等比級数

同義語:幾何級数geometric series

概要

等比級数(geometric series)とは、初項 $a$ と公比 $r$ を定めて各項を直前の項の $r$ 倍とした級数 $\sum_{n\ge0}ar^n=a+ar+ar^2+\cdots$ である。$a\ne0$ のとき、$|r|<1$ ならば絶対収束して和は $\frac{a}{1-r}$、第 $N$ 部分和との差は $\frac{ar^{N+1}}{1-r}$ であり、$|r|\ge1$ ならば発散する。部分和を閉じた式で書ける数少ない級数で、比較判定法・比判定法・冪級数の収束など、級数の収束を調べるときの比べる相手になる。$|z|<1$ で $\sum_n\binom{n+k}{k}z^n=(1-z)^{-(k+1)}$ が成り立ち、$|z|=1$、$z\ne1$ では級数は発散するが、部分和の平均は $\frac{1}{1-z}$ に収束する。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 級数, 数列の極限, 複素数

$1+\frac12+\frac14+\frac18+\cdots$ のように、各項が直前の項の一定倍になっている級数を等比級数(geometric series)という。一定の倍率 $r$ を公比といい、公比の絶対値が $1$ より小さければ級数は収束して和は $\frac{a}{1-r}$($a$ は初項)になり、そうでなければ(初項が $0$ でない限り)発散する。等比級数は、部分和を閉じた式で書ける数少ない級数であり、そのため比較判定法・比判定法・冪級数の収束半径など、級数の収束を調べる議論のほとんどで「比べる相手」として使われる。
この記事では、等比級数の定義と和の公式を確かめたうえで、次の 3 つを述べる。第一に、打ち切ったときの誤差(剰余)の正確な式。第二に、等比級数を「冪」にした級数 $\sum_n\binom{n+k}{k}z^n=\frac1{(1-z)^{k+1}}$ と、その確率への応用。第三に、公比の絶対値がちょうど $1$ のとき、級数は発散するが部分和の平均をとると $\frac1{1-z}$ に収束すること。

定義

以下、$\mathbb{N}=\{0,1,2,\dots\}$ とし、複素数 $z$ の絶対値を $|z|$ と書く。

等比級数

複素数 $a$、$r$ について、級数
$$ \sum_{n=0}^{\infty}ar^n=a+ar+ar^2+ar^3+\cdots $$
を、初項 $a$、公比 $r$ の等比級数という。$N\in\mathbb{N}$ について $S_N:=\sum_{n=0}^{N}ar^n$ を第 $N$ 部分和といい、数列 $(S_N)_{N\ge0}$ が複素数 $S$ に収束するとき、等比級数は収束して和は $S$ であるという(級数 の記事の定義「級数と部分和」)。収束しないとき発散するという。

$a,r$ が実数なら、これは実数の級数である。$a\ne0$ なら、隣り合う項の比 $\frac{ar^{n+1}}{ar^n}$ は($r\ne0$ のとき)つねに $r$ である。添字を $1$ から始めて $\sum_{n=1}^{\infty}ar^{n-1}$ と書く文献もあるが、同じ級数である。$a=0$ のときはすべての項が $0$ で、どんな $r$ についても和 $0$ に収束する。以下の定理で $a\ne0$ を仮定するのはこのためである。

有限等比和

複素数 $a$、$r$ と $N\in\mathbb{N}$ について、$r\ne1$ ならば
$$ \sum_{n=0}^{N}ar^n=a\,\frac{1-r^{N+1}}{1-r} $$
であり、$r=1$ ならばこの和は $(N+1)a$ である。

公比を掛けてずらした和を引く

$S_N:=\sum_{n=0}^{N}ar^n$ とおくと $rS_N=\sum_{n=1}^{N+1}ar^n$ なので、$n=1,\dots,N$ の項が打ち消し合って
$$ (1-r)S_N=S_N-rS_N=a-ar^{N+1} $$
となる。$r\ne1$ なら両辺を $1-r$ で割ればよい。$r=1$ なら $N+1$ 個の項がすべて $a$ である。

