標数

同義語:characteristic環の標数体の標数

概要

標数(characteristic)とは、単位元をもつ環 $A$ において、$1$ を何回足せば $0$ になるかを表す非負整数である。$n\cdot 1=0$ となる最小の正の整数 $n$ を標数 $\operatorname{char}A$ とし、そのような $n$ が無ければ $0$ とする。標数は唯一の環準同型 $\mathbb{Z}\to A$ の核の生成元に等しく、その像(素部分環)は $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ と同型である。整域、とくに体の標数は $0$ か素数に限られ、体の素体は標数に応じて $\mathbb{Q}$ か $\mathbb{F}_p$ になる。標数 $p$ の可換環では $p$ 乗が環準同型(Frobenius 準同型)になる。$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ のように整域でない環の標数は素数とは限らない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 環, 可換環, 整域, 体, 環準同型, 整数

定義

標数は、環の単位元 $1$ を何回足せば $0$ になるかを表す非負整数である。この一つの数が、環の中に整数の世界がどのように写っているかを決め、整域や体では $0$ か素数しか起こらないという強い制約を受ける。以下、環はすべて単位元 $1$ をもつものとし、可換性は仮定しない(可換性が要る箇所では明記する)。
環 $A$ の元 $a$ と整数 $k$ に対し、整数倍 $k\cdot a$ を次で定める。$k\geq 0$ のときは $0\cdot a:=0$、$(k+1)\cdot a:=k\cdot a+a$(つまり $k\cdot a$ は $a$ を $k$ 個足したもの)、$k<0$ のときは $k\cdot a:=-((-k)\cdot a)$ とする。これは加法群 $(A,+)$ における「$a$ の $k$ 乗」を加法的に書いたものにほかならず、群の指数法則により、任意の整数 $k,l$ と $a,b\in A$ について
$$ (k+l)\cdot a=k\cdot a+l\cdot a,\qquad k\cdot(l\cdot a)=(kl)\cdot a,\qquad k\cdot(a+b)=k\cdot a+k\cdot b $$
が成り立つ。とくに $k\cdot 1$ は $1$ を $k$ 個足した元であり、以下ではこれを単に $k\cdot 1$ または $k\cdot 1_A$ と書く。

環の標数

$A$ を単位元をもつ環とする。正の整数 $n$ で
$$ n\cdot 1_A=\underbrace{1_A+1_A+\cdots+1_A}_{n\ \text{個}}=0 $$
を満たすものが存在するとき、そのような $n$ のうち最小のものを $A$ の 標数(characteristic)といい、$\operatorname{char}A$ と書く。そのような正の整数 $n$ が存在しないときは $\operatorname{char}A:=0$ と定める。

定義は環の乗法を使っていないので、$\operatorname{char}A$ は加法群 $(A,+)$ における単位元 $1_A$ の元の位数(無限位数のときは $0$ と読み替える)にほかならない。ただし標数の意味を十分に引き出すには、$1_A$ が乗法単位元であることが本質的である。次の命題がその出発点で、標数を「整数からの環準同型の核」として言い換える。

標数と整数からの環準同型

$A$ を単位元をもつ環とし、$n:=\operatorname{char}A$ とおく。

  1. 写像 $\iota_A\colon\mathbb{Z}\to A$、$k\mapsto k\cdot 1_A$ は環準同型であり、$\mathbb{Z}$ から $A$ への環準同型はこれ以外に存在しない。
  2. $\iota_A$ の核は $n\mathbb{Z}=\{nk\mid k\in\mathbb{Z}\}$ である。すなわち、整数 $k$ について $k\cdot 1_A=0$ となることと $n\mid k$ とは同値である($n=0$ のときは $k=0$ と読む)。
  3. 整数 $k$ について、すべての $a\in A$ に対し $k\cdot a=0$ となることと、$k\cdot 1_A=0$ とは同値である。したがって $n\cdot a=0$ が任意の $a\in A$ について成り立つ。

