Kervaire–Milnorの群

同義語:Kervaire-Milnorの群Kervaire–Milnor groupホモトピー球面の群group of homotopy spheresホモトピー球面のh同境群向き付けられたh同境

概要

Kervaire–Milnorの群(Kervaire–Milnor group)とは、$n$ 次元の向き付けられたホモトピー球面を向き付けられた $h$ 同境で類別し、連結和を演算としたアーベル群 $\Theta_n$ のことである。単位元は $S^n$、逆元は向きを反転したものである。$n\ge5$ では $h$ 同境定理により、$\Theta_n$ は $S^n$ の上の滑らかな構造を向きを保つ微分同相で類別したものと一致する。Kervaire と Milnor は $n\ne3$ で $\Theta_n$ が有限であることを示し、平行化可能な多様体の境界の部分群 $bP_{n+1}$ と安定ホモトピー群を使って構造を調べた。$\Theta_7$ は位数 $28$ で、Milnor の不変量 $\lambda$ は全射 $\Theta_7\to\mathbb{Z}/7$ を与える。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: h同境定理, 境界に沿った貼り合わせと連結和, 異種球面, 相対ホモロジーと長完全列, Van Kampenの定理

$S^n$ とホモトピー同値な滑らかな閉多様体(ホモトピー球面)を、向きを込めて h 同境で類別すると、連結和を演算としてアーベル群になる。これを Kervaire–Milnor の群(ホモトピー球面の群)といい、$\Theta_n$ と書く。単位元は標準的な $S^n$ の類、$\Sigma$ の逆元は向きを反転した $-\Sigma$ の類である。
$n\ge5$ では、h同境定理 により h 同境なホモトピー球面は微分同相で、一般次元のPoincaré予想 によりホモトピー球面はすべて $S^n$ と同相である。したがって $\Theta_n$ は「$S^n$ の上の滑らかな構造を、向きを保つ微分同相で類別したもの」の全体であり、$\Theta_n\ne0$ であることは $n$ 次元の 異種球面 があることと同じである。Kervaire と Milnor(1963)は、$n\ne3$ で $\Theta_n$ が有限群であることを示し、その構造を安定ホモトピー群と、平行化可能な多様体の境界になる部分群 $bP_{n+1}$ に分けて調べた。たとえば $\Theta_7$ は位数 $28$ の群である。
この記事では、$\Theta_n$ が群であること($n\ge3$)、$n\ge5$ で $\Theta_n$ が滑らかな構造を分類すること、Milnor の不変量 $\lambda$ が全射準同型 $\Theta_7\to\mathbb{Z}/7$ を与えることを完全に証明する。有限性と構造の定理は所在付きで述べ、この記事では証明しない。

定義

この記事では、多様体は Hausdorff かつ第 2 可算で、「滑らか」は $C^\infty$ 級を指す。$-M$ は向き付けられた多様体 $M$ の向きを反転したもの、$M\sqcup N$ は非交和である。ホモロジーは整数係数の特異ホモロジーである。

ホモトピー球面と h 同境類の定義
  1. $S^n$ とホモトピー同値な滑らかな閉多様体を $n$ 次元のホモトピー球面という(一般次元のPoincaré予想 の定義「ホモトピー球面とホモロジー球面」)。
  2. 向き付けられた滑らかな閉多様体 $M$、$M'$ について、向き付けられたコンパクトな多様体 $W$ で、向きを込めて $\partial W=M\sqcup(-M')$ となり、包含 $M\to W$、$M'\to W$ がどちらもホモトピー同値であるものがあるとき、$M$ と $M'$ は向き付けられた h 同境であるといい、$M\sim M'$ と書く(h同境定理 の定義「h 同境」に向きを加えたもの)。
Kervaire–Milnor の群

$n\ge1$ とする。向き付けられた $n$ 次元のホモトピー球面の、向き付けられた h 同境による類の全体を $\Theta_n$ とし、$\Sigma$ の類を $[\Sigma]$ と書く。$[\Sigma]+[\Sigma']:=[\Sigma\#\Sigma']$(向き付けられた連結和。境界に沿った貼り合わせと連結和 の定義「連結和」)と定める。

