立方格子:$d=a$、$6$ 個。
(2) 体心立方格子:$d=\dfrac{\sqrt3}2a$、$8$ 個。
(3) 面心立方格子:$d=\dfrac{a}{\sqrt2}$、$12$ 個。
$b=\dfrac a2$ とし、点 $(bx,by,bz)$ の原点からの距離の 2 乗 $b^2(x^2+y^2+z^2)$ を調べる。$(x,y,z)\ne(0,0,0)$ とする。
(1) $x,y,z$ はすべて偶数なので、$0$ でない成分の 2 乗は $4$ 以上で、$x^2+y^2+z^2\ge4$ である。距離の 2 乗は $4b^2=a^2$ 以上で、等号は 1 つの成分が $\pm2$、残りが $0$ のとき、つまり $(\pm a,0,0)$、$(0,\pm a,0)$、$(0,0,\pm a)$ の $6$ 個である。
(2) すべて偶数の点は (1) により距離 $a$ 以上である。すべて奇数の点は各成分の 2 乗が $1$ 以上なので $x^2+y^2+z^2\ge3$ で、距離の 2 乗は $3b^2=\dfrac34a^2$ 以上である。$\dfrac34a^2< a^2$ なので最小値は $d=\dfrac{\sqrt3}2a$ で、等号は $x,y,z$ がすべて $\pm1$ のときの $2^3=8$ 個である。
(3) $x+y+z$ が偶数とする。$0$ でない成分がちょうど 1 つなら、その成分は偶数(和が偶数だから)で、2 乗は $4$ 以上である。$0$ でない成分が 2 つ以上なら、2 乗の和は $2$ 以上である。よって $x^2+y^2+z^2\ge2$ で、距離の 2 乗は $2b^2=\dfrac{a^2}2$ 以上である。等号は、2 つの成分が $\pm1$ で残りが $0$ のとき(和は $0$ か $\pm2$ で偶数)で、$0$ にする成分の選び方 $3$ 通りと符号 $2^2=4$ 通りで $12$ 個である。$\square$
原点から距離 $d$ の点は、原点の球に接する球の中心である。単純立方格子では前後・左右・上下の $6$ 個、体心立方格子では原点を頂点にもつ $8$ つの立方体の中心(立方体の中心の球から見れば、$8$ つの頂点の球)、面心立方格子では原点を頂点にもつ 12 個の面の中心である。1 つの球に接する球の数がいちばん多いのは面心立方格子である。
単純立方格子・体心立方格子・面心立方格子の詰め込みの密度は、それぞれ
$$
\frac\pi6\approx0.524,\qquad \frac{\sqrt3\pi}8\approx0.680,\qquad \frac{\pi}{3\sqrt2}\approx0.7405
$$
である。どれも立方体の 1 辺 $a$ によらない。
方針:lem-spk-dist から半径を決め、単位胞 $0\le x,y,z< a$ の中の中心の個数 $k$ を数えて、prop-spk-cell を使う。3 つの格子はどれも $(a,0,0)$、$(0,a,0)$、$(0,0,a)$ による平行移動で変わらない(定義の $m,n,l$ を $1$ ずらすだけだから)。
段 1(半径)。中心どうしの距離の最小値が $d$ なので、球が重ならない最大の半径は $r=\dfrac d2$ である。lem-spk-dist から、単純立方格子 $r=\dfrac a2$、体心立方格子 $r=\dfrac{\sqrt3}4a$、面心立方格子 $r=\dfrac{\sqrt2}4a$ である。
段 2(単位胞の中の中心)。座標を $(bx,by,bz)$($b=\frac a2$)で書くと、単位胞は $0\le x,y,z\le1$ の整数の組にあたる。単純立方格子ではすべて偶数の組 $(0,0,0)$ だけで $k=1$ である。体心立方格子では $(0,0,0)$ と $(1,1,1)$ で $k=2$ である。面心立方格子では和が偶数の組 $(0,0,0)$、$(1,1,0)$、$(1,0,1)$、$(0,1,1)$ で $k=4$ である。
段 3(密度)。prop-spk-cell により、単純立方格子の密度は
$$
\frac{1\cdot\frac43\pi\left(\frac a2\right)^3}{a^3}=\frac43\pi\cdot\frac18=\frac\pi6
$$
である。体心立方格子では $\left(\dfrac{\sqrt3}4\right)^3=\dfrac{3\sqrt3}{64}$ なので
$$
\frac{2\cdot\frac43\pi\left(\frac{\sqrt3}4a\right)^3}{a^3}=\frac83\pi\cdot\frac{3\sqrt3}{64}=\frac{\sqrt3\pi}8