この「公比を掛けてずらすと、ほとんどの項が元の和と重なる」という性質が、等比級数の計算のすべての出発点である。等式 $(1-r)(1+r+\cdots+r^N)=1-r^{N+1}$ は掛け算と足し算しか使っていないので、複素数に限らず、行列など任意の環の元 $r$ についても成り立つ。

収束の判定と剰余

等比級数の収束と剰余

$a\ne0$、$r$ を複素数とする。

  1. $|r|<1$ ならば、等比級数 $\sum_{n\ge0}ar^n$ は絶対収束し、和は $\frac{a}{1-r}$ である。さらに、第 $N$ 部分和 $S_N$ との差は
    $$ \frac{a}{1-r}-S_N=\frac{ar^{N+1}}{1-r},\qquad\left|\frac{a}{1-r}-S_N\right|\le\frac{|a|\,|r|^{N+1}}{1-|r|} $$
    を満たす。
  2. $|r|\ge1$ ならば、等比級数は発散する。

収束と発散の判定そのものは 級数 の記事の定理「等比級数の和」で証明されている(そこでも $a,r$ は実数または複素数である)。ここでは剰余の式と絶対収束を示す。

有限等比和から差を計算する

1:prop-geom-finite により $S_N=\frac{a}{1-r}-\frac{ar^{N+1}}{1-r}$ なので、差の式が成り立つ。$|r|<1$ なら $|r|^{N+1}\to0$(数列の極限 の記事の例「等比数列」)なので、差は $0$ に収束し、和は $\frac a{1-r}$ である。三角不等式により $|1-r|\ge1-|r|>0$ なので、差の絶対値は $\frac{|a||r|^{N+1}}{1-|r|}$ 以下である。絶対値をとった級数 $\sum_n|a||r|^n$ は、初項 $|a|$、公比 $|r|$ の等比級数なので、同じ計算により $\frac{|a|}{1-|r|}$ に収束する。よって絶対収束する。
2:$|r|\ge1$ なら $|ar^n|=|a||r|^n\ge|a|>0$ なので、項が $0$ に収束しない。級数 の記事の命題「収束する級数の項は0に近づく」により、級数は発散する。

剰余の評価は、欲しい精度に必要な項数を前もって決めるのに使える。たとえば $\sum_{n\ge0}(0.9)^n=10$ を誤差 $10^{-6}$ 以内で求めるには、$\frac{(0.9)^{N+1}}{0.1}\le10^{-6}$、すなわち $N+1\ge\frac{7}{\log_{10}(10/9)}=152.9\ldots$ から $N=152$ まで足せば十分である。公比が $1$ に近いほど収束は遅い。
剰余の評価の右辺は $r$ そのものではなく $|r|$ だけで決まる。したがって $0<\rho<1$ を固定すると、閉円板 $|z|\le\rho$ のすべての $z$ について
$$ \left|\frac1{1-z}-\sum_{n=0}^{N}z^n\right|\le\frac{\rho^{N+1}}{1-\rho} $$
が成り立ち、$\sum_n z^n$ は $|z|\le\rho$ 上で $\frac1{1-z}$ に一様収束する。一方、開円板 $|z|<1$ 全体(実数なら開区間 $(-1,1)$ 全体)では一様収束しない(一様収束 の記事の例「反例:等比級数は開区間全体では一様収束しない」)。$z$ が $1$ に近づくと、同じ精度に必要な項数がいくらでも増えるからである。

例

半分ずつの和と循環小数
  1. $\sum_{n\ge1}2^{-n}$ は初項 $\frac12$、公比 $\frac12$ なので、和は $\frac{1/2}{1-1/2}=1$ である(Leb Example 2.5.4、p. 88)。
  2. $0.999\cdots=\sum_{n\ge1}9\cdot10^{-n}$ は初項 $\frac9{10}$、公比 $\frac1{10}$ なので $\frac{9/10}{1-1/10}=1$ である。
  3. $0.\dot1\dot2=0.121212\cdots=\sum_{n\ge1}12\cdot100^{-n}$ は初項 $\frac{12}{100}$、公比 $\frac1{100}$ なので $\frac{12/100}{99/100}=\frac{12}{99}=\frac4{33}$ である。同じ計算で、ある桁から先が周期的にくり返す小数は、有限小数と等比級数の和なので有理数になる。逆に有理数の小数展開はある桁から先が周期的になる(この記事では証明しない。Leb Proposition 1.5.3、p. 47 は $(0,1]$ の有理数について示している。同書は周期的な小数が有理数であることを Exercise 1.5.2、p. 48 としている)。
複素数の公比と三角関数の和

