楕円型作用素(elliptic operator)とは、線形微分作用素のうち、最高階の係数を余接ベクトル $\xi$ の多項式として並べた主表象 $\sigma_P(x,\xi)$ が $\xi\neq0$ でつねに可逆なものである。主表象は余接束上で座標によらず定まり、合成で積に、形式的随伴で $(-1)^d$ 倍の随伴に移る。Laplace 作用素、Cauchy–Riemann 作用素、微分形式の Laplace–de Rham 作用素 $d\delta+\delta d$ と $d+\delta$ が代表例で、波動作用素や熱作用素は楕円型でない。楕円型作用素の解は滑らかになり、閉多様体上では核が有限次元になるので、Hodge 理論の解析的な土台になる。
線形偏微分作用素の性質の多くは、最高階の部分だけで決まる。最高階の係数を余接ベクトル $\xi$ の多項式として並べたものを主表象といい、主表象が $\xi\neq0$ でつねに可逆な作用素を楕円型作用素という。Laplace 作用素、Cauchy–Riemann 作用素、微分形式の Laplace–de Rham 作用素がその代表である。楕円型作用素は、解が滑らかになる(楕円正則性)、閉多様体上で核が有限次元になる、といった強い性質をもち、Hodge 理論の解析的な土台になる。
$\Omega\subset\mathbb R^n$ を開集合とする。多重指数 $\alpha=(\alpha_1,\dots,\alpha_n)$ に対し $|\alpha|=\alpha_1+\cdots+\alpha_n$、$\partial^\alpha=\partial_1^{\alpha_1}\cdots\partial_n^{\alpha_n}$、$\xi^\alpha=\xi_1^{\alpha_1}\cdots\xi_n^{\alpha_n}$ と書く。$\mathbb K$ は $\mathbb R$ または $\mathbb C$ とする。
非負整数 $d$ と、$\Omega$ 上の $C^\infty$ 級関数を成分とする $N'\times N$ 行列 $a_\alpha(x)$($|\alpha|\le d$)に対し
$$
Pu(x)=\sum_{|\alpha|\le d}a_\alpha(x)\,\partial^\alpha u(x)\qquad(u\in C^\infty(\Omega,\mathbb K^N))
$$
で定まる $P\colon C^\infty(\Omega,\mathbb K^N)\to C^\infty(\Omega,\mathbb K^{N'})$ を、$\Omega$ 上の$d$ 階の(線形)微分作用素という。$x\in\Omega$、$\xi\in\mathbb R^n$ に対し
$$
\sigma_P(x,\xi):=\sum_{|\alpha|=d}a_\alpha(x)\,\xi^\alpha\ \in\ \mathrm{Hom}(\mathbb K^N,\mathbb K^{N'})
$$
を $P$ の($d$ 階としての)主表象(principal symbol)という。$\sigma_P(x,\xi)$ は $\xi$ について $d$ 次の斉次多項式である。
主表象の流儀は文献によって異なる。$\partial_j$ の代わりに $D_j=-i\partial_j$ で係数を書く流儀では、主表象は上の $\sigma_P$ の $i^d$ 倍になるGil84。この記事は $\partial_j$ で書く流儀Dem12 に従う。どちらの流儀でも、$\sigma_P(x,\xi)$ が可逆かどうかは変わらないので、次の楕円性の定義は流儀によらない。
$\sigma_P$ は $d$ 階の係数だけを見る。$d-1$ 階以下の項(低階項)を変えても主表象は変わらない。ただし「$d$ 階の作用素」と言うときの $d$ を明示しておく必要がある。$d$ 階の係数がすべて $0$ の作用素を $d$ 階とみなすと主表象は $0$ になる。
$M$ を $m$ 次元 $C^\infty$ 級多様体、$E,F$ を $M$ 上の $\mathbb K$ ベクトル束(階数 $r$、$r'$)とし、滑らかな切断の空間を $C^\infty(M,E)$ と書く。
