n次方程式の解と係数の関係(Vieta's formulas for polynomials of degree n)とは、多項式 $f(t)=a_nt^n+\cdots+a_0$($a_n\ne0$)が $f(t)=a_n(t-\alpha_1)\cdots(t-\alpha_n)$ と分解されるとき、根の $k$ 次の基本対称式が $e_k(\alpha_1,\dots,\alpha_n)=(-1)^ka_{n-k}/a_n$ になることである。2 次では $\alpha+\beta=-\frac ba$、$\alpha\beta=\frac ca$ になる。証明は $(t-x_1)\cdots(t-x_n)$ の展開の項を、$-x_i$ を選ぶ因子の数で分類する。根は重複を込めて数える。零因子のある $\mathbb{Z}/8\mathbb{Z}$ では根の集合から関係を読めない。
前提知識: 2次方程式, 多項式, 剰余の定理と因数定理, 複素数
2 次方程式 $ax^2+bx+c=0$($a\ne0$)の 2 つの解を $\alpha,\beta$ とすると
$$
\alpha+\beta=-\frac ba,\qquad\alpha\beta=\frac ca
$$
が成り立つ。これを解と係数の関係という。3 次方程式 $ax^3+bx^2+cx+d=0$($a\ne0$)の 3 つの解 $\alpha,\beta,\gamma$ については
$$
\alpha+\beta+\gamma=-\frac ba,\qquad\alpha\beta+\beta\gamma+\gamma\alpha=\frac ca,\qquad\alpha\beta\gamma=-\frac da
$$
である。方程式の解は根(こん)ともいうので、「根と係数の関係」ともいう。まず、解を実際に求めて確かめてみる。
$(x-1)(x-2)(x-3)$ を展開すると $x^3-6x^2+11x-6$ である。方程式 $x^3-6x^2+11x-6=0$ の解は $1,2,3$ で
この関係の典型的な使い方は、解を求めずに解の式の値を求めることである。
$x^2-3x+1=0$ の解を $\alpha,\beta$ とする。解と係数の関係から $\alpha+\beta=3$、$\alpha\beta=1$ である。
ここで次の問いが生じる。
| 高校の計算 | この記事の言葉 | 大学の言葉 |
|---|---|---|
| $ax^2+bx+c=a(x-\alpha)(x-\beta)$ | 1 次式の積への分解 | 多項式の因数分解(代数学の基本定理) |
| $\alpha+\beta$、$\alpha\beta$ | 基本対称式 $e_1,e_2$ | 根の基本対称式 |
| 係数を比べる | 展開の項を選び方で数える | 恒等式の係数比較 |
| 重解は 2 回数える | 重複を込めて数えた根 | 根の重複度 |
証明の出発点は、方程式の左辺を 1 次式の積に分解することである。$\alpha,\beta$ が $ax^2+bx+c=0$ の 2 つの解(重解なら $\alpha=\beta$)であるとは、
$$
ax^2+bx+c=a(x-\alpha)(x-\beta)
$$
が $x$ についての恒等式として成り立つことだと約束する。これは、高校で重解を 2 回数えるのと同じ約束である。実際、剰余の定理と因数定理により、$\alpha$ が解なら $ax^2+bx+c$ は $x-\alpha$ で割り切れ、商は $x^2$ の係数が $a$ の 1 次式 $a(x-\beta)$ になる。この $\beta$ がもう 1 つの解である。
$ax^2+bx+c=a(x-\alpha)(x-\beta)$($a\ne0$)が恒等式として成り立つならば、$\alpha+\beta=-\frac ba$、$\alpha\beta=\frac ca$ である。
段 1(展開)。右辺を展開すると
$$
a(x-\alpha)(x-\beta)=a\bigl\{x^2-(\alpha+\beta)x+\alpha\beta\bigr\}=ax^2-a(\alpha+\beta)x+a\alpha\beta
$$
である。
段 2(係数を比べる)。2 つの多項式が恒等式として等しいとき、同じ次数の項の係数は等しい(恒等式と未定係数法)。$x$ の係数を比べて $b=-a(\alpha+\beta)$、定数項を比べて $c=a\alpha\beta$ である。