$$
である。面心立方格子では $\left(\dfrac{\sqrt2}4\right)^3=\dfrac{2\sqrt2}{64}=\dfrac{\sqrt2}{32}$ なので
$$
\frac{4\cdot\frac43\pi\left(\frac{\sqrt2}4a\right)^3}{a^3}=\frac{16}3\pi\cdot\frac{\sqrt2}{32}=\frac{\sqrt2\pi}6=\frac{\pi}{3\sqrt2}
$$
である(最後は分母と分子に $\sqrt2$ を掛けた $\dfrac{\sqrt2\pi}6=\dfrac{2\pi}{6\sqrt2}$ による)。どれも $a$ が約分で消える。$\square$
単位胞の中の球を「かけら」で見ることもできる。図 1〜3 は、単位胞(1 辺 $a$ の立方体)で球を切り取った図である。
単純立方格子の単位胞。頂点の 8 つの球が 8 分の 1 ずつ入る
体心立方格子の単位胞。中心の球(オレンジ)は立方体の対角線(赤)の方向で頂点の球に接する
面心立方格子の単位胞。面の中心の球(オレンジ)は面の対角線(赤)の方向で頂点の球に接する
| 格子 | 単位胞の中の球 | 接する方向 | 半径 $r$ | 1 つの球に接する球 | 密度 |
|---|---|---|---|---|---|
| 単純立方 | $1$ | 辺 | $\frac a2$ | $6$ | $\frac\pi6\approx0.524$ |
| 体心立方 | $2$ | 立方体の対角線 | $\frac{\sqrt3}4a$ | $8$ | $\frac{\sqrt3\pi}8\approx0.680$ |
| 面心立方 | $4$ | 面の対角線 | $\frac{\sqrt2}4a$ | $12$ | $\frac{\pi}{3\sqrt2}\approx0.740$ |
この 3 つの格子では、接する球が多いほど密度が大きい。面心立方格子の密度 $\dfrac{\pi}{3\sqrt2}\approx0.7405$ は、ex-spk-pyramid で予想した値と同じである。次の節で、これが偶然でないことを見る。
平面で最も密な並べ方は六角形の並べ方だった(平面の円の詰め込み)。これを 1 枚の層として、上へ積んでいく。以下、球の直径(中心の最短距離)を $d$ とする。
層 A を、平面 $z=0$ の上の六角格子とする。つまり、長さ $d$ でなす角 $60^\circ$ の 2 つのベクトル $\vec u,\vec v$ を使って、$m\vec u+n\vec v$($m,n$ は整数)を中心とする。3 つの球が互いに接してできる正三角形の中心の上には、くぼみができる。くぼみは 2 種類に分かれる。正三角形 $\vec 0,\vec u,\vec v$ の中心 $\dfrac{\vec u+\vec v}3$ を平行移動したもの(B と呼ぶ)と、正三角形 $\vec u,\vec v,\vec u+\vec v$ の中心 $\dfrac{2(\vec u+\vec v)}3$ を平行移動したもの(C と呼ぶ)である(図 4)。
六角形の層(青)のくぼみは、B の位置と C の位置の 2 種類に分かれる。どちらも六角格子を平行移動した形に並ぶ
B の位置の全体は層 A を $\dfrac{\vec u+\vec v}3$ だけ平行移動したもの、C の位置の全体は $\dfrac{2(\vec u+\vec v)}3$ だけ平行移動したものである。となり合う B と C の距離は $\dfrac d{\sqrt3}$ で $d$ より短いので、B と C の両方に同時に球を置くことはできない。
層 A の 1 つのくぼみに球を置き、下の 3 つの球に接するようにすると、その中心の高さは
$$
h=\sqrt{\frac23}\,d=\frac{\sqrt6}3d\approx0.816d
$$
である。このとき、置いた球は層 A のどの球とも重ならない。
段 1(高さ)。下の 3 つの球の中心は 1 辺 $d$ の正三角形の頂点で、正三角形の中心から頂点までの距離は $\dfrac{d}{\sqrt3}$ である(外接円の半径。正弦定理で $\dfrac{d}{2\sin60^\circ}=\dfrac d{\sqrt3}$)。置いた球の中心はくぼみの真上にあり、下の 3 つの中心との距離は $d$ なので、三平方の定理により
$$
h^2+\left(\frac d{\sqrt3}\right)^2=d^2,\qquad h^2=\frac23d^2
