アーベル群

同義語:abelian group可換群Abel群

概要

アーベル群(abelian group)とは、任意の 2 つの元 $x,y$ について $xy=yx$ が成り立つ群であり、可換群ともいう。整数の加法群 $\mathbb{Z}$、剰余類の群 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$、有理数の加法群 $\mathbb{Q}$、ベクトル空間や加群の加法群が代表例で、対称群 $S_3$ や $\mathrm{GL}_2(\mathbb{R})$ は可換でない群の例である。アーベル群では部分群がすべて正規部分群になり、有限位数の元の全体が捩れ部分群をなし、準同型の全体 $\operatorname{Hom}(A,B)$ が再び群になる。アーベル群は $\mathbb{Z}$ 加群と同じものであり、有限生成アーベル群は巡回群の直和として分類される。$\mathbb{Q}$ は捩れをもたないが、有限生成でも自由でもない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 群, 部分群, 剰余群, 整数
アーベル群は、演算の順序を入れ替えても結果が変わらない群である。整数の加法群 $\mathbb{Z}$、法 $n$ の剰余類の群 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$、有理数の加法群 $\mathbb{Q}$ がその代表であり、ベクトル空間や加群の「足し算の部分」もすべてアーベル群である。可換性のおかげで、部分群がすべて正規部分群になる、有限位数の元の全体が部分群をなす、群準同型の全体が再び群になる、など一般の群では成り立たない性質が成り立ち、有限生成なものは巡回群の直和として完全に分類される。

定義

アーベル群

群 $(G,\cdot)$ が アーベル群(abelian group)であるとは、任意の $x,y\in G$ に対して
$$ xy=yx $$
が成り立つことをいう。この性質を演算の可換性といい、アーベル群を 可換群(commutative group)ともいう。名称は Niels Henrik Abel に由来する(DF04 §1.1)。

定義は群の公理(結合律・単位元・逆元の存在)に可換性を一つ加えただけである。したがってアーベル群は群であり、群について成り立つことはすべてアーベル群についても成り立つ。逆に、可換でない群を非可換群という。

加法的記法

アーベル群では演算を $+$ で書くことが多い(加法的記法)。このとき単位元を $0$、$a$ の逆元を $-a$ と書き、$a+(-b)$ を $a-b$ と略す。整数 $n$ に対する $n$ 倍 $na$ は、乗法的記法の冪 $a^n$ にあたる。すなわち $0a:=0$、$n\geq1$ に対して $na:=a+\cdots+a$($n$ 個の和)、$(-n)a:=-(na)$ と定める。群 の記事の命題(指数法則)を書き直すと、任意の $a\in G$ と $m,n\in\mathbb{Z}$ について
$$ (m+n)a=ma+na,\qquad (mn)a=m(na),\qquad -(na)=(-n)a=n(-a) $$
が成り立つ。さらに可換性から
$$ n(a+b)=na+nb $$
も成り立つ。最後の等式は可換性なしには成り立たない。乗法的記法で書けば $(xy)^n=x^ny^n$ であり、非可換群では一般に偽である(prop-abelian-group-inversion の証明を参照)。加法的記法を使うときは、その群がアーベル群であることを暗に主張している。

可換性は、次のように群構造の別の側面で言い換えられる。

可換性の言い換え

群 $G$ について次は同値である。

  1. $G$ はアーベル群である。
  2. 逆元をとる写像 $\iota\colon G\to G$、$x\mapsto x^{-1}$ が群準同型である。
  3. 任意の $x,y\in G$ に対して $(xy)^2=x^2y^2$ が成り立つ。
逆元と 2 乗による特徴づけ

任意の群で $(xy)^{-1}=y^{-1}x^{-1}$ が成り立つことを使う(実際 $(xy)(y^{-1}x^{-1})=x(yy^{-1})x^{-1}=e$ である)。
1 ならば 2:$G$ が可換なら $\iota(xy)=(xy)^{-1}=y^{-1}x^{-1}=x^{-1}y^{-1}=\iota(x)\iota(y)$ である。
2 ならば 1:$\iota$ が準同型なら、任意の $x,y$ について $y^{-1}x^{-1}=(xy)^{-1}=x^{-1}y^{-1}$ である。$x,y$ は任意なので $x^{-1},y^{-1}$ を改めて $x,y$ とおけば $yx=xy$ を得る。
1 ならば 3:$(xy)^2=xyxy=xxyy=x^2y^2$ である。
3 ならば 1:$xyxy=xxyy$ の両辺に左から $x^{-1}$、右から $y^{-1}$ を掛けると $yx=xy$ を得る。

直感

アーベル群は「順番を気にしなくてよい足し算」の抽象化である。整数や有理数の加法、ベクトルの加法では、何をどの順に足しても結果は同じであり、その帰結として和 $\sum_i n_ia_i$ の形の元を自由に並べ替えて計算できる。一般の群では $xy$ と $yx$ が異なるため、元を「整数係数の線形結合」として扱うことはできない。アーベル群の理論は、線形代数の「体上のベクトル空間」を「整数上の加群」に置き換えたものとみることができ、有限生成アーベル群の基本定理は線形代数の次元定理の類似物である。ただし体と違って $\mathbb{Z}$ では割り算ができないので、$\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ のような捩れや、$\mathbb{Q}$ のような無限に割り切れる群が現れ、ベクトル空間にはない現象が起こる。

