近傍(neighborhood)とは、位相空間論において、ある点 $x$ の「近く」にある点全体の集まりを表す概念である。距離空間では「$x$からの距離がある値より小さい範囲(開球)」やそれを含む集合として直感的に理解されるが、一般の位相空間では「その点を含む開集合を部分集合として含む集合」として定義される。この概念を用いることで、距離が定義されていない空間においても、点列の収束や関数の連続性といった局所的な性質を厳密に議論することが可能になる。
位相空間 $(X, \mathcal{O})$ の点 $x$ に対し、部分集合 $V \subset X$ が $x$ の近傍であるとは、以下の条件を満たすことをいう。
$x$ を含むある開集合 $U \in \mathcal{O}$ が存在して、$U \subset V$ となる。
このとき、$V$ 自身が開集合である必要はないことに注意が必要である。もし $V$ が開集合であれば、特に開近傍 (open neighborhood) と呼ぶ。逆に、$V$ が閉集合であれば閉近傍と呼ぶ。
距離空間 $(X, d)$ においては、$\epsilon$-球体($\epsilon$-近傍)が近傍の典型例である。
点 $x$ を中心とする半径 $\epsilon > 0$ の開球 $B(x, \epsilon) = \{ y \in X \mid d(x, y) < \epsilon \}$ を考えるとき、$x$ の近傍 $V$ とは、
ある $\epsilon > 0$ が存在して、$B(x, \epsilon) \subset V$ となる集合 $V$
のことである。これは「$x$ からほんの少し動く程度であれば、$V$ からはみ出さない」という状態を意味する。
点 $x$ のすべての近傍の集まりを、$x$ の近傍系と呼び、$\mathcal{V}(x)$ と書く。
歴史的には、フェリックス・ハウスドルフは「開集合」ではなく「近傍」を基礎として位相空間を定義した。近傍系 $\mathcal{V}(x)$ は以下の公理(ハウスドルフの近傍公理)を満たす。
近傍は、極限操作を定義するための言語として不可欠である。