Steinitzの定理(Dedekind整域上の加群)

同義語:Dedekind整域上の有限生成加群の構造定理Steinitz's theorem for modules over Dedekind domains

概要

Steinitzの定理(Dedekind整域上の加群)(Steinitz's theorem for modules over Dedekind domains)とは、Dedekind 整域 $A$ 上の階数 $r\ge1$ の有限生成で捩れをもたない加群が、$0$ でないイデアル $I$ により $A^{r-1}\oplus I$ と書け、その同型類が階数とイデアル類群の元 $[I]$ で決まるという定理である。その鍵は二つのイデアルの直和の組み替え $I\oplus J\cong A\oplus IJ$ である。系として有限生成射影加群は階数と Steinitz 類で分類され、安定自由なら自由であり、捩れ部分は $A/\mathfrak p^e$ の直和に一意に分かれる。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: Dedekind整域, 射影加群, 分数イデアル, イデアル類群

単項イデアル整域の上では、有限生成で捩れをもたない加群は自由加群 $A^r$ であり、階数 $r$ だけで分類される。Dedekind整域になると事情が変わる。単項でないイデアル $I$ はそれ自身が階数 1 の捩れのない加群だが、自由加群ではない。それでも分類は驚くほど簡単で、有限生成で捩れのない加群は必ず
$$ A^{r-1}\oplus I $$
の形に書け、同型類は階数 $r$ と、イデアル類群 $\operatorname{Cl}(A)$ の元 $[I]$の二つで決まる。これが Steinitz の定理である。イデアル類 $[I]$ を加群の Steinitz 類という。
この記事では、Dedekind 整域上の有限生成で捩れのない加群がイデアルの直和に分かれること、二つのイデアルの直和を $I\oplus J\cong A\oplus IJ$ と組み替えられること、Steinitz 類が行列式によって一意に決まることを証明する。系として、Dedekind 整域上の有限生成射影加群の分類と、捩れ部分を含めた有限生成加群の構造を述べる。

設定と準備

この記事では $A$ を体でない Dedekind 整域、$K$ をその商体とする(体なら有限生成加群は有限次元ベクトル空間であり、主張は線形代数の基本事実になる)。Dedekind整域 の記事から次の事実を使う。

  • $A$ は Noether 環で、$0$ でない素イデアルは極大イデアルである(命題「Dedekind整域の基本性質」)。
  • $0$ でない分数イデアルはすべて可逆であり、$0$ でない分数イデアルの全体は積について群をなす(定理「Dedekind整域のイデアル論的特徴づけ」)。$0$ でない単項分数イデアル $cA$($c\in K^\times$)による剰余群がイデアル類群 $\operatorname{Cl}(A)$ であり、$I$ の類を $[I]$ と書く(定義「イデアル類群の定義」)。
  • 極大イデアル $\mathfrak m$ での局所化 $A_{\mathfrak m}$ は離散付値環であり(定理「Noether整域におけるDedekind整域の特徴づけ」)、その $0$ でない分数イデアルは単項 $\pi^nA_{\mathfrak m}$ である。
    $A$ 加群 $M$ が捩れをもたないとは、$a\ne0$、$am=0$ なら $m=0$ となることをいう。このとき $m\mapsto m\otimes1$ による写像 $M\to K\otimes_AM$ は単射である($K\otimes_AM$ は $A\setminus\{0\}$ による局所化であり、$m\otimes1=0$ はある $s\ne0$ で $sm=0$ となることを意味する)。$\operatorname{rank}M:=\dim_K(K\otimes_AM)$ を $M$ の階数という。$0$ でない分数イデアル $I$ については $K\otimes_AI\cong IK=K$ なので階数は 1 である。
分数イデアルの基本性質

