多項式法(polynomial method)とは、組合せ論や離散幾何の問題で、調べたい有限集合の上で消える、または 1 点だけで消えない次数の低い多項式を作り、次数と零点の個数の関係から矛盾や評価を導く方法である。中心にある Alon の Combinatorial Nullstellensatz は、体上の全次数 $t_1+\cdots+t_n$ の多項式で $x_1^{t_1}\cdots x_n^{t_n}$ の係数が $0$ でなければ、$\lvert S_i\rvert>t_i$ をみたす格子 $S_1\times\cdots\times S_n$ のどこかで値が $0$ でないと主張する。Cauchy–Davenport の定理、格子を超平面で覆う問題の下界、有限体の掛谷集合の大きさの下界(Dvir の定理)などが短く証明できる。
前提知識: 多項式環, 有限体, 二項係数, Schwartz–Zippelの補題
多項式法(polynomial method)とは、組合せ論や離散幾何の問題で、調べたい有限集合の上で消える(または 1 点だけで消えない)次数の低い多項式を作り、多項式の次数と零点の個数の関係から矛盾や評価を導く方法の総称である。基本になるのは次の 2 つの事実である。
以下 $K$ を体とし、$K[x_1,\dots,x_n]$ の多項式 $f$ の全次数を $\deg f$、変数 $x_i$ についての次数を $\deg_{x_i}f$ と書く。
$S\subset K^n$ を有限集合、$D\ge0$ を整数とし、$\lvert S\rvert< \binom{D+n}{n}$ とする。このとき $S$ のすべての点で $0$ になる、$0$ でない $f\in K[x_1,\dots,x_n]$ で $\deg f\le D$ のものがある。
次数 $D$ 以下の多項式の空間 $W$ は、次数 $D$ 以下の単項式 $x_1^{a_1}\cdots x_n^{a_n}$($a_1+\cdots+a_n\le D$)を基底にもち、その個数は $\binom{D+n}{n}$ である($a_0:=D-\sum_ia_i$ を加えて、和が $D$ の非負整数の $(n+1)$ 組を数える。二項係数)。$f\mapsto(f(s))_{s\in S}$ は $W$ から $K^S$ への線形写像で、$\dim W>\lvert S\rvert=\dim K^S$ なので核は $0$ でない。$\square$
$f\in K[x_1,\dots,x_n]$ が $\deg_{x_i}f\le t_i$($i=1,\dots,n$)をみたし、$S_1,\dots,S_n\subset K$ が $\lvert S_i\rvert>t_i$ をみたすとする。$f$ が $S_1\times\cdots\times S_n$ のすべての点で $0$ なら $f=0$ である。
$n=1$ なら、$0$ でない 1 変数多項式の根は次数以下の個数しかないことによる。$n\ge2$ とし、$f=\sum_{j=0}^{t_n}f_j(x_1,\dots,x_{n-1})\,x_n^j$ と書く。$(s_1,\dots,s_{n-1})\in S_1\times\cdots\times S_{n-1}$ を固定すると、$x_n$ の多項式 $\sum_jf_j(s_1,\dots,s_{n-1})x_n^j$ は次数 $t_n$ 以下で $S_n$ の $t_n+1$ 個以上の点で消えるので、係数 $f_j(s_1,\dots,s_{n-1})$ はすべて $0$ である。$\deg_{x_i}f_j\le t_i$ なので、帰納法の仮定から各 $f_j=0$、よって $f=0$ である。$\square$
Schwartz–Zippelの補題 の系「格子で消える多項式」は、全次数で同じ結論を述べたものである。
$S_1,\dots,S_n\subset K$ を空でない有限集合とし、$g_i(x_i):=\prod_{s\in S_i}(x_i-s)$ とおく。$g_i$ は $x_i$ だけの、最高次の係数 $1$ の $\lvert S_i\rvert$ 次多項式で、$S_i$ の上で消える。
$f\in K[x_1,\dots,x_n]$ が $S_1\times\cdots\times S_n$ のすべての点で $0$ なら、$\deg h_i\le\deg f-\lvert S_i\rvert$ をみたす $h_1,\dots,h_n\in K[x_1,\dots,x_n]$ があって