演算が矛盾なく定まることは thm-kmg-group の証明で示す。向きを保つ微分同相な 2 つの多様体は(積 $M\times[0,1]$ を微分同相で曲げたものを考えて)向き付けられた h 同境なので、$\Theta_n$ の元は向きを保つ微分同相類の集まりである。

主定理

$\Theta_n$ はアーベル群

$n\ge3$ とする。$\Theta_n$ は連結和についてアーベル群をなす。単位元は $[S^n]$、$[\Sigma]$ の逆元は $[-\Sigma]$ である。

主定理の所在と低次元

これは KM63 Theorem 1.1(p. 504、証明は §2、pp. 505–507)である。$n=1,2$ でもホモトピー球面は $S^n$ と微分同相なので $\Theta_1=\Theta_2=0$ である(KM63 p. 507)。

次の構造の定理は、この記事では証明しない。

Kervaire–Milnor の構造定理
  1. $n\ne3$ なら $\Theta_n$ は有限群である(KM63 Theorem 1.2、p. 504)。
  2. 平行化可能なコンパクト多様体の境界になるホモトピー球面の類は部分群 $bP_{n+1}\subset\Theta_n$ をなし、$\Theta_n/bP_{n+1}$ は安定ホモトピー群 $\Pi_n=\pi_{n+k}(S^k)$($k$ は十分大)を Hopf–Whitehead の $J$ 準同型の像で割った群の部分群と同型である(同 §4、Theorem 4.1 とその証明と注意、pp. 510–512)。
  3. $bP_{2k+1}=0$(同 Theorem 5.1、p. 512)。$k$ が奇数なら $bP_{2k}$ は $0$ か位数 $2$ の巡回群(同 Theorem 8.5、p. 536)、$bP_{4m}$($m\ge2$)は有限巡回群(同 Corollary 7.6、p. 530)。

$\Theta_n$ の位数は、$n=1,\dots,18$ で次のとおりである(KM63 p. 504 の表。値の証明は続編に回されている。$n=3$ は当時未決定)。

$n$$1$$2$$3$$4$$5$$6$$7$$8$$9$$10$$11$$12$$13$$14$$15$$16$$17$$18$
$\lvert\Theta_n\rvert$$1$$1$?$1$$1$$1$$28$$2$$8$$6$$992$$1$$3$$2$$16256$$2$$16$$16$

$n=7$ では $\Theta_7=bP_8$ は位数 $28$ の巡回群で、円板束の plumbing で作る符号数 $8$ の $8$ 次元の平行化可能な多様体 $M(8)$ の境界が生成元になる(Kos93 Ch. VI §12、p. 122、Ch. X §6、p. 216 と pp. 218–219)。$\Theta_9$(位数 $8$)は、Kervaire の $9$ 次元の異種球面が生成する位数 $2$ の部分群 $bP_{10}$ を含む(Kos93 p. 219、Kervaire多様体)。

群であることの証明

ホモトピー球面の判定と連結和

ホモトピー球面の判定

$n\ge2$ とし、$M$ を $n$ 次元の閉多様体とする。$M$ がホモトピー球面であるための必要十分条件は、$M$ が単連結で、$H_*(M)\cong H_*(S^n)$ となることである。

必要性は、ホモトピー同値が基本群とホモロジーの同型を引き起こすことによる(ホモトピー同値 の命題「基本群・ホモロジーへの帰結」)。十分性を示す。$M$ は単連結で $\tilde H_i(M)=0$($i< n$)なので、Hurewicz の定理(Hat02 Theorem 4.32、p. 366)により $\pi_n(M)\cong H_n(M)\cong\mathbb{Z}$ で、Hurewicz 写像は $[g]\mapsto g_*[S^n]$ である。生成元を表す $g\colon S^n\to M$ は $H_n$ の同型を引き起こし、ほかの次数では両辺とも $0$ か $\mathbb{Z}$($H_0$)なので、すべての次数でホモロジーの同型を引き起こす。コンパクト多様体は CW 複体とホモトピー同値なので(Hat02 Corollary A.12、p. 529)、単連結な CW 複体についての Whitehead の定理(Hat02 Corollary 4.33、p. 367)により $g$ はホモトピー同値である。$\square$

