Gaussの円問題

同義語:ガウスの円問題Gauss circle problem

概要

Gaussの円問題(Gauss circle problem)とは、原点を中心とする半径 $r$ の円の内部と周の上にある格子点の個数 $N(r)$ が、円の面積 $\pi r^2$ にどのくらい近いかを問う問題である。格子点ごとに 1 辺 $1$ の正方形を置いて 2 つの円で挟むと、$r\ge\frac{\sqrt2}{2}$ のとき $\pi\left(r-\frac{\sqrt2}{2}\right)^2\le N(r)\le\pi\left(r+\frac{\sqrt2}{2}\right)^2$ が成り立つ。したがってすべての $r\ge0$ で $\lvert N(r)-\pi r^2\rvert\le\sqrt2\pi r+\frac{\pi}{2}$ であり、$N(r)/r^2$ は $r\to\infty$ で $\pi$ に近づく。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathbin{÷}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: ガウス記号と整数の個数, はさみうちと評価の技法, 区分求積と積分の定義, 三平方の定理(高校数学)

高校での出発点:円の中の格子点を数える

$x$ 座標と $y$ 座標がともに整数である点を 格子点 という。原点を中心とする円の内部と周の上に、格子点はいくつあるだろうか。半径が大きくなると個数は増えていくが、どのくらいの速さで増えるのかを考える。

半径 $2$ と半径 $5$ の円の中の格子点
  1. 半径 $2$。$x^2+y^2\le4$ を満たす格子点を、$x$ の値ごとに数える。
  • $x=0$:$y^2\le4$ から $y=-2,-1,0,1,2$ の $5$ 個。
  • $x=\pm1$:$y^2\le3$ から $y=-1,0,1$ の $3$ 個ずつ。
  • $x=\pm2$:$y^2\le0$ から $y=0$ の $1$ 個ずつ。
    合計は $5+2\cdot3+2\cdot1=13$ 個である。円の面積は $4\pi\approx12.57$ で、個数 $13$ に近い。
  1. 半径 $5$。$x^2+y^2\le25$ を満たす格子点を数える。まず座標軸の上には、原点と、$(\pm1,0)$ から $(\pm5,0)$、$(0,\pm1)$ から $(0,\pm5)$ の $1+4\cdot5=21$ 個がある。次に $x\ge1$、$y\ge1$ の部分(第 1 象限の内側)を、$x$ の値ごとに数える。
  • $x=1$:$y^2\le24$ から $y=1,2,3,4$ の $4$ 個。
  • $x=2$:$y^2\le21$ から $4$ 個。
  • $x=3$:$y^2\le16$ から $4$ 個。
  • $x=4$:$y^2\le9$ から $y=1,2,3$ の $3$ 個。
  • $x=5$:$y^2\le0$ なので $y\ge1$ の点はない。
    第 1 象限の内側には $4+4+4+3=15$ 個あり、残りの 3 つの象限にも対称に $15$ 個ずつある。合計は
    $$ 21+4\cdot15=81 $$
    個である。円の面積は $25\pi\approx78.54$ で、差は約 $2.46$ である。

半径 5 の円の中の格子点 81 個。黒は座標軸の上の点、濃い青は第 1 象限の内側の点で、緑の数字は x=1,2,3,4,5 の列の点の個数 半径 5 の円の中の格子点 81 個。黒は座標軸の上の点、濃い青は第 1 象限の内側の点で、緑の数字は x=1,2,3,4,5 の列の点の個数
ex-gcp-start では、格子点の個数が円の面積に近かった。この記事で答える問いは次の 3 つである。

  1. 個数を、1 つ 1 つ数えずに式で書けるか。→ prop-gcp-formula
  2. 個数と面積の差は、どのくらいの大きさか。→ thm-gcp-main、cor-gcp-limit
  3. 差を小さく抑えるために、どの仮定が効いているか。→ 節「例と反例」
    高校の計算この記事の言葉大学の言葉
    $x$ の値ごとに $y$ の個数を数える個数の式 prop-gcp-formula格子点の数え上げ
    格子点ごとに 1 辺 $1$ の正方形を置く半径 $r\pm\frac{\sqrt2}2$ の円で挟む基本領域による近似
    個数 $\approx$ 面積$\lvert N(r)-\pi r^2\rvert\le\sqrt2\pi r+\frac\pi2$誤差項 $E(r)$ の評価
    $\dfrac{N(r)}{r^2}$ の極限はさみうちで $\pi$格子点による面積の近似