例と反例

数の加法群

整数 $\mathbb{Z}$、有理数 $\mathbb{Q}$、実数 $\mathbb{R}$、複素数 $\mathbb{C}$ は、それぞれ通常の加法についてアーベル群である。数の加法が可換だからである。同様に、$n\geq1$ に対して法 $n$ の剰余類の群 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}=\{[0],[1],\ldots,[n-1]\}$ は $[a]+[b]:=[a+b]$ についてアーベル群である。実際 $[a]+[b]=[a+b]=[b+a]=[b]+[a]$ である。より一般に、体 $k$ 上のベクトル空間 $V$ の加法群 $(V,+)$、環 $R$ の加法群 $(R,+)$、環上の加群 $M$ の加法群 $(M,+)$ はすべてアーベル群である。これらは定義のなかで可換性が要請されている。

数の乗法群

$0$ を除いた有理数全体 $\mathbb{Q}^{\times}=\mathbb{Q}\setminus\{0\}$、$\mathbb{R}^{\times}$、$\mathbb{C}^{\times}$ は乗法についてアーベル群である。正の実数全体 $\mathbb{R}_{>0}$、絶対値 $1$ の複素数全体 $S^1=\{z\in\mathbb{C}\mid |z|=1\}$、1のn乗根全体 $\mu_n=\{z\in\mathbb{C}\mid z^n=1\}$ も、それぞれ乗法について閉じているので $\mathbb{C}^{\times}$ の部分群であり、アーベル群である。乗法群では加法的記法を使わず、単位元を $1$、$n$ 倍を $z^n$ と書く。

巡回群と素数位数の群

巡回群 $G=\langle g\rangle=\{g^k\mid k\in\mathbb{Z}\}$ はアーベル群である。実際、指数法則により $g^kg^l=g^{k+l}=g^{l+k}=g^lg^k$ である。とくに $\mathbb{Z}$ と $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ はアーベル群である。また、位数が素数 $p$ の群 $G$ はアーベル群である。$G$ の単位元でない元 $g$ をとると、Lagrangeの定理により $g$ の元の位数は $|G|=p$ の約数で $1$ でないから $p$ に等しく、$\langle g\rangle$ は $p$ 個の元をもつので $G=\langle g\rangle$ である。

Kleinの四元群と直積

Kleinの四元群 $V_4=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ はアーベル群だが巡回群ではない。単位元以外の 3 元がすべて位数 $2$ だからである。したがって「アーベル群ならば巡回群」は成り立たない。一般に、群 $G,H$ の直積群 $G\times H$(演算は成分ごと)がアーベル群であることと、$G$ と $H$ がともにアーベル群であることは同値である。実際 $(g,h)(g',h')=(gg',hh')$ と $(g',h')(g,h)=(g'g,h'h)$ が常に一致することは、$gg'=g'g$ と $hh'=h'h$ が常に成り立つことにほかならない。とくに $\mathbb{Z}^n=\mathbb{Z}\times\cdots\times\mathbb{Z}$ はアーベル群である。

反例:3 次対称群と 2 次一般線形群

3 文字の対称群 $S_3$ は非可換群である。互換を $(1\,2)$、$(1\,3)$ とし、置換の合成は右を先に作用させると約束すると、
$$ (1\,2)(1\,3)=(1\,3\,2),\qquad (1\,3)(1\,2)=(1\,2\,3) $$
であり、両者は異なる(前者は $1\mapsto3$、後者は $1\mapsto2$)。同様に、実数を成分とする $2$ 次正則行列全体のなす一般線形群 $\mathrm{GL}_2(\mathbb{R})$ も非可換である。実際
$$ A=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix},\qquad B=\begin{pmatrix}1&0\\1&1\end{pmatrix} $$
に対して
$$ AB=\begin{pmatrix}2&1\\1&1\end{pmatrix},\qquad BA=\begin{pmatrix}1&1\\1&2\end{pmatrix} $$
である。これらの群は群の公理(満たす性質)をすべて満たすが、可換性(満たさない性質)を欠くので、アーベル群ではない。$S_3$ は位数 $6$ の最小の非可換群であり、位数 $5$ 以下の群はすべてアーベル群である(DF04 §1.3, §3.2)。

一般の群では、元 $x,y$ が可換であるかどうかは元ごとに決まる。任意の群で $x$ と $x^{-1}$、$x$ と $x^k$、$x$ と単位元は可換であり、群の全元と可換な元の全体を群の中心という。アーベル群は中心が群全体に一致する群である。

部分群と商群

部分群・正規部分群・剰余群・群準同型の一般論は 群、部分群、剰余群 の記事に譲り、ここではアーベル群に固有の事実だけを述べる。以下、アーベル群は加法的に書く。群 $G$ の部分群 $H$ が正規であるとは、任意の $g\in G$ と $h\in H$ について $g+h-g\in H$(乗法的記法では $ghg^{-1}\in H$)が成り立つことをいい、そのとき剰余類の集合 $G/H$ に $(a+H)+(b+H):=(a+b)+H$ で群構造が入る。

アーベル群の部分群と商

$G$ をアーベル群とする。

  1. $G$ の任意の部分群 $H$ はアーベル群である。
  2. $G$ の任意の部分群 $H$ は正規部分群である。したがって剰余群 $G/H$ が常に定まる。
  3. 剰余群 $G/H$ はアーベル群である。
  4. 群準同型 $f\colon G\to G'$ の像 $f(G)$ はアーベル群である。
可換性の部分群・商・像への遺伝

