対称性を用いた積分

同義語:対称性を使う積分積分と対称性integration using symmetry

概要

対称性を用いた積分(integration using symmetry)とは、区間を自分自身に移す置換($x\mapsto a+b-x$ など)や周期関数を周期だけずらす置換で定積分が変わらないことを使い、置換した積分を元の積分に足して被積分関数を簡単にし、原始関数なしで値を決める技法である。対称な区間では奇関数の部分が消え、$g$ が連続かつ正なら $\frac{g(x)}{g(x)+g(a+b-x)}$ の積分は区間の長さの半分になり、連続な $g$ が $g(a+b-x)=g(x)$ を満たせば $x\,g(x)$ の重み $x$ は $\frac{a+b}2$ に置き換わる。分子・分母が $p\sin x+q\cos x$ の形で裏返すと分母が変わるなら、同じ分母の積分と組にして分子を分母とその導関数で書く。対称性は積分の存在を前提とし、広義積分が存在しない奇関数には使えない。

$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

前提知識: 定積分, 置換積分, 微分積分学の基本定理, 偶関数と奇関数, 三角関数, 指数関数, 対数関数

動機

定積分 $\int_a^bf(x)\,dx$ を求めるふつうの道は、原始関数 $F$ を見つけて $F(b)-F(a)$ を計算することである。しかし原始関数がとても複雑だったり、そもそも見つからなかったりしても、定積分の値だけなら決まることがある。そのための代表的な道具が対称性である。
考え方の中心は一つである。区間 $[a,b]$ を自分自身に移す置換($x\mapsto-x$、$x\mapsto a+b-x$、$x\mapsto\frac1x$ など)をしても、周期関数を周期の分だけずらす置換をしても、定積分の値は変わらない。そこで

  1. 置換した積分 $\int_a^bf(\sigma(x))\,|\sigma'(x)|\,dx$ を作り、
  2. 元の積分と足す(または引く)と被積分関数が簡単になるかを見る。
    簡単になれば、2 で割って答えが出る。本記事では、この手を支える置換の性質を述べて証明し、例では何に目をつけるか、どの手を試すか、うまくいかない手はどこで止まるかを順に見る。
    以下では、閉区間上の連続関数は積分でき、積分は線形で、$f\le g$ なら $\int_a^bf\le\int_a^bg$ であることを前提とし、微分積分学の基本定理を次の 2 つの形で使う(Leb26 Theorem 5.3.3、Theorem 5.3.1)。
  • (基本定理 I) $f$ が区間 $I$ で連続、$c\in I$ なら、$F(x):=\int_c^xf(s)\,ds$ は $I$ で微分可能で $F'=f$ である。
  • (基本定理 II) $G$ が $[a,b]$ で微分可能で $G'$ が連続なら、$\int_a^bG'(x)\,dx=G(b)-G(a)$ である。
    微分可能で導関数が連続な関数を $C^1$ 級という。$\log$ は自然対数、$\int_q^p:=-\int_p^q$ と約束する。

定理と証明

置換積分の公式

対称性の議論はすべて置換積分の特別な場合なので、公式を正確に述べておく。

置換積分

$\varphi\colon[\alpha,\beta]\to\mathbb{R}$ を $C^1$ 級、$f$ を区間 $I$ で連続な関数とし、$\varphi([\alpha,\beta])\subset I$ とする。このとき
$$ \int_\alpha^\beta f(\varphi(t))\,\varphi'(t)\,dt=\int_{\varphi(\alpha)}^{\varphi(\beta)}f(x)\,dx $$
が成り立つ。

合成関数の微分を積分する

$c\in I$ をとり $F(x):=\int_c^xf(s)\,ds$ とおくと、基本定理 I により $F'=f$ である。連鎖律(高校数学)により $(F\circ\varphi)'(t)=f(\varphi(t))\,\varphi'(t)$ であり、これは連続である。基本定理 II により、左辺は $F(\varphi(\beta))-F(\varphi(\alpha))=\int_{\varphi(\alpha)}^{\varphi(\beta)}f(x)\,dx$ に等しい。$\square$