$\mathbb K$ 線形写像 $P\colon C^\infty(M,E)\to C^\infty(M,F)$ が $d$ 階の微分作用素であるとは、$M$ の各点に、座標 $(x^1,\dots,x^m)$ をもつ開近傍 $U$ と、$E|_U\cong U\times\mathbb K^r$、$F|_U\cong U\times\mathbb K^{r'}$ という自明化があって、$U$ 上で $P$ が def-elliptic-operator-symbol-local の形
$$
Pu=\sum_{|\alpha|\le d}a_\alpha(x)\,\partial^\alpha u
$$
に書けることをいうDem12。ここで $a_\alpha$ は $U$ 上の滑らかな $r'\times r$ 行列値関数である。
$P$ は局所的である。つまり $u$ が開集合 $V$ 上で $0$ なら $Pu$ も $V$ 上で $0$ である。したがって $P$ は開集合上の切断にも作用する。
局所表示の $\sigma_P(x,\xi)=\sum_{|\alpha|=d}a_\alpha(x)\xi^\alpha$ は、座標と自明化の取り方によらず、余接ベクトル $\xi=\sum_j\xi_j\,dx^j\in T^*_xM$ の関数として意味をもつ。これを次の節で示す。
主表象の不変性は、次の公式から読み取れる。
$P$ を $d$ 階の微分作用素、$f\colon M\to\mathbb R$ を滑らかな関数、$u\in C^\infty(M,E)$ とする。実数 $t$ に対し
$$
e^{-tf}P(e^{tf}u)=\sum_{j=0}^{d}t^{j}\,P_j u
$$
と $t$ の多項式に書ける。ここで $P_j$ は $t$ によらない $(d-j)$ 階以下の微分作用素であり、最高次の係数は
$$
P_d\,u(x)=\sigma_P(x,df_x)\,u(x)
$$
である。
主張は局所的なので、座標と自明化をもつ開集合 $U$ 上で $P=\sum_{|\alpha|\le d}a_\alpha\partial^\alpha$ としてよい。Leibniz 則により
$$
\partial_k(e^{tf}v)=e^{tf}\bigl(\partial_k+t\,\partial_kf\bigr)v
$$
である。これを繰り返すと、作用素として
$$
e^{-tf}\,\partial^\alpha\,e^{tf}=\prod_{k=1}^m\bigl(\partial_k+t\,\partial_kf\bigr)^{\alpha_k}
$$
が成り立つ。右辺の因子 $\partial_k+t\,\partial_kf$ たちは可換とは限らないが、順序を固定して展開すれば、各項は「$\partial_k$ をいくつか」と「関数 $t\,\partial_kf$ の掛け算をいくつか」を並べたもので、$t$ の次数は掛け算の因子の個数に等しい。$t^{|\alpha|}$ の項はすべての因子で掛け算を選んだ項だけであり、それは関数 $(\partial f)^\alpha=\prod_k(\partial_kf)^{\alpha_k}$ の掛け算である。$t^j$ の項には微分がちょうど $|\alpha|-j$ 個現れ、係数の微分の分だけ階数が下がることはあっても上がることはないので、$(|\alpha|-j)$ 階以下の微分作用素である。
これを $a_\alpha$ を掛けて $|\alpha|\le d$ について足すと、$t^d$ の係数は $|\alpha|=d$ の項からしか来ず、
$$
P_d=\sum_{|\alpha|=d}a_\alpha\,(\partial f)^\alpha=\sigma_P(x,df_x)
$$
となる。ここで $df_x=\sum_j\partial_jf(x)\,dx^j$ の成分が $\xi_j=\partial_jf(x)$ であることを使った。$t^j$ の係数 $P_j$ が $(d-j)$ 階以下であることも同じ展開から分かる。$\square$
$x\in M$、$\xi\in T^*_xM$ に対し、線形写像 $\sigma_P(x,\xi)\colon E_x\to F_x$ は局所表示の取り方によらずに定まる。すなわち $\sigma_P$ は $T^*M$ 上の、$\pi^*E$ から $\pi^*F$ への束準同型である($\pi\colon T^*M\to M$ は射影)。$\sigma_P(x,\xi)$ は $\xi$ について $d$ 次斉次である。