公比 $r=\frac i2$ では $|r|=\frac12<1$ なので、$\sum_{n\ge0}\bigl(\frac i2\bigr)^n=\frac1{1-i/2}=\frac{1+i/2}{5/4}=\frac45+\frac25i$ である。部分和 $1,\ 1+\frac i2,\ \frac34+\frac i2,\ \frac34+\frac38i,\dots$ は、複素平面上で渦を巻きながら $\frac45+\frac25i$ に近づく。
より一般に、$0\le\rho<1$ と実数 $\theta$ について $z=\rho e^{i\theta}$ とおくと、$\sum_n\rho^ne^{in\theta}=\frac1{1-\rho e^{i\theta}}$ である。分母と分子に $1-\rho e^{-i\theta}$ を掛けて実部を比べると、実数の級数の和
$$ \sum_{n=0}^{\infty}\rho^n\cos n\theta=\frac{1-\rho\cos\theta}{1-2\rho\cos\theta+\rho^2} $$
が得られる(実部をとることは和と交換できる。部分和の実部が和の実部に収束するからである)。たとえば $\rho=0.6$、$\theta=1.1$ で左辺の最初の 400 項の和と右辺はともに $0.892308\ldots$ である。

反復の誤差の総和

数列 $(x_n)$ が、ある $0\le k<1$ について $|x_{n+1}-x_n|\le k|x_n-x_{n-1}|$($n\ge1$)を満たすとする。帰納法により $|x_{n+1}-x_n|\le k^n|x_1-x_0|$ であり、$m>n$ について
$$ |x_m-x_n|\le\sum_{j=n}^{m-1}|x_{j+1}-x_j|\le|x_1-x_0|\sum_{j=n}^{\infty}k^j=\frac{k^n}{1-k}\,|x_1-x_0| $$
となる。右辺は $n\to\infty$ で $0$ に近づくので $(x_n)$ は Cauchy 列である。これが縮小写像の原理(Leb Theorem 7.6.2、p. 296)の証明の中心の評価であり、1 歩ごとの誤差が一定の比で縮むとき、誤差の総和は最初の 1 歩の $\frac1{1-k}$ 倍で押さえられる。

p進数での等比級数

p進数体 $\mathbb{Q}_p$ では $p$ 進絶対値 $|p|_p=\frac1p<1$ である。prop-geom-finite は $\mathbb{Q}_p$ でもそのまま成り立ち、$|p^{N+1}|_p=p^{-(N+1)}\to0$ なので、部分和 $\frac{1-p^{N+1}}{1-p}$ は $\mathbb{Q}_p$ で $\frac1{1-p}$ に収束する。とくに $p=2$ では $\sum_{n\ge0}2^n=\frac1{1-2}=-1$ が $\mathbb{Q}_2$ で成り立つ。実数としては $1+2+4+\cdots$ は発散するので、同じ式が収束するかどうかは、使う絶対値で決まる。

等比級数の冪

$|z|<1$ で $\frac1{1-z}=\sum_nz^n$ なので、$\frac1{(1-z)^2}$、$\frac1{(1-z)^3}$ なども $z$ の冪の級数で書けるはずである。係数は二項係数になる。証明には次の補題を使う。

多項式の増大と等比数列の減衰

$|z|<1$ と $k\in\mathbb{N}$ について、$n^k|z|^n\to0$($n\to\infty$)である。

二項展開で下から押さえる

$z=0$ なら明らかなので $0<|z|<1$ とし、$h:=\frac1{|z|}-1>0$ とおく。$n\ge2k+1$ とする。二項定理で $(1+h)^n$ を展開して $h^{k+1}$ の項だけを残すと
$$ \frac1{|z|^n}=(1+h)^n\ge\binom{n}{k+1}h^{k+1}=\frac{n(n-1)\cdots(n-k)}{(k+1)!}\,h^{k+1} $$
である($n\ge k+1$ なので $h^{k+1}$ の項がある)。$n\ge2k$ より $n-k\ge\frac n2$ なので、右辺の分子の $k+1$ 個の因子はすべて $\frac n2$ 以上であり、
$$ 0\le n^k|z|^n\le\frac{n^k(k+1)!\,2^{k+1}}{n^{k+1}h^{k+1}}=\frac{(k+1)!\,2^{k+1}}{h^{k+1}}\cdot\frac1n $$
となる。右辺は $n\to\infty$ で $0$ に近づく。

