ユニタリ行列(unitary matrix)とは、複素正方行列 $U$ で共役転置 $U^*$ との積が $U^*U=I$ となるもの、すなわち列が $\mathbb{C}^n$ の正規直交基底をなす行列のことで、成分が実数なら直交行列にあたる。ユニタリ行列であることは、標準内積や長さを保つこと、$UU^*=I$、行が正規直交基底をなすことと同値であり、固有値はすべて絶対値 $1$、行列式の絶対値も $1$ である。ユニタリ行列はちょうど、絶対値 $1$ の数を並べた対角行列 $D$ とユニタリ行列 $V$ によって $U=VDV^*$ と対角化できる行列であり、Cayley 変換 $H\mapsto(I+iH)(I-iH)^{-1}$ は Hermite 行列の全体と、$-1$ を固有値にもたないユニタリ行列の全体を 1 対 1 に結ぶ。
複素数を成分とする行列
$$
U=\frac1{\sqrt2}\begin{pmatrix}1&i\\i&1\end{pmatrix}
$$
の 2 本の列 $\frac1{\sqrt2}(1,i)^{\top}$、$\frac1{\sqrt2}(i,1)^{\top}$ は、$\mathbb{C}^2$ の標準内積 $\langle x,y\rangle=x_1\overline{y_1}+x_2\overline{y_2}$ について長さが $1$ で、内積は $\frac12\bigl(1\cdot\bar i+i\cdot\bar1\bigr)=\frac12(-i+i)=0$ である。つまり列が $\mathbb{C}^2$ の正規直交基底をなす。このような行列を ユニタリ行列 という。上の $U$ は $(1,1)^{\top}$ を $\frac{1+i}{\sqrt2}=e^{i\pi/4}$ 倍し、$(1,-1)^{\top}$ を $e^{-i\pi/4}$ 倍する。固有値はどちらも絶対値 $1$ であり、2 本の固有ベクトルは直交している。後で示すとおり、これはすべてのユニタリ行列に共通する性質である。
ユニタリ行列は、実数の場合の直交行列を複素数に広げたものであり、$\mathbb{C}^n$ の標準内積を保つ 1 次変換の行列である。この記事では、ユニタリ行列を列・行・内積・長さで言い換える同値条件を証明し、固有値と行列式の性質を調べる。中心となる結果は、ユニタリ行列がちょうど「固有値の絶対値が $1$ で、正規直交基底によって対角化できる行列」であること(ユニタリ対角化)と、Hermite行列とユニタリ行列を 1 対 1 に結ぶ Cayley 変換である。
以下、$n\ge1$ とし、$\mathbb{C}^n$ の元は縦ベクトルとみる。$\mathbb{C}^n$ の標準内積を
$$
\langle x,y\rangle:=\sum_{k=1}^nx_k\overline{y_k}=y^*x,\qquad\|x\|:=\sqrt{\langle x,x\rangle}=\Bigl(\sum_k|x_k|^2\Bigr)^{1/2}
$$
とする(第 1 変数について線形、第 2 変数について共役線形)。行列 $A\in M_{m,n}(\mathbb{C})$ の 共役転置(随伴行列)$A^*:=\overline{A}^{\top}$ は $(i,j)$ 成分が $\overline{a_{ji}}$ の行列であり、$\langle Ax,y\rangle=\langle x,A^*y\rangle$、$(AB)^*=B^*A^*$ を満たす(転置行列 の記事の注意「複素数の行列と共役転置」)。
$U\in M_n(\mathbb{C})$ が
$$
U^*U=I_n
$$
を満たすとき、$U$ を ユニタリ行列(unitary matrix)という。$n$ 次のユニタリ行列の全体を $\mathrm{U}(n)$、そのうち $\det U=1$ を満たすものの全体を $\mathrm{SU}(n)$ と書く。
$U^*U$ の $(i,j)$ 成分は $\sum_k\overline{u_{ki}}u_{kj}=\langle u_j,u_i\rangle$($u_j$ は $U$ の第 $j$ 列)なので、$U^*U=I_n$ は列 $u_1,\dots,u_n$ が $\mathbb{C}^n$ の正規直交基底をなすことと同じである。このとき $U$ は正則で $U^{-1}=U^*$ であり、ユニタリ行列の積と逆行列はまたユニタリ行列なので、$\mathrm{U}(n)$ は一般線形群 $\mathrm{GL}_n(\mathbb{C})$ の部分群である(正規直交基底 の記事の定義「ユニタリ行列と直交行列」とその後の注意、定理「正規直交基底の取り替えとユニタリ行列」の後の段落)。成分がすべて実数のユニタリ行列は、直交行列にほかならない。
