双曲線関数(高校数学)

同義語:hyperbolic functions (high school mathematics)

概要

双曲線関数(hyperbolic functions)とは、$\cosh x=\frac{e^x+e^{-x}}{2}$、$\sinh x=\frac{e^x-e^{-x}}{2}$ などで定める関数である。$\cosh^2x-\sinh^2x=1$ により、$u$ が実数全体を動くと点 $(\cosh u,\sinh u)$ は双曲線 $x^2-y^2=1$ の右の枝をちょうど 1 回通る。$u>0$ のとき、原点とこの点を結ぶ線分・$x$ 軸・双曲線で囲まれた図形の面積は $\frac{u}{2}$ で、単位円の扇形の面積 $\frac{\theta}{2}$ に対応する。加法定理や微分の公式は三角関数の公式の符号を一部変えた形で、たとえば $\cosh(a+b)=\cosh a\cosh b+\sinh a\sinh b$ である。周期はもたない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 指数関数の微分, eはなぜ特別か, 2次曲線の媒介変数表示, 定積分で表された関数

高校での出発点:$e^x$ を偶関数と奇関数に分ける

実数全体で定義されたどんな関数も、偶関数($f(-x)=f(x)$)と奇関数($f(-x)=-f(x)$)の和に分けられる。$f(x)$ に対し
$$ f(x)=\underbrace{\frac{f(x)+f(-x)}2}_{\text{偶関数}}+\underbrace{\frac{f(x)-f(-x)}2}_{\text{奇関数}} $$
である。これを指数関数 $e^x$ に使うと、$\dfrac{e^x+e^{-x}}2$ と $\dfrac{e^x-e^{-x}}2$ という 2 つの関数が出てくる。この 2 つは、三角関数 $\cos x$、$\sin x$ とよく似た公式を満たし、円の代わりに双曲線 $x^2-y^2=1$ を描く。この記事では、この 2 つの関数(双曲線関数)の意味と公式を、三角関数と比べながら調べる。大学向けの用語解説は 双曲線関数 である。

例 1:$e^x$ を分ける

$x=1$ では $e=2.71828\ldots$、$e^{-1}=0.36787\ldots$ なので
$$ \frac{e+e^{-1}}2=1.54308\ldots,\qquad\frac{e-e^{-1}}2=1.17520\ldots $$
で、足すと $2.71828\ldots=e$ に戻る。$x=0$ では $\dfrac{1+1}2=1$ と $\dfrac{1-1}2=0$ である。$\cos0=1$、$\sin0=0$ と同じ値である。

例 2:点が双曲線の上にある

$x=\log2$ では $e^{\log2}=2$、$e^{-\log2}=\dfrac12$ なので、2 つの値は
$$ \frac{2+\frac12}2=\frac54,\qquad\frac{2-\frac12}2=\frac34 $$
である。点 $\left(\dfrac54,\dfrac34\right)$ は $\left(\dfrac54\right)^2-\left(\dfrac34\right)^2=\dfrac{25-9}{16}=1$ を満たし、双曲線 $x^2-y^2=1$ の上にある。$x=\log3$ でも、値は $\dfrac{3+\frac13}2=\dfrac53$、$\dfrac{3-\frac13}2=\dfrac43$ で、$\dfrac{25}9-\dfrac{16}9=1$ となる。

2 つの例から、次の問いが出てくる。

  1. 2 つの関数の組は、いつも双曲線 $x^2-y^2=1$ の上にあるのか。双曲線のどの部分を描くのか。→ prop-hyp-basic、prop-hyp-branch
  2. 円の $(\cos\theta,\sin\theta)$ では $\theta$ は角(扇形の面積の 2 倍)である。双曲線の場合、変数は何を表すのか。→ thm-hyp-area
  3. 三角関数の加法定理・微分の公式は、どう変わるのか。→ thm-hyp-addition、rem-hyp-compare
  4. 逆関数は求められるか。→ prop-hyp-inverse
    三角関数双曲線関数ボックス
    円 $x^2+y^2=1$ 上の点 $(\cos\theta,\sin\theta)$双曲線 $x^2-y^2=1$ 上の点 $(\cosh u,\sinh u)$prop-hyp-branch
    $\theta$ は扇形の面積の 2 倍$u$ は「扇形」の面積の 2 倍thm-hyp-area
    $\cos^2\theta+\sin^2\theta=1$$\cosh^2u-\sinh^2u=1$prop-hyp-basic
    加法定理、$(\sin x)'=\cos x$、$(\cos x)'=-\sin x$符号の変わった加法定理、$(\sinh x)'=\cosh x$、$(\cosh x)'=\sinh x$thm-hyp-addition