言葉の準備:円の中の格子点の個数

円の中の格子点の個数 $N(r)$

$r\ge0$ とする。$x^2+y^2\le r^2$ を満たす格子点 $(x,y)$ の個数を $N(r)$ と書く。つまり $N(r)$ は、原点を中心とする半径 $r$ の円の内部と周の上にある格子点の個数である。

$N(r)$ が $\pi r^2$ にどのくらい近いかを問う問題を Gauss の円問題 という(Wei26)。$r$ は整数でなくてもよい。たとえば $N(0)=1$(原点だけ)で、$0\le r<1$ なら $N(r)=1$、$1\le r<\sqrt2$ なら $N(r)=5$(原点と $(\pm1,0)$、$(0,\pm1)$)である。$N(r)$ は $r$ を大きくすると、半径がちょうど格子点に届いたところで跳ね上がる階段状の関数である。
$[x]$ を $x$ 以下の最大の整数とする(ガウス記号。ガウス記号と整数の個数)。ex-gcp-start の数え方を式にすると、次のようになる。

円の中の格子点の個数の式

$r\ge0$ のとき
$$ N(r)=1+4[r]+4\sum_{i=1}^{[r]}\left[\sqrt{r^2-i^2}\right] $$
である($[r]=0$ のときは和を $0$ とする)。

座標軸の上と 4 つの象限に分けて数える

方針:格子点を「原点」「座標軸の上(原点以外)」「4 つの象限の内側」に分け、対称性で第 1 象限の内側だけを数える。
段 1(原点と座標軸)。原点は $0^2+0^2\le r^2$ を満たすので $1$ 個。$x$ 軸の正の部分の格子点 $(k,0)$($k$ は正の整数)が円の中にある条件は $k^2\le r^2$、つまり $k\le r$ で、このような $k$ は $1,2,\dots,[r]$ の $[r]$ 個である。$x$ 軸の負の部分、$y$ 軸の正の部分・負の部分も同じく $[r]$ 個ずつなので、座標軸の上の原点以外の点は $4[r]$ 個である。
段 2(第 1 象限の内側を列ごとに数える)。$x\ge1$、$y\ge1$ の格子点 $(i,y)$ が円の中にあるには、$i^2\le r^2$ から $1\le i\le[r]$ が必要である。$i$ を 1 つ決めると、条件は $y^2\le r^2-i^2$、つまり $1\le y\le\sqrt{r^2-i^2}$ で、このような整数 $y$ は $\left[\sqrt{r^2-i^2}\right]$ 個ある($\sqrt{r^2-i^2}<1$ なら $0$ 個)。よって第 1 象限の内側の個数は $\displaystyle\sum_{i=1}^{[r]}\left[\sqrt{r^2-i^2}\right]$ である。
段 3(対称性)。点 $(x,y)$ を $(-x,y)$、$(x,-y)$、$(-x,-y)$ に移しても $x^2+y^2$ は変わらない。この 3 つの移し方で、第 1 象限の内側の点は第 2・第 3・第 4 象限の内側の点に 1 対 1 に移るので、4 つの象限の内側の個数は同じである。
段 1〜3 を足して式を得る。$\square$

式で $N(r)$ を求める
  1. $r=5$ では $[r]=5$ で、$\left[\sqrt{24}\right]=4$、$\left[\sqrt{21}\right]=4$、$\left[\sqrt{16}\right]=4$、$\left[\sqrt9\right]=3$、$\left[\sqrt0\right]=0$ なので
    $$ N(5)=1+4\cdot5+4(4+4+4+3+0)=1+20+60=81 $$
    で、ex-gcp-start (2) と一致する。
  2. $r=3$ では $\left[\sqrt8\right]=2$、$\left[\sqrt5\right]=2$、$\left[\sqrt0\right]=0$ なので $N(3)=1+12+4(2+2+0)=29$ である。
  3. 整数の $r$ について $N(r)$ を並べると次のとおりである(Wei26 の最初の値と一致する)。
    $r$$0$$1$$2$$3$$4$$5$$6$$7$$8$$9$$10$
    $N(r)$$1$$5$$13$$29$$49$$81$$113$$149$$197$$253$$317$
    $\pi r^2$$0$$3.14$$12.57$$28.27$$50.27$$78.54$$113.10$$153.94$$201.06$$254.47$$314.16$