$n=1$ では $U=(u)$ について $U^*U=|u|^2$ なので、$\mathrm{U}(1)$ は絶対値 $1$ の複素数の全体、すなわち単位円 $\{e^{i\theta}\mid\theta\in\mathbb{R}\}$ である。
行列の共役転置 $A^*$ を複素数の共役 $\bar z$ の類似とみると、$A^*=A$ を満たす Hermite行列 は実数に、$U^*U=I$ を満たすユニタリ行列は $\bar zz=1$ を満たす単位円上の数 $e^{i\theta}$ にあたる。この類似は固有値にそのまま現れ、Hermite 行列の固有値は実数、ユニタリ行列の固有値は絶対値 $1$ である(prop-unit-eigen)。さらに、ユニタリ行列は正規直交基底をとり直すと $e^{i\theta_1},\dots,e^{i\theta_n}$ を並べた対角行列になる(thm-unit-diagonalization)。つまりユニタリ行列とは、$n$ 本の互いに直交する複素数の方向それぞれで「単位円上の数を掛ける」変換である。実数の範囲ではこれが平面の回転として現れ、直交行列 の記事の定理「直交行列の標準形」になる。
ユニタリ行列の典型的な例として、離散 Fourier 変換の行列がある(ex-unit-dft)。成分はすべて絶対値の等しい複素数で、列は 1 の $n$ 乗根の冪を並べたものである。
$U\in M_2(\mathbb{C})$ がユニタリ行列であることは、$|a|^2+|b|^2=1$ を満たす $a,b\in\mathbb{C}$ と実数 $\varphi$ によって
$$
U=\begin{pmatrix}a&-e^{i\varphi}\,\bar b\\b&e^{i\varphi}\,\bar a\end{pmatrix}
$$
と書けることと同値であり、このとき $\det U=e^{i\varphi}(|a|^2+|b|^2)=e^{i\varphi}$ である。
実際、ユニタリ行列の第 1 列 $(a,b)^{\top}$ は長さ $1$ である。第 2 列 $(c,d)^{\top}$ は第 1 列と直交するので $c\bar a+d\bar b=0$ である。$(-\bar b,\bar a)^{\top}$ も第 1 列と直交する長さ $1$ のベクトルであり、$\mathbb{C}^2$ で $(a,b)^{\top}$ に直交するベクトルの全体は 1 次元なので(直交補空間)、$(c,d)^{\top}=\mu(-\bar b,\bar a)^{\top}$ と書ける。第 2 列も長さ $1$ なので $|\mu|=1$、すなわち $\mu=e^{i\varphi}$ である。逆に上の形の行列の列は正規直交基底をなす。$\varphi=0$ の場合が $\mathrm{SU}(2)$ の元であり、SO(3)とSU(2) の記事の命題「二つの複素数による表示」の行列 $U(a,-\bar b)$ にあたる。冒頭の $U$ は $a=\frac1{\sqrt2}$、$b=\frac{i}{\sqrt2}$、$\varphi=0$ の場合で、$\det U=1$ である。
$n\ge2$、$\omega:=e^{2\pi i/n}$ とし、$(j,k)$ 成分($0\le j,k\le n-1$ と番号を付ける)が $\frac1{\sqrt n}\omega^{jk}$ である行列を $F_n$ とする。$F_n$ の第 $k$ 列と第 $l$ 列の内積は
$$
\frac1n\sum_{j=0}^{n-1}\omega^{jk}\,\overline{\omega^{jl}}=\frac1n\sum_{j=0}^{n-1}\bigl(\omega^{k-l}\bigr)^j
$$
である。$k=l$ なら $1$ であり、$k\ne l$ なら $\omega^{k-l}\ne1$ で $(\omega^{k-l})^n=1$ なので、等比数列の和の公式により $\frac1n\cdot\frac{1-(\omega^{k-l})^n}{1-\omega^{k-l}}=0$ である。よって $F_n$ はユニタリ行列である。同じ計算で $(F_n^2)_{jl}=\frac1n\sum_k\omega^{k(j+l)}$ は $j+l$ が $n$ の倍数のとき $1$、そうでないとき $0$ なので、$F_n^2$ は番号を $j\mapsto-j\pmod n$ と入れ替える置換行列であり、$F_n^4=I_n$ である。したがって $F_n$ の固有値は $1,-1,i,-i$ のどれかであり、prop-unit-eigen と合っている。$n=2$ の $F_2=\frac1{\sqrt2}\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}$ は実数の行列なので直交行列でもある。