$$
f=\sum_{i=1}^nh_ig_i
$$
となる。
まず次を示す。$g\in K[x_i]$ が最高次の係数 $1$ の $s$ 次多項式なら、任意の $F\in K[x_1,\dots,x_n]$ は $F=qg+r$、$\deg q\le\deg F-s$、$\deg r\le\deg F$、$\deg_{x_i}r< s$ と書け、さらに $j\neq i$ について $\deg_{x_j}r\le\deg_{x_j}F$ である。実際、$F=\sum_kc_kx_i^k$($c_k$ は $x_i$ を含まない多項式)と書き、1 変数の割り算で $x_i^k=a_kg+b_k$($\deg b_k< s$、$k< s$ なら $a_k=0$、$b_k=x_i^k$、$k\ge s$ なら $\deg a_k=k-s$)とすると、$q:=\sum_kc_ka_k$、$r:=\sum_kc_kb_k$ が条件をみたす($\deg(c_ka_k)\le\deg c_k+k-s\le\deg F-s$、$\deg(c_kb_k)\le\deg c_k+k$)。
この割り算を $F=f$、$g=g_1$ から始めて、余りを順に $g_2,\dots,g_n$ で割ると、
$$
f=\sum_{i=1}^nh_ig_i+r,\qquad\deg h_i\le\deg f-\lvert S_i\rvert,\qquad\deg_{x_i}r< \lvert S_i\rvert\ (i=1,\dots,n)
$$
を得る($g_i$ で割るとき、それまでに得た $\deg_{x_j}r< \lvert S_j\rvert$($j< i$)は保たれる)。$f$ と各 $g_i$ は $S_1\times\cdots\times S_n$ で消えるので $r$ も消え、lem-pm-grid($t_i=\lvert S_i\rvert-1$)により $r=0$ である。$\square$
$f\in K[x_1,\dots,x_n]$ の全次数が $t_1+\cdots+t_n$($t_i\ge0$ は整数)で、単項式 $x_1^{t_1}\cdots x_n^{t_n}$ の係数が $0$ でないとする。$S_1,\dots,S_n\subset K$ が $\lvert S_i\rvert>t_i$ をみたせば、$f(s_1,\dots,s_n)\neq0$ となる $s_i\in S_i$ がある。
$S_i$ を $t_i+1$ 元の部分集合に取り替えてよい。$f$ が $S_1\times\cdots\times S_n$ で消えると仮定すると、thm-pm-cn1 により $f=\sum_ih_ig_i$、$\deg h_i\le\deg f-(t_i+1)$ である。$h_ig_i$ の全次数 $\deg f$ の部分は、$h_i$ の全次数 $\deg f-t_i-1$ の部分と $x_i^{t_i+1}$ の積なので、そこに現れる単項式は $x_i$ の指数が $t_i+1$ 以上である。全次数が $\deg f$ より小さい単項式は $x_1^{t_1}\cdots x_n^{t_n}$ と異なる。よって $\sum_ih_ig_i$ の $x_1^{t_1}\cdots x_n^{t_n}$ の係数は $0$ で、$f$ の係数が $0$ でないことに反する。$\square$
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\lvert S_i\rvert>t_i$ | $n=1$、$f=x^2-x$、$t_1=2$、$S_1=\{0,1\}$ | $f$ は $S_1$ で消える |
| $x_1^{t_1}\cdots x_n^{t_n}$ が最高次の単項式 | $f=y-xy$、$(t_1,t_2)=(0,1)$、$S_1=\{1\}$、$S_2=\{0,1\}$ | $y$ の係数は $1$ だが $f$ は $S_1\times S_2$ で消える |
| $K$ が体 | $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ 上の $f=2x$、$t_1=1$、$S_1=\{0,2\}$ | $x$ の係数 $2\ne0$ だが $f$ は $S_1$ で消える |