表を見ると、$N(r)$ は $\pi r^2$ より大きいこともあり小さいこともある。差 $N(r)-\pi r^2$ は $r=7$ で約 $-4.94$、$r=10$ で約 $2.84$ で、面積に比べればずっと小さい。

個数の式は区分求積の和に似ている

prop-gcp-formula の主な部分 $4\displaystyle\sum_{i=1}^{[r]}\left[\sqrt{r^2-i^2}\right]$ は、ガウス記号を外すと、幅 $1$ の長方形の面積の和 $4\displaystyle\sum_{i=1}^{[r]}\sqrt{r^2-i^2}$ になる。これは四分円の面積を表す積分
$$ 4\int_0^r\sqrt{r^2-x^2}\,dx=\pi r^2 $$
を区分求積で近似した和である(区分求積と積分の定義)。$N(r)$ が $\pi r^2$ に近い理由の 1 つの見方である。ただし、ガウス記号で切り捨てた分と、長方形と曲線のすき間の分を評価するのは手間がかかる。次の節では、正方形を並べる別の見方で差を評価する。

主定理:正方形を敷いて 2 つの円で挟む

格子点 $Q(a,b)$ ごとに、$Q$ を中心とする 1 辺 $1$ の正方形
$$ S_Q=\left\{(x,y)\ \middle|\ a-\tfrac12\le x\le a+\tfrac12,\ b-\tfrac12\le y\le b+\tfrac12\right\} $$
を考える。平面の格子点すべてについてこの正方形を並べると、平面はすき間なく覆われ、異なる 2 つの正方形は辺や頂点を共有するだけで、内側では重ならない。円の中の格子点の個数を、その格子点の正方形を集めた図形の面積と見なすのが、この節の考え方である。

正方形の中の点と中心の距離
  1. 点 $X$ が正方形 $S_Q$ の中にあれば、$XQ\le\dfrac{\sqrt2}2$ である。
  2. 平面のどの点 $X$ も、少なくとも 1 つの格子点 $Q$ の正方形 $S_Q$ の中にある。
座標の差を $\frac12$ 以下にする
  1. $X(x,y)$、$Q(a,b)$ とする。$X$ が $S_Q$ の中にあるので $\lvert x-a\rvert\le\dfrac12$、$\lvert y-b\rvert\le\dfrac12$ である。三平方の定理から
    $$ XQ^2=(x-a)^2+(y-b)^2\le\frac14+\frac14=\frac12 $$
    なので $XQ\le\dfrac1{\sqrt2}=\dfrac{\sqrt2}2$ である。これは正方形の対角線の長さ $\sqrt2$ の半分である。
  2. $x$ に最も近い整数を $a$ とする(2 つあるときはどちらでもよい)。整数は $1$ おきに並んでいるので $\lvert x-a\rvert\le\dfrac12$ である。同じく $y$ に最も近い整数を $b$ とすると $\lvert y-b\rvert\le\dfrac12$ である。$Q(a,b)$ は格子点で、$X$ は $S_Q$ の中にある。$\square$
Gauss の円問題の評価

$r\ge\dfrac{\sqrt2}2$ のとき
$$ \pi\left(r-\frac{\sqrt2}2\right)^2\le N(r)\le\pi\left(r+\frac{\sqrt2}2\right)^2 $$
である。