定義と基本の性質

双曲線関数

実数 $x$ に対し
$$ \cosh x=\frac{e^x+e^{-x}}2,\qquad\sinh x=\frac{e^x-e^{-x}}2,\qquad\tanh x=\frac{\sinh x}{\cosh x}=\frac{e^x-e^{-x}}{e^x+e^{-x}} $$
と定め、それぞれ 双曲線余弦(ハイパボリックコサイン)、双曲線正弦(ハイパボリックサイン)、双曲線正接(ハイパボリックタンジェント)という。これらをまとめて 双曲線関数 という。

$\tanh x$ の分母 $\cosh x$ は、$e^x>0$、$e^{-x}>0$ なのでいつも正であり、$\tanh x$ はすべての実数 $x$ で定義される。

値を計算する
$x$$0$$\log2$$1$$\log3$$2$
$\cosh x$$1$$\frac54$$1.5430\ldots$$\frac53$$3.7621\ldots$
$\sinh x$$0$$\frac34$$1.1752\ldots$$\frac43$$3.6268\ldots$
$\tanh x$$0$$\frac35$$0.7615\ldots$$\frac45$$0.9640\ldots$

$x=\log2$ の列は ex-hyp-points で計算した。$\tanh(\log2)=\dfrac{3/4}{5/4}=\dfrac35$ である。

双曲線関数の基本の性質

すべての実数 $x$ について、次が成り立つ。

  1. $\cosh(-x)=\cosh x$(偶関数)、$\sinh(-x)=-\sinh x$(奇関数)。
  2. $\cosh x+\sinh x=e^x$、$\cosh x-\sinh x=e^{-x}$。
  3. $\cosh^2x-\sinh^2x=1$。
  4. $\cosh x\ge1$ で、等号は $x=0$ のときだけ成り立つ。
  5. $-1<\tanh x<1$。
指数関数に戻して計算する

要点:定義の式を代入し、$e^x\cdot e^{-x}=1$ を使う。たとえば 3 は $\cosh^2x-\sinh^2x=(\cosh x+\sinh x)(\cosh x-\sinh x)=e^x\cdot e^{-x}=1$ である。

詳しい証明を開く

1 の証明。$x$ を $-x$ に替えると $e^x$ と $e^{-x}$ が入れかわるので、$\cosh(-x)=\dfrac{e^{-x}+e^x}2=\cosh x$、$\sinh(-x)=\dfrac{e^{-x}-e^x}2=-\sinh x$ である。

2 の証明。$\cosh x+\sinh x=\dfrac{(e^x+e^{-x})+(e^x-e^{-x})}2=\dfrac{2e^x}2=e^x$ である。差も同じように $e^{-x}$ になる。

3 の証明。2 と $e^x\cdot e^{-x}=e^0=1$ から$$\cosh^2x-\sinh^2x=(\cosh x+\sinh x)(\cosh x-\sinh x)=e^x\cdot e^{-x}=1$$である。

4 の証明。相加平均と相乗平均の不等式により $\dfrac{e^x+e^{-x}}2\ge\sqrt{e^x\cdot e^{-x}}=1$ で、等号は $e^x=e^{-x}$、つまり $e^{2x}=1$、$x=0$ のときだけ成り立つ。

5 の証明。3 から $\sinh^2x=\cosh^2x-1<\cosh^2x$ なので $\lvert\sinh x\rvert<\cosh x$ である($\cosh x>0$)。両辺を $\cosh x$ で割って $\lvert\tanh x\rvert<1$ である。$\square$

3 は $\cos^2\theta+\sin^2\theta=1$ に対応する式で、符号が $+$ から $-$ に変わっている。3 から、点 $(\cosh x,\sinh x)$ は双曲線 $X^2-Y^2=1$ の上にある。4 から $X$ 座標は $1$ 以上なので、この点は双曲線の右半分(右の枝)にある。

右の枝の媒介変数表示

$u$ がすべての実数を動くとき、点 $(\cosh u,\sinh u)$ は双曲線 $X^2-Y^2=1$ の右の枝($X>0$ の部分)のすべての点を、ちょうど 1 回ずつ通る。