$$
である。4 つの中心は 1 辺 $d$ の正四面体を作り、$h$ はその高さである(空間図形の計量)。
段 2(重ならない)。くぼみと層 A の点の、平面の上での距離はどれも $\dfrac d{\sqrt3}$ 以上である。したがって空間での距離の 2 乗は $\dfrac{d^2}3+h^2=d^2$ 以上で、置いた球は層 A のどの球とも重ならない。$\square$
$\vec u=(d,0)$、$\vec v=\left(\dfrac d2,\dfrac{\sqrt3}2d\right)$ と座標をとり、くぼみ $P\left(\dfrac d2,\dfrac{\sqrt3}6d\right)$ と層 A の点の、平面の上での距離を調べる。層 A の点の $y$ 座標は $\dfrac{\sqrt3}2d$ の整数倍である。$y=0$ の点 $(kd,0)$ とは、$x$ 座標の差が $\dfrac d2$ 以上なので距離の 2 乗が $\dfrac{d^2}4+\dfrac{d^2}{12}=\dfrac{d^2}3$ 以上である。$y=\dfrac{\sqrt3}2d$ の点とは、$y$ 座標の差が $\dfrac{\sqrt3}3d$ なので距離が $\dfrac d{\sqrt3}$ 以上である。それ以外の $y$ の点とは、$y$ 座標の差だけで $\dfrac{2\sqrt3}3d$ 以上ある。B のくぼみは $P$ を層 A のベクトルだけ平行移動したもので、C のくぼみ $\dfrac{2(\vec u+\vec v)}3=(\vec u+\vec v)-\overrightarrow{OP}$ は $P$ を原点に関して対称移動してから平行移動したものである。どちらの移動も層 A の点の全体を変えないので、どのくぼみでも同じ結論になる。
層 A の上に、B の位置の真上(高さ $h$)に 2 層目を置く。2 層目の中心は層 A を平行移動した六角格子なので、2 層目にもまた B 型・C 型の 2 種類のくぼみがある。こうして「前の層のくぼみの真上、高さ $h$ だけ上」に次の層を置くことを繰り返す。
六角形の層を、それぞれ前の層のくぼみの真上に、間隔 $h=\sqrt{\dfrac23}d$ で上下に限りなく積む。
(1) 各層の置き方は、前の層に対して 2 通りある。層の位置を A(平行移動なし)、B($\frac{\vec u+\vec v}3$ だけ平行移動)、C($\frac{2(\vec u+\vec v)}3$ だけ平行移動)の 3 種類で表すと、となり合う層の記号は異なり、それ以外に制限はない。
(2) どの積み方でも、球は重ならず、密度は
$$
\frac{\pi}{3\sqrt2}\approx0.7405
$$
である。
段 1(置き方)。ある層の位置が A なら、そのくぼみの位置は B か C である(上で見た)。層の 1 つの球を B の位置に置けば、層全体は A を平行移動した形なので、すべての球が B の位置にくる。C でも同じである。位置が B の層のくぼみは、B を $\frac{\vec u+\vec v}3$ または $\frac{2(\vec u+\vec v)}3$ だけ平行移動した C と A の位置である($\vec u+\vec v$ だけの平行移動は層を変えないので、$\frac{\vec u+\vec v}3+\frac{2(\vec u+\vec v)}3=\vec u+\vec v$ より B の $\frac{2(\vec u+\vec v)}3$ 移動は A になる)。C の層でも同様で、次の層は A か B である。よって (1) が成り立つ。
段 2(重ならない)。同じ層の中では中心の距離は $d$ 以上である。となり合う層の間では lem-spk-height により $d$ 以上である。2 つ以上離れた層の間では、高さの差だけで $2h=\dfrac{2\sqrt6}3d\approx1.63d$ 以上ある。
段 3(密度)。要点は「球 1 個あたりの体積」である。1 つの層では、1 個の球あたり平面の面積 $\dfrac{\sqrt3}2d^2$(六角格子の基本平行四辺形の面積)をしめる。層の間隔は $h$ なので、球 1 個あたりの体積は
$$
\frac{\sqrt3}2d^2\cdot\sqrt{\frac23}\,d=\frac{\sqrt3\cdot\sqrt2}{2\sqrt3}d^3=\frac{d^3}{\sqrt2}
$$
である。球の体積は $\dfrac43\pi\left(\dfrac d2\right)^3=\dfrac{\pi d^3}6$ なので、密度は