$\xi\in T^*_xM$ と $e\in E_x$ を与える。座標近傍で $\xi=\sum_j\xi_jdx^j$ とし、$x$ の近くで $1$ になる切り落とし関数 $\chi$ を使って $f:=\chi\cdot\sum_j\xi_j(x^j-x^j(x))$ とおけば $df_x=\xi$ である。同様に $u(x)=e$ となる $u\in C^\infty(M,E)$ をとる。prop-elliptic-operator-symbol-formula により、$\sigma_P(x,\xi)e$ は $t$ の多項式 $\bigl(e^{-tf}P(e^{tf}u)\bigr)(x)\in F_x$ の $t^d$ の係数である。左辺の多項式は $P$ と $f,u$ だけで決まり、座標や自明化を使わずに定義されている。また公式の右辺から、この係数は $df_x$ と $u(x)$ だけで決まる。よって $\sigma_P(x,\xi)e$ は局所表示の取り方にも $f,u$ の取り方にもよらない。滑らかさと斉次性は局所表示から分かる。$\square$
座標変換のもとで、$\xi$ は余接ベクトルとして(Jacobi 行列の転置で)変換される。$\xi$ を $\mathbb R^n$ の「ベクトル」とみなして変換すると、主表象は正しく変換されない。主表象が余接束の上の関数であることは、ここに表れている。
$E,F,G$ をベクトル束、$P\colon C^\infty(M,E)\to C^\infty(M,F)$ を $d_P$ 階、$Q\colon C^\infty(M,F)\to C^\infty(M,G)$ を $d_Q$ 階の微分作用素とする。$QP$ は $(d_P+d_Q)$ 階の微分作用素であり
$$
\sigma_{QP}(x,\xi)=\sigma_Q(x,\xi)\,\sigma_P(x,\xi)
$$
が成り立つ。
要点:$e^{-tf}QPe^{tf}=(e^{-tf}Qe^{tf})(e^{-tf}Pe^{tf})$ の両辺で $t$ の最高次の係数を比べる。
$QP$ が $(d_P+d_Q)$ 階であることは局所表示と Leibniz 則から分かる。$df_x=\xi$ となる $f$ をとり、prop-elliptic-operator-symbol-formula の記法で $e^{-tf}Pe^{tf}=\sum_{j\le d_P}t^jP_j$、$e^{-tf}Qe^{tf}=\sum_{k\le d_Q}t^kQ_k$ と書く。
$$e^{-tf}QP\,e^{tf}u=\bigl(e^{-tf}Qe^{tf}\bigr)\bigl(e^{-tf}Pe^{tf}\bigr)u=\sum_{j,k}t^{j+k}Q_kP_ju$$
で、$P_j$、$Q_k$ は $t$ によらないから、$t^{d_P+d_Q}$ の係数は $Q_{d_Q}P_{d_P}u=\sigma_Q(x,df_x)\sigma_P(x,df_x)u$ である。左辺の $t^{d_P+d_Q}$ の係数は $\sigma_{QP}(x,df_x)u$ なので主張が従う。$\square$
$M$ に滑らかな正の体積要素 $dV$ を、$E,F$ に Euclid 計量または Hermite 計量を与えると、コンパクトな台をもつ切断に対して内積
$$
\langle\!\langle u,v\rangle\!\rangle=\int_M\langle u(x),v(x)\rangle\,dV(x)
$$
が定まる。微分作用素 $P\colon C^\infty(M,E)\to C^\infty(M,F)$ に対し、微分作用素 $P^*\colon C^\infty(M,F)\to C^\infty(M,E)$ で
$$
\langle\!\langle Pu,v\rangle\!\rangle=\langle\!\langle u,P^*v\rangle\!\rangle\qquad(\operatorname{supp}u\cap\operatorname{supp}v\ \text{がコンパクト})
$$
を満たすものがただ一つあり、$P$ の形式的随伴という。存在は、局所表示で部分積分すれば
$$