等比級数の冪の展開

$k\in\mathbb{N}$ とする。$|z|<1$ ならば
$$ \sum_{n=0}^{\infty}\binom{n+k}{k}z^n=\frac1{(1-z)^{k+1}} $$
が成り立ち、左辺は絶対収束する。$|z|\ge1$ ならば左辺は発散する。

$k=0$ は $\sum z^n=\frac1{1-z}$、$k=1$ は $\sum_n(n+1)z^n=\frac1{(1-z)^2}$ である。

部分和の漸化式と帰納法

$T_k(N):=\sum_{n=0}^{N}\binom{n+k}{k}z^n$ とおく。$k\ge1$ について、次の等式を示す。
$$ (1-z)\,T_k(N)=T_{k-1}(N)-\binom{N+k}{k}z^{N+1}. $$
$zT_k(N)=\sum_{n=1}^{N+1}\binom{n-1+k}{k}z^n$ なので、
$$ (1-z)T_k(N)=\binom kk+\sum_{n=1}^{N}\left(\binom{n+k}{k}-\binom{n-1+k}{k}\right)z^n-\binom{N+k}{k}z^{N+1} $$
である。Pascal の関係式により $\binom{n+k}{k}-\binom{n+k-1}{k}=\binom{n+k-1}{k-1}$ であり、$\binom kk=1=\binom{k-1}{k-1}$ なので、右辺の最初の 2 つの部分の和は $\sum_{n=0}^{N}\binom{n+k-1}{k-1}z^n=T_{k-1}(N)$ である。
$|z|<1$ として、$k$ についての帰納法で $T_k(N)\to(1-z)^{-(k+1)}$($N\to\infty$)を示す。$k=0$ は thm-geom-convergence である。$k\ge1$ とし、$k-1$ で成り立つとする。$N\ge k$ なら $\binom{N+k}{k}\le\frac{(N+k)^k}{k!}\le\frac{(2N)^k}{k!}$ なので
$$ \left|\binom{N+k}{k}z^{N+1}\right|\le\frac{2^k|z|}{k!}\,N^k|z|^N $$
であり、lem-geom-poly-decay により右辺は $0$ に近づく。上の等式を $1-z\,(\ne0)$ で割って $N\to\infty$ とすると、帰納法の仮定により
$$ T_k(N)=\frac{T_{k-1}(N)}{1-z}-\frac{1}{1-z}\binom{N+k}{k}z^{N+1}\longrightarrow\frac{(1-z)^{-k}}{1-z}=\frac1{(1-z)^{k+1}} $$
となる。絶対収束は、同じ結果を $|z|$ に当てれば、正の項の級数 $\sum_n\binom{n+k}{k}|z|^n$ が $(1-|z|)^{-(k+1)}$ に収束することから従う。
$|z|\ge1$ なら $\bigl|\binom{n+k}{k}z^n\bigr|\ge1$ なので項が $0$ に近づかず、級数 の記事の命題「収束する級数の項は0に近づく」により発散する。

$\frac1{(1-z)^{k+1}}$ は $\frac1{1-z}$ を $k$ 回微分して $k!$ で割ったものなので、この定理は冪級数の項別微分(冪級数 の記事の例「等比級数とその項別微分」)からも得られる。また、等比級数どうしの Cauchy 積をくり返しとっても得られる(絶対収束する級数の Cauchy 積については、実数の級数について Leb Theorem 2.6.5(Mertens の定理)、p. 104。複素数の級数でも同じ証明がそのまま使える)。上の証明はどちらも使わず、有限和の等式だけで済ませている。

冪を掛けた等比級数の和

$|z|<1$ ならば
$$ \sum_{n=0}^{\infty}nz^n=\frac{z}{(1-z)^2},\qquad\sum_{n=0}^{\infty}n^2z^n=\frac{z(1+z)}{(1-z)^3} $$
である。