1 は 環準同型 の記事の命題「整数環からの環準同型」の 1 で証明されているので、ここでは繰り返さない($\iota_A$ が環準同型であることと、環準同型 $f\colon\mathbb{Z}\to A$ が $f(1)=1_A$ と加法の保存から $f(k)=k\cdot 1_A$ に決まることによる)。
3 のために、任意の整数 $k$ と $a,b\in A$ について $(k\cdot a)b=k\cdot(ab)=a(k\cdot b)$ が成り立つことを示す。$k\geq 0$ のときは $k$ についての帰納法による。$k=0$ なら両辺とも $0$ である($0\cdot b=0$ は分配法則 $0\cdot b=(0+0)\cdot b=0\cdot b+0\cdot b$ から従う)。$k$ で成り立てば、分配法則により $((k+1)\cdot a)b=(k\cdot a+a)b=(k\cdot a)b+ab=k\cdot(ab)+ab=(k+1)\cdot(ab)$ である。$k<0$ のときは、$(-x)b=-(xb)$(これは $xb+(-x)b=(x+(-x))b=0$ から従う)を使って $(k\cdot a)b=(-((-k)\cdot a))b=-(((-k)\cdot a)b)=-((-k)\cdot(ab))=k\cdot(ab)$ となる。$a(k\cdot b)=k\cdot(ab)$ も同様である。
2. 核 $\ker\iota_A=\{k\in\mathbb{Z}\mid k\cdot 1_A=0\}$ は加法群 $\mathbb{Z}$ の部分群である。$\mathbb{Z}$ の部分群はある $m\geq 0$ によって $m\mathbb{Z}$ の形に書け、$m\neq 0$ なら $m$ はその部分群に属する最小の正の整数である(巡回群 の記事の命題「巡回群の部分群は巡回群」の証明)。$\ker\iota_A$ が正の整数を含むとき、その最小の正の整数は定義により $\operatorname{char}A=n$ だから $\ker\iota_A=n\mathbb{Z}$ である。$\ker\iota_A$ が正の整数を含まないときは、$k\in\ker\iota_A$ なら $-k\in\ker\iota_A$ でもあるから $\ker\iota_A=\{0\}=0\mathbb{Z}$ であり、このとき定義により $n=0$ である。
3. $k\cdot 1_A=0$ ならば、最初に示した等式により任意の $a\in A$ について $k\cdot a=k\cdot(1_A a)=(k\cdot 1_A)a=0\cdot a=0$ である。逆はすべての $a$ についての主張を $a=1_A$ に適用すればよい。最後の主張は $k=n$ の場合である。

$\iota_A$ の像 $\iota_A(\mathbb{Z})=\{k\cdot 1_A\mid k\in\mathbb{Z}\}$ は $A$ の部分環であり、任意の部分環は $1_A$ を含むのでこれを含む。すなわち $\iota_A(\mathbb{Z})$ は $A$ の最小の部分環である。体の場合には、部分環であって体でもあるもの(部分体、部分体)のうち最小のものを考えるのが自然である。

素部分環と素体

$A$ を単位元をもつ環とする。$A$ の最小の部分環 $\iota_A(\mathbb{Z})=\{k\cdot 1_A\mid k\in\mathbb{Z}\}$ を $A$ の 素部分環(prime subring)という。
$K$ を体とする。$K$ のすべての部分体の共通部分を $K$ の 素体(prime field)という。部分体の共通部分は再び部分体である($0,1$ を含み、加減乗と $0$ 以外の元の逆元について閉じていることが各部分体で成り立つから)。したがって $K$ の素体は $K$ の最小の部分体である。

素部分環と素体の具体的な形は標数だけで決まる(prop-characteristic-ring-prime-subring、thm-characteristic-ring-prime-field)。

定義についての注意
  1. 標数の定義は可換性を使わないので、行列環のような非可換環にもそのまま適用される。ただし後述の Frobenius 準同型 $a\mapsto a^p$ は、可換性を仮定しないと一般には環準同型にならない(rem-characteristic-ring-counterexample-frobenius-formula)。
  2. $1=0$ となる環(零環)の標数は $1$ である。$1\neq 0$ である環の標数は $0$ か $2$ 以上である。多くの教科書は標数を体または整域に限って定義しているが、本記事のように単位元をもつ環一般に定義しておくと、剰余環 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ や直積環を含めて統一的に扱える。
  3. 標数 $n>0$ の環では、prop-characteristic-ring-kernel の 3 により $n\cdot a=0$ がすべての元で成り立つ。すなわち加法群 $(A,+)$ のすべての元の位数は $n$ の約数である。逆に、正の整数 $n$ についてすべての元の位数が $n$ を割るなら $n\cdot 1=0$ なので $\operatorname{char}A\mid n$ である。したがって標数が正のとき、標数は加法群 $(A,+)$ の指数($n\cdot a=0$ がすべての $a$ で成り立つ最小の正の整数 $n$)と一致する。