点から $u$ を逆に求める

方針:右の枝の点 $(X,Y)$ が与えられたとき、$(\cosh u,\sinh u)=(X,Y)$ となる $u$ がただ 1 つあることを示す。prop-hyp-basic の 2 から $e^u=X+Y$ となるはずなので、$u=\log(X+Y)$ が候補である。
段 1($X+Y>0$)。$X^2-Y^2=1$、$X>0$ とする。$X^2=1+Y^2>Y^2$ なので $X>\lvert Y\rvert$ であり、$X+Y>0$ である。
段 2(存在)。$u=\log(X+Y)$ とおくと $e^u=X+Y$ である。$X^2-Y^2=(X+Y)(X-Y)=1$ なので $X-Y=\dfrac1{X+Y}=e^{-u}$ である。よって
$$ \cosh u=\frac{e^u+e^{-u}}2=\frac{(X+Y)+(X-Y)}2=X,\qquad\sinh u=\frac{e^u-e^{-u}}2=\frac{(X+Y)-(X-Y)}2=Y $$
である。
段 3(ただ 1 つ)。$(\cosh u,\sinh u)=(X,Y)$ なら、prop-hyp-basic の 2 から $e^u=\cosh u+\sinh u=X+Y$ で、$u=\log(X+Y)$ に限る。$\square$

$(\cos\theta,\sin\theta)$ は $\theta$ が $2\pi$ 増えるごとに円を 1 周するが、$(\cosh u,\sinh u)$ は右の枝を 1 回だけ通り、戻ってこない。双曲線の媒介変数表示は 2次曲線の媒介変数表示 でも扱った(そこでは $e^s$ を使う表示を紹介している)。

主定理 1:変数 $u$ は「扇形」の面積の 2 倍

弧度法では、単位円の中心角 $\theta$ の扇形の面積は $\dfrac\theta2$ である(一般角と弧度法)。つまり、$(\cos\theta,\sin\theta)$ の $\theta$ は「扇形の面積の 2 倍」とも言える。双曲線でも同じことが成り立つ。

双曲線の「扇形」の面積

$u>0$ とし、$P=(\cosh u,\sinh u)$ とする。原点 $O$ と点 $P$ を結ぶ線分、$x$ 軸上の線分 $OA$($A=(1,0)$)、双曲線 $x^2-y^2=1$ の $A$ から $P$ までの部分で囲まれた図形の面積は $\dfrac u2$ である。

単位円で中心角 θ=1 の扇形。面積は θ/2 である。 単位円で中心角 θ=1 の扇形。面積は θ/2 である。
双曲線で u=1 の「扇形」。原点と点 (cosh u, sinh u) を結ぶ線分と双曲線と x 軸で囲まれ、面積は u/2 である。 双曲線で u=1 の「扇形」。原点と点 (cosh u, sinh u) を結ぶ線分と双曲線と x 軸で囲まれ、面積は u/2 である。
面積を $u$ の関数とみて微分する

方針:図形の面積を $S(u)$ とおき、三角形の面積から双曲線の下の部分の面積を引いた形で表す。$S(u)$ を $u$ で微分すると $\frac12$ になり、$u\to+0$ で $S(u)\to0$ なので $S(u)=\frac u2$ である。
段 1(面積を式で表す)。$c=\cosh u$、$s=\sinh u$ とおく($u>0$ なので $c>1$、$s>0$)。図形は、3 点 $O$、$(c,0)$、$P$ を頂点とする直角三角形から、双曲線の下で $1\le x\le c$ の部分($x$ 軸と $y=\sqrt{x^2-1}$ で挟まれた部分)を除いたものである。実際、$1\le x\le c$ で線分 $OP$ 上の点の高さ $\frac scx$ は双曲線の高さ $\sqrt{x^2-1}$ 以上である。
$$ \Bigl(\frac scx\Bigr)^2-(x^2-1)=\frac{c^2-1}{c^2}x^2-x^2+1=1-\frac{x^2}{c^2}\ge0 $$
($s^2=c^2-1$ と $x\le c$ を使った)。よって
$$ S(u)=\underbrace{\frac12cs}_{\text{三角形}}-\underbrace{\int_1^{c}\sqrt{x^2-1}\,dx}_{\text{双曲線の下}}=\frac12\cosh u\sinh u-\int_1^{\cosh u}\sqrt{x^2-1}\,dx $$
である。
段 2(三角形の部分を微分する)。積の微分と $(\cosh u)'=\sinh u$、$(\sinh u)'=\cosh u$(下の thm-hyp-addition の 3。証明は指数関数の微分だけを使う)により
$$ \Bigl(\frac12\cosh u\sinh u\Bigr)'=\frac12\bigl(\sinh u\cdot\sinh u+\cosh u\cdot\cosh u\bigr)=\frac12\bigl(\sinh^2u+\cosh^2u\bigr) $$
である。
段 3(積分の部分を微分する)。$F(c)=\displaystyle\int_1^c\sqrt{x^2-1}\,dx$ とおくと、$F'(c)=\sqrt{c^2-1}$ である(定積分で表された関数)。合成関数の微分により
$$ \frac{d}{du}F(\cosh u)=\sqrt{\cosh^2u-1}\cdot(\cosh u)'=\sqrt{\sinh^2u}\cdot\sinh u=\sinh^2u $$
である。ここで $u>0$ では $\sinh u>0$ なので $\sqrt{\sinh^2u}=\sinh u$ を使った。
段 4(まとめる)。段 2・段 3 と prop-hyp-basic の 3 から
$$ S'(u)=\frac12\bigl(\sinh^2u+\cosh^2u\bigr)-\sinh^2u=\frac12\bigl(\cosh^2u-\sinh^2u\bigr)=\frac12 $$
である。よって $\Bigl(S(u)-\dfrac u2\Bigr)'=0$ なので、$S(u)-\dfrac u2$ は定数である(導関数が $0$ の関数は定数。平均値の定理)。$u\to+0$ では $\cosh u\to1$、$\sinh u\to0$ なので、段 1 の式で三角形の面積も積分も $0$ に近づき、$S(u)\to0$ である。したがって定数は $0$ で、$S(u)=\dfrac u2$ である。$\square$