1:$H$ の元は $G$ の元だから、$h,h'\in H$ に対して $h+h'=h'+h$ である。
2:$g\in G$、$h\in H$ に対して、可換性から $g+h-g=h+g-g=h\in H$ である。
3:$a+H,\ b+H\in G/H$ に対して $(a+H)+(b+H)=(a+b)+H=(b+a)+H=(b+H)+(a+H)$ である。
4:$f(a),f(b)\in f(G)$ に対して $f(a)+f(b)=f(a+b)=f(b+a)=f(b)+f(a)$ である。

とくに、アーベル群 $A,B$ の間の群準同型 $f\colon A\to B$ について、核 $\ker f=\{a\in A\mid f(a)=0\}$ は $A$ の部分群、像 $f(A)$ は $B$ の部分群であり、準同型定理により $A/\ker f\cong f(A)$ が成り立つ(DF04 §3.3)。$\ker f$ が正規部分群であることを確かめる必要がない点が、アーベル群での準同型定理の使いやすさである。

反例:部分群がすべて正規でも可換とは限らない

上の 2 の逆は成り立たない。四元数群 $Q_8=\{\pm1,\pm i,\pm j,\pm k\}$($i^2=j^2=k^2=-1$、$ij=k$、$ji=-k$ など。DF04 §1.5)は $ij\neq ji$ だから非可換群である。一方 $Q_8$ の部分群は $\{1\}$、$\{\pm1\}$、$\langle i\rangle$、$\langle j\rangle$、$\langle k\rangle$、$Q_8$ に限られる。実際、位数 $2$ の元は $-1$ だけなので位数 $2$ の部分群は $\{\pm1\}$ のみであり、位数 $4$ の部分群は、位数 $2$ の元を 3 個もつことはできないから位数 $4$ の元 $\pm i,\pm j,\pm k$ のいずれかが生成する巡回群である。そして$\{\pm1\}$ は $Q_8$ の中心なので正規、$\langle i\rangle,\langle j\rangle,\langle k\rangle$ は指数 $2$ の部分群なので正規である。つまり $Q_8$ は「すべての部分群が正規」(満たす性質)を満たすが「可換」(満たさない性質)ではなく、含意「すべての部分群が正規ならばアーベル群」を破る。

直和と生成

アーベル群の直和

アーベル群の族 $(A_i)_{i\in I}$ に対し、直積集合 $\prod_{i\in I}A_i$ に成分ごとの加法を入れたものを直積 $\prod_{i\in I}A_i$ といい、その部分群
$$ \bigoplus_{i\in I}A_i:=\Bigl\{(a_i)_{i\in I}\in\prod_{i\in I}A_i\ \Bigm|\ \text{有限個の } i \text{ を除いて } a_i=0\Bigr\} $$
を直和(direct sum)という。添字集合 $I$ が有限なら直和と直積は一致し、$A_1\oplus\cdots\oplus A_n=A_1\times\cdots\times A_n$ である。

直和が直積の部分群であることは、有限個の成分以外が $0$ の二つの元の差もまた有限個の成分以外が $0$ であることから従う。$I$ が無限のとき両者は異なる。たとえば $\bigoplus_{n\in\mathbb{N}}\mathbb{Z}$ は各成分が有限個を除いて $0$ の数列全体、$\prod_{n\in\mathbb{N}}\mathbb{Z}$ は整数列全体であり、$(1,1,1,\ldots)$ は後者に属するが前者には属さない。

内部直和の判定

$G$ をアーベル群、$H,K$ をその部分群とし、$H+K:=\{h+k\mid h\in H,\ k\in K\}$ とおく。$H+K=G$ かつ $H\cap K=\{0\}$ ならば、写像
$$ \varphi\colon H\oplus K\to G,\qquad (h,k)\longmapsto h+k $$
は同型である。このとき $G=H\oplus K$ と書き、$G$ は $H$ と $K$ の内部直和であるという。

和の写像の全単射性

$\varphi$ が準同型であることは、可換性を使って
$$ \varphi((h,k)+(h',k'))=(h+h')+(k+k')=(h+k)+(h'+k')=\varphi(h,k)+\varphi(h',k') $$
と確かめられる。$H+K=G$ は $\varphi$ が全射であることそのものである。$(h,k)\in\ker\varphi$ とすると $h+k=0$ から $h=-k\in H\cap K=\{0\}$ であり、$h=k=0$ となる。よって $\ker\varphi=\{0\}$ で $\varphi$ は単射であり、全単射準同型だから同型である。

非可換群では、$H$ と $K$ が正規部分群で $HK=G$、$H\cap K=\{e\}$ のときに限って同じ結論が成り立つ。上の証明で可換性を使ったのは $\varphi$ が準同型であることの確認であり、$h'$ と $k$ の順序を入れ替えた箇所である。

生成された部分群と有限生成

アーベル群 $G$ の部分集合 $S$ に対し、$S$ の元の整数倍の有限和全体
$$ \langle S\rangle:=\{n_1s_1+\cdots+n_ks_k\mid k\geq0,\ n_i\in\mathbb{Z},\ s_i\in S\} $$
を $S$ が生成する部分群という($k=0$ のときの和は $0$ とする)。$\langle S\rangle=G$ となる有限集合 $S$ が存在するとき、$G$ は有限生成(finitely generated)であるという。一つの元で生成されるアーベル群が巡回群である。

$\langle S\rangle$ は $0$ を含み、二つの元の差 $\sum n_is_i-\sum m_js_j$ も同じ形の和であるから、$G$ の部分群である。また $S$ を含む任意の部分群は各 $n_is_i$ とその有限和を含むので、$\langle S\rangle$ は $S$ を含む最小の部分群である。$\mathbb{Z}^n$ は標準基底 $e_1,\ldots,e_n$ で生成され、有限群は自分自身を生成系とするので有限生成である。$\mathbb{Q}$ は有限生成でない(prop-abelian-group-q-not-fg)。

