射影極限

同義語:inverse limitprojective limit逆極限射影的極限

概要

射影極限(inverse limit)とは、有向集合で添字づけられた対象の族 $(M_i)$ と逆向きの推移射 $\psi_{ji}\colon M_j\to M_i$($i\le j$)からなる射影系に対し、すべての段で両立する族 $(x_i)$ の全体として定まる対象 $\varprojlim M_i$ のことで、圏論的な極限の特別な場合である。集合や加群では直積 $\prod M_i$ の部分対象として構成される。加群の射影極限は左完全だが右完全ではなく、その障害 $\varprojlim^1$ は Mittag-Leffler 条件のもとで消える。$\mathbb{Z}_p=\varprojlim\mathbb{Z}/p^n$、形式的冪級数環、完備化、無限次 Galois 群、Tate 加群が代表例で、有限群の射影極限(副有限群)はコンパクトで全不連結である。帰納極限の双対である。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 有向集合, 加群, 完全列, 位相空間, 圏, 関手

定義

射影極限は、有向集合で添字づけられた対象の族を、逆向きの射でつないだ「近似の列」の行き着く先として 1 つの対象にまとめる操作である。帰納極限が「だんだん大きくなるものの和」であるのに対し、射影極限は「だんだん精密になる近似をすべて同時にみたすものの全体」であり、両者は互いに双対である。まず射影系と射影極限を普遍性で定義し、そのあと集合・加群・位相群における構成を与える。

射影系

$(I,\le)$ を有向集合(前順序をもち、任意の 2 元 $i,j\in I$ に対して $i\le k$ かつ $j\le k$ なる $k\in I$ が存在する空集合でない集合)とする。圏 $\mathcal{C}$ における $I$ 上の射影系(inverse system, projective system)とは、対象の族 $(M_i)_{i\in I}$ と、$i\le j$ なる各組に対する射 $\psi_{ji}\colon M_j\to M_i$(推移射という)の組であって、次をみたすものをいう。

  1. 各 $i\in I$ について $\psi_{ii}=\operatorname{id}_{M_i}$。
  2. $i\le j\le k$ ならば $\psi_{ji}\circ\psi_{kj}=\psi_{ki}$。
    推移射の向きが「大きい添字から小さい添字へ」である点が帰納系との違いである。射影系 $(M_i,\psi_{ji})$ から射影系 $(N_i,\chi_{ji})$ への射とは、射の族 $f_i\colon M_i\to N_i$ であって $i\le j$ のとき $f_i\circ\psi_{ji}=\chi_{ji}\circ f_j$ をみたすものをいう。

有向集合 $I$ を圏とみなし($i\le j$ のとき $i$ から $j$ への射がちょうど 1 本)、その反対圏を $I^{\mathrm{op}}$ と書くと、射影系はちょうど関手 $I^{\mathrm{op}}\to\mathcal{C}$ であり、射影系の射は自然変換である。

射影極限

$(M_i,\psi_{ji})$ を圏 $\mathcal{C}$ における有向集合 $I$ 上の射影系とする。対象 $M$ と射の族 $\pi_i\colon M\to M_i$($i\in I$)の組 $(M,(\pi_i)_i)$ が次の 2 条件をみたすとき、これを射影系の射影極限(inverse limit, projective limit)といい、$M=\varprojlim_{i\in I}M_i$ と書く。

  1. (両立性)$i\le j$ ならば $\psi_{ji}\circ\pi_j=\pi_i$。
  2. (普遍性)対象 $N$ と射の族 $\nu_i\colon N\to M_i$ が $i\le j$ のとき $\psi_{ji}\circ\nu_j=\nu_i$ をみたすならば、$\nu_i=\pi_i\circ\nu$(すべての $i$)をみたす射 $\nu\colon N\to M$ がただ 1 つ存在する。
    射 $\pi_i$ を標準射影という。
一意性と極限との関係

射影極限は、有向集合 $I$ の反対圏 $I^{\mathrm{op}}$ を添字圏とする極限(圏論)にほかならず、def-inverse-limit は関手 $I^{\mathrm{op}}\to\mathcal{C}$ の極限の定義を有向集合の場合に書き下したものである。したがって射影極限は、存在すれば標準射影と両立する同型を除いて一意である。証明は 極限(圏論) の記事の命題「錐を保つ同型までの一意性」に譲る(2 つの射影極限の普遍性から互いに逆向きの射を得て、合成が恒等射になることを普遍性の一意性の部分から導く)。同じ理由で、射影系の射 $(f_i)\colon(M_i)\to(N_i)$ は射影極限の間の射 $\varprojlim f_i\colon\varprojlim M_i\to\varprojlim N_i$($\pi'_i\circ\varprojlim f_i=f_i\circ\pi_i$ をみたすただ 1 つの射)を誘導し、$\varprojlim$ は $I$ 上の射影系の圏から $\mathcal{C}$ への関手になる。推移射の向きを逆にした帰納系の余極限(圏論)が帰納極限 $\varinjlim$ であり、両者の双対性の限界は rem-inverse-limit-duality で述べる。

集合・加群・位相群における構成

集合の射影極限の構成

$(M_i,\psi_{ji})$ を集合の圏における有向集合 $I$ 上の射影系とする。直積 $\prod_{i\in I}M_i$ の部分集合
$$ M:=\Bigl\{(x_i)_{i\in I}\in\prod_{i\in I}M_i\ \Bigm|\ i\le j\text{ ならば }\psi_{ji}(x_j)=x_i\Bigr\} $$
と、直積の射影の制限 $\pi_i\colon M\to M_i$、$(x_j)_j\mapsto x_i$ の組は、この射影系の射影極限である。$M$ の元を両立系(compatible family, coherent sequence)という。

両立性:$(x_j)_j\in M$ と $i\le j$ に対し $\psi_{ji}(\pi_j(x))=\psi_{ji}(x_j)=x_i=\pi_i(x)$。
普遍性:集合 $N$ と写像の族 $\nu_i\colon N\to M_i$ が $\psi_{ji}\circ\nu_j=\nu_i$($i\le j$)をみたすとする。$y\in N$ に対し $\nu(y):=(\nu_i(y))_{i\in I}\in\prod_iM_i$ とおくと、$i\le j$ のとき $\psi_{ji}(\nu_j(y))=\nu_i(y)$ なので $\nu(y)\in M$ であり、$\pi_i\circ\nu=\nu_i$ が成り立つ。逆に $\pi_i\circ\nu'=\nu_i$(すべての $i$)をみたす写像 $\nu'\colon N\to M$ は、$\nu'(y)$ の第 $i$ 成分が $\nu_i(y)$ であることから $\nu'=\nu$ である。$\square$