段 4 の「$S(u)-\frac u2$ は定数」は、正確には $u>0$ の範囲での話である。定数が $0$ であることは、$u\to+0$ の極限で確かめた。

面積を数値で確かめる

$u=\log2$ のとき、$P=\left(\dfrac54,\dfrac34\right)$ である(ex-hyp-points)。三角形の面積は $\dfrac12\cdot\dfrac54\cdot\dfrac34=\dfrac{15}{32}=0.46875$ で、数値積分で $\displaystyle\int_1^{5/4}\sqrt{x^2-1}\,dx=0.12218\ldots$ なので、図形の面積は
$$ 0.46875-0.12218\ldots=0.34657\ldots $$
である。これは $\dfrac{\log2}2=0.34657\ldots$ と一致する。$u=1$ では、三角形 $0.90671\ldots$ から双曲線の下 $0.40671\ldots$ を引いて $0.5=\dfrac12$ となる。

円でも同じ計算ができる

単位円の扇形($0<\theta<\frac\pi2$)の面積も、同じ方法(三角形と円の下の部分に分けて、$\theta$ で微分する)で計算でき、結果は扇形の面積の公式 $\frac\theta2$ と一致する。円では $\cos^2\theta+\sin^2\theta=1$ を、双曲線では $\cosh^2u-\sinh^2u=1$ を最後に使い、2 つの計算は符号が違うだけで同じ形になる。

円の場合の計算を開く

$0<\theta<\frac\pi2$ とし、単位円の扇形の面積を同じ形で書くと$$S_{\text{円}}(\theta)=\frac12\cos\theta\sin\theta+\int_{\cos\theta}^{1}\sqrt{1-x^2}\,dx$$である(三角形に、円の下の部分を足す)。微分すると$$S_{\text{円}}'(\theta)=\frac12\bigl(\cos^2\theta-\sin^2\theta\bigr)+\sqrt{1-\cos^2\theta}\cdot\sin\theta=\frac12\bigl(\cos^2\theta-\sin^2\theta\bigr)+\sin^2\theta=\frac12$$である。よって $S_{\text{円}}(\theta)-\dfrac\theta2$ は $0<\theta<\frac\pi2$ で定数で、$\theta\to+0$ では $\cos\theta\to1$、$\sin\theta\to0$ なので三角形の面積も積分も $0$ に近づき、定数は $0$ である。したがって $S_{\text{円}}(\theta)=\dfrac\theta2$ となる(積分の上端が定数、下端が $\cos\theta$ なので、微分すると $-\sqrt{1-\cos^2\theta}\cdot(\cos\theta)'$ となる)。

主定理 2:加法定理と微分の公式

双曲線関数の加法定理と微分

すべての実数 $a,b,x$ について、次が成り立つ。

  1. $\cosh(a+b)=\cosh a\cosh b+\sinh a\sinh b$、$\sinh(a+b)=\sinh a\cosh b+\cosh a\sinh b$。
  2. $\cosh2x=\cosh^2x+\sinh^2x=1+2\sinh^2x=2\cosh^2x-1$、$\sinh2x=2\sinh x\cosh x$。
  3. $(\cosh x)'=\sinh x$、$(\sinh x)'=\cosh x$、$(\tanh x)'=\dfrac1{\cosh^2x}=1-\tanh^2x$。
右辺を指数関数で展開する