裏返しと周期

偶関数・奇関数と、区間を裏返す置換
  1. $f$ が $[-a,a]$ で連続な偶関数($f(-x)=f(x)$)なら $\int_{-a}^af=2\int_0^af$、奇関数($f(-x)=-f(x)$)なら $\int_{-a}^af=0$ である。
  2. $f$ が $[a,b]$ で連続なら
    $$ \int_a^bf(x)\,dx=\int_a^bf(a+b-x)\,dx=\frac12\int_a^b\bigl(f(x)+f(a+b-x)\bigr)\,dx $$
    である。
端点を入れ替える置換
  1. $\varphi(t)=a+b-t$ は $[a,b]$ を $[a,b]$ に移し、$\varphi(a)=b$、$\varphi(b)=a$、$\varphi'=-1$ である。thm-isym-substitution により $-\int_a^bf(a+b-t)\,dt=\int_b^af(x)\,dx$、すなわち 1 つ目の等号を得る。2 つ目は両者の平均である。
  2. $\varphi(t)=-t$ に thm-isym-substitution を使うと $\int_{-a}^0f(x)\,dx=\int_0^af(-t)\,dt$ である。$f(-t)=f(t)$ なら $\int_{-a}^af=\int_{-a}^0f+\int_0^af=2\int_0^af$、$f(-t)=-f(t)$ なら $0$ である。$\square$

偶関数と奇関数の積の積分が $0$ になることを「直交」と見る話は 積分で定める内積 で扱う。
(2) で $a=-b$ とすると $\int_{-b}^bf(x)\,dx=\frac12\int_{-b}^b\bigl(f(x)+f(-x)\bigr)\,dx$ であり、$\frac{f(x)+f(-x)}2$ は $f$ の「偶関数の部分」である。つまり対称な区間では、どんな関数も偶関数の部分だけが積分に効く。(1) はその特別な場合である。

重み $x$ を外す

$g$ が $[a,b]$ で連続で $g(a+b-x)=g(x)$ を満たすなら
$$ \int_a^bx\,g(x)\,dx=\frac{a+b}2\int_a^bg(x)\,dx $$
である。

裏返して足す

左辺を $I$ とおく。prop-isym-reflect (2) を $f(x)=xg(x)$ に使うと $I=\int_a^b(a+b-x)g(a+b-x)\,dx=\int_a^b(a+b-x)g(x)\,dx$ である。これを元の式と足すと $2I=(a+b)\int_a^bg(x)\,dx$ である。$\square$

周期関数の積分

$f$ が $\mathbb{R}$ で連続で、$p>0$ について $f(x+p)=f(x)$ がすべての $x$ で成り立つなら、すべての実数 $a$ について $\int_a^{a+p}f(x)\,dx=\int_0^pf(x)\,dx$ である。

端を動かしても値が変わらない

$H(a):=\int_a^{a+p}f(x)\,dx=\int_0^{a+p}f-\int_0^af$ は、基本定理 I により微分可能で $H'(a)=f(a+p)-f(a)=0$ である。平均値の定理により $H$ は定数であり、$H(a)=H(0)$ である。$\square$

2 つを組み合わせると、たとえば正の整数 $n$ について、$g(x)=|\sin x|$ は $g(n\pi-x)=g(x)$ を満たすので prop-isym-weight により $\int_0^{n\pi}x|\sin x|\,dx=\frac{n\pi}2\int_0^{n\pi}|\sin x|\,dx$ であり、prop-isym-period により右辺の積分は $n\int_0^\pi\sin x\,dx=2n$ なので、値は $n^2\pi$ である。区間ごとに絶対値を外して部分積分するより、符号の処理がずっと少ない。

例

例 1(奇関数の部分を捨てる)