連結和の基本性質

$n\ge3$ とし、$M$、$N$、$P$ を向き付けられた連結な $n$ 次元閉多様体とする。

  1. $M\#N$ は向きを保つ微分同相を除いて円板の選び方によらない。
  2. $M\#N\cong N\#M$、$(M\#N)\#P\cong M\#(N\#P)$、$M\#S^n\cong M$(いずれも向きを保つ微分同相)。
  3. $M$、$N$ がホモトピー球面なら $M\#N$ もホモトピー球面である。

1 と $M\#S^n\cong M$ は 境界に沿った貼り合わせと連結和 の定理「連結和の基本性質」の 2 と命題「球面との連結和」である。
可換性:$M\#_{f,g}N=M_f\cup_hN_g$、$h=f\circ g^{-1}$ とする。$r$ を第 1 座標の鏡映とすると、$g\circ r$ は $N$ の向きを保ち $f\circ r$ は $M$ の向きを逆にする円板で、$N_{g\circ r}=N_g$、$M_{f\circ r}=M_f$、$(g\circ r)\circ(f\circ r)^{-1}=h^{-1}$ である。したがって $N\#_{g\circ r,f\circ r}M=N_g\cup_{h^{-1}}M_f$ で、これは $M_f\cup_hN_g$ と同じ空間(同じ同一視)であり、向きも一致する。
結合性:$N$ の中に交わらない 2 つの円板 $g$(向きを逆にする)と $g'$(向きを保つ)をとり、$P$ に向きを逆にする円板 $e$ をとる。1 により、$(M\#N)\#P$ を作るときの $M\#N$ の中の円板は $N_g$ の内部にある $g'$ でよく、$M\#(N\#P)$ を作るときの $N\#P$ の中の円板は $N_{g'}$ の内部にある $g$ でよい。どちらも $M_f$、$N$ から 2 つの円板の内部を除いたもの、$P_e$ の 3 つを同じ写像で貼ったものなので、向きを保って微分同相である。
3:$A:=M_f$、$B:=N_g$ とおく。$M=A\cup f(D^n)$ で、$f(D^n)$ と $A\cap f(D^n)=f(S^{n-1})$ は単連結なので($n\ge3$)、Van Kampenの定理 により $\pi_1(A)\cong\pi_1(M)=1$ である(カラーで開集合に太らせて使う)。同様に $\pi_1(B)=1$ で、$M\#N=A\cup B$、$A\cap B\cong S^{n-1}$ も単連結なので $\pi_1(M\#N)=1$ である。対 $(M,A)$ の長完全列と切除 $H_*(M,A)\cong H_*(D^n,S^{n-1})$ から $\tilde H_*(A)=0$ となり($0< i< n$ では $H_i(M)=0$、$H_n(M)\to H_n(M,A)\cong\mathbb{Z}$ は同型)、同様に $\tilde H_*(B)=0$ である。Mayer–Vietoris完全列 を $M\#N=A\cup B$ に使うと $H_*(M\#N)\cong H_*(S^n)$ が得られる。lem-kmg-criterion により $M\#N$ はホモトピー球面である。$\square$

3 の証明から、ホモトピー球面から円板の内部を除いた $\Sigma_0$ は、単連結で $\tilde H_*(\Sigma_0)=0$ であり、lem-kmg-criterion の証明と同じく Whitehead の定理により可縮である(Kos93 Ch. VI (1.4) の前の注意、p. 94)。