正方形の集まりを 2 つの円で挟む

方針:円の中の格子点の正方形を集めた図形 $U$ を作る。$U$ の面積は $N(r)$ である。$U$ が半径 $r+\frac{\sqrt2}2$ の円に含まれ、半径 $r-\frac{\sqrt2}2$ の円を含むことを示し、面積を比べる。
以下、原点 $O$ を中心とする半径 $s$ の円の内部と周をあわせた図形(円板)を $D_s$ と書く。
段 1($U$ の面積)。$D_r$ の中の格子点 $Q$ の正方形 $S_Q$ をすべて集めた図形を $U$ とする。正方形は $N(r)$ 個あり、どれも面積 $1$ で、内側では重ならない。辺の上で重なっても面積は $0$ なので、$U$ の面積は $N(r)$ である。
段 2(上からの評価)。$U$ の点 $X$ をとると、$X$ はある $S_Q$($Q$ は $D_r$ の中の格子点)の中にある。lem-gcp-near (1) から $QX\le\dfrac{\sqrt2}2$、$Q$ が $D_r$ の中にあるので $OQ\le r$ である。三角形の 2 辺の和は残りの 1 辺以上なので(3 点が一直線上にあるときも含めて)
$$ OX\le OQ+QX\le r+\frac{\sqrt2}2 $$
である。よって $U$ は円板 $D_{r+\frac{\sqrt2}2}$ に含まれ、面積を比べて $N(r)\le\pi\left(r+\dfrac{\sqrt2}2\right)^2$ である。
段 3(下からの評価)。$r\ge\dfrac{\sqrt2}2$ なので、半径 $r-\dfrac{\sqrt2}2\ge0$ の円板 $D_{r-\frac{\sqrt2}2}$ を考えられる。その中の点 $X$ をとる。lem-gcp-near (2) から、$X$ を含む正方形 $S_Q$ がある。(1) から $QX\le\dfrac{\sqrt2}2$ なので
$$ OQ\le OX+XQ\le\left(r-\frac{\sqrt2}2\right)+\frac{\sqrt2}2=r $$
である。よって $Q$ は $D_r$ の中の格子点で、$S_Q$ は $U$ をつくる正方形の 1 つである。したがって $X$ は $U$ の中にある。$X$ は $D_{r-\frac{\sqrt2}2}$ のどの点でもよかったので、$D_{r-\frac{\sqrt2}2}$ は $U$ に含まれ、面積を比べて $\pi\left(r-\dfrac{\sqrt2}2\right)^2\le N(r)$ である。$\square$

証明で使った面積の性質は、「内側で重ならない図形を合わせた図形の面積は、面積の和」と「図形 $A$ が図形 $B$ に含まれれば、$A$ の面積は $B$ の面積以下」の 2 つだけである。
半径 4 の円の中の格子点 49 個の正方形(青)を集めた図形は、黒の破線の円(半径 4+√2/2)に含まれ、緑の破線の円(半径 4−√2/2)を含む 半径 4 の円の中の格子点 49 個の正方形(青)を集めた図形は、黒の破線の円(半径 4+√2/2)に含まれ、緑の破線の円(半径 4−√2/2)を含む
図 2 では、正方形の角が赤い円(半径 $4$)から外にはみ出しているが、黒い破線の円からははみ出さない。緑の破線の円の中には、正方形のすき間がない。

半径 $4$ と半径 $5$ で確かめる
  1. $r=4$。$\left(4\pm\dfrac{\sqrt2}2\right)^2=16\pm4\sqrt2+\dfrac12$ なので
    $$ \pi\left(16.5-4\sqrt2\right)\approx34.06\ \le\ N(4)=49\ \le\ \pi\left(16.5+4\sqrt2\right)\approx69.61 $$
    である。
  2. $r=5$。$\left(5\pm\dfrac{\sqrt2}2\right)^2=25.5\pm5\sqrt2$ なので
    $$ \pi\left(25.5-5\sqrt2\right)\approx57.90\ \le\ N(5)=81\ \le\ \pi\left(25.5+5\sqrt2\right)\approx102.33 $$
    である。どちらも thm-gcp-main のとおりだが、挟む幅はかなり広い。

系:個数と面積の差と、比の極限

thm-gcp-main の両辺から $\pi r^2$ を引くと、差 $N(r)-\pi r^2$ の大きさが分かる。この差を $E(r)=N(r)-\pi r^2$ と書く。