$$
\frac{\pi d^3/6}{d^3/\sqrt2}=\frac{\sqrt2\pi}6=\frac{\pi}{3\sqrt2}
$$
である。積み方(A・B・C の並び)は、1 層あたりの個数にも層の間隔にも関係しないので、密度は積み方によらない。
$Q_R$ と交わる層は、高さが $-R$ から $R$ までの層で、その数は $\dfrac{2R}h$ との差が $2$ 以下である。各層は六角格子の平行移動で、平面の円の詰め込み の命題「格子の詰め込みの密度」(1) の証明(平行移動した格子でも同じ)により、正方形 $-R\le x,y\le R$ の中の中心の個数を $\dfrac{\sqrt3}2d^2$ 倍したものを $(2R)^2$ で割ると $1$ に近づく。しかもその誤差の評価($(2R\pm2\delta)^2$、$\delta=2d$)は層によらない。よって $Q_R$ の中の中心の個数 $N(R)$ について $\dfrac{N(R)}{(2R)^3}\to\dfrac{1}{\frac{\sqrt3}2d^2\cdot h}=\dfrac{\sqrt2}{d^3}$ である。あとは prf-spk-cell の段 3 と同じはさみうちで、密度は $\dfrac{\sqrt2}{d^3}\cdot\dfrac{\pi d^3}6$ になる。
3 層目の置き方で、代表的な 2 つの積み方ができる(図 5・6)。
1 層目 A(大きな円)の上に、2 層目 B(オレンジ)と 3 層目 C(緑)を置いた位置。上から見ると 3 つの位置がすべて違う
2 層目 B(オレンジ)の上の 3 層目を A の真上(青)に置いた位置。3 層目は 1 層目と重なって見える
thm-spk-main の面心立方格子の密度と prop-spk-stack の密度が一致したのは、面心立方格子が六角形の層を A・B・C の順に積んだものだからである。
1 辺 $a$ の面心立方格子を、平面 $x+y+z=$ 一定で切ると、次が成り立つ。$d=\dfrac a{\sqrt2}$ とする。
(1) 格子の点がのる平面は $x+y+z=ka$($k$ は整数)で、各平面の上の点は、最短距離 $d$ の六角格子を平行移動したものである。
(2) となり合う 2 つの平面の間隔は $\dfrac a{\sqrt3}=\sqrt{\dfrac23}\,d=h$ である。
(3) 平面に垂直な向きから見ると、層の位置は 3 種類を順にくり返す(A・B・C の積み方)。
要点:点を $\left(\frac a2x,\frac a2y,\frac a2z\right)$($x+y+z$ は偶数)で書き、$x+y+z=2k$ の点を第 $k$ 層とする。第 $0$ 層は $\frac a2(1,-1,0)$、$\frac a2(1,0,-1)$(長さ $d$、なす角 $60^\circ$)で生成される六角格子で、第 $k$ 層はそれを $\frac a2(2k,0,0)$ だけ平行移動したものである。層の間隔は $\frac a{\sqrt3}=h$ である。この平行移動の平面の中の成分は $k\cdot\frac a2\left(\frac43,-\frac23,-\frac23\right)$ で、$k=0,1,2$ で 3 種類の位置になり、$k=3$ でもとにもどる。
$b=\dfrac a2$ とし、点を $(bx,by,bz)$($x+y+z$ は偶数)で書く。
段 1(層)。$x+y+z=2k$ の点を第 $k$ 層とする。これは平面 $x+y+z=ka$ の上にある。第 $0$ 層の点 $(x,y,z)$($z=-x-y$)は
$$(x,y,-x-y)=(x+y)(1,0,-1)-y(1,-1,0)$$
と書けるので、$\vec p=b(1,-1,0)$、$\vec q=b(1,0,-1)$ の整数係数の和の全体である。$\lvert\vec p\rvert=\lvert\vec q\rvert=\sqrt2b=d$、$\vec p\cdot\vec q=b^2$ で、$\cos\theta=\dfrac{b^2}{2b^2}=\dfrac12$、なす角は $60^\circ$ である。よって第 $0$ 層は最短距離 $d$ の六角格子である。第 $k$ 層は第 $0$ 層を $\vec w_k=b(2k,0,0)$ だけ平行移動したものである(和が $2k$ の点から $(2k,0,0)$ を引くと和が $0$ になる)。