$h$ 同境

h 同境の判定には次を使う(h同境定理 の命題「相対ホモロジーによる言い換え」の 2。Kos93 Ch. VIII (5.1) Lemma、p. 156。この記事では証明しない):$W$、$M$、$M'$ が単連結で $\partial W=M\sqcup M'$、$H_*(W,M)=0$ なら、$W$ は h 同境である。

h 同境と連結和

$n\ge3$ とし、$\Sigma$、$\Sigma'$、$N$ を向き付けられた $n$ 次元のホモトピー球面とする。

  1. $\sim$ はホモトピー球面の上の同値関係である。
  2. $\Sigma\sim\Sigma'$ なら $\Sigma\#N\sim\Sigma'\#N$ である。

1:反射律は積 $\Sigma\times[0,1]$、対称律は $W$ の向きの反転による。推移律:$\partial W=\Sigma\sqcup(-\Sigma')$、$\partial W'=\Sigma'\sqcup(-\Sigma'')$ を h 同境とし、$V:=W\cup_{\Sigma'}W'$(カラーで滑らかにし、向きをそろえる)とする。$\Sigma'$ は単連結なので Van Kampenの定理 により $\pi_1(V)=1$ である。三つ組 $(V,W,\Sigma)$ の長完全列で、$H_*(W,\Sigma)=0$(h同境定理 の命題「相対ホモロジーによる言い換え」の 1)と、切除による $H_*(V,W)\cong H_*(W',\Sigma')=0$ から $H_*(V,\Sigma)=0$ である。判定により $V$ は $\Sigma$ と $\Sigma''$ の h 同境である。
2:要点:h 同境 $W$ の中で $\Sigma$ から $\Sigma'$ への弧をとり、その管状近傍 $D^n\times[0,1]$ を除いて、代わりに $N_g\times[0,1]$ を貼る($N_g$ は $N$ から円板の内部を除いたもの)。得られる $W'$ の境界は $(\Sigma\#N)\sqcup-(\Sigma'\#N)$ で、切除とホモトピー不変性により $H_*(W',\Sigma\#N)\cong H_*(W,\Sigma)=0$ となる。

詳しい証明を開く

$W$ の中に、$p\in\Sigma$ と $p'\in\Sigma'$ を結び、境界と横断的に交わる滑らかな弧をとり、その閉じた管状近傍の埋め込み $i\colon D^n\times[0,1]\to W$ で $i(D^n\times0)\subset\Sigma$、$i(D^n\times1)\subset\Sigma'$ となるものをとる(KM63 Lemma 2.2 の証明、pp. 505–506。管状近傍定理)。$i(\cdot,0)$ が $\Sigma$ の向きを保つように選んでおく。$W_0:=W\setminus i(\operatorname{Int}D^n\times[0,1])$、$T:=i(S^{n-1}\times[0,1])$、$Y:=N_g$($g$ は $N$ の向きを逆にする円板)とし、$W':=W_0\cup_T(Y\times[0,1])$ を $i(u,s)\leftrightarrow(g(u),s)$($u\in S^{n-1}$)で貼ったものとする(角は 角の解消 で丸める)。$W'$ の境界は $\Sigma_{i(\cdot,0)}\cup Y\times0=\Sigma\#N$ と、同様に $-(\Sigma'\#N)$ である。

単連結性。$W=W_0\cup i(D^n\times[0,1])$ で、$T\cong S^{n-1}\times[0,1]$ と $D^n\times[0,1]$ は単連結なので、Van Kampenの定理 により $\pi_1(W_0)\cong\pi_1(W)\cong\pi_1(\Sigma)=1$ である。$Y$ は単連結なので(lem-kmg-sum の 3 の証明)、同じく $\pi_1(W')=1$ である。