方針:1 は右辺に定義を代入して展開し、$e^a e^b=e^{a+b}$ などを使う。2 は 1 で $a=b=x$ とする。3 は $(e^{-x})'=-e^{-x}$ を使う。
段 1(1 の第 1 式)。
$$ \begin{aligned} \cosh a\cosh b+\sinh a\sinh b &=\frac{(e^a+e^{-a})(e^b+e^{-b})}4+\frac{(e^a-e^{-a})(e^b-e^{-b})}4\\ &=\frac{\bigl(e^{a+b}+e^{a-b}+e^{-a+b}+e^{-a-b}\bigr)+\bigl(e^{a+b}-e^{a-b}-e^{-a+b}+e^{-a-b}\bigr)}4\\ &=\frac{2e^{a+b}+2e^{-(a+b)}}4=\cosh(a+b) \end{aligned} $$
である。$e^{a-b}$ と $e^{-a+b}$ の項が打ち消し合った。
段 2(1 の第 2 式)。同じように
$$ \begin{aligned} \sinh a\cosh b+\cosh a\sinh b &=\frac{\bigl(e^{a+b}+e^{a-b}-e^{-a+b}-e^{-a-b}\bigr)+\bigl(e^{a+b}-e^{a-b}+e^{-a+b}-e^{-a-b}\bigr)}4\\ &=\frac{2e^{a+b}-2e^{-(a+b)}}4=\sinh(a+b) \end{aligned} $$
である。
段 3(2 の証明)。1 で $a=b=x$ とすると $\cosh2x=\cosh^2x+\sinh^2x$、$\sinh2x=2\sinh x\cosh x$ である。prop-hyp-basic の 3 から $\cosh^2x=1+\sinh^2x$ を入れると $\cosh2x=1+2\sinh^2x$、$\sinh^2x=\cosh^2x-1$ を入れると $\cosh2x=2\cosh^2x-1$ である。
段 4(3 の証明)。$(e^x)'=e^x$、$(e^{-x})'=-e^{-x}$(指数関数の微分 と合成関数の微分)なので
$$ (\cosh x)'=\frac{e^x-e^{-x}}2=\sinh x,\qquad(\sinh x)'=\frac{e^x+e^{-x}}2=\cosh x $$
である。商の微分により
$$ (\tanh x)'=\frac{\cosh x\cdot\cosh x-\sinh x\cdot\sinh x}{\cosh^2x}=\frac{1}{\cosh^2x} $$
で(分子に prop-hyp-basic の 3 を使った)、これは $\dfrac{\cosh^2x-\sinh^2x}{\cosh^2x}=1-\tanh^2x$ とも書ける。$\square$

加法定理を数値で確かめる

$a=\log2$、$b=\log3$ とすると $a+b=\log6$ である。ex-hyp-values の値から
$$ \cosh a\cosh b+\sinh a\sinh b=\frac54\cdot\frac53+\frac34\cdot\frac43=\frac{25}{12}+1=\frac{37}{12} $$
である。一方、定義から直接 $\cosh(\log6)=\dfrac{6+\frac16}2=\dfrac{37}{12}$ で、一致する。同じく $\sinh a\cosh b+\cosh a\sinh b=\dfrac34\cdot\dfrac53+\dfrac54\cdot\dfrac43=\dfrac54+\dfrac53=\dfrac{35}{12}$ と $\sinh(\log6)=\dfrac{6-\frac16}2=\dfrac{35}{12}$ が一致する。

三角関数と双曲線関数の公式の対応
三角関数双曲線関数
描く曲線円 $x^2+y^2=1$双曲線 $x^2-y^2=1$ の右の枝
変数の意味扇形の面積の 2 倍「扇形」の面積の 2 倍(thm-hyp-area)
基本の関係$\cos^2\theta+\sin^2\theta=1$$\cosh^2u-\sinh^2u=1$
余弦の加法定理$\cos(a+b)=\cos a\cos b-\sin a\sin b$$\cosh(a+b)=\cosh a\cosh b+\sinh a\sinh b$
正弦の加法定理$\sin(a+b)=\sin a\cos b+\cos a\sin b$$\sinh(a+b)=\sinh a\cosh b+\cosh a\sinh b$
2 倍角$\cos2\theta=1-2\sin^2\theta$$\cosh2u=1+2\sinh^2u$
微分$(\cos x)'=-\sin x$、$(\sin x)'=\cos x$$(\cosh x)'=\sinh x$、$(\sinh x)'=\cosh x$
満たす微分方程式$y''=-y$$y''=y$
周期$2\pi$なし
値の範囲$-1\le\cos x\le1$、$-1\le\sin x\le1$$\cosh x\ge1$、$\sinh x$ はすべての実数