この構成では有向性を使っておらず、集合の射影極限は任意の半順序集合(さらに任意の小さい圏)を添字とする図式についても同じ式で構成できる。有向性が効くのは共終部分集合への制限(prop-inverse-limit-cofinal)と位相的な性質(prop-inverse-limit-compact)であり、帰納極限で有向性が構成の段階から本質的だったこと(帰納極限 の記事の命題「集合の帰納極限の構成」)と対照的である。

加群の射影極限の構成

$A$ を環(本記事では環はすべて可換環とする)、$(M_i,\psi_{ji})$ を $A$ 加群と $A$ 準同型からなる有向集合 $I$ 上の射影系とする。prop-inverse-limit-set の集合 $M=\{(x_i)\in\prod_iM_i\mid\psi_{ji}(x_j)=x_i\}$ は直積加群 $\prod_iM_i$ の部分加群であり、各 $\pi_i$ は $A$ 準同型である。この $(M,(\pi_i))$ は $A$ 加群の圏における射影極限である。さらに $M$ は、$A$ 準同型
$$ \Delta\colon\prod_{i\in I}M_i\longrightarrow\prod_{i\le j}M_i,\qquad (x_k)_k\longmapsto\bigl(x_i-\psi_{ji}(x_j)\bigr)_{i\le j} $$
の核 $\ker\Delta$ にほかならない(右辺の直積は $i\le j$ なる組 $(i,j)$ すべてにわたる)。

$(x_i),(y_i)\in M$、$a\in A$ に対し、$\psi_{ji}$ が $A$ 線型なので $\psi_{ji}(x_j+y_j)=x_i+y_i$、$\psi_{ji}(ax_j)=ax_i$。よって $M$ は部分加群であり、$\pi_i$ は直積の射影の制限なので $A$ 線型である。$M=\ker\Delta$ は定義の言い換えである。
普遍性:$A$ 加群 $N$ と両立する準同型の族 $\nu_i\colon N\to M_i$ に対し、prop-inverse-limit-set で得た写像 $\nu(y)=(\nu_i(y))_i$ は、各成分が $A$ 線型なので $A$ 線型である。一意性は集合の場合と同じである。$\square$

$\ker\Delta$ による記述は、射影極限が直積と等化子(加群の圏では核)から組み立てられることを示しており、極限(圏論) の記事の命題「積と等化子による構成」の特別な場合である。アーベル群の圏でも同じ構成が通用する($A=\mathbb{Z}$ の場合)。

位相群の射影極限の構成

$(G_i,\psi_{ji})$ を位相群と連続な群準同型からなる有向集合 $I$ 上の射影系とする。集合 $G=\{(x_i)\in\prod_iG_i\mid\psi_{ji}(x_j)=x_i\}$ に、直積位相をもつ $\prod_iG_i$ の部分群としての群構造と相対位相を入れたものは位相群であり、標準射影 $\pi_i\colon G\to G_i$ とともに位相群の圏における射影極限である。さらに各 $G_i$ が Hausdorff空間ならば $G$ は $\prod_iG_i$ の閉集合(閉部分群)である。

$G$ が $\prod_iG_i$ の部分群であることは、$\psi_{ji}$ が準同型であることから prop-inverse-limit-module と同様に従う。直積位相をもつ位相群の直積は位相群であり(積と逆元は成分ごとに連続写像)、位相群の部分群に相対位相を入れたものは位相群である。$\pi_i$ は連続写像(直積の射影)の制限なので連続である。
普遍性:位相群 $N$ と両立する連続準同型の族 $\nu_i\colon N\to G_i$ に対し、$\nu(y)=(\nu_i(y))_i$ は直積位相の普遍性(各成分が連続なら直積への写像は連続)により連続であり、prop-inverse-limit-module の議論により準同型で、$\pi_i\circ\nu=\nu_i$ をみたすただ 1 つの写像である。
閉性:$i\le j$ を固定すると、写像 $\prod_kG_k\to G_i\times G_i$、$(x_k)\mapsto(x_i,\psi_{ji}(x_j))$ は連続であり、$G_i$ が Hausdorff なので対角線集合 $\{(g,g)\}\subset G_i\times G_i$ は閉集合である。よってその逆像 $\{(x_k)\mid\psi_{ji}(x_j)=x_i\}$ は閉集合であり、$G$ はこれらの($i\le j$ にわたる)共通部分なので閉集合である。$\square$

同じ議論は位相空間・位相環・位相空間上の層など、直積と部分対象をもつ多くの圏で通用する。とくに位相空間の射影極限は直積の部分空間 $\{(x_i)\mid\psi_{ji}(x_j)=x_i\}$ である。

共終部分集合への制限

$(M_i,\psi_{ji})$ を集合(または加群・位相群)の有向集合 $I$ 上の射影系とし、$J\subset I$ を共終な部分集合(任意の $i\in I$ に対し $i\le j$ なる $j\in J$ が存在する。有向集合 の記事の定義「共終部分集合」)とする。このとき $J$ は $I$ から誘導される順序で有向集合であり、制限写像
$$ \rho\colon\varprojlim_{i\in I}M_i\longrightarrow\varprojlim_{j\in J}M_j,\qquad (x_i)_{i\in I}\longmapsto(x_j)_{j\in J} $$
は同型(集合の場合は全単射、位相群の場合は同相な同型)である。とくに、$I$ が可算な有向集合ならば、共終な列 $i_0\le i_1\le i_2\le\cdots$ をとることで $\varprojlim_{i\in I}M_i\cong\varprojlim_nM_{i_n}$ となる。

$J$ の有向性:$j,j'\in J$ に対し $I$ での上界 $k$ をとり、さらに共終性から $k\le j''\in J$ をとればよい。
逆写像の構成:$(y_j)_{j\in J}\in\varprojlim_JM_j$ に対し、$i\in I$ ごとに $i\le j$ なる $j\in J$ を選んで $x_i:=\psi_{ji}(y_j)$ とおく。これは $j$ の選び方によらない。実際 $i\le j,j'$($j,j'\in J$)なら $J$ での共通の上界 $j''$ をとって $\psi_{ji}(y_j)=\psi_{ji}(\psi_{j''j}(y_{j''}))=\psi_{j''i}(y_{j''})$ であり、$j'$ についても同じ値になる。両立性:$i\le i'$ のとき $i'\le j\in J$ をとれば $x_i=\psi_{ji}(y_j)=\psi_{i'i}(\psi_{ji'}(y_j))=\psi_{i'i}(x_{i'})$。$j\in J$ では $x_j=y_j$ なので $\rho((x_i))=(y_j)$、また $(x_i)\in\varprojlim_IM_i$ から出発すれば両立性により構成は元の $(x_i)$ を返す。よって $\rho$ は全単射で、加群の場合は線型、位相群の場合は逆写像も各成分が連続なので同相である。
可算な有向集合 $I=\{i_0,i_1,\dots\}$(番号づけは順序と無関係)については、$i'_0:=i_0$、$i'_{n+1}$ を $i'_n$ と $i_{n+1}$ の共通の上界にとれば $i'_0\le i'_1\le\cdots$ は共終であり、前半に帰着する。$\square$