有限生成アーベル群の構造定理

有限生成アーベル群は、巡回群の直和として同型を除いて完全に分類される。

有限生成アーベル群の構造定理

$G$ を有限生成アーベル群とする。このとき整数 $r\geq0$、$k\geq0$ と、$d_1\mid d_2\mid\cdots\mid d_k$ を満たす整数 $d_1,\ldots,d_k\geq2$ が存在して
$$ G\cong\mathbb{Z}^r\oplus\mathbb{Z}/d_1\mathbb{Z}\oplus\cdots\oplus\mathbb{Z}/d_k\mathbb{Z} $$
が成り立つ。さらに $r$ と列 $(d_1,\ldots,d_k)$ は $G$ の同型類から一意に定まる。$r$ を $G$ の階数(rank)、$d_1,\ldots,d_k$ を不変因子という。

構造定理の証明の所在

$G$ が有限群の場合($r=0$)の存在と一意性の完全な証明は 有限アーベル群の基本定理 の記事にある。有限生成の場合の証明は DF04 §12.1(言明は §5.2)、Lan02 第 I 章 §8 に譲り、本記事はその結果を引用する。有限の場合に各 $\mathbb{Z}/d_i\mathbb{Z}$ を素数冪位数の巡回群の直和に分解した形(素因子形)は 有限アーベル群の基本定理 の記事で扱われる。証明の要点は、$G$ を自由アーベル群 $\mathbb{Z}^n$ の商 $\mathbb{Z}^n/L$ として表し、部分群 $L$ の生成系を整数行列の基本変形(Smith 標準形)で対角化することである。

自由アーベル群(free abelian group)とは、ある集合 $I$ について $\bigoplus_{i\in I}\mathbb{Z}$ と同型なアーベル群である(自由アーベル群)。構造定理は、有限生成アーベル群が「自由部分 $\mathbb{Z}^r$」と「有限部分」の直和であることを述べている。

捩れのない有限生成アーベル群

有限生成アーベル群 $G$ において、$0$ 以外のすべての元が無限位数をもつならば、$G\cong\mathbb{Z}^r$ である。

有限位数の直和因子の排除

thm-abelian-group-structure の分解で $k\geq1$ とすると、$\mathbb{Z}/d_1\mathbb{Z}$ の元 $[1]$ に対応する $G$ の元は $0$ でなく位数 $d_1<\infty$ をもち、仮定に反する。よって $k=0$、すなわち $G\cong\mathbb{Z}^r$ である。この証明は構造定理の言明に依存する。

位数 $4$ と位数 $6$ のアーベル群

$\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ と $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ はともに位数 $4$ のアーベル群だが同型でない。前者には位数 $4$ の元 $[1]$ があり、後者の元はすべて $2$ 倍すると $0$ になるからである。構造定理の言葉では、不変因子がそれぞれ $(4)$ と $(2,2)$ である。
一方 $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ である。実際、右辺の元 $([1],[1])$ の $n$ 倍が $0$ になるのは $2\mid n$ かつ $3\mid n$、すなわち $6\mid n$ のときだから、この元の位数は $6$ であり、位数 $6$ の群のなかで $6$ 個の元 $n([1],[1])$($0\leq n<6$)を尽くす。したがって右辺は位数 $6$ の巡回群であり、巡回群 の記事の命題(巡回群の分類)により $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ と同型である。同じ議論で、$\gcd(m,n)=1$ ならば $\mathbb{Z}/mn\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ である(中国剰余定理)。

捩れ部分群

捩れ元と捩れ部分

アーベル群 $G$ の元 $a$ が捩れ元(torsion element)であるとは、$na=0$ を満たす整数 $n\geq1$ が存在すること、すなわち $a$ が有限位数をもつことをいう。捩れ元の全体を
$$ T(G):=\{a\in G\mid \text{ある } n\geq1 \text{ について } na=0\} $$
と書き、$G$ の捩れ部分群(torsion subgroup)という。$T(G)=G$ のとき $G$ を捩れ群、$T(G)=\{0\}$ のとき $G$ を捩れのない群(torsion-free group)という。また整数 $n\geq1$ に対して
$$ G[n]:=\{a\in G\mid na=0\} $$
を $G$ の $n$-捩れ部分という。

名前のとおり $T(G)$ が部分群であることは、可換性を使って初めて証明できる。

捩れ元の全体は部分群

$G$ をアーベル群とする。

  1. $T(G)$ は $G$ の部分群であり、各 $G[n]$ も $G$ の部分群である。
  2. 剰余群 $G/T(G)$ は捩れのない群である。
  3. $T(G)$ は捩れ群である。
位数の積と剰余群の捩れ

1:$1\cdot0=0$ だから $0\in T(G)$ である。$a,b\in T(G)$ とし、$ma=0$、$nb=0$($m,n\geq1$)とする。加法的記法の等式 $n(a+b)=na+nb$(可換性による。rem-abelian-group-additive-notation)と $(mn)a=n(ma)$ から
$$ mn(a-b)=n(ma)-m(nb)=0-0=0 $$
であり、$mn\geq1$ だから $a-b\in T(G)$ である。よって $T(G)$ は部分群である。$G[n]$ についても同様に、$a,b\in G[n]$ なら $n(a-b)=na-nb=0$ である。
2:$x+T(G)\in G/T(G)$ が捩れ元であるとし、$n(x+T(G))=nx+T(G)=T(G)$($n\geq1$)とする。すると $nx\in T(G)$ だから、ある $m\geq1$ について $m(nx)=(mn)x=0$ であり、$mn\geq1$ だから $x\in T(G)$、すなわち $x+T(G)=T(G)$ は零元である。よって $G/T(G)$ の捩れ元は零元だけである。
3:$T(G)$ の元はすべて捩れ元だから、$T(T(G))=T(G)$ である。

