Kleinの2次曲面(Klein quadric)とは、体 $K$ 上の 4 次元ベクトル空間 $V$ の外冪 $\bigwedge^2V$ の射影化 $\mathbb P^5$ の中で、Plücker 座標の 2 次式 $p_{12}p_{34}-p_{13}p_{24}+p_{14}p_{23}=0$ が定める非特異な 2 次超曲面である。任意の体の上で、Plücker 埋め込みは 3 次元射影空間の直線の全体をこの 2 次超曲面の上へ一対一に写し(Klein 対応)、2 直線が交わることは対応する 2 点が極形式について直交することと同値である。2 次超曲面に含まれる平面は、1 点を通る直線の全体と 1 平面に含まれる直線の全体の 2 種類に分かれ、含まれる直線は、点とその点を含む平面の組に対応する。
前提知識: Plücker埋め込み, 外積代数, 射影空間
Klein の 2 次曲面(Klein quadric)とは、4 次元ベクトル空間 $V$ の 2 次の外冪 $\bigwedge^2V$ の射影化 $\mathbb P^5$ の中で、2 次式
$$
Q(\omega)=p_{12}p_{34}-p_{13}p_{24}+p_{14}p_{23}
$$
の零点として定まる非特異な 2 次超曲面である。Plücker埋め込み は 3 次元射影空間 $\mathbb P^3=\mathbb P(V)$ の直線の全体 $\operatorname{Gr}(2,V)$ をこの 2 次超曲面の上へ一対一に写す(Klein 対応)。こうして $\mathbb P^3$ の直線の幾何は、$\mathbb P^5$ の 1 つの 2 次超曲面の幾何に翻訳される。2 直線が交わることは 2 点が 2 次形式の極形式について直交することに、1 点を通る直線の全体と 1 平面に含まれる直線の全体は 2 次超曲面に含まれる 2 種類の平面に対応する。
この記事では、任意の体の上でこの一対一対応(thm-klein-correspondence)、交わりの条件(thm-klein-incidence)、2 次超曲面に含まれる平面と直線の分類(thm-klein-planes)を証明する。この対応は Klein が 1868 年の学位論文で複素数体の上で調べたものである(Tay92 p. 179)。
$K$ を体、$V$ を $K$ 上の 4 次元ベクトル空間、$e_1,\dots,e_4$ をその基底とし、$e_{ij}:=e_i\wedge e_j$、$e_{1234}:=e_1\wedge e_2\wedge e_3\wedge e_4$ と書く。$\omega\in\bigwedge^2V$ を $\omega=\sum_{i< j}p_{ij}\,e_{ij}$ と書き、係数 $p_{ij}$ をその Plücker 座標とする。添字の順序を入れ替えた $p_{ji}:=-p_{ij}$ も使う。
$\omega=\sum_{i< j}p_{ij}e_{ij}\in\bigwedge^2V$ について
$$
Q(\omega):=p_{12}p_{34}-p_{13}p_{24}+p_{14}p_{23}
$$
とおく。$\mathbb P(\bigwedge^2V)\cong\mathbb P^5$ の 2 次超曲面 $\mathcal Q:=\{[\omega]\mid Q(\omega)=0\}$ を Klein の 2 次曲面 という。
$\omega,\omega'\in\bigwedge^2V$ について、$\omega\wedge\omega'\in\bigwedge^4V=K\,e_{1234}$ なので、$\omega\wedge\omega'=B(\omega,\omega')\,e_{1234}$ によって $B(\omega,\omega')\in K$ が定まる。$e_{12}\wedge e_{34}=e_{34}\wedge e_{12}=e_{1234}$、$e_{13}\wedge e_{24}=e_{24}\wedge e_{13}=-e_{1234}$、$e_{14}\wedge e_{23}=e_{23}\wedge e_{14}=e_{1234}$ で、ほかの $e_{ij}\wedge e_{kl}$ は $0$ だから
$$
B(\omega,\omega')=p_{12}p'_{34}+p_{34}p'_{12}-p_{13}p'_{24}-p_{24}p'_{13}+p_{14}p'_{23}+p_{23}p'_{14}
$$