$I,J$ を $A$ の $0$ でない分数イデアルとする。

  1. $I$ は有限生成射影加群である。
  2. $A$ 線形な同型 $f\colon I\to J$ は、ある $c\in K^\times$ による乗法 $x\mapsto cx$ であり、$J=cI$ となる。特に $I\cong J$ であることと $[I]=[J]$ は同値である。
  3. $K$ の中で $I=\bigcap_{\mathfrak m}I_{\mathfrak m}$ が成り立つ。ここで $\mathfrak m$ は極大イデアルを動き、$I_{\mathfrak m}=A_{\mathfrak m}I\subset K$ である。
証明を開く

1. $I$ は可逆なので $1=\sum_{i=1}^su_iv_i$($u_i\in I$、$v_i\in I^{-1}$)と書ける。$p\colon A^s\to I$、$(a_i)\mapsto\sum_ia_iu_i$ と $q\colon I\to A^s$、$x\mapsto(v_ix)_i$($v_ix\in A$)について $p\circ q(x)=\sum_iu_iv_ix=x$ なので、$I$ は $A^s$ の直和因子であり、有限生成射影加群である。

2. $0$ でない $d\in A$ で $dI\subset A$ となるものをとる。$x,y\in I$ について $dx,dy\in A$ なので、$A$ 線形性から $(dy)f(x)=f(dyx)=(dx)f(y)$ である。従って $x,y\ne0$ なら $f(x)/x=f(y)/y$ であり、この共通の値を $c$ とおくと $f(x)=cx$ である。$f$ は全射なので $J=cI$、単射なので $c\ne0$ である。逆に $J=cI$ なら $x\mapsto cx$ は同型 $I\to J$ である。

3. $\supset$ を示せばよい。$x\in\bigcap_{\mathfrak m}I_{\mathfrak m}$ をとり、$\mathfrak a=\{a\in A\mid ax\in I\}$ とおく。各 $\mathfrak m$ について $x=y/s$($y\in I$、$s\notin\mathfrak m$)と書けるので $sx=y\in I$、すなわち $s\in\mathfrak a\setminus\mathfrak m$ である。イデアル $\mathfrak a$ はどの極大イデアルにも含まれないので $\mathfrak a=A$ であり、$x=1\cdot x\in I$ である。$\square$

イデアルの直和への分解

イデアルの直和への分解

$M$ を有限生成で捩れをもたない $A$ 加群とし、$r=\operatorname{rank}M$ とする。$r=0$ なら $M=0$ であり、$r\ge1$ なら $0$ でないイデアル $I_1,\dots,I_r$ により $M\cong I_1\oplus\cdots\oplus I_r$ と書ける。特に $M$ は射影加群である。

$M\to K\otimes_AM$ は単射なので、$r=0$ なら $M=0$ である。$r\ge1$ とし、$r$ についての帰納法で示す。$0$ でない $K$ 線形写像 $\lambda\colon K\otimes_AM\to K$ をとり、$M$ に制限する。$M$ の生成元は $K\otimes_AM$ を $K$ 上張るので $\lambda(M)\ne0$ であり、$\lambda(M)$ は有限生成な $K$ の部分 $A$ 加群なので、生成元の分母の積 $d$ を掛ければ $A$ に入る。従って $\lambda(M)$ は $0$ でない分数イデアルであり、lem-steinitz-fractional の 1 により射影的である。よって全射 $M\to\lambda(M)$ は分裂し、$N=\ker(\lambda|_M)$ について $M\cong N\oplus\lambda(M)$ となる。$N$ は Noether 環上の有限生成加群の部分加群なので有限生成であり、捩れをもたず、局所化の完全性から $\operatorname{rank}N=r-1$ である。帰納法の仮定を $N$ に当て、各分数イデアル $I$ を同型な整イデアル $dI$ に取り替えれば主張を得る。最後の主張は lem-steinitz-fractional の 1 と、射影加群の有限直和が射影的であることによる。$\square$