直感

標数は、環 $A$ の中で整数がどう見えるかを一つの数にまとめたものである。$1$ を足し続けて決して $0$ にならなければ、$A$ は $\mathbb{Z}$ そのもののコピーを含む(標数 $0$)。$n$ 回足して初めて $0$ に戻るなら、$A$ は $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ のコピーを含み、整数の計算は $A$ の中では $n$ を法として行われる(標数 $n$)。整域や体では零因子がないため、この $n$ は素数でしかありえない。そして標数が素数 $p$ のときには $(a+b)^p=a^p+b^p$ という、標数 $0$ の世界では決して成り立たない等式が現れ、正標数の代数と数論に独特の現象(Frobenius 準同型、非分離性、有限体の構造)を生む。

例と反例

標数 0 の環

整数環 $\mathbb{Z}$、有理数体 $\mathbb{Q}$、実数体 $\mathbb{R}$、複素数体 $\mathbb{C}$ の標数はいずれも $0$ である。実際 $\mathbb{Z}$ では $n\cdot 1=n$ であり、正の整数 $n$ について $n\neq 0$ である。$\mathbb{Q}\subset\mathbb{R}\subset\mathbb{C}$ はいずれも $\mathbb{Z}$ を部分環として含み、prop-characteristic-ring-subring により標数は $0$ である。同じ理由で多項式環 $\mathbb{Z}[x]$、$\mathbb{Q}[x]$ や、$n\geq 1$ に対する行列環 $M_n(\mathbb{Q})$ の標数も $0$ である。

剰余環の標数

$n\geq 1$ に対し、剰余環 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ の標数は $n$ である。実際、$k\cdot[1]=[k]$ が $[0]$ に等しいことと $n\mid k$ とは同値であり、最小の正の $k$ は $n$ である。とくに $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ の標数は $6$ で、素数ではない。この環には $[2]\cdot[3]=[6]=[0]$ という零因子があり、整域ではない。$p$ が素数のとき $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ は体であり(有限体 の記事の例「素数を法とする剰余体」)、これを $\mathbb{F}_p$ と書く。その標数は $p$ である。

標数 $p$ の無限環

標数が正の環は有限とは限らない。多項式環 $\mathbb{F}_p[x]$ は無限個の元 $1,x,x^2,\ldots$ をもつが、$p\cdot 1=[p]=[0]$ なので標数は $p$ である(prop-characteristic-ring-subring の 4)。同様に有理関数体 $\mathbb{F}_p(x)$($\mathbb{F}_p[x]$ の商体)、冪級数環 $\mathbb{F}_p[\![x]\!]$、行列環 $M_n(\mathbb{F}_p)$ はすべて標数 $p$ である。最後の例は非可換な標数 $p$ の環である。

直積環の標数

直積環 $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$ の単位元は $([1],[1])$ であり、$k\cdot([1],[1])=([k],[k])$ が $0$ になるのは $2\mid k$ かつ $4\mid k$、すなわち $4\mid k$ のときである。よって標数は $4$ で、$2$ と $4$ の最小公倍数である。同様に $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ の標数は $\operatorname{lcm}(2,3)=6$ であり、これは中国剰余定理による同型 $\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}\cong\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$ と整合する。一般の公式は prop-characteristic-ring-subring の 3 で証明する。

標数 $p$ での $p$ 乗の計算

$\mathbb{F}_5$ において $(1+1)^5=2^5=32=6\cdot 5+2$ なので $(1+1)^5=[2]=1^5+1^5$ である。一般に標数 $p$ の可換環では $(a+b)^p=a^p+b^p$ が成り立つ(prop-characteristic-ring-frobenius)。多項式環 $\mathbb{F}_p[x]$ でこれを使うと $(x+1)^p=x^p+1$ であり、たとえば $p=3$ では $(x+1)^3=x^3+3x^2+3x+1=x^3+1$ と直接計算しても確かめられる。$\mathbb{F}_p$ の元は $a^p=a$ を満たす(有限体 の記事の系「有限体における $x^q=x$」を $q=p$ に適用)ので、$\mathbb{F}_p[x]$ の任意の多項式 $f(x)=\sum_i a_ix^i$ について $f(x)^p=\sum_i a_i^px^{pi}=f(x^p)$ となる。