例 1

$\displaystyle\int_{-1}^1\bigl(xe^{-x^4}+x^2\bigr)\,dx$ を求めよ。答は $\frac23$ である。

区間が原点について対称である。被積分関数は $xe^{-x^4}$(奇関数)と $x^2$(偶関数)の和である。候補は (a) 原始関数を求める、(b) 奇関数の部分を捨てる、の 2 つである。
まず (a) を試す。$x^2$ の原始関数は $\frac{x^3}3$ である。$xe^{-x^4}$ には $x$ が掛かっているので、$u=x^2$ とおくと $du=2x\,dx$ で
$$ \int xe^{-x^4}\,dx=\frac12\int e^{-u^2}\,du $$
となる。ところが $e^{-u^2}$ の原始関数は初等関数(多項式・指数・対数・三角関数などを有限回組み合わせた関数)では書けないことが知られている(Con05 Example 4.6。証明はしない)。原始関数を求める道はここで止まる。
そこで原始関数が要らない (b) に切り替える。$xe^{-x^4}$ は連続な奇関数なので、prop-isym-reflect (1) により $[-1,1]$ での積分は $0$ である。よって
$$ \int_{-1}^1\bigl(xe^{-x^4}+x^2\bigr)\,dx=0+2\int_0^1x^2\,dx=\frac23. $$
求めたいのは定積分であって原始関数ではない。対称な区間なら、まず「偶関数の部分・奇関数の部分」に分けて、奇関数の部分を消してよい。実は (a) の置換 $u=x^2$ そのものも、原始関数なしで $0$ を出す。$\varphi(x)=x^2$、$f(u)=\frac12e^{-u^2}$ とすれば被積分関数は $f(\varphi(x))\varphi'(x)$ の形で、$f$ は連続なので thm-isym-substitution が使え、$\int_{-1}^1=\int_1^1\cdots=0$ である($\varphi$ が単調でなくてもよい)。

例 2($f(x)+f(-x)$ を作る)

例 2

$\displaystyle\int_{-1}^1\frac{x^2}{1+e^x}\,dx$ を求めよ。答は $\frac13$ である。

区間は原点について対称だが、$\frac{x^2}{1+e^x}$ は偶関数でも奇関数でもない。分母 $1+e^x$ は $x\mapsto-x$ で $1+e^{-x}$ に変わる。候補は (a) $t=e^x$ と置換して有理関数と $\log$ の積分に直す、(b) 部分積分で $x^2$ の次数を下げる、(c) $f(x)+f(-x)$ を計算する、である。
(a) $t=e^x$、$dx=\frac{dt}t$、$x=\log t$ とおくと
$$ \int\frac{x^2}{1+e^x}\,dx=\int\frac{(\log t)^2}{t(1+t)}\,dt=\int\frac{(\log t)^2}t\,dt-\int\frac{(\log t)^2}{1+t}\,dt $$
となる。1 つ目は $\frac{(\log t)^3}3$ だが、2 つ目は分母の $1+t$ と分子の $\log t$ がかみ合わず、置換でも部分積分でも簡単にならない。(b) も同じで、$\frac1{1+e^x}$ の原始関数 $x-\log(1+e^x)$ に $x$ を掛けたものを積分する羽目になり、$\int x\log(1+e^x)\,dx$ で止まる。
そこで (c)、分母が $x\mapsto-x$ でどう変わるかを見る。$f(x):=\frac{x^2}{1+e^x}$ とおくと
$$ f(-x)=\frac{x^2}{1+e^{-x}}=\frac{x^2e^x}{e^x+1},\qquad f(x)+f(-x)=\frac{x^2(1+e^x)}{1+e^x}=x^2 $$
である。prop-isym-reflect (2) により
$$ \int_{-1}^1f(x)\,dx=\frac12\int_{-1}^1x^2\,dx=\frac13. $$
効いたのは $\frac1{1+e^x}+\frac1{1+e^{-x}}=1$ という関係である。一般に $g$ が $[-a,a]$ で連続な偶関数なら、同じ計算で $\int_{-a}^a\frac{g(x)}{1+e^x}\,dx=\int_0^ag(x)\,dx$ となる。見分け方は「$x\mapsto-x$ で分母が $1+e^x\leftrightarrow1+e^{-x}$ のように逆数に近いものに変わるか」である。$g$ が偶関数でなければ $f(x)+f(-x)$ に $g(x)$ と $g(-x)$ が別々に残り、簡単にならない。

