近傍(neighborhood)とは、位相空間 $X$ の点 $x$ に対し、$x$ を含むある開集合を内側に含む部分集合 $N$ のことである。$x$ を単に元として含むだけでなく、$x$ から少し動いてもはみ出さない余裕を持って $x$ を包む集合を表し、距離空間では「ある半径の開球 $B(x,\varepsilon)$ を含む集合」と同値になる。$N$ が $x$ の近傍であることは $x$ が $N$ の内点であることと同値であり、開集合は自身の各点の近傍になっている集合として特徴付けられる。点列の収束、写像の連続性、Hausdorff 空間などの分離公理は、距離を使わずに「どの近傍をとっても」「ある近傍が存在して」という形で近傍によって定式化される。近傍を開集合に限る流儀(開近傍)もあるが、閉近傍やコンパクト近傍を扱うには開集合を含む集合まで近傍と呼ぶ広い定義が必要である。
$A\subset X$ とする。$N\subset X$ が $A$ の近傍であるとは、ある開集合 $U$ が存在して $A\subset U\subset N$ が成り立つことをいう。一点集合 $\{x\}$ の近傍は $x$ の近傍にほかならない。
教科書によっては、「$x$ の近傍」という語を最初から「$x$ を含む開集合」(本記事でいう開近傍)の意味で用いる流儀がある。たとえば Munkres Mun00 はこの流儀をとる。一方、Bourbaki Bou98、松坂 Mat68 は本記事と同じく「$x$ を含む開集合を内側に持つ集合」を近傍と呼ぶ。
「どの近傍についても〜が成り立つ」「ある近傍が存在して〜が成り立つ」という形の主張の真偽は、多くの場合どちらの流儀でも変わらない(任意の近傍はある開近傍を含み、任意の開近傍はそれ自身近傍だからである)。しかし、閉近傍やコンパクト近傍(局所コンパクト空間の定義で使う)を扱うときや、近傍全体がフィルターをなすことを使うときは、本記事の広い方の定義が必要である。文献を読むときは、最初にどちらの流儀かを確かめるとよい。
点 $x$ の近傍とは、$x$ のまわりに「遊び」を残して $x$ を包み込む集合である。$x$ を単に元として含むだけでは足りず、$x$ から少し動いても集合からはみ出さないだけの余裕($x$ を含む開集合)を内側に持っていなければならない。距離空間では「ある半径の開球をまるごと含む」ことがこの余裕にあたる。極限・連続性(連続写像)・分離公理など位相空間論の局所的な概念は、いずれも「どの近傍をとっても」「ある近傍が存在して」という形で述べられる。
$\mathbb{R}$ に通常の位相(Euclid空間)を入れる。
距離空間 $(X,d)$ では、$N\subset X$ が $x$ の近傍であることと、ある $\varepsilon>0$ について開球 $B(x,\varepsilon):=\{y\in X\mid d(x,y)<\varepsilon\}$ が $N$ に含まれることは同値である(prop-neighborhood-metric-ball)。これは「$x$ からほんの少し動く程度なら $N$ からはみ出さない」という状態を表す。開球 $B(x,\varepsilon)$ 自身と閉球 $\{y\mid d(x,y)\le\varepsilon\}$ はいずれも $x$ の近傍である。
$\mathbb{R}$ に通常の位相を入れる。次の各集合 $N$ は、満たす性質「$0\in N$」を持つが、満たさない性質「$N$ は $0$ の近傍である」を持たず、含意「$x\in N\Rightarrow N$ は $x$ の近傍」を破る。
$N\subset X$、$x\in X$ とする。次は同値である。
$1\Rightarrow2$:開集合 $U$ で $x\in U\subset N$ となるものをとる。$\operatorname{int}N$ は $N$ に含まれる開集合すべての合併($N$ に含まれる最大の開集合)だから $U\subset\operatorname{int}N$ であり、$x\in\operatorname{int}N$ である。
$2\Rightarrow1$:$U:=\operatorname{int}N$ とおけば、$U$ は開集合で $x\in U\subset N$ を満たすから、$N$ は $x$ の近傍である。
最後の等式は、両辺がともに「$x\in\operatorname{int}N$ を満たす $x$ の集合」であることから従う。$\square$