反例:標数が $0$ でも素数でもない環

$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ は標数 $6$ の可換環である(ex-characteristic-ring-quotient)。この環は「標数が正である」という性質を満たすが「整域である」という性質を満たさず、含意「任意の環の標数は $0$ か素数である」を破る。thm-characteristic-ring-domain の整域という仮定は外せない。同様に $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$(標数 $4$)や $\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}\times\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$(標数 $4$)も反例である。

反例:標数 $0$ でも $\mathbb{Q}$ を含むとは限らない

$\mathbb{Z}$ は標数 $0$ の整域だが、$\mathbb{Q}$ と同型な部分環を含まない($2$ の逆元がない)。したがって「標数 $0$ ならば素部分環は $\mathbb{Q}$ と同型」は成り立たず、thm-characteristic-ring-prime-field の「体」という仮定は外せない。標数 $0$ の環が常に含むのは $\mathbb{Z}$ のコピーである(prop-characteristic-ring-prime-subring)。

反例:標数が素数でない環や非可換環では冪が加法を保つとは限らない
  1. $\mathbb{Z}/4\mathbb{Z}$(標数 $4$)では $(1+1)^2=[4]=[0]$ だが $1^2+1^2=[2]\neq[0]$ である。よって「標数 $n$ の環では $(a+b)^n=a^n+b^n$」は $n$ が素数でないと成り立つとは限らない。$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ でも $(1+1)^6=[64]=[4]\neq[2]=1^6+1^6$ である。
  2. 標数 $2$ の行列環 $M_2(\mathbb{F}_2)$ で $a=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}$、$b=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}$ とおくと、$a^2=b^2=0$ だが $(a+b)^2=\begin{pmatrix}0&1\\1&0\end{pmatrix}^2=\begin{pmatrix}1&0\\0&1\end{pmatrix}\neq 0=a^2+b^2$ である。この環は「標数が素数 $2$」を満たすが「可換」を満たさず、含意「標数 $p$ の環では $(a+b)^p=a^p+b^p$」を破る。prop-characteristic-ring-frobenius の可換性の仮定は外せない。ただし可換性は十分条件であって必要条件ではなく、非可換環でも $a\mapsto a^p$ が環準同型になる場合はある(たとえば奇素数 $p$ について $\mathbb{F}_p$ 上の 2 変数の外積代数では、どの元も $c+n$($c\in\mathbb{F}_p$、$n^2=0$ かつ $cn=nc$)と書けるので $(c+n)^p=c^p=c$ となり、$a\mapsto a^p$ は定数部分をとる環準同型である)。
反例:Frobenius 準同型は単射とも全射とも限らない
  1. 標数 $p$ の可換環 $A=\mathbb{F}_p[x]/(x^2)$ で $x$ の類を $\varepsilon$ と書くと $\varepsilon\neq 0$ だが $\varepsilon^p=0$ である($p\geq 2$)。よって $a\mapsto a^p$ は単射でない。この環は「標数 $p$ の可換環」を満たすが「被約($0$ 以外に冪零元をもたない)」を満たさず、含意「標数 $p$ なら Frobenius 準同型は単射」を破る。
  2. 有理関数体 $\mathbb{F}_p(x)$ では $x$ は $p$ 乗の形に書けない。実際 $x=(f/g)^p$($f,g\in\mathbb{F}_p[x]$、$g\neq 0$)とすると $xg^p=f^p$ となるが、左辺の次数は $1+p\deg g$、右辺の次数は $p\deg f$ であり、前者は $p$ で割った余りが $1$、後者は $p$ の倍数なので一致しない。よって $a\mapsto a^p$ は全射でない。この体は「標数 $p$ の体」を満たすが「完全体($p$ 乗が全射)」を満たさず、含意「標数 $p$ の体の Frobenius 準同型は自己同型」を破る。有限体では Frobenius 準同型は自己同型になる(有限体 の記事の命題「Frobenius写像の性質」)。