である。$B$ は対称双線形形式で、$Q(\omega+\omega')=Q(\omega)+Q(\omega')+B(\omega,\omega')$、$B(\omega,\omega)=2Q(\omega)$ を満たす。すなわち $B$ は $Q$ の極形式であり、標数が $2$ でなければ
$$
\omega\wedge\omega=2Q(\omega)\,e_{1234}
$$
である。$Q$ は 3 つの積 $p_{12}p_{34}$、$p_{13}p_{24}$、$p_{14}p_{23}$ の和であり、6 つの偏導関数 $\partial Q/\partial p_{12}=p_{34}$、$\partial Q/\partial p_{13}=-p_{24}$ などが同時に $0$ になるのは $\omega=0$ のときだけである。とくに、標数によらず $\mathcal Q$ は非特異であり、$B$ は非退化である。$(e_{12},e_{34})$、$(e_{13},-e_{24})$、$(e_{14},e_{23})$ は $B$ について互いに直交する 3 つの双曲的な対である(Tay92 (12.13) の直後)。
次の計算で、$Q$ の 3 つの項が 4 つの添字について交代的に振る舞うことを確かめておく。添字の列 $(i,j,l,m)$ について
$$
R(i,j,l,m):=p_{ij}p_{lm}-p_{il}p_{jm}+p_{im}p_{jl}
$$
とおくと $R(1,2,3,4)=Q(\omega)$ である。$j$ と $l$、$l$ と $m$、$i$ と $j$ を入れ替えると、$p_{ji}=-p_{ij}$ を使って $R$ はそれぞれ $-R$ になる。隣り合う互換は 4 次の対称群を生成するので、$(i,j,l,m)$ が $(1,2,3,4)$ の置換 $\sigma$ による並べ替えなら $R(i,j,l,m)=\operatorname{sgn}(\sigma)\,Q(\omega)$ である。
$K$ を任意の体とする。$0$ でない $\omega\in\bigwedge^2V$ が分解可能であるための必要十分条件は $Q(\omega)=0$ である。したがって、直線 $\mathbb P(W)\subset\mathbb P(V)$ に $[w_1\wedge w_2]$($w_1,w_2$ は $W$ の基底)を対応させる写像は、$\mathbb P^3=\mathbb P(V)$ の直線の全体から $\mathcal Q$ への全単射である。
必要性:$\omega=u\wedge v$ なら、Plücker埋め込み の定理「Plücker の関係式」の必要性を $k=2$、$n=4$ で使ったもの(同記事の例「小さい場合」の 3)により $Q(\omega)=0$ である。
十分性:$Q(\omega)=0$ とし、$p_{ab}\ne0$ となる $a< b$ をとり、$\{c,d\}:=\{1,2,3,4\}\setminus\{a,b\}$ とする。$\omega$ を定数倍して $p_{ab}=1$ としてよい。上の計算から $R(a,b,c,d)=\pm Q(\omega)=0$、すなわち $p_{cd}=p_{ac}p_{bd}-p_{ad}p_{bc}$ である。
$$
u:=e_a-p_{bc}\,e_c-p_{bd}\,e_d,\qquad v:=e_b+p_{ac}\,e_c+p_{ad}\,e_d
$$
とおいて展開すると、$e_c\wedge e_b=-e_b\wedge e_c$ などを使って
$$
u\wedge v=e_a\wedge e_b+p_{ac}\,e_a\wedge e_c+p_{ad}\,e_a\wedge e_d+p_{bc}\,e_b\wedge e_c+p_{bd}\,e_b\wedge e_d+(p_{ac}p_{bd}-p_{ad}p_{bc})\,e_c\wedge e_d
$$
である。$\omega$ も $\{a,b\},\{a,c\},\dots,\{c,d\}$ の 6 つの組について $p_{xy}\,e_x\wedge e_y$ を足したもので、$p_{xy}e_x\wedge e_y$ は $x,y$ の順序によらないから、$\omega=u\wedge v$ であり分解可能である。
最後の主張は、Plücker埋め込み の定理「Plücker 埋め込みの基本性質」の 1(Plücker 埋め込みは単射で、像は分解可能な類の全体)と前半から従う。$\square$