直交行列 の記事の例「反例:複素数の成分で $Q^{\top}Q=I$ を満たす行列」の $C=\begin{pmatrix}\cosh t&i\sinh t\\-i\sinh t&\cosh t\end{pmatrix}$($t\ne0$)は $C^{\top}C=I_2$ を満たすが、$C^*C$ の $(1,1)$ 成分は $\cosh^2t+\sinh^2t>1$ なので、ユニタリ行列でない。固有値 $e^{\pm t}$ の絶対値は $1$ でなく、$C$ は長さを保たない。この例は、複素数の行列で長さを保つことを表すのが $U^{\top}U=I$ ではなく $U^*U=I$ であること、すなわち定義の「共役転置」を「転置」に替えると thm-unit-equivalent の 6 が成り立たなくなることを示す。
$U\in M_n(\mathbb{C})$ について、次は同値である。
1 ⇔ 3 は定義の後で見た。1 ⇒ 2:$U^*$ は $U$ の左逆行列なので右逆行列でもある(正則行列 の記事の定理「片側の逆行列で十分であること」)。2 ⇒ 1 も同じである。
2 ⇔ 4:$U$ の第 $i$ 行を縦ベクトルにしたものを $r_i$ とすると、$UU^*$ の $(i,j)$ 成分は $\sum_ku_{ik}\overline{u_{jk}}=\langle r_i,r_j\rangle$ である。
1 ⇒ 5:$\langle Ux,Uy\rangle=(Uy)^*(Ux)=y^*U^*Ux=y^*x=\langle x,y\rangle$ である。5 ⇒ 6:$y=x$ とおけばよい。
6 ⇒ 5:内積の性質から、$c\in\mathbb{C}$ について $\|x+cy\|^2=\|x\|^2+\bar c\langle x,y\rangle+c\langle y,x\rangle+|c|^2\|y\|^2$ である。$c=1,i,-1,-i$ について $c$ を掛けて足すと、$\sum_cc=0$、$\sum_cc\bar c=4$、$\sum_cc^2=0$、$\sum_cc|c|^2=0$ なので
$$
\langle x,y\rangle=\frac14\sum_{k=0}^{3}i^k\,\|x+i^ky\|^2
$$
を得る(偏極恒等式)。$U(x+i^ky)=Ux+i^kUy$ と 6 により、右辺は $x,y$ を $Ux,Uy$ に替えても変わらないので、$\langle Ux,Uy\rangle=\langle x,y\rangle$ である。
5 ⇒ 1:$U^*U$ の $(i,j)$ 成分は $\langle Ue_j,Ue_i\rangle=\langle e_j,e_i\rangle=\delta_{ij}$ である。
7:$(U^*)^*U^*=UU^*$ なので、$U^*$ がユニタリであることは 2 と同値である。$\overline{U}^*\,\overline{U}=U^{\top}\overline{U}=\overline{U^*U}$ なので、$\overline{U}$ がユニタリであることは 1 と同値である。$(U^{\top})^*U^{\top}=\overline{U}U^{\top}=\overline{UU^*}$ なので、$U^{\top}$ がユニタリであることは 2 と同値である。$\square$
6 ⇒ 5 で、実数の場合の偏極恒等式 $x\cdot y=\frac14(|x+y|^2-|x-y|^2)$(回転・鏡映と行列の群 の定理「長さを保つ 1 次変換」の証明)では足りない。複素数の内積では $\langle x,y\rangle$ の虚部が $\|x+iy\|^2$ と $\|x-iy\|^2$ の差に現れるからである。有限次元の複素内積空間 $V$ の線形変換 $T$ についても、$T$ が内積を保つことと、$V$ の正規直交基底に関する表現行列がユニタリ行列であることは同値である(正規直交基底による座標は内積を保つ。正規直交基底 の記事の定理「正規直交基底による座標とParsevalの等式」、Axl24 7.53、p. 261)。
$U\in\mathrm{U}(n)$ とする。
1:$Ux=\lambda x$、$x\ne0$ なら、thm-unit-equivalent の 6 により $\|x\|=\|Ux\|=|\lambda|\,\|x\|$ なので $|\lambda|=1$ である。
2:$Ux=\lambda x$、$Uy=\mu y$ とする。thm-unit-equivalent の 5 により $\langle x,y\rangle=\langle Ux,Uy\rangle=\lambda\bar\mu\langle x,y\rangle$ である。1 により $\bar\mu=\mu^{-1}$ なので $\lambda\bar\mu=\lambda/\mu\ne1$ であり、$\langle x,y\rangle=0$ である。