二項係数の組合せで書く

$n\ge1$ の項だけが残るので、$m=n-1$ とおくと $\sum_{n\ge0}nz^n=z\sum_{m\ge0}(m+1)z^m=\frac{z}{(1-z)^2}$ である(thm-geom-power の $k=1$)。また $n^2=2\binom{n+1}{2}-n$ であり、$\sum_{n\ge0}\binom{n+1}{2}z^n=z\sum_{m\ge0}\binom{m+2}{2}z^m=\frac{z}{(1-z)^3}$($k=2$)なので、級数 の記事の命題「級数の線形性」により
$$ \sum_{n\ge0}n^2z^n=\frac{2z}{(1-z)^3}-\frac{z}{(1-z)^2}=\frac{2z-z(1-z)}{(1-z)^3}=\frac{z(1+z)}{(1-z)^3} $$
となる。

幾何分布の期待値

成功の確率が $p$($0< p\le1$)の試行を独立にくり返し、初めて成功するまでの回数を $X$ とすると、$P(X=n)=p(1-p)^{n-1}$($n=1,2,\dots$)である。確率の総和は公比 $1-p$ の等比級数で $\sum_{n\ge1}p(1-p)^{n-1}=\frac{p}{1-(1-p)}=1$ である。期待値は、$z:=1-p\in[0,1)$ とおいて thm-geom-power の $k=1$ を使うと
$$ E[X]=\sum_{n\ge1}np(1-p)^{n-1}=p\sum_{m\ge0}(m+1)z^m=\frac{p}{(1-z)^2}=\frac1p $$
である。さいころで 6 が出るまでの回数の期待値は $6$ である。

単位円周の上:発散するが平均は収束する

$|z|=1$ のとき、等比級数 $\sum z^n$ は項の絶対値が $1$ なので発散する。しかし $z\ne1$ なら、発散の仕方は穏やかで、部分和は有界な範囲をまわり続ける。部分和を平均すると、$|z|<1$ のときと同じ式 $\frac1{1-z}$ に収束する。
部分和の列 $(S_N)$ について、平均
$$ \sigma_N:=\frac{S_0+S_1+\cdots+S_N}{N+1} $$
が $\sigma$ に収束するとき、級数は Cesàro の意味で $\sigma$ に総和可能であるという(Leb p. 111。同書は添字を $1$ から始めている)。

単位円周上の等比級数

$|z|=1$ とする。

  1. $z\ne1$ ならば、$\sum_{n\ge0}z^n$ は発散するが、部分和は $|S_N|\le\frac{2}{|1-z|}$ を満たし、Cesàro の意味で $\frac1{1-z}$ に総和可能である。また、$0\le x<1$ について $\sum_{n\ge0}z^nx^n=\frac1{1-zx}$ であり、$x\to1-0$ でこれは $\frac1{1-z}$ に収束する。
  2. $z=1$ ならば、$S_N=N+1$、$\sigma_N=\frac{N+2}2$ であり、どちらも $+\infty$ に発散する。
部分和を閉じた式で書いて平均する

1:発散は thm-geom-convergence の 2 による。prop-geom-finite により $S_N=\frac{1-z^{N+1}}{1-z}$ であり、$|1-z^{N+1}|\le1+|z|^{N+1}=2$ なので $|S_N|\le\frac2{|1-z|}$ である。平均をとると
$$ \sigma_N=\frac1{N+1}\sum_{n=0}^{N}\frac{1-z^{n+1}}{1-z}=\frac1{1-z}-\frac{1}{(N+1)(1-z)}\sum_{n=0}^{N}z^{n+1} $$
である。$\sum_{n=0}^{N}z^{n+1}=zS_N$ なので、その絶対値は $\frac2{|1-z|}$ 以下であり、
$$ \left|\sigma_N-\frac1{1-z}\right|\le\frac{2}{(N+1)\,|1-z|^2}\longrightarrow0 $$
となる。$0\le x<1$ なら $|zx|<1$ なので、thm-geom-convergence により $\sum_nz^nx^n=\frac1{1-zx}$ であり、$x\mapsto\frac1{1-zx}$ は $x=1$ の近くで連続(分母 $1-zx$ は $x=1$ で $1-z\ne0$)なので、$x\to1-0$ の極限は $\frac1{1-z}$ である。
2:$S_N=N+1$ で、$\sigma_N=\frac{1+2+\cdots+(N+1)}{N+1}=\frac{N+2}2$ である。