直感

射影極限は「有限段の近似をすべて同時にみたす対象」である。もっとも素朴な場合は、減少する部分集合の列 $M_0\supset M_1\supset\cdots$ で、推移写像は包含写像、射影極限は共通部分 $\bigcap_nM_n$ である。推移写像が全射である典型は $\mathbb{Z}/p^{n+1}\to\mathbb{Z}/p^n$ のような「打ち切り」の列で、射影極限の元は「$p^n$ を法とした近似を矛盾なく精密化していった無限列」であり、どの有限段にも現れない新しい元(無限桁の $p$ 進展開)が生まれる。
帰納極限では有限個の元や等式に関する性質がすべて極限に遺伝した。射影極限では逆に、極限の元は各段への射影 $\pi_i$ で完全に決まる($\varprojlim M_i\subset\prod M_i$)が、各段の元が極限の元から来ているとは限らない($\pi_i$ は全射とは限らない)。「各段で解がある」ことと「すべての段で両立する解がある」ことの差が、射影極限が右完全でないこと(ex-inverse-limit-not-exact)や、空でない集合の射影極限が空になりうること(ex-inverse-limit-empty)の正体であり、その差を測るのが $\varprojlim^1$ である。この差が消えるための十分条件が Mittag-Leffler 条件(def-inverse-limit-mittag-leffler)で、有限群やコンパクト空間の射影系では自動的にみたされる。

例と反例

p進整数環と副有限完備化

$p$ を素数とし、$\mathbb{N}$ 上の射影系 $\cdots\to\mathbb{Z}/p^3\to\mathbb{Z}/p^2\to\mathbb{Z}/p\to\mathbb{Z}/p^0=0$(推移写像は自然な全射 $x\bmod p^{n+1}\mapsto x\bmod p^n$)の射影極限
$$ \mathbb{Z}_p:=\varprojlim_n\mathbb{Z}/p^n=\Bigl\{(x_n)_n\in\prod_n\mathbb{Z}/p^n\ \Bigm|\ x_{n+1}\equiv x_n\pmod{p^n}\Bigr\} $$
が p進整数環である。各 $\mathbb{Z}/p^n$ は環で推移写像は環準同型なので、$\mathbb{Z}_p$ は $\prod\mathbb{Z}/p^n$ の部分環である。

  1. 自然な写像 $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}_p$、$x\mapsto(x\bmod p^n)_n$ は単射である(すべての $n$ で $x\equiv0\pmod{p^n}$ なら $x=0$)。
  2. $\mathbb{Z}_p$ の元は $p$ 進展開で一意に表される。$(x_n)\in\mathbb{Z}_p$ に対し、桁 $d_0,\dots,d_{n-1}\in\{0,1,\dots,p-1\}$ が定まって $\sum_{k< n}d_kp^k$ が $x_n$ の代表元になっているとき、$x_{n+1}\equiv x_n\pmod{p^n}$ なので $x_{n+1}\equiv\sum_{k< n}d_kp^k+d_np^n\pmod{p^{n+1}}$ をみたす $d_n\in\{0,1,\dots,p-1\}$ がただ 1 つ存在する。逆に任意の桁の列 $(d_k)_k\in\{0,\dots,p-1\}^{\mathbb{N}}$ から $x_n:=\sum_{k< n}d_kp^k\bmod p^n$ により両立系が得られる。よって $\mathbb{Z}_p$ は $\{0,\dots,p-1\}^{\mathbb{N}}$ と一対一に対応し、非可算集合である。とくに $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}_p$ は全射でない。
  3. 各 $\mathbb{Z}/p^n$ に離散位相を入れた射影極限としての位相(prop-inverse-limit-topological-group)は、$p$ 進距離 $|x-y|_p=p^{-\max\{n\mid x_n=y_n\}}$ の定める位相と一致する。実際、両立系 $x$ の基本近傍は $\{y\mid y_n=x_n\}$(第 $n$ 成分が一致すれば $n$ 以下の成分も一致する)であり、これは閉球 $\{y\mid|x-y|_p\le p^{-n}\}$ である。$\mathbb{Z}_p$ はコンパクト空間であり(prop-inverse-limit-compact)、$\mathbb{Z}$ は $\mathbb{Z}_p$ で稠密である($x_n$ の代表元 $\tilde{x}\in\mathbb{Z}$ は $x$ と最初の $n$ 成分が一致する)。
    正の整数全体 $\mathbb{N}_{\ge1}$ に整除関係 $n\le m\iff n\mid m$ で順序を入れると有向集合であり($\operatorname{lcm}(n,m)$ が上界)、$n\mid m$ のとき自然な全射 $\mathbb{Z}/m\to\mathbb{Z}/n$ を推移写像とする射影系の射影極限
    $$ \hat{\mathbb{Z}}:=\varprojlim_n\mathbb{Z}/n $$
    を $\mathbb{Z}$ の副有限完備化という。中国剰余定理 $\mathbb{Z}/n\cong\prod_{p\mid n}\mathbb{Z}/p^{v_p(n)}$($v_p(n)$ は $n$ を割る $p$ の冪指数)により $\hat{\mathbb{Z}}\cong\prod_{p}\mathbb{Z}_p$ である。実際、$(x_n)_n\in\hat{\mathbb{Z}}$ に対し素数 $p$ ごとに $(x_{p^k})_k\in\mathbb{Z}_p$ であり、これで写像 $\hat{\mathbb{Z}}\to\prod_p\mathbb{Z}_p$ が定まる。逆に $(y^{(p)})_p\in\prod_p\mathbb{Z}_p$ に対し、各 $n$ で「すべての $p\mid n$ について $x_n\equiv y^{(p)}_{v_p(n)}\pmod{p^{v_p(n)}}$」をみたす $x_n\in\mathbb{Z}/n$ がただ 1 つ存在し、$n\mid m$ のとき $x_m\bmod n$ も同じ合同式をみたすので $(x_n)$ は両立系である。2 つの写像が互いに逆であることは中国剰余定理の一意性から従う。
形式冪級数環

$A$ を環とする。$\mathbb{N}$ 上の射影系 $\cdots\to A[t]/(t^3)\to A[t]/(t^2)\to A[t]/(t)=A$(推移写像は自然な全射)の射影極限は形式的冪級数環
$$ \varprojlim_nA[t]/(t^n)\cong A[\![t]\!] $$
である。実際 $A[t]/(t^n)$ の元は次数 $n$ 未満の多項式 $\sum_{k< n}a_kt^k$ でただ 1 通りに表され、推移写像は「次数 $n$ 以上の項を落とす」写像なので、両立系はちょうど係数の無限列 $(a_k)_{k\in\mathbb{N}}$、すなわち形式的冪級数 $\sum_ka_kt^k$ であり、環構造も一致する(積の第 $k$ 係数は次数 $k$ 以下の係数だけで決まる)。同様に $A[\![t_1,\dots,t_r]\!]=\varprojlim_nA[t_1,\dots,t_r]/(t_1,\dots,t_r)^n$ である。これは 形式的冪級数 の記事の命題「切り詰め多項式による復元」の射影極限による言い換えである。