P^*v=\sum_{|\alpha|\le d}(-1)^{|\alpha|}\gamma^{-1}\partial^\alpha\bigl(\gamma\,{}^t\overline{a_\alpha}\,v\bigr)\qquad(dV=\gamma\,dx^1\wedge\cdots\wedge dx^m,\ \text{正規直交枠で自明化})
$$
と書けることから分かり、一意性はコンパクト台の切断が $L^2$ で稠密であることから分かるDem12。
$d$ 階の微分作用素 $P$ に対し
$$
\sigma_{P^*}(x,\xi)=(-1)^d\,\sigma_P(x,\xi)^*
$$
が成り立つ。ここで右辺の $*$ は、計量に関する線形写像 $E_x\to F_x$ の随伴である。
要点:実数値の $f$ について $\langle\!\langle e^{-tf}P(e^{tf}u),v\rangle\!\rangle=\langle\!\langle u,e^{tf}P^*(e^{-tf}v)\rangle\!\rangle$ が成り立ち、両辺の $t^d$ の係数を比べる。右辺では $t$ が $-t$ に替わるので $(-1)^d$ が出る。
実数値の滑らかな $f$ と、コンパクトな台をもつ $u\in C^\infty(M,E)$、$v\in C^\infty(M,F)$ をとる。$e^{\pm tf}$ は実数値なので、実数 $t$ に対し
$$\langle\!\langle e^{-tf}P(e^{tf}u),v\rangle\!\rangle=\langle\!\langle P(e^{tf}u),e^{-tf}v\rangle\!\rangle=\langle\!\langle u,e^{tf}P^*(e^{-tf}v)\rangle\!\rangle$$
である。prop-elliptic-operator-symbol-formula を $P$ と $t$、$P^*$ と $-t$ に使うと、左辺は $t$ の多項式で $t^d$ の係数が $\langle\!\langle\sigma_P(\cdot,df)u,v\rangle\!\rangle$、右辺は $t$ の多項式で $t^d$ の係数が $(-1)^d\langle\!\langle u,\sigma_{P^*}(\cdot,df)v\rangle\!\rangle$ である($P^*$ の階数が $d$ であることは上の局所表示から分かる)。すべての実数 $t$ で等しい多項式は係数が等しいから
$$\int_M\bigl\langle\bigl(\sigma_P(x,df_x)^*-(-1)^d\sigma_{P^*}(x,df_x)\bigr)v(x),\,u(x)\bigr\rangle\,dV=0$$
がすべての $u$ について成り立つ。よって各点で $\sigma_P(x,df_x)^*v(x)=(-1)^d\sigma_{P^*}(x,df_x)v(x)$ であり、$df_x$ と $v(x)$ は任意に選べるので主張が従う。$\square$
$E,F$ を同じ階数のベクトル束とする。$d$ 階の微分作用素 $P\colon C^\infty(M,E)\to C^\infty(M,F)$ が楕円型(elliptic)であるとは、すべての $x\in M$ と $0$ でないすべての $\xi\in T^*_xM$ に対し、主表象
$$
\sigma_P(x,\xi)\colon E_x\longrightarrow F_x
$$
が可逆であることをいう。開集合 $\Omega\subset\mathbb R^n$ 上の $N\times N$ 行列係数の作用素 $\sum_{|\alpha|\le d}a_\alpha\partial^\alpha$ なら、条件は
$$
\det\Bigl(\sum_{|\alpha|=d}a_\alpha(x)\xi^\alpha\Bigr)\neq0\qquad(x\in\Omega,\ \xi\in\mathbb R^n\setminus\{0\})
$$
である。スカラーの作用素($N=1$)なら $\sum_{|\alpha|=d}a_\alpha(x)\xi^\alpha\neq0$ である。
定義から次のことがすぐ分かる。