標数が $2$ でなければ $Q(\omega)=0$ は $\omega\wedge\omega=0$ と同値なので、Klein 対応の条件は「$\omega\wedge\omega=0$」と書ける。標数 $2$ ではすべての $\omega$ について $\omega\wedge\omega=2Q(\omega)e_{1234}=0$ となり、この言い換えは成り立たない(ex-klein-counter)。
$\mathbb P^3$ の直線 $L=\mathbb P(W)$、$L'=\mathbb P(W')$ が対応する $\mathcal Q$ の点を $[\omega]$、$[\omega']$ とする。$L$ と $L'$ が交わるための必要十分条件は $B(\omega,\omega')=0$ である。
$W$、$W'$ の基底を $w_1,w_2$、$w_1',w_2'$ とし、$\omega=w_1\wedge w_2$、$\omega'=w_1'\wedge w_2'$ としてよい。$L\cap L'\ne\emptyset$ は $W\cap W'\ne0$、すなわち $\dim(W+W')<4$、すなわち $w_1,w_2,w_1',w_2'$ が 1 次従属であることと同値である。これは $w_1\wedge w_2\wedge w_1'\wedge w_2'=\omega\wedge\omega'=0$ と同値であり(外積代数 の命題「1 次独立性の判定」)、$B(\omega,\omega')=0$ と同値である。$\square$
$\mathcal Q$ の 2 点 $[\omega]$、$[\omega']$ を結ぶ $\mathbb P^5$ の直線上の点は $[s\omega+t\omega']$ で、$Q(s\omega+t\omega')=st\,B(\omega,\omega')$ である。したがって、thm-klein-incidence は「2 直線が交わることと、$\mathcal Q$ の対応する 2 点を結ぶ直線が丸ごと $\mathcal Q$ に含まれることは同値」とも言える。
$\mathbb P^3$ の点 $P=[u]$ と平面 $H=\mathbb P(U)$($\dim U=3$)について
$$
\alpha(P):=\{[\omega]\in\mathcal Q\mid\text{対応する直線が }P\text{ を通る}\},\qquad\beta(H):=\{[\omega]\in\mathcal Q\mid\text{対応する直線が }H\text{ に含まれる}\}
$$
とおく。以下、$\mathbb P^5$ の平面・直線とは、$\bigwedge^2V$ の 3 次元・2 次元部分空間の射影化のことである。
$K$ を任意の体とする。
1:線形写像 $V\to\bigwedge^2V$、$v\mapsto u\wedge v$ の核は $Ku$ なので(外積代数 の命題「1 次独立性の判定」)、像 $u\wedge V$ は 3 次元である。その $0$ でない元 $u\wedge v$ は $P$ を通る直線 $\mathbb P(\operatorname{span}(u,v))$ に対応し、逆に $P$ を通る直線はこの形である。$U$ の基底 $u_1,u_2,u_3$ を $V$ の基底に延ばすと、$u_1\wedge u_2$、$u_1\wedge u_3$、$u_2\wedge u_3$ は $\bigwedge^2V$ の基底の一部なので(外積代数 の定理「自由加群の外冪の基底」)、$\bigwedge^2U\subset\bigwedge^2V$ は 3 次元である。$\bigwedge^2U$ の $0$ でない元は $U$ の中で分解可能であり(Plücker埋め込み の例「小さい場合」の 2 を $n=3$、$k=2$ で使う)、$H$ に含まれる直線に対応する。逆に $H$ に含まれる直線 $\mathbb P(W)$ では $W\subset U$ である。
2:$\mathbb P(L)\subset\mathcal Q$($\dim L=3$)とする。$\omega,\omega'\in L$ について $Q(\omega)=Q(\omega')=Q(\omega+\omega')=0$ なので $B(\omega,\omega')=0$ である。$L$ の基底 $\omega_1,\omega_2,\omega_3$ に対応する直線 $L_1,L_2,L_3$ は相異なり、thm-klein-incidence により 2 本ずつ交わる。$P:=L_1\cap L_2$(1 点)、$L_1,L_2$ を含む平面を $H=\mathbb P(U)$ とする。$P\in L_3$ なら $\omega_1,\omega_2,\omega_3\in u\wedge V$ なので、次元を比べて $L=u\wedge V$、すなわち $\mathbb P(L)=\alpha(P)$ である。$P\notin L_3$ なら、$L_3$ と $L_1$、$L_3$ と $L_2$ の交点は相異なる $H$ の 2 点であり(同じ点なら $L_1\cap L_2=\{P\}$ に入る)、$L_3$ はその 2 点を通るので $H$ に含まれる。よって $L=\bigwedge^2U$、$\mathbb P(L)=\beta(H)$ である。