3:$\det U^*=\overline{\det U}$(行列式は成分の多項式で、転置しても変わらない。行列式 の記事の命題「転置と行列式」)なので、$1=\det(U^*U)=\overline{\det U}\det U=|\det U|^2$ である。$\square$
3 により $\det$ は $\mathrm{U}(n)$ から単位円 $\mathrm{U}(1)$ への群準同型であり、$\mathrm{SU}(n)$ はその核である。$e^{i\theta}I_n$ の行列式は $e^{in\theta}$ なので、この準同型は全射である。これらの群の構造は ユニタリ群 を参照。
ユニタリ行列は、正規直交基底をうまく選べば対角行列になる。証明には、どんな複素正方行列もユニタリ行列で上三角化できるという Schur の定理(三角化 の記事の定理「Schur の三角化定理」)と、次の補題を使う。
上三角行列 $T\in M_n(\mathbb{C})$ がユニタリ行列なら、$T$ は対角行列であり、対角成分の絶対値はすべて $1$ である。
$n$ についての帰納法で示す。$n=1$ なら $|t_{11}|^2=T^*T=1$ である。$n\ge2$ とする。$T$ の第 1 列は $t_{11}e_1$ で、長さ $1$ なので $|t_{11}|=1$ である。第 $j$ 列($j\ge2$)と第 1 列の内積は $t_{1j}\overline{t_{11}}$ であり、列は互いに直交するので $t_{1j}=0$ である。よって $T=\begin{pmatrix}t_{11}&0\\0&T'\end{pmatrix}$($T'\in M_{n-1}(\mathbb{C})$)と区分けでき、$T'$ は上三角行列で、その列は $T$ の第 $2,\dots,n$ 列から第 1 成分の $0$ を除いたものなので正規直交である。帰納法の仮定により $T'$ は対角行列で、対角成分の絶対値は $1$ である。$\square$
$U\in M_n(\mathbb{C})$ について、次は同値である。
1 ⇒ 2:Schur の三角化定理により、ユニタリ行列 $V$ で $T:=V^*UV$ が上三角行列になるものがある。$V^*=V^{-1}$ も $U$ もユニタリ行列なので、積 $T$ はユニタリ行列である。lem-unit-triangular により $T$ は対角成分の絶対値が $1$ の対角行列 $D$ であり、$U=VDV^*$ である。
2 ⇒ 1:$D^*D$ は対角成分 $|d_i|^2=1$ の対角行列なので $D^*D=I_n$ であり、$U^*U=VD^*V^*VDV^*=VD^*DV^*=VV^*=I_n$ である($V^*V=I_n$ と thm-unit-equivalent の 2 を使った)。
2 ⇔ 3:$U=VDV^*$ は $UV=VD$ と同値であり、$V$ の第 $j$ 列を $v_j$、$D$ の対角成分を $d_j$ とすると、その第 $j$ 列は $Uv_j=d_jv_j$ である。$V$ がユニタリ行列であることは列 $v_1,\dots,v_n$ が正規直交基底をなすことと同値である。$U$ と $D$ は相似なので、$d_1,\dots,d_n$ は $U$ の固有値を重複度込みで並べたものである。$\square$
$\lambda_1,\dots,\lambda_s$ を $U$ の相異なる固有値、$P_k$ を固有値 $\lambda_k$ の固有空間への直交射影の行列とすると、2 は $U=\sum_k\lambda_kP_k$、$|\lambda_k|=1$ と書き直せる(スペクトル分解)。冒頭の $U$ では、$V=\frac1{\sqrt2}\begin{pmatrix}1&1\\1&-1\end{pmatrix}$、$D=\operatorname{diag}(e^{i\pi/4},e^{-i\pi/4})$ である。ユニタリ行列は $U^*U=UU^*$ を満たす正規行列なので、この定理は「正規行列はユニタリ行列で対角化できる」という複素スペクトル定理の特別な場合でもある(線形代数学 の記事の定理「正規行列のユニタリ対角化」、Axl24 7.55、p. 262)。ここでは Schur の定理と lem-unit-triangular だけで直接示した。
実数の直交行列は、複素数の行列とみればユニタリ行列なので、この定理により複素数の範囲では対角化できる。しかし固有値 $e^{\pm i\theta}$ が実数でないとき固有ベクトルも実数にとれないので、実数の範囲では 2 次の回転ブロックが残る(直交行列 の記事の定理「直交行列の標準形」)。