性質

整域と有限環の標数

整域の標数は $0$ か素数

$A$ を整域とする。$\operatorname{char}A$ は $0$ または素数である。とくに体の標数は $0$ または素数である。

$n:=\operatorname{char}A>0$ とする。整域では $1\neq 0$ だから $n\neq 1$、すなわち $n\geq 2$ である。$n$ が素数でないと仮定すると、$n=rs$ かつ $1< r,s< n$ となる整数 $r,s$ がとれる。prop-characteristic-ring-kernel の 1 により $\iota_A$ は乗法を保つので
$$ (r\cdot 1)(s\cdot 1)=\iota_A(r)\iota_A(s)=\iota_A(rs)=n\cdot 1=0 $$
である。$A$ は整域なので $r\cdot 1=0$ または $s\cdot 1=0$ であるが、$0< r,s< n$ だからこれは $n$ の最小性に反する。ゆえに $n$ は素数である。体は整域だから最後の主張も従う。

有限環の標数

$A$ を有限個の元からなる環とする。このとき $\operatorname{char}A>0$ であり、$\operatorname{char}A\leq|A|$ である。とくに有限整域(したがって有限体)の標数は素数である。標数 $0$ の有限環は存在しない。

$|A|=N$ とおく。$N+1$ 個の元 $0\cdot 1,\ 1\cdot 1,\ 2\cdot 1,\ \ldots,\ N\cdot 1$ はすべて $A$ に属するので、鳩の巣原理によりある $0\leq i< j\leq N$ について $i\cdot 1=j\cdot 1$、すなわち $(j-i)\cdot 1=0$ となる。$0< j-i\leq N$ だから、定義の条件を満たす正の整数が存在し、その最小値である $\operatorname{char}A$ は $1$ 以上 $N$ 以下である。$A$ が有限整域なら thm-characteristic-ring-domain により標数は素数である。最後の主張は最初の主張の言い換えである。

有限環の標数は実は $|A|$ の約数でもある。$1$ の加法群における位数 $\operatorname{char}A$ が群の位数 $|A|$ を割るからである(Lagrangeの定理)。

素部分環と素体の構造

素部分環の構造

$A$ を単位元をもつ環とし、$n:=\operatorname{char}A$ とおく。写像
$$ \bar\iota_A\colon\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}\to A,\qquad [k]\mapsto k\cdot 1_A $$
はwell-definedな単射環準同型であり、その像は $A$ の素部分環である。したがって $A$ の素部分環は $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ と同型である。$n=0$ のときこれは $\mathbb{Z}$ 自身であり、$\iota_A\colon\mathbb{Z}\to A$ が単射であることを意味する。

prop-characteristic-ring-kernel の 2 により、整数 $k,k'$ について $k\cdot 1=k'\cdot 1$ であることと $(k-k')\cdot 1=0$、すなわち $n\mid k-k'$、すなわち $[k]=[k']$ とは同値である。左向きの含意が $\bar\iota_A$ の well-defined 性、右向きの含意が単射性を与える。$\bar\iota_A$ が環準同型であることは、$\iota_A$ が環準同型であること(同命題の 1)と $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ が全射環準同型であることから従う:$\bar\iota_A([k]+[l])=\bar\iota_A([k+l])=(k+l)\cdot 1=\bar\iota_A([k])+\bar\iota_A([l])$、乗法と単位元も同様である。像は $\iota_A$ の像に等しく、これは定義により素部分環である。単射環準同型はその像への同型を与えるので、素部分環は $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ と同型である。