差の評価と比の極限
  1. すべての $r\ge0$ について
    $$ \bigl\lvert N(r)-\pi r^2\bigr\rvert\le\sqrt2\pi r+\frac\pi2 $$
    である。
  2. $\displaystyle\lim_{r\to\infty}\frac{N(r)}{r^2}=\pi$ である。
展開してはさみうち
  1. まず $r\ge\dfrac{\sqrt2}2$ の場合。展開すると
    $$ \pi\left(r+\frac{\sqrt2}2\right)^2=\pi r^2+\sqrt2\pi r+\frac\pi2,\qquad\pi\left(r-\frac{\sqrt2}2\right)^2=\pi r^2-\sqrt2\pi r+\frac\pi2 $$
    である。thm-gcp-main の不等式の各辺から $\pi r^2$ を引くと
    $$ -\sqrt2\pi r+\frac\pi2\le N(r)-\pi r^2\le\sqrt2\pi r+\frac\pi2 $$
    となる。左端は $-\left(\sqrt2\pi r+\dfrac\pi2\right)$ 以上なので、$\bigl\lvert N(r)-\pi r^2\bigr\rvert\le\sqrt2\pi r+\dfrac\pi2$ である。
    次に $0\le r<\dfrac{\sqrt2}2$ の場合。$r<1$ なので、原点以外の格子点は $x^2+y^2\ge1>r^2$ で円の外にあり、$N(r)=1$ である。$0\le\pi r^2<\dfrac\pi2$ なので $N(r)-\pi r^2=1-\pi r^2$ は $1-\dfrac\pi2$ より大きく $1$ 以下であり、$\bigl\lvert1-\pi r^2\bigr\rvert\le1<\dfrac\pi2$ である。右辺は $\dfrac\pi2$ 以上なので、この場合も (1) が成り立つ。
  2. $r>0$ として (1) の両辺を $r^2$ で割ると
    $$ \left\lvert\frac{N(r)}{r^2}-\pi\right\rvert\le\frac{\sqrt2\pi}r+\frac\pi{2r^2} $$
    である。$r\to\infty$ のとき右辺は $0$ に近づくので、はさみうちの原理から $\dfrac{N(r)}{r^2}\to\pi$ である(はさみうちと評価の技法)。$\square$
  1. は、差が「面積 $\pi r^2$ の大きさ」ではなく「半径 $r$ の大きさ」で抑えられることを言っている。差の主な部分 $\sqrt2\pi r$ は、円周の長さ $2\pi r$ に $\dfrac{\sqrt2}2$ を掛けたもので、円周に沿った幅 $\dfrac{\sqrt2}2$ の帯の面積の目安である。正方形がはみ出したり足りなかったりするのは、この帯の中だけだからである。
差と比を表で見る

prop-gcp-formula で $N(r)$ を計算すると次のとおりである(小数は四捨五入)。

$r$$N(r)$$\pi r^2$差 $E(r)$$E(r)/r$$N(r)/r^2$評価 $\sqrt2\pi r+\frac\pi2$
$10$$317$$314.16$$2.84$$0.284$$3.1700$$46.0$
$20$$1257$$1256.64$$0.36$$0.018$$3.1425$$90.4$
$50$$7845$$7853.98$$-8.98$$-0.180$$3.1380$$223.7$
$100$$31417$$31415.93$$1.07$$0.011$$3.1417$$445.9$
$1000$$3141549$$3141592.65$$-43.65$$-0.044$$3.14155$$4444.5$

$N(r)/r^2$ は $\pi=3.14159\cdots$ に近づいている。実際の差は、cor-gcp-limit (1) の評価よりずっと小さい。たとえば $r=100$ では、評価は $445.9$ だが実際の差は約 $1.07$ である。

差 E(r) を r で割った値(青)は、r が大きくなっても定理の評価の幅(赤の破線)の中にあり、実際には幅よりずっと小さい 差 E(r) を r で割った値(青)は、r が大きくなっても定理の評価の幅(赤の破線)の中にあり、実際には幅よりずっと小さい
図 3 の青い線は、thm-gcp-main の評価を $r$ で割った幅(赤の破線。上は $\sqrt2\pi+\frac{\pi}{2r}$、下は $-\sqrt2\pi+\frac{\pi}{2r}$)の中に収まっている。評価の幅は $r\to\infty$ で $\pm\sqrt2\pi\approx\pm4.44$ に近づくが、青い線は $0$ の近くで揺れ続けている。差 $E(r)$ が実際にはどのくらい小さいかは、節「大学数学で見る」で触れる。