反例:非可換群では有限位数の元は部分群をなさない

整数成分の $2$ 次正則行列の群 $\mathrm{GL}_2(\mathbb{Z})$ で
$$ A=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix},\qquad B=\begin{pmatrix}1&1\\0&-1\end{pmatrix} $$
とおく。$A^2=I$、$B^2=\begin{pmatrix}1&1-1\\0&1\end{pmatrix}=I$ だから $A,B$ はともに位数 $2$ の元である。しかし
$$ AB=\begin{pmatrix}1&1\\0&1\end{pmatrix},\qquad (AB)^n=\begin{pmatrix}1&n\\0&1\end{pmatrix}\neq I\quad(n\geq1) $$
であり、$AB$ は無限位数をもつ。つまり有限位数の元 $A,B$(満たす性質)の積が有限位数でなく、有限位数の元の全体は積について閉じていない(満たさない性質)。prop-abelian-group-torsion-subgroup の証明で $n(a+b)=na+nb$ を使った箇所が、可換性なしには通らないことを示す反例である。

捩れ部分群の計算
  1. $T(\mathbb{Z})=T(\mathbb{Q})=T(\mathbb{R})=\{0\}$ である。$n\geq1$、$a\neq0$ なら $na\neq0$ だからである。
  2. $T(\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2\mathbb{Z})=\{0\}\oplus\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ である。$(a,[b])$ の $n$ 倍が $0$ なら $na=0$ から $a=0$ であり、逆に $(0,[b])$ は $2$ 倍で $0$ になる。
  3. $\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ は捩れ群である。元 $\frac{a}{b}+\mathbb{Z}$($a\in\mathbb{Z}$、$b\geq1$)の $b$ 倍は $a+\mathbb{Z}=\mathbb{Z}$、すなわち零元である。$\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ は無限群である($\frac1n+\mathbb{Z}$、$n\geq1$、は位数がちょうど $n$ なので互いに異なる)。
  4. $T(\mathbb{R}/\mathbb{Z})=\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ である。$x+\mathbb{Z}$ が捩れ元であることは、ある $n\geq1$ について $nx\in\mathbb{Z}$、すなわち $x\in\mathbb{Q}$ であることと同値だからである。
  5. 乗法群 $\mathbb{C}^{\times}$ の捩れ部分群は、$1$ のべき根の全体 $\mu_\infty=\bigcup_{n\geq1}\mu_n$ である。$z^n=1$ となる $n\geq1$ が存在する $z$ が捩れ元だからである。

構造定理と組み合わせると、有限生成アーベル群 $G$ については $T(G)$ が有限群(不変因子部分 $\bigoplus\mathbb{Z}/d_i\mathbb{Z}$ に対応)、$G/T(G)\cong\mathbb{Z}^r$ であり、$G\cong T(G)\oplus\mathbb{Z}^r$ が成り立つ。有限生成でない場合、$T(G)$ が直和因子になるとは限らない(Kap69)。有限生成の捩れ群については、構造定理を使わずに次が示せる。

有限生成な捩れ群は有限

有限生成アーベル群 $G$ が捩れ群ならば、$G$ は有限群である。

生成元の位数による元の数え上げ

$G=\langle g_1,\ldots,g_k\rangle$ とし、$g_i$ の位数を $n_i\geq1$ とする($G$ は捩れ群なので各 $g_i$ は有限位数をもつ)。$G$ の任意の元は $m_1g_1+\cdots+m_kg_k$($m_i\in\mathbb{Z}$)と書ける。$m_i$ を $n_i$ で割った余りを $r_i$($0\leq r_i< n_i$)とすると、$m_ig_i=r_ig_i$ である($m_i=q_in_i+r_i$ と書けば $m_ig_i=q_i(n_ig_i)+r_ig_i=r_ig_i$)。したがって $G$ の元はすべて $r_1g_1+\cdots+r_kg_k$($0\leq r_i< n_i$)の形をもち、$G$ の元の個数は高々 $n_1n_2\cdots n_k$ である。

$\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ は無限の捩れ群だから、prop-abelian-group-fg-torsion-finite により有限生成でない。

可除群

可除なアーベル群

アーベル群 $D$ が可除群(divisible group)であるとは、任意の $a\in D$ と任意の整数 $n\geq1$ に対して $nb=a$ を満たす $b\in D$ が存在することをいう。言い換えれば、すべての $n\geq1$ について $n$ 倍写像 $D\to D$、$b\mapsto nb$ が全射であることである。