素体の構造

$K$ を体とする。

  1. $\operatorname{char}K=p>0$ ならば、$K$ の素体は素部分環 $\{k\cdot 1\mid k\in\mathbb{Z}\}$ に一致し、$\mathbb{F}_p=\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ と同型である。
  2. $\operatorname{char}K=0$ ならば、写像
    $$ j_K\colon\mathbb{Q}\to K,\qquad \frac{a}{b}\mapsto(a\cdot 1)(b\cdot 1)^{-1}\quad(a,b\in\mathbb{Z},\ b\neq 0) $$
    は well-defined な単射環準同型であり、その像が $K$ の素体である。したがって $K$ の素体は $\mathbb{Q}$ と同型である。
    とくに、任意の体の素体は $\mathbb{Q}$ か $\mathbb{F}_p$($p$ は素数)のいずれかと同型であり、どちらであるかは標数で決まる。
  1. thm-characteristic-ring-domain により $p$ は素数である。prop-characteristic-ring-prime-subring により素部分環 $P:=\{k\cdot 1\mid k\in\mathbb{Z}\}$ は $\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ と同型であり、$\mathbb{Z}/p\mathbb{Z}$ は体である(有限体 の記事の例「素数を法とする剰余体」)。ゆえに $P$ は $K$ の部分体である。一方、$K$ の任意の部分体 $L$ は $1$ を含み加法と減法について閉じているので $P\subset L$ である。よって $P$ はすべての部分体の共通部分に含まれ、かつそれ自身が部分体だから、$P$ は $K$ の素体である。
  2. $\operatorname{char}K=0$ なので $\iota_K\colon\mathbb{Z}\to K$ は単射であり(prop-characteristic-ring-prime-subring)、$b\neq 0$ なら $b\cdot 1\neq 0$ だから $(b\cdot 1)^{-1}$ が $K$ に存在する。well-defined 性:$a/b=a'/b'$ すなわち $ab'=a'b$ とすると、$\iota_K$ が環準同型であることから $(a\cdot 1)(b'\cdot 1)=(a'\cdot 1)(b\cdot 1)$ であり、両辺に $(b\cdot 1)^{-1}(b'\cdot 1)^{-1}$ を掛けて($K$ は可換)$(a\cdot 1)(b\cdot 1)^{-1}=(a'\cdot 1)(b'\cdot 1)^{-1}$ を得る。環準同型であること:$\iota_K$ が環準同型であることと $K$ の可換性から
    $$ j_K\Bigl(\frac{a}{b}+\frac{c}{d}\Bigr)=j_K\Bigl(\frac{ad+bc}{bd}\Bigr)=\bigl((ad+bc)\cdot 1\bigr)\bigl((bd)\cdot 1\bigr)^{-1}=(a\cdot 1)(b\cdot 1)^{-1}+(c\cdot 1)(d\cdot 1)^{-1} $$
    (最後の等号は右辺を通分して確かめる)、$j_K\bigl(\frac{a}{b}\cdot\frac{c}{d}\bigr)=\bigl((ac)\cdot 1\bigr)\bigl((bd)\cdot 1\bigr)^{-1}=j_K\bigl(\frac{a}{b}\bigr)j_K\bigl(\frac{c}{d}\bigr)$、$j_K(1)=1$ である。単射性:$j_K(a/b)=0$ なら $a\cdot 1=0$、よって $\iota_K$ の単射性から $a=0$ である。ゆえに $j_K$ は単射で、像 $j_K(\mathbb{Q})$ は $\mathbb{Q}$ と同型な部分環であり、体なので $K$ の部分体である。最小性:$K$ の任意の部分体 $L$ は $1$ を含むので $\iota_K(\mathbb{Z})\subset L$ であり、$0$ でない元の逆元と積について閉じているので $(a\cdot 1)(b\cdot 1)^{-1}\in L$、すなわち $j_K(\mathbb{Q})\subset L$ である。よって $j_K(\mathbb{Q})$ は $K$ の素体である。
    最後の主張は 1 と 2 および thm-characteristic-ring-domain から従う。

体 $K$ の素体を $k_0$ とすると、$K$ は $k_0$ 上のベクトル空間である。$K$ が有限体なら $k_0=\mathbb{F}_p$ 上の次元 $r$ が有限なので $|K|=p^r$ となる。この事実の証明は 有限体 の記事の命題「有限体の位数」に譲る。