どの行も thm-pm-cn2 の仮定を 1 つだけ外している(2 行目は $\deg f=2>t_1+t_2$、3 行目は零因子 $2\cdot2=0$ のため lem-pm-grid の $n=1$ の場合が使えない)。
$p$ を素数、$\mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ とする。$A,B\subset\mathbb{F}_p$ について $A+B:=\{a+b\mid a\in A,\ b\in B\}$ と書く。
$A,B$ が $\mathbb{F}_p$ の空でない部分集合なら $\lvert A+B\rvert\ge\min\{p,\ \lvert A\rvert+\lvert B\rvert-1\}$ である。
$\lvert A\rvert+\lvert B\rvert>p$ なら、各 $g\in\mathbb{F}_p$ について $A$ と $g-B:=\{g-b\mid b\in B\}$ は個数の和が $p$ を超えるので交わり、$g\in A+B$ である。よって $A+B=\mathbb{F}_p$ である。
$\lvert A\rvert+\lvert B\rvert\le p$ とし、$\lvert A+B\rvert\le\lvert A\rvert+\lvert B\rvert-2$ と仮定する。$A+B\subset C$、$\lvert C\rvert=\lvert A\rvert+\lvert B\rvert-2$ となる $C$ をとり、$f(x,y):=\prod_{c\in C}(x+y-c)$ とおく。$f$ は $A\times B$ で消える。$f$ の全次数は $\lvert C\rvert$ で、最高次の部分は $(x+y)^{\lvert C\rvert}$ なので、$t_1=\lvert A\rvert-1$、$t_2=\lvert B\rvert-1$ について $x^{t_1}y^{t_2}$ の係数は $\binom{\lvert A\rvert+\lvert B\rvert-2}{\lvert A\rvert-1}$ である。$\lvert A\rvert+\lvert B\rvert-2< p$ なので、これは $p$ で割り切れず $\mathbb{F}_p$ で $0$ でない。thm-pm-cn2($S_1=A$、$S_2=B$)から $f(a,b)\neq0$ となる $(a,b)\in A\times B$ があり、矛盾する。$\square$
等差数列 $A=\{0,1,\dots,k-1\}$、$B=\{0,1,\dots,l-1\}$($k+l-1\le p$)では $A+B=\{0,\dots,k+l-2\}$ で等号が成り立つ。$p$ を合成数に替えると成り立たない。たとえば $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ の $A=B=\{0,2\}$ では $A+B=\{0,2\}$ で、$\lvert A+B\rvert=2< \min\{4,3\}$ である(証明では $\binom{2}{1}=2$ が $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ の零因子になる)。
$S_1,\dots,S_n\subset K$ を空でない有限集合、$S:=S_1\times\cdots\times S_n$、$s=(s_1,\dots,s_n)\in S$ とする。$K^n$ のアフィン超平面 $H_1,\dots,H_m$ の和が $S\setminus\{s\}$ を含み、$s$ を含まないなら、
$$
m\ge\sum_{i=1}^n(\lvert S_i\rvert-1)
$$
である。
$H_j=\{\ell_j=0\}$($\ell_j$ は 1 次式)とし、$t_i:=\lvert S_i\rvert-1$、$N:=\sum_it_i$ とおく。$m< N$ と仮定する。$\ell_j(s)\neq0$ なので
$$
F(x):=\prod_{j=1}^m\ell_j(x)-c\prod_{i=1}^n\prod_{a\in S_i\setminus\{s_i\}}(x_i-a),\qquad c:=\frac{\prod_j\ell_j(s)}{\prod_i\prod_{a\in S_i\setminus\{s_i\}}(s_i-a)}\neq0
$$