3:$\mathbb P(M)\subset\mathcal Q$($\dim M=2$)とし、基底 $\omega_1,\omega_2$ に対応する直線 $L_1\ne L_2$ をとる。2 と同じく $B(\omega_1,\omega_2)=0$ なので $L_1,L_2$ は 1 点 $P=[u]$ で交わり、平面 $H=\mathbb P(U)$ を張る。$\omega_1=u\wedge v_1$、$\omega_2=u\wedge v_2$ と書け、$U=\operatorname{span}(u,v_1,v_2)$ だから $M\subset u\wedge U$ である。$v\mapsto u\wedge v$ の核は $Ku$ なので $\dim u\wedge U=2$ であり、$M=u\wedge U$ である。$u\wedge U$ の $0$ でない元はちょうど $H$ の中で $P$ を通る直線に対応するので、$\mathbb P(M)=\alpha(P)\cap\beta(H)$ である。$P\notin H$ なら $P$ を通り $H$ に含まれる直線はないので、$\alpha(P)\cap\beta(H)=\emptyset$ である。$\square$
$\alpha(P)$ は $P$ によって、$\beta(H)$ は $H$ によって決まる。$\alpha(P)$ に対応する直線の共通点は $P$ だけで、$\beta(H)$ に対応する直線は $H$ を張るからである。$\alpha$ 型どうし、$\beta$ 型どうしの 2 平面は 1 点で交わり(直線 $PP'$、直線 $H\cap H'$ に対応)、$\alpha(P)$ と $\beta(H)$ は $P\in H$ のとき直線で交わり、そうでなければ交わらない。こうして $\mathcal Q$ の点・直線・2 種類の平面は、$\mathbb P^3$ の直線・点と平面の組($P\in H$)・点・平面に対応する(Tay92 Theorem 12.16、p. 188。代数閉体の上で平面の 2 つの族を問う演習が Vak25 Exercise 16.4.K にある)。
標数が $2$ でない代数閉体 $K$ の上では、$\mathbb P^5$ の非特異な 2 次超曲面はすべて射影同値であり(2次超曲面 の定理「2 次超曲面の標準形と特異点」)、したがってすべて Klein の 2 次曲面と射影同値である。次の表は、条件を 1 つ外すと成り立たなくなることの例である。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| 標数が $2$ でない | 標数 $2$ の体、$\omega=e_{12}+e_{34}$ | $\omega\wedge\omega=0$ なら分解可能 |
| $K$ が代数閉体 | $K=\mathbb R$、$x_1^2+\cdots+x_5^2-x_6^2=0$ | 非特異な 2 次超曲面が Klein の 2 次曲面と射影同値 |
1 行目:$Q(e_{12}+e_{34})=1\ne0$ なので、thm-klein-correspondence により $\omega$ は分解可能でない。一方、標数 $2$ では $\omega\wedge\omega=e_{12}\wedge e_{34}+e_{34}\wedge e_{12}=2e_{1234}=0$ である。
2 行目:この 2 次超曲面は非特異であるが、直線を含まない。直線は 2 次元部分空間 $W\subset\mathbb R^6$ で、その上で 2 次形式が $0$ になるものであるが、$W$ は超平面 $x_6=0$ と $0$ でない元 $w$ で交わり、そこでは $x_1^2+\cdots+x_5^2=0$ から $w=0$ となって矛盾する。一方、Klein の 2 次曲面は直線を含む(thm-klein-planes の 3)ので、両者は射影同値でない。
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