分解 $M\cong I_1\oplus\cdots\oplus I_r$ の各因子は一意ではない。次の交換が、因子をまとめて一つのイデアルに集める道具になる。

互いに素な代表

$I,J$ を $0$ でないイデアルとする。$0$ でない $b\in K$ で、$bI\subset A$ かつ $bI+J=A$ となるものが存在する。

証明を開く

$J=A$ なら $b=1$ でよい。$J\ne A$ とし、$J$ を含む極大イデアルを $\mathfrak p_1,\dots,\mathfrak p_s$ とする($J$ は有限個の極大イデアルの積に分解され、$J$ を含む素イデアルはその因子のどれかを含むので、因子のどれかに一致する。従って有限個である)。各 $i$ について $I^{-1}\ne\mathfrak p_iI^{-1}$ である(等しければ $I$ を掛けて $A=\mathfrak p_i$ となる)ので、$b_i\in I^{-1}\setminus\mathfrak p_iI^{-1}$ をとる。相異なる極大イデアルは互いに素なので、中国剰余定理 により $c_i\equiv1\pmod{\mathfrak p_i}$、$c_i\in\mathfrak p_j$($j\ne i$)を満たす $c_i\in A$ がある。$b=\sum_ic_ib_i$ とおくと、$b-b_i=(c_i-1)b_i+\sum_{j\ne i}c_jb_j\in\mathfrak p_iI^{-1}$ なので $b\notin\mathfrak p_iI^{-1}$ であり、特に $b\ne0$ である。$b\in I^{-1}$ なので $bI\subset A$ である。もし $bI\subset\mathfrak p_i$ なら $bA=bII^{-1}\subset\mathfrak p_iI^{-1}$ となり矛盾するので、$bI\not\subset\mathfrak p_i$ である。$bI+J$ を含む極大イデアルは $J$ を含むので $\mathfrak p_i$ のどれかだが、$bI$ を含まないので、そのような極大イデアルはない。よって $bI+J=A$ である。$\square$

二つのイデアルの交換

$0$ でない分数イデアル $I,J$ について $I\oplus J\cong A\oplus IJ$ が成り立つ。

分母を払っても $I$、$J$、$IJ$ の同型類は変わらない($dI\cong I$、$(dI)(eJ)=deIJ\cong IJ$)ので、$I,J$ は整イデアルとしてよい。lem-steinitz-coprime の $b$ をとり $I'=bI$ とおくと、$I'\cong I$ は整イデアルで $I'+J=A$ である。写像
$$ \sigma\colon I'\oplus J\to A,\qquad(u,v)\mapsto u+v $$
は全射であり、核は $\{(u,-u)\mid u\in I'\cap J\}\cong I'\cap J$ である。$A$ は自由なので $\sigma$ は分裂し、$I'\oplus J\cong A\oplus(I'\cap J)$ となる。さらに $I'\cap J=(I'\cap J)(I'+J)\subset JI'+I'J=I'J$ と $I'J\subset I'\cap J$ から $I'\cap J=I'J=bIJ\cong IJ$ である。$\square$

主定理

Steinitzの定理

$A$ を Dedekind 整域とする。

  1. 階数 $r\ge1$ の有限生成で捩れをもたない $A$ 加群 $M$ は、ある $0$ でないイデアル $I$ により $M\cong A^{r-1}\oplus I$ と書ける。
  2. $0$ でないイデアル $I,J$ と整数 $r,s\ge1$ について、$A^{r-1}\oplus I\cong A^{s-1}\oplus J$ であることと、$r=s$ かつ $[I]=[J]$ であることは同値である。
    従って、1 の $[I]\in\operatorname{Cl}(A)$ は $M$ だけで決まる。これを $M$ の Steinitz 類といい $\operatorname{St}(M)$ と書く。有限生成で捩れのない加群 $M,M'$($\ne0$)が同型であることは、$\operatorname{rank}M=\operatorname{rank}M'$ かつ $\operatorname{St}(M)=\operatorname{St}(M')$ であることと同値である。