1 次の場合、実数 $h$ に $\frac{1+ih}{1-ih}$ を対応させると、実数直線が単位円から $-1$ を除いた部分に 1 対 1 に移る($h=\tan\frac\theta2$ なら値は $e^{i\theta}$)。実数と Hermite 行列、単位円とユニタリ行列の類似のもとで、同じ式が行列でも成り立つ。
$\operatorname{Herm}_n$ を $n$ 次の Hermite行列 の全体、$\mathcal{U}_n'$ を $-1$ を固有値にもたない $n$ 次のユニタリ行列の全体とする。
準備:同じ行列 $X$ の多項式どうしは可換であり、正則な $f(X)$ の逆行列は $X$ と可換なので($Xf(X)=f(X)X$ の両側に $f(X)^{-1}$ を掛ける)、$X$ の多項式とも可換である。
1:$(I-iH)x=0$ とすると $Hx=-ix$ である。$H^*=H$ より $\langle Hx,x\rangle=\langle x,Hx\rangle=\overline{\langle Hx,x\rangle}$ は実数だが、左辺は $-i\|x\|^2$ なので $x=0$ である。よって $I-iH$ は正則で、同様に $I+iH$ も正則である。$(AB)^*=B^*A^*$ と $(A^{-1})^*=(A^*)^{-1}$、$(I\pm iH)^*=I\mp iH$ から $U^*=(I+iH)^{-1}(I-iH)$ である。準備により $I\pm iH$ とその逆行列はすべて可換なので
$$
U^*U=(I+iH)^{-1}(I-iH)(I+iH)(I-iH)^{-1}=(I+iH)^{-1}(I+iH)(I-iH)(I-iH)^{-1}=I
$$
である。また $U+I=\bigl((I+iH)+(I-iH)\bigr)(I-iH)^{-1}=2(I-iH)^{-1}$ は正則なので、$-1$ は $U$ の固有値でない。
2:$U+I$ は正則である。$U^*=U^{-1}$ を使うと $U^*-I=U^{-1}(I-U)$、$U^*+I=U^{-1}(I+U)$ なので、$U-I$ と $(U+I)^{-1}$ が可換であることとあわせて
$$
H^*=i\bigl((U+I)^{-1}\bigr)^*(U-I)^*=i(U^*+I)^{-1}(U^*-I)=i(I+U)^{-1}UU^{-1}(I-U)=-i(U+I)^{-1}(U-I)=H
$$
である。
3:$H\in\operatorname{Herm}_n$ から 1 の $U$ を作ると、$U-I=2iH(I-iH)^{-1}$、$U+I=2(I-iH)^{-1}$ なので $-i(U-I)(U+I)^{-1}=-i\cdot2iH(I-iH)^{-1}\cdot\frac12(I-iH)=H$ である。逆に $U\in\mathcal{U}_n'$ から 2 の $H$ を作ると $iH=(U-I)(U+I)^{-1}$ なので、$I+iH=2U(U+I)^{-1}$、$I-iH=2(U+I)^{-1}$ であり、$(I+iH)(I-iH)^{-1}=2U(U+I)^{-1}\cdot\frac12(U+I)=U$ である。$\square$
$H=V\operatorname{diag}(h_1,\dots,h_n)V^*$($V$ はユニタリ、$h_j$ は実数)と対角化しておけば、$U=V\operatorname{diag}\bigl(\frac{1+ih_j}{1-ih_j}\bigr)V^*$ であり、Cayley 変換は固有値ごとに 1 次の場合の変換を施したものである。$H$ が実の交代行列 $A$ を使って $H=-iA$ と書ける場合には $U=(I+A)(I-A)^{-1}$ が実数の行列になり、直交行列の Cayley 変換が得られる(直交行列 の記事の注意「交代行列との Cayley 変換」)。Axl24 の §7D の演習 15・16(p. 269)は、$U$ を $-U$ に替えた形で 1・2 にあたる内容を述べている。同書の変換は自己随伴な $T$ に対する $(T+iI)(T-iI)^{-1}$ で、$1$ を固有値にもたないユニタリ作用素を与え、逆向きは、$S-I$ が正則なユニタリ $S$ について $(S+I)(S-I)^{-1}$ が歪随伴になる(その $i$ 倍が自己随伴になる)ことである。どちらも、除かれる固有値は $-1$ ではなく $1$ である。3 の、互いに逆で全単射であることは演習にはない。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 共役転置(転置で $U^{\top}U=I$) | ex-unit-transpose の $C$ | 長さを保つこと、固有値の絶対値が $1$ |
| 列の長さが $1$(列どうしは直交) | $\begin{pmatrix}1&i\\i&1\end{pmatrix}$ | 長さを保つこと |