符号が変わるのは、「正弦の 2 乗」にあたる $\sinh^2$ が現れるところ(基本の関係、余弦の加法定理の $\sinh a\sinh b$、2 倍角)と、余弦の微分である。

$y''=-y$ と $y''=y$ の対比は、微分方程式としての指数関数・三角関数 と 三角関数はどう定義するか で扱う。$\cosh x$ と $\sinh x$ はどちらも $y''=y$ を満たす(thm-hyp-addition の 3 を 2 回使う)。
cosh x、sinh x、tanh x のグラフ。cosh は x=0 で最小値 1 をとる偶関数、sinh は増加する奇関数、tanh は -1 と 1 の間を増加し、x が大きいと cosh と sinh はどちらも e^x/2 に近づくことを見る図。 cosh x、sinh x、tanh x のグラフ。cosh は x=0 で最小値 1 をとる偶関数、sinh は増加する奇関数、tanh は -1 と 1 の間を増加し、x が大きいと cosh と sinh はどちらも e^x/2 に近づくことを見る図。
図 3 から次のことが読みとれる。$\cosh x$ は偶関数で、$x=0$ で最小値 $1$ をとる(prop-hyp-basic の 4)。$\sinh x$ は奇関数で、$(\sinh x)'=\cosh x>0$ なので実数全体で増加する。$x$ が大きいと $e^{-x}$ は $0$ に近いので、$\cosh x$ と $\sinh x$ はどちらも $\dfrac{e^x}2$ に近づき、$\tanh x$ は $1$ に近づく。

逆関数

$\sinh x$ は実数全体で増加し、$x\to\infty$ で $\infty$、$x\to-\infty$ で $-\infty$ に発散するので、どんな実数も 1 回ずつとる。$\cosh x$ は偶関数なので $\cosh(-1)=\cosh1$ のように同じ値を 2 回とり、そのままでは逆関数をもたない。$x\ge0$ に制限すると、$(\cosh x)'=\sinh x>0$($x>0$)なので増加し、$1$ 以上の値を 1 回ずつとる。

双曲線関数の逆関数
  1. 実数 $y$ に対し、$\sinh x=y$ となる実数 $x$ はただ 1 つで、$x=\log\bigl(y+\sqrt{y^2+1}\bigr)$ である。この $x$ を $\sinh^{-1}y$ と書く。
  2. $y\ge1$ に対し、$\cosh x=y$ となる $x\ge0$ はただ 1 つで、$x=\log\bigl(y+\sqrt{y^2-1}\bigr)$ である。この $x$ を $\cosh^{-1}y$ と書く。
$e^x$ の 2 次方程式を解く

方針:$w=e^x$ とおくと、方程式は $w$ の 2 次方程式になる。$w>0$ となる解を選ぶ。
段 1(1 の証明)。$\sinh x=y$ は $\dfrac{w-w^{-1}}2=y$、両辺に $2w$ を掛けて $w^2-2yw-1=0$ である。解は $w=y\pm\sqrt{y^2+1}$ で、2 つの解の積は $-1$(解と係数の関係)なので、一方は正、他方は負である。$\sqrt{y^2+1}>\lvert y\rvert$ なので正の解は $w=y+\sqrt{y^2+1}$ である。$e^x=w>0$ なので $x=\log\bigl(y+\sqrt{y^2+1}\bigr)$ に限られ、逆にこの $x$ は $\sinh x=y$ を満たす(上の変形は逆にたどれる)。
段 2(2 の証明)。$\cosh x=y$ は $w^2-2yw+1=0$ で、解は $w=y\pm\sqrt{y^2-1}$($y\ge1$ なので実数)、2 つの解の積は $1$ である。$x\ge0$ は $w=e^x\ge1$ と同じである。$y+\sqrt{y^2-1}\ge1$ であり、2 つの解の積が $1$ なので、もう一方の解 $y-\sqrt{y^2-1}$ は $1$ 以下で、$1$ になるのは $y=1$(2 つの解が一致する)ときだけである。よって $w\ge1$ の解は $w=y+\sqrt{y^2-1}$ で、$x=\log\bigl(y+\sqrt{y^2-1}\bigr)$ である。$\square$

逆関数の値
  1. $\sinh^{-1}\dfrac34=\log\left(\dfrac34+\sqrt{\dfrac9{16}+1}\right)=\log\left(\dfrac34+\dfrac54\right)=\log2$ である。ex-hyp-points の $\sinh(\log2)=\dfrac34$ と合う。
  2. $\cosh^{-1}\dfrac53=\log\left(\dfrac53+\sqrt{\dfrac{25}9-1}\right)=\log\left(\dfrac53+\dfrac43\right)=\log3$ である。$\cosh x=\dfrac53$ のもう 1 つの解 $x=-\log3$ は、$x\ge0$ でないので除かれる。