(1)lem-steinitz-sum-of-ideals により $M\cong I_1\oplus\cdots\oplus I_r$ である。prop-steinitz-exchange を $I_1\oplus I_2\cong A\oplus I_1I_2$、次に $(I_1I_2)\oplus I_3\cong A\oplus I_1I_2I_3$ と繰り返し当てると $M\cong A^{r-1}\oplus I_1\cdots I_r$ を得る。
(2)$J=cI$ なら $\mathrm{id}\oplus(c\cdot)$ が同型 $A^{r-1}\oplus I\to A^{r-1}\oplus J$ を与える。逆に同型 $\varphi\colon L\to L'$($L=A^{r-1}\oplus I$、$L'=A^{s-1}\oplus J$)があるとする。$K\otimes_A-$ を施すと $K^r\cong K^s$ なので $r=s$ である。$L,L'$ を $K^r$ の部分加群とみなすと、$\varphi$ は $K$ 線形同型 $g=\mathrm{id}_K\otimes\varphi\colon K^r\to K^r$ の制限であり、$g(L)=L'$ である。$\delta=\det g\in K^\times$ とおき、$\delta I=J$ を示す。
極大イデアル $\mathfrak m$ をとり、$I_{\mathfrak m}=aA_{\mathfrak m}$、$J_{\mathfrak m}=bA_{\mathfrak m}$($a,b\in K^\times$)と書く。対角行列 $D_a=\operatorname{diag}(1,\dots,1,a)$ について $L_{\mathfrak m}=D_aA_{\mathfrak m}^r$、$L'_{\mathfrak m}=D_bA_{\mathfrak m}^r$ であり、$g$ は $K$ 線形なので $g(L_{\mathfrak m})=g(L)_{\mathfrak m}=L'_{\mathfrak m}$ である。従って $U=D_b^{-1}gD_a$ は $U(A_{\mathfrak m}^r)=A_{\mathfrak m}^r$ を満たす。$U$ の各列は標準基底の像なので成分は $A_{\mathfrak m}$ に入り、$U^{-1}$ も同様なので、$\det U$ は $A_{\mathfrak m}$ の単元である。$\det U=\delta a/b$ だから $\delta I_{\mathfrak m}=\delta aA_{\mathfrak m}=bA_{\mathfrak m}=J_{\mathfrak m}$ である。これがすべての $\mathfrak m$ で成り立つので、lem-steinitz-fractional の 3 により
$$ \delta I=\bigcap_{\mathfrak m}\delta I_{\mathfrak m}=\bigcap_{\mathfrak m}J_{\mathfrak m}=J $$
であり、$[I]=[J]$ である。最後の主張は 1 と 2 から従う。$\square$

証明の後半では、$L$ の「体積」を $K^r$ の中で測っている。局所的には $L$ は $D_aA_{\mathfrak m}^r$ の形をしており、その体積は $a$ で測られる。同型 $g$ は体積を $\det g$ 倍するので、各局所で $J_{\mathfrak m}=\det g\cdot I_{\mathfrak m}$ となり、それを貼り合わせて大域的な等式 $J=\delta I$ を得る。この見方を加群の言葉にすると、$\operatorname{St}(M)$ は最高次の外積 $\bigwedge^rM$(行列式加群。外積代数)の同型類にあたる(WeiKI p. 18 は $I=\det M$ と表している。この記事では証明しない)。

射影加群の分類

$A$ を Dedekind 整域とする。

  1. 有限生成 $A$ 加群について、射影的であることと捩れをもたないことは同値である。
  2. $0$ でない有限生成射影加群の同型類は、$(\operatorname{rank}M,\operatorname{St}(M))\in\mathbb{Z}_{\ge1}\times\operatorname{Cl}(A)$ と一対一に対応する。$M$ が自由であることと $\operatorname{St}(M)=1$ は同値であり、$\operatorname{St}(M\oplus M')=\operatorname{St}(M)\operatorname{St}(M')$ である。
  3. $M\oplus A^n\cong A^m$ となる有限生成加群 $M$(安定自由な加群)は自由である。
  4. $A$ が単項イデアル整域であることと、有限生成で捩れをもたない $A$ 加群がすべて自由であることは同値である。
証明を開く