とおける。$F(s)=0$ である。第 1 項の次数は $m< N$、第 2 項は全次数 $N$ で $x_1^{t_1}\cdots x_n^{t_n}$ の係数が $-c\neq0$ なので、thm-pm-cn2 から $F(x)\neq0$ となる $x\in S$ がある。$F(s)=0$ なので $x\neq s$ で、ある $i$ で $x_i\neq s_i$、すなわち $x_i\in S_i\setminus\{s_i\}$ となり第 2 項は $0$ である。また $x\in S\setminus\{s\}$ はある $H_j$ にのるので第 1 項も $0$ である。よって $F(x)=0$ となり矛盾する。$\square$
$S_i=\{0,1\}$ なら、立方体 $\{0,1\}^n$ の 1 頂点以外を覆い、その頂点を通らない超平面は $n$ 枚以上必要である(Alon–Füredi。Alo99 Theorem 6.3)。$K=\mathbb{R}$、$S_i=\{0,1,\dots,N_i\}$、$s=0$ では、$M:=N_1+\cdots+N_n$ 枚の超平面 $x_1+\cdots+x_n=k$($k=1,\dots,M$)が条件をみたすので、この評価は等号で達成される。$n=3$、$S_i=\{0,1,\dots,N\}$ の場合は、空間の平面と法線ベクトル の例「国際数学オリンピック(2007 年)第 6 問」の答え $3N$ の下界である(そこでは交代二項和による別の証明がある)。
この節では体を $\mathbb{F}_q$ とし、記号 $K$ は集合に使う。$q$ 元体 $\mathbb{F}_q$ の上で、$K\subset\mathbb{F}_q^n$ が 掛谷集合(Kakeya set)であるとは、どの $b\in\mathbb{F}_q^n\setminus\{0\}$ についても、ある $a$ があって直線 $\{a+\tau b\mid\tau\in\mathbb{F}_q\}$ が $K$ に含まれることをいう(すべての向きの直線を含む)。名は掛谷宗一(Sôichi Kakeya)にちなみ、実数の場合の 掛谷の問題 の有限体での類似である。
$\mathbb{F}_q^n$ の掛谷集合 $K$ について
$$
\lvert K\rvert\ge\binom{q+n-1}{n}\ \Bigl(\ge\frac{q^n}{n!}\Bigr)
$$
である。
$\lvert K\rvert< \binom{q-1+n}{n}$ と仮定すると、lem-pm-interpolation($D=q-1$)により、$K$ で消える $0$ でない $f$ で $\deg f\le q-1$ のものがある。$d:=\deg f$ とし、$f_d$ を $f$ の $d$ 次の斉次部分とする。$K\ne\emptyset$ なので $f$ は $0$ でない定数ではなく、$d\ge1$ である。
$b\neq0$ とし、$a$ を定義のとおりにとる。$\tau$ の多項式 $\varphi(\tau):=f(a+\tau b)$ は次数が $d$ 以下($d\le q-1$)で、$\mathbb{F}_q$ の $q$ 個の点すべてで消えるので $\varphi=0$ である。$\varphi$ の $\tau^d$ の係数は $f_d(b)$ なので $f_d(b)=0$ である。$d\ge1$ なので $f_d(0)=0$ でもある。よって $f_d$ は $\mathbb{F}_q^n$ 全体で消え、$\deg_{x_i}f_d\le d\le q-1< q$ なので lem-pm-grid($S_i=\mathbb{F}_q$)から $f_d=0$ となり、$f_d$ が $d$ 次の部分であることに反する。$\square$
$\binom{q+n-1}{n}=\frac{q(q+1)\cdots(q+n-1)}{n!}\ge\frac{q^n}{n!}$ である。Dvir は次数 $q-2$ の多項式で $\lvert K\rvert\ge C_nq^{n-1}$ を示し、Alon と Tao の注意で $C_nq^n$ の形に改良された(Dvi09 Theorem 1・Theorem 3 と §1.1)。$n=1$ では $K=\mathbb{F}_q$ で等号が成り立つ。
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