逆関数を微分すると $\bigl(\sinh^{-1}x\bigr)'=\dfrac1{\sqrt{x^2+1}}$、$\bigl(\cosh^{-1}x\bigr)'=\dfrac1{\sqrt{x^2-1}}$($x>1$)である(逆関数の微分 を使うか、prop-hyp-inverse の式を直接微分する)。このため、$\sqrt{x^2+1}$ や $\sqrt{x^2-1}$ を含む積分で $x=\sinh u$、$x=\cosh u$ と置換すると計算が簡単になる。この使い方は 根号を含む関数の積分 で扱う。

例と反例:三角関数の公式をそのまま使うと

外す条件・誤った推測反例成り立たなくなること
三角関数の公式の符号をそのまま使う$\cosh^2x+\sinh^2x$$\cosh^2x+\sinh^2x=1$(正しくは差が $1$)
周期がある$\cosh x$$\cos x$ のように周期をもつこと
値が $-1$ と $1$ の間$\cosh2=3.76\ldots$$\lvert\cosh x\rvert\le1$
実数全体で 1 対 1$\cosh1=\cosh(-1)$$\cosh$ の逆関数が実数全体で決まること
反例:符号をそのまま使う

$x=1$ で $\cosh^21+\sinh^21=1.5430\ldots^2+1.1752\ldots^2=3.7621\ldots$ で、$1$ ではない。この値は $\cosh2$ に等しい(thm-hyp-addition の 2 の $\cosh2x=\cosh^2x+\sinh^2x$)。$\cos^2\theta+\sin^2\theta=1$ に対応するのは $\cosh^2x-\sinh^2x=1$ である。同じく、$\cosh(a+b)$ を $\cosh a\cosh b-\sinh a\sinh b$ とすると誤りで、これは $\cosh(a-b)$ である(thm-hyp-addition の 1 で $b$ を $-b$ に替え、$\sinh(-b)=-\sinh b$ を使う)。

反例:周期がない

$\cosh$ が周期 $T>0$ をもつとすると、$\cosh T=\cosh(0+T)=\cosh0=1$ となる。ところが prop-hyp-basic の 4 により、$\cosh x=1$ となるのは $x=0$ のときだけなので矛盾する。よって $\cosh x$ は周期関数でない。$\sinh x$ は増加関数なので、$\sinh(x+T)>\sinh x$($T>0$)で、やはり周期をもたない。三角関数の周期は、点が円を回って戻ってくることから来ていた。双曲線の枝は閉じていないので、戻ってこない(prop-hyp-branch)。

反例:逆関数には範囲の制限が要る

$\cosh x=\cosh1=1.5430\ldots$ の解は $x=1$ と $x=-1$ の 2 つである。「$\cosh$ の逆関数」を実数全体で考えると、$1.5430\ldots$ に対応する $x$ が 1 つに決まらない。prop-hyp-inverse の 2 で $x\ge0$ に制限したのはこのためで、$\arccos$ で $0\le x\le\pi$ に制限するのと同じ考え方である。

懸垂線:鎖がつくる曲線

両端を持って垂らした鎖(重さが一様で、曲がりやすいもの)は、座標をうまくとると $y=a\cosh\dfrac xa$($a>0$)の形の曲線になることが知られている。この曲線を 懸垂線(カテナリー)という。鎖の形がこうなることは、力のつり合いから導かれる微分方程式
$$ y''=\frac1a\sqrt{1+(y')^2} $$
を解いて得られる。この記事では、この微分方程式を力学から導くことはしない。

$y=a\cosh\frac{x}{a}$ が微分方程式を満たすこと

$y=a\cosh\dfrac xa$ とする。合成関数の微分と thm-hyp-addition の 3 により
$$ y'=a\cdot\sinh\frac xa\cdot\frac1a=\sinh\frac xa,\qquad y''=\frac1a\cosh\frac xa $$
である。一方、prop-hyp-basic の 3 から $1+(y')^2=1+\sinh^2\dfrac xa=\cosh^2\dfrac xa$ で、$\cosh\dfrac xa>0$ なので $\sqrt{1+(y')^2}=\cosh\dfrac xa$ である。よって $y''=\dfrac1a\sqrt{1+(y')^2}$ が成り立つ。