| 正方行列($2\times1$ 行列で $v^*v=I_1$) | $v=\frac1{\sqrt2}(1,i)^{\top}$ | $vv^*=I_2$ |
| 有限次元($\ell^2$ の上の作用素で $S^*S=I$) | ずらし作用素 $S$(rem-unit-shift) | $SS^*=I$、全射であること |
| thm-unit-diagonalization の 2 で $\lvert d_i\rvert=1$ | $D=\operatorname{diag}(2,1)$、$V=I_2$ | $U=VDV^*$ がユニタリであること |
| thm-unit-cayley で $H$ が Hermite | $H=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$ | $(I+iH)(I-iH)^{-1}$ がユニタリであること |
1 行目は ex-unit-transpose で確かめた。2〜6 行目は次の計算で確かめられる。
2 行目:列 $(1,i)^{\top}$、$(i,1)^{\top}$ の内積は $1\cdot\bar i+i\cdot1=0$ だが、長さは $\sqrt2$ で、$\|Ae_1\|=\sqrt2\ne1$ である。3 行目:$v^*v=\frac12(1+|i|^2)=1$ だが $vv^*=\frac12\begin{pmatrix}1&-i\\i&1\end{pmatrix}$ は階数 $1$ で $I_2$ でない。4 行目は rem-unit-shift で確かめる。5 行目:$VDV^*=D$ は $D^*D=\operatorname{diag}(4,1)\ne I_2$ を満たし、ユニタリでない($D$ は Hermite 行列である)。6 行目:$H$ は $H^*=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}\ne H$ で Hermite でない。$H^2=O$ なので $(I-iH)(I+iH)=I$、すなわち $(I-iH)^{-1}=I+iH$ であり、$(I+iH)(I-iH)^{-1}=(I+iH)^2=I+2iH=\begin{pmatrix}1&2i\\0&1\end{pmatrix}$ となる。その第 2 列の長さは $\sqrt5$ なのでユニタリでない。
2 乗総和可能な複素数列の空間 $\ell^2$(内積 $\langle x,y\rangle=\sum_{k\ge1}x_k\overline{y_k}$)の上で、$S(x_1,x_2,\dots):=(0,x_1,x_2,\dots)$ とおく。$\|Sx\|=\|x\|$ なので $S$ は内積を保つ(偏極恒等式による)。$S^*(y_1,y_2,\dots)=(y_2,y_3,\dots)$ は $\langle Sx,y\rangle=\sum_kx_k\overline{y_{k+1}}=\langle x,S^*y\rangle$ を満たす随伴作用素であり、$S^*S=I$ である。しかし $SS^*(y_1,y_2,\dots)=(0,y_2,y_3,\dots)$ なので $SS^*\ne I$ であり、$S$ の像は第 1 成分が $0$ の数列だけで全射でない。有限次元では片側の逆行列が両側の逆行列になる(thm-unit-equivalent の 1 ⇒ 2)が、無限次元ではこれが崩れる。そのため無限次元の内積空間では、内積を保つ線形写像(等長作用素)のうち全射なものを ユニタリ作用素 と呼んで区別する(Axl24 7.51、p. 260 の定義と注意)。
ユニタリ作用素の定義と特徴づけは Axl24 7.51・7.53(§7D、pp. 260–261)、固有値の絶対値が $1$ であることとユニタリ対角化は 7.54・7.55(p. 262)、ユニタリ行列の定義と特徴づけは 7.56・7.57(p. 263)、行列式の絶対値が $1$ であることは 9.58(§9C、p. 362)、Cayley 変換は §7D の演習 15・16(p. 269)に $U$ を $-U$ に替えた形(除く固有値が $1$)で 1・2 にあたる内容があり(全単射であることは演習にない)、離散 Fourier 変換の行列は演習 19(p. 269)にある。同書の離散 Fourier 変換は $\omega$ の代わりに $\bar\omega$ を使っている。Bee15 は Section MINM(Definition UM、Theorem UMI・CUMOS・UMPIP)でユニタリ行列を扱い、内積を第 2 変数について線形としている。Schur の三角化定理は 三角化 の記事の定理「Schur の三角化定理」にある。
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