1. 射影加群は自由加群の部分加群なので捩れをもたない。逆は lem-steinitz-sum-of-ideals である。

2. 対応が単射であることは thm-steinitz-main の 2、全射であることは $A^{r-1}\oplus I$ が階数 $r$、Steinitz 類 $[I]$ をもつことによる。$M$ が自由なら $M\cong A^r=A^{r-1}\oplus A$ なので $\operatorname{St}(M)=[A]=1$、逆に $\operatorname{St}(M)=1$ なら $I=cA\cong A$ で $M\cong A^r$ である。積の公式は、$M\cong A^{r-1}\oplus I$、$M'\cong A^{r'-1}\oplus I'$ から prop-steinitz-exchange により $M\oplus M'\cong A^{r+r'-2}\oplus I\oplus I'\cong A^{r+r'-1}\oplus II'$ となることによる。

3. $M$ は自由加群の直和因子なので射影的であり、$M=0$ なら自由である。$n=0$ なら $M\cong A^m$ である。$n\ge1$、$M\ne0$ なら 2 の積の公式から $\operatorname{St}(M)=\operatorname{St}(M)\operatorname{St}(A^n)=\operatorname{St}(A^m)=1$ なので $M$ は自由である。

4. 単項イデアル整域なら $\operatorname{Cl}(A)=1$(Dedekind整域 の命題「イデアル類群が自明な条件」)なので 2 から自由である。逆に、$0$ でないイデアル $I$ は階数 1 の有限生成で捩れのない加群なので、自由なら $I\cong A$、すなわち $I=cA$ と単項である(lem-steinitz-fractional の 2)。$\square$

例

自由でないが二つ足すと自由になる加群

$A=\mathbb{Z}[\sqrt{-5}]$、$P=(2,1+\sqrt{-5})$ とする。$P$ は自由でない階数 1 の射影加群であるが、$P\oplus P\cong A^2$ である。一方 $P\oplus A$ は自由でない。

$P^2=(2)$ であり、$P$ は単項でない(Dedekind整域 の例「2次体の整数環」)。単項でないことは次のようにも分かる。$N(a+b\sqrt{-5})=a^2+5b^2$ は乗法的である。$P=(\alpha)$ なら $\alpha$ は $2$ と $1+\sqrt{-5}$ を割るので $N(\alpha)$ は $N(2)=4$ と $N(1+\sqrt{-5})=6$ を割り、$N(\alpha)\in\{1,2\}$ となる。$a^2+5b^2=2$ は整数解をもたず、$N(\alpha)=1$ なら $\alpha=\pm1$ で $P=A$ となるが、$A/P\cong\mathbb{F}_2$ なので $P\ne A$ である。
従って $\operatorname{St}(P)=[P]\ne1$ で、cor-steinitz-projective の 2 により $P$ と $P\oplus A$ は自由でない($\operatorname{St}(P\oplus A)=[P]$)。一方 prop-steinitz-exchange により $P\oplus P\cong A\oplus P^2=A\oplus2A\cong A^2$ である。$\square$

この例は、直和分解 $M\cong I_1\oplus\cdots\oplus I_r$ の因子が一意でないこと($P\oplus P\cong A\oplus A$)と、Steinitzの交換補題(線形代数)とは別の意味での「交換」が起きていることを示している。$[P]$ は $\operatorname{Cl}(A)$ の位数 2 の元であり、Steinitz 類の積の公式 $[P]^2=1$ が $P\oplus P$ の自由性に対応する。

捩れを含む有限生成加群

有限生成加群の構造

$A$ を Dedekind 整域、$M$ を有限生成 $A$ 加群とし、$T(M)=\{m\in M\mid\exists a\ne0,\ am=0\}$ をその捩れ部分とする。

  1. $M\cong T(M)\oplus M/T(M)$ であり、$M/T(M)$ は有限生成で捩れをもたない。従って $M/T(M)\ne0$ なら $M\cong T(M)\oplus A^{r-1}\oplus I$ である。
  2. $T(M)\cong\bigoplus_{i=1}^tA/\mathfrak p_i^{e_i}$($\mathfrak p_i$ は極大イデアル、$e_i\ge1$)と書け、組 $(\mathfrak p_i,e_i)$ の重複を込めた集まりは $M$ から一意に決まる。
証明を開く