可除群の例と反例
  1. $\mathbb{Q}$、$\mathbb{R}$、$\mathbb{C}$ は可除群である。$a$ と $n\geq1$ に対して $b=a/n$ をとればよい。一般に、標数 $0$ の体上のベクトル空間の加法群は可除である。
  2. $\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ と $\mathbb{R}/\mathbb{Z}$ は可除群である。$x+\mathbb{Z}$ と $n\geq1$ に対して $b=\frac{x}{n}+\mathbb{Z}$ をとれば $nb=x+\mathbb{Z}$ である。
  3. 素数 $p$ に対し、$\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ の部分群 $\mathbb{Z}(p^\infty):=\{\frac{a}{p^k}+\mathbb{Z}\mid a\in\mathbb{Z},\ k\geq0\}$(Prüfer群)は可除群である。$\frac{a}{p^k}+\mathbb{Z}$ と $n\geq1$ に対し、$n=p^em$($p\nmid m$)と書き、$mu\equiv1\pmod{p^{k+e}}$ となる整数 $u$($m$ と $p^{k+e}$ が互いに素なので存在する)をとると、$b=\frac{au}{p^{k+e}}+\mathbb{Z}$ について $nb=\frac{amu}{p^k}+\mathbb{Z}=\frac{a}{p^k}+\mathbb{Z}$ である($mu=1+p^{k+e}t$ より $\frac{amu}{p^k}-\frac{a}{p^k}=ap^et\in\mathbb{Z}$)。
  4. 乗法群 $\mathbb{C}^{\times}$ は可除群である。$a=re^{i\theta}$($r>0$)と $n\geq1$ に対して $b=r^{1/n}e^{i\theta/n}$ が $b^n=a$ を満たす。
  5. 反例:$\mathbb{Z}$ は可除群ではない。$2b=1$ を満たす整数 $b$ は存在しない。$n\geq2$ のとき $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ も可除群ではない。$n$ 倍写像がすべての元を $[0]$ に送り、$[1]\neq[0]$ に達しないからである。より一般に、$0$ でない有限アーベル群 $F$ は可除群ではない。$m=|F|$ とすると Lagrange の定理により $mb=0$ がすべての $b\in F$ について成り立ち、$m$ 倍写像は全射でない。これらはアーベル群(満たす性質)だが可除性(満たさない性質)を欠く。
可除群の像と可除群からの準同型

$D$ を可除群とする。

  1. 群準同型 $f\colon D\to A$ の像 $f(D)$ は可除群である。とくに $D$ の任意の剰余群は可除群である。
  2. 群準同型 $f\colon D\to\mathbb{Z}$ は零写像に限る。
  3. 有限アーベル群 $F$ への群準同型 $f\colon D\to F$ は零写像に限る。
可除性の像への遺伝と整除性

1:$f(a)\in f(D)$ と $n\geq1$ に対し、$nb=a$ となる $b\in D$ をとれば $nf(b)=f(nb)=f(a)$ である。剰余群 $D/H$ は全射準同型 $D\to D/H$ の像である。
2:$a\in D$ を任意にとる。各 $n\geq1$ について $nb_n=a$ となる $b_n\in D$ をとると、$f(a)=nf(b_n)$ であり、整数 $f(a)$ はすべての正整数 $n$ で割り切れる。$0$ 以外の整数は自分の絶対値より大きい正整数で割り切れないから、$f(a)=0$ である。
3:$m=|F|$ とおく。$a\in D$ に対し $mb=a$ となる $b\in D$ をとると、$f(a)=mf(b)=0$ である(Lagrange の定理により $F$ のすべての元の $m$ 倍は $0$)。

可除群は、ホモロジー代数では入射加群($\mathbb{Z}$ 上の)として現れる。次の事実は本記事の範囲を超えるので言明にとどめる。

可除群の基本性質
  1. アーベル群 $D$ が可除群であることと、$D$ が $\mathbb{Z}$ 加群として入射的であることは同値である。
  2. 可除群 $D$ がアーベル群 $G$ の部分群ならば、$D$ は $G$ の直和因子である。すなわち $G=D\oplus K$ となる部分群 $K$ が存在する。
  3. 任意の可除群は、$\mathbb{Q}$ のコピーと Prüfer 群 $\mathbb{Z}(p^\infty)$($p$ は素数)のコピーの直和と同型である。
可除群の基本性質の証明の所在

1 と 2 は Baer の判定法から従い、証明は DF04 §10.5 にある。3 は Kap69 の可除群の章に譲る。2 の可除性の仮定は省けない。たとえば $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ の部分群 $\{[0],[2]\}$ は可除でなく($2[0]=2[2]=[0]$ なので $[2]$ はこの部分群の元の $2$ 倍にならない)、直和因子でもない(直和因子なら $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\oplus\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ となり ex-abelian-group-small-orders に反する)。

整数上の加群としての見方

環 $R$ 上の加群とは、アーベル群 $M$ に $R$ の元によるスカラー倍 $R\times M\to M$ が与えられ、$(r+s)a=ra+sa$、$(rs)a=r(sa)$、$1a=a$、$r(a+b)=ra+rb$ を満たすものである。アーベル群の $n$ 倍は、まさに $\mathbb{Z}$ によるスカラー倍である。

アーベル群と整数加群の一致

アーベル群 $G$ には $\mathbb{Z}$ 加群の構造がただ一つ存在し、それは $n\cdot a:=na$($n$ 倍)で与えられる。また、アーベル群の間の写像 $f\colon A\to B$ について、群準同型であることと $\mathbb{Z}$ 加群の準同型($f(a+b)=f(a)+f(b)$ かつ $f(na)=nf(a)$)であることは同値である。