イデアル進完備化

$A$ を環、$I\subset A$ をイデアル、$M$ を $A$ 加群とする。$\mathbb{N}$ 上の射影系 $\cdots\to M/I^3M\to M/I^2M\to M/IM$(推移写像は自然な全射)の射影極限
$$ \hat{M}:=\varprojlim_nM/I^nM $$
を $M$ の $I$ 進完備化という。$\hat{A}=\varprojlim A/I^n$ は環であり、$\hat{M}$ は $\hat{A}$ 加群である。ex-inverse-limit-p-adic は $A=\mathbb{Z}$、$I=(p)$ の場合、ex-inverse-limit-power-series は $A[t]$ と $I=(t)$ の場合である。
自然な写像 $M\to\hat{M}$ の核は $\bigcap_nI^nM$ である。$M$ に $I^nM$ を $0$ の基本近傍系とする $I$ 進位相を入れると、$\hat{M}$ はこの位相に関する完備化(Cauchy列の空間を零列で割ったもの)と同型であり、$\bigcap_nI^nM=0$ のとき $M\to\hat{M}$ は単射で、$\hat{M}$ は $M$ の完備 Hausdorff 化である(AM69 第 10 章)。
$A$ が Noether環で $M$ が有限生成加群のとき、次が成り立つ(AM69 第 10 章、命題 10.12〜10.14・定理 10.17 とその系・定理 10.26):有限生成加群の短完全列 $0\to M'\to M\to M''\to0$ に対し $0\to\hat{M}'\to\hat{M}\to\hat{M}''\to0$ は完全、$\hat{A}\otimes_AM\cong\hat{M}$、$\hat{A}$ は $A$ 上平坦加群、Krull の交叉定理 $\bigcap_nI^nM=\{x\in M\mid\text{ある }a\in I\text{ で }(1+a)x=0\}$、および $\hat{A}$ は Noether 環。証明の要点は、Artin–Rees の補題により部分加群 $M'\subset M$ 上の $I$ 進位相と $M$ から誘導される位相が一致し、誘導される射影系が全射的で Mittag-Leffler 条件(def-inverse-limit-mittag-leffler)をみたすことである。局所環 $(R,\mathfrak{m})$ の $\mathfrak{m}$ 進完備化 $\hat{R}$ は完備局所環であり、スキームの点における局所環の完備化 $\widehat{\mathcal{O}_{X,x}}$ は形式スキームの局所モデルになる。

Galois群の副有限性

$L/K$ を(無限次でもよい)Galois拡大とし、$K\subset E\subset L$ で $E/K$ が有限次 Galois 拡大であるような中間体 $E$ の全体を $\mathcal{E}$ とする。$\mathcal{E}$ は包含で順序づけると有向集合である(2 つの有限次 Galois 拡大の合成体は有限次 Galois 拡大)。$E\subset E'$ のとき制限写像 $\operatorname{Gal}(E'/K)\to\operatorname{Gal}(E/K)$($E/K$ が正規なので $E'$ の $K$ 自己同型は $E$ を保つ)を推移写像とする有限群の射影系が得られ、制限写像の族は群の同型
$$ \operatorname{Gal}(L/K)\xrightarrow{\ \sim\ }\varprojlim_{E\in\mathcal{E}}\operatorname{Gal}(E/K) $$
を与える。証明:$L$ の各元 $x$ は、その $K$ 上の共役元($L/K$ が正規なのですべて $L$ に属し、有限個である)が生成する有限次 Galois 拡大 $E_x\in\mathcal{E}$ に属する。単射性:$\sigma\in\operatorname{Gal}(L/K)$ がすべての $E\in\mathcal{E}$ 上で恒等なら、任意の $x\in L$ について $\sigma(x)=\sigma|_{E_x}(x)=x$。全射性:両立系 $(\sigma_E)_{E\in\mathcal{E}}$ に対し、$x\in L$ ごとに $x\in E$ なる $E\in\mathcal{E}$ をとって $\sigma(x):=\sigma_E(x)$ とおく。$x\in E,E'$ なら共通の上界 $E''\supset E\cup E'$ で $\sigma_E(x)=\sigma_{E''}(x)=\sigma_{E'}(x)$ なので well-defined であり、$x,y\in L$ に対し両方を含む $E$ をとれば $\sigma$ が和と積を保つことが従う。$\sigma$ は $K$ を固定する $L$ の自己準同型で、$\sigma^{-1}$ を $(\sigma_E^{-1})$ から同様に作れば自己同型であり、$\sigma|_E=\sigma_E$ をみたす。$\square$
各 $\operatorname{Gal}(E/K)$ に離散位相を入れて射影極限の位相を $\operatorname{Gal}(L/K)$ に移したものが Krull 位相であり、$\operatorname{Gal}(L/K)$ は有限群の射影極限(副有限群)としてコンパクト空間・Hausdorff・全不連結空間である(prop-inverse-limit-compact)。無限次 Galois 理論の基本定理は「$\operatorname{Gal}(L/K)$ の閉部分群と中間体が一対一に対応する」と述べられ、閉性の条件が本質的である(Ser02 I §1)。
有限体 $\mathbb{F}_q$ の代数閉包 $\bar{\mathbb{F}}_q=\bigcup_n\mathbb{F}_{q^n}$ では、$\operatorname{Gal}(\mathbb{F}_{q^n}/\mathbb{F}_q)$ は Frobenius 写像 $x\mapsto x^q$ の生成する位数 $n$ の巡回群 $\mathbb{Z}/n$ であり、$n\mid m$ のとき制限写像は Frobenius を Frobenius に送るので $\mathbb{Z}/m\to\mathbb{Z}/n$ の自然な全射に対応する。よって
$$ \operatorname{Gal}(\bar{\mathbb{F}}_q/\mathbb{F}_q)\cong\varprojlim_n\mathbb{Z}/n=\hat{\mathbb{Z}} $$
であり、Frobenius に対応する $1\in\hat{\mathbb{Z}}$ が生成する部分群 $\mathbb{Z}$ は稠密だが全体ではない($\hat{\mathbb{Z}}\cong\prod_p\mathbb{Z}_p$ は非可算)。