懸垂線 y=cosh x と放物線 y=1+x^2/2 のグラフ。原点の近くでは近いが、離れると懸垂線のほうが急に上がることを見る図。 懸垂線 y=cosh x と放物線 y=1+x^2/2 のグラフ。原点の近くでは近いが、離れると懸垂線のほうが急に上がることを見る図。
$a=1$ の懸垂線 $y=\cosh x$ は、原点の近くでは放物線 $y=1+\dfrac{x^2}2$ に近い($x=0.5$ で $\cosh0.5=1.1276\ldots$、$1+\frac{0.25}2=1.125$)。しかし離れると差が開き、$x=2$ では $\cosh2=3.76\ldots$ に対し放物線は $3$ である(図 4)。垂らした鎖の形は放物線に似ているが、放物線ではない。

大学数学で見る:双曲線の回転と複素数

円の上の点を $\theta$ から $\theta+a$ へ動かす操作は、原点のまわりの回転である。双曲線の上の点を $u$ から $u+a$ へ動かす操作も、行列で書ける。

双曲線の回転(Lorentz 変換)

実数 $a$ に対し、平面の点 $(X,Y)$ を
$$ \begin{pmatrix}X'\\ Y'\end{pmatrix}=\begin{pmatrix}\cosh a&\sinh a\\ \sinh a&\cosh a\end{pmatrix}\begin{pmatrix}X\\ Y\end{pmatrix} $$
へ移す 1 次変換を考える。thm-hyp-addition の 1 により、点 $(\cosh u,\sinh u)$ は $(\cosh(u+a),\sinh(u+a))$ へ移る。つまり、この変換は双曲線の右の枝を、媒介変数を $a$ だけずらす形で自分自身に移す。展開して prop-hyp-basic の 3 を使うと $X'^2-Y'^2=X^2-Y^2$ となり、この変換は $X^2-Y^2$ の値を変えない。また行列式は $\cosh^2a-\sinh^2a=1$ なので、面積も変えない(1次変換と行列式:面積の拡大率)。双曲線の「扇形」は、この変換で面積を保ったまま移るので、thm-hyp-area の「面積 $\frac u2$」は、どこから測っても同じ意味をもつ。

相対性理論と複素数とのつながりを開く

$X$ を時間、$Y$ を空間の座標(光の速さを $1$ とする単位)と読むと、この変換は特殊相対性理論の Lorentz 変換で、$X^2-Y^2$ は観測者によらない量である。$\tanh a$ は 2 つの観測者の相対速度にあたる(Lorentz変換)。

複素数を使うと、三角関数と双曲線関数は同じ関数の別の姿になる。Euler の公式 $e^{i\theta}=\cos\theta+i\sin\theta$ から $\cos\theta=\dfrac{e^{i\theta}+e^{-i\theta}}2$ で、$\theta=ix$ とおくと $\cos(ix)=\dfrac{e^{-x}+e^{x}}2=\cosh x$ となる。同じく $\sin(ix)=i\sinh x$ である。三角関数の公式に $\theta=ix$ を入れると、$i^2=-1$ のために $\sin^2$ の項の符号が変わり、双曲線関数の公式になる。これが rem-hyp-compare の符号の変わり方の理由である(複素数の三角関数の定義は大学で扱う。この記事では証明しない)。

双曲線 $x^2-y^2=1$ の代わりに曲面 $x^2-y^2-z^2=1$($x>0$ の部分)を考え、$x^2-y^2-z^2$ を保つ変換で動かしても変わらないように長さを測ると、平行線の公理が成り立たない幾何(双曲幾何)が得られる。そこでは $\cosh$ が三角形の辺の長さの関係に現れる(双曲幾何)。

さらに先へ

  • 積分への応用:$x=\sinh u$、$x=\cosh u$ による置換と、$\sinh^{-1}$、$\cosh^{-1}$ を使った原始関数は 根号を含む関数の積分 で扱う。
  • 冪級数:$e^x=\displaystyle\sum_{n=0}^{\infty}\frac{x^n}{n!}$ を偶数次と奇数次に分けると $\cosh x=1+\dfrac{x^2}{2!}+\dfrac{x^4}{4!}+\cdots$、$\sinh x=x+\dfrac{x^3}{3!}+\dfrac{x^5}{5!}+\cdots$ となる(Leb26 §11.4 の演習)。$\cos x$、$\sin x$ の級数から符号の交代をなくした形である。$y=1+\frac{x^2}2$ が図 4 で $\cosh x$ に近かったのは、この級数の最初の 2 項だからである。
  • 周期のない関数と周期関数:三角関数の周期の話は 三角関数のグラフと周期、周期関数を足したときの周期は 周期関数の和と基本周期 で扱う。

関連項目

参考文献

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