計量をもつベクトル束の間の $d$ 階微分作用素 $P\colon C^\infty(M,E)\to C^\infty(M,F)$ の主表象が、$\xi\neq0$ でつねに単射であるとする。このとき $P^*P\colon C^\infty(M,E)\to C^\infty(M,E)$ は $2d$ 階の楕円型作用素であり、$(-1)^d\sigma_{P^*P}(x,\xi)$ は正定値である。
prop-elliptic-operator-symbol-composition と prop-elliptic-operator-symbol-adjoint により $\sigma_{P^*P}(x,\xi)=(-1)^d\sigma_P(x,\xi)^*\sigma_P(x,\xi)$ である。$e\in E_x$ に対し $\langle\sigma_P^*\sigma_Pe,e\rangle=|\sigma_P(x,\xi)e|^2$ であり、$\xi\neq0$ なら単射性からこれは $e\neq0$ で正である。よって $\sigma_P^*\sigma_P$ は正定値、とくに可逆である。$\square$
$\mathbb R^n$ 上の $\Delta=\sum_{j=1}^n\partial_j^2$ の主表象は $\sigma_\Delta(x,\xi)=|\xi|^2$ で、$\xi\neq0$ で $0$ にならないから楕円型である。Riemann 計量 $g$ をもつ多様体上の Laplace–Beltrami 作用素(関数に対する $\operatorname{div}\operatorname{grad}$)は、局所座標で
$$
\frac{1}{\sqrt{\det g}}\sum_{i,j}\partial_i\bigl(\sqrt{\det g}\,g^{ij}\partial_j\bigr)
$$
と書け、主表象は $\sum_{i,j}g^{ij}(x)\xi_i\xi_j=|\xi|_g^2$ である。これも楕円型である。
実係数の 2 階スカラー作用素では、楕円性は係数行列の定符号性と同じである。
$n\ge2$ とし、$\Omega\subset\mathbb R^n$ 上の実係数の作用素
$$
P=\sum_{i,j=1}^na^{ij}(x)\,\partial_i\partial_j+\sum_ib^i(x)\partial_i+c(x)\qquad(a^{ij}=a^{ji})
$$
を考える。$P$ が点 $x$ で楕円型であることと、対称行列 $(a^{ij}(x))$ が正定値または負定値であることは同値である。
主表象は 2 次形式 $q(\xi)=\sum_{i,j}a^{ij}(x)\xi_i\xi_j$ である。定値なら $\xi\neq0$ で $q(\xi)\neq0$ なので楕円型である。逆に楕円型とする。$q$ は単位球面 $S^{n-1}$ 上で $0$ にならない連続関数であり、$n\ge2$ なので $S^{n-1}$ は弧状連結である。もし $q(\eta_1)>0>q(\eta_2)$ となる $\eta_1,\eta_2\in S^{n-1}$ があれば、球面上で両者を結ぶ道の上で中間値の定理により $q$ が $0$ になり矛盾する。よって $q$ は $S^{n-1}$ 上で一定の符号をもち、斉次性から $\mathbb R^n\setminus\{0\}$ 上でも同じ符号をもつ。すなわち $(a^{ij}(x))$ は正定値または負定値である。$\square$
$(t,x)\in\mathbb R\times\mathbb R^{n}$ の上で、余接ベクトルを $(\tau,\xi)$ と書く。
$n\ge2$ とし、$\Omega\subset\mathbb R^n$ 上の実係数のスカラー微分作用素 $P$ が $d$ 階の楕円型作用素なら、$d$ は偶数である。
点 $x$ を固定し、$p(\xi)=\sigma_P(x,\xi)$ とおく。$p$ は実数値の $d$ 次斉次多項式なので $p(-\xi)=(-1)^dp(\xi)$ である。$d$ が奇数なら、$\eta\in S^{n-1}$ について $p(\eta)$ と $p(-\eta)$ は符号が逆である。$n\ge2$ で $S^{n-1}$ は弧状連結なので、$\eta$ と $-\eta$ を球面上で結ぶ道の上で中間値の定理により $p$ は $0$ になり、楕円性に反する。$\square$