Tate加群とℓ進コホモロジー

$\ell$ を素数、$G$ をアーベル群とする。$\ell$ 倍写像 $G[\ell^{n+1}]\to G[\ell^n]$($G[m]:=\{g\in G\mid mg=0\}$)を推移写像とする射影系の射影極限 $T_\ell G:=\varprojlim_nG[\ell^n]$ が $G$ の Tate加群である。アーベル多様体 $A$ や楕円曲線については $G=A(\bar{k})$ にとり、$\ell$ が標数と異なるとき $T_\ell A$ は階数 $2\dim A$ の自由 $\mathbb{Z}_\ell$ 加群になる(Tate加群 の記事に譲る)。
同様に、スキーム $X$ の ℓ進コホモロジーは $H^i(X,\mathbb{Z}_\ell):=\varprojlim_nH^i(X_{\text{ét}},\mathbb{Z}/\ell^n)$ と定義される。これは層 $\mathbb{Z}_\ell$ のエタールコホモロジーではなく、有限係数のコホモロジー群の射影極限である。有限段の短完全列を射影極限に移す典型は、$\ell$ が $X$ 上可逆のとき Kummer完全列から得られる $0\to\operatorname{Pic}(X)/\ell^n\to H^2(X,\mu_{\ell^n})\to\operatorname{Br}(X)[\ell^n]\to0$ で、左の射影系 $(\operatorname{Pic}(X)/\ell^n)_n$ は推移写像が全射なので Mittag-Leffler 条件をみたし、cor-inverse-limit-finite により
$$ 0\longrightarrow\varprojlim_n\operatorname{Pic}(X)/\ell^n\longrightarrow H^2(X,\mathbb{Z}_\ell(1))\longrightarrow T_\ell\operatorname{Br}(X)\longrightarrow0 $$
は完全である。有限体や代数閉体上の固有スキームでは各 $H^i(X_{\text{ét}},\mathbb{Z}/\ell^n)$ が有限群なので、有限係数の任意の短完全列が同じ理由で射影極限に移る。

反例:射影極限は右完全でない

$p$ を素数とし、$\mathbb{N}$ 上のアーベル群の射影系の短完全列
$$ 0\longrightarrow(p^n\mathbb{Z})_n\longrightarrow(\mathbb{Z})_n\longrightarrow(\mathbb{Z}/p^n)_n\longrightarrow0 $$
を考える。推移写像は、左では包含 $p^{n+1}\mathbb{Z}\subset p^n\mathbb{Z}$、中央では恒等写像、右では自然な全射であり、各 $n$ で $0\to p^n\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/p^n\to0$ は完全である。$\varprojlim p^n\mathbb{Z}=\bigcap_np^n\mathbb{Z}=0$、$\varprojlim\mathbb{Z}=\mathbb{Z}$、$\varprojlim\mathbb{Z}/p^n=\mathbb{Z}_p$ なので、誘導される列 $0\to0\to\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}_p$ は左の 3 項で完全(thm-inverse-limit-left-exact)だが、$\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}_p$ は全射でない(ex-inverse-limit-p-adic の 2)。すなわち射影極限は「各段で全射」から「極限で全射」を導かず、帰納極限 の記事の定理「帰納極限の完全性」の双対は成り立たない。
この例が破っているのは Mittag-Leffler 条件(def-inverse-limit-mittag-leffler)である:左の射影系 $(p^n\mathbb{Z})$ で像 $\operatorname{im}(p^m\mathbb{Z}\to p^n\mathbb{Z})=p^m\mathbb{Z}$ は $m$ について真に減少し続け安定しない。prop-inverse-limit-six-term の完全列
$$ 0\to0\to\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}_p\to\varprojlim{}^1p^n\mathbb{Z}\to\varprojlim{}^1\mathbb{Z}\to\varprojlim{}^1\mathbb{Z}/p^n\to0 $$
において $(\mathbb{Z})_n$ と $(\mathbb{Z}/p^n)_n$ は推移写像が全射なので $\varprojlim^1=0$(thm-inverse-limit-mittag-leffler)、したがって
$$ \varprojlim{}^1_np^n\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}_p/\mathbb{Z}\neq0 $$
である。これは $\varprojlim^1\neq0$ の最も基本的な例である(Wei94 §3.5)。

反例:空でない集合の射影極限が空になる例

$X_n:=\{m\in\mathbb{N}\mid m\ge n\}$ とし、包含写像 $X_{n+1}\subset X_n$ を推移写像とする $\mathbb{N}$ 上の集合の射影系を考える。各 $X_n$ は空でなく推移写像は単射だが、射影極限は $\bigcap_nX_n=\emptyset$ である。よって「各段が空でない」ことから「極限が空でない」ことは従わず、標準射影 $\pi_n\colon\varprojlim X_m\to X_n$ は全射でない。この例が破っているのは推移写像の全射性であり、可算添字で推移写像がすべて全射なら極限は空でなく各 $\pi_n$ は全射である(thm-inverse-limit-mittag-leffler の証明の第 1 段と同じ帰納的構成)。また各 $X_n$ が空でない有限集合(より一般にコンパクト Hausdorff 空間)なら、推移写像が全射でなくても極限は空でない(prop-inverse-limit-compact の 2)。

性質

以下、$A$ は環、添字集合 $I$ は有向集合とし、射影系はことわらない限り $A$ 加群の射影系とする。射影系の列 $0\to(M'_i)\to(M_i)\to(M''_i)\to0$ が完全であるとは、各 $i$ で $0\to M'_i\to M_i\to M''_i\to0$ が完全列であることをいう。

Homと核との交換
  1. $N$ を $A$ 加群とすると、$\operatorname{Hom}_A(N,\varprojlim_iM_i)\cong\varprojlim_i\operatorname{Hom}_A(N,M_i)$。ここで右辺は $\operatorname{Hom}(N,\psi_{ji})$ を推移写像とする射影系の射影極限である。
  2. 射影系の射 $(f_i)\colon(M_i)\to(N_i)$ に対し、$(\ker f_i)_i$ は推移写像の制限により射影系であり、$\varprojlim_i\ker f_i=\ker(\varprojlim_if_i)$。

1 は射影極限の普遍性の言い換えである。$\operatorname{Hom}(N,\varprojlim M_i)$ の元 $\nu$ は両立する族 $(\pi_i\circ\nu)_i$ を定め、逆に両立する族 $(\nu_i)_i$ はただ 1 つの $\nu$ を定める。両立する族の全体がちょうど右辺の射影極限($\prod_i\operatorname{Hom}(N,M_i)$ の中で推移写像と両立する族の集合)である。
2:$\psi_{ji}(\ker f_j)\subset\ker f_i$ は $f_i\circ\psi_{ji}=\chi_{ji}\circ f_j$ から従う。$(x_i)\in\varprojlim M_i$ に対し $(\varprojlim f_i)((x_i))=(f_i(x_i))_i$ なので、$(x_i)\in\ker(\varprojlim f_i)$ $\iff$ すべての $i$ で $f_i(x_i)=0$ $\iff$ $(x_i)\in\prod_i\ker f_i\cap\varprojlim M_i=\varprojlim\ker f_i$。$\square$