$X$ の部分集合 $U$ について、次は同値である。
$1\Rightarrow2$:$U$ が開集合なら、各 $x\in U$ に対し $x\in U\subset U$ であり、$U$ 自身が定義の開集合の役割を果たす。
$2\Rightarrow1$:各 $x\in U$ に対し、$U\in\mathcal{N}(x)$ より開集合 $U_x$ で $x\in U_x\subset U$ となるものをとる。すると
$$
U=\bigcup_{x\in U}\{x\}\subset\bigcup_{x\in U}U_x\subset U
$$
より $U=\bigcup_{x\in U}U_x$ であり、$U$ は開集合の合併として開集合である。$U=\emptyset$ のときは条件 2 が空虚に成り立ち、$\emptyset$ は開集合だから、同値性は保たれる。$\square$
この命題により、開集合とは「そのどの点にとっても余裕をもった包みになっている集合」である。位相空間論の議論が、大域的な開集合の操作と局所的な近傍の議論とを自由に行き来できるのはこのためである。
$(X,d)$ を距離空間とし、距離から定まる位相を入れる。$N\subset X$、$x\in X$ について、次は同値である。
距離空間の位相の定義により、$U\subset X$ が開集合であるとは、任意の $y\in U$ に対しある $r>0$ で $B(y,r)\subset U$ となることをいう(Mat68 第4章)。
$1\Rightarrow2$:開集合 $U$ で $x\in U\subset N$ となるものをとる。$U$ が開集合であることから、ある $\varepsilon>0$ で $B(x,\varepsilon)\subset U\subset N$ となる。
$2\Rightarrow1$:開球 $B(x,\varepsilon)$ が開集合であることを示せば、$x\in B(x,\varepsilon)\subset N$ から $N$ は $x$ の近傍である。$y\in B(x,\varepsilon)$ とし $r:=\varepsilon-d(x,y)>0$ とおくと、$z\in B(y,r)$ に対し三角不等式より $d(x,z)\le d(x,y)+d(y,z)< d(x,y)+r=\varepsilon$、すなわち $B(y,r)\subset B(x,\varepsilon)$ である。よって $B(x,\varepsilon)$ は開集合である。$\square$
点 $x$ の近傍系 $\mathcal{N}(x)$ は次の四条件を満たす。
近傍は、極限操作を距離なしで定義するための言語である。次の概念はいずれも近傍の言葉で定式化され、詳細は各記事が扱う。
$f\colon X\to Y$ を位相空間の間の写像、$x\in X$ とする。次は同値である。
$1\Rightarrow2$:$U:=f^{-1}(V)$ とおけば $U$ は $x$ の近傍で $f(U)=f(f^{-1}(V))\subset V$ である。
$2\Rightarrow3$:$V$ を $f(x)$ の開近傍とすると、$V$ は近傍なので、$x$ の近傍 $U'$ で $f(U')\subset V$ となるものがある。開集合 $U$ で $x\in U\subset U'$ となるものをとれば、$U$ は $x$ の開近傍で $f(U)\subset f(U')\subset V$ である。
$3\Rightarrow1$:$V$ を $f(x)$ の近傍とし、開集合 $V'$ で $f(x)\in V'\subset V$ となるものをとる。$V'$ は $f(x)$ の開近傍なので、$x$ の開近傍 $U$ で $f(U)\subset V'$ となるものがある。このとき $x\in U\subset f^{-1}(V')\subset f^{-1}(V)$ であり、$U$ は開集合だから $f^{-1}(V)$ は $x$ の近傍である。$\square$
条件 3 は近傍を開集合に限る流儀(rem-neighborhood-convention)での連続性の定義であり、この命題は二つの流儀で一点での連続性の概念が一致することを示している。
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