加群の公理からの倍の一意性

$n$ 倍が加群の公理を満たすことは rem-abelian-group-additive-notation の四つの等式そのものである。一意性:$\mathbb{Z}\times G\to G$、$(n,a)\mapsto n\cdot a$ が加群の公理を満たすとする。$1\cdot a=a$ と $(n+1)\cdot a=n\cdot a+1\cdot a$ から、$n\geq1$ について帰納的に $n\cdot a=a+\cdots+a=na$ である。$0\cdot a=(0+0)\cdot a=0\cdot a+0\cdot a$ から $0\cdot a=0$、$(-n)\cdot a+n\cdot a=0\cdot a=0$ から $(-n)\cdot a=-(na)$ である。よってスカラー倍は $n$ 倍に一致する。
準同型について:群準同型 $f$ は $f(0)=0$ と $f(-a)=-f(a)$ を満たし、$n\geq1$ について帰納的に $f(na)=f((n-1)a)+f(a)=nf(a)$、したがって $f((-n)a)=-f(na)=(-n)f(a)$ である。逆は定義から明らかである。

したがってアーベル群の理論は $\mathbb{Z}$ 加群の理論と同じものであり、部分群・剰余群・直和・有限生成は、加群の部分加群・商加群・直和・有限生成に一致する。加群の一般論で得られる準同型定理や完全列の扱いはそのまま使える。とくに $\operatorname{Hom}$ とテンソル積がアーベル群に対して定まる。

準同型のなす群

アーベル群 $A,B$ に対し、群準同型 $A\to B$ の全体を $\operatorname{Hom}(A,B)$ と書く。$f,g\in\operatorname{Hom}(A,B)$ に対して $(f+g)(a):=f(a)+g(a)$ と定めると、$f+g\in\operatorname{Hom}(A,B)$ であり、この加法により $\operatorname{Hom}(A,B)$ はアーベル群になる。

値域の可換性による準同型性

$a,a'\in A$ に対し、$B$ の可換性を使って
$$ (f+g)(a+a')=f(a)+f(a')+g(a)+g(a')=\bigl(f(a)+g(a)\bigr)+\bigl(f(a')+g(a')\bigr)=(f+g)(a)+(f+g)(a') $$
である。零写像が単位元、$(-f)(a):=-f(a)$ が逆元であり($-f$ が準同型であることは $-(f(a)+f(a'))=-f(a)-f(a')$ による)、結合律と可換性は $B$ のそれから従う。

$B$ が非可換群のときは、値ごとの積 $f\cdot g$ は一般に準同型にならない。たとえば $\mathbb{Z}\to S_3$ の準同型は $f(1)$ で決まるが、$f(1)=(1\,2)$、$g(1)=(1\,3)$ とすると $(f\cdot g)(2)=(1\,2)^2(1\,3)^2=e$ であるのに $\bigl((f\cdot g)(1)\bigr)^2=(1\,3\,2)^2=(1\,2\,3)\neq e$ である。

準同型群の計算
  1. $\operatorname{Hom}(\mathbb{Z},A)\cong A$。準同型 $f$ は $f(1)$ で決まり($f(n)=nf(1)$)、逆に任意の $a\in A$ に対して $n\mapsto na$ は準同型である。対応 $f\mapsto f(1)$ は加法を保つ。
  2. $\operatorname{Hom}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z},A)\cong A[n]$。$f$ は $f([1])$ で決まり、$f([1])$ は $nf([1])=f([n])=f([0])=0$ を満たす。逆に $a\in A[n]$ に対して $[k]\mapsto ka$ は代表元 $k$ の取り方によらず定まる準同型である。
  3. $\operatorname{Hom}(\mathbb{Z}/m\mathbb{Z},\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})\cong\mathbb{Z}/d\mathbb{Z}$、$d=\gcd(m,n)$。2 により $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})[m]$ を求めればよい。$m[x]=[0]$ は $n\mid mx$、すなわち $\frac{n}{d}\mid\frac{m}{d}x$ と同値であり、$\frac{m}{d}$ と $\frac{n}{d}$ は互いに素だから $\frac{n}{d}\mid x$ と同値である。よって $(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z})[m]=\langle[n/d]\rangle$ は位数 $d$ の巡回群である。
  4. $\operatorname{Hom}(\mathbb{Z}/n\mathbb{Z},\mathbb{Z})=0$(像は $\mathbb{Z}$ の捩れ元からなるので $0$)、$\operatorname{Hom}(\mathbb{Q},\mathbb{Z})=\operatorname{Hom}(\mathbb{Q}/\mathbb{Z},\mathbb{Z})=0$(prop-abelian-group-divisible-hom)。
アーベル群のテンソル積

アーベル群 $A,B$ の $\mathbb{Z}$ 加群としてのテンソル積 $A\otimes B=A\otimes_{\mathbb{Z}}B$ は、双加法的写像 $A\times B\to C$ を準同型 $A\otimes B\to C$ に置き換える普遍的な対象であり、$a\otimes b$ の形の元で生成され、$(a+a')\otimes b=a\otimes b+a'\otimes b$、$a\otimes(b+b')=a\otimes b+a\otimes b'$、$(na)\otimes b=a\otimes(nb)$ を満たす。構成・普遍性・基本同型の証明は テンソル積 の記事にある。アーベル群で特徴的な計算は次のとおりである(DF04 §10.4)。$\mathbb{Z}\otimes A\cong A$、$\mathbb{Z}/m\mathbb{Z}\otimes\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/\gcd(m,n)\mathbb{Z}$、$\mathbb{Q}\otimes\mathbb{Q}\cong\mathbb{Q}$。また $a$ が捩れ元で $ma=0$ なら、$\mathbb{Q}$ の可除性から $a\otimes q=a\otimes m\frac{q}{m}=(ma)\otimes\frac{q}{m}=0$ であり、$T(A)\otimes\mathbb{Q}=0$、とくに $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\otimes\mathbb{Q}=0$ である。$\operatorname{Hom}$ とテンソル積は随伴の関係 $\operatorname{Hom}(A\otimes B,C)\cong\operatorname{Hom}(A,\operatorname{Hom}(B,C))$ で結ばれる。アーベル群と群準同型のなす圏 $\mathbf{Ab}$ はアーベル圏の原型である。