相対ホモロジー。$A:=(\Sigma\setminus i(\operatorname{Int}D^n\times0))\cup T$ とおく。$\Sigma\#N\cup(Y\times[0,1])$ は、$Y\times[0,1]$ を $Y\times0$ に縮めるホモトピー($\Sigma_{i(\cdot,0)}$ との共通部分 $\partial Y\times0$ を動かさない)で $\Sigma\#N$ に変形レトラクトし、その和は $\Sigma_{i(\cdot,0)}\cup(Y\times[0,1])$ である。三つ組の長完全列と切除により $H_*(W',\Sigma\#N)\cong H_*\bigl(W',\Sigma_{i(\cdot,0)}\cup(Y\times[0,1])\bigr)\cong H_*(W_0,A)$ となる。同じ議論を $Y\times[0,1]$ のかわりに $i(D^n\times[0,1])$ で行うと $H_*(W,\Sigma)\cong H_*(W_0,A)$ となる。よって $H_*(W',\Sigma\#N)\cong H_*(W,\Sigma)=0$ であり、両端 $\Sigma\#N$、$\Sigma'\#N$ は単連結なホモトピー球面(lem-kmg-sum の 3)なので、判定により $W'$ は h 同境である。$\square$

可縮な多様体の境界

$n\ge2$ とし、$M$ を向き付けられた単連結な $n$ 次元閉多様体とする。$M$ が可縮なコンパクト多様体 $W$ の境界なら、$M\sim S^n$ である。

$W$ の内部に滑らかな円板 $D\cong D^{n+1}$ をとり、$W':=W\setminus\operatorname{Int}D$ とする。$\partial W'=M\sqcup\partial D$ で、$\partial D$ には $W'$ の境界としての向きが $D$ の境界としての向きと逆に入るので、向きを込めて $\partial W'=M\sqcup(-S^n)$ である。$W=W'\cup D$ で $W'\cap D=\partial D\cong S^n$ は単連結なので($n\ge2$)、Van Kampenの定理 により $\pi_1(W')\cong\pi_1(W)=1$ である。切除により $H_*(W',\partial D)\cong H_*(W,D)$ で、$W$ と $D$ はともに可縮なので $H_*(W,D)=0$ である。判定により $W'$ は $M$ と $S^n$ の h 同境である。$\square$

これは KM63 Lemma 2.3(p. 506)の一方向である。単連結の仮定は外せない(ex-kmg-cx-mazur)。

逆元

$n\ge3$ とし、$\Sigma$ を向き付けられた $n$ 次元のホモトピー球面とする。$\Sigma\#(-\Sigma)$ は可縮なコンパクト多様体の境界である。

$f\colon D^n\to\Sigma$ を向きを保つ円板とし、$\Sigma_0:=\Sigma_f$ とする。$f$ は $-\Sigma$ の向きを逆にするので、$\Sigma\#_{f,f}(-\Sigma)=\Sigma_0\cup_{\mathrm{id}}(-\Sigma_0)$、すなわち $\Sigma_0$ の 2 つの複製を境界の恒等写像で貼ったものである。積 $W:=\Sigma_0\times[0,1]$ の角を丸めると(角の解消 の定理「積の角の解消」「解消した積の境界」)、$\partial W$ は $\Sigma_0\times0$ と $\Sigma_0\times1$ を円筒 $\partial\Sigma_0\times[0,1]$ でつないだもので、円筒をカラーに吸収させれば $\Sigma_0\cup_{\mathrm{id}}(-\Sigma_0)$ と向きを保って微分同相である(両端の外向きの法線が逆向きなので、両端の向きは逆になる)。$\Sigma_0$ は可縮なので(lem-kmg-sum の後の注意)、$W$ も可縮である。$\square$