$n=1$ では $d/dx$(主表象 $\xi$)は 1 階の楕円型作用素である。また複素係数を許すと、次の Cauchy–Riemann 作用素が $\mathbb R^2$ 上の 1 階の楕円型作用素になる。
$\mathbb R^2=\mathbb C$ 上の
$$
\frac{\partial}{\partial\bar z}=\frac12\Bigl(\frac{\partial}{\partial x}+i\frac{\partial}{\partial y}\Bigr)
$$
の主表象は $\frac12(\xi_1+i\xi_2)$ で、$\xi\neq0$ で $0$ にならないから楕円型である。その解($\partial u/\partial\bar z=0$)は正則関数である。$\mathbb C^n$($n\ge2$)上の $\bar\partial$ を関数から $(0,1)$-形式への作用素とみると、主表象は $\xi$ の $(0,1)$ 成分との外積で、単射だが階数が $1$ と $n$ で異なる。prop-elliptic-operator-pstar-p により $\bar\partial^*\bar\partial$ は楕円型である。
$(M,g)$ を向きづけられた Riemann 多様体とし、$\Lambda^\bullet T^*M$ に $g$ から誘導される内積を入れる。外積は行列式による流儀(微分形式 の A 方式)をとる。余接ベクトル $\xi$ に対し、$\varepsilon(\xi)\omega:=\xi\wedge\omega$、$\iota(\xi)\omega:=\iota_{\xi^\sharp}\omega$($\xi^\sharp$ は $g$ で $\xi$ に対応する接ベクトル)とおく。
$\xi\in T^*_xM$ に対し、$\Lambda^\bullet T^*_xM$ 上で
要点:$\xi/|\xi|$ を第 1 元とする正規直交基底をとり、基底 $e^I$ の上で両辺を比べる。
$\xi=0$ なら明らかなので $\xi\neq0$ とし、$e^1=\xi/|\xi|$ を含む $T^*_xM$ の正規直交基底 $e^1,\dots,e^m$ をとる。増加する多重添字 $I$ について $e^I$ は $\Lambda^\bullet T^*_xM$ の正規直交基底である。$\varepsilon(e^1)e^I$ は $1\in I$ なら $0$、$1\notin I$ なら $e^{\{1\}\cup I}$ である。$\iota(e^1)e^J$ は $1\notin J$ なら $0$、$J=\{1\}\cup I$ なら $e^I$ である(内部積の定義で第 1 変数に $e_1$ を入れる)。
(1) 基底について $\langle\varepsilon(e^1)e^I,e^J\rangle$ と $\langle e^I,\iota(e^1)e^J\rangle$ は、どちらも $J=\{1\}\cup I$($1\notin I$)のとき $1$、それ以外で $0$ である。$\xi=|\xi|e^1$ で両辺は $|\xi|$ 倍になる。
(2) $1\notin I$ なら $\varepsilon(e^1)\iota(e^1)e^I=0$、$\iota(e^1)\varepsilon(e^1)e^I=e^I$。$1\in I$ なら $\iota(e^1)\varepsilon(e^1)e^I=0$、$\varepsilon(e^1)\iota(e^1)e^I=e^I$。どちらの場合も和は $e^I$ である。$\xi=|\xi|e^1$ で両辺は $|\xi|^2$ 倍になる。$\square$
向きづけられた Riemann 多様体上で、$\xi\in T^*_xM$ に対し
$$
\sigma_d(x,\xi)=\varepsilon(\xi),\qquad
\sigma_\delta(x,\xi)=-\iota(\xi),\qquad
\sigma_{\Delta}(x,\xi)=-|\xi|^2\,\mathrm{id}
$$
が成り立つ。ここで $\delta$ は微分形式 の余微分($d$ の形式的随伴)、$\Delta=d\delta+\delta d$ は Laplace–de Rham 作用素である。