有理数の加法群

有理数の加法群は有限生成でない

$\mathbb{Q}$ は有限生成アーベル群ではない。

分母の有界性

$\mathbb{Q}$ が有限個の元 $\frac{a_1}{b_1},\ldots,\frac{a_k}{b_k}$($a_i\in\mathbb{Z}$、$b_i\geq1$)で生成されたとする。$N:=b_1b_2\cdots b_k$ とおくと、生成元の整数倍の和
$$ n_1\frac{a_1}{b_1}+\cdots+n_k\frac{a_k}{b_k}=\frac{n_1a_1(N/b_1)+\cdots+n_ka_k(N/b_k)}{N} $$
はすべて $\frac{m}{N}$($m\in\mathbb{Z}$)の形をもつ。しかし $\frac{1}{2N}$ は $\frac{m}{N}$ の形に書けない(書けたとすると $2m=1$ となり整数 $m$ は存在しない)。これは $\frac{1}{2N}\in\mathbb{Q}$ に矛盾する。$k=0$ のときは $\langle\emptyset\rangle=\{0\}\neq\mathbb{Q}$ である。

有理数の加法群は自由でない

$\mathbb{Q}$ は捩れのない群だが、自由アーベル群ではない。とくに $\mathbb{Q}$ は巡回群ではない。

二元の従属性

$\mathbb{Q}$ が捩れのない群であることは ex-abelian-group-torsion-examples の 1 で見た。$\mathbb{Q}\cong\bigoplus_{i\in I}\mathbb{Z}$ とし、$I$ の元 $i$ に対応する $\mathbb{Q}$ の元(標準基底の像)を $e_i$ と書く。$\mathbb{Q}$ の $0$ でない二元 $x=\frac{p}{q}$、$y=\frac{r}{s}$($p,r\neq0$)は $(rq)x-(ps)y=pr-pr=0$ を満たし、係数 $rq$、$ps$ は $0$ でない。一方、相異なる $i\neq j$ について $e_i,e_j$ は、$\bigoplus\mathbb{Z}$ で $ne_i+n'e_j=0$ ならば $n=n'=0$ だから、$0$ でない係数の関係式をもたない。よって $I$ の元は高々一つであり、$\mathbb{Q}$ は $\{0\}$ か巡回群 $\langle e_i\rangle$ に同型でなければならない。どちらも有限生成であり、prop-abelian-group-q-not-fg に矛盾する。

$\mathbb{Q}$ は、cor-abelian-group-torsion-free-fg の「捩れがなければ自由」が有限生成の仮定なしには成り立たないことを示す反例である。満たす性質は「捩れのないアーベル群」、満たさない性質は「自由アーベル群」であり、含意「捩れのないアーベル群ならば自由」を破る。

反例:有理数の剰余群

$\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ は、次の性質を同時にもつアーベル群である。

  1. 無限の捩れ群であり、有限生成でない(ex-abelian-group-torsion-examples の 3、prop-abelian-group-fg-torsion-finite)。
  2. 可除群である(ex-abelian-group-divisible-examples の 2)。
  3. 各 $n\geq1$ について $(\mathbb{Q}/\mathbb{Z})[n]=\langle\frac1n+\mathbb{Z}\rangle\cong\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ である。実際 $x=\frac{a}{b}+\mathbb{Z}$ が $nx=0$ を満たすなら $\frac{na}{b}=c\in\mathbb{Z}$、すなわち $x=c(\frac1n+\mathbb{Z})$ であり、逆に $\frac1n+\mathbb{Z}$ の位数はちょうど $n$ である。
  4. 任意の有限生成部分群は有限巡回群である。$\frac{a_1}{b_1}+\mathbb{Z},\ldots,\frac{a_k}{b_k}+\mathbb{Z}$ が生成する部分群は、$N=b_1\cdots b_k$ とおくと位数 $N$ の巡回群 $\langle\frac1N+\mathbb{Z}\rangle$ に含まれ、巡回群 の記事の命題(巡回群の部分群は巡回群)により巡回群である。しかし $\mathbb{Q}/\mathbb{Z}$ 自身は巡回群でない(巡回群は有限生成だから)。したがって「すべての有限生成部分群が巡回群」(満たす性質)は「巡回群」(満たさない性質)を導かない。
  5. 写像 $\mathbb{Q}\to\mathbb{C}^{\times}$、$x\mapsto e^{2\pi ix}$ は加法群から乗法群への準同型であり、核は $\mathbb{Z}$、像は $1$ のべき根全体 $\mu_\infty$ である($e^{2\pi i a/b}$ は $b$ 乗して $1$ になり、逆に $1$ の $n$ 乗根は $e^{2\pi ik/n}$ の形である。1のn乗根)。準同型定理により $\mathbb{Q}/\mathbb{Z}\cong\mu_\infty$ である。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit, Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004, §1.1(アーベル群の定義と名称)、§1.3・§3.2(対称群の非可換性、位数 5 以下の群)、§1.5(四元数群)、§3.3(準同型定理)、§5.2(有限生成アーベル群の基本定理の言明)、§12.1(その証明)、§10.4(テンソル積)、§10.5(入射加群と可除群、Baer の判定法)
[3]
Irving Kaplansky, Infinite Abelian Groups, Revised edition, University of Michigan Press, 1969, 可除群の章(可除群の構造)、捩れ部分群が直和因子にならない例

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