概念的には、$\operatorname{Hom}_A(N,-)$ は $N\otimes_A-$ の右随伴関手であり、右随伴はすべての極限を保つ(極限(圏論) の記事の命題「右随伴は極限を保存する」)。また極限どうしは交換するので、射影極限は直積・核・射影極限と交換する(Mac98 IX.2)。一方 $\operatorname{Hom}(\varprojlim M_i,N)$ は一般に $\varinjlim\operatorname{Hom}(M_i,N)$ と一致しない($M_n=\mathbb{Z}/p^n$、$N=\mathbb{Z}_p$ に対し $\operatorname{End}(\mathbb{Z}_p)\neq0$ だが、$\mathbb{Z}_p$ は捩れをもたないので $\operatorname{Hom}(\mathbb{Z}/p^n,\mathbb{Z}_p)=0$)。帰納極限側の等式 $\operatorname{Hom}(\varinjlim M_i,N)\cong\varprojlim\operatorname{Hom}(M_i,N)$ は 帰納極限 の記事の命題「Homとの交換」に譲る。

射影極限の左完全性

$A$ 加群の有向集合 $I$ 上の射影系の完全列 $0\to(M'_i)\xrightarrow{(f_i)}(M_i)\xrightarrow{(g_i)}(M''_i)\to0$ に対し、誘導される列
$$ 0\longrightarrow\varprojlim M'_i\xrightarrow{\ f\ }\varprojlim M_i\xrightarrow{\ g\ }\varprojlim M''_i $$
は完全である。すなわち $\varprojlim$ は左完全関手(完全関手)である。一般には $g$ は全射でない(ex-inverse-limit-not-exact)。

$f((x'_i))=(f_i(x'_i))_i$、$g((x_i))=(g_i(x_i))_i$ である。
$f$ の単射性:$(f_i(x'_i))_i=0$ なら各 $i$ で $f_i(x'_i)=0$、$f_i$ が単射なので $x'_i=0$。
$\operatorname{im}f=\ker g$:$g\circ f=\varprojlim(g_i\circ f_i)=0$ より $\operatorname{im}f\subset\ker g$。逆に $(x_i)\in\ker g$ とすると各 $i$ で $g_i(x_i)=0$ なので、$M_i$ での完全性から $x_i=f_i(x'_i)$ となる $x'_i\in M'_i$ がただ 1 つ($f_i$ が単射なので)存在する。$i\le j$ のとき $f_i(\psi'_{ji}(x'_j))=\psi_{ji}(f_j(x'_j))=\psi_{ji}(x_j)=x_i=f_i(x'_i)$ であり、$f_i$ の単射性から $\psi'_{ji}(x'_j)=x'_i$。よって $(x'_i)\in\varprojlim M'_i$ であり、$f((x'_i))=(x_i)$(これは prop-inverse-limit-hom の 2 の言い換えでもある)。全射性が従わない理由は、$(x''_i)\in\varprojlim M''_i$ に対し各段で持ち上げ $x_i\in g_i^{-1}(x''_i)$ を選べても、その族が両立するように選べるとは限らないことにある。$\square$

導来関手 $\varprojlim^1$ と Mittag-Leffler 条件

$\varprojlim$ が右完全性を失う度合いを測るのが $\varprojlim^1$ である。本節では添字集合を $\mathbb{N}$(またはそれと共終な可算有向集合。prop-inverse-limit-cofinal)に限り、射影系を $(A_n,\rho_n\colon A_{n+1}\to A_n)_{n\in\mathbb{N}}$ と書く($\psi_{mn}=\rho_n\circ\cdots\circ\rho_{m-1}$)。

lim1

$\mathbb{N}$ 上の $A$ 加群の射影系 $(A_n,\rho_n)$ に対し、$A$ 準同型
$$ \Delta\colon\prod_{n\in\mathbb{N}}A_n\longrightarrow\prod_{n\in\mathbb{N}}A_n,\qquad (a_n)_n\longmapsto\bigl(a_n-\rho_n(a_{n+1})\bigr)_n $$
を考える。$\ker\Delta=\{(a_n)\mid a_n=\rho_n(a_{n+1})\}=\varprojlim_nA_n$ であり($a_n=\rho_n(a_{n+1})$ がすべての $n$ で成り立てば、合成により任意の $m\ge n$ で $a_n=\psi_{mn}(a_m)$)、
$$ \varprojlim{}^1_nA_n:=\operatorname{coker}\Delta=\prod_nA_n\Bigm/\operatorname{im}\Delta $$
と定める。射影系の射 $(f_n)$ は $\prod f_n$ を通じて $\varprojlim^1f_n\colon\varprojlim^1A_n\to\varprojlim^1B_n$ を誘導し、$\varprojlim^1$ は関手である。

導来関手としての解釈

$\mathbb{N}$ 上の $A$ 加群の射影系の全体はアーベル圏をなし、十分多くの入射対象をもつ。$\varprojlim$ はこの圏から $A$ 加群の圏への左完全関手(thm-inverse-limit-left-exact)であり、その右導来関手 $R^i\varprojlim$ について、$R^1\varprojlim$ は def-inverse-limit-lim1 の $\varprojlim^1$ と一致し、$R^i\varprojlim=0$($i\ge2$)である(Wei94 §3.5)。$\varprojlim^1$ は $\lim^1$、$R^1\lim$ とも書かれる。可算でない添字集合の上でも $R^i\varprojlim$ は定義されるが、$i\ge2$ で消えるとは限らず、以下の議論もそのままでは通用しない。本記事は可算添字に限る。

6項完全列

$\mathbb{N}$ 上の $A$ 加群の射影系の完全列 $0\to(A'_n)\to(A_n)\to(A''_n)\to0$ に対し、自然な完全列
$$ 0\to\varprojlim A'_n\to\varprojlim A_n\to\varprojlim A''_n\xrightarrow{\ \delta\ }\varprojlim{}^1A'_n\to\varprojlim{}^1A_n\to\varprojlim{}^1A''_n\to0 $$
が存在する。

射影系の射 $(f_n)\colon(A'_n)\to(A_n)$、$(g_n)\colon(A_n)\to(A''_n)$ は直積の準同型 $\prod f_n$、$\prod g_n$ を定め、各 $n$ での完全性から $0\to\prod A'_n\to\prod A_n\to\prod A''_n\to0$ は完全である(核・像は成分ごとに計算される)。$\Delta'$、$\Delta$、$\Delta''$ をそれぞれの射影系の def-inverse-limit-lim1 の写像とすると、$f_n\circ\rho'_n=\rho_n\circ f_{n+1}$ から $\Delta\circ\prod f_n=\prod f_n\circ\Delta'$ であり、$g$ についても同様なので、横の行が完全な可換図式
$$ \begin{aligned} &0\longrightarrow\prod A'_n\longrightarrow\prod A_n\longrightarrow\prod A''_n\longrightarrow0\\ &\phantom{0\longrightarrow{}}\Delta'\downarrow\qquad\quad\ \Delta\downarrow\qquad\quad\ \Delta''\downarrow\\ &0\longrightarrow\prod A'_n\longrightarrow\prod A_n\longrightarrow\prod A''_n\longrightarrow0 \end{aligned} $$
が得られる。蛇の補題により、核と余核をつなぐ完全列
$$ 0\to\ker\Delta'\to\ker\Delta\to\ker\Delta''\xrightarrow{\ \delta\ }\operatorname{coker}\Delta'\to\operatorname{coker}\Delta\to\operatorname{coker}\Delta''\to0 $$
が得られ、def-inverse-limit-lim1 により核は $\varprojlim$、余核は $\varprojlim^1$ である。左端の $0$ は $\prod f_n$ の単射性から、右端の $0$ は $\prod g_n$ の全射性から従う。$\square$