段 2(間隔)。平面 $x+y+z=0$ と $x+y+z=a$ の距離は、点と平面の距離の公式により $\dfrac{a}{\sqrt{1^2+1^2+1^2}}=\dfrac a{\sqrt3}$ である。$d=\dfrac a{\sqrt2}$ なので $\sqrt{\dfrac23}d=\sqrt{\dfrac23}\cdot\dfrac a{\sqrt2}=\dfrac a{\sqrt3}$ で、$h$ と一致する。
段 3(横のずれ)。$\vec w_1=b(2,0,0)$ から、平面に垂直な向き $(1,1,1)$ の成分 $\dfrac{2b}3(1,1,1)$ を引くと、平面の中のずれ
$$b\left(\frac43,-\frac23,-\frac23\right)=\frac23\bigl(b(1,-1,0)+b(1,0,-1)\bigr)=\frac{2(\vec p+\vec q)}3$$
を得る。第 $k$ 層の横のずれはこの $k$ 倍の $\dfrac{2k(\vec p+\vec q)}3$ である。$\vec p+\vec q$ だけのずれは六角格子を変えないので、$k=0,1,2$ でずれは $\vec 0$、$\dfrac{2(\vec p+\vec q)}3$、$\dfrac{4(\vec p+\vec q)}3$($\vec p+\vec q$ を引くと $\dfrac{\vec p+\vec q}3$)の 3 種類で、$k=3$ で $\vec 0$ にもどる。これは A・C・B・A・C・B・…の順で、3 種類を順にくり返す積み方である(記号の B と C を入れかえれば A・B・C の順)。$\square$
店先の果物の山(ex-spk-pyramid)も面心立方格子の一部である。
直径 $d$ の球を 1 辺 $d$ の正方形の形に並べた層を、前の層の正方形の中心の真上に、下の 4 つの球に接するように上下に限りなく積み重ねる。座標を適当にとると、この積み方の球の中心の全体は 1 辺 $a=\sqrt2d$ の面心立方格子で、密度は $\dfrac{\pi}{3\sqrt2}$ である。
要点:1 辺 $a=\sqrt2d$ の面心立方格子を平面 $z=$ 一定で切ると、$z$ が $\frac a2$ の偶数倍・奇数倍の層が交互に現れ、どれも 1 辺 $d$ の正方形の並べ方で、奇数倍の層の点は偶数倍の層の正方形の中心の真上、高さの差 $\frac d{\sqrt2}$ にある。これはピラミッドの積み方と同じである。
1 辺 $a=\sqrt2d$ の面心立方格子の点を $(bx,by,bz)$($b=\frac a2=\frac d{\sqrt2}$、$x+y+z$ は偶数)で書く。$z=0$ の層の点は $x+y$ が偶数の $(bx,by,0)$ で、$(b,b,0)$ と $(b,-b,0)$ の整数係数の和の全体である($(x,y)=\frac{x+y}2(1,1)+\frac{x-y}2(1,-1)$ で、$x+y$ が偶数なら $\frac{x\pm y}2$ は整数)。この 2 つのベクトルは長さ $\sqrt2b=d$ で直交するので、$z=0$ の層は 1 辺 $d$ の正方形の並べ方である。$z=b$ の層は $x+y$ が奇数の点で、$z=0$ の層の正方形の中心 $(b,0,0)$ などの真上にある。高さの差は $b=\dfrac d{\sqrt2}=\dfrac{\sqrt2}2d$ で、ex-spk-pyramid の $h$($d=1$)と一致する。$z=2b,3b,\dots$ の層も同じくり返しである。正方形の層のくぼみは正方形の中心の 1 種類だけなので、積み方はこの 1 通りである。したがって中心の全体は面心立方格子で、thm-spk-main により密度は $\dfrac{\pi}{3\sqrt2}$ である。$\square$
正方形の層を 4 段積んだ山。下から 16 個、9 個、4 個、1 個で、どの段も下の段の 4 つの球のくぼみにのる
つまり、面心立方格子は「六角形の層を斜めの向きに積んだもの」とも「正方形の層を縦に積んだもの」とも見られる。同じ格子を別の向きの平面で切っているだけである。
密度の計算でよく起こる誤りと、条件を外した並べ方を並べる。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 中心は単位胞 $0\le x,y,z< a$ の中だけ数える | 単純立方格子で、頂点の 8 個の球を 1 個ずつ数える | 密度が $1$ 以下 |
| 半径は最短距離の半分 | 体心立方格子で、辺の方向で接するとして $r=\frac a2$ とする | 球が重ならない |