例 3($x\mapsto\frac\pi2-x$ で分子と分母を入れ替える)

例 3

$\displaystyle\int_0^{\pi/2}\frac{\sqrt{\sin x}}{\sqrt{\sin x}+\sqrt{\cos x}}\,dx$ を求めよ。答は $\frac\pi4$ である。

根号の中に $\sin x$ と $\cos x$ があり、分母は両者について対称、分子は $\sin$ だけである。区間は $[0,\frac\pi2]$ で、$x\mapsto\frac\pi2-x$ により $\sin$ と $\cos$ が入れ替わる。候補は (a) $t=\tan x$ と置換して有理関数に直す、(b) $x\mapsto\frac\pi2-x$ で裏返して足す、である。
(a) 分母・分子を $\sqrt{\cos x}$ で割ると $\frac{\sqrt{\tan x}}{\sqrt{\tan x}+1}$ である。$t=\tan x$ とおくと $dx=\frac{dt}{1+t^2}$ で、区間は $[0,\infty)$ に変わり広義積分になる。さらに $u=\sqrt t$ とおくと
$$ \int_0^\infty\frac{2u^2}{(u+1)(u^4+1)}\,du,\qquad \frac{2u^2}{(u+1)(u^4+1)}=\frac1{u+1}-\frac{(u-1)^2(u+1)}{u^4+1} $$
となる。この先は $u^4+1=(u^2+\sqrt2u+1)(u^2-\sqrt2u+1)$ と分けて係数に $\sqrt2$ を含む部分分数分解をし、$u\to\infty$ での $\log$ の項の打ち消し合いを確かめる必要がある。できなくはないが長い。
そこで (b)、分子と分母の形がそろっていることに目を向ける。$f(x)$ を被積分関数とすると、$\sin(\frac\pi2-x)=\cos x$、$\cos(\frac\pi2-x)=\sin x$ から
$$ f(x)+f\Bigl(\frac\pi2-x\Bigr)=\frac{\sqrt{\sin x}}{\sqrt{\sin x}+\sqrt{\cos x}}+\frac{\sqrt{\cos x}}{\sqrt{\cos x}+\sqrt{\sin x}}=1 $$
である。$f$ は $[0,\frac\pi2]$ で連続(分母は正)なので、prop-isym-reflect (2) により積分は $\frac12\cdot\frac\pi2=\frac\pi4$ である。
効く形は $\int_a^b\frac{g(x)}{g(x)+g(a+b-x)}\,dx$ である。$g$ が $[a,b]$ で連続かつ正なら、値はいつでも $\frac{b-a}2$ になる。たとえば分母が $\sqrt{\sin x}+2\sqrt{\cos x}$ のときは、裏返して足しても定数にならず($x=0$ で $1$、$x=\frac\pi4$ で $\frac23$)、この手は効かない(似た状況を例 6 で扱う)。

例 4(邪魔な因子 $x$ を消す)

例 4

$\displaystyle\int_0^\pi\frac{x\sin x}{1+\sin^2x}\,dx$ を求めよ。答は $\frac{\pi}{\sqrt2}\log(1+\sqrt2)=1.9579\ldots$ である。