部分環・準同型・直積と標数

環の構成と標数

$A,B$ を単位元をもつ環とする。

  1. $B$ が $A$ の部分環($1_B=1_A$ を満たすもの)ならば $\operatorname{char}B=\operatorname{char}A$ である。
  2. 環準同型 $f\colon A\to B$ が存在すれば $\operatorname{char}B\mid\operatorname{char}A$ である($\operatorname{char}A=0$ のときは条件なし)。$f$ が単射ならば $\operatorname{char}B=\operatorname{char}A$ である。
  3. 直積環 $A\times B$ について $\operatorname{char}(A\times B)=\operatorname{lcm}(\operatorname{char}A,\operatorname{char}B)$ である。ここで $\operatorname{lcm}(m,0)=\operatorname{lcm}(0,m)=0$ と約束する。
  4. 多項式環 $A[x]$ および $n\geq 1$ に対する行列環 $M_n(A)$ の標数は $\operatorname{char}A$ に等しい。
  1. $B$ の単位元は $A$ の単位元と同じなので、$k\cdot 1_B=k\cdot 1_A$ であり、これが $0$ になる正の整数 $k$ の集合は両者で一致する。
  2. $f$ は環準同型だから $f\circ\iota_A\colon\mathbb{Z}\to B$ は環準同型であり、prop-characteristic-ring-kernel の 1 の一意性により $f\circ\iota_A=\iota_B$ である。よって $k\in\ker\iota_A$ ならば $\iota_B(k)=f(\iota_A(k))=f(0)=0$、すなわち $\ker\iota_A\subset\ker\iota_B$ である。同命題の 2 により $\operatorname{char}A\cdot\mathbb{Z}\subset\operatorname{char}B\cdot\mathbb{Z}$、すなわち $\operatorname{char}B\mid\operatorname{char}A$ である。$f$ が単射なら $\iota_B(k)=0$ から $f(\iota_A(k))=0=f(0)$、よって $\iota_A(k)=0$ となり $\ker\iota_A=\ker\iota_B$、したがって標数は等しい。
  3. $A\times B$ の単位元は $(1_A,1_B)$ であり、$k\cdot(1_A,1_B)=(k\cdot 1_A,k\cdot 1_B)$ である。これが $0$ になることは $k\cdot 1_A=0$ かつ $k\cdot 1_B=0$、すなわち $\operatorname{char}A\mid k$ かつ $\operatorname{char}B\mid k$ と同値である。$\operatorname{char}A,\operatorname{char}B$ がともに正なら、そのような正の整数 $k$ の最小値は最小公倍数である。一方が $0$ なら $\operatorname{char}A\mid k$($k=0$ の意味)を満たす正の $k$ は存在せず、標数は $0$ である。
  4. $A$ は定数多項式として $A[x]$ の部分環であり、$1_{A[x]}=1_A$ なので 1 により $\operatorname{char}A[x]=\operatorname{char}A$ である。$M_n(A)$ については、$A$ をスカラー行列 $a\mapsto aI_n$ によって $M_n(A)$ の部分環とみなせ($I_n$ は単位行列)、$1_{M_n(A)}=I_n$ なので同じく 1 による。

2 の割り切れる関係は等号にはならない。たとえば自然な全射 $\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}$ は標数 $0$ の環から標数 $6$ の環への環準同型であり、$\mathbb{Z}/6\mathbb{Z}\to\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$ は標数 $6$ から標数 $2$ への環準同型である。逆に、標数 $2$ の環から標数 $6$ の環への環準同型は存在しない。とくに、標数の異なる二つの体の間には環準同型がまったく存在しない(体の間の環準同型は単射だからである)。

Frobenius 準同型

標数が素数 $p$ の可換環では、$p$ 乗写像が加法を保つ。これは正標数に固有の現象であり、Frobenius写像と呼ばれる。

標数 $p$ の可換環の Frobenius 準同型

$p$ を素数、$A$ を標数 $p$ の可換環とする。写像 $F_A\colon A\to A$、$a\mapsto a^p$ は環準同型である。すなわち任意の $a,b\in A$ について
$$ (a+b)^p=a^p+b^p,\qquad (ab)^p=a^pb^p,\qquad 1^p=1 $$
が成り立つ。$F_A$ を $A$ の Frobenius 準同型(Frobenius endomorphism)という。さらに $r\geq 1$ と $q=p^r$ に対し、$r$ 回の合成 $F_A^r\colon a\mapsto a^q$ も環準同型であり、任意の $a,b\in A$ について $(a+b)^q=a^q+b^q$ および $(a-b)^q=a^q-b^q$ が成り立つ。