これは KM63 Lemma 2.4(p. 507)、Kos93 Ch. VI (1.4) Corollary(p. 94)である。

$n\ge3$ とする。
演算が定まること。 ホモトピー球面の連結和はホモトピー球面であり、向きを保つ微分同相を除いて円板の選び方によらない(lem-kmg-sum の 1・3)。$\Sigma\sim\Sigma'$、$N\sim N'$ なら、lem-kmg-hcob の 2 と可換性により
$$ \Sigma\#N\sim\Sigma'\#N\cong N\#\Sigma'\sim N'\#\Sigma'\cong\Sigma'\#N' $$
で、1 の推移律により $\Sigma\#N\sim\Sigma'\#N'$ である(向きを保つ微分同相なものは $\sim$ で結ばれる)。よって $[\Sigma]+[N]:=[\Sigma\#N]$ は代表元によらない。
可換モノイド。 lem-kmg-sum の 2 により、この演算は可換で結合的で、$[S^n]$ が単位元である。
逆元。 lem-kmg-inverse により $\Sigma\#(-\Sigma)$ は可縮な多様体の境界で、lem-kmg-sum の 3 により単連結なので、lem-kmg-contractible により $\Sigma\#(-\Sigma)\sim S^n$、すなわち $[\Sigma]+[-\Sigma]=[S^n]$ である。
以上で $\Theta_n$ はアーベル群である。$\square$

滑らかな構造の分類としての $\Theta_n$

$n\ge5$ での解釈

$n\ge5$ とする。向き付けられた $n$ 次元のホモトピー球面 $\Sigma$、$\Sigma'$ について、$\Sigma\sim\Sigma'$ であることと、向きを保つ微分同相写像 $\Sigma\to\Sigma'$ があることは同値である。さらに、ホモトピー球面はすべて $S^n$ と同相である。したがって $\Theta_n$ は、$S^n$ と同相な向き付けられた滑らかな閉多様体の、向きを保つ微分同相類の全体と一対一に対応する。

向きを保つ微分同相写像 $\phi\colon\Sigma\to\Sigma'$ があれば、積 $\Sigma\times[0,1]$ の $1$ の側を $\phi$ で $\Sigma'$ と同一視したものが向き付けられた h 同境である。逆に $W$ を $\Sigma$ と $\Sigma'$ の向き付けられた h 同境とする。$W$、$\Sigma$、$\Sigma'$ は単連結で($\Sigma$ はホモトピー球面で、$W$ は $\Sigma$ とホモトピー同値)、$\dim W=n+1\ge6$ なので、h同境定理 の定理「h同境定理」により微分同相写像 $F\colon\Sigma\times[0,1]\to W$ で $F(x,0)=x$、$F(\Sigma\times1)=\Sigma'$ となるものがある。$\Sigma\times[0,1]$ に $F$ で $W$ の向きを引き戻すと、$\Sigma\times0$ の境界の向きは $\Sigma$ の向きで、積の両端の境界の向きは逆なので、$\Sigma\times1$ の境界の向きは $-\Sigma$ の向きである。一方 $\Sigma'$ の $W$ の境界としての向きは $-\Sigma'$ なので、$x\mapsto F(x,1)$ は向きを保つ微分同相写像 $\Sigma\to\Sigma'$ である。
ホモトピー球面が $S^n$ と同相であることは 一般次元のPoincaré予想 による。逆に $S^n$ と同相な滑らかな閉多様体はホモトピー球面である。$\square$

Kos93 Ch. VIII (5.5) Theorem・(5.6) Corollary(pp. 158–159)は、さらに $n\ge5$ ではすべてのホモトピー球面が、2 枚の $n$ 次元円板を境界の微分同相写像で貼ったもの(ねじれ球面)の形に書けることを示している。$n=4$ では h同境定理 が使えないので、thm-kmg-group は成り立っても、$\Theta_4$ から $S^4$ の上の滑らかな構造の分類は従わない。

Milnor の不変量による準同型

異種球面 の記事の定義「λ 不変量」は、$H^3(M)=H^4(M)=0$ をみたす向き付けられた滑らかな $7$ 次元閉多様体 $M$ に $\lambda(M)\in\mathbb{Z}/7$ を対応させる。ホモトピー $7$ 球面はこの条件をみたす。

λ は準同型 $\Theta_7\to\mathbb{Z}/7$ を与える

$\Sigma\mapsto\lambda(\Sigma)$ は全射準同型 $\lambda\colon\Theta_7\to\mathbb{Z}/7$ を引き起こす。とくに $\Theta_7$ の位数は $7$ の倍数で、$\Theta_7\ne0$ である。