$x$ と三角関数の積である。$x$ を除いた部分 $\frac{\sin x}{1+\sin^2x}$ は、$\sin(\pi-x)=\sin x$ より $x\mapsto\pi-x$ で変わらない。候補は (a) $x$ を微分する側にして部分積分する、(b) prop-isym-weight で $x$ を外す、である。
(a) 部分積分には $\frac{\sin x}{1+\sin^2x}$ の原始関数 $G$ が要る。$1+\sin^2x=2-\cos^2x$ なので $v=\cos x$ とおいて
$$ G(x)=-\int\frac{dv}{2-v^2}=-\frac1{2\sqrt2}\log\frac{\sqrt2+\cos x}{\sqrt2-\cos x} $$
を得る(微分して確かめられる)。すると $\int_0^\pi xG'(x)\,dx=\bigl[xG(x)\bigr]_0^\pi-\int_0^\pi G(x)\,dx$ となり、今度は $G$、つまり $\log\frac{\sqrt2+\cos x}{\sqrt2-\cos x}$ そのものを積分しなければならない。$x$ を微分して消したつもりが、代わりに $\cos x$ の $\log$ が現れ、その原始関数は置換でも部分積分でも見つからない。部分積分だけでは閉じないのである。ただし必要なのは定積分だけである。$\cos(\pi-x)=-\cos x$ より $G(\pi-x)=-G(x)$ なので、prop-isym-reflect (2) により $\int_0^\pi G(x)\,dx=\int_0^\pi G(\pi-x)\,dx=-\int_0^\pi G(x)\,dx$、すなわち $\int_0^\pi G(x)\,dx=0$ である。よって (a) の値は境界の項 $\pi G(\pi)=\frac{\pi}{2\sqrt2}\log\frac{\sqrt2+1}{\sqrt2-1}$ だけで、これは下の (b) で得る値と同じである。(a) も、残った積分で対称性を借りれば終わる。
そこで (b) を使う。$g(x):=\frac{\sin x}{1+\sin^2x}$ は $[0,\pi]$ で連続で $g(\pi-x)=g(x)$ なので、prop-isym-weight により
$$ \int_0^\pi xg(x)\,dx=\frac\pi2\int_0^\pi\frac{\sin x}{2-\cos^2x}\,dx=\frac\pi2\int_{-1}^1\frac{dv}{2-v^2} $$
である($v=\cos x$)。$\frac1{2-v^2}=\frac1{2\sqrt2}\bigl(\frac1{\sqrt2-v}+\frac1{\sqrt2+v}\bigr)$ から $\int_{-1}^1\frac{dv}{2-v^2}=\frac1{\sqrt2}\log\frac{\sqrt2+1}{\sqrt2-1}=\sqrt2\log(1+\sqrt2)$($\frac{\sqrt2+1}{\sqrt2-1}=(\sqrt2+1)^2$ を使った)。よって答は $\frac{\pi}{\sqrt2}\log(1+\sqrt2)$ である。
(a) では、$x$ を微分で消すと「$g$ の原始関数の積分」という一段難しい積分が残り、部分積分だけでは閉じず、どこかで対称性が要った。最初から prop-isym-weight を使えば一度で済む。$x$ は $\frac{a+b}2$ という定数に置き換わり、残るのは $g$ そのものの積分である。見分け方は「多項式の重み $x$」×「$x\mapsto a+b-x$ で不変な関数」の形である。$\int_0^\pi x\,f(\sin x)\,dx=\frac\pi2\int_0^\pi f(\sin x)\,dx$($f$ は $[0,1]$ で連続)は典型例である。重みが $x^2$ だと、この手だけでは外れない。$x^2+(\pi-x)^2$ が定数にならないからである。

例 5($x\mapsto\frac1x$ で裏返す)

例 5

$\displaystyle\int_{1/2}^2\frac{\arctan x}x\,dx$ を求めよ。答は $\frac\pi2\log2$ である。

区間 $[\frac12,2]$ は $x\mapsto\frac1x$ で自分自身に移る。$\frac{dx}x$ は $x=\frac1t$ で $-\frac{dt}t$ となり、形を保つ。そして $\arctan$ には $\frac1x$ との関係がある。

逆数の逆正接

$x>0$ ならば $\arctan x+\arctan\frac1x=\frac\pi2$ である。

導関数が 0

$h(x):=\arctan x+\arctan\frac1x$ は $x>0$ で微分可能で、$h'(x)=\frac1{1+x^2}+\frac1{1+x^{-2}}\cdot\bigl(-\frac1{x^2}\bigr)=\frac1{1+x^2}-\frac1{x^2+1}=0$ である。$(0,\infty)$ は区間なので 平均値の定理により $h$ は定数で、$h(1)=2\cdot\frac\pi4=\frac\pi2$ である。$\square$