1. $T(M)$ は部分加群である($am=0$、$bm'=0$ なら $ab(m+m')=0$)。$M/T(M)$ は捩れをもたない。実際 $a\ne0$、$am\in T(M)$ なら $bam=0$ となる $b\ne0$ があり、$ba\ne0$ なので $m\in T(M)$ である。$M/T(M)$ は有限生成なので lem-steinitz-sum-of-ideals により射影的であり、全射 $M\to M/T(M)$ は分裂する。後半は thm-steinitz-main による。

2. $T=T(M)$ は有限生成部分加群(Noether 性)なので、生成元を消す $0$ でない元の積 $a$ で $aT=0$ となる。$T=0$ なら空の直和である。$aA=\prod_{\mathfrak p}\mathfrak p^{h_{\mathfrak p}}$ と素イデアル分解すると、相異なる極大イデアルの冪は互いに素なので、中国剰余定理 により $A/aA\cong\prod_{\mathfrak p}A/\mathfrak p^{h_{\mathfrak p}}$ である。その直交冪等元を作用させて $T=\bigoplus_{\mathfrak p}T_{(\mathfrak p)}$($\mathfrak p^{h_{\mathfrak p}}T_{(\mathfrak p)}=0$)を得る。$A/\mathfrak p^h$ の素イデアルは $\mathfrak p/\mathfrak p^h$ だけなので $\mathfrak p$ の外の元は $A/\mathfrak p^h$ で単元であり、$A/\mathfrak p^h\cong A_{\mathfrak p}/\mathfrak p^hA_{\mathfrak p}$ である。従って $T_{(\mathfrak p)}$ は離散付値環 $A_{\mathfrak p}$ 上の有限生成捩れ加群とみなせ、単項イデアル整域 の定理「単項イデアル整域上の加群」の 4 により $T_{(\mathfrak p)}\cong\bigoplus_jA_{\mathfrak p}/\pi^{e_j}A_{\mathfrak p}\cong\bigoplus_jA/\mathfrak p^{e_j}$ と書け、指数 $e_j$ の重複を込めた集まりは $T_{(\mathfrak p)}$ から一意に決まる(単元倍を除いた $\pi^{e_j}$ の一意性)。最後に、$\mathfrak q\ne\mathfrak p$ なら $\mathfrak q^{h}\not\subset\mathfrak p$ なので $(T_{(\mathfrak q)})_{\mathfrak p}=0$ であり、$T_{(\mathfrak p)}\cong T_{\mathfrak p}=A_{\mathfrak p}\otimes_AT$ は $T$ だけで決まる。よって $(\mathfrak p_i,e_i)$ の集まりは一意である。離散付値環上の部分(巡回加群への分解と指数の一意性)は、Dedekind整域 の定理「有限捩れ加群の一意な表示」の証明で、行列の消去と $\dim_{A/\mathfrak p}(\pi^{l-1}T_{\mathfrak p}/\pi^lT_{\mathfrak p})$ の計数により直接示されている。$\square$

2 の直和を素イデアルごとに並べ替えると、包含 $I_1\subset I_2\subset\cdots\subset I_n$ を満たす真のイデアルの列により $T(M)\cong\bigoplus_iA/I_i$ と一意に書くこともできる(Dedekind整域 の定理「有限捩れ加群の一意な表示」)。単項イデアル整域の場合の単因子の整除の列の類似である($I_i=d_iA$ と書けば $d_n\mid\cdots\mid d_2\mid d_1$)。