Mittag-Leffler条件

有向集合 $I$ 上の射影系 $(A_i,\psi_{ji})$ が Mittag-Leffler 条件をみたすとは、各 $i\in I$ に対して $j\ge i$ が存在し、任意の $k\ge j$ について
$$ \operatorname{im}(\psi_{ki}\colon A_k\to A_i)=\operatorname{im}(\psi_{ji}\colon A_j\to A_i) $$
が成り立つことをいう($A_i$ における像の減少族 $\{\operatorname{im}\psi_{ki}\}_{k\ge i}$ が「十分先で安定する」)。安定した像 $\bigcap_{k\ge i}\operatorname{im}\psi_{ki}=\operatorname{im}\psi_{ji}$ を $A_i^{\mathrm{st}}$ と書く。次の場合には Mittag-Leffler 条件が成り立つ。

  1. 推移写像がすべて全射のとき(像はつねに $A_i$ 全体)。
  2. 各 $A_i$ が部分加群の降鎖条件をみたす(Artin加群である)とき。とくに各 $A_i$ が有限群、または体上の有限次元ベクトル空間のとき。
Mittag-Leffler条件のもとでの消滅

$\mathbb{N}$ 上の $A$ 加群の射影系 $(A_n,\rho_n)$ が Mittag-Leffler 条件をみたせば $\varprojlim^1_nA_n=0$ である。とくに推移写像がすべて全射なら $\varprojlim^1A_n=0$ であり、さらにそのとき各標準射影 $\pi_n\colon\varprojlim A_m\to A_n$ は全射である。

第 1 段(推移写像が全射の場合):$(c_n)\in\prod A_n$ に対し、$b_n-\rho_n(b_{n+1})=c_n$(すべての $n$)をみたす $(b_n)$ を作ればよい。$b_0:=0$ とおき、$b_n$ まで定まったとき、$\rho_n$ の全射性により $\rho_n(b_{n+1})=b_n-c_n$ をみたす $b_{n+1}$ を選ぶ。帰納的に $(b_n)$ が得られ $\Delta((b_n))=(c_n)$ なので、$\Delta$ は全射で $\varprojlim^1A_n=0$。標準射影の全射性:$x\in A_n$ に対し、$m< n$ では $x_m:=\psi_{nm}(x)$、$x_n:=x$ とおき、$m\ge n$ については $\rho_m$ の全射性により $\rho_m(x_{m+1})=x_m$ をみたす $x_{m+1}$ を帰納的に選べば、$(x_m)\in\varprojlim A_m$ で $\pi_n((x_m))=x$。
第 2 段(十分先で $0$ になる場合):射影系 $(C_n)$ が「各 $n$ に対しある $m\ge n$ で $\psi_{mn}=0$」をみたすとする。$(c_n)\in\prod C_n$ に対し
$$ b_n:=\sum_{k\ge n}\psi_{kn}(c_k) $$
とおく。仮定によりこの和は有限和である。このとき
$$ b_n-\rho_n(b_{n+1})=c_n+\sum_{k\ge n+1}\psi_{kn}(c_k)-\sum_{k\ge n+1}\rho_n(\psi_{k,n+1}(c_k))=c_n $$
($\rho_n\circ\psi_{k,n+1}=\psi_{kn}$)なので $\Delta$ は全射で $\varprojlim^1C_n=0$。また $(x_n)\in\varprojlim C_n$ なら $x_n=\psi_{mn}(x_m)=0$ なので $\varprojlim C_n=0$。
第 3 段(一般の場合):$B_n:=A_n^{\mathrm{st}}\subset A_n$ を安定した像とする。$m$ を十分大きくとれば $B_n=\operatorname{im}\psi_{mn}$、$B_{n+1}=\operatorname{im}\psi_{m,n+1}$ なので、$\rho_n(B_{n+1})=\rho_n(\psi_{m,n+1}(A_m))=\psi_{mn}(A_m)=B_n$ である。よって $(B_n)$ は推移写像 $\rho_n|_{B_{n+1}}$ が全射な部分射影系であり、第 1 段により $\varprojlim^1B_n=0$。商の射影系 $C_n:=A_n/B_n$ について、$n$ に対し $B_n=\operatorname{im}\psi_{mn}$ となる $m$ をとれば、誘導される $C_m\to C_n$ は $\operatorname{im}(A_m\to A_n)=B_n$ を $0$ に送るので零写像であり、$(C_n)$ は第 2 段の仮定をみたす。したがって $\varprojlim^1C_n=0$。射影系の完全列 $0\to(B_n)\to(A_n)\to(C_n)\to0$ に prop-inverse-limit-six-term を適用すると $\varprojlim^1B_n\to\varprojlim^1A_n\to\varprojlim^1C_n$ は完全で、両端が $0$ なので $\varprojlim^1A_n=0$。$\square$

有限群・Artin加群の射影系の完全性

$\mathbb{N}$ 上の $A$ 加群の射影系の完全列 $0\to(A'_n)\to(A_n)\to(A''_n)\to0$ において $(A'_n)$ が Mittag-Leffler 条件をみたす(たとえば各 $A'_n$ が有限群、体上の有限次元ベクトル空間、Artin 加群、または $(A'_n)$ の推移写像がすべて全射)ならば、
$$ 0\longrightarrow\varprojlim A'_n\longrightarrow\varprojlim A_n\longrightarrow\varprojlim A''_n\longrightarrow0 $$
は完全である。とくに、有限群からなる射影系の短完全列は射影極限をとっても完全である。

prop-inverse-limit-six-term の完全列で $\varprojlim^1A'_n=0$(thm-inverse-limit-mittag-leffler)なので、$\varprojlim A_n\to\varprojlim A''_n$ は全射である。左側の完全性は thm-inverse-limit-left-exact による。$\square$

この系は、有限係数のコホモロジーの完全列から $\ell$ 進係数の完全列を得るとき(ex-inverse-limit-l-adic)や、Noether 環上の有限生成加群の完備化が完全関手であること(ex-inverse-limit-completion)に用いられる。

位相と副有限群

射影極限の位相的性質

$(X_i,\psi_{ji})$ を位相空間と連続写像からなる有向集合 $I$ 上の射影系とし、$X=\varprojlim X_i\subset\prod_iX_i$ に相対位相を入れる。

  1. 各 $X_i$ がコンパクト空間かつ Hausdorff 空間ならば、$X$ は $\prod_iX_i$ の閉集合であり、コンパクト Hausdorff 空間である。
  2. 1 の仮定のもとで、さらに各 $X_i$ が空でなければ $X$ は空でない。
  3. 各 $X_i$ が全不連結空間ならば $X$ も全不連結である。とくに、有限離散空間(有限群に離散位相を入れたもの)の射影極限は、コンパクト・Hausdorff・全不連結な空間(位相群)である。このような位相群を副有限群という。

1:閉性は prop-inverse-limit-topological-group の証明と同じである(群構造は使っていない)。Tychonoffの定理により $\prod_iX_i$ はコンパクトであり、コンパクト空間の閉集合はコンパクト、Hausdorff 空間の直積・部分空間は Hausdorff である。
2:$k\in I$ に対し $Z_k:=\{(x_i)\in\prod_iX_i\mid i\le k\text{ ならば }\psi_{ki}(x_k)=x_i\}$ とおく。$Z_k$ は 1 と同じ理由で閉集合であり、空でない($x_k\in X_k$ を任意にとり、$i\le k$ では $x_i:=\psi_{ki}(x_k)$、それ以外の $i$ では $x_i$ を任意にとればよい)。$k\le k'$ ならば $Z_{k'}\subset Z_k$ である($(x_i)\in Z_{k'}$ と $i\le k$ に対し $\psi_{ki}(x_k)=\psi_{ki}(\psi_{k'k}(x_{k'}))=\psi_{k'i}(x_{k'})=x_i$)。よって有限個の $k_1,\dots,k_r$ の共通の上界 $k$ をとれば $Z_{k_1}\cap\cdots\cap Z_{k_r}\supset Z_k\neq\emptyset$ であり、閉集合の族 $\{Z_k\}_{k\in I}$ は有限交叉性をもつ。$\prod X_i$ はコンパクトなので $\bigcap_kZ_k\neq\emptyset$ であり、$\bigcap_kZ_k=X$ なので $X\neq\emptyset$。
3:$C\subset X$ を連結空間である部分集合とすると、各 $\pi_i(C)\subset X_i$ は連結(連続像)なので 1 点である。よって $C$ の元は各成分が一定、すなわち $C$ は 1 点である。有限離散空間はコンパクト・Hausdorff・全不連結なので、最後の主張は 1〜3 から従う。$\square$

$\mathbb{Z}_p$、$\hat{\mathbb{Z}}$、Galois 群(ex-inverse-limit-p-adic、ex-inverse-limit-galois)はいずれも副有限群である。逆に、コンパクト・Hausdorff・全不連結な位相群 $G$ は、その開正規部分群 $N$(包含の逆で順序づける)による有限商の射影極限 $G\cong\varprojlim_NG/N$ と標準的に同型である(Ser02 I §1)。副有限群では開部分群はちょうど有限指数の閉部分群であり、Galois 理論の「閉部分群」の条件はこの位相で述べられる。

帰納極限との双対

射影極限と帰納極限は圏論的に双対であり、def-inverse-limit・rem-inverse-limit-unique・prop-inverse-limit-hom の 1 は、射の向きを逆にすれば 帰納極限 の記事の定義・一意性・命題「Homとの交換」の 1 になる。しかし構成と完全性は双対でない。帰納極限は「$\bigsqcup M_i$ を同値関係で割った商」で構成され元は「ある $M_i$ の元の類」であるのに対し、射影極限は「$\prod M_i$ の部分対象」で構成され元は「両立系」である。また加群の帰納極限は完全関手だが、射影極限は左完全にすぎず $\varprojlim^1$ が現れる(thm-inverse-limit-left-exact、ex-inverse-limit-not-exact)。
有限アーベル群の $\mathbb{N}$ 上の射影系 $(A_n)$ に対し、Pontryagin双対 $A_n^\vee:=\operatorname{Hom}(A_n,\mathbb{Q}/\mathbb{Z})$ は帰納系をなし、$(\varprojlim A_n)^\vee\cong\varinjlim A_n^\vee$(左辺は連続準同型の群)である。たとえば $\mathbb{Z}_p=\varprojlim\mathbb{Z}/p^n$ と $\mathbb{Q}_p/\mathbb{Z}_p=\varinjlim\mathbb{Z}/p^n$(帰納極限 の記事の例「捩れ群と代数閉包」)は互いに Pontryagin 双対であり、$\operatorname{Hom}(\mathbb{Q}_p/\mathbb{Z}_p,\mathbb{Q}/\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}_p$ である。圏の中に極限が存在しなくても、射影系そのものを対象とみなす圏(Pro対象の圏)を考えることができ、帰納系に対する Ind対象と双対である。

スキームの射影極限

スキームの圏では、アフィンスキームの射影系 $\operatorname{Spec}A_i$($(A_i)$ は環の帰納系)の射影極限が存在し、$\varprojlim\operatorname{Spec}A_i=\operatorname{Spec}(\varinjlim A_i)$ である(Stacks Limits of Schemes 章)。とくに点 $x\in X$ の局所環について、$x$ を含むアフィン開近傍 $U$(包含の逆で順序づける)に対し $\operatorname{Spec}\mathcal{O}_{X,x}=\varprojlim_{U\ni x}U$ であり、Hensel局所環や狭義Hensel局所環のスペクトルもアフィンなエタール近傍の射影極限である。有限表示の対象(連接層、Azumaya代数など)や射の性質はこうした射影極限からある有限段 $U$ へ広がり(Stacks Limits of Schemes 章の Descending properties の節)、局所環の上で示した性質を近傍に延ばすこの議論は Brauer群の局所的な計算で繰り返し用いられる。

関連項目

参考文献

[1]
Michael F. Atiyah, Ian G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley(Westview Press 版), 1969, Chapter 10($I$ 進完備化、Artin–Rees の補題、Krull の交叉定理、完備化の完全性)
[2]
Charles A. Weibel, An Introduction to Homological Algebra, Cambridge University Press, 1994, §3.5($\varprojlim^1$、Mittag-Leffler 条件、導来関手としての解釈、Milnor 型完全列)
[3]
Saunders Mac Lane, Categories for the Working Mathematician, Springer, 1998, III.4(極限)、V.5(随伴と極限の保存)、IX.2(極限の交換)
[4]
Jean-Pierre Serre, Galois Cohomology (corrected second printing), Springer, Springer Monographs in Mathematics, 2002, I §1(副有限群:有限群の射影極限としての特徴づけ、Krull 位相、無限次 Galois 理論)
[5]
The Stacks Project Authors, The Stacks Project, The Stacks Project Authors, 閲覧日 2026年9月22日

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