Leibniz 則 $d(e^{tf}\omega)=t\,e^{tf}df\wedge\omega+e^{tf}d\omega$ により $e^{-tf}d(e^{tf}\omega)=t\,df\wedge\omega+d\omega$ であり、$t^1$ の係数から $\sigma_d(x,df_x)=\varepsilon(df_x)$ を得る(prop-elliptic-operator-symbol-formula)。微分形式 の命題「余微分は外微分の形式的随伴」により $\delta=d^*$ なので、prop-elliptic-operator-symbol-adjoint と lem-elliptic-operator-clifford の 1 から $\sigma_\delta=(-1)^1\varepsilon(\xi)^*=-\iota(\xi)$ である。最後に prop-elliptic-operator-symbol-composition と lem-elliptic-operator-clifford の 2 により
$$
\sigma_\Delta=\sigma_d\sigma_\delta+\sigma_\delta\sigma_d=-\bigl(\varepsilon(\xi)\iota(\xi)+\iota(\xi)\varepsilon(\xi)\bigr)=-|\xi|^2\,\mathrm{id}
$$
である。$\square$
向きづけられた Riemann 多様体上で、Laplace–de Rham 作用素 $\Delta\colon\Omega^p(M)\to\Omega^p(M)$ は 2 階の楕円型作用素であり、$d+\delta\colon\Omega^\bullet(M)\to\Omega^\bullet(M)$ は 1 階の楕円型作用素である。
prop-elliptic-operator-de-rham-symbols により $\sigma_\Delta(x,\xi)=-|\xi|^2\mathrm{id}$ は $\xi\neq0$ で可逆である。$d+\delta$ の主表象 $s=\varepsilon(\xi)-\iota(\xi)$ については、$\varepsilon(\xi)^2=0$、$\iota(\xi)^2=0$($\xi\wedge\xi=0$ とその随伴)と lem-elliptic-operator-clifford の 2 から $s^2=-|\xi|^2\mathrm{id}$ となり、$s$ は可逆である。$\square$
関数に対しては $\Delta=\delta d$ であり、$\mathbb R^n$ では $\Delta f=-\sum_j\partial_j^2f$ になる。ex-elliptic-operator-laplace の $\sum_j\partial_j^2$ とは符号が逆で、主表象の符号も逆($-|\xi|^2$)になっている。
微分作用素の列 $P_j\colon C^\infty(M,E_j)\to C^\infty(M,E_{j+1})$ が $P_{j+1}P_j=0$ を満たすとき、主表象も $\sigma_{P_{j+1}}\sigma_{P_j}=0$ を満たす(prop-elliptic-operator-symbol-composition)。
同じ階数 $d$ の微分作用素の列 $(E_\bullet,P_\bullet)$ で $P_{j+1}P_j=0$ を満たすものが楕円型複体であるとは、$0$ でないすべての $\xi\in T^*_xM$ に対し、主表象の列
$$
\cdots\longrightarrow E_{j,x}\xrightarrow{\ \sigma_{P_j}(x,\xi)\ }E_{j+1,x}\xrightarrow{\ \sigma_{P_{j+1}}(x,\xi)\ }E_{j+2,x}\longrightarrow\cdots
$$
が完全であることをいうGil84。
2 項だけの複体 $0\to E\xrightarrow{P}F\to0$ が楕円型複体であることは、$P$ が楕円型であることと同じである。