| 次の層はくぼみに置く | 六角形の層を真上に重ねる | 密度 $\frac{\pi}{3\sqrt2}$ |
単純立方格子(1 辺 $a$、半径 $\dfrac a2$)で、立方体の 8 つの頂点の球を 1 個ずつ丸ごと数えると、立方体 1 つあたり $8$ 個で
$$
\frac{8\cdot\frac43\pi\left(\frac a2\right)^3}{a^3}=\frac{4\pi}3\approx4.19
$$
になる。しめる割合が $1$ を超えるのはありえない。頂点の球は 8 つの立方体で共有されているので、1 つの立方体には $\dfrac18$ ずつしか入らない。prop-spk-cell のように、端の一方を含まない単位胞に中心があるものだけを数えれば、共有の数え方で迷わない。
体心立方格子で、単純立方格子と同じく辺の方向で球が接すると考えて $r=\dfrac a2$ とすると、
$$
\frac{2\cdot\frac43\pi\left(\frac a2\right)^3}{a^3}=\frac\pi3\approx1.047
$$
となり、やはり $1$ を超える。実際には、中心の球と頂点の球の中心の距離は $\dfrac{\sqrt3}2a\approx0.866a$ で、$2r=a$ より小さいので、球が重なっている。半径は最短距離 $d=\dfrac{\sqrt3}2a$ の半分にとらなければならない(lem-spk-dist)。
六角形の層(最短距離 $d$)を、くぼみではなく前の層の真上に、間隔 $d$ で重ねる(A・A・A・…)。球は上下でちょうど接し、重ならない。球 1 個あたりの体積は $\dfrac{\sqrt3}2d^2\cdot d$ なので、密度は
$$
\frac{\pi d^3/6}{\frac{\sqrt3}2d^3}=\frac{\pi}{3\sqrt3}\approx0.605
$$
で、$\dfrac{\pi}{3\sqrt2}\approx0.7405$ より小さい。くぼみに置くと層の間隔が $d$ から $h\approx0.816d$ に縮み、その分だけ密度が $\dfrac{d}{h}=\sqrt{\dfrac32}$ 倍になる。
面心立方格子と六方最密充填の密度 $\dfrac{\pi}{3\sqrt2}\approx0.7405$ が、同じ半径の球の詰め込みの中で最大である、という主張を Kepler の予想 という。
Wei26a によると、Kepler は 1611 年に、面心立方と六方最密の並べ方(密度は等しい)が最も密であると予想した。また、中心が格子をなす詰め込みの中では面心立方格子が最も密であることを、Gauss が 1831 年に証明した。格子に限らない詰め込みを含めた予想の全体は、Hales による一連の論文で 1998 年に証明された(Wei26a)。Wei26b によると、この証明は 250 ページを超える論文からなり、大域的最適化・線形計画法・区間演算の方法を使って計算機で多くの場合を調べるものである。証明のすべての段を計算機で自動的に確かめる計画(Flyspeck)が 2003 年に始まり、2014 年に完了した(Wei26b)。この記事ではこれらを証明しない。
平面では、格子の詰め込みの中で六角格子が最も密であることを 平面の円の詰め込み で証明した。空間の格子の詰め込みで同じことを示すのが Gauss の結果で、格子でない並べ方まで含めるのが Kepler の予想である。
空間の格子(平行でなく同じ平面にない 3 つのベクトルの整数係数の和の全体)を平行移動したものは、3 点 $\vec x,\vec y,\vec z$ を含めば $\vec x+\vec y-\vec z$ も含む。六方最密充填(A・B・A・B・…)の中心の全体 $S$ はこの性質をもたない。層 A の中心 $O$ を原点とし、その上の層 B の中心 $P=\left(\dfrac{\vec u+\vec v}3,h\right)$(平面の成分と高さ)をとる。$\vec x=\vec y=P$、$\vec z=O$ とすると $\vec x+\vec y-\vec z=\left(\dfrac{2(\vec u+\vec v)}3,2h\right)$ で、高さ $2h$ の層は A なのに、平面の成分は C の位置である。よってこの点は $S$ に入らず、$S$ は格子を平行移動したものではない。したがって Gauss の結果は六方最密充填には当てはまらないが、prop-spk-stack により密度は面心立方格子と同じである。
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