異種球面 の記事の命題「λ の基本性質」を使う。その 4 の条件 $H^4(W,M;\mathbb{Q})=0$ は、Poincaré双対 の定理「Lefschetz 双対」により $H_4(W;\mathbb{Q})=0$ と同値である。
h 同境で不変。 $W$ を $\Sigma$ と $\Sigma'$ の向き付けられた h 同境とすると、$\partial W=\Sigma\sqcup(-\Sigma')$ で、$W$ は $\Sigma$ とホモトピー同値なので $H_4(W;\mathbb{Q})\cong H_4(\Sigma;\mathbb{Q})=0$ である。命題の 4・3・2 により
$$ 0=\lambda(\Sigma\sqcup(-\Sigma'))=\lambda(\Sigma)-\lambda(\Sigma') $$
である。よって $\lambda$ は $\Theta_7$ の上の写像として定まる。
加法的。 $\Sigma\times[0,1]$ と $\Sigma'\times[0,1]$ を、それぞれの $1$ の側の境界に沿って連結和でつないだ多様体 $W$(境界に沿った連結和。$1$ ハンドルを付けることと同じ)をとる。向きを込めて $\partial W=(\Sigma\#\Sigma')\sqcup(-\Sigma)\sqcup(-\Sigma')$ であり、$W$ は一点和 $\Sigma\vee\Sigma'$ とホモトピー同値である(KM63 §2 の Addendum、pp. 507–508、Lemma 4.4 の証明、p. 511。構成と境界は Kos93 Ch. VI (3.1) Theorem、p. 97)。$H_4(\Sigma\vee\Sigma';\mathbb{Q})=H_4(\Sigma;\mathbb{Q})\oplus H_4(\Sigma';\mathbb{Q})=0$ なので、命題の 4・3・2 により
$$ 0=\lambda(\Sigma\#\Sigma')-\lambda(\Sigma)-\lambda(\Sigma') $$
である。
全射。 異種球面 の記事の命題「$M_k$ の λ」により、$M_3$ は $S^7$ と同相(とくにホモトピー球面)で、$\lambda(M_3)=1$ である。$1$ は $\mathbb{Z}/7$ を生成するので $\lambda$ は全射で、$\lvert\Theta_7\rvert$ は $7$ の倍数である。$\square$

$\lvert\Theta_7\rvert=28$(thm-kmg-structure の後の表)なので、$\lambda$ の核は位数 $4$ の部分群である。

例

$\Theta_7$ の中の Milnor の球面

異種球面 の記事の $M_k$($k$ は奇数)はホモトピー $7$ 球面で、$\lambda(M_k)\equiv k^2-1\pmod7$ である。prop-kmg-lambda により、$[M_3]$ と $[M_5]$ の $\lambda$ の値は $1$ と $3$ なので、$\Theta_7$ の中で $[M_3]$、$[M_5]$、$[S^7]$ は互いに異なり、$[M_3]$ の位数は $7$ の倍数である。$[M_3]+[M_3]=[M_3\#M_3]$ の $\lambda$ は $2$ で、$M_3\#M_3$ も異種球面である。

低い次元

$n=1,2$ では $\Theta_n=0$ である(thm-kmg-group の後の注意)。$n=3$ では、単連結な $3$ 次元閉多様体は $S^3$ と同相であり(Perelman による Poincaré 予想の解決。Hat02 p. 390 の言及)、$3$ 次元以下では位相多様体の滑らかな構造は微分同相を除いて一意なので(KM63 p. 507 が Munkres・Whitehead を引く。Moiseの定理)、ホモトピー $3$ 球面は $S^3$ と微分同相であり、$\Theta_3=0$ である。$n=5,6$ では $\Theta_n=0$ で(上の表)、cor-kmg-structures により $S^5$、$S^6$ の上の滑らかな構造は一意である。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
単連結(lem-kmg-contractible)可縮な多様体の境界になる単連結でない多様体(Mazur)可縮な多様体の境界なら $S^n$ と h 同境
ホモトピー球面(thm-kmg-group)$S^1\times S^{n-1}$連結和について逆元をもつ
h 同境(微分同相)で類別する同相で類別した $M_3$ と $S^7$$\Theta_7\ne0$
反例:単連結でない境界