反例

外す条件反例成り立たなくなること
$A$ の Krull 次元が 1 以下(Dedekind 整域の条件の一つ)$A=k[x,y]$、$M=(x,y)$有限生成で捩れのない加群が射影的($A^{r-1}\oplus I$ の形)
$A$ が整閉(Dedekind 整域の条件の一つ)$A=\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]$、$M=(2,1+\sqrt{-3})$同上
$M$ が有限生成$A=\mathbb{Z}$、$M=\mathbb{Q}$$M\cong A^{r-1}\oplus I$
$M$ が捩れをもたない$A=\mathbb{Z}$、$M=\mathbb{Z}/2\mathbb{Z}$$M$ は射影的

1 行目:$(x,y)$ は平坦でない(平坦性のイデアル判定 の例「2 変数多項式環の極大イデアル」)ので射影的でない。$A=k[x,y]$ は Noether 整閉整域で、Krull 次元が 2 である点だけが Dedekind 整域の条件から外れる。3 行目:$\mathbb{Q}$ は階数 1 で捩れをもたないが有限生成でなく、有限生成な $A^{r-1}\oplus I$ と同型になりえない。4 行目:射影加群は捩れをもたない。

整閉でない環のイデアル

$A=\mathbb{Z}[\sqrt{-3}]$ は Noether 整域で Krull 次元 1 であるが、イデアル $P=(2,1+\sqrt{-3})$ は射影加群でない。

証明を開く

$(1+\sqrt{-3})^2=-2+2\sqrt{-3}=2(1+\sqrt{-3})-4$ なので $P^2=(4,2+2\sqrt{-3})=2P$ である。$P$ が射影的と仮定する。射影加群の双対基底により、$x_i\in P$ と線形写像 $f_i\colon P\to A$ で $x=\sum_if_i(x)x_i$($x\in P$)を満たすものがある。lem-steinitz-fractional の 2 の証明と同じ議論で $f_i(x)=c_ix$($c_i\in K$)と書け、$c_iP\subset A$、$1=\sum_ic_ix_i\in P^{-1}P$ となるので $P$ は可逆である。すると $P^2=2P$ に $P^{-1}$ を掛けて $P=2A$ となるが、$1+\sqrt{-3}\notin2A$ なので矛盾する。$\square$

補足

文献

有限生成で捩れのない加群が射影的でイデアルの直和に分かれ、$M\cong A^{r-1}\oplus\det M$ となることは WeiKI の §3 の節 Dedekind domains(p. 18)にあり、1 次元 Noether 環上の有限生成射影加群が階数と行列式で分類されることは同書 Proposition 3.4(p. 17)、可逆イデアル $I$ について $I\otimes J\cong IJ$ となることは Proposition 3.5(pp. 17–18)にある。同書は分類の一意性を行列式加群から導いているが、この記事では局所化と行列式 $\det g$ による議論で証明した。Dedekind整域 には別の証明が二つある。定理「Steinitz分類と行列式の一意性」は、Steinitz 類の一意性を行列式加群 $\det M=\bigwedge^rM$ と $I$ の同型から導く。定理「有限捩れ加群の一意な表示」は、離散付値環上の行列の消去で巡回加群への分解を作り、$\dim_{A/\mathfrak p}(\pi^{l-1}T_{\mathfrak p}/\pi^lT_{\mathfrak p})$ の計数($T$ は有限生成捩れ加群、$\pi$ は $A_{\mathfrak p}$ の一意化元)で指数の一意性を示し、捩れ部分を包含列 $I_1\subseteq\cdots\subseteq I_n$ による $\bigoplus_iA/I_i$ の形に書き直す。

Steinitz の定理は、Picard群 と Grothendieck群 の言葉では、Dedekind 整域の有限生成射影加群の同型類が階数と $\operatorname{Pic}(A)\cong\operatorname{Cl}(A)$ の元で記述されることを表している($\operatorname{Pic}(A)\cong\operatorname{Cl}(A)$ は Picard群 の例「Dedekind整域とイデアル類群」)。代数体の整数環では $\operatorname{Cl}(A)$ が有限群なので(Dedekind整域 の定理「イデアル類群の有限性」)、各階数の有限生成射影加群の同型類は有限個(類数個)である。

関連項目

参考文献

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