候補は (a) $\arctan x$ を微分する側にして部分積分する、(b) $x\mapsto\frac1x$ で裏返して足す、である。
(a) $F=\arctan x$、$G=\log x$ とすると
$$ \int_{1/2}^2\frac{\arctan x}x\,dx=\bigl[\arctan x\cdot\log x\bigr]_{1/2}^2-\int_{1/2}^2\frac{\log x}{1+x^2}\,dx $$
である。境界の項は $\log2\,(\arctan2+\arctan\frac12)=\frac\pi2\log2$(lem-isym-arctan)である。しかし残った $\frac{\log x}{1+x^2}$ の原始関数は、置換でも部分積分でも見つからない。ここで止まる。
そこで、止まった積分そのものに裏返しを使う。$\varphi(t)=\frac1t$ は $[\frac12,2]$ で $C^1$ 級、$\varphi(\frac12)=2$、$\varphi(2)=\frac12$、$\varphi'(t)=-\frac1{t^2}$ なので、thm-isym-substitution により
$$ J:=\int_{1/2}^2\frac{\log x}{1+x^2}\,dx=\int_2^{1/2}\frac{\log(1/t)}{1+t^{-2}}\cdot\Bigl(-\frac1{t^2}\Bigr)dt=\int_{1/2}^2\frac{-\log t}{t^2+1}\,dt=-J $$
である。よって $J=0$ で、答は $\frac\pi2\log2$ である。直接 (b) を使ってもよい。同じ置換で $I:=\int_{1/2}^2\frac{\arctan x}x\,dx=\int_{1/2}^2\frac{\arctan(1/t)}t\,dt$ となるので、足して lem-isym-arctan を使うと $2I=\frac\pi2\int_{1/2}^2\frac{dt}t=\pi\log2$ である。
$x\mapsto\frac1x$ は $[\frac1c,c]$($c>1$)を自分自身に移し、$\frac{dx}x$ と $\frac{dx}{1+x^2}$ の形を保つ。$\log x$ は符号を変え、$\arctan x$ は $\frac\pi2-\arctan x$ に変わる。これらが並んでいたら $x\mapsto\frac1x$ を試す。部分積分で残った積分に対称性が効くこともある(例 4 の (a) も同じ形である)ので、手を組み合わせることをためらわない。

例 6(裏返しが効かない場合)

例 6

$\displaystyle I:=\int_0^{\pi/2}\frac{\sin x}{\sin x+2\cos x}\,dx$ を求めよ。答は $\frac\pi{10}+\frac25\log2=0.5914\ldots$ である。