de Rham 複体 $0\to\Omega^0(M)\xrightarrow{d}\Omega^1(M)\xrightarrow{d}\cdots\xrightarrow{d}\Omega^m(M)\to0$ は楕円型複体である。実際、prop-elliptic-operator-de-rham-symbols により主表象の列は $\varepsilon(\xi)$ の列である。$\xi\neq0$ で $\xi\wedge\omega=0$ なら、lem-elliptic-operator-clifford の 2 により
$$
\omega=|\xi|^{-2}\bigl(\xi\wedge\iota(\xi)\omega+\iota(\xi)(\xi\wedge\omega)\bigr)=\xi\wedge\bigl(|\xi|^{-2}\iota(\xi)\omega\bigr)
$$
となり、$\omega$ は $\varepsilon(\xi)$ の像に入る。
楕円型複体に対し、$\Delta_j=P_j^*P_j+P_{j-1}P_{j-1}^*$ は各 $j$ で楕円型作用素になる。逆も成り立つ(Gil84 Lemma 1.5.1、p. 37)。de Rham 複体では $\Delta_j$ は Laplace–de Rham 作用素そのものである。複素多様体の Dolbeault 複体も楕円型複体であり(主表象は $\xi$ の $(0,1)$ 成分との外積で、ex-elliptic-operator-de-rham-complex と同じ計算で完全性が分かる)、$\bar\partial$-Laplace 作用素が楕円型になる。
楕円型作用素の中心的な性質は、解の滑らかさと、閉多様体上での有限性である。これらの証明には Sobolev 空間の解析が要る。
| 外す条件 | 反例 | 成り立たなくなること |
|---|---|---|
| $\xi\neq0$ のすべてで主表象が可逆 | 波動作用素 $\partial_t^2-\partial_x^2$ | 解の滑らかさ($Pu=0$ の解 $u=H(x-t)$ は滑らかでない) |
| 同上(1 階・2 変数) | $\partial_x$($\mathbb R^2$ 上) | 解の滑らかさ($u(x,y)=H(y)$ が $\partial_xu=0$ を満たす) |
| 主表象の単射性 | $d\colon\Omega^1(T^2)\to\Omega^2(T^2)$ | 閉多様体上で核が有限次元($df$ がすべて核に入る) |
| 係数行列の定符号性(実 2 階) | Tricomi 作用素($y<0$) | その点での楕円性 |
1 行目と 2 行目で $H$ は Heaviside 関数である。いずれも超関数の意味で方程式を満たす。1 行目では変数 $a=x-t$、$b=x+t$ に取り替えると $\partial_t^2-\partial_x^2=-4\partial_a\partial_b$ となり、$a$ だけの関数に $\partial_b$ を当てると $0$ になる。確認は楕円正則性 の反例で行う。
2 次元トーラス $T^2=\mathbb R^2/\mathbb Z^2$ 上の $d\colon\Omega^1(T^2)\to\Omega^2(T^2)$ の核は、$f\in C^\infty(T^2)$ に対するすべての $df$ を含む。$\{df\}$ は無限次元である(たとえば $f_k=\cos(2\pi kx)$ の $df_k$ たちは一次独立)。主表象 $\varepsilon(\xi)\colon\Lambda^1\to\Lambda^2$ は $\xi$ 自身を $0$ に送るので単射でなく、階数も $2$ と $1$ で異なる。この反例は「閉多様体上の微分作用素の核は有限次元」という主張が、楕円性を外すと破れることを示す。楕円型の $d+\delta$ や $\Delta$ の核は有限次元である。
主表象は「$d$ 階の作用素として」の最高次の部分である。熱作用素 $\partial_t-\Delta_x$ を 1 階と 2 階の混ざった作用素とみて、変数ごとに重みを変えた「放物型」の表象を考える流儀もあるが、それはこの記事の意味の楕円性とは別の概念である。また、低階項は楕円性に影響しないが、解の一意性や可解性(たとえば $\Delta-\lambda$ の核)には影響する。
Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する