たとえば $z=-1$ では、部分和は $1,0,1,0,\dots$ と振動し、平均は $\frac12=\frac1{1-(-1)}$ に近づく(級数 の記事の例「反例:部分和が振動する級数」の級数である)。$z=e^{i\theta}$($0<\theta<2\pi$)では
$$ \frac1{1-e^{i\theta}}=\frac12+\frac i2\cot\frac\theta2 $$
なので、実部を比べると、発散する級数 $\sum_{n\ge0}\cos n\theta$ は Cesàro の意味で $\frac12$ に総和可能である。たとえば $\theta=2$ で $N=1999$ まで平均した値の実部は $0.5003\ldots$ である。この種の平均は Fourier 級数の収束の議論で使われる。

反例:仮定を外すと何が崩れるか

外す条件反例成り立たなくなること
$\lvert r\rvert<1$($r=1$)$\sum_n1$収束すること(部分和 $N+1$ は有界でない)
$\lvert r\rvert<1$($\lvert z\rvert=1$、$z\ne1$)$\sum_n(-1)^n$、$\sum_ne^{in\theta}$収束すること(部分和は有界だが振動する)
$\lvert r\rvert<1$($\lvert r\rvert>1$)$\sum_n2^n$実数での収束。式 $\frac a{1-r}=-1$ は和ではない
公比が一定であること$\sum_{n\ge0}\frac1{n+1}$隣の項との比 $\frac{n+1}{n+2}$ がすべて $1$ 未満なのに収束すること
$\lvert z\rvert\le\rho$($\rho<1$ を固定)開円板 $\lvert z\rvert<1$ 全体一様収束
$a\ne0$$a=0$$\lvert r\rvert\ge1$ なら発散すること
反例の確認
  1. $r=1$、$r=-1$、$|z|=1$ の場合は thm-geom-boundary と thm-geom-convergence の 2 で確かめた。
  2. $\sum_n2^n$ は項が $0$ に近づかないので実数としては発散する。「$|r|<1$ ならば $\sum ar^n=\frac a{1-r}$」の仮定を外して式だけを当てはめると、正の数の和が $-1$ になるという誤りが生じる(ex-geom-p-adic のように、別の絶対値では収束しうる)。
  3. 調和級数 $\sum_{n\ge0}\frac1{n+1}$ は、隣り合う項の比 $\frac{n+1}{n+2}$ がすべて $1$ より小さいが発散する(調和級数)。比が $1$ 未満であるだけでは足りず、比が $1$ 未満の一定の数 $q$ で上から押さえられることが、等比級数 $\sum q^n$ と比べる(級数 の記事の定理「比判定法」)ために必要である。この級数は「公比が一定」という等比級数の定義を満たさない。
  4. $a=0$ なら、$r=5$ でも和 $0$ に収束する。thm-geom-convergence の 2 は $a\ne0$ を使っている。

補足

形式的な等式と数としての和

形式的冪級数の環 $\mathbb{C}[\![X]\!]$ では、$(1-X)\sum_{n\ge0}X^n=1$ が係数の比較だけで成り立つ($X^n$ の係数は $n=0$ で $1$、$n\ge1$ で $1-1=0$)。この等式は収束を何も主張しない。$X$ に数 $z$ を代入して和をとってよいのは、級数が収束する $|z|<1$ のときだけである。母関数の計算で等比級数を使うときは、形式的冪級数として計算しているのか、収束する冪級数として計算しているのかを区別する。

行列や作用素の等比級数

prop-geom-finite の証明は掛け算の結合法則と分配法則だけを使うので、正方行列 $T$ についても $(I-T)(I+T+\cdots+T^N)=I-T^{N+1}$($I$ は単位行列)が成り立つ。$T^{N+1}$ が $0$ に近づくなら、$I-T$ は逆行列 $\sum_{n\ge0}T^n$ をもつことになる。この形の級数を、行列や有界作用素について調べるのが Neumann級数 である。

関連項目

参考文献

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