例 3 に似ているが、分母が $\sin x+2\cos x$ で $\sin$ と $\cos$ について対称でない。候補は (a) $x\mapsto\frac\pi2-x$ で裏返して足す、(b) 相方の積分 $J:=\int_0^{\pi/2}\frac{\cos x}{\sin x+2\cos x}\,dx$ と組にする、である。
(a) 裏返すと $I=\int_0^{\pi/2}\frac{\cos x}{\cos x+2\sin x}\,dx$ になる。分母が $\cos x+2\sin x$ に変わってしまい、元の分母 $\sin x+2\cos x$ と一致しない。足しても $\frac{\sin x}{\sin x+2\cos x}+\frac{\cos x}{\cos x+2\sin x}$ は定数にならない($x=0$ で $\frac{1}{1}=1$、$x=\frac\pi4$ で $\frac23$)。この積分では、足しても分母がそろわず、簡単にならない。ただし「分母が裏返しで変わると効かない」とは限らない。例 2 では分母が $1+e^x$ から $1+e^{-x}$ に変わったが、足すと $x^2$ になった。$\int_0^{\pi/2}\frac{dx}{1+\tan x}$ も($\frac1{1+\tan x}=\frac{\cos x}{\cos x+\sin x}$ と書けば $[0,\frac\pi2]$ で連続である)、裏返すと分母は $1+\frac1{\tan x}$ に変わるが、$\frac1{1+t}+\frac1{1+t^{-1}}=\frac1{1+t}+\frac t{t+1}=1$($t=\tan x$、$0< x<\frac\pi2$)なので足すと $1$ になり、値は $\frac\pi4$ である。効くかどうかは、足した結果を実際に計算して判断する。
そこで (b)、分母を変えずに分子だけを動かす。分母 $D:=\sin x+2\cos x$ の導関数は $D'=\cos x-2\sin x$ である。分子の $\sin x$ と $\cos x$ を $D$ と $D'$ の組合せで書くことにして、$I$ と $J$ を組で考えると
$$ I+2J=\int_0^{\pi/2}\frac DD\,dx=\frac\pi2,\qquad J-2I=\int_0^{\pi/2}\frac{D'}D\,dx=\bigl[\log D\bigr]_0^{\pi/2}=\log\frac12 $$
である($D>0$ なので $\log D$ は定義される)。この連立方程式を解くと $5I=\frac\pi2+2\log2$、すなわち $I=\frac\pi{10}+\frac25\log2$、$J=\frac\pi5-\frac15\log2$ である。
例 3 の「足して簡単にする」の本質は、同じ分母をもつ 2 つの積分を組にして、分子が簡単になる 1 次結合を作ることである。裏返しはその組を自動的に作ってくれる便利な手段にすぎない。分子と分母が $p\sin x+q\cos x$ の形(定数項のない 1 次式)で、分母が積分区間で $0$ にならなければ、分子を「分母」と「分母の導関数」の 1 次結合で書けば必ず解ける(分母 $p\sin x+q\cos x$ とその導関数 $p\cos x-q\sin x$ で $\sin x,\cos x$ を表す連立方程式の係数の行列式は $p^2+q^2\ne0$)。分子と分母が $pe^x+qe^{-x}$(分母は $p,q\ne0$)の形でも、分母 $D$ と $D'=pe^x-qe^{-x}$ から $e^x=\frac{D+D'}{2p}$、$e^{-x}=\frac{D-D'}{2q}$ となるので同じ手が使える。定数項があるとこの手だけでは閉じない。たとえば $\int_0^{\pi/2}\frac{\sin x}{2+\sin x}\,dx$ では、$D=2+\sin x$、$D'=\cos x$ で、$\sin x=D-2$ と書くと $\int_0^{\pi/2}\frac{2}{2+\sin x}\,dx$ が残る。

反例と注意

反例:奇関数でも積分が存在しない
  1. $\frac1x$ は奇関数だが、$\int_{-1}^1\frac{dx}x=0$ とするのは誤りである。$\frac1x$ は $0$ の近くで有界でなく $[-1,1]$ で積分できない。広義積分として $\int_0^1\frac{dx}x$ と $\int_{-1}^0\frac{dx}x$ を別々に考えても、$\int_\varepsilon^1\frac{dx}x=-\log\varepsilon\to\infty$ なので存在しない。
  2. $f(x)=\frac x{1+x^2}$ は $\mathbb{R}$ で連続な奇関数で、各 $R>0$ で $\int_{-R}^Rf=0$ である。しかし広義積分 $\int_{-\infty}^\infty f$ は $\int_0^\infty f$ と $\int_{-\infty}^0f$ がそれぞれ収束するときにその和として定めるものであり、$\int_0^Rf=\frac12\log(1+R^2)\to\infty$ なので存在しない。
    どちらも「被積分関数が奇関数なら、対称な区間での積分は $0$」という含意を破る。prop-isym-reflect は $f$ が閉区間上で連続であること、つまり積分が存在することを仮定している。対称性は、存在する積分の値を決める道具であって、積分の存在を保証する道具ではない。

また、例 6 の積分のように、$x\mapsto a+b-x$ で裏返すと分母が別の 1 次式に変わり、足しても被積分関数が簡単にならないことがある。一方で例 2 のように分母が変わっても効く場合もあるので、効くかどうかは足した結果を計算して確かめる。例 4 の重みの外し方も、重みが $x^2$ のときはそのままでは使えない。