例と反例

thm-gcp-main と cor-gcp-limit の仮定や形を変えると何が崩れるかを並べる。

外す条件反例成り立たなくなること
$r\ge\frac{\sqrt2}2$$r=0$下からの評価 $\pi\left(r-\frac{\sqrt2}2\right)^2\le N(r)$
広げる幅が $\frac{\sqrt2}2$幅を $\frac14$ にして $r=1$上からの評価 $N(r)\le\pi\left(r+\frac14\right)^2$
図形が円細長い長方形 $0.1\le x\le0.9$、$0\le y\le L$格子点の個数と面積の比が $1$ に近づく
比 $\frac{N(r)}{r^2}$ を見る差 $N(r)-\pi r^2$ そのもの極限をもつ
反例:半径 $0$ では下からの評価が崩れる

$r=0$ では $N(0)=1$(原点だけ)だが、
$$ \pi\left(0-\frac{\sqrt2}2\right)^2=\frac\pi2\approx1.571>1=N(0) $$
である。式としては計算できるが、thm-gcp-main の下からの評価は成り立たない。prf-gcp-main の段 3 は「半径 $r-\frac{\sqrt2}2$ の円板」を使うので、半径が負になる $r<\frac{\sqrt2}2$ では議論ができない。ただし cor-gcp-limit (1) の差の評価は、prf-gcp-limit で別に確かめたとおり、すべての $r\ge0$ で成り立つ。

反例:広げる幅を $\frac14$ にすると上からの評価が崩れる

thm-gcp-main の $\dfrac{\sqrt2}2$ を $\dfrac14$ に取りかえた「$N(r)\le\pi\left(r+\dfrac14\right)^2$」は、$r=1$ で成り立たない。実際
$$ \pi\left(1+\frac14\right)^2=\frac{25}{16}\pi\approx4.909<5=N(1) $$
である。prf-gcp-main の段 2 で見ると、格子点 $(1,0)$ の正方形の角 $(1.5,\,0.5)$ は原点からの距離が $\sqrt{2.25+0.25}=\sqrt{2.5}\approx1.581$ で、半径 $1.25$ の円からはみ出す。正方形の中の点は中心から $\dfrac{\sqrt2}2\approx0.707$ まで離れうるので、それより狭い幅では正方形の集まりを円の中に収められない。

幅 0.8 の細長い長方形は、どれだけ長くしても格子点を 1 つも含まない 幅 0.8 の細長い長方形は、どれだけ長くしても格子点を 1 つも含まない
半径 1 の円の中の格子点 5 個の正方形は、半径 1.25 の破線の円から角がはみ出す 半径 1 の円の中の格子点 5 個の正方形は、半径 1.25 の破線の円から角がはみ出す
反例:細長い長方形では個数と面積がかけ離れる

$L>0$ として、長方形 $0.1\le x\le0.9$、$0\le y\le L$ を考える(図 4)。面積は $0.8L$ で、$L$ を大きくするといくらでも大きくなる。一方、この長方形の中の点の $x$ 座標は $0.1$ 以上 $0.9$ 以下で整数にならないので、格子点は $0$ 個である。格子点の個数と面積の比は $0$ のままで、$1$ に近づかない。
thm-gcp-main の証明で差が生じるのは、図形の周に沿った幅 $\dfrac{\sqrt2}2$ の帯の中だけだった。円では帯の面積が $r$ に比例し、円の面積 $\pi r^2$ に比べて小さい。細長い長方形では、帯(幅 $0.8$ の長方形の両側)が図形全体を覆ってしまうので、評価が役に立たない。

反例:差 $N(r)-\pi r^2$ は極限をもたない

$r=5$ のとき、円 $x^2+y^2=25$ の上には $(\pm5,0)$、$(0,\pm5)$、$(\pm3,\pm4)$、$(\pm4,\pm3)$ の $12$ 個の格子点がある。$r$ が $5$ より少しだけ小さいとき($24< r^2<25$ のとき)、この $12$ 個は円の外に出るが、ほかの格子点は $x^2+y^2\le24$ なので中に残る。よって
$$ N(r)=81-12=69\qquad\left(\sqrt{24}< r<5\right) $$
である。$r=5$ では $E(5)=81-25\pi\approx2.46$、$r$ が $5$ に左から近づくと $E(r)=69-\pi r^2$ は $69-25\pi\approx-9.54$ に近づく。
一般に、正の整数 $k$ について、$r$ が $k$ に左から近づくときの $E(r)$ の値と $E(k)$ の差は、円 $x^2+y^2=k^2$ の上の格子点の個数に等しく、$(\pm k,0)$、$(0,\pm k)$ があるので $4$ 以上である($\pi r^2$ は $r$ について連続なので、跳ぶのは $N(r)$ の分だけ)。もし $E(r)$ が $r\to\infty$ である値 $c$ に近づくなら、十分大きい $k$ で $E(k)$ も $k$ の少し左の $E(r)$ も $c$ に近いので、その差は $4$ より小さくなるはずで、矛盾する。したがって $E(r)$ は極限をもたない。cor-gcp-limit (2) は、差を $r^2$ で割った比についての主張である。