可縮な多様体の境界になる単連結でない閉多様体がある(Mazur。Kos93 Ch. VIII (5.2) Lemma の後の注意、p. 157。この記事では証明しない)。このような $M$ は $S^n$ と h 同境でない:h 同境なら $M$ は $W$ を介して $S^n$ とホモトピー同値になり、単連結になるからである。破れる条件は「$M$ は単連結」で、lem-kmg-contractible の証明では h 同境の判定に $M$ の単連結性を使っていた。

反例:ホモトピー球面でない多様体

$n\ge3$ とし、$M=S^1\times S^{n-1}$ とする。どんな $n$ 次元閉多様体 $N$ についても、lem-kmg-sum の 3 の証明と同じ Van Kampenの定理 の議論で $\pi_1(M\#N)\cong\pi_1(M)*\pi_1(N)$ となり(Kos93 Ch. VI §2、p. 94)、$\pi_1(M)\cong\mathbb{Z}$ なので $M\#N$ は単連結でない。したがって $M\#N$ は $S^n$ と h 同境でなく(h 同境なら $S^n$ とホモトピー同値)、$M$ は連結和について逆元をもたない。破れる条件は「ホモトピー球面」で、lem-kmg-inverse の証明では $\Sigma_0$ の可縮性を使っていた。

反例:同相で類別すると消える

ホモトピー $7$ 球面を同相で類別すると、cor-kmg-structures によりすべて $S^7$ と同じ類になり、得られる群は自明である。一方 prop-kmg-lambda により $\Theta_7\ne0$ で、$M_3$ と $S^7$ は異なる元である。$\Theta_n$ は滑らかな構造の違いを測る群で、h 同境($n\ge5$ では向きを保つ微分同相)で類別することが本質である。

補足

  • $bP_{n+1}$ と $\lambda$:$bP_{4m}$($m\ge2$)の 2 つの元 $\partial B_1$、$\partial B_2$($B_i$ は平行化可能)が等しいことは、符号数 $\sigma(B_1)$、$\sigma(B_2)$ がある整数 $\sigma_m$ を法として合同であることと同値である(KM63 Theorem 7.5、p. 529。符号数は $8$ の倍数になる、pp. 530–531)。$\lambda$ との関係は次のとおり:$B$ が平行化可能なら $p_1(B)=0$ なので $q(B)=0$ で、$\lambda(\partial B)\equiv-\sigma(B)\pmod7$ である。
  • Kervaire 不変量:$bP_{4m+2}$ が $0$ か $\mathbb{Z}/2$ かは、Arf 不変量が $1$ の閉じた安定平行化可能な多様体(π 多様体)があるかどうかで決まる(KM63 §8、pp. 535–536、Kos93 Ch. X (4.7)・(6.7) の後、pp. 210 と 219)。最初の場合は Kervaire多様体 の記事で扱う。
  • 異種球面の構成:$\Theta_n$ の構造の定理は、異種球面を具体的に作る方法を与えない。具体例は、Milnor の球面束(異種球面)と円板束の plumbing によるものが最初である(Kos93 Ch. X §7、p. 222)。

関連項目

参考文献

[2]
Antoni A. Kosinski, Differential Manifolds, Pure and Applied Mathematics 138, Academic Press, 1993, Ch. VI §1–§3:(1.4) Corollary とその前の注意(p. 94)、§2 の連結和の基本群とホモロジー(p. 94)、(3.1) Theorem(p. 97);§12 plumbing と M(4n)(p. 122);Ch. VIII (5.1) Lemma(p. 156)、(5.2) Lemma の後の注意(Mazur、p. 157)、(5.5) Theorem・(5.6) Corollary(pp. 158–159);Ch. X (4.7) Corollary(p. 210)、§6(bP^8 = Z_28、p. 216;Θ^7・Θ^9・Θ^10、pp. 218–219)、§7(p. 222)

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する