乗法と単位元:$A$ は可換なので $(ab)^p=a^pb^p$ であり、$1^p=1$ である。
加法:$A$ は可換なので二項定理が使え、
$$ (a+b)^p=\sum_{i=0}^{p}\binom{p}{i}\cdot\bigl(a^ib^{p-i}\bigr)=a^p+b^p+\sum_{i=1}^{p-1}\binom{p}{i}\cdot\bigl(a^ib^{p-i}\bigr) $$
となる($\binom{p}{i}\cdot x$ は整数倍)。$0< i< p$ のとき二項係数 $\binom{p}{i}$ は $p$ で割り切れる。実際、整数の等式 $\binom{p}{i}\,i!\,(p-i)!=p!$ の右辺は $p$ で割り切れるが、$i!\,(p-i)!$ は $p$ より小さい正の整数の積であり、$p$ は素数なので $p$ で割り切れない。よって $p\mid\binom{p}{i}$ である。$\binom{p}{i}=pm_i$($m_i\in\mathbb{Z}$)と書くと、$\operatorname{char}A=p$ と prop-characteristic-ring-kernel の 3 により
$$ \binom{p}{i}\cdot\bigl(a^ib^{p-i}\bigr)=m_i\cdot\bigl(p\cdot(a^ib^{p-i})\bigr)=m_i\cdot 0=0 $$
である。ゆえに $(a+b)^p=a^p+b^p$ であり、$F_A$ は環準同型である。
$F_A^r$ が環準同型であることは環準同型の合成が環準同型であることから従い、$(a+b)^q=a^q+b^q$ はその加法性そのものである。$(a-b)^q=a^q-b^q$ は $a^q=((a-b)+b)^q=(a-b)^q+b^q$ を移項して得られる。出典は DF04 §13.5、Lan02 Chapter V である。

$A$ が被約なら $F_A$ が単射であること、$A$ が整域なら $F_A$ の不動点全体が素体 $\mathbb{F}_p$ に一致することは、Frobenius写像 の記事の命題「Frobenius 自己準同型の基本性質」で証明されている。
Frobenius 準同型の一つの帰結として、標数 $p$ の体では $p$ 乗根が(存在すれば)一意に定まる。標数 $0$ の体 $\mathbb{C}$ では $x^2=1$ が $\pm 1$ の 2 個の根をもつのと対照的である。

標数 $p$ の体における $p$ 乗根の一意性

$K$ を標数 $p>0$ の体、$a\in K$ とする。$b^p=a$ を満たす $b\in K$ は高々 1 個である。より一般に、$q=p^r$($r\geq 1$)について $b^q=a$ を満たす $b\in K$ は高々 1 個である。

$b,c\in K$ が $b^q=c^q=a$ を満たすとする。prop-characteristic-ring-frobenius により $(b-c)^q=b^q-c^q=a-a=0$ である。$K$ は体だから零因子をもたず、$(b-c)^q=0$ から $b-c=0$、すなわち $b=c$ が従う($x^q=0$ かつ $x\neq 0$ なら $x^{q-1}=x^{-1}x^q=0$ となり、$q$ についての帰納法で $x=0$ に至る)。

この命題は、標数 $p$ の体上の多項式 $x^p-a$ が、根 $b$ をもてば $(x-b)^p$ と一致し重根しかもたないことを意味する。これが非分離拡大や完全体の理論の出発点である(Lan02 Chapter V §6、DF04 §13.5)。

補足

標数は環の「整数としての側面」を測る量であり、環の大きさとは独立である(ex-characteristic-ring-infinite-positive)。素数標数 $p$ の可換環は $\mathbb{F}_p$ を含み、標数 $0$ の体は $\mathbb{Q}$ を含む。一方で標数 $0$ の環が $\mathbb{Q}$ を含むとは限らない(rem-characteristic-ring-counterexample-rationals)。標数 $n>0$ の環は素部分環 $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ を含むので $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ 上の代数であり、逆に $\mathbb{Z}/n\mathbb{Z}$ 上の代数の標数は $n$ の約数である(prop-characteristic-ring-prime-subring、prop-characteristic-ring-subring の 2)。とくに素数 $p$ について、標数 $p$ の環と零環でない $\mathbb{F}_p$ 上の代数とは同じものである。標数 $p$ の体上の代数拡大では、Frobenius 準同型が分離性・非分離性(分離拡大)、完全体、有限体の構造($x^q=x$、乗法群の巡回性、Frobenius 自己同型による Galois 群の記述)を支配する。標数の名称と定義は Lan02 Chapter II・V、体の標数と素体は DF04 §13.1、有限体との関係は LN97 Chapter 1 を参照した。

関連項目

参考文献

[1]
David S. Dummit and Richard M. Foote, Abstract Algebra, 3rd ed., Wiley, 2004, §13.1(体の標数と素体)、§13.5(Frobenius 準同型と分離性)
[2]
Serge Lang, Algebra, Revised 3rd ed.(Graduate Texts in Mathematics 211), Springer, 2002, Chapter II(Rings)、Chapter V(Algebraic Extensions)§5(Finite fields)、§6(Inseparable extensions)

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