大学数学で見る:誤差項の大きさ

cor-gcp-limit (1) の形で書くと、$N(r)=\pi r^2+E(r)$、$\lvert E(r)\rvert\le\sqrt2\pi r+\dfrac\pi2$ である。Wei26 によれば、Gauss はこれとほぼ同じ形の評価 $\lvert E(r)\rvert\le2\sqrt2\pi r$ を示した。図 3 や ex-gcp-table が示すように、実際の $E(r)$ はこれよりずっと小さい。どこまで小さいかが、Gauss の円問題の本題である。

誤差項の指数

$\lvert E(r)\rvert\le Cr^\theta$($C$ は定数)の形の評価で、指数 $\theta$ をどこまで小さくできるかが問われる。thm-gcp-main の方法で得られるのは $\theta=1$ である。

知られている結果(この記事では証明しない)を開く

Wei26 によれば、$\theta$ を $\dfrac12$ より小さくはできないことが、1915 年に Hardy と Landau によってそれぞれ独立に示された。一方、上からの評価では、Huxley(2003 年)により $\theta=\dfrac{131}{208}\approx0.6298$ までとれることが知られている。$\dfrac12$ と $\dfrac{131}{208}$ の間のどこまで下げられるかは分かっていない。これらの結果は、この記事では証明しない。

円の中の格子点と Leibniz の級数

$n$ を 2 つの平方数の和 $x^2+y^2$ で表す表し方($x,y$ の順序と符号を区別する)の個数を $r_2(n)$ とする。円周 $x^2+y^2=n$ の上の格子点の個数が $r_2(n)$ なので、$r^2$ 以下の $n$ について足すと $N(r)=\displaystyle\sum_{n=0}^{[r^2]}r_2(n)$ である($r_2(0)=1$)。

$r_2(n)$ の公式から $\frac\pi4$ の級数へ(紹介のみ)を開く

$r_2(n)$ には、$n$ の正の約数のうち $4$ で割って $1$ 余るものの個数から $3$ 余るものの個数を引いて $4$ 倍した値に等しい、という公式がある(Fermatの二平方定理 の注意「表し方の個数」。この記事では証明しない)。これを足し合わせると、Wei26 にあるように

$$N(r)=1+4\sum_{i=0}^{\infty}\left(\left[\frac{r^2}{4i+1}\right]-\left[\frac{r^2}{4i+3}\right]\right)$$

となる(和は実際には有限個の項)。両辺を $r^2$ で割って $r\to\infty$ とすると、左辺は cor-gcp-limit (2) により $\pi$ に近づき、右辺からは $4\left(1-\dfrac13+\dfrac15-\dfrac17+\cdots\right)$ が現れて、Leibniz の級数

$$\frac\pi4=1-\frac13+\frac15-\frac17+\cdots$$

が得られる(Wei26。極限と無限和の順序の入れかえには注意が要り、この記事では証明しない)。

さらに先へ

  • 円の代わりに双曲線 $xy=n$ の下の格子点を数えると、約数の個数の和になる(ガウス記号と整数の個数)。その誤差の大きさを問う問題も、同じ型の問題である。
  • 円の周の上の格子点の個数 $r_2(n)$ は、円ごとに大きく変わる。周の上にちょうど $n$ 個の格子点をもつ円がどの $n$ にもあることは、格子点をちょうど n 個通る円 で扱う。
  • 頂点が格子点の多角形では、内部と周の上の格子点の個数から面積が正確に求まる(Pickの定理)。円では面積と個数の間に必ず誤差が出る。
  • 面積の大きい凸図形が格子点を含むことを保証する定理に、Minkowskiの格子点定理 がある。
  • 同じように「図形を 2 つの図形で挟んで面積で評価する」考え方は、円周率の評価 でも使う。

関連項目

参考文献

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