補足

Putnam 数学競技会の問題から

Putnam 数学競技会(北米の大学生向けの競技会)の 1987 年 B1 は、次の定積分の値を求めさせる問題であった(問題文は引用せず、内容を述べる)。
$$ \int_2^4\frac{\sqrt{\log(9-x)}}{\sqrt{\log(9-x)}+\sqrt{\log(x+3)}}\,dx. $$
答は $1$ である。
高校数学で解く。 見えるのは、分子と分母に $\log(9-x)$ と $\log(x+3)$ が並んでいることである。区間 $[2,4]$ の両端の和は $6$ で、$x\mapsto6-x$ により $9-x\mapsto x+3$、$x+3\mapsto9-x$ と入れ替わる。$[2,4]$ では $9-x\ge5$、$x+3\ge5$ なので根号の中は正で、被積分関数 $f$ は連続である。例 3 と同じく $f(x)+f(6-x)=1$ なので、prop-isym-reflect (2) により積分は $\frac12\cdot2=1$ である。原始関数を求めようとすると、$\sqrt{\log(9-x)}$ を含む商の積分で最初から止まる。
大学数学で見ると見通しがよくなる。 この問題は、例 3 で述べた一般形
$$ \int_a^b\frac{g(x)}{g(x)+g(a+b-x)}\,dx=\frac{b-a}2\qquad(g\text{ は }[a,b]\text{ で連続かつ正}) $$
に $g(x)=\sqrt{\log(9-x)}$、$[a,b]=[2,4]$ を入れたものである。$\log$ や根号は目くらましで、$g$ が $[a,b]$ で連続かつ正である限り、答は区間の長さの半分になる。背後にあるのは、$\sigma(x)=a+b-x$ が 2 回で元に戻り($\sigma\circ\sigma=\mathrm{id}$)、積分を変えないことである。$\frac{f+f\circ\sigma}2$ は、$\{\mathrm{id},\sigma\}$ という 2 元の群で $f$ を平均したものと見られる。

判断の目安

本記事の命題と例で確かめた範囲をまとめる。「駄目なら次の手」は例の中で試した別の手であり、例で別の手を試していない行はその旨を書く。

被積分関数・区間の形最初に試す手駄目なら次の手
区間が $[-a,a]$奇関数の部分を捨てる(prop-isym-reflect (1)、例 1)$f(x)+f(-x)$ を計算する(例 2)
$\frac{g(x)}{1+e^x}$ で $g$ が偶関数、区間 $[-a,a]$$f(x)+f(-x)$ を作る(例 2)(例では別の手を試していない。$g$ が偶関数でないと対称性だけでは求まらない)
$\frac{g(x)}{g(x)+g(a+b-x)}$($g$ は連続かつ正)、とくに $\sin$ と $\cos$ が対称に並ぶ$x\mapsto a+b-x$ で足す(例 3)$t=\tan x$ などで有理関数に直す(例 3 (a)。長い)
$x\cdot g(x)$ で $g(a+b-x)=g(x)$($x\sin x$、$x f(\sin x)$ など)重み $x$ を外す(prop-isym-weight)部分積分($g$ の原始関数の積分が残り、そこで対称性が要る。例 4 (a))
$\frac{dx}x$、$\frac{dx}{1+x^2}$ と $\log x$、$\arctan x$、区間 $[\frac1c,c]$$x\mapsto\frac1x$(例 5)部分積分してから残りに $x\mapsto\frac1x$(例 5 (a))
周期関数を長い区間で積分周期で区間を縮める(prop-isym-period)(例では別の手を試していない)
分子・分母が $p\sin x+q\cos x$ の形(定数項なし)で、分母が裏返しで変わる($\sin x+2\cos x$ など)相方の積分と組にし、分子を「分母」と「分母の導関数」で書く(例 6)(例では別の手を試していない)
区間の端や内部で被積分関数が発散、無限区間まず積分の存在を確かめる(ex-isym-divergent)存在しなければ対称性は使えない

さらに先へ

本記事の対称性は、置換積分のうち「区間を自分自身に移す」場合である。大学では、変換で積分が変わらないという性質が群の上の不変な積分(Haar測度)へ一般化され、「群で平均する」操作は有限群の表現論で射影を作る手法と同じ形をしている。

関連項目

参考文献

Mathpediaは寄付と、参考文献の書籍リンク(Amazonアソシエイト)の紹介料で運営されています。 支援について / 寄付する