段 3(割る)。$a\ne0$ なので両辺を $a$ で割って、$\alpha+\beta=-\frac ba$、$\alpha\beta=\frac ca$ を得る。$\square$
解の公式を使っても同じ結果が出る。判別式を $D=b^2-4ac$ とし、$\sqrt D$ を 2 乗して $D$ になる数($D<0$ なら $\sqrt D=\sqrt{-D}\,i$)とすると、2 つの解は $\frac{-b\pm\sqrt D}{2a}$ である。
判別式 $D$ が $(\alpha-\beta)^2$ を $a^2$ 倍したものになること($D=a^2(\alpha-\beta)^2$)など、判別式と解の関係は 判別式(高校数学) で扱う。
この関係を $(\alpha-\beta)^2=(\alpha+\beta)^2-4\alpha\beta$ と解と係数の関係から導くことは 2次方程式の判別式の正体 で扱う。
解と係数の関係を逆に使うと、与えられた 2 数を解にもつ 2 次方程式が作れる。$p,q$ を解にもつ 2 次方程式の 1 つは $(x-p)(x-q)=x^2-(p+q)x+pq=0$ である。
$x^2-3x+1=0$ の解を $\alpha,\beta$ とする($\alpha+\beta=3$、$\alpha\beta=1$)。
放物線 $y=ax^2+bx+c$ の軸は $x=-\frac b{2a}$ である。解と係数の関係により、これは $\frac{\alpha+\beta}2$、すなわち 2 つの解の平均に等しい。$y=x^2-3x+1$ では、軸は $x=\frac32$ で、2 つの解 $\frac{3\pm\sqrt5}2$ はそこから左右に $\frac{\sqrt5}2$ ずつ離れている。
放物線の軸と頂点の求め方は 2次関数の最大・最小 で扱う。図 1 では、ex-vfm-values と同じく $\alpha=\frac{3+\sqrt5}2$、$\beta=\frac{3-\sqrt5}2$ としている。
放物線 y = x² − 3x + 1。軸 x = 3/2 は 2 つの解 (3 ± √5)/2 のちょうど真ん中にある。
3 次以上でも考え方は同じで、1 次式の積を展開して係数を比べる。展開した結果を書くために、基本対称式という式を用意する。
$n$ 個の文字 $x_1,\dots,x_n$ と $k=0,1,\dots,n$ について、「相異なる $k$ 個の文字の積をすべて足したもの」を $e_k$ と書き、$k$ 次の基本対称式という。
$$
e_0:=1,\quad e_1:=\sum_{i}x_i,\quad e_2:=\sum_{i< j}x_ix_j,\quad e_3:=\sum_{i< j< l}x_ix_jx_l,\quad\dots,\quad e_n:=x_1x_2\cdots x_n
$$
$e_k$ は $\binom nk$ 個の項の和である。数 $\alpha_1,\dots,\alpha_n$ を代入した値を $e_k(\alpha_1,\dots,\alpha_n)$ と書く。
文字 $t$ の多項式として、次の恒等式が成り立つ。
$$
(t-x_1)(t-x_2)\cdots(t-x_n)=\sum_{k=0}^n(-1)^ke_k\,t^{n-k}=t^n-e_1t^{n-1}+e_2t^{n-2}-\cdots+(-1)^ne_n
$$
したがって、多項式 $f(t)=a_nt^n+a_{n-1}t^{n-1}+\cdots+a_0$($a_n\ne0$)が $f(t)=a_n(t-\alpha_1)\cdots(t-\alpha_n)$ と 1 次式の積に分解されるなら、$k=1,\dots,n$ について
$$
e_k(\alpha_1,\dots,\alpha_n)=(-1)^k\frac{a_{n-k}}{a_n}
$$
である。
方針:$n$ 個の因子の積を展開すると、各因子から 1 つずつ項を選んで掛けたものの和になる。選び方を「$-x_i$ を何個選んだか」で分類する。
段 1(展開のしくみ)。$(t-x_1)(t-x_2)\cdots(t-x_n)$ を分配法則で展開すると、$n$ 個の因子のそれぞれから $t$ か $-x_i$ のどちらか一方を選んで掛けた積を、すべての選び方($2^n$ 通り)について足したものになる。
段 2(1 つの選び方の積)。$-x_i$ を選んだ因子が $k$ 個で、その番号が $i_1< i_2<\cdots< i_k$ だとする。残りの $n-k$ 個の因子からは $t$ を選んでいる。この選び方の積は
$$
(-x_{i_1})(-x_{i_2})\cdots(-x_{i_k})\cdot t^{n-k}=(-1)^kx_{i_1}x_{i_2}\cdots x_{i_k}\,t^{n-k}
$$
である。
段 3(まとめる)。$k$ を 1 つ決めると、$-x_i$ を選ぶ $k$ 個の番号の組 $\{i_1,\dots,i_k\}$ と選び方は 1 対 1 に対応する。したがって $t^{n-k}$ の項をすべて足すと、$(-1)^kt^{n-k}$ に「相異なる $k$ 個の $x_i$ の積の総和」、すなわち $e_k$ を掛けたものになる。$k=0,1,\dots,n$ について足して、前半の恒等式を得る。
段 4(後半)。$x_i$ に $\alpha_i$ を代入すると、前半から $f(t)=a_n\sum_{k=0}^n(-1)^ke_k(\alpha_1,\dots,\alpha_n)\,t^{n-k}$ である。これと $f(t)=\sum_ja_jt^j$ の $t^{n-k}$ の係数を比べると $a_{n-k}=a_n(-1)^ke_k(\alpha_1,\dots,\alpha_n)$ で、両辺に $\frac{(-1)^k}{a_n}$ を掛ければ($(-1)^k(-1)^k=1$)主張を得る。$\square$
(t − x₁)(t − x₂)(t − x₃) の展開。各因子から t か −xᵢ を選ぶ 8 通りの積を、−xᵢ を選んだ個数 k でまとめると、係数が (−1)ᵏeₖ になる。
$n=2$ なら $e_1=\alpha+\beta$、$e_2=\alpha\beta$ で、prop-vfm-quadratic に戻る。$n=3$ なら $e_1=-\frac ba$、$e_2=\frac ca$、$e_3=-\frac da$ で、冒頭の 3 次の関係になる。
$x^3-2x+1=0$ は $x=1$ を解にもち、$x^3-2x+1=(x-1)(x^2+x-1)$ と因数分解できる。解は $1,\ \frac{-1+\sqrt5}2,\ \frac{-1-\sqrt5}2$ である。これを $\alpha,\beta,\gamma$ とすると、定理から($a_3=1$、$a_2=0$、$a_1=-2$、$a_0=1$)
$(t-1)^2(t-2)(t-3)=t^4-7t^3+17t^2-17t+6$ である。根を重複込みで $1,1,2,3$ と並べると、ex-vfm-e-values で計算したとおり $e_1=7$、$e_2=17$、$e_3=17$、$e_4=6$ であり、定理の $e_1=-\frac{-7}1$、$e_2=\frac{17}1$、$e_3=-\frac{-17}1$、$e_4=\frac61$ と一致する。重解 $1$ は 2 回数える。
代数学の基本定理の意味と、3 次方程式の解の公式との関係は 複素数と方程式:代数学の基本定理 で扱う。
| 外した仮定 | 崩れる主張 | ボックス |
|---|---|---|
| 根を重複込みで数える | 根の和 $=-\frac{a_{n-1}}{a_n}$ | ex-vfm-multiplicity |
| 係数の世界で「$0$ でない数の積は $0$ でない」 | 根を集めれば分解が得られる | ex-vfm-zmod8 |
$t^2-2t+1=(t-1)^2$ の根の集合は $\{1\}$ だけである。根を $\alpha_1=\alpha_2=1$ と重複込みで数えれば、和は $2=-\frac{-2}1$、積は $1=\frac11$ で正しい。しかし根の集合 $\{1\}$ の要素の和 $1$ は係数と合わない。thm-vfm-main は $f=a_n\prod(t-\alpha_i)$ という分解についての主張であり、根の集合についての主張ではない。重複度を捨てると「根の和 $=-\frac{a_{n-1}}{a_n}$」という結論が破れる。
8 で割った余りだけで計算する世界 $\mathbb{Z}/8\mathbb{Z}$($0,1,\dots,7$ で、足し算と掛け算の結果は 8 で割った余りにする。合同式と余りの世界 で扱う)を考える。$t^2-1$ に $t=0,1,\dots,7$ を代入すると、$0$ になるのは $t=1,3,5,7$ の 4 つである($3^2=9$、$5^2=25$、$7^2=49$ はどれも 8 で割って 1 余る)。2 次